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解説記事2019年10月28日 法令解説 監査基準・中間監査基準・四半期レビュー基準の改訂について(2019年10月28日号・№809)

法令解説
監査基準・中間監査基準・四半期レビュー基準の改訂について
 金融庁企画市場局企業開示課開示企画調整官 神保勇一郎
 金融庁企画市場局企業開示課課長補佐  伊神智江
 金融庁企画市場局企業開示課係長  山崎優子
 金融庁企画市場局企業開示課  菅野直人


 本年9月、企業会計審議会は、監査人による監査に関する説明及び情報提供の一層の充実を図る観点から、監査報告書における意見の根拠の記載や監査人の守秘義務に関する論点等について審議を行い、監査基準、中間監査基準及び四半期レビュー基準(以下「監査基準等」という)を改訂した。本稿では、改訂の経緯及びその内容を紹介したい。なお、意見にわたる部分はすべて私見である。

Ⅰ 背 景

 財務諸表の監査は、財務諸表の信頼性を担保し、企業による適正なディスクロージャーを確保するための資本市場の重要なインフラストラクチャーである。
 近年の不正会計事案を契機として、改めて会計監査の信頼性が問われる中、「会計監査の在り方に関する懇談会」において、会計監査の信頼性確保に向けた提言がとりまとめられた(平成28年3月)。その中では、「会計監査の透明性の向上を通じて、企業の株主によって監査人の評価が適正に行われるようになり、高品質と認められる会計監査を提供する監査法人等が評価され、企業がそのような評価に基づいて監査を依頼するようになることが期待される。これにより、より高品質な監査を提供するインセンティブの強化や、そのような監査に株主や企業が価値を見出すことによる監査法人等の監査報酬の向上等を通じて、市場全体における監査の品質の持続的な向上につながっていく好循環が確立されることが望まれる。」との考え方が述べられており、会計監査の信頼性を確保する上で、会計監査に関する情報提供の充実を図ることが必要であるとの考え方が示されていたところである。
 こうした考え方や会計監査をめぐる国際的な動向を踏まえ、「監査法人の組織的な運営に関する原則(監査法人のガバナンス・コード)」(平成29年3月)においては、監査法人は本原則の適用状況や監査品質の向上に向けた取組みに関する情報を開示することが求められる、とされた。また、企業会計審議会においては、「監査報告書の透明化」を図るための監査基準改訂が行われた(平成30年7月)(注1)。
 さらに、企業が作成する有価証券報告書において会計監査に関する情報の開示を充実させる取組みも進展している(注2)。
(注1)「監査報告書の透明化」は、新たに監査報告書に「監査上の主要な検討事項」の記載を求めることとするものである。これにより監査人は、当年度の監査において特に着目した会計監査上のリスクに関し、「監査上の主要な検討事項」として、監査報告書に記載することとなる。
(注2)企業内容等の開示に関する内閣府令の改正(平成31年1月公布)により、監査役会等の活動状況、監査人の継続監査期間、監査公認会計士等と同一のネットワークファームに対する監査報酬等の開示が義務付けられた(令和2年3月期より適用、平成31年3月期より早期適用可)。

Ⅱ 経 緯

 監査人の判断が限定付適正意見又は不適正意見若しくは意見不表明となる場合は(以下、「無限定適正意見以外の場合」という)、監査人の判断の背景や根拠となった事情は、財務諸表利用者の意思決定に重大な影響を及ぼす可能性がある。このため、監査人の判断の背景・根拠については、監査報告書の意見の根拠の区分の記載等を通じ、財務諸表利用者に対し、適切に伝達されなければならない。しかしながら、これまで、無限定適正意見以外の場合に関しては、監査人の財務諸表利用者に対する説明責任が十分に果たされていないとの指摘がなされていた。会計監査についての情報提供をめぐるこれらの指摘を踏まえ、「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」(座長・八田進二青山学院大学名誉教授)は、無限定適正意見以外の場合など、資本市場に対し、会計監査についての情報提供を特に詳細に行うことが求められるケースにおける対応のあり方について、検討結果を取りまとめた報告書を公表した(平成31年1月)。
 本報告書においては以下の指摘がなされている。
・監査報告書において、監査意見に至った理由の記載が不十分
・監査報告書以外に、監査人からの追加的な説明を受ける機会がない
・監査人の守秘義務が過度に強調され、監査人が財務諸表利用者に対して説明・情報提供を行う上で障害となっている可能性
・監査人の交代に際し、実質的な交代理由が開示されていない
 このような指摘も踏まえ、企業会計審議会及び同監査部会においては、監査人による監査に関する説明及び情報提供の一層の充実を図る観点から、特に監査報告書における意見の根拠の記載や監査人の守秘義務に関する論点等について審議を行い、本年5月の公開草案に対する意見募集を経て、本年9月、監査基準の改訂を行った。

Ⅲ 監査基準の主な改訂点とその考え方

1 監査報告書の意見の根拠の記載について
 改訂前の監査基準では、無限定適正意見以外の場合の監査報告書について、意見の根拠の区分に以下の事項をそれぞれ記載しなければならないとされていた。
・意見に関する除外により限定付適正意見を表明する場合には、除外した不適切な事項及び財務諸表に与えている影響
・不適正意見の場合には、財務諸表が不適正であるとした理由
・監査範囲の制約により限定付適正意見を表明する場合には、実施できなかった監査手続及び当該事実が影響する事項
・意見を表明しない場合には、財務諸表に対する意見を表明しない旨及びその理由
 無限定適正意見以外の場合、監査人の判断の背景や根拠となった事情は、財務諸表利用者の意思決定に対して重大な影響を与え得るため、監査報告書において意見の根拠を十分かつ適切に記載しなければならないことは言うまでもないが、特に限定付適正意見の場合に関し、なぜ不適正意見ではなく限定付適正意見と判断したのかについての説明が不十分な事例が見られるとの指摘がある。この点に関し、改訂前の監査基準は、意見の除外により限定付適正意見を表明する場合には、監査報告書の意見の根拠の区分において「除外した不適切な事項及び財務諸表に与えている影響」を記載する中で、不適正意見ではなく限定付適正意見と判断した理由についても説明がなされることを想定していた。しかしながら、前述のような指摘も踏まえ、財務諸表利用者の視点に立ったわかりやすく具体的な説明の記載が求められることから、監査基準上、意見の根拠の区分の記載事項として、除外した不適切な事項及び財務諸表に与えている影響とともに、これらを踏まえて除外事項に関し重要性はあるが広範性はないと判断し限定付適正意見とした理由を記載しなければならないことを明確にすることとした。
 同様に、監査範囲の制約により限定付適正意見を表明する場合も、意見の根拠の区分において、実施できなかった監査手続及び当該事実が影響する事項とともに、これらを踏まえて除外事項に関し重要性はあるが広範性はないと判断し限定付適正意見とした理由を記載しなければならないことを明確にすることとした。

2 守秘義務について
 監査の信頼性を確保する観点から、監査人には、質の高い監査を提供することだけでなく、財務諸表利用者に対して監査に関する説明・情報提供を十分かつ適時、適切に行うことも求められている。とりわけ、近年、財務諸表において会計上の見積りを含む項目が増え、これらに対する監査の重要性が高まっている中、具体的な監査上の対応や監査人の重要な判断に関する説明・情報提供の充実が要請されている。
 監査人が財務諸表利用者に対して監査に関する説明・情報提供を行うに際しては、守秘義務との関係が問題となり得る。守秘義務については、公認会計士法において、職業的専門家としての職業倫理上当然の義務として定められているとともに、監査基準においても、その設定当初、監査人が企業から監査に必要な情報の提供を受けることを確保するために不可欠であり、監査を受ける企業との信頼関係の下、監査業務を有効かつ効率的に遂行する上で必要な義務として定められたものである。こうした守秘義務の意義は、今日においても変わるものではないが、監査に関する情報提供の充実を求める社会的要請の高まりを踏まえ、守秘義務の在り方を改めて検討した。
 公認会計士法第27条は、「業務上取り扱つたことについて知り得た秘密」を公認会計士の守秘義務の対象として規定している。これに対し、改訂前の監査基準は、「業務上知り得た事項」を監査人の守秘義務の対象と定めている。
 本来、守秘義務の対象は、企業の秘密に限られるものであるが、我が国においては、一般的に、企業に関する未公表の情報について、あらゆるものが守秘義務の対象になり得ると考えられる傾向があると指摘されている。このため、監査基準における守秘義務の規定については、公認会計士法との整合を図るため、秘密を対象にするものであることを明確にすることとした。
 なお、監査人が自ら行った監査に関する説明を監査報告書に記載することは、守秘義務が解除される「正当な理由」に該当するところ、その記載の内容及びその程度については、これによりもたらされる公共の利益と企業又は社会の不利益との比較衡量の上、決定すべきであり(注3)、今後、具体的な事例の積み重ねとともに関係者の間で共通の理解が確立されていくことが必要である。
(注3)平成30年の監査基準改訂前文において、「監査上の主要な検討事項」と企業による開示との関係について、監査人が追加的な情報開示を促した場合において経営者が情報を開示しないときに、監査人は、「監査上の主要な検討事項」の記載により企業又は社会にもたらされる不利益が、当該事項を記載することによりもたらされる公共の利益を上回ると合理的に見込まれない限り、「監査上の主要な検討事項」として記載することが適切である、との考え方が示されている。

Ⅳ 中間監査基準及び四半期レビュー基準(以下「中間監査基準等」という)の主な改訂点とその考え方

1 中間監査報告書の意見の根拠及び四半期レビュー報告書の結論の根拠の記載
 監査基準において、無限定適正意見以外の場合の監査報告書の記載について、限定付適正意見とした理由の記載を追加する改訂が行われることに併せ、中間監査基準等においても所要の改訂を行った。
 具体的には、改訂前の中間監査基準において、限定付適正意見の場合には、意見の根拠の区分に「除外した不適切な事項及び財務諸表に与えている影響」又は「実施できなかった監査手続及び当該事実が影響する事項」を記載するとされ、例えば、不適正意見でなく限定付適正意見と判断した理由についても説明がなされることを想定していたが、財務諸表利用者の視点に立ったわかりやすく具体的な説明の記載が求められることを踏まえ、中間監査基準上、意見の根拠の記載事項として、これらを踏まえて除外事項に関し重要性はあるが広範性はないと判断し限定付適正意見とした理由を記載しなければならないことを明確にした。
 四半期レビュー基準においては、改訂前は、限定付結論の場合には、「結論の根拠」区分に「修正すべき事項及び可能であれば当該事項が四半期財務諸表に与える影響」又は「実施できなかった四半期レビュー手続及び当該事実が影響する事項」を記載するとされ、例えば、否定的結論でなく限定付結論と判断した理由についても説明がなされることを想定していたが、財務諸表利用者の視点に立ったわかりやすく具体的な説明の記載が求められることを踏まえ、四半期レビュー基準上、結論の根拠の記載事項として、これらを踏まえて除外事項に関し重要性はあるが広範性はないと判断し限定付結論とした理由を記載しなければならないことを明確にした。

2 平成30年7月「監査基準の改訂に関する意見書」を踏まえた改訂
 平成30年7月の「監査基準の改訂に関する意見書」において、「監査上の主要な検討事項」を導入すると同時に、監査報告書の記載内容について、監査意見を冒頭に記載し、意見の根拠の区分を新設するとともに、監査役等の責任の記載を追加する変更を行った。その際、中間監査基準等についても、今後、同様の観点からの改訂を検討することが必要とされたことから、今般、下記の改訂を行った。
① 中間監査報告書及び四半期レビュー報告書(以下「中間監査報告書等」という)の記載区分等
 改訂前の我が国の中間監査基準等では、中間監査報告書等には、中間監査及び四半期レビュー(以下「中間監査等」という)の対象、経営者の責任、監査人の責任、監査人の意見及び結論(以下「監査人の意見等」という)を区分した上で記載することが求められていた。
 この点に関して、以下の通り改訂を行った。
・監査人の意見等を中間監査報告書等の冒頭に記載することとし、記載順序を変更するとともに、新たに意見の根拠及び結論の根拠の区分を設ける
・経営者の責任を経営者及び監査役等(監査役、監査役会、監査等委員会又は監査委員会をいう。)の責任に変更し、監査役等の財務報告に関する責任を記載する
 なお、「監査上の主要な検討事項」は、中間監査報告書等においては記載を求めないこととした。
② 継続企業の前提に関する事項
 改訂前の我が国の中間監査基準等では、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合には、監査人は、継続企業の前提に関する事項が中間財務諸表及び四半期財務諸表に適切に注記されていることを確かめた上で、当該事項について中間監査報告書等に追記することが求められていた。
 この点について、継続企業の前提に関する評価と開示に関する経営者及び監査人の対応についてより明確にするため、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合に監査人が中間監査報告書等に記載する要件は変更することなく、独立した区分を設けて継続企業の前提に関する事項を記載することとした。あわせて、経営者は継続企業の前提に関する評価及び開示を行う責任を有し、監査人はそれらの検討を行う責任を有することを、経営者の責任、監査人の責任に関する記載内容にそれぞれ追加することとした。
 また、経営者は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合、当該疑義が存在する旨及びその内容並びに対応策を半期報告書及び四半期報告書に記載することとされている。監査人は、中間監査等の過程で、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の有無及びその内容を確かめ、そのような事象又は状況が存在する場合には、経営者による開示について検討することとなる。

Ⅴ 適用時期等

 改訂監査基準は、令和2年3月決算に係る財務諸表の監査から、改訂中間監査基準は、令和2年9月30日以後終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から、改訂四半期レビュー基準は、令和2年4月1日以後開始する事業年度に係る四半期財務諸表の監査証明から適用する。
 なお、改訂基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針については、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、適切な手続の下で、早急に作成されることが要請される。

Ⅵ おわりに

 冒頭に述べたとおり、財務諸表監査は、企業の財務諸表の信頼性を担保するうえで欠かすことのできない重要な制度であり、監査の規範となる「監査基準」は、財務諸表作成の規範である「会計基準」とともに、適正なディスクロージャーを確保するための資本市場の重要なインフラストラクチャーである。
 近年の不正会計事案の発生などを契機として、監査人が行う会計監査に関しては、その説明や情報提供の一層の充実を図ることが求められており、今回の監査基準等の改訂により、関係者間でこうした新しい課題についても共通の理解が確立され、監査人の監査について、監査報告書やそれ以外の場で、より詳しい説明がなされるようになることを期待している。

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