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解説記事2022年04月11日 判例評釈 みずほ銀行事件(2022年4月11日号・№926) −タックス・ヘイブン対策税制のオーバー・インクルージョンが問題となった事例(東京高裁令和4年3月10日判決・判例集未登載)

判例評釈
みずほ銀行事件
−タックス・ヘイブン対策税制のオーバー・インクルージョンが問題となった事例(東京高裁令和4年3月10日判決・判例集未登載)
 弁護士法人淀屋橋・山上合同 弁護士 木村浩之

1.事案の概要

 銀行業を営む内国法人X(原告・控訴人)は、英領ケイマン諸島に資金調達のための特別目的会社(SPC)を設立した上で、SPCにおいて優先出資証券を発行し、これを投資家に販売することで資金を調達し、これにより調達した資金をXがSPCから劣後ローンによって借り入れるという資金調達スキーム(以下「本件資金調達スキーム」という。)を実行した。なお、本件資金調達スキームは複数のSPCが組み合わされたものであるが、本稿では、便宜上、単にSPCと表現する。
 本件資金調達スキームは租税回避を目的としたものではなく、銀行法上の自己資本比率規制への対応として実行されたものであり、それ自体は事業上の合理的な目的があった。本件資金調達スキームでは、SPCにおいて劣後ローンに基づく利息収入が生じるものの、それを原資として投資家に対して優先出資証券に基づく配当がなされるため、SPCには留保される利益がないという建付けであった。もっとも、配当については法人税の課税所得の計算上で損金算入が認められないため、上記利息に係る収益に相当するものが、租税特別措置法(法令については特に断りのない限り当時のものを指す。以下同じ。)66条の6が定める外国子会社合算税制(以下「合算税制」という。)の適用対象金額であるSPCの所得として算出された(以下「SPC所得」という。)。
 Xは、SPC所得について合算税制の適用があるものの、SPC所得に対する請求権を勘案した株式保有割合が0%であるとして、課税対象金額を0円と算出し、平成28年3月期の事業年度の法人税等の申告を行った。これに対し、行政処分庁が、SPCの事業年度末における控訴人のSPCに対する株式保有割合が100%であることから、SPC所得の全額が課税対象金額になるものとして更正を行ったところ、これを不服としたXがその取消しを求めて訴訟提起に至った。
 Xは、SPCの事業年度を通じてSPCの普通株式を全部保有していたものの、それ以外に上記のとおり優先発行証券を発行していたことから、租税特別措置法施行令39条の16第2項1号の定める「請求権の異なる株式等を発行している場合」に該当し、その事業年度中にSPC所得の金額を上回る金額が優先発行証券に基づいて配当されていたことから、SPC所得に対する請求権の内容を勘案すると同条1項の定めるXの株式保有割合は0%であり、適用対象金額は0円であると認められるべき旨を主張した。これに対し、国側は、株式保有割合について同項は事業年度終了時を基準とすることを定めており、本件ではSPCの事業年度終了前に優先発行証券がすべて償還されてしまっており、事業年度終了時に発行されていたのは控訴人が保有する普通株式のみであったことから、その株式保有割合は100%であってSPC所得の全額が適用対象金額になるべき旨を主張した。原審である東京地判令和3年3月16日(判例集未登載)は、請求棄却。Xが控訴。

2.判 旨

 原判決取消し、Xの請求認容(控訴審での追加請求については却下)。
 「本件資金調達スキームが利用された経緯、目的、仕組みからして、控訴人が本件各子SPCの当期純利益から剰余金の配当等を受け得ること、言い換えれば、その当期純利益に対して支配力を有すると評価されるような処理はもともと想定されておらず、現に本件各子SPC事業年度においても、上記の仕組みに従って、本件各子SPCの当期純利益を上回る金額が期中に持株SPCに配当されており、事業年度全体を通じてみても、また、期末時点についてみても、控訴人が上記当期純利益(適用対象金額は同額である。)に対して支配力を有していたとは認められない。そうすると、本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の処理において、内国法人(控訴人)が外国子会社(本件各子SPC)の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するというタックス・ヘイブン対策税制の合算課税の合理性を基礎付け、正当化する事情は見いだせないし、また、上記処理に租税回避の目的があることも、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められない。それにもかかわらず、麹町税務署長は、前記4(1)の解釈(注:事業年度終了時を基準に株式保有割合を判定するとの解釈)を前提として措置法施行令39条の16第1項、2項の規定を形式的に適用し、本件各子SPC事業年度終了の時には控訴人が本件各子SPCの全株式を保有していたことから、持株割合による請求権勘案保有株式等割合が100%であったとして、控訴人が支配力を有していなかった本件各子SPCの同事業年度の当期純利益から算出された適用対象金額(当期純利益と同額)の全額を本件各子SPCとは別法人である控訴人の所得に合算したものであって、このような扱いは、措置法66条の6の趣旨ないしタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度趣旨や理念に反するものであり、正当化できないというほかない(注:下線筆者)。
 そして、前記2の事実関係によれば、本件各子SPC事業年度の本件各子SPCの適用対象金額(当期純利益)に対する控訴人の支配力は存在しないから、その適用対象金額のうちに、控訴人の有する株式等の数に対応するものとして剰余金の配当等の経済的な利益の給付を請求する権利の内容を勘案して控訴人の益金に算入するのが相当な金額(課税対象金額)は存在しないと解するのが、タックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度及び理念、そして、これを踏まえた措置法66条の6の趣旨に照らして相当であり、これに反する限度で措置法施行令39条の16第1項、2項を本件に適用することはできないというべきである(注:下線筆者)。」

3.解 説

(1)本判決の意義
 本判決は、政令の規定の文言を形式的に適用すると法律の想定しない課税が生じる場合に、法律の趣旨を踏まえて政令の適用を限定することでその司法的救済を図ったものとして、重要な意義を有する。
(2)問題の所在
 合算税制は、外国法人を通じた租税回避に対応するための制度として昭和53年度税制改正によって制定されたものであり、その対象となるのが主に税負担がゼロであるか著しく軽い国(いわゆるタックス・ヘイブン)に設立された外国法人であったことから、「タックス・ヘイブン対策税制」とも呼ばれてきた。もっとも、どのような場合に租税回避であると認められ、また、どの範囲で所得を合算すべきかを明確に画することは困難であるため、制度上、一定の割り切りをした適用要件の定めがなされてきた。このように、合算税制の制度設計においては、立法技術的な問題から、必ずしも適正な範囲での課税が実現されてこなかったというのが実情であると解される。ここで課税が適正な範囲を下回ること(本来課税すべき所得が課税されないこと)を「アンダー・インクルージョン」といい、上回ること(本来課税すべきでない所得が課税されること)を「オーバー・インクルージョン」という。
 例えば、本件でも問題となった平成17年度税制改正では、それまでのように単純な持株割合で合算対象となる所得を算定するのでは不都合が生じる場合がある(持株割合は低いものの、配当に対する請求権割合が高いような種類株式が発行されると、本来課税すべき所得が課税されないというアンダー・インクルージョンの問題が生じ得る)ことから、それを適正化するために配当等に関する請求権の内容を勘案して株式保有割合を算定することとされた(財務省『平成17年度税制改正の解説』302頁参照)。
 さらに、近年では、平成29年度税制改正によって合算税制の大幅な改正がなされたところであるが、その改正の背景・趣旨として、本来課税がなされるべき場合に合算税制の適用がない一方で、本来課税されるべきではない場合に合算税制の適用があるというアンダー・インクルージョン及びオーバー・インクルージョンの問題があったとの説明がなされている(財務省『平成29年度税制改正の解説』658頁参照)。
 合算税制には以上のような問題が本来的に内在していたものであり、本件は、その制度設計上、事業年度終了時を基準に株式保有割合を判定するものとされていたことにより、本来課税されるべきでないと解される所得について課税がなされたというオーバー・インクルージョンが問題となった事案である。
(3)検討
 本件で問題となった政令の規定は、その文理解釈上、事業年度終了時を基準として株式保有割合を判定するものであることが明らかであり、そのこと自体は必ずしも不合理とはいえない。すなわち、事業年度中に株式保有割合が変動することは十分にあり得ることであり、そのような変動を逐一考慮するような基準を設定するのは容易ではなく、制度設計のひとつの割り切りとして、事業年度終了時という単一の時点を基準にするのは合理的といえる。ただ、その割り切りにより、明らかに不当な結論が生じることがある。
 本件よりも単純化した事例を考えてみると、毎年1月1日から12月31日までを事業年度とする外国法人があり、12月30日付けでそれまでに得た利益を全て株主に配当した後、その翌日に全株式を内国法人が取得したとする。この場合、合算税制の適用要件を満たすとすれば、上記配当済みの利益の全額が当該内国法人の所得に合算されることになる。かかる結論が合理的といえないことは明らかであり、その原因は事業年度終了時を基準にするという規定を形式的に適用することにある。そもそもこの基準は法律が定めるものではなく、法律の委任を受けた政令が定めるものである。果たして法律がそのような課税を想定して政令に委任したといえるのか甚だ疑問である。
 確かに、政令も含めて、租税法規については、租税法律主義(憲法84条)に照らして、みだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないとされる(最判平成22年3月2日・民集64巻2号420頁など)。しかしながら、租税法規であっても、政令はその上位規範である法律の委任を受けて定められるものであり、その内容はあくまでも法律の範囲にとどまる必要があるというのが原則(法律の優位の原則)である(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂、2021年)81頁参照)。
 そこで、政令の内容が法律の委任の範囲を逸脱したものである場合には当該政令は無効とされ、これが規定の文言どおりに適用されるものではない(最判令和3年3月11日・民集75巻3号418頁)。さらに、政令が無効とはいえない場合であっても、政令の文言を形式的に適用することが法律の想定しない課税を生じさせるものであるときには、そのような政令の形式的な適用は否定されるべきと解するのが法律の優位の原則に照らして相当であり、また、そのような解釈は国家の過剰な課税から納税者を救済するものであり、法律の根拠に基づくことなしに国家が租税を賦課・徴収することはできないとする租税法律主義の趣旨に牴触するものではないと解される。
 本件と同様にオーバー・インクルージョンが問題となった事例として、東京高裁平成27年2月25日判決( 税資265号順号12612)がある。この事例は、外国子会社の日本支店に帰属する所得が日本の国内源泉所得として課税された上で、さらに当該所得が合算税制の適用対象にされることで二重課税が生じるというものであった。文理解釈によって結論として合算税制の適用が認められたものの、同判決には非常に興味深い判示が含まれる。すなわち、合算税制においても二重課税を排除するために外国税額控除が認められているところ、その対象となる外国法人税の額について、その文言上は日本の法人税が含まれないにもかかわらず、これを含むと解することが法令の趣旨・目的に適合する合理的なものというべきであるとの判断が示されている。ここでさらに興味深いのは、国税庁の定める法令解釈通達においても同様の解釈が示されていることである。
 また、上記で挙げた最高裁令和3年3月11日判決は、合算税制が問題となった事例ではないものの、政令である法人税法施行令の文言を形式的に適用した場合に法人税法の趣旨に適合しない結果が生じることを理由に、当該政令をその限度で無効としたものである。
 これらに通底するのは、文言を形式的に適用することが法律の想定しない課税を生じさせる場合、何らかの理論構成によって適正な課税の範囲を画すべきという観点である。本判決は、そのような観点から政令の適用を限定して司法的救済を図った一事例としての意義を有する。その理論構成として、政令が法律による委任の範囲を超えたものとしてその限りで無効とする余地があったとも思われるが、政令の内容そのものは上記のとおり一定の基準を定めるものとして不合理とはいえず、これを無効と判断するとその射程が広がりすぎる懸念があったことから、あくまでも本件の個別事例における判断として政令を適用することができないと判断したものと思われる。
(4)本判決の射程
 本判決が政令の適用を限定したのは本件の個別事情を踏まえてのものであり、そういった特段の事情がない場合には政令を文言どおり適用することが合理的であると判断したものと解される。また、特段の事情の判断に当たって法律の趣旨を重視するが、それはあくまでも政令の規定の適用においてのものであって、法律の規定の文言を超えた解釈をすることまで認めたものではない。そのことは、本判決が、なお書きとして「上記判断は、本件の具体的事案において、措置法66条の6の趣旨等に照らし、措置法施行令39条の16第1項、2項2号が定める課税対象金額の計算に関する部分を文理解釈どおりに形式的に適用することはできないとするにとどまるものであり、措置法66条の6第1項の適用要件及び同条3項の適用除外要件に租税回避の目的や実態の有無という新たな要件を付加するものではない」と敢えて述べていることからも明らかである。その意味でいたずらに本判決の射程を広く捉えて、法律の規定の文言にかかわらず、その趣旨に反することを理由として課税権の行使を制限することを認める根拠とはなり得ないと思われる。
 なお、本判決は国側によって上訴されたとのことであるが、その理論構成を修正するために判決理由を変更する余地はあるものの、本判決が認めた結論の実質的な妥当性を否定することは難しいのではないかと思われる。

木村浩之 (きむら ひろゆき)
弁護士法人淀屋橋・山上合同 パートナー弁護士。2005年東京大学法学部卒業、2005年〜2009年国税庁(国家公務員一種)、2010年弁護士登録、2016年ライデン大学国際租税センター修了(国際租税法上級LL.M.)、2020年一橋大学法学研究科非常勤講師(担当科目:国際租税法)。
主な著書に「対話でわかる国際租税判例」(共著・中央経済社・2022年)、「租税条約入門」(中央経済社・2017年)。

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