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解説記事2021年08月09日 税制改正解説 令和3年度における消費税・間接諸税関係の改正について(2021年8月9日号・№893)

税制改正解説
令和3年度における消費税・間接諸税関係の改正について
 馬場洋二郎

Ⅰ 消費税関係の改正

一 電磁的記録に記録された事項に関する重加算税の特例の創設

1 改正の背景等
 高度情報化・ペーパーレス化が進展する中で、会計処理の分野でもコンピューターを使用した帳簿書類の作成が普及してきており、経済界をはじめとする関係各界から、帳簿書類の電磁的記録(いわゆる電子データ)等による保存の容認について、かねてから強い要望が寄せられていた。
 政府においては、こうした要望を受け、規制緩和推進計画等の閣議決定、緊急経済対策(平成9年11月)、市場開放問題苦情処理対策本部決定等において、平成9年度末までに、帳簿書類の電磁的記録等による保存を容認するための措置を講ずることを決定した。
 このような関係各界からの要望や政府全体としての取組みを踏まえ、平成10年度税制改正の一環として、適正公平な課税を確保しつつ納税者等の帳簿保存に係る負担軽減を図る観点から、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(以下「電子帳簿保存法」という。)が制定され、国税関係帳簿書類等の電磁的記録による保存制度(以下「電子帳簿等保存制度」という。)が創設された。
 創設時の電子帳簿等保存制度は、主に、
① 所轄税務署長等の承認を前提として、国税関係帳簿書類(国税関係帳簿(国税に関する法律の規定により備付け及び保存しなければならないこととされている帳簿)及び国税関係書類(国税に関する法律の規定により保存しなければならないこととされている書類))の全部又は一部について、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合のその電磁的記録の保存
② 電子取引を行った場合のその電子取引の取引情報(例えば、取引の相手方から受け取る電子請求書等)に係る電磁的記録の保存
について規定されていた。
 ①の国税関係帳簿書類に係る電磁的記録の保存は、基本的には国税に関する法律の規定により備付け及び保存をしなければならないこととされている帳簿や書類が対象となることから、消費税法令上、保存が義務づけられている帳簿や書類等についても対象に含まれることとなる。
 その保存に当たっては、
イ 電磁的記録の訂正・削除・追加の履歴の確保
ロ 各帳簿間での記録事項の相互関連性の確保
ハ 電子計算機処理システムの概要書等の備付け
ニ 見読可能装置の備付け等
ホ 検索機能の確保
の要件(国税関係書類の保存に当たってはハ〜ホ)を満たす必要があった。
 ②の電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存については、電子帳簿保存法では所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係るもののみがその対象で、消費税については対象外とされている。他方、消費税法令上、保存が義務づけられている書類等についても取引先から電磁的記録で受け取ることも十分に考えられたことから、一定の書類等について電磁的記録による保存が可能となるよう消費税法令で個別に規定するとともに、その保存は電子帳簿保存法に規定されている方法に準じて行うこととされている。
 その保存に当たり、電子帳簿保存法では、次の要件を満たす必要があることとされている。
イ 真実性の確保(タイムスタンプの付与等)
ロ 見読可能装置の備付け等
ハ システム概要書等の備付け
ニ 検索機能の確保
 なお、電子帳簿保存法においては、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を書面等に出力して保存する場合には、電磁的記録自体の保存は不要とする措置が講じられていたことから、消費税についても同様の措置が講じられている。
 また、平成16年12月の電子帳簿保存法の改正では、税務行政の根幹である適正公平な課税を確保しつつ、電子化によるコスト削減を図る観点から、所轄税務署長等の承認を前提として、特に重要な文書である決算関係書類や帳簿、一部の契約書・領収書を除き、原則的に全ての国税関係書類を対象に、真実性・可視性を確保できる要件(タイムスタンプの付与や重要な項目の検索機能等)の下で、スキャナを利用して記録された電磁的記録による保存制度(以下「スキャナ保存制度」という。)が創設された。
 消費税法令上保存が義務づけられている書類等についても、スキャナ保存制度の対象に含まれることとなる。
 その後、電子帳簿等保存制度は、平成27年度及び平成28年度税制改正において、スキャナ保存制度の対象拡大や保存要件の緩和などの大幅な見直しが行われるなど累次の改正が行われ、現在に至っている。

2 改正の内容
 電子帳簿等保存制度については、近年、その利用促進のための改正が行われ、利用件数は堅調に増加しているが、その伸びしろは依然大きいものと考えられており、平成29年の政府税制調査会の報告(経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告②(平成29年11月20日))では、「社会のデータ活用の促進や納税者の文書保存に係る負担軽減を図る観点から、当該制度の利用促進のための方策について検討を行うべきである。ただしその際、適正課税の観点から、帳簿書類の正確性を担保する仕組みにも配意が必要」との指摘がなされ、その後の「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」(令和元年9月26日)においても、「ICTの活用により、企業等の業務プロセスの簡素化・効率化や誤りの未然防止等を図る観点から、企業等の規模や業種に応じた経理・税務手続の実態を踏まえた上で、データの適正性の確保にも配慮しつつ、電子帳簿等保存制度の見直しを進めるべきである。」との指摘がなされていた。
 そのような中、政府税制調査会の総会では、こうした指摘を踏まえ、ウィズコロナ時代における税務手続の電子化や、グローバル化・デジタル化の進む経済社会における適正課税のあり方について更に議論が行われ、同調査会の下に外部有識者も交えて設置された「納税環境整備に関する専門家会合」において議論された内容について、「納税環境整備に関する専門家会合の議論の報告(令和2年11月13日政府税制調査会資料)」として、総会への報告が行われたが、その中では、次のとおり、電子帳簿保存法の要件や承認制度が電子帳簿等保存制度の利用促進を阻害している可能性について指摘がされている。
・国税関係帳簿書類の保存を電子的に行う場合、検索要件をはじめ保存の要件が非常に厳格になるため、実務上は紙で保存せざるを得ない状況になっているケースがある。
・承認制度については、確かに事前手続として届出制に比べれば負担ではないかという議論はあり得るが、信頼性の高い、改ざんができないようなものを申告する側で使っているのであれば、そこはより簡易化するという形で、バランスを取ることはできるのではないか。
 また、同報告においては、スキャナ保存制度についても、次のとおり、更なる利便性向上のための要件緩和や、その要件緩和に当たっての改ざん等の不正を防止するためのペナルティーの必要性について指摘がされるとともに、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度の重要性についても指摘がされている。
・スキャナ保存については、相互牽制や定期検査といった適正事務処理要件、タイムスタンプなどの要件から、社内整備等のソフト面、機器などのハード面の双方で、ハードルが高い状況にある。
・取引先から受領する書類のスキャナ保存については、これまでも、要件の緩和の方向に向かっているが、さらに納税者から見た利便性を考えていく必要。
・実際に何かが改ざんされるといっても、全体の取引の合理性や現金の動きなどに照らせば不正は把握できることもあり、どの程度まで要件緩和を許容できるのかを検討してほしい。ある程度整理した上で、それでも改ざんや捏造は出てくるため、それに対するペナルティーの議論をすべきではないか。
・取引相手から請求書・領収書等がデジタルデータで送られ、それをデータのまま保存できることが納税者の利便になり、税務手続の電子化を進めるうえでも重要。
 こうした政府税制調査会における指摘や経済社会のデジタル化の状況を踏まえ、令和3年度税制改正における電子帳簿保存法の改正では、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資する観点から、帳簿書類等を電子的に保存する際の手続について、その適正性を確保しつつ、抜本的に簡素化するための各種の措置を講ずることとされた。
 具体的には、国税関係帳簿書類に係る電磁的記録による保存については、
・税務署長による事前承認の廃止
・モニター、説明書の備付け等の最低限の要件を満たす電子帳簿(正規の簿記の原則に従って記帳されるものに限る。)も、電子データのまま保存することが可能
・信頼性の高い電子帳簿(優良な電子帳簿)については、インセンティブにより差別化(過少申告加算税を5%軽減、青色申告特別控除を10万円上乗せして65万円)
等の見直しが行われ、スキャナ保存制度については、
・税務署長による事前承認の廃止
・紙原本による確認の不要化(スキャン後直ちに原本の廃棄が可能)
・電子データの改ざん等による不正に対しては、重加算税を10%加算
・タイムスタンプ付与までの期間を最長約2ヵ月以内に統一
・検索要件について、「日付、金額、取引先」に限定するとともに、一定の小規模事業者については不要化
等の見直しが行われた。
 これらの見直しは、消費税法令上保存が義務づけられている帳簿や書類について、電磁的記録により保存する場合又はスキャナ保存制度により保存する場合にも適用されることとなる。
 ただし、上記の見直しのうち、電子データの改ざん等による不正に対して重加算税を10%加算する措置については、電子データによる保存は、紙による保存に比して、複製・改ざん行為が容易であり、また、その痕跡が残りにくいという特性にも鑑みて、こういった複製・改ざん行為を未然に抑止する観点から、スキャナ保存制度に係る電磁的記録に記録された事項について改ざん等が行われた場合だけでなく、電子取引の取引情報等に係る電磁的記録に記録された事項について改ざん等が行われた場合にも適用することとされた。
 1で述べたとおり、電子帳簿保存法における電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存については、所得税と法人税に係るもののみがその対象となっているため、この重加算税を10%加算する措置も所得税と法人税に係るもののみが対象となる。
 そこで、消費税法においても、消費税法令上、電磁的記録による保存が可能とされている電磁的記録に記録された事項に関し、改ざん等が行われた結果生じた申告漏れ等に対して課される重加算税について10%加算する特例を創設することとされた(消法59の2、消令71の2、消規27の2、27の3)。
 本特例の具体的な内容は次のとおりである。
(1)電磁的記録に記録された事項に関する重加算税の特例の概要
 消費税法令の規定に基づき事業者により保存されている電磁的記録に記録された事項(データ)について消去・改ざん等の隠蔽・仮装が行われたことを基因として、期限後申告書若しくは修正申告書の提出、更正又は決定(以下「期限後申告等」という。)があった場合の重加算税の額については、通常課される重加算税の金額に、その重加算税の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実(申告漏れ等)でその期限後申告等の基因となるこれらの電磁的記録に記録された事項に係るもの(隠蔽仮装されているものに限る。以下「電磁的記録に記録された事項に係る事実」という。)以外のものがあるときは、その「電磁的記録に記録された事項に係る事実に基づく本税額」に限る。)の10%に相当する金額を加算した金額とすることとされた(消法59の2①)。
 なお、この「電磁的記録に記録された事項に係る事実に基づく本税額」については、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定めるところにより計算することとされている(消令71の2②)。
① 期限後申告等の内容に「隠蔽仮装されていない事実」がある場合(消令71の2②一) 「隠蔽仮装されていない事実」及び「電磁的記録に記録された事項に係る事実」のみに基づいて期限後申告等があったものと仮定計算した場合に算出される本税額から「隠蔽仮装されていない事実」のみに基づいて期限後申告等があったものと仮定計算した場合に算出される本税額を控除した税額
② 期限後申告等の内容に「隠蔽仮装されていない事実」がない場合(消令71の2②二) 「電磁的記録に記録された事項に係る事実」のみに基づいて期限後申告等があったものと仮定計算した場合に算出される本税額
(参考)通常課される重加算税の割合は35%(無申告加算税に代えて課される重加算税については、40%)とされている(国税通則法68①〜③)。なお、過去5年以内に無申告加算税又は重加算税を賦課された者が、再び仮装・隠蔽に基づく修正申告書の提出等を行った場合には、重加算税の割合は、10%加重されており(国税通則法68④)、本特例と重複適用された場合の重加算税の割合は、55%(無申告加算税に代えて課される重加算税については60%)となる。
(注1)電子帳簿保存法においては、不納付加算税の適用場面を想定した国税通則法第68条第3項も重加算税の特例の対象となっているが、今回の消費税法における特例の適用対象で不納付加算税が適用される場面は想定されないことから、消費税法における重加算税の特例では国税通則法第68条第3項に関する規定は除外されている。
(注2)本特例の適用がある場合には、重加算税に係る「賦課決定通知書」にその旨が付記されることとなる(消規27の3)。
(2)重加算税の特例の対象となる電磁的記録の範囲
 本特例の対象となる電磁的記録は次のとおりである(消令71の2①)。
① 輸出物品販売場を経営する事業者が保存すべき一定の物品が非居住者によって一定の方法により購入されたことを証する電磁的記録(消法8②)
② 国外事業者から電気通信利用役務の提供を受けた者が仕入税額控除を受けるために保存すべき電磁的記録(所得税法等の一部を改正する法律(平成27年法律第9号)附則38③)
③ 承認送信事業者が保存すべき市中輸出物品販売場に提供した購入記録情報(消令18の4②)
④ 金又は白金の地金の課税仕入れを行った者が保存すべきその相手方の本人確認書類に係る電磁的記録(消令50②)
⑤ 登録国外事業者が保存すべき電気通信利用役務の提供を受けた者に提供した電磁的記録(消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成27年政令第145号)附則6①)
 また、消費税法施行規則等の一部を改正する省令(平成30年財務省令第18号)(以下「30年改正消規」という。)附則第2条第1項及び第2項の規定により、輸出物品販売場における手続の電子化に係る経過措置期間中(令和3年9月30日まで)の取引につきなお従前の例により輸出物品販売場が保存すべきこととされている輸出する旨を誓約する書類に係る電磁的記録に記録された事項についても、本特例の適用対象となる(30年改正消規附則2③)。
 なお、令和5年10月1日の適格請求書等保存方式の導入に伴う適格請求書等の記載事項に係る電磁的記録(以下「電子インボイス」という。)への対応等の所要の規定の整備が行われている(消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成30年政令第135号。以下「30年改正消令」という。)等)。
 令和5年10月1日以降に本特例の対象となる電磁的記録は次のとおりである。
ⅰ 輸出物品販売場を経営する事業者が保存すべき一定の物品が非居住者によって一定の方法により購入されたことを証する電磁的記録(消法8②)
ⅱ 仕入税額控除を受けるために保存すべき適格請求書発行事業者から提供を受けた電子インボイス(所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号。以下「28年改正法」という。)による改正後の消法30⑨二)
ⅲ 適格請求書発行事業者が取引先に提供した電子インボイス(28年改正法による改正後の消法57の4⑤)
ⅳ 承認送信事業者が保存すべき市中輸出物品販売場に提供した購入記録情報(消令18の4②)
ⅴ 仕入税額控除を受けるために保存すべき仕入明細書等及び農協等の媒介者から提供を受けた書類の記載事項に係る電磁的記録(30年改正消令による改正後の消令49⑦)
ⅵ 金又は白金の地金の課税仕入れを行った者が保存すべきその相手方の本人確認書類に係る電磁的記録(消令50②)
ⅶ 適格請求書を媒介者が交付する特例の適用がある場合における当該媒介者が保存すべき電磁的記録(30年改正消令による改正後の消令70の12①後段)
(3)重加算税の特例の不適用
 上記1で述べたとおり電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、それを紙出力することにより作成した書面等で保存している場合には電磁的記録の保存が不要となる措置が電子帳簿保存法及び消費税法((2)の①、③及び④(令和5年10月1日以後はⅰ〜ⅶ)の電磁的記録が対象)ともに講じられていた。
 この出力書面等による保存制度は、令和3年度税制改正における電子帳簿保存法の改正では、税務手続の電子化を進める上での電子取引の重要性に鑑み、他者から受領したデータとの同一性が十分に確保されないことから廃止されたが、消費税法令においては、その保存の有無が税額計算に影響を及ぼすことなどを勘案して、存置することとされた。
 当該措置に基づき紙出力した書面等を保存している場合には、電磁的記録の保存は不要となるため、その保存がなければ本特例が適用されないことは明らかであるが、仮に紙出力した書面等とその電磁的記録がともに保存されている場合には本特例の適用関係が不明確になる。そこで当該措置により電磁的記録につき紙出力した書面等を保存している場合には、本来、電磁的記録の保存は不要であることに鑑み、電磁的記録の保存の有無にかかわらず、本特例が適用されないことが確認的に規定された(消規27の2)。

3 適用関係
 上記の改正は、令和4年1月1日以後に法定申告期限(国税通則法第10条第2項の規定により当該法定申告期限とみなされる期限を含み、同法第61条第1項第2号に規定する還付請求申告書については、当該申告書を提出した日となる。)が到来する消費税について適用される(改正法附則1、12)。したがって、例えば、個人事業者については令和3年の申告分から、法人については10月決算法人の場合の令和3年10月決算期の申告分から、それぞれ適用される場面が生じ得ることとなる。
(注)消費税における還付請求申告書は、申告義務がない消費税法第46条第1項による申告書のほか、同法第45条第1項の納税義務はあるものの、還付となる申告書で期限後申告となるものが含まれる。

二 金又は白金の地金の課税仕入れに係る本人確認書類の見直し

1 改正の背景
 消費税は、国内において事業者が行った課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れ並びに保税地域から引き取る課税貨物について課税することとされている。したがって、課税貨物を輸入する者については、原則として、当該課税貨物の保税地域からの引取りの際、当該課税貨物に係る消費税を納める義務が生じる。
 しかしながら、近年、この輸入に係る消費税を免れる金の密輸が社会的に大きな問題となっている。
 そのような密輸が行われる目的は、消費税を免れて密輸した金を国内の買取業者に対し消費税込みの価格で売却し、その際生じる消費税相当額を不正に稼得しようとするところにあると考えられる。こうした金の密輸は、多くの場合組織的に行われ、また、手口も巧妙化し、その形態が多様化している。
 こうした現状に対して、税関当局は平成29年11月「「ストップ金密輸」緊急対策」(財務省関税局)を策定し、検査の強化、処罰の強化、情報収集及び分析の充実を3つの柱に据え、金の密輸を防止するための緊急かつ抜本的な対策を講じ、対策を進めてきた。
 こうしたことを背景として、平成30年度税制改正において金又は白金の地金(以下「金地金等」という。)の密輸に対する消費税法等における罰金上限額の大幅な引上げが行われ、また、令和元年度税制改正においては、金地金等に係る仕入税額控除について、課税仕入れの相手方の本人確認書類の保存を要件に追加し、その保存がない場合には、その課税仕入れに係る仕入税額控除の適用を認めないこととするとともに、課税仕入れに係る資産が密輸品であることを課税仕入れの時点で課税仕入れを行う事業者が知っていた場合には、その仕入税額控除の適用を認めないこととされた。
 これらの金地金等の密輸に対する累次の改正により一定の効果が見られているところであるが、税務調査において密輸者と買取業者が通謀していると考えられるような事案が見られたこともあり、より一層の密輸抑止を進める必要があった。

2 改正前の制度の概要
 消費税の納付税額の計算に当たっては、課税期間中の課税標準額に対する消費税額から、その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額を控除して行うこととなるが、仕入税額控除の適用を受けるためには、原則として、その課税仕入れ等に関する仕入先等の諸事項が記載された帳簿及び請求書等を保存することが要件とされている(消法30⑦〜⑨)。
 さらに、金地金等に係る仕入税額控除については、課税仕入れの相手方の本人確認書類(電磁的記録を含む。)の保存が必要であり、その保存がない場合には、その課税仕入れに係る仕入税額控除の適用は認められないこととなる(消法30⑪)。
 ここでいう本人確認書類は、課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は本店又は主たる事務所の所在地の記載又は記録のあるものに限られ、課税仕入れの相手方が個人の場合には、その属性に応じ、次のいずれかの書類となる(旧消規15の4①一二)。
① 国内に住所を有する個人 次のいずれかの書類
イ 個人番号カードで課税仕入れの日において有効なものの写し
ロ 住民票の写し又は住民票の記載事項証明書で、課税仕入れの日前1年以内に作成されたもの又はその写し
ハ 戸籍の附票の写し又は印鑑証明書で、課税仕入れの日前1年以内に作成されたもの又はその写し
ニ 国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証又は私立学校教職員共済制度の加入者証の写し
ホ 国民年金手帳、児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書、母子健康手帳、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳又は戦傷病者手帳の写し
ヘ 運転免許証(課税仕入れの日において有効なもの)又は運転経歴証明書の写し
ト 旅券で課税仕入れの日において有効なものの写し
チ 在留カード又は特別永住者証明書で、課税仕入れの日において有効なものの写し
リ 国税若しくは地方税の領収証書、納税証明書若しくは社会保険料の領収証書(領収日付又は発行年月日の記載のあるもので、その日が課税仕入れの日前1年以内のもの)又はこれらの書類の写し
ヌ 上記イからリまでの書類のほか、官公署から発行され、又は発給された書類その他これらに類するもので、課税仕入れの日前1年以内に作成されたもの(有効期間又は有効期限のあるものにあっては、課税仕入れの日に有効なもの)又はその写し
② 国内に住所を有しない個人 上記①ハからヌまでのいずれかの書類

3 改正の内容
 上記1のとおり、金地金等の密輸に関して、これまで累次の税制改正を行ってきたところであり、一定の効果が見られているところであるが、税務調査において密輸者と買取業者が通謀していると考えられるような事案が見られたこともあり、より一層の密輸抑止を進める観点から、令和3年度税制改正においては、「税務調査において不正が強く疑われる事案で利用されている本人確認書類」や税務当局による確認が困難な「外国政府発行の本人確認書類」について、仕入税額控除を適用するために保存が必要とされる本人確認書類から除外する見直しが行われた。
 具体的には、仕入れの相手方が個人である金地金等の課税仕入れに係る上記2①及び②の本人確認書類のうち、①の国内に住所を有する者に係る本人確認書類についてはチのうち在留カードの写しを、②の国内に住所を有しない者に係る本人確認書類についてはトの旅券の写し、チのうち在留カードの写し及びヌのその他これらに類する書類を、その対象から除外することとされた(消規15の4①一二)。

4 適用関係
 上記の改正は、令和3年10月1日以後に国内において事業者が行う課税仕入れについて適用し、同日前に国内において事業者が行った課税仕入れについては、従前の例によることとされている(改正消規附則1一、3)。

三 郵便物として輸出した場合の輸出証明書類の見直し

1 改正前の制度の概要
 消費税は、国内において消費される財貨やサービスに対して税負担を求めていることから、輸出されたことにより、輸出した先の国(国外)で消費される財貨や、国際通信、国際輸送など輸出に類似する取引については、消費税を免除することとしている(以下「輸出免税」という。)。
 輸出免税の対象となる取引は以下の(1)から(5)までに掲げるものがあり、輸出免税の適用を受けるには、一定の事項が記載された書類又は帳簿を整理し保存することにより、(1)から(5)までに該当する取引であることを証明することが必要となる(消法7①②、消規5)。
(1)本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
(2)外国貨物の譲渡又は貸付け
(3)国内及び国内以外の地域にわたって行われる旅客若しくは貨物の輸送又は通信
(4)専ら(3)に規定する輸送の用に供される船舶又は航空機の譲渡若しくは貸付け又は修理
(5)(1)から(4)までに掲げる資産の譲渡等に類するもの
 このうち、(1)の本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付けで、郵便物(関税法第76条の郵便物、すなわち、その価額(FOB価格であり、原則として、当該郵便物の現実の決済金額をいう。)が20万円以下のものに限る。以下同じ。)として当該資産を輸出した場合には、次の帳簿又は書類の保存が求められていた(旧消規5①二)。
① 輸出した事業者により以下の事項について記載された帳簿
 イ 当該資産の輸出の年月日
 ロ 当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額
 ハ 当該郵便物の受取人の氏名又は名称及び住所等
② 郵便物の受取人から交付を受けた物品受領書その他の書類で以下の事項が記載されたもの(以下「物品受領書等」という。)
 イ 当該資産を輸出した事業者の氏名又は名称及び住所等
 ロ 当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額
 ハ 当該郵便物の受取人の氏名又は名称及び住所等
 ニ 当該郵便物の受取りの年月日

2 改正の内容
 上記のとおり、郵便物として資産を輸出した場合には、一定の事項が記載された帳簿又は物品受領書等のどちらかを保存すれば輸出免税の適用を受けることができることから、近年、帳簿へ虚偽の記載をすることで、実際には帳簿に記載された資産を輸出していないにもかかわらず、郵便物として資産を輸出したものとして輸出免税の適用を受けるような事例が散見されている。
 そこで、課税の適正化の観点から、郵便物として資産を輸出した場合の輸出免税の対象となる取引であることの証明として、一定の事項が記載された帳簿の保存ではなく、輸出した郵便物に貼付した発送伝票の控えや日本郵便株式会社から交付を受けた当該郵便物の引受証等の書類の保存を求めることとされた(消規5①二)。
(注)改正前において保存することとされていた帳簿については、別途保存義務が課されている(消法58)ため、改めて輸出免税の適用のための個別の保存義務は課さないこととされた。
 具体的には、次に掲げる郵便物の種類の区分に応じて、それぞれ次の書類の保存が求められることとなる。
① 小包郵便物又はEMS郵便物(以下「小包郵便物等」という。):イ及びロに掲げる書類
 イ 日本郵便株式会社から交付を受けた当該小包郵便物等の引受けを証する書類
 ロ 当該小包郵便物等に貼り付け、又は添付した書類の写しで次に掲げる事項が記載されたもの
  ・当該資産を輸出した事業者の氏名又は名称及び住所等
  ・当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額
  ・当該小包郵便物等の受取人の氏名又は名称及び住所等
  ・日本郵便株式会社による当該小包郵便物等の引受けの年月日
② 通常郵便物:日本郵便株式会社から交付を受けた当該通常郵便物の引受けを証する書類で、当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額を追記したもの
 ここでいう通常郵便物、小包郵便物及びEMS郵便物は、それぞれ万国郵便条約第1条に規定されており、日本においては、日本郵便株式会社の国際郵便約款第9条(国際郵便物)に規定される国際郵便物を指す。該当する郵便サービス及び保存すべき書類は、具体的には次の表のとおりである。

 なお、非課税資産を輸出(以下「非課税輸出」という。)した場合や、国内以外の地域における資産の譲渡等又は自己の使用のために資産を輸出(以下「自己資産輸出等」という。)した場合にも、一定の事項が記載された書類又は帳簿を整理し保存することにより証明されたときは、輸出免税の対象となる取引に該当するものとみなして、仕入税額控除の規定を適用することとされている(消法31①②)が、今般の改正に伴い、郵便物として非課税輸出や自己資産輸出等をした場合の証明書類についても、上記郵便物の輸出の場合と同様、一定の事項を記載した帳簿の保存ではなく、輸出した郵便物に貼付した発送伝票の控えや日本郵便株式会社から交付を受けた当該郵便物の引受証等の書類の保存を求めることとされた(消規16①②)。

3 適用関係
 上記の改正は、令和3年10月1日以後にする輸出として行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は非課税輸出若しくは自己資産輸出等に係る証明について適用し、同日前にした輸出として行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は非課税輸出若しくは自己資産輸出等に係る証明については、従前の例によることとされている(改正消規附則1一、2)。

四 課税売上割合に準ずる割合の適用開始時期の見直し

1 改正前の制度の概要等
 消費税は、原則としてすべての財貨・サービスの国内における販売、提供などがその課税対象とされ、生産、流通、販売などの各段階において、他の事業者や消費者に財貨・サービスの販売、提供などを行う事業者(法人及び個人事業者)を納税義務者として、その売上げに対して課されるものである。
 また、各取引段階において二重、三重に消費税が課されないよう、各事業者の納付税額の計算に当たっては、その前段階で課された消費税額を控除する制度(以下「仕入税額控除制度」という。)となっており、各事業者が申告・納付する消費税額は、原則として、その課税期間中に発生した課税売上げに係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除(以下「仕入税額控除」という。)して計算することになる(消法30)。
 仕入税額控除制度は、このように課税の累積を排除する観点から設けられた制度なので、課税仕入れ等に係る消費税額については、あくまで課税売上げに対応するもののみが仕入税額控除の対象となり、非課税売上げに対応する課税仕入れ等に係る消費税額は仕入税額控除の対象とならないことが原則的な考え方となる。
 そのため、仕入控除税額の計算は、事業全体の売上高に基づく課税売上割合(非課税売上げも含めた売上高全体に占める課税売上高の割合をいう。以下同じ。)を基に行うこととされている。その具体的な計算方法は、次のとおりである(消法30②)。
(注)その課税期間における課税売上高が5億円以下で、かつ、課税売上割合が95%以上の事業者は、この計算を行う必要はなく、課税仕入れに係る税額の全額が控除可能となる。
① 個別対応方式
  課税売上げにのみ要する課税仕入れ等の税額の合計額+課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等の税額の合計額×課税売上割合
② 一括比例配分方式
  その課税期間中の課税仕入れ等の税額の合計額×課税売上割合
 しかし、上記①の個別対応方式を採用する事業者が共通仕入控除税額(課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて算出した仕入控除税額をいう。以下同じ。)を計算する際に用いる課税売上割合について、その事業者の事業の実態を反映していないなどの場合には、その納税地を所轄する税務署長の承認を受けることで、その承認を受けた日の属する課税期間以後の課税期間について、課税売上割合に代えて、課税売上割合に準ずる割合(使用人の数又は従事日数の割合、消費又は使用する資産の価額、使用数量、使用面積の割合その他課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等の性質に応ずる合理的な基準により算出した割合をいう。以下同じ。)を用いて共通仕入控除税額を計算することができることとされている(消法30③)。
 上記のとおり、課税売上割合に準ずる割合については、その承認を受けた日の属する課税期間から用いることができるとされていることから、例えば、土地の販売を事業としていない事業者が、その所有する事業用の土地を課税期間の末日間際に売却することになり、土地の譲渡に伴う売上げ(非課税売上げ)が生じた場合において、課税売上割合に準ずる割合を用いて共通仕入控除税額を計算するため、課税期間の末日までに承認申請書を提出したとしても、適用を受けようとする課税期間の末日までに税務署長の承認を受けることができない事態が生じる、また、税務当局においては承認手続に急を要するなど、納税者・税務当局双方にとって負担が生じる場面があった。

2 改正の内容
 今般、上記のような負担を軽減する観点から、課税売上割合に準ずる割合を用いて共通仕入控除税額を計算しようとする課税期間の末日までに承認申請書の提出があった場合において、当該課税期間の末日の翌日から1月以内に税務署長の承認があったときは、当該課税期間の末日において承認があったものとみなすこととされ、当該課税期間から課税売上割合に準ずる割合を用いることができることとされた(消令47⑥)。

 また、それに伴い、課税売上割合に準ずる割合に係る承認申請書に、課税売上割合に準ずる割合を用いて共通仕入控除税額を計算しようとする最初の課税期間の初日及び末日の年月日を記載することとされた(消規15①三)。
(注)なお、元々、課税売上割合に準ずる割合に係る承認申請書は、提出時期について具体的な制約が定められていない書類として、税務官庁にその書類が到達した時にその効力が生ずるという「到達主義」が適用されていたが、今般の改正を機に、当該承認申請書は、一定の期間又は期日に提出することにより国税に関する法律の適用関係が定まる書類として、「発信主義」が適用されることになった(国税通則法第22条に規定する国税庁長官が定める書類を定める件(平成18年国税庁告示第7号)本則二ロ)。

3 適用関係
 上記の改正は、令和3年4月1日以後に終了する課税期間から適用することとされている(改正消令附則)。

Ⅱ 印紙税関係の改正

一 新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置によりその経営に影響を受けた事業者に対して行う特別貸付けに係る消費貸借契約書の印紙税の非課税措置の延長

1 改正前の制度の概要
 公的貸付機関等又は金融機関が特定事業者(新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置によりその経営に影響を受けた事業者をいう。以下同じ。)に対して新型コロナウイルス感染症等によりその経営に影響を受けたことを条件として他の金銭の貸付けの条件に比し特別に有利な条件で行う特別貸付けに係る消費貸借契約書のうち、特定日として規定された令和3年1月31日までに作成されるものについては、印紙税を課さないこととされていた(新型コロナ税特法11、旧新型コロナ税特令8、新型コロナ税特規6)。
(注1)公的貸付機関等とは、地方公共団体、株式会社日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、独立行政法人中小企業基盤整備機構、独立行政法人福祉医療機構などをいう(新型コロナ税特法11①、新型コロナ税特令8①、新型コロナ税特規6①)。
(注2)金融機関とは、銀行、信用金庫、信用協同組合、労働金庫、信用金庫連合会、協同組合連合会、労働金庫連合会、農業協同組合、農業協同組合連合会、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、農林中央金庫、株式会社商工組合中央金庫及び株式会社日本政策投資銀行をいう(新型コロナ税特法11②、新型コロナ税特令8④)。

2 改正の内容
 本措置については、新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置によりその経営に影響を受ける事業者が未だ多くあり、これを受け、多くの公的貸付機関等及び金融機関が引き続き特定事業者に対する特別貸付制度を存置していることを踏まえ、その適用期限を延長し、令和4年3月31日までの措置とすることとされた(新型コロナ税特令8③)。

3 適用関係
 上記の改正は、令和3年2月1日から施行されている(新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令(令和3年政令第8号)附則)。

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