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解説記事2022年02月07日 SCOPE 東京地裁、職業活動の中心は国外でも「住所」は国内と判断(2022年2月7日号・№917)

「住所」の内外判定、令和元年判決との違いは
東京地裁、職業活動の中心は国外でも「住所」は国内と判断


 所得税法上の「住所」の判定については、納税者が勝訴した令和元年5月30日東京地裁判決(令和元年11月27日高裁判決で確定)が注目を集めたところだが(本誌799号、814号)、東京地裁民事2部は令和3年11月25日、同様の争点の事件で、原告の職業活動の中心は国外にあると認定したものの、日本における滞在期間等から、原告の生活の本拠である「住所」は日本国内にあるとして、納税者の請求を棄却した。本稿では、両判決が異なる結論となった理由を、判示内容の比較を交え分析する。

国内滞在日数が3分の2以上、国外との“有意な差”がポイントに

 本件は、健康器具販売のネットワークビジネスを営む日本法人の代表取締役であるとともに、台湾及びシンガポールの衣料品販売会社の取締役も務める個人(原告)が、所得税法上の「居住者」に該当するか否かについて争われた事件である。
 東京地裁はまず、判断枠組みとして、いわゆる武富士事件判決(最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決)を引用し、「所得税法2条1項3号にいう『住所』とは、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実態を具備しているか否かにより決すべきもの」とした上で、「その具体的な判断に当たっては、滞在日数、住居、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、職業、資産の所在等の事情を総合的に考慮すべきである。」とし、先行する令和元年5月30日判決と同様の解釈を示した。
 そして、住所を決める各要素について表1のとおり判断し、「原告の職業活動の中心は国外2社の業務にあり、一定の期間台湾又はシンガポールに滞在する必要性が高かった」と認めながらも、「同2社の業務は、日本国内においても一定程度遂行していたもの」として、日本における滞在期間、本件住宅における生活実態を考慮すれば、原告の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心は日本にあったと結論づけた。

【表1】令和3年11月25日判決における東京地裁の判断

滞在日数及び住居 ・日本国内に住民登録。転出の届出なし。
・日本国内の滞在日数は1年の3分の2以上。国外の滞在日数を合計しても日本での滞在日数の半分程度に過ぎないから、有意な差が認められる。
・原告夫婦が事実上自己所有物件と同様に使用できたと推認できる国内の本件住宅と比較し、国外で滞在していた賃貸マンション、ホテルは便宜的な滞在場所という性質が強い。
職業 ・原告は国外2社の役員を務め中心的な役割を果たし、台湾又はシンガポールに滞在する必要があり、役員報酬の額からも職業活動の中心は国外2社の業務にあったと認められる。
・もっとも、業務の全てが現地にいなければ遂行できないものであったとは考え難く、日本国内に滞在しながら一部の業務を行っていたことが推認される。
資産の所在 ・日本国外の資産が国内の資産を上回っているが、原告の国外資産の大半を占める預貯金が、不動産等と異なり国境を越えて利用できることから特定の場所における生活との結びつきが強いものとはいえないことからすると、当該事情は原告の生活の本拠に係る判断を左右する事情とまではいえない。

 原告は、「本件住宅での滞在日数が多いのは、治療等のために医療機関に入通院していたためであり、本件住宅において経済活動をしていたわけではないから、滞在日数の比較によって直ちに原告の生活の本拠が日本国内にあったことが基礎付けられるわけではない」と主張したが、これに対し東京地裁は、「生活に最も関係が深い場所か否かを判断するに当たり、種々の活動の中で経済的活動だけを中心的判断要素として検討すべき理由はない」「かえって、原告が治療等のために本件病院の近くにある本件住宅に滞在していたことは、本件住宅が原告の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活のために重要な拠点であったことを基礎づける事情であるといえる」として、原告の主張を斥けた。
 本判決と令和元年5月30日判決とを比較すると(表2参照)、令和元年判決は他の要素よりも「職業(経済的活動)」を重視しているとの分析が専門家から聞かれたが、本判決は各要素が“総合的に”判断されている。特に、滞在日数に“有意な差”があったことが両判決の結論が異なったポイントと言えそうだ。

【表2】令和元年5月30日判決における東京地裁の判断

滞在日数及び住居 ・居住3か国のうち、日本とシンガポールにおける滞在日数に大きな差があるとはいえない。
・シンガポールが他の滞在国へ渡航する際の拠点となっていた点を考慮すると、両国の滞在に量的な観点からみて有意な差があるとはいえない。
職業 ・各海外子会社に係る経営判断は専ら原告E氏で、現地に赴く回数も多数。
・日本での業務日数は年間の13.17%にすぎず、諸外国での業務日数は年間の66.75%、約4割の日数はシンガポール及び同国を起点として渡航した他の国に滞在。
・職業活動がシンガポールを本拠として行われていたことは、原告E氏のシンガポールでの納税申告、及び自らのシンガポール居住との認識と一致。
生計を一にする配偶者その他の親族の居住 ・妻らの生活の便宜や子らの教育上の配慮から、妻らの生活の本拠は海外に移さず、日本居宅のままを選択。
・生計を一にする妻らが国内に居住していたことは、原告E氏の生活の本拠が日本国内にあったことを積極的に基礎づけるものとはいえない。
資産の所在 ・資産の多くが日本に所在していたことは、家族を残して海外に赴任する者として不自然とはいえない。
・シンガポールにも当面生活するために十分な額の資産を有していた。
その他の事情 ・海外に赴任する者が他の手続上の便宜のために日本国内に住民登録を残しておくことも不自然とはいえない。
・世界各地を頻繁に行き来し、一時帰国数も少なくない者であれば、医療水準や保険制度の整備状況などを鑑み、一時帰国時に日本の病院等に通院等することが不自然とはいえない。入通院した年の日本滞在日数も諸外国での滞在日数と比べて突出して長期の滞在とはいえない。

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