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解説記事2021年08月30日 特別解説 我が国でも知名度が高い主要な中国企業の概要と監査報告書に記載されたKAM等(2021年8月30日号・№895)

特別解説
我が国でも知名度が高い主要な中国企業の概要と監査報告書に記載されたKAM等

はじめに

 我が国の企業の3月決算の数値が記載された有価証券報告書が提出され、今3月期より強制適用が開始された監査上の主要な検討事項(KAM)も出揃ってきた。新型コロナウイルス感染症(Covid-19)はまだ終息とは程遠いものの、昨年度の決算でよく見られたような、有価証券報告書や第一四半期報告書の提出期限の延長を申請するような企業も今年度は少なく、日本企業の決算や監査は、ようやく平静を取り戻してきたかのように見える。
 本稿ではこれまでに、英国や米国、欧州大陸の企業に加え、IFRSを任意で適用する日本企業や我が国の会計基準を適用する日本企業の決算書、監査報告書の調査分析等を主に行ってきたが、今回はニューヨークや香港、上海証券取引所等に上場している中国企業の決算の状況や監査報告書に記載されているKAMの調査分析等を行うこととしたい(一部、非上場の会社もある)。
 中国や中国企業というと、武漢でのコロナウイルスの発生、尖閣諸島の問題やファーウェイ等の企業に対する米国からの輸入禁止の制裁、といったきな臭い、かつネガティブな話題が我が国では多くなりがちであり、欧米の企業ほど内容が知られていない中国企業を警戒する論調も多く見られるが、その一方で、我が国の市場にしっかりと根を下ろしている中国企業や業績不振に陥った我が国の企業や一部の事業等を買収している中国企業等も数多い。  
 本稿では、英文の決算書を入手できる、我が国でも知名度が高い中国の企業16社を取り上げて、調査分析を実施した。

今回の調査の対象とした中国の企業

 今回の調査の対象とした中国企業16社はのとおりである。なお、売上高と連結純資産の規模を比較するための参考として、我が国を代表する金融機関と製造業である三菱UFJフィナンシャル・グループとトヨタ自動車のデータを併せて掲載している(いずれも2021年3月期のデータである)。

 の数値や後述するKAM等は、すべて各社のウェブサイトに掲載されている英文の年次報告書(アニュアル・レポート)や監査報告書の該当箇所を仮訳したものである。正確な情報を入手されたい方は、各社のウェブサイトを参照していただきたい。

調査対象とした中国企業各社の概要

 以後は、本稿で調査の対象とした中国企業16社について、各社の事業の概要や我が国企業とのつながり、会計監査人や監査報告書に記載されたKAM(CAM)等について述べていくこととしたい。
① 百度(バイドゥ) 創業:2000年 本社:北京市 会計監査人:E&Y
 中国で最大の検索エンジンを提供する会社であり、全世界の検索エンジン市場において、米国のグーグル(Google)に次いで第2位である。インターネットの規制により、中国大陸ではグーグル等は利用できないため、百度が最大のシェアを占めている。中国発の会社であり、また中国を主要市場としているため、「中国のグーグル」と呼ばれることもある。
 設立されてまだ20年少々の若い会社(設立日は2000年1月1日)であるが、売上高1兆7,000億円、連結純資産は3兆円に迫る。中国を代表する企業の一つであると言えるであろう。
 会計監査人は4大法人の一角であるアーンスト・アンド・ヤング(E&Y)であり、E&Yは監査上の重要な事項(CAM)として監査報告書に以下の2項目を記載していた。

(1)代替測定法を使用して会計処理された株式投資の評価
(2)代替測定法を使用して会計処理された持分法投資および持分投資の減損評価

② 阿里巴巴集団(アリババグループ) 創業:1999年 本社:杭州市 会計監査人:PwC
 我が国でも知名度が高いジャック・マー(馬雲)氏が創業した企業であり、企業間電子商取引(B2B)のオンライン・マーケットを運営している。我が国の代表的な投資企業であるソフトバンクにとって、最も成功した投資先とも言われる。
 会計監査人であるPwCは、監査上の重要な事項(CAM)として監査報告書に以下の4項目を記載していた。

(1)デジタルメディアおよびエンターテインメントセグメントの報告単位に割り当てられたのれんの減損の評価
(2)企業結合に関連して取得した無形資産の評価
(3)代替測定の使用を考慮した非公開企業への投資に関連する公正価値の決定
(4)アントグループ(「Ant Group」)への投資

③ 騰訊(テンセント) 創業:1998年 本社:深圳市 会計監査人:PwC
 付加価値サービスとオンライン広告サービスを提供する投資持株会社であり、インターネット関連の子会社を通してソーシャル・ネットワーキング・サービス、インスタントメッセンジャー、ウェブホスティングサービスなどを提供している。また、世界最大級のゲーム会社であり、ハリウッドの映画製作や漫画やアニメ、ゲームの映画化なども手掛けている。
 会計監査人であるPwCは、監査上の主要な検討事項(KAM)として監査報告書に以下の3項目を記載していた。

(1)オンラインゲームの付加価値サービスの提供に関する収益認識−仮想アイテムの寿命の見積り
(2)のれん、関連会社に対する投資、及びジョイントベンチャーの減損の評価
(3)金融商品の公正価値測定

④ 華為(ファーウェイ)テクノロジーズ 創業:1987年 本社:深圳市 会計監査人:KPMG
 世界有数のICTソリューション・プロバイダーであり、通信機器のベンダーである。株式市場への上場はせず、毎年多額の研究開発投資を継続的に行って、その結果多数の特許を保有していることで知られている。人工知能(AI)の監視技術や通信分野の次世代技術第5世代移動通信システム(5G)の実用化で欧米企業に先行していたが、このことによってライバルとなる中国を封じ込めようとする米国のトランプ政権に目を付けられることとなり、ファーウェイ製品の輸出に制限が加えられるようになって業績が悪化した。
 なお、ファーウェイ社の監査報告書には、KAMは記載されていなかった。

⑤ 中国工商銀行 創業:1984年 本社:北京市 会計監査人:KPMG
 国有の商業銀行であり、連結純資産は今回調査対象とした企業のうちで最大の46兆円を誇る。会計監査人であるKPMGは、KAMとして監査報告書に以下の4項目を記載していた。

(1)貸付金と顧客への前渡金に係る予想信用損失引当金
(2)利息の認識と組成された企業の連結
(3)金融商品の公正価値
(4)財務報告に係るITシステムと内部統制

⑥ 小米(シャオミ) 創業:2010年 本社:北京市 会計監査人:PwC
 スマホメーカーから出発したが、その後炊飯器等も製品ラインアップに加え、スマート家電メーカーとして成長を続けている。創業からまだ10年が経過したばかりであり、今回取り上げた中国企業の中では最も若い企業である。会計監査人であるPwCは、KAMとして監査報告書に以下の1項目を記載していた。

(1)純損益を通じて公正価値で測定される長期投資」に分類される非上場有価証券の分類および公正価値の決定

⑦ 海信(ハイセンス) 創業:1969年 本社:青島市 会計監査人:信栄中和
 海信電器と海信科龍電器の2社から構成されるグループで、50年以上の歴史を持つ、テレビの製造販売を中心とする家電メーカーである。東芝のレグザ(REGZA)ブランドで有名なTVS REGZAを子会社に持つ。また、2021年5月に、自動車用エアコンで高いシェアを持ち、経営不振に陥っていた我が国の上場企業であるサンデンホールディングス(株)に出資して子会社化した。
 海信電器の会計監査人である信栄中和は、KAMとして監査報告書に以下の2項目を記載していた。

(1)完成品の価値の下落に備えた引当金
(2)関連当事者との取引及び関連当事者に対する債権

⑧ 海爾(ハイアール) 創業:1984年 本社:青島市 会計監査人:Hexin
 冷蔵庫や洗濯機などの白物家電、テレビ、エアコン、ノートPCなどを製造する大手家電メーカーである。アクア株式会社をはじめとする白物家電を製造・販売するグループ企業は、旧三洋電機から引き継いでいる。また、我が国におけるコインランドリー市場においても高いシェアを持っている。
 海爾の会計監査人であるHexinは、KAMとして監査報告書に以下の3項目を記載していた。

(1)のれんと耐用年数を確定できない無形資産の減損引当金
(2)棚卸資産減損引当金
(3)製品保証

⑨ 中国移動通信(チャイナモバイル) 創業:2000年 本社:北京市 会計監査人:PwC
 中国の移動体通信事業者であり、携帯電話の契約者数が7億6,000万人を超える、世界最大の携帯電話事業者である。
 会計監査人であるPwCは、監査上の重要な事項(CAM)として、以下の2項目を記載していた。

(1)収益認識:個別の履行義務の識別と複数の履行義務への取引価格の配分
(2)関連会社に対する持分の減損の評価

⑩ 中国石油化工(シノペック) 創業:1998年 本社:北京市 会計監査人:PwC
 国営の石油会社であり、次に取り上げるペトロチャイナ及び中国海洋石油集団有限公司とともに、中国三大国有石油会社と称される。売上高は、今回取り上げた16社の中で最も多い33兆円である。
 会計監査人であるPwCは、KAMとして、以下の1項目を記載していた。

(1)石油とガスの製造活動に関連する固定資産の簿価の回復可能性

⑪ 中国石油天然気(ペトロチャイナ) 創業:1999年 本社:北京市 会計監査人:KPMG
 中国国営の石油会社である。同社事業の中核を担う大慶油田(黒竜江省)を中心に原油の生産を行うほか、新疆ウイグル自治区や四川省で油田、天然ガスの探査・開発を実施。また、グループ全体で石油精製、流通、石油化学製品の製造販売を手がけている。売上高はシノペックを若干下回るが、30兆円を超えている。
 会計監査人であるKPMGは、KAMとして以下の1項目を記載していた。

(1)石油及びガス資産の減損の評価

⑫ 聯想集団(レノボ) 創業:1984年 本社:香港 会計監査人:PwC
 香港に本社を置き、米国、北京及びシンガポールにオペレーション・センターを置く大手パソコン(PC)メーカーである。2004年に米IBMのPC部門を買収したほか、2011年にはNECのPC部門、2017年には富士通のPC部門を買収した。
 会計監査人であるPwCは、KAMとして以下の2項目を記載していた。

(1)のれんと耐用年数を確定できない無形資産の減損の評価
(2)繰延税金資産の認識

⑬ 恒大集団(エバーグランデ・グループ) 創業:1996年 本社:深圳市 会計監査人:PwC
 中国本土で不動産事業を幅広く展開する企業であり、売上高では中国の国内で2位の不動産開発会社とされている。2010年にプロサッカークラブの「広州足球倶楽部」を傘下に収め、「広州恒大足球倶楽部」として中国サッカー・スーパーリーグ7連覇とAFCチャンピオンズリーグを2度制覇するアジア屈指のビッグクラブに成長させた。アジアのサッカーファンの間では特に知名度が高い企業であろう。
 会計監査人であるPwCは、KAMとして以下の3項目を記載していた。

(1)開発中の不動産及び売却目的で保有する完成した不動産の正味実現可能価額の評価
(2)投資不動産の公正価値
(3)新エネルギー乗用車ビジネスに関するのれんと無形資産の減損の評価

 なお、2020年9月に、恒大集団がデフォルト(債務不履行)の可能性について中国当局に警告したとの報道がなされた。ロイター社による報道によると、同社は資金調達を急いでおり、8月以降、子会社株の売却で30億ドルを調達したほか、売上を増やすため、不動産物件を30%値引きしたとのことであった。上記のKAMの(1)は、このような動きを反映して記載されたのかもしれない。

⑭ 中国農業銀行 創業:1955年 本社:北京市 会計監査人:PwC
 ⑤で取り上げた中国工商銀行などと並び、中国四大商業銀行の一角を形成するとされる大手銀行である。
 会計監査人であるPwCは、KAMとして以下の2項目を記載していた。

(1)貸付金と顧客への前渡金に係る予想信用損失の測定
(2)組成された企業の連結

⑮ 美的集団(ミデア・グループ) 創業:1968年 本社:仏山市(広東省) 会計監査人:PwC
 エアコン、電子レンジ、冷蔵庫などの生活家電を製造販売する大手家電メーカーグループである。2016年には東芝の白物家電事業を買収した。
 会計監査人であるPwCは、KAMとして以下の2項目を記載していた。

(1)暖房及び換気装置、エアコン並びに消費者家電からの収益認識
(2)のれんの減損テスト

⑯ 中国平安保険 創業:1988年 本社:深圳市 会計監査人:PwC
 中国の四大保険会社の一つで、配下に平安銀行も持ち、不動産管理も重要な業務とする総合金融サービス企業集団である。
 会計監査人であるPwCは、KAMとして以下の3項目を記載していた。

(1)償却原価で評価する金融資産の分類
(2)貸付金、顧客への前渡金及び償却原価で評価する金融資産の減損の評価
(3)長期の生命保険契約者準備金の評価と損害補償準備金の評価

終わりに

 本稿では主要な中国企業16社の概要やKAMの内容等を見てきたが、今回取り上げた16社のうち、10社の会計監査人をPwCが務めていた。このほかKPMGが3社、E&Yが1社で、Deloitteはなかった(このほか、4大法人以外の監査法人が2社)。
 なお、本稿で取り上げた主要な中国企業についての記載をするにあたり、各社の英文の年次報告書(アニュアル・レポート)に加えて、各社の概要(会計や監査に関係しない部分)や設立年、本社の所在地等の項目については、Wikipedia等の記載を参考にした。
 今回取り上げた16社は、いずれも中国のみならず、世界を代表すると言ってもよい大企業ばかりであるが、国有の金融機関や家電メーカー等を除くと、2000年以降に設立された若い企業が揃っている。最近は老化や国力の衰えが著しいとされる我が国や企業に比べて、中国という国家や中国社会の活力や変化の速さを雄弁に物語っていると言えよう。

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