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解説記事2022年01月24日 特別解説 我が国の主要な企業の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)③(2022年1月24日号・№915)

特別解説
我が国の主要な企業の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)③


 本稿では、頻繁に目にするような項目ではないが、我が国の企業の監査報告書に記載されたKAMのうち、特徴的なものを紹介することとしたい。
 具体的には、下記の5社の監査報告書に記載されたKAMを紹介することとする。

① 東急「新型コロナウイルス感染症拡大が財務報告に与える影響」
② 東京電力ホールディングス「福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失に係る引当金」
③ シャープ「連結子会社における不適切な会計処理」
④ マネックスグループ「コインチェック株式会社が保管する暗号資産の実在性の検証」
⑤ ディー・エヌ・エー「プロ野球事業に係るのれんの評価」

① 東急
会計監査人:EY新日本有限責任監査法人
【新型コロナウイルス感染症拡大が財務報告に与える影響】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

 会社及び関係会社は、交通、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートの各セグメントで多様な事業を展開している。
 新型コロナウイルス感染症拡大によって政府から発令された緊急事態宣言や自治体からの外出自粛要請、各国の入国制限措置等に伴う消費需要の低下や利用の減少等により、会社及び関係会社の事業に広範な影響が生じている。
 このような新型コロナウイルス感染症拡大を巡る状況は、会計上の見積り(固定資産の減損や関係会社株式等の評価等)や表示及び開示(損益計算書における表示区分や重要な会計上の見積り注記等)の妥当性(財務諸表注記(重要な会計上の見積り)参照)等、当事業年度の財務報告及び会計監査に様々な影響を及ぼしている。
 また、各事業によって、新型コロナウイルス感染症が事業活動に与える影響の程度や範囲は大きく異なる。このため、収束時期等の仮定に応じた会計上の見積りにおける営業収益の回復等の予測も異なることから、仮定等の多様性による検討の複雑性や見積りの不確実性が高くなっている。
 したがって、当該事項は監査上の主要な検討事項に該当すると判断した。

 当監査法人は、主として以下の監査手続を実施した。
・新型コロナウイルス感染症が事業活動、財務報告及び会計監査に与える影響の範囲や程度、収束時期等の仮定を把握するため、会社及び関係会社における、経営者への質問及び議論の実施、会議体議事録の閲覧、財務諸表の分析、経営者によって承認された事業計画や設備投資計画等の将来計画を閲覧した。
・会計上の見積り(固定資産の減損や関係会社株式等の評価等)の前提となる収束時期等の仮定について、足元の状況や中長期的な見通しを反映していることを確かめるため、経営者への質問を実施し、また、利用可能な外部の情報源に基づく客観性のある情報に基づき検討した。
・会計上の見積りにおける将来の営業収益等の予測を分析し、上記で検討した収束時期等の仮定との整合性を検討した。これにより、経営者の偏向が存在しないかを検討した。
・損益計算書における表示区分の検討にあたり、新型コロナウイルス感染症との直接的な関連性及び臨時性を評価するため、会社担当者への質問、会議体議事録の閲覧、関連証憑の閲覧を実施し、検討した。
・重要な会計上の見積り注記において記載されている、新型コロナウイルス感染症の収束時期等の一定の仮定について、会計上の見積りに利用された仮定との一貫性を検討した。

② 東京電力ホールディングス
会計監査人:EY新日本有限責任監査法人
【福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失に係る引当金】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応

 会社は、注記事項「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」、「重要な会計上の見積り」に記載されているとおり、福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失として「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下、「中長期ロードマップ」)及び「廃炉中長期実行プラン」に基づき連結貸借対照表に災害損失引当金を488,443百万円、特定原子力施設炉心等除去引当金を170,369百万円計上している。
 福島第一原子力発電所の廃炉は過去に実例のない困難な取り組みであり、廃炉中長期実行プランに基づく費用の見積り及び海外原子力発電所の事故における費用実績額に基づく概算額で計上している廃炉費用の見積りは変動する可能性があるものの、会社は以下のとおり現時点で入手可能な情報に基づき合理的な見積りが可能な範囲における概算額を計上している。
(1)通常の見積りが可能なもの
 会社は、2021年3月25日に公表した廃炉中長期実行プランでは、廃炉の主要な作業プロセスを提示した。当連結会計年度末においては、これに基づき個々の対策に要する費用の見積りを行っている。ただし、必要となる対策にはこれから具体的な検討が行われるものも多い。このため、当該対策に必要となる費用又は損失の見積りについては、主として現在進められている国や他の機関による研究の状況や実施内容が類似する過去の作業内容に基づく重要な仮定を含んでおり、現時点における経営者の判断及び仮定に依存する。
(2)通常の見積りが困難なもの
 工事や作業の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難な費用又は損失については、海外原子力発電事故における実績額に基づく見積額を計上している。当該見積りは廃炉に必要となる作業の種類、範囲及び量は発電機の基数に比例するという重要な仮定に基づいており、経営者による判断に依存し、不確実性を含んでいる。
 当監査法人は、これらの費用又は損失の見積りにおける経営者の判断の重要性及び金額の重要性から、当該事項を監査上の主要な検討事項と判断した。

 当監査法人は、この監査上の主要な検討事項に対応するため、主として以下の監査手続を実施した。
(1)内部統制の評価
・災害損失引当金及び特定原子力施設炉心等除去引当金の見積りに関連する内部統制の理解、整備状況及び運用状況を評価した。
(2)通常の見積りが可能なものの評価
・災害損失引当金の網羅性を評価するため、中長期ロードマップの進捗状況、具体的な対策の検討状況や当該対策に基づく見積りの可否、変動リスクについて経営者及び外部機関と協議した。加えて、廃炉中長期実行プランの詳細工程表と引当金算定資料を入手し、計上範囲の整合性を検討した。
・個々の対策に要する費用の見積額を評価するため、金額的重要性に基づき抽出したサンプルについて契約書や設計予算書を閲覧した。
・災害損失の見積りプロセスを評価するため、事前の見積額と確定額又は再見積額との比較を行った。
・炉心等除去引当金に計上された金額を評価するため、廃炉等積立金の取戻し計画と照合した。
(3)通常の見積りが困難なものの評価
・具体的な対策に基づく見積りの可否及び重要な仮定の見直しの要否を評価するため、現時点における燃料取り出しのための対策工事の検討状況について経営者及び外部機関と協議した。

③ シャープ
会計監査人:PwCあらた監査法人
【連結子会社における不適切な会計処理】

 2020年度中に、シャープの連結子会社であるカンタツ(株)及びその子会社において顧客である商社からの注文がなく、出荷の事実も認められない架空売上や、商社が第三者へ転売できない場合は返品が出来る等の特約が付されているため、転売がなされた時点で売上計上すべき状況であるにもかかわらず、売上を商社への出荷時点で計上する等の不適切な会計処理が行われていたことが判明し、第三者を含む調査委員会による調査が行われて報告書が提出された。シャープの会計監査人であるPwCあらた監査法人は、この連結子会社における不適切な会計処理を、KAMとして監査報告書に記載した。
 ここでは、紙幅の関係上、監査上の対応のみを紹介する。

 当監査法人は、カンタツグループによる不適切な会計処理が網羅的に把握され、適切に訂正等の処理がなされているかどうかを確かめるため、主に以下の監査手続を行った。
−不適切な会計処理が網羅的に把握されているかどうかを確かめるため、不正調査の専門家の協力を得て、調査委員会の作成した調査報告書の信頼性を下記のような観点で検討した。
 ・調査委員会のメンバーの能力
 ・調査委員会の経営者からの独立性(業務の客観性)
 ・調査委員会が行った調査の範囲、実施した手続、調査結果、結論及びその根拠
−関連する内部統制の整備及び運用状況を把握し、会社により内部統制の不備が適切に識別されていることを確認した。
−会社により行われたカンタツグループにおける過年度の不適切な会計処理の訂正、関連する棚卸資産の評価損の計上、固定資産の減損の計上、会社の過年度の連結決算において重要性がないため訂正を行っていなかった他の未修正事項の訂正等の訂正仕訳を入手し、調査委員会による調査結果に基づき必要な訂正処理が網羅的かつ正確に行われていることを確認するとともに、過年度及び当年度の有価証券報告書等の訂正報告書に正確に反映されていることを確認した。
  また、過年度の訂正連結財務諸表等及び当年度の連結財務諸表の監査において類似の不適切な会計処理による重要な虚偽表示が存在していないことを確認するため、グループ監査の範囲を見直し、カンタツグループを重要な構成単位とし、特定の監査手続を計画するとともに、以下の手続を行った。
−カンタツグループでは、全社的な内部統制及び全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセス並びに業務プロセスに関する内部統制の重要な不備が期末日時点で存在していることから、財務情報について重要な虚偽表示の発生している可能性のある領域が重要な商社向け取引以外にないことを確認するため、趨勢分析や仕訳、勘定明細の通査等の追加的な手続を実施した。
−会社のグループ会社管理に関する内部統制の重要な不備が期末日時点で存在していることから、グループ監査手続のさらなる追加の必要がないことを確認するため、当該影響を受ける可能性のあるその他のグループ会社の財務情報について、趨勢分析や売掛金、たな卸資産の滞留状況の査閲等の追加的な手続を実施した。
−カンタツグループの重要な商社向け売上取引について、想定される不正の態様に直接対応した主に以下の監査手続を行った。
 ・商社からの注文のない売上計上がなされていないことを確認するため、取引先に対して取引高を確認した。
 ・商社との買戻条件付取引について、売上計上要件を充足していることを確認するため、取引先に対して契約条件及び買戻義務残高を確認した。
 ・期末棚卸実施時に棚卸対象から除外された未出荷品等がないことを確認するため、主要な棚卸資産保管場所を視察した。

④ マネックスグループ
会計監査人:有限責任あずさ監査法人
【コインチェック株式会社が保管する暗号資産の実在性の検証】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

 マネックスグループ株式会社の子会社であるコインチェック株式会社が保管する暗号資産のうち、30,910百万円(資産合計の2.21%に相当)が連結貸借対照表の棚卸資産に含まれており、385,578百万円が連結財務諸表注記「18.棚卸資産」の利用者から預託された暗号資産の年度末の残高の注記額に含まれている。
 暗号資産交換業を営むコインチェック株式会社は、多額の暗号資産を保管しており、同社が管理する電子ウォレットにおいて顧客の暗号資産の預託を受けている。コインチェック株式会社は、権限のない第三者から電子ウォレットが不正アクセスを受けるリスクを軽減する等の目的でサイバーセキュリティ対策を講じているものの、仮に、不正アクセスが行われ、これらの電子ウォレットで管理される暗号資産が消失した場合、マネックスグループ株式会社の経営成績及び財政状態に重大な影響を与える可能性がある。
 また、暗号資産の消失時に、コインチェック株式会社の暗号資産残高データの改竄が同時に行われた場合、発覚が遅れ、結果として、重要な虚偽表示が生じる可能性がある。
 以上から、当監査法人は、コインチェック株式会社が保管する暗号資産の実在性の検証が、当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該当すると判断した。

 当監査法人は、コインチェック株式会社が保管する暗号資産の実在性を検証するため、主に以下の監査手続を実施した。
(1)内部統制の評価
 経営者に対する質問及び関連資料の閲覧を行い、暗号資産の実在性に関連する内部統制の整備・運用状況の有効性を評価した。評価にあたっては、特に以下に焦点を当てた。
・コインチェック株式会社が保有する暗号資産関連システムに対するアクセス管理及び同システムへの操作ログをモニタリングする統制
・コインチェック株式会社が保管する暗号資産の帳簿残高とブロックチェーン及び外部預託先の残高とを照合する統制
(2)暗号資産の実在性の検証手続
 コインチェック株式会社が保管する暗号資産の実在性を検証するため、主に以下の監査手続を実施した。
・コインチェック株式会社が管理するアドレスの暗号資産残高とブロックチェーンから入手したトランザクション情報との照合
・ブロックチェーンから入手したトランザクション情報を踏まえたコインチェック株式会社が管理するアドレスにおける取引パターンの分析を通じた不正送金の有無の検討
・外部預託の暗号資産に関する預託先に対する残高確認の実施
・コインチェック株式会社が保有する暗号資産関連システムへの操作ログ及び承認履歴の分析による、未承認の秘密鍵へのアクセスや暗号資産残高データの修正の有無の検討

⑤ ディー・エヌ・エー
会計監査人:EY新日本有限責任監査法人
【プロ野球事業に係るのれんの評価】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応

 連結財務諸表注記10.に記載されているとおり、会社は、2021年3月31日現在、連結財政状態計算書上、スポーツ事業に含まれるプロ野球事業に係るのれんを5,883百万円計上している。また、連結財務諸表注記10に、のれんの減損テストで用いた仮定を開示している。
 会社は、減損テストを実施するにあたり、プロ野球事業の回収可能価額を売却費用控除後の公正価値により算定している。公正価値は、プロ野球事業から生じる将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて算定しており、将来キャッシュ・フローは、主として経営者が承認した事業計画、及び事業計画の期間経過後の成長率についての仮定を反映して算定している。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う影響については、プロ野球公式戦の観客動員数制限の影響を考慮し、将来キャッシュ・フローの見積りに含めている。
 プロ野球事業に係るのれんの評価は、経営者によるプロ野球事業の回収可能価額の見積りに基づいて判定されており、その基礎となる事業計画は、経営者の判断を伴う主要な仮定であるチケット販売に係る売上収益により影響を受けるものであるため、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。

 当監査法人は、会社が実施したのれんの減損テストを検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。
・プロ野球事業から生じる将来キャッシュ・フローに関する将来のチケット販売に係る売上収益の検討に当たって、当該算定及び検討に用いる将来事業計画と経営者により承認された事業計画との整合性を検討した。
・外部機関が公表している野球場の入場者制限情報と事業計画上の観客動員数を比較した。
・新型コロナウイルス感染症の影響について、収束時期やプロ野球の開催方法について経営者に質問した。
・過年度の事業計画とこれまでの実績を比較・分析することにより、過年度の計画の達成状況を検討した。
・公正価値の評価方法及び割引率並びに事業計画の期間経過後の成長率について、当監査法人のネットワーク・ファームの評価専門家を関与させ、評価方法及び算定基礎として利用された外部データの信頼性と計算の正確性を検証した。

終わりに

 これまで3回に分けて、我が国の主要な企業の監査報告書に記載された監査上の主要な検討事項(KAM)を紹介した。我が国の場合、KAMの導入初年度に新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大が重なったため、KAMにおいてCovid-19による影響に言及する例が多く見られた。今後、3月決算以外の日本企業の監査報告書についてもKAMの記載が順次義務付けられてゆくが、今後も引き続き動向を注視するとともに、適宜開示例を紹介していきたい。

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