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解説記事2021年12月13日 ニュース特集 令和4年度 法人関係の注目改正の全容(2021年12月13日号・№910)

ニュース特集
賃上げ税制、電帳法再改正、買収プレミアム問題、ドローン節税…etc.
令和4年度 法人関係の注目改正の全容


 10月の衆議院議員選挙の影響を回避するため、令和4年度税制改正では、各省庁からの改正要望項目は例年の6割程度に絞り込まれたが、フタを開ければ、実務的にも決して影響の小さくない改正が並んだ。
 岸田政権肝入りの「成長と分配」政策の一環に位置付けられる賃上げ税制については、大企業の場合、継続雇用者ベースで3%の賃上げを制度適用の前提としつつ、4%の賃上げを実現した場合には3%の場合よりも高い控除率を設定、さらに教育訓練費要件もクリアした場合には控除率が最大30%(中小企業は最大40%)となる。賞与等の一時金の支給も「賃上げ」に含められることとされたが、その代わりに、資本金10億円以上等の企業に対しては“賃上げ宣言”を行うことを適用要件として求める。
 また、改正電子帳簿保存法(以下、電帳法)に対応するためのシステムの構築・稼働が追い付かないといった企業側の切実な声を踏まえ、改正電帳法が施行される来年1月1日から2年間、「やむを得ない事情」がある場合には、従前と同様、「紙」による保存を可能とする旨の宥恕規定を明文で設ける。同じくデジタル化関係の改正として、税務調査における日常的なウェブ会議やe-mailの活用、FAX使用の縮減といった納税者のニーズへの対応を検討課題として位置づける。
 令和4年度税制改正でサプライズとなったのが、投資簿価修正の“買収プレミアム問題”への手当てだ。組織再編税制における分割との整合性の観点から実現は困難と見られていたが、買収プレミアム問題に対し何ら手当てを行わないと企業の機動的な事業再編の足かせとなり、弊害が大きいとの判断から当初の方針を転換した。
 このほか近年、一部事業者の間で“流行”しているドローンを使った節税スキームが封じ込められる。具体的には、少額減価償却資産・一括償却資産から「貸付けの用に供した資産」を原則として除外する。本特集では、法人関係の注目改正の全容をどこよりも早くお伝えする。

賃上げ税制

賃上げ+教育訓練費要件クリアで控除率は最大40%に

 令和4年度税制改正の目玉となったのが、岸田政権肝入りの「成長と分配」政策の一環に位置付けられる賃上げ税制だ。
 賃上げ税制は継続雇用者(中小企業は雇用者全体)の給与総額の増加に着目し、かつ、給与総額に賞与等の一時金も含むものとする。また、控除率を乗じる対象は非正規を含む雇用者全体の給与総額の対前年度増加額となる。教育訓練費を前年度より一定程度増加させた企業には控除率を上乗せする。以上から分かる通り、新しい賃上げ税制は、平成30年度税制改正により導入され、令和3年度税制改正で縮減されるまで存続した「賃上げ・生産性向上に係る税制」(旧賃上げ税制)との比較においても、国内設備投資要件がないことを除き、基本構造がかなり類似していると言える。
 控除率は最大30%(中小企業は40%)となる。旧賃上げ税制と同様、3%(中小企業は1.5%)の賃上げを制度適用の前提としつつ(控除率15%)、4%(中小企業は2.5%)の賃上げを実現した場合には控除率を10%(中小企業は15%)上乗せ、教育訓練費要件(大企業は対前年度20%、中小企業は10%増)をクリアした場合には控除率5%(中小企業は10%)を追加的に上乗せ、最大であわせて30%(中小企業は40%)となる。

賞与等の一時金も対象とする代わりに、“賃上げ宣言”が適用要件に

 企業の間では、賞与等が対象となるのかどうかに関心が集まっていたが、政府・与党内には、企業が現預金や内部留保を増加させていることへの不満が募っており、賃上げ税制において一過性の性格が強い賞与等の一時金を含めることには懐疑的な意見も多かった。しかし、最終的には岸田総理の「成長と分配」政策の目玉ということを踏まえ、賞与等の一時金も対象とすることで決着、その代わりに、マルチステークホルダーに配慮した経営方針(給与等の支給額の引き上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針等)を宣言した企業を適用対象とすることとした。
 もっとも、本来、賃上げするかどうかは各社の経営判断によるものであり、さらに言えば、労使交渉を経ることなく経営側が一方的に表明するものでもない。そこで、宣言すること自体が社会的に要請される下請け企業との共存共栄等を目指した「パートナーシップ構築宣言」とは異なり、あくまでも賃上げ税制の適用を希望する企業が、要件の一部として宣言を行うものと位置付ける。対象企業として資本金10億円以上かつ常時使用する従業員の数1,000人以上との要件が設定される。法人税の世界では資本金1億円を境に大企業と中小企業を切り分けているが、バーを上げることで「中堅」企業への影響を緩和する。

賃上げ後押しへムチ税制の発動要件が厳格化、欠損金の控除特例廃止も

 賃上げの後押し等の観点から、特定税額控除規定の不適用措置、いわゆるムチ税制の見直しも実施される。具体的には、資本金合わせて10億円以上かつ常時使用する従業員の数1,000人以上の企業であって、前期黒字法人の場合には、継続雇用者の給与等支給額の「対前年度以下」要件が一部厳格化され、令和4年度は対前年度0.5%以上、令和5年度は対前年度1%以上の増加が必要となる。ただし、国内設備投資額要件は改正されないため、実際にムチ税制が頻繁に発動されることは想定しにくい。「前期黒字法人の場合には」とあることから、前期赤字の法人は、今回の要件厳格化は関係なく、従前のムチ税制適用ということになる。また、課税ベースの拡大も検討課題となる。具体的には、令和3年度改正で導入された欠損金の控除上限の特例を、経過措置を講じた上で令和5年度改正で廃止することを検討する。

電子帳簿保存法の再改正、税務調査のデジタル化

「紙」保存を可能とする電帳法宥恕規定、「やむを得ない事情」の内容に注目

 令和3年度税制改正で実施された電帳法の改正では、出力書面の保存をもって電子取引データに代えることができるという従来の取扱いが廃止されたが(本誌868号21頁参照)、新しい検索要件等に基づくシステムの構築・稼働が追い付かないといった企業側の切実な声を踏まえた対応が図られる。
 具体的には、改正電帳法は予定通り来年1月1日から施行しつつ、同日から2年間、「やむを得ない事情」がある場合には、従前と同様、出力書面による保存を可能とする旨の宥恕規定を明文で設ける。電帳法施行規則4条3項等の改正が念頭に置かれていることが本誌の取材により判明している。年内に電帳法施行規則を改正し、来年1月1日に間に合わせるという異例の対応がとられる。
 これまで突貫で準備を行ってきた企業にとっては間違いなく朗報と言えよう。今後焦点となるのは、「やむを得ない事情」等の詳細が施行規則や通達Q&A等で具体的にどのように明示されるかということだ。財務省・国税庁による大綱公表後のスピーディーな情報提供が期待される。
 なお、一部報道で、電子帳簿保存法の電子取引のデータ保存に係る2年間の宥恕規定の適用を受ける際に税務署への事前手続きが必要との解説が見られたが、事前手続きは必要ないことが本誌取材により確認されている。

税務調査のデジタル化は可能なものから順次対応を検討

 また、コロナ禍で社会全体にDXの機運が高まる中、税務調査においても日常的なウェブ会議やe-mailの活用、FAX使用の縮減を進めるべきといった納税者のニーズへの対応が検討課題として位置づけられた。
 制度改正を要するもの、運用の改善で対応するもの等の振り分けが必要であるため、今後の課題として認識した上で、可能なものから順次実現を目指すとともに、令和5年度改正以降の議論にも繋げる方向。その際、税務調査のデジタル化の一環で、税務調査に関連する各種通知の電子化も検討する。

買収プレミアム問題、完全子法人株式等の配当

買収プレミアムを“資産調整勘定”的に定義し、離脱時の譲渡原価に加算

 令和4年度税制改正でサプライズとなったのが、本誌でも指摘してきた(842号4頁、898号7頁参照)投資簿価修正の買収プレミアム問題への対応を図るための改正の実現が決まったことだ。
 投資簿価修正の買収プレミアム問題とは、グループ離脱時の通算子法人株式の簿価が当該通算子法人の簿価純資産価額とされることで、当該通算子法人に係る買収プレミアムが離脱時の株式の譲渡原価に算入できず、譲渡損の過少計上または譲渡益の過大計上が生じるというもの。
 令和4年度税制改正では、買収プレミアムを、非適格合併の場合における資産調整勘定のようなものと定義した上で、通算子法人となるべき法人の買収時に認識・測定し、グループ加入後、それを離脱時まで記録し、離脱時の譲渡原価に加算できることとする。

「課税適正化措置」も別途検討、既存の連結子法人への適用可否にも注目

 経済産業省も8月末の税制改正要望で「組織再編税制との整合性等を踏まえ、中期的に必要な検討を行う」と、組織再編税制に言及しているように、グループからの離脱を分割との比較で考えれば、離脱通算子法人の株式の帳簿価額を当該通算子法人の簿価純資産価額と揃えるということには一定の合理性があるだけに、単純に買収プレミアムについて面倒を見るべき(離脱時に譲渡原価に加算すべき)という主張では通らないとの見方も根強かった。買収プレミアムを「資産調整勘定」的に定義をしたのは、「組織再編税制との整合性」を意識した設計と言えるだろう。
 政府内には、この買収プレミアム問題に対し何ら手当てを行わないと企業の機動的な事業再編の足かせとなり、弊害が大きいとの判断があったようだが、上記の通り元々は改正の実現を疑問視する声もあった中、納税者有利の措置とは別に、「課税適正化措置」も別途講じられる見込み。
 また、企業側からは、これからグループに加入する子法人のみならず、既存の連結子法人についても適用が可能なのかなど、経過措置の有無にも関心が集まりそうだ。

完全子法人(関連法人)株式等の配当の源泉徴収が(一部)不要に

 このほか、完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収が不適用とされることも決まった。税制改正大綱とりまとめ前には関連法人株式等の配当の取り扱いにも注目が集まっていたが、こちらも持株割合からして明らかに関連法人株式等に該当する場合などを念頭に、部分的に源泉徴収が不要とされる。
 なお、源泉徴収廃止による税収インパクトが一時的にせよ大きいため、影響緩和策を令和5年度改正で検討することとなる。

“ドローン節税”封じ込め措置

少額減価償却資産・一括償却資産から貸付用資産を除外

 税法上、少額の減価償却資産については、原則的な償却方法の例外措置として、(1)減価償却資産で使用可能期間が1年未満のもの又は取得価額が10万円未満のものについては、その取得価額を事業供用事業年度において損金経理を条件に損金算入を認める「少額の減価償却資産の取得価額の損金算入」(法令133等)(2)減価償却資産で取得価額が20万円未満のものを事業の用に供した場合、その全部又は特定の一部を一括したものの取得価額を3年で均等償却する「一括償却資産の損金算入」(法令133の2等)が講じられている。
 令和4年度税制改正では、これらの制度の「適正化」が行われることとなった。その対象となるのが、ドローンを使った節税スキームだ。
 一部の事業者は、本業とは関係なく低額のドローンを購入し、上記(1)(2)の措置により早期又は一括での減価償却費の損金算入メリットを享受しつつ、当該ドローンを貸し付けることによって複数事業年度に渡りレンタル料を収受するという節税兼資産運用を行っているが、税務当局はこれを看過できないと判断。今後は(1)(2)の対象資産から「貸付けの用に供した資産」を除外する。ただし、リース会社が本業のリース事業として貸付けを行う場合など、「主要な事業」として貸付けが行われる場合には本規制の対象外とされる。
 なお、既に中小企業投資促進税制では、貸付け用の資産は原則として適用対象外とされている(措法42の6①)。

通常事業活動への影響は最小化も、「主要な事業」への該当性判断必要に

 この節税スキーム封じに伴い懸念されるのが、租税回避の意図がない貸付けへの影響だ。
 例えば、コスト削減及び事務の効率化の観点から親会社が一括で少額のPC/スマートフォン等を購入の上、グループ会社に貸与するケースがある。上記の通り、リース会社が本業のリース事業として貸付けを行う場合などは本規制の対象外となるが、仮に親会社が自動車メーカーだとすると、リース会社ではない以上、当該貸付けが「主要な事業」に係るものと言えるかは微妙なところだろう。
 しかし、このような租税回避の意図がない、ビジネス上の理由に基づく貸付けまで本規制の対象にされるとなれば、通常の事業活動に支障をきたすことになる。例えばこれまで(2)により20万円未満の大量のPC/スマホを一括で3年均等償却してきた企業では、今後は一のPC/スマホごとに償却費の計算を行わなければならず、事務負担が大幅に増える上に、購入初年度の税負担も増加する可能性がある。この点、本誌の取材によると、本規制はドローン節税を封じつつ、通常の事業活動への影響を最小化する方向で制度設計が行われる模様。とはいえ、ドローン節税とは無縁の企業からすると、本規制の導入に伴い「主要な事業」への該当性の判断という事務処理がひと手間増えるだけであり、とんだ迷惑ということになる。
 なお、地方税法上、少額減価償却資産や一括償却資産に該当する場合、当該資産は固定資産税における償却資産の定義から除外されるため(地法341四、地令49)、今回の改正により少額減価償却資産や一括償却資産に該当しなくなる資産については固定資産税が課税される可能性がある。今後、地方税の取扱いも確認する必要があろう。

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