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解説記事2019年11月25日 特別解説 IFRSの任意適用に先立つ会計方針の変更(2019年11月25日号・№812)

特別解説
IFRSの任意適用に先立つ会計方針の変更

はじめに

 2010年3月期より、一定の要件を満たしたわが国の企業に対して、IFRS(国際財務報告基準)の任意適用が認められるようになってから、間もなく10年が経とうとしている。最初の3年間ほどはIFRSを任意適用する企業数が伸び悩んだものの、近年は着実に増加しており、2019年10月末日現在で、IFRS適用済みの会社数は204社と、200社の大台を突破している。これまでわが国の会計基準を適用していた日本企業がIFRSを任意適用する場合、IFRSを最初に適用する年度(初度適用年度)に、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」第23項に基づいて、企業は、従前の会計原則からIFRSへの移行が、報告された財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローにどのように影響したのかを説明しなければならないが、IFRS適用に先立つ会計年度において、日本の会計基準の枠内においてより合理的な、あるいはIFRSと親和性の高い会計方針に変更する企業が見られる。本稿では、「IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出した企業」(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)各社が、IFRSへの移行に先立つ会計期間(IFRSの任意適用と同時を含む)に実施した会計方針の変更やその他の対応を調査分析することとしたい。なお、わが国における企業結合会計基準や退職給付会計基準の制定・改正等に伴う会計方針の変更(新規適用)等、IFRSの適用とは直接関係しないと考えられる会計方針の変更事例は、今回の調査の対象からは除外している。

調査の対象とした企業

 今回の調査は、日本の会計基準からIFRSへ任意で移行し、2019年3月期までに有価証券報告書を作成・開示した企業に加え、将来(2020年3月期、2021年3月期等)にIFRSを任意適用することを決定している企業も対象としているが、IFRSを適用して新規に上場した企業は対象から除いている。調査対象の企業数は、202社であった。

IFRSの任意適用に先立つ会計方針の変更

 調査対象の各社について、IFRSの任意適用以前、あるいはIFRSの任意適用時に会計方針を変更した会社数を、項目別に列挙すると、表1のとおりであった。

 以下で、それぞれの項目について個別に見ていくこととする。

有形固定資産の減価償却方法の変更を行った企業

 IFRS任意適用日本企業がIFRSの適用に先立って行った会計方針の変更のうち、圧倒的に多いのが有形固定資産の減価償却方法の変更であり、202社中120社が実施していた。我が国の会計基準を適用する日本企業の場合、有形固定資産の減価償却方法については、建物の一部等を除いて定率法を適用していることが多いが、IFRSでは、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益を企業が消費すると予想されるパターンを反映するものでなければならないとされており(IAS第16号「有形固定資産」第60項)、IFRSを適用する欧州の企業等においては、定額法を適用している事例が圧倒的に多い。そのため、有形固定資産の減価償却の方法を変更したIFRS任意適用日本企業120社は、いずれも、連結財務諸表と個別財務諸表の重要な会計方針(有形固定資産の減価償却方法)について、定率法から定額法に変更している。120社が有形固定資産の減価償却方法を変更したタイミングを、IFRS適用時期との関係で示すと表2のとおりである。

 IFRSの任意適用が始まった当初においては、IFRSを適用するための準備期間の短さや参考とすべき適用事例の少なさなどもあいまって、IFRSを適用する会計期間に、有形固定資産の減価償却方法の変更を実施する企業が多かった。しかしIFRSを適用する場合、企業の最初のIFRS財務諸表は、少なくとも3つの財政状態計算書、2つの純損益及びその他の包括利益計算書、2つの分離した純損益計算書、2つのキャッシュ・フロー計算書及び2つの持分変動計算書並びに関連する注記(表示するすべての計算書に係る比較情報を含む)を含んでいなければならないとされていることもあり(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」第21項)、最近は、IFRSを適用する1期前、あるいはトライアル運用期間等を見込んだ2期前に有形固定資産の減価償却方法の変更を行う企業が多くなっている。また、IFRSを適用する3期以上前に、減価償却方法を定率法から定額法に変更している企業も全体の3分の1を占めている。最近は、グローバル化の進展によって、有形固定資産の減価償却方法として定額法を採用する在外子会社の比重が増加し、将来のIFRS適用のほか、業績評価尺度の統一やグローバルベースでの予算の策定等も見込んで、早い段階から、有形固定資産の減価償却の方法を定額法で統一する企業が増えてきているものと考えられる。
 なお、有形固定資産の減価償却方法を変更した理由としては、「中期経営計画の策定」、「構造改革により設備の稼働が平準化したことや、設備の汎用化が行われたため」、あるいは「グループ会計方針、管理方法の統一の必要性」といった項目が挙げられていた。

連結子会社等の決算期の変更

 IFRS上、連結財務諸表の作成に用いる親会社及びその子会社の財務諸表は、同じ報告日としなければならないとされており、親会社の報告期間の期末日が子会社と異なる場合には、子会社は、実務上不可能な場合を除き、連結のために、親会社の財務諸表と同日現在の追加的な財務情報を作成して、親会社が子会社の財務情報を連結できるようにしなければならない(IFRS第10号「連結財務諸表」B92項)。また、実務上不可能な場合には、親会社は子会社の直近の財務諸表を用いて子会社の財務情報を連結しなければならないが、当該財務諸表の日付と連結財務諸表の日付との間に生じる重要な取引又は事象の影響について調整する。いかなる場合でも、子会社の財務諸表と連結財務諸表の日付の差異は3か月を超えてはならないとされている(B93項)。一方、わが国の「連結財務諸表に関する会計基準」では、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合には、子会社は、連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行うことが原則とされているが(第16項)、注解4「決算期の異なる子会社がある場合の取扱いについて」において、子会社の決算日と連結決算日の差異が3か月を超えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことができる。ただし、この場合には、子会社の決算日と連結決算日が異なることから生じる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致について、必要な整理を行うものとされており、このいわゆる「3ヶ月基準」が、実務上は幅広く利用されてきた。IFRS任意適用日本企業について、親会社と連結子会社等の決算日の統一についてどのように対応したかを調査したところ、調査対象の202社のうち54社が、IFRSの適用に先立って連結子会社等の決算期を変更(あるいは仮決算を実施する方法へ変更)する等の対応をしていることが判明した。また、このほか、親会社の側が決算期を変更してグループとしての決算日を統一している事例も9社あった(表1参照)。本稿では、一部の連結子会社の決算日の変更と仮決算方式への変更を同時に行っているエスペック(2019年3月期)の事例を取り上げる。

3. 連結子会社の事業年度等に関する事項
 連結子会社のうち、上海愛斯佩克環境設備有限公司、愛斯佩克環境儀器(上海)有限公司、愛斯佩克測試科技有限公司(上海)、愛斯佩克試験儀器(広東)有限公司、ESPEC(CHINA)Limitedの決算日は12月31日であります。これらの会社については、当連結会計年度より連結決算日である3月31日に仮決算を行い連結する方法に変更しております。なお、当連結会計年度より連結子会社のESPECNORTHAMERICAINC.、ESPECKOREACORP.は、決算日を12月31日から3月31日に変更しております。これらの変更に伴い、当連結会計年度においては、当該連結子会社の2018年1月1日から2019年3月31日までの15か月間を連結しており、決算期変更に伴う影響額は連結損益計算書を通じて調整しております(以下略)。

 表1からは、有形固定資産の減価償却方法の変更と、連結子会社や親会社の決算日変更(仮決算方式への変更を含む)が、IFRSへの移行を計画する企業が、IFRSの適用に先立って行う対応の代表的な例であるということが分かる。

有形固定資産の耐用年数の変更と残存価額の見直し

 IFRS上、耐用年数は、資産が企業によって利用可能であると見込まれる期間をいうとされており(IAS第16号第6項)、有形固定資産の耐用年数や残存価額は、事業年度末ごとに再検討することが求められている(IAS第16号第51項)。一方、日本企業においては、耐用年数や残存価額は法人税法の定める耐用年数表等に基づいて決定している場合が大半であると思われる。IFRS任意適用日本企業について、有形固定資産の耐用年数と残存価額の見直しの状況を調査したところ、調査対象とした202社のうち、耐用年数の変更を行った企業は22社、残存価額の見直しを行った企業は5社であった(耐用年数と残存価額の見直しを同時に行っている会社があるため、合計は25件とはならない)。これらは、有形固定資産の減価償却方法の変更と同じタイミングで行われている事例が多かった。
 有形固定資産の減価償却方法の変更、耐用年数の見直し、並びに残存価額の見直しを同じタイミングで行っているコカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス(2017年12月期)の事例を以下で紹介する。 

(会計上の見積りの変更と区別することが困難な会計方針の変更・会計上の見積りの変更)
(減価償却方法の変更および耐用年数の変更)

 従来、当社及び一部の連結子会社では、有形固定資産(販売機器およびリース資産除く)の減価償却方法について、主として、定率法を採用しておりましたが、当連結会計年度より定額法に変更しております。平成29年4月1日に実施したコカ・コーライーストジャパン株式会社との経営統合により、より強固な経営基盤が構築されるとともに、今後両社の営業、製造部門に関するノウハウを結集することで、広い地域での最適な生産体制を構築することが可能となり、有形固定資産(販売機器およびリース資産除く)の長期安定的な使用が見込まれることから、耐用年数にわたり均等償却による費用配分を行うことが有形固定資産の経済的便益の消費パターンをより適切に反映することとなるため、減価償却方法を定額法に変更するものであります。また、当社および一部の連結子会社は、減価償却方法の変更の検討を契機に使用実態の検討を行った結果、当連結会計年度より、製造の用に供している機械装置については、従来、主な耐用年数を10年としておりましたが、より実態に即した経済的使用可能予測期間に基づく7年~20年に見直し、将来にわたって変更しております。さらに、有形固定資産の減価償却方法の変更等を契機として、当連結会計年度より、耐用年数経過後の有形固定資産の残存価額を備忘価額の1円に切り下げております(以下略)。

棚卸資産、デリバティブ、及び収益認識にかかる会計方針の変更

 棚卸資産にかかる会計方針の変更のうち、最も多かったのは、棚卸資産の一部(主に原材料や貯蔵品)について、最終仕入原価法から移動平均法、または総平均法に変更した事例であった(11件のうち5件)。
 そのうち、日清食品の事例(2016年3月期)を以下に掲げる。

(たな卸資産の評価方法の変更)
 当社及び一部の国内連結子会社において、たな卸資産のうち、原材料及び貯蔵品に係る評価方法は、従来、主として最終仕入原価法を採用しておりましたが、当連結会計年度より、主として総平均法に変更いたしました。この変更は、基幹システムの再構築を契機に、より適正な期間損益計算を行うことを目的としたものであります。

 また、Jフロントリテイリングは、主要な子会社である大丸松坂屋百貨店等における商品の評価方法を、個別原価を把握できるシステムが本稼働し、より精緻な原価管理が可能となったことを理由として、従来の売価還元法による低価法から、個別法による原価法に変更している。
 次に、デリバティブの会計処理方法の変更は、我が国の会計基準では例外的に認められている、いわゆる金利スワップに対する特例処理や為替予約に対する振当処理がIFRS上は適用できなくなるため、原則的な処理方法(期末に時価評価を行い、評価差額は損益として処理する方法)に変更した事例が大部分を占めた。
 日本触媒の2018年3月期の開示は次のとおりである。

 当社は、従来、振当処理の要件を満たす為替予約については振当処理、金利スワップの特例処理の要件を満たす金利スワップについては特例処理を適用しておりましたが、デリバティブ取引の実態をより適切に連結財務諸表に反映させることを目的として、第一四半期連結会計期間から原則的な処理方法、すなわち、為替予約及び金利スワップを期末に時価評価する方法に変更しております(以下略)。

 収益の認識基準の変更については、従来からよく見られた出荷基準から納品基準、引渡基準、据付検収基準への変更(富士通、日東電工、住友理工、アイシン精機他)のほか、最近では、2018年12月期から適用が開始されたIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の影響もあり、販売奨励金を販売費および一般管理費として計上する方法から、売上から控除する方法に変更した事例(SUBARU 2019年3月期)や、工事完成基準から工事進行基準に変更した事例(日本工営 2018年6月期)などが見られる。まず、SUBARUの事例は次のとおりである。

(売上高の計上方法の変更)
 当社グループは、従来、販売奨励金を販売費および一般管理費に計上しておりましたが、当連結会計年度より売上高から控除する方法に変更しております。この会計方針の変更は、当社グループを取り巻く経営環境において、販売奨励金が増加傾向にあることから、取引実態を改めて精査したところ、取引条件の決定時に販売奨励金が考慮され、実質的に販売価格を構成する一部として捉えられること、及び業務プロセスやシステム構築など経営管理体制が整ったことに伴い、売上高から控除して計上する方法が当該状況をより適切に反映できると判断したことによるものであります。

 次に、日本工営の事例は次のとおりである。

 当社および国内子会社において、コンサルタント国内事業、コンサルタント海外事業および電力エンジニアリング事業の業務契約に係る売上高の計上は、従来、原則として完成基準(部分完成基準含む)によっておりましたが、当連結会計年度より開始する業務契約について、進行基準(進捗度の見積りは主に原価比例法)に変更しました。これは、政府主導のインフラシステム輸出戦略に伴う大型受注機会増大、英国建築設計会社の買収をはじめとする当社海外事業展開拡大などを勘案して従来の収益認識基準を再検討した結果、進行基準が経営成績及び財政状態をより適切に表示すると判断し、関連するシステムが整ったことを契機として変更したものです(以下略)。

終わりに

 ここ数年、急ピッチで伸びてきたIFRS任意適用日本企業数は、適用企業数が200社に近づいたあたりからは、増加のペースがゆるやかになってきている。一方で、IFRSの開発・適用も、IFRS第9号(金融商品)、IFRS第15号(収益認識)及びIFRS第16号「リース」という、企業に対して広範な影響を与える可能性が高い基準書の適用が2019年度までに開始されたこともあり、こちらも一区切りした感がある。これからは、新たな会計基準を開発、適用することよりも、既存の会計基準書の適用状況のレビューや投資家との有効な対話といった方面に重心が移っていくものと思われる。我が国の会計界にとって、平成の30年余りは、バブル崩壊から始まってコンバージェンス、IFRSの任意適用拡大など、欧米諸国へのキャッチアップや我が国の会計基準の整備のために多くの労力を割かざるを得なかったが、令和の時代は、我が国の会計基準の優れた点を主張しつつ、世界中の投資家に資する有用な会計基準の開発に貢献すべく、意見発信を強化していく時代になることを期待したい。

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