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解説記事2021年03月01日 ニュース特集 再生計画により債務免除された会社に第二次納税義務は生じるか(2021年3月1日号・№872)

ニュース特集
東京地裁、債務免除は必要も実質的な対価関係はなし
再生計画により債務免除された会社に第二次納税義務は生じるか


 原告(会社)が中小企業再生支援協議会による再生計画に基づき金融機関からの債権放棄を受けるため、(滞納者である)取締役が原告に対する債務免除を行ったところ、原告に対する第二次納税義務が生じるのか否かが争われた事件で、東京地方裁判所(市原義孝裁判長)は令和2年11月6日、第二次納税義務に係る納付通知書による各告知処分を取り消すべきであるとの原告の請求を棄却する判決を言い渡した(現在、控訴中)。東京地裁は、各債務免除は原告の選択した企業再生の手続にとって事実上必要なものではあっても、実質的な対価関係があるなどの事情があると認めることはできないとの判断を示した。

中小企業再生支援協議会による再生計画に基づき債務免除したが……

 本件は、原告(会社)の当時の取締役らが中小企業再生支援協議会による再生計画に基づき金融機関からの債権放棄を含む金融支援を受けるため、原告に対する求償権につき債務免除を行ったところ、税務当局から国税徴収法39条に基づき、原告に対して滞納者である取締役らの各国税につき、第二次納税義務に係る納付通知書による各告知処分が行われたものである(図表1参照)。当時の取締役Aは各金融機関に対する原告の借入金債務を代位弁済することで1,460万3,683円、取締役Bは1,512万5,375円を債務免除したが、税務当局は取締役Aに対して1,465万2,550円、取締役Bに対して1,502万7,300円の租税債権を有していた。

企業再生では経営者による債権放棄は通常
 原告は、企業再生の実務において、当該企業が金融機関に対し債権放棄を求める場合、経営者責任の観点から、経営者が当該企業に対する債権全額を放棄するのが通常であるとし、代位弁済及び債務免除は、当時の取締役らの経営判断の誤りにより原告が被った損害の一部についてそのてん補を目的としたものであり、形式的に取得したとしても実質的に取得したということはできないなどと主張した(図表2参照)。

【図表2】争点と当事者の主張

原告(会社) 被告(国)
争点(1)本件各債務免除は徴収法39条の「債務の免除」に当たるか
・無償譲渡等の処分とは、実質的に「詐害行為又はこれに準ずる行為」に当たるものに限定されるべきであり、具体的には、①第三者に対し「異常な利益」を与えるものを指すが、②①に該当するものであっても、実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであると認められるときは、無償譲渡等の処分に該当しないと解すべきである。
・企業再生の実務において、当該企業が金融機関に対し債権放棄を求める場合、経営責任の観点から、経営者が当該企業に対する債権全額を放棄するのが通常であり、これをしないことは社会通念上受け入れられないものである。したがって、本件各債務免除は、原告に対し「異常な利益」を与えるものではなく、実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであると認められる。
・本件各債務免除は、民法519条の債務の免除に該当するから、徴収法39条の「債務の免除」に当たる。
・原告が主張する「異常な利益」を与えるものとは、当該処分が財産的・客観的価値の等価交換ではないことをいうと解されるところ、「債務の免除」は、債権者が債務者に対し一方的意思表示により債務を無償で消滅させるものであり、財産的・客観的価値の等価交換ではないから、各債務免除が原告に対し「異常な利益」を与えるものであることは明白である。
争点(2)各債務免除により原告の受けた権利が現に存するか
・徴収法151条1項1号では、滞納処分による財産の換価の猶予の要件として、「その財産の換価を直ちにすることによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあるとき」を定めていることからもわかるように、担税力に応じた課税を要請する租税公平主義をその趣旨としている。第二次納税義務に係る納付通知書による告知処分の当時において債務超過に陥っている法人に対し第二次納税義務を課すことは、かかる租税公平主義の観点から許されない。  ・債務者が債務超過であっても、信用力・稼働力を有するような場合には、直ちに支払不能(破産法2条11項)であって支払能力に欠けるということにはならず、他方、債務超過でなくても、手形交換所における取引停止処分、法的整理(破産手続等)の開始等があったことにより、支払不能に陥ることもあるのであり、支払不能と債務超過は区別されなければならない。債務者が支払不能である場合には、その債権の価額が額面以下であると評価されることもあり得るが、債務者が支払不能の状態であると認められない場合には、その債権の価額は回収可能性があるものとしてその額面で判断すべきである。

債務免除は社会通念上の必要性・合理性があったと認めるも

 国税徴収法39条では、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(無償譲渡等の処分)に起因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負うとされている。
債務免除は対価関係がなければ「異常な利益」
 東京地裁は、第二次納税義務の趣旨に鑑みれば、無償譲渡等の処分とは、①第三者に「異常な利益」を与え、②実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものとはいえないと評価することができるものを意味すると解されるとした。その上で、無償譲渡等の処分のうち「債務の免除」は相手方が負担する債務を一方的に無償で消滅させる行為(民法519条)を含むから、実質的な対価関係があるなどの事情がない限り、「異常な利益」を与える行為であると評価すべきものであるとした。
 本件では、各債務免除においては、それが原告の選択した企業再生の手続にとって事実上必要なものではあっても、実質的な対価関係があるなどの事情があると認めることはできないとした。
 また、東京地裁は、中小企業再生支援協議会による企業再生手続を進め、最終的に「中小企業再生支援協議会事業実施基本要領」(以下「基本要領」)に基づく再生計画について各金融機関の同意が得られたことを踏まえれば、かかる一連の手続には社会通念上の必要性・合理性があったことが認められ、その一環としてされた各債務免除についても社会通念上の必要性・合理性があったことが首肯できるとしたが、これをもって無償譲渡等の処分の該当性が否定されるべき「必要かつ合理的な理由」があると直ちに解することはできないとした。
 本件では、各代位弁済は取締役らが持分を有する各不動産の換価代金を原資に行われたものであり、各債務免除も実質的な対価関係を伴わないものであることからすれば、原告にとって企業再生による経営状況の改善が必要なことであったとしても、かかる企業再生は実質的には取締役らの財産を無償で拠出してされた側面を有すると言わざるを得ないと指摘。このような事情を踏まえれば、第二次納税義務との関係において、取締役らの財産(各求償債権)が原告に実質的に帰属しているとみても、公平を失するとまで評価することはできないと判断した。

基本要領における「経営者責任の明確化」とは
 基本要領は、産業競争力強化法134条に基づき、中小企業再生支援業務を行う者として認定を受けた者(認定支援機関)が実施する中小企業再生支援協議会事業の内容、手続、基準等を定めるもの。各認定支援機関は、基本要領に定められた手順に準拠して、私的整理を実施することになる。
 基本要領には、対象債権者に対して金融支援を要請する場合には再生計画案において経営者責任の明確化を図る内容とすることとされている。この「経営者責任の明確化」とは、例えば、役員報酬の削減、経営者貸付の債権放棄、私財提供や支配株主からの脱退などが想定されている。

再生計画との関係上、求償債権の行使ができなかったにすぎず

 そのほか各債務免除により原告の受けた利益が現に存するか否かについては、東京地裁は滞納者による「債務の免除」(徴収法39条)により債務者が利益を受けた場合において、その利益の額は、当該債務者が支払能力を欠き、その債権の全部又は一部の回収が不能であるなどの事情がない限り、債務免除の対象となった債務の額であると解すべきであるから、本件各債務免除の当時において、原告が支払能力を欠き、本件各求償債権の全部又は一部が回収不能であったと認められない限り、原告は各債務免除によりその対象となった債権の額に相当する利益を受けたというべきであると指摘した。
 加えて、徴収法39条の「処分により受けた利益が現に存する限度」を判断するに当たって、原告が各金融機関に対して債務免除を求めながら、経営者責任を負っている取締役らが原告に対する各求償債権につき債務免除をしないのは社会通念上受け入れられなかったという原告が主張する事情は、原告が本件基本要領に基づく再生計画による企業再生を企図していたこととの関係上、取締役らが各求償債権の行使を事実上控えざるを得なかったということを意味するにとどまり、原告が支払能力を欠き、各求償債権の全部又は一部が回収不能であったことを意味するものではないとした。

中小企業再生支援協議会による再建計画に基づく税務上の取扱い
 中小企業再生支援協議会事業実施基本要領に定められた手順に準拠して実施する私的整理を「協議会スキーム」というが、これに基づき策定された再生計画により債権放棄が行われた場合、債権者側の税務処理については、法人税基本通達9-4-2に定める「合理的な再建計画に基づく」債権放棄に該当し、債権放棄額は税務上損金に算入することができる。また、債務免除が行われた場合における債務者側の税務処理については、法人税基本通達12-3-1(3)に定めるとおり、原則として、債務の免除等の決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理に該当し、法人税法59条(資産整理に伴う私財提供等があった場合の欠損金の損金算入)の適用があるものとされる。
 これらの取扱いは、国税庁が平成15年7月31日付けで中小企業庁の照会に対して回答を行っている(「中小企業再生支援協議会で策定を支援した再建計画(A社及びB社のモデルケース)に基づき債権放棄が行われた場合の税務上の取扱いについて」)。

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