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解説記事2021年04月26日 ニュース特集 現物出資の適格性巡り、塩野義製薬再び勝訴(2021年4月26日号・№880)

ニュース特集
東京高裁、地裁が示したLPS持分の捉え方及び内外判定を全面的に支持
現物出資の適格性巡り、塩野義製薬再び勝訴


 製薬会社大手の塩野義製薬(株)が、保有するケイマンLPSの持分を英国の完全子会社に現物出資したことが適格現物出資に該当するかどうかが争われている事案の一審では、LPS持分は国内資産に該当せず適格要件を満たすとの判断が示され、同社が勝訴したところだ(東京地裁令和2年3月11日判決 本誌830号40頁参照)。
 国はこの判決を不服として控訴していたが、東京高裁(第22民事部・白井幸夫裁判長)は令和3年4月14日、地裁判決を全面的に支持する判決を下し、再び国が敗訴した。高裁判決は、控訴審における国の主張に対する判断を加えた以外、すべて原判決の判断を引用している。
 東京地裁判決は、本件LPS持分の内実を「LPSの事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位とが不可分に結合されたもの」と捉えたことに加え、国内・国外判定において、「価値の源泉は事業用財産の共有持分」「事業用財産の共有持分を主物と捉え」「事業用財産の主要なものの管理が行われていた場所」で判断するという新たな解釈を示したという点で注目を集めたが、LPS持分の捉え方については組合の私法的な性質に照らして妥当なものとする声が多かった一方、国内・国外判定については疑問の声も挙がっていた。最大の懸念は、資産に係る含み益相当額が我が国で課税できなくなることを防止しようとした規定の趣旨・目的が果たせなくなるということだ。
 本特集では、高裁判決がこれら専門家らの疑問に答えるものとなっているかどうか、詳報する。

課税庁は「国内にある含み益のある資産の国外への移転」を問題視

 塩野義製薬は平成13年、米国の製薬会社(GSKK社)と共同で抗HIV治療薬を開発するためジョイントベンチャー(JV)契約を締結し、ケイマン法に基づく特例有限責任パートナーシップであるケイマンLPS(CILP)を設立した。その後、JVの枠組み変更が行われ、塩野義製薬は、平成24年に英国の完全子会社(SL)にLPS持分を現物出資し、次いで英国完全子会社はLPS持分を米ヴィーブ社の英国親会社に譲渡、その対価としてヴィーブ親会社株式の10%を取得した(参照)。

 塩野義製薬は、英国完全子会社への現物出資が「適格現物出資」(法人税法2条12号の14)にあたることを前提に、約130億円の簿価譲渡として申告を行なったが、課税庁は「国内にある事業所に属する資産」(法人税法施行令4条の3第9項)を外国法人に移転するものであるから「非適格」であるとし、LPS持分の譲渡価額は時価530億円であり、約400億円の申告漏れがあったと指摘、更正処分等を行なった。
 “国内資産を外国法人に移転するもの”が「適格現物出資」から除かれている趣旨は、国内にある含み益のある資産を外国法人に移転することでその含み益に対する課税が行われなくなることを規制し、我が国の課税権を確保することにあるとされている。
 なお、英国完全子会社からヴィーブ親会社への譲渡は「(LPS)持分と(ヴィーブ親会社の)株式の交換」とされ、イギリスで譲渡益課税がされなかった模様。このことが、英国子会社を経由した課税逃れとして否認のきっかけになったのではないかともみられている。

LPS持分の実質は「パートナーが保有する事業用財産の共有持分」

 こうして本事案では、本件現物出資の対象資産が法人税法施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かが最大の争点となった。
 「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かの判断基準については、法人税基本通達1−4−12が次のとおり定めている。

法人税基本通達1−4−12
 法人税法施行令4条の3第9項に規定する「国内にある事業所に属する資産又は負債」に該当するかどうかは、原則として、当該資産または負債が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定する。ただし、国外にある事業所の帳簿に記載されている資産又は負債であっても、実質的に国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認められる資産又は負債については、国内にある事業所に属する資産又は負債に該当する。

 LPS持分が現物出資された本件でまず問題となったのは、「国内にある事業所に属する資産」の判定においてLPS持分をどう捉えるのかということ、すなわちLPS持分自体、あるいはLPSの個々の事業用財産のいずれを判定対象とするべきかということだ。
 東京地裁は、表1のとおり、「本件現物出資の対象資産は本件CILP持分」とした上で、本件CILP持分の内実を「CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合されたもの」と捉えた。国も本件現物出資の対象資産は本件CILP持分自体であると主張したが、この主張について東京高裁は「控訴人が、本件CILP持分は、それ自体が財産的価値を有し、かつ、譲渡可能な資産であることが明らかである、CILPのLPたる地位に基づく各種権利義務の総体であるなどと主張していることからすると、控訴人のいう『本件CILP持分自体』とは、被控訴人のCILPのLPとして有する本件パートナーシップ契約上の法的地位ないしそれに基づく各種権利義務の総体を指し、これをCILPの事業用資産とは別個の1個の独立した資産であると捉えるものと解される」との解釈を示した。

【表1】本件現物出資の対象資産の捉え方

東京地裁の判断
・本件現物出資の対象資産は本件CILP持分
・もっともCILPは、我が国の組合に類似した事業体であり、ELPS法及び本件パートナーシップ契約においても、CILPの事業用財産の共有持分と切り離されたパートナーとしての契約上の地位のみが他に移転することは想定されていない
・本件CILP持分の内実は、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合されたもの
国の主張
・本件現物出資の対象資産は、本件CILP持分自体
・本件CILP持分は、CILPのLPたる地位に基づく各種権利義務の総体であり、それらは不可分一体のもの
・本件CILP持分は、それ自体が財産的価値を有し、かつ、譲渡可能な資産であることが明らかである
東京高裁の判断
・CILPは我が国の民法上の組合に類似した法人格のない事業体
・我が国の租税法あるいは私法において、そのような事業体の構成員としての地位、すなわち、本件パートナーシップ契約に基づいて生ずる法的地位について、あたかも株式会社において会社の事業用財産とは別個の財産として観念される株式のように、これを事業体の事業用資産とは別個の財産と捉え、事業用財産とは独立に譲渡することのできる財産として扱うことを明確に規定した法的根拠は見当たらない
・CILPのパートナーは、本件パートナーシップ契約の内容をなす種々の合意によって、法人格のない事業体であるCILPの事業用財産全体、すなわち、その事業に供される有形・無形の財産全体について、出資割合に応じた共有持分を保有することとなっており、本件パートナーシップ契約における契約上の地位とは、パートナーがしたそのような合意の総体を示す概念であって、本件パートナーシップ契約における契約上の地位は事業用財産と不可分に結合されたものというべきである
・本件CILP持分とは、パートナーがこのような意味における契約上の地位に基づいて保有する事業用財産の共有持分をその実質とするもの
・法人税の課税の場面において捉えられる本件現物出資の対象資産も、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合されたものというべき

 その上で、ELPS法(Exempted Limited Partnership Law)の規定や本件パートナーシップ契約等を検討し、「CILPのパートナーとしての地位ないしそれに基づく各種権利義務の総体を事業用財産とは別個の独立した資産と捉えることは相当ではない」と国の捉え方を否定、本件CILP持分の実質を「パートナーが契約上の地位に基づいて保有する事業用財産の共有持分」と捉えた。東京高裁のLPS持分の捉え方は、組合財産を中心に判断したという点で、東京地裁と同様といってよいだろう。

東京高裁も「LPSの事業用財産の管理が行われていた場所」で内外判定

 続いて、経常的な管理が行われていた事業所の判定については、東京地裁は、表2のとおりの判断を示していたが、「CILPのパートナーシップ持分の価値の源泉はCILPの事業用財産の共有持分にある」「CILPの事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位との関係は、前者を主とする主物と従たる権利義務との関係に類似する関係にある」「経常的な管理が行われていた事業所は、CILPの事業用財産のその主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみる」との判断が、新たな解釈を示したものして専門家らの間で議論を呼んでいた。

【表2】経常的な管理が行われていた事業所の判定の仕方

東京地裁の判断
・CILP持分を個々の事業用財産の持分やパートナーシップ契約上の個々の権利等に分解してそれぞれを管理する事業所を個別に検討するのは相当ではなく、これらが全て結合された1個の資産とみてその管理が行われていた場所を特定するのが相当
・CILPのパートナーシップ持分の価値の源泉はCILPの事業用財産の共有持分にあるということができ、また、CILPの事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位との関係は、前者を主とする主物と従たる権利義務との関係に類似する関係にあるものと捉えることが可能であるから、本件CILP持分を1個の資産とみた場合のその経常的な管理が行われていた事業所は、CILPの事業用財産、中でもその主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当である
国の主張
・本件CILP持分の管理が行われていた事業所は、本件CILP持分に包含される個別の権利や事業資産ではなく、各種権利義務の総体たるLPとしての法的地位を管理していた事業所がどこかという視点で判断されなければならず、本件CILP持分がいずれの事業所に「属する」かについては、控訴人が保有する本件CILP持分という1個の法的地位について経常的な管理を行なっている事業所がどこかという視点で判断すべきであり、具体的には、本件CILP持分については、その取得から本件現物出資に基づく喪失に至るまでの間、被控訴人本社の有価証券台帳に投資有価証券として記載されていたから、被控訴人本社が経常的に管理していたことは明らかである
東京高裁の判断
・CILPの事業用財産の共有持分LPとしての契約上の地位とが不可分に結合された資産であるところ、これを1個の資産とみてその管理が行われていた事業所を特定するのが相当であることは、前記引用に係る原判決の判示するとおり
・本件CILP持分は、本件パートナーシップ契約における契約上の地位に基づいて保有される事業用財産の共有持分を実質とするものであるというべきであるから、その管理が行われていた事業所とは、CILPの事業用財産の管理が行われていた事業所であると解するのが相当であり、この事業所が本件CILP持分の属する事業所であることとなる

 東京高裁は、「価値の源泉」「主物」「主要なもの」との表現は使用していないものの、「本件CILP持分は、本件パートナーシップ契約における契約上の地位に基づいて保有される事業用財産の共有持分を実質とするものであるというべきであるから、その管理が行われていた事業所とは、CILPの事業用財産の管理が行われていた事業所であると解するのが相当」との判断を示しており、東京地裁の上記判示についても、「その判示するところは、(東京高裁が)前記に判示したところと実質的に異ならない」と明確に支持している。
 そして、「CILPの事業用財産は、①各パートナーからの出資に由来する現金、②被控訴人及びGSK/ヴィーブから提供された知的財産のライセンス、③新薬向けの化合物についての開発活動によって得られた治験データ等の無形資産、④デラウェアLLCへの出資等で構成されており、これらがCILPの事業に供されていたところ、これらの事業用財産は、いずれもGSK/ヴィーブ側が米国その他の我が国以外の地域に有する事業所において経常的に管理されていたと認められる。」と、東京地裁と同様の結論を下した。

規定の趣旨については「租税法規の解釈の域を超えるもの」として判断せず

 東京地裁の示した上記の解釈については、「『価値の源泉』の所在という必ずしも容易ではない事実認定を余儀なくされることとなり、法的安定性に懸念が生じる」「事業用財産を主物とすることは適切であるのか」「東京地裁が挙げた資産がなぜ主要な事業用財産といえるのか」「事業用財産のうち一つでも日本国内で経常的に管理されていた場合はどうなるのか」などの疑問の声が挙がっており、東京高裁から何らかの判断が示されることが期待されていた。国も控訴審においてこれらについて一部主張しているが、表3のとおりすべて排斥されている。
 実務家らから示されていた最も大きな懸念は、資産に係る含み益相当額が我が国で課税できなくなることを防止しようとした規定の趣旨・目的が果たせなくなるというものであり、この点は国も主張したが、東京高裁は「我が国の課税権の確保の主張については、租税法規の解釈の域を超えるものであって、相当でない」として判断を示さなかった。
 “完敗”とも言える今回の高裁判決を受け、国がさらに上告に踏み切るのか、注目される。

【表3】控訴審における国の主張の排斥

国の主張 東京高裁の判断
 本件CILP持分については、その取得から本件現物出資に基づく喪失に至るまでの間、被控訴人本社の有価証券台帳に投資有価証券として記載されていたから、被控訴人本社が経常的に管理していたことは明らかである。  前記判示のとおり、本件CILP持分をCILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された1個の資産と捉えれば、上記の記帳は、被控訴人によるCILPへの出資があったことや本件CILP持分を現物出資した結果を経理的に記録したに過ぎないものであって、事業用財産の経常的な管理を行なっていたということはできず、本件CILP持分の管理を行なっていたものということはできない。
 原判決が本件CILP持分を一つの不可分な資産と捉えながら、本件CILP持分の価値に包含される事業用財産を管理する個々の事業所をもって同持分を管理する事業所であると判断しているのは不当である。  原判決も、当審における前記の判断においても、CILPの事業用財産全体に対する共有持分をもって本件CILPの実質であるとするものであって、この事業用財産は、個々の財産の集合体である。そして、事業用財産の管理を行なっていた事業所を認定するに当たっては、これを構成する個々の財産の管理に着目することは当然であって、その管理の状況から総体としての事業用財産の管理を行なっていた事業所を認定することは、本件CILP持分を一つの資産と捉えることと何ら矛盾するものではないから、上記主張は正鵠を射ないものである。
 CILPの事業用財産のうち、なぜ、現金、知的財産のライセンス及び治験データが「主要なもの」であるといえるのかの理由は不明である、「主要な」財産とまではいえなくとも、我が国の課税権確保の観点から無視できない程度の価値を有する財産が我が国にある事業所において経常的に管理されていた場合にも、本件CILP持分の含み益に対し我が国において課税できない結果を招く原判決の解釈は、我が国の課税権確保を目的とする施行令4条の3第9項の趣旨からも到底採り得ない。  CILPの事業用財産を構成する個々の財産について、財産によって異なる複数の事業所において管理が行われているような場合には、事業用財産が全体としてのCILPの事業に供されるものであることを考慮すれば、その事業に最も主要な寄与をしている財産の経常的な管理が行われている事業所をもって、事業用財産全体の管理を行っている事業所であると解することが合理的であり、原判決の判示もこれと同旨と解される。そして、CILPの事業が新薬である特定化合物の開発であることに照らせば、原判決が主要な財産として上記財産を挙げたことも首肯できるところである。
 また、我が国の課税権の確保の主張については、租税法規の解釈の域を超えるものであって、相当でない。
 営業権やノウハウなどの個別に特定し得ない超過収益力となる無形資産についても、CILPの「主要な」事業用資産として挙げられるが、これらは、その価値を包含する本件CILP持分そのものを経常的に管理する事業所において管理されていたものと判断せざるを得ず、それは被控訴人本社において経常的に管理されていたといえるから、CILPの事業用財産のうち主要なものは、被控訴人の国内にある事業所にも属する。  CILPの事業用財産として営業権やノウハウが存在することは否定し得ないとして、それらの性質に照らせば、それらの経常的な管理は、CILPの他の事業用財産を用いて事業を行う事業所においてされていたというのが相当であって、そのような営業権やノウハウなどの無形財産が、CILPの事業を離れて、出資元である控訴人の事業所において経常的に管理されていたと解することは困難である。
 原判決が、CILPの事業用財産の経常的な管理は、CILPの事業活動の一部であり、それを行う事業所がCILPの事業所に当たることは明らかであるから、CILPのパートナーであった被控訴人にとっても、当該事業所はCILPの事業活動を行う被控訴人の事業所であったということができると判示したことについて、被控訴人は、自己の名義による国外における支店・営業所等を有していないのであり、また、本件パートナーシップ契約においては、LPは、CILPの事業活動に関して極めて限られた権限を有するに過ぎないから、被控訴人が行う「CILPの事業活動」を観念することは誤りである。  原判決の上記判示は、CILPの事業用財産の経常的な管理をCILPの事業活動の一部と捉えた上で、CILPのパートナーとして事業用財産の共有持分を有する被控訴人についても、CLIPの事業活動としてその経常的な管理を行うものとし、CILPの事業所が被控訴人にとっても事業所であったということができるとしたものであって、GSK/ヴィーブ側が米国その他の我が国以外の地域に有する事業所において、被控訴人自らが実際にCILPの事業である特定化合物の開発の活動を行うことを意味するものではないと解されるから、控訴人の上記主張は当たらない。

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