カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2021年08月30日 第2特集 東京地裁が監査法人脱退時の持分払戻額の算定方法示す(2021年8月30日号・№895)

第2特集
監査法人の財産価額に脱退社員の持分割合で算定
東京地裁が監査法人脱退時の持分払戻額の算定方法示す


 無限責任監査法人の社員であった原告らの脱退した際の持分の払戻しの金額が争われた注目すべき裁判があった。東京地方裁判所(林史高裁判長)は令和3年6月24日、脱退に伴う持分の払戻しについては、脱退時における監査法人の財産価額(脱退時財産額)に、脱退時における脱退社員の持分割合(脱退時持分割合)を乗じることにより算定される額を持分払戻額とするのが相当であるとの判断を示し、原告の元社員の請求を認容した。監査法人側は社員による出資時の出資金額であるなどと主張しており、同事件については控訴されている。

監査法人の定款に持分払戻額の算定方法の定めはなし

 本件は、無限責任監査法人(以下、Y監査法人)の社員であった原告らが同監査法人を平成29年4月に脱退した際の持分払戻額の算定方法などが争われたもの。原告らは、監査法人の持分払戻額は公認会計士法34条の22第1項で準用する会社法611条2項の文言、脱退「の時における監査法人の財産の状況に従って」及び裁判例等から「脱退時財産額×脱退時持分割合」との計算方法で算出され、定款で定めない限り、これと異なる計算方法によることはできないなどと主張した。
 裁判所は、公認会計士法は脱退に伴う持分の払戻しについて、脱退社員と監査法人との間の財産関係の清算という観点から、監査法人の純財産額に占める脱退社員の有する出資による分け前の払戻しを想定しているとの見解を示した。その上で、持分払戻額の算定方法については、脱退時における監査法人の財産の価額(脱退時財産額)に、脱退時における脱退社員の持分割合(脱退時持分割合)を乗じることにより算定される額を持分払戻額とすることを原則としつつ、基本的に監査法人が定款で自律的に定めるところに委ねられているものとした。
 本件では、Y監査法人の定款には損益分配の割合、利益の配当に関する事項、脱退に伴う持分の払戻し及び持分払戻額の算定方法の明確かつ具体的な定めは存しないと認められるため、原告らの脱退に伴う持分の払戻しについては、脱退時における監査法人の財産の価額に、脱退時における脱退社員の持分割合を乗じることにより算定される額を持分払戻額とするのが相当であるとの判断を示した(参照)。
 なお、Y監査法人は原告が脱退した直後に開催した社員会において脱退社員に対する持分の払戻しをその出資時の出資金額の限度とする旨の定款変更を行っている。

監査法人の財産評価はなるべく有利に一括譲渡する場合の価額

 監査法人の社員が監査法人から脱退した場合における持分払戻額については、脱退時における監査法人における監査法人の財産の価額に、脱退時における脱退社員の持分割合を乗じることにより算定される額になるところ、裁判所は、持分計算の基礎となる法人財産の価額の評価は監査法人としての事業の継続を前提とし、なるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額とすべきものと解するのが相当である(最高裁昭和44年(オ)第551号同年12月11日第一小法廷判決・民集23巻12号2447頁参照)と指摘。本件については、平成29年3月末の簿価純資産額がY監査法人としての事業を前提とし、なるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額を上回ることはないものと認められるとし、平成29年3月末の簿価純資産額を原告らの持分払戻額の計算の基礎とするのが相当であるとの判断を示した。被告は、定款及び社員会規程において、監査法人の経営に関する重要な事項などが社員会の決議事項とされていること等を根拠として、定款上、損益の分配や利益配当には社員会の決議が要求されているなどと主張するが、損益の分配や利益の配当は社員会規程に掲げる事項に準ずる業務執行上の重要な事項に該当するとはいえないとした。
 また、裁判所は、脱退時持分割合については監査法人の社員の出資金額及び社員に属する損益を基礎とした持分割合、すなわち、「脱退時の全社員の出資金額+脱退時の全社員に属する損益の額」を分母とし、「脱退時の脱退社員の出資金額+脱退時の脱退社員に属する損益の額」を分子とする比率によることとし、「脱退社員に属する損益」は、社員であった期間中の期ごとに、「当該純損益×当期末での(脱退社員の出資金額/全社員の出資金額(資本金))」との計算式により算定した損益の合計額から、脱退社員の利益配当請求による払戻額を控除した金額とすると解するのが相当であるとした。

監査法人に対する持分払戻請求権に係る遅延損害金に商事法定利率を適用
 裁判では、社員の監査法人に対する持分払戻請求権及び報酬請求に係る遅延損害金に商事法定利率が適用されるかどうかも争点の1つとなっている。
 被告の監査法人側は、監査法人は営利・非営利の中間的性格を有する法人であり、形式的に営業的商行為を行うことをもって「承認」該当性を認めるのは誤りであるなどと主張したが、裁判所は、監査法人が行う財務書類の監査に関する業務は請負の性質を有すると解される監査報告書の提出を主要な目的の1つとしていることからすると、監査法人の行う業務は営利を目的とするものであるというべきであり、監査法人は商法上の商人(商法502条5号、4条1項)に当たるとの見解を示した。その上で、監査法人が社員から出資を受ける行為及び社員との間で業務執行に関する報酬の合意をする行為は、監査法人がその事業のためにする行為であり、附属的商行為(商法503条)に当たり、社員の監査法人に対する持分払戻請求権等は商事法定利率が適用されるとの判断を示している。

【表】主な争点に対する当事者の主張と裁判所の判断
〈持分払戻額の算定方法〉

原告(公認会計士) 被告(監査法人)
 監査法人の持分払戻額は公認会計士法34条の22第1項において準用する会社法611条2項の文言、脱退「の時における監査法人の財産の状況に従って」及び裁判例等から「脱退時財産額(脱退時における監査法人の財産の価額)×脱退時持分割合(脱退時における社員の持分割合)」との計算方法で算出され、定款で定めない限り、これと異なる計算方法によることはできない。  公認会計士法34条の22第1項において準用する会社法611条2項の「財産の状況に従って」の解釈は、広く裁判所の裁量に委ねられている。Y監査法人における脱退社員に対する持分払戻額は、当該社員による出資時の出資金額とするというY監査法人における運用ないし取決めが適用されるべきである。
裁判所の判断
 脱退に伴う持分の払戻しについては、脱退時における監査法人の財産価額(脱退時財産額)に、脱退時における脱退社員の持分割合(脱退時持分割合)を乗じることにより算定される額を持分払戻額とするのが相当である。

〈脱退時財産額の評価方法〉

原告(公認会計士) 被告(監査法人)
 脱退時財産額は、原告らの脱退の時におけるY監査法人の財産を「事業の継続を前提とし、なるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額」によって評価すべきところ、本件では、客観的かつ保守的な評価方法として、原告らの脱退時点に近接した平成29年3月末の簿価純資産額とすべきである。  脱退時持分割合の算定方法を出資金比率とする場合には、脱退時財産額は脱退時の簿価純資産額から全社員の出資金額及び監査法人の継続に必要な内部留保である剰余金部分の80%に相当する額との合計額を控除して算出すべきである。
裁判所の判断
 監査法人の社員が監査法人から脱退した場合における持分払戻額は、脱退時における監査法人における監査法人の財産の価額に、脱退時における脱退社員の持分割合を乗じることにより算定される額になるものというべきであるところ、持分計算の基礎となる法人財産の価額の評価は、監査法人としての事業の継続を前提とし、なるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額とすべきものと解するのが相当である(最高裁昭和44年(オ)第551号同年12月11日第一小法廷判決・民集23巻12号2447頁参照)。本件については、平成29年3月末の簿価純資産額が、監査法人としての事業を前提とし、なるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額を上回ることはないものと認められるから、平成29年3月末の簿価純資産額を原告らの持分払戻額の計算の基礎とするのが相当である。

〈脱退時持分割合の算定方法〉

原告(公認会計士) 被告(監査法人)
 脱退時持分割合は、原則として、脱退時点における各社員の出資金額の合計額のうち、脱退社員の出資金額が占める比率(出資金比率)によるべきである。  脱退時財産額の評価方法を原告主張のとおり簿価純資産額とする場合、脱退時持分割合は、脱退社員の出資時における監査法人の純資産額と当該社員の出資金額との合計額を分母とし、脱退社員の出資金額を分子とする比率(純資産比率)とすべきである。
裁判所の判断
 公認会計士法が、脱退に伴う持分の払戻しについて、脱退社員と監査法人との間の財産関係の清算という観点から、監査法人の純財産に占める脱退社員の有する出資による分け前の払戻しを想定していることに鑑みれば、脱退時持分割合については、監査法人の社員の出資金額及び社員に属する損益を基礎とした持分割合、すなわち、「脱退時の全社員の出資金額+脱退時の全社員に属する損益の額」を分母とし、「脱退時の脱退社員の出資金額+脱退時の脱退社員に属する損益の額」を分子とする比率によることとし、「脱退社員に属する損益」は、社員であった期間中の期ごとに、「当該純損益×当期末での(脱退社員の出資金額/全社員の出資金額(資本金))」との計算式により算定した損益の合計額から、脱退社員の利益配当請求による払戻額を控除した金額とすると解するのが相当である。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索