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解説記事2021年04月05日 未公開判決事例紹介 再生計画で債務免除の会社にも第二次納税義務(2021年4月5日号・№877)

未公開判決事例紹介
再生計画で債務免除の会社にも第二次納税義務
東京地裁、債務免除は必要も実質的な対価関係はなし

 本誌872号4頁で紹介した納付告知処分取消請求事件の判決について、仮名処理した上で紹介する。

○原告(会社)が中小企業再生支援協議会による再生計画に基づき金融機関からの債権放棄を受けるため、(滞納者である)取締役が原告に対する債務免除を行ったところ、原告に対する第二次納税義務が生じるか否かが争われた事件。東京地方裁判所(市原義孝裁判長)は令和2年11月6日、第二次納税義務に係る納付通知書による各告知処分を取り消すべきであるとの原告の請求を棄却する判決を言い渡した(令和元年(行ウ)第239号)。東京地裁は、各債務免除は原告の選択した企業再生の手続にとって事実上必要なものではあっても、実質的な対価関係があるなどの事情があると認めることはできないとの判断を示した。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 関東信越国税局長が平成29年9月22日付けで原告に対してしたAの別紙租税債権目録1記載の各国税及びBの同目録2記載の各国税の第二次納税義務に係る納付通知書による各告知処分をいずれも取り消す。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、当時、その代表取締役であったA(以下「A」という。)及び取締役であったB(以下「B」といい、Aと併せて「Aら」という。)から、Aらの原告に対する各求償債権につき債務の免除(以下「本件各債務免除」という。)を受けたとして、関東信越国税局長が、国税徴収法(以下「徴収法」という。)39条に基づき、原告に対し、滞納者であるAらの各国税につき、第二次納税義務に係る納付告知書による各告知処分(以下「本件各告知処分」という。)をしたことについて、本件各告知処分は違法であるとして、それらの取消しを求める事案である。
1 徴収法39条の定め
 滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等の処分」という。)に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。
2 前提事実(当事者間に争いがないか掲記の各証拠等により認められる事実)
(1)当事者等

ア 原告は、平成8年10月21日に設立された、酒類の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ Aは、平成28年10月15日まで、原告の代表取締役であった者である。
ウ Bは、平成28年10月15日まで、原告の取締役であった者である。
(2)本件各債務免除
ア Aは、原告の株式会社H銀行に対する借入金債務164万0407円、原告の株式会社D銀行に対する借入金債務1334万7023円及び原告の株式会社N公庫に対する借入金債務550万円(合計2048万7430円)につき、連帯保証人であったところ、平成27年4月27日、これらの債務を代位弁済した。
  Bは、原告の株式会社H銀行に対する借入金債務2048万7430円につき、連帯保証人であったところ、平成27年4月27日、これらの債務を代位弁済した(以下、Aによる上記代位弁済と併せて「本件各代位弁済」という。)。
イ Aらは、原告に対し、平成27年4月27日付けで、本件各代位弁済によりAらが原告に対し取得した各求償債権(下記①。以下「本件各求償債権」という。)とAらの原告に対する各借入金債務(下記②)とを対当額で相殺した後の残額につき、それぞれ債務を免除した(下記③。本件各債務免除)。
(ア)Aについて
① 求償債権の額 2048万7430円
② 借入金債務の額 588万3747円
③ 債務免除の額 1460万3683円
(イ)Bについて
① 求償債権の額 2048万7430円
② 借入金債務の額 536万2055円
③ 債務免除の額 1512万5375円
(3)本件各告知処分の経緯
ア 被告は、Aに対し、平成29年9月22日当時、納付の期限までに納付されていない所得税(復興特別所得税を含む。以下同じ。)及び相続税の本税、延滞税及び利子税の合計1465万2550円の租税債権を有しており(乙1。内訳は別紙租税債権目録1記載のとおりである。)、また、Bに対し、同日当時、納付の期限までに納付されていない所得税及び相続税の本税、延滞税及び利子税の合計1502万7300円の租税債権を有していた(乙2。内訳は別紙租税債権目録2記載のとおりである。以下、これらの国税をAの上記国税と併せて「本件各滞納国税」という。)。
イ 関東信越国税局長は、原告に対し、平成29年9月22日付けで、Aの滞納国税につき1460万3683円を限度として、Bの滞納国税につき1512万5375円を限度として、第二次納税義務に係る納付告知書による各告知処分(本件各告知処分)をした。
(4)本件訴えに至る経緯
ア 関東信越国税局長は、平成30年1月15日付けで、原告が平成29年10月16日付けでした再調査の請求をいずれも棄却する旨の決定をした。
イ 国税不服審判所長は、平成30年11月13日付けで、原告が同年2月9日付けでした審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
ウ 原告は、令和元年5月8日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3 争点に対する当事者の主張の要旨
(1)争点(1)(本件各債務免除は徴収法39条の「債務の免除」に当たるか。)
(被告の主張)

ア 本件各債務免除は、民法519条の債務の免除に該当するから、徴収法39条の「債務の免除」に当たる。
イ 原告の主張について
(ア)原告は、徴収法39条の「債務の免除」に当たるというためには、実質的に「詐害行為又はこれに準ずる行為」に当たる必要がある旨主張する。
  しかし、同条の文理上、かかる行為に該当することは求められていないこと、第二次納税義務と詐害行為取消権(国税通則法42条、民法424条)とは別個の制度であり(最高裁平成20年(行ヒ)第177号同21年12月10日第一小法廷判決・民集63巻10号2516頁も、このことを前提としているというべきである。)、それぞれ独立した存在意義を持つことを踏まえれば、原告の上記主張には理由がない。
(イ)原告は、無償譲渡等の処分とは、①第三者に対し「異常な利益」を与えるものを指すが、②①に該当するものであっても、実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであると認められるときは、無償譲渡等の処分に該当しないと解すべきであるとした上で、本件各債務免除がされた経緯によれば、本件各求償債権は実質的に発生しておらず、本件各債務免除は、原告に対し「異常な利益」を与えるものではなく、実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであるから、徴収法39条の「債務の免除」に当たらない旨主張する。
  しかし、原告が主張する「異常な利益」を与えるものとは、当該処分が財産的・客観的価値の等価交換ではないことをいうと解されるところ、「債務の免除」は、債権者が債務者に対し一方的意思表示により債務を無償で消滅させるものであり、財産的・客観的価値の等価交換ではないから、本件各債務免除が原告に対し「異常な利益」を与えるものであることは明白である。
  また、無償譲渡等の処分のうち「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」や「その他第三者に利益を与える処分」については、実質的に滞納者の行為による無償の経済的価値の移転があったといえるかという観点から、「必要かつ合理的な理由」の有無が問題となる場合があるとしても、「債務の免除」はこれらと異なり、その性質上当然に無償の経済的価値の移転を伴う法律行為であるから、「債務の免除」の該当性の判断に当たって「必要かつ合理的な理由」の有無が問題となる余地はない。
  この点をおいたとしても、Aらが原告に対し法律上の損害賠償責任(会社法423条1項)を負っていたとは認められず、本件各債務免除により、原告に対する無償の経済的移転があったといえるから、本件各求償債権が実質的に発生していないとする原告の主張には理由がない。
ウ 以上によれば、本件各債務免除は、徴収法39条の「債務の免除」に該当するというべきである。
(原告の主張)
ア 第二次納税義務は、形式的には第三者に財産が帰属している場合であっても、実質的には、納税者にその財産が帰属していると認めても公平を失しないようなときにおいて、形式的な権利の帰属を否認して私法秩序を乱すことを避けつつ、その形式的に権利が帰属している者に対して補充的に納税義務を負担させることにより、徴税手続の合理化を図るために認められている制度である。そして、徴収法39条の立法趣旨は、納税者が国税の差押えを免れるためその財産を譲渡した場合において、その譲渡が詐害行為(国税通則法42条、民法424条)に該当するときは、その行為を訴訟によって取り消すが、租税に対する詐害行為の全てを訴訟により処理することでは、租税の簡易・迅速な確保を期し得ないから、納税者が無償又は著しい低額で財産を処分するなどし、そのため納税が満足にできないような資産状態に立ち至らせた場合、すなわち詐害行為となるような場合には、その処分による受益者に対して直接第二次納税義務を負わせ、実質的に詐害行為の取消しをした場合と同様の効果を得ようとするものである。
  このような立法趣旨に鑑みれば、無償譲渡等の処分とは、実質的に「詐害行為又はこれに準ずる行為」に当たるものに限定されるべきであり、具体的には、①第三者に対し「異常な利益」を与えるものを指すが、②①に該当するものであっても、実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであると認められるときは無償譲渡等の処分に該当しないと解すべきである。
イ 本件においては、経営困難な状況に陥った原告が、その企業再生を図る目的で、新潟県中小企業再生支援協議会(以下「本件協議会」という。)に相談した上で、本件協議会から中小企業庁が定めた「中小企業再生支援協議会事業実施基本要領」(以下「本件要領」という。)に基づく再生計画の策定につき支援を得るため、そして、その再生計画に基づき、各金融機関から債権放棄を含む金融支援を求めるための前提として、原告を上記のような状況に陥らせたAらが、その経営者責任の履行として、本件各代位弁済及び本件各債務免除をした。この再生計画は、原告が金融支援を要請した原告の債権者である各金融機関の同意を得て、平成28年9月に成立した。
  企業再生の実務において、当該企業が金融機関に対し債権放棄を求める場合、経営者責任の観点から、経営者が当該企業に対する債権全額を放棄するのが通常であり、これをしないことは社会通念上受け入れられないものである。
  このように、本件各代位弁済及び本件各債務免除は、Aらの経営判断の誤りにより原告が被った損害の一部について、その填補を目的としたものであり、社会通念上も合理性を有するものであるから、Aらが、本件各代位弁済により本件各求償債権を形式的に取得したとしても、実質的に取得したということはできない。
  したがって、本件各債務免除は、原告に対し「異常な利益」を与えるものではなく、実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであると認められる。
ウ 以上によれば、本件各債務免除は、徴収法39条の「債務の免除」に当たらないというべきである。
(2)争点(2)(本件各債務免除により原告の受けた利益が現に存するか。)
(被告の主張)

ア 本件各債務免除により原告が受けた利益は、Aの債務免除につき1460万3683円、Bの債務免除につき1512万5375円であり、これらの利益は現に存するというべきである。
イ 原告の主張について
(ア)原告が指摘する最高裁平成14年(行ヒ)第147号同16年12月24日第二小法廷判決・民集58巻9号2637頁は、貸倒損失の金額を、法人の各事業年度の所得金額の計算上、損金(法人税法22条3項3号)として認められるか否かという法人税の課税標準に係る基準を示すものであるところ、徴収法39条の「処分により受けた利益が現に存する限度」の額を算定するに当たって、法人税法22条3項3号に係る基準を考慮すべき明文の定めはない。
  したがって、原告の主張は失当である。
(イ)原告が債務超過であったとしても、直ちに本件各債務免除により「受けた利益」が現に存しないとはいえない。
  すなわち、債務者が、債務超過であっても、信用力・稼働力を有するような場合には、直ちに支払不能(破産法2条11項)であって支払能力に欠けるということにはならず、他方、債務超過でなくても、手形交換所における取引停止処分、法的整理(破産手続等)の開始等があったことにより、支払不能に陥ることもあるのであり、支払不能と債務超過は区別されなければならない。債務者が支払不能である場合には、その債権の価額が額面以下であると評価されることもあり得るが、債務者が支払不能の状態であると認められない場合には、その債権の価額は回収可能性があるものとしてその額面で判断すべきである。
  この点につき、原告は、①本件各債務免除の当時、手形交換所における取引停止処分、法的整理(破産手続等)の開始等の事実が認められないこと、②本件各債務免除の前後を含む平成25年6月期から平成29年6月期までの各事業年度において原告の売上高は、約4500万円から約5500万円の間で推移しており、本件各債務免除の当時(平成27年6月期)において、大きな売上減少が生じるような事情があったとは認められないこと、③本件各債務免除の直前の事業年度(平成26年6月期)において、純利益(302万8316円)があること、④本件各債務免除の当時において、本件各求償債権の金額を上回る流動資産(5298万3251円)を有していたこと、⑤再生計画の策定に当たりDCF法により算定された原告の事業価値は1800万円であり、当該事業の収益性や将来性が見込まれていたといえることからすると、本件各債務免除の当時、原告において本件各求償債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別の事情があったとは認められず、原告が支払不能であったとは認められない。したがって、本件各債務免除の当時の本件各求償債権の価額はその額面と同額であり、原告は本件各債務免除により同額の利益を受けたというべきである。
  また、その後の各事業年度においても、平成27年6月期には40万7063円の純利益、平成28年6月期には153万7916円の純利益、平成29年6月期には2925万1651円の純利益があったことからすれば、本件各告知処分の当時においても、本件各債務免除により原告が受けた利益が現に存したことは否定できない。
ウ 以上によれば、本件各債務免除により原告が受けた利益が現に存し、その額はAらの原告に対する借入金債務との相殺後の前記アの本件各求償債権の額面上の金額であるというべきである。
(原告の主張)
ア 法人が債権を放棄した場合における貸倒損失の損金算入の要件(法人税法22条3項3号)は、当該債権の全額回収不能が求められているが、これに当たるか否かは、①債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情だけでなく、②債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情、③経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきである(前掲最高裁平成16年12月24日判決参照)。
  本件では、原告が策定した再生計画に基づいて原告の債権者である各金融機関が債務免除をすることを受け入れる前提として、Aらは、本件各求償債権につき債務免除に応じたのであり、金融機関に対して債務免除を求めながら、経営者責任を負っているAらが本件各求償債権につき債務免除をしないのは、社会通念上受け入れられないものであり、このようなAら債権者側の事情を考慮すると本件各求償債権の行使は事実上不可能であったというべきである。
  以上によれば、本件各債務免除により原告が受けた利益は現に存しない。
イ 「処分により受けた利益が現に存する限度」とは、本件においては本件各債務免除の当時において存在する利益の限度を指し、ここでいう「利益」とは、フローとしての利益ではなく、ストックとしての利益に限定される。すなわち、徴収法は、徴収手続に関する手続法であるが、終局的には滞納処分へと連動する手続も定めており、滞納処分のための調査は、滞納処分により換価可能なストックとしての財産価値を把握することを目的としていることからすれば徴収法が前提としている「利益」とはストックとしての利益を意味するものと解すべきである。
  また、徴収法は、151条1項1号が滞納処分による財産の換価の猶予の要件として、「その財産の換価を直ちにすることによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあるとき」を定めていることからもわかるように、担税力に応じた課税を要請する租税公平主義をその趣旨としている。第二次納税義務に係る納付通知書による告知処分の当時において債務超過に陥っている法人に対し第二次納税義務を課すことは、かかる租税公平主義の観点から許されない。
  以上によれば、無償譲渡等の処分及び第二次納税義務に係る納付通知書による告知処分の当時、当該法人が債務超過であった場合には、無償譲渡等の処分により当該法人の受けた利益は現に存しないというべきである。
  そして、原告は、本件各債務免除及び本件各告知処分の当時、債務超過の状態であったから、本件各債務免除により原告の受けた利益は現に存しない。
ウ したがって、本件各告知処分は、本件各債務免除により原告の受けた利益が現に存しないにもかかわらずされたものであるから、違法である。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)原告は、遅くとも平成25年頃までにその経営状況が悪化していたところ、企業再生を図るため、本件協議会に対し本件要領(甲15)に係る支援(再生計画案の作成の支援を含む。)について相談し、本件協議会の指導により、Aらが所有する不動産等を売却して各金融機関に借入金を弁済することとなった(甲7の1、2、甲8、9の1、2、乙3、4、19の1)。
(2)原告は、関東信越国税局に対し、平成26年4月30日付けの書面により、第1段階として、Aら所有の不動産等を適正価格で第三者に譲渡するが、それに際して、同不動産に係るAら及び原告を債務者とする各担保権の抹消及び滞納処分による差押えの解除を受け、その売却代金を担保権者に対する債務及び未納消費税に充当し、第2段階として、本件協議会の関与の下で、抜本的な再生計画を作成し、金融支援を受けて、事業再生を目指すというスキームにより、原告の事業再生を実現させたい旨を通知した(甲5の3)。
  関東信越国税局長は、Aらに対し、平成26年6月24日付けで、Aらがそれぞれ持分を有する各不動産について、参加差押えを解除したことを通知した(甲5の4、5)。
(3)原告、A、B及びCは、株式会社Vとの間で、平成27年3月30日、それぞれが所有権又は持分を有する各不動産を合計8695万円で同社に売り渡す旨の売買契約を締結し、Aらは、上記代金のうち自身の持分に相当する3366万円をそれぞれ受領した(乙3、4)。
(4)A及びBは、平成27年4月27日、上記(3)の売買代金を原資として、本件各代位弁済をするとともに、本件各債務免除をした(前記前提事実(2)、乙3、4)。
(5)原告は、本件協議会の支援の下、平成28年8月4日付け事業再生計画書(甲5の10。以下「本件再生計画書」という。)を作成し、その対象となる各金融機関に対しこれを交付した。
  本件再生計画書には、対象となる金融機関に対し求める金融支援として、早期に実質的な債務超過状態を解消するため、原告の借入金、未払利息及び未払損害金に係る債務合計6197万9000円について、債務の免除を求める内容が含まれていた。
(6)上記(5)の各金融機関はそれぞれ、平成28年9月21日から同月28日までの間において、対象債権者全員から同意が得られることを停止条件として、本件再生計画書に係る再生計画及び同計画において要請されている金融支援の内容について同意する意思を表示し(甲5の9の①〜④)、同月30日、本件再生計画書に係る再生計画が成立した(甲7の1)。
2 争点(1)(本件各債務免除は徴収法39条の「債務の免除」に当たるか。)について
(1)徴収法39条の「債務の免除」は、民法519条の債務免除又は契約による免除をいうと解されるところ、本件各債務免除は、相殺後の本件各求償債権に係る残債務を一方的に無償で消滅させるものであり、同条の債務免除に形式的には当たると認められる。
(2)ア これに対し、原告は、徴収法39条の立法趣旨に鑑みれば、無償譲渡等の処分とは、①第三者に対し「異常な利益」を与えるものを指すが、②①に該当するものであっても、実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであると認められるときは、無償譲渡等の処分に該当しないと解すべきであるとした上で、本件各代位弁済及び本件各債務免除は、それらの経緯に鑑みれば、Aらの経営判断の誤りにより原告が被った損害の一部について、その填補を目的としたものであり、社会通念上も合理性を有するものであるから、Aらが、本件各代位弁済により本件各求償債権を形式的に取得したとしても、実質的に取得したということはできないことを根拠として、①本件各債務免除が原告に対し「異常な利益」を与えるものではなく、②実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであるから、徴収法39条の「債務の免除」には当たらない旨主張する。
イ 徴収法の定める第二次納税義務は、主たる納税義務が申告又は決定若しくは更正等により具体的に確定したことを前提として、その確定した税額につき本来の納税義務者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対して補充的に課される義務であると解され(最高裁昭和48年(行ツ)第112号同50年8月27日第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁)、かかる第二次納税義務の趣旨に鑑みれば、無償譲渡等の処分とは、①第三者に「異常な利益」を与え、②実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものとはいえないと評価することができるものを意味すると解される。
ウ 上記①「異常な利益」の有無について
  無償譲渡等の処分のうち「債務の免除」は、相手方が負担する債務を一方的に無償で消滅させる行為(民法519条)を含むから、実質的な対価関係があるなどの事情がない限り、「異常な利益」を与える行為であると評価すべきものである。
  そこで、本件において本件各債務免除が実質的な対価関係を有するものか否かについてみると、前記認定事実に加え、本件要領(甲15・10頁)においては、再生計画案の内容について、「対象債権者に対して金融支援を要請する場合には、経営者責任の明確化を図る内容とする。」とされていること、本件再生計画書(甲5の10・13頁)においては、原告は各金融機関に対し金融支援を要請しなければ事業の継続が困難な状況にあり、このような状況を招いた経営陣であるAらは一定の経営者責任を果たす必要があり、これを果たす意味でAらは役員を退任するとされていることからすれば、本件各代位弁済及び本件各債務免除は、原告の企業再生に当たって、各金融機関からの金融支援を受けるための前提として、Aらが原告の経営状況を悪化させたことにつき経営者責任を履行するという趣旨が含まれていたことが認められる。しかし、本件においてAらが履行したとされる経営者責任とは、会社法423条に基づく役員の会社に対する損害賠償責任等の法的責任ではなく、あくまでも経営者としての社会的責任であり(弁論の全趣旨)、また、原告がAらに対し法律上の損害賠償請求権を取得したことを認めるに足りる証拠もない。
  そうすると、本件各債務免除においては、それが原告の選択した企業再生の手続にとって事実上必要なものではあっても、実質的な対価関係があるなどの事情があると認めることはできない。
  したがって、Aらは本件各求償債権を実質的に取得しておらず、本件各債務免除は原告に対し「異常な利益」を与えるものではないという原告の主張は採用することができない。
エ 前記②「必要かつ合理的な理由」の有無について
  前記認定事実によれば、原告は、本件協議会による指導と本件要領に沿って企業再生に係る手続を進め、最終的に本件再生計画書に係る再生計画について各金融機関の同意が得られたことを踏まえれば、かかる一連の手続には社会通念上の必要性・合理性があったことが認められ、その一環としてされた本件各債務免除についても、社会通念上の必要性・合理性があったことが首肯できる。
  しかし、上記のような社会通念上の必要性・合理性があることをもって、無償譲渡等の処分の該当性が否定されるべき「必要かつ合理的な理由」があると直ちに解することはできない。すなわち、前記イのとおり、第二次納税義務は、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対して補充的に課される義務であることからすれば、「必要かつ合理的な理由」の有無についても、当該第三者に対し、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないか否かという観点から検討されるべきものであると解される。
  本件についてこれをみると、本件各代位弁済はAらが持分を有する各不動産の換価代金を原資に行われたものであり(前記認定事実(4))、本件各債務免除も実質的な対価関係を伴わないものであること(上記ウ)からすれば、原告にとって企業再生による経営状況の改善が必要なことであったとしても、かかる企業再生は実質的にはAらの財産を無償で拠出してされた側面を有するといわざるを得ない。このような事情を踏まえれば、第二次納税義務との関係において、Aらの財産(本件各求償債権)が原告に実質的に帰属しているとみても、公平を失するとまで評価することはできない。
  したがって、本件各債務免除は実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであるとする原告の上記主張は採用することができない。
(3)小活
 以上によれば、本件各債務免除は、徴収法39条の「債務の免除」に当たると認められる。
3 争点(2)(本件各債務免除により原告の受けた利益が現に存するか。)について
(1)本件各代位弁済により、Aらは原告に対し本件各求償債権を取得し、原告はこれらに係る債務を負担したところ、本件各債務免除により、原告は、同債務のうちAに対する債務につき1460万3683円、Bに対する債務につき1512万5375円をそれぞれ免れており(前記前提事実(2))、その状態は本件各告知処分の当時も変わりがないことからすれば、本件各債務免除により原告の受けた利益は上記の本件各債務免除に係る額であり、本件各告知処分の当時もその利益は現に存することが認められる。
(2)ア 原告は、法人が債権を放棄した場合における貸倒損失の損金算入の要件(法人税法22条3項3号)に係る判断基準を前提として、本件各債務免除がされた経緯に鑑みれば、経営者責任を負っているAらが原告に対する本件各債務免除をしないのは、社会通念上受け入れられないものであり、本件各求償債権の行使は事実上不可能であったというべきであるから、本件各債務免除により原告の受けた利益は現に存しない旨主張する。
  滞納者による「債務の免除」(徴収法39条)により債務者が利益を受けた場合において、その利益の額は、当該債務者が支払能力を欠き、その債権の全部又は一部の回収が不能であるなどの事情がない限り、債務免除の対象となった債務の額であると解すべきであるから、本件各債務免除の当時において、原告が支払能力を欠き、本件各求償債権の全部又は一部が回収不能であったと認められない限り、原告は本件各債務免除によりその対象となった債務の額に相当する利益を受けたというべきである。
  そして、徴収法39条の「処分により受けた利益が現に存する限度」を判断するに当たって、法人税法22条3項3号と同様の基準により判断すべきとする法律上の根拠は存在しない上、原告が各金融機関に対して債務免除を求めながら、経営者責任を負っているAらが原告に対する本件各求償債権につき債務免除をしないのは、社会通念上受け入れられなかったという原告が主張する事情は、原告が本件要領に基づく再生計画による企業再生を企図していたこととの関係上、Aらが本件各求償債権の行使を事実上控えざるを得なかったということを意味するにとどまり、原告が支払能力を欠き、本件各求償債権の全部又は一部が回収不能であったことを意味するものではないというべきである。
  したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、「処分により受けた利益が現に存する限度」とは、本件においては本件各債務免除当時において存在する利益の限度を指し、ここでいう「利益」とは、フローとしての利益ではなく、ストックとしての利益に限定されると解すべきであり、また、徴収法は、担税力に応じた課税を要請する租税公平主義をその趣旨としており、第二次納税義務に係る納付通知書による告知処分の当時において債務超過に陥っている法人に対し第二次納税義務を課すことは、かかる租税公平主義の観点から許されないから、無償譲渡等の処分及び第二次納税義務に係る納付通知書による告知処分の当時、当該法人が債務超過であった場合には、無償譲渡等の処分により当該法人の受けた利益は現に存しないとした上で、原告は、本件各債務免除及び本件各告知処分の当時、債務超過の状態であったから、本件各債務免除により原告の受けた利益は現に存しない旨主張する。
  しかし、上記アのとおり、本件各債務免除の当時において、原告が支払能力を欠き、本件各求償債権の全部又は一部が回収不能であったと認められない限り、原告は本件各債務免除によりその対象となった債務の額に相当する利益を受けたというべきところ、債務者が債務超過であったとしても、そのことから直ちに支払能力を欠き、当該債権の全部又は一部の回収が不能であったということはできないから、原告が債務超過であったことをもって、本件各債務免除により利益を受けていないとは認められず、債務超過である法人に対し第二次納税義務を課すことが租税公平主義に反すると解することもできない。
  そこで、本件各債務免除及び本件各告知処分の当時において、原告が支払能力を欠き、本件各求償債権の全部又は一部が回収不能であったと認められるか否かを検討すると、原告の貸借対照表及び損益計算書(乙19の1〜5)によれば、原告は、平成25年6月期から平成28年6月期までの各事業年度において、いずれも1175万2202円から1672万5497円までの債務超過であったが、他方で、平成26年6月期における流動資産は5596万5187円、売上高は5514万9752円、経常利益は298万5755円、当期純利益は302万8316円であり、平成27年6月期における経常損失は152万8514円であったが、流動資産は5298万3251円、売上高は5159万8866円、当期純利益は40万7063円であり、平成28年6月期における流動資産は5344万4225円、売上高は4565万9847円、経常利益は60万8916円、当期純利益は153万7916円であり、平成29年6月期においては、債務超過が解消されて2049万9449円の資産超過に転じるとともに、流動資産は5191万5400円、売上高は4658万6374円、経常利益は219万4723円、当期純利益は2925万1651円であったことが認められる。このように、原告は、本件各債務免除及び本件再生計画書に係る再生計画の成立の前から、相当額の流動資産を保有し、売上高も大きな変動がなく推移しており、当期純利益も計上していたことからすれば、本件各債務免除及び本件各告知処分の当時において、原告が支払能力を欠き、本件各求償債権の全部が回収不能であったとは認めることができず、その一部が回収不能であったことを認めるに足りる証拠もない。
  したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3)小括
 以上によれば、本件各債務免除により原告の受けた利益が現に存する限度は、Aの滞納国税につき1460万3683円、Bの滞納国税につき1512万5375円であると認められる。
4 本件各告知処分の適法性
 以上の説示を前提に本件各告知処分の適法性についてみると、本件各告知処分の当時、本件各滞納国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足しており(乙7、8)、本件各債務免除は本件各滞納国税の法定納期限の1年前の日以後にされている(前記前提事実(2)イ、(3)ア)と認められる。
 そして、仮に、本件各債務免除がされずに、Aらが本件各求償債権を保有していた場合には、滞納処分により本件各求償債権を差し押さえることにより本件各滞納国税を徴収することができたといえることからすれば、本件各滞納国税につき徴収すべき額に不足すると認められることが、本件各債務免除に基因するということができる。もっとも、上記の場合、本件再生計画書に係る再生計画は各金融機関からの同意が得られずに成立しなかった可能性も否定できず、そうすると、滞納処分を執行しても本件各求償債権が回収可能なものであったかについて、疑問を差し挟む余地が生じる。しかし、本件各債務免除及び本件再生計画書に係る再生計画の成立の前である平成26年6月期における原告の財務状況(前記3(2)イ)に加え、企業再生の手段が本件要領に基づく再生計画に限定されるものではないところ、原告において、本件要領に基づく再生計画以外に手段がなく、本件再生計画書に係る再生計画が成立しなかったときは、支払不能に陥っていた蓋然性があること等の事実を認めるに足りる証拠はないことからすれば、Aらが本件各求償債権を保有していた場合には、本件再生計画書に係る再生計画が成立しなかった可能性があることをもって、上記基因関係を覆すには足りないというべきである。
 したがって、本件各告知処分は適法である。
5 結論
 以上のとおり、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 市原義孝
   裁判官 西村康夫
   裁判官 永田大貴

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