カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2021年08月09日 SCOPE 東京地裁が監査法人に対する審査会の勧告内容の適否を判断(2021年8月9日号・№893)

審査会の認定は国賠法上「違法」といえず
東京地裁が監査法人に対する審査会の勧告内容の適否を判断


 公認会計士・監査審査会により勧告を受けた監査法人アリアが国に対して国家賠償法に基づき損害賠償金5,000万円超を求めた事件で東京地方裁判所(五十嵐章裕裁判長)は令和3年2月24日、監査法人アリアの請求を棄却する判決を下した。東京地裁は公認会計士・監査審査会の認定が国賠法上違法であるかどうかは、審査会が入手した資料等に基づき、各認定をしたことが不合理であるということができるか否かにより決すべきであるとした上で、すべての認定について違法であるということはできないとの判断を示した(現在控訴中)。
 なお、監査法人アリアが行政事件訴訟法に基づき勧告の公表の差止めを求めた裁判については、審査会による勧告を公表する行為は行訴法3条7項に定める「処分」に該当しないことから、差止めの訴えの対象とはならないという判断を示した上で、同監査法人による訴えは不適法であるとして却下されている(本誌757号参照)。

審査会の勧告では監査法人の運営が著しく不当なものと判断

 公認会計士・監査審査会(以下「審査会」)による監査法人アリア(原告)に対する勧告は、同監査法人の運営が著しく不当なものと認められるとして公認会計士法41条の2に基づき行政処分その他の措置を講ずるよう金融庁長官に対して行われたものである(平成29年6月8日付け)。
 審査会がホームページ上で公表した勧告内容には、監査業務の新規受嘱時の対応において複数の不備が認められ、また、監査の基本的な手続きにおける不備が認められることなどから、同監査法人の運営が著しく不当なものと認められる旨などが記載されていた。
 同監査法人は、当該勧告が真実ではなく原告の名誉及び信用が毀損されたと主張し、国(被告)に対し、不法行為に基づき公表の差止め及び国家賠償法に基づき損害賠償金5,000万円超の支払いを求めていた。

裁判所、審査会が入手した資料等に基づき認定が不合理か判断

 裁判所は、国家賠償法1条1項にいう違法とは公務員が個別の国民に対して負担する職務上の注意義務に違反することをいい、当該公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と行為をしたと認められる事情がある場合に同法1条1項にいう違法との評価を受けると解される(最高裁平成元年(オ)第930号、平成元年(オ)第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)とした。
 その上で本件の争点は勧告に係る審査会の各認定についての違法性を争うものであるから、各認定が違法であるか否かは、審査会が勧告の当時入手し又は合理的な調査活動を行うことによって入手可能であったと考えられる資料に基づき、各認定をしたことが不合理であるということができるか否かにより決すべきであるとした。
 裁判所は、審査会の各認定について検討(参照)。例えば、公認会計士法上、公認会計士と著しい利害関係を有する者の財務書類の監査などの一定業務については制限する規定が設けられているが、審査会による会計事務所やコンサルティング会社との間で独立性の確認を行っていないなどの認定や、監査業務の新規受嘱時の対応において複数の不備が認められるなどの認定についてはすべて不合理とはいえないと判断。同監査法人の請求を棄却している。

【表】主な勧告内容と裁判所の判断

(1)社員等が代表を務める他の法人等に関して独立性の確認を行っていない。
 監査人の独立性に関し、倫理規則13条は監査業務を含む保証業務を提供する「会計事務所等」に対し独立性を要求している。Y事務所は原告の代表社員が代表者として所属する事業体であり、倫理規則にいう会計事務所等に該当するが、原告の社員会では、Y事務所が原告と支配従属関係のないことを全会一致で確認したことを証する社員会議事録を提出したと認められるものの、原告が審査会に対し客観的な資料を提出したと認めるに足りる客観的な証拠はない。
(2)監査業務の新規受嘱時の対応において複数の不備が認められる。
 品質管理基準委員会報告第1号「監査事務所における品質管理」25項3号では、監査事務所に対し、関与先の誠実性を検討し、契約の新規の締結に重要な影響を及ぼす事項がない場合にのみ、関与先との契約の新規の締結に重要な影響を及ぼす事項がない場合にのみ、関与先との契約の新規の締結をできるようにするための方針及び手続の策定を求めている。例えば、G社の新規受嘱では、① G社がクラウンジュエル(敵対的買収に対する対抗措置の1つ。対象会社が自社で最も魅力的な事業部門や資産又は子会社を第三者に譲渡したり、分社化したりすることによって、自社をより魅力のないものにする手段のこと)を行っているのであれば、G社の資産が逸脱している状況にある、②原告はG社の取締役らに対して質問をする前からG 社が1億4,000 万円の投資をしていること及び当該投資の回収可能性について疑問を有していたことなどは、G社の誠実性に関わる事情であることは明らかであり、審査会においてG社の誠実性を損なう事象であるとの認定をしたことが不合理であるとはいえない。
(3)監査業務の実施について、残高確認により入手した回答を検討しないなど監査の基本的な手続における不備が複数認められている。
 原告はS社の監査を行うに際し、重要性の基準値を1,140万円と設定していたが、S社の子会社による2,200万円の借入れについて、S 社の役員が個人として保証をしていたにもかかわらず、S社の有価証券報告書に個人保証がされている旨の記載がない。このことは軽微な過誤であるということはできない。加えて、残高確認手続により入手した回答書にはS社の代表取締役が個人保証をしている旨が明確に記載されていたことが認められる。これらのことを併せ鑑みれば、審査会が過誤を生じさせたのは回答書の検討が不十分であったためである旨の認定をしたことが不合理であるということはできない。

勧告内容の公表方法も問題なし
 なお、勧告内容の公表に関しては、本件勧告は審査会のホームページ上に掲載される方法で公表されていることが認められ、公表の方法が相当性を逸脱したものということはできないと指摘。公表によって原告が受ける不利益をみても、原告の勧告内容を知った顧客等の原告に対する評価に影響を及ぼすとしても、審査会の認定した内容が不合理なものでない限り、看過できない程度のものとは認め難いとした。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索