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解説記事2022年04月18日 実務解説 有価証券報告書 作成上の留意点(2022年3月期提出用)(2022年4月18日号・№927)

実務解説
有価証券報告書 作成上の留意点(2022年3月期提出用)
 財務会計基準機構 高野裕郎

《まとめ》
・「収益認識に関する会計基準」等、「時価の算定に関する会計基準」等が当連結会計年度から原則適用となる。有価証券報告書の作成にあたり、収益認識関係注記、金融商品関係注記を中心とした項目に注意が必要。
・改正「時価の算定に関する会計基準の適用指針」、「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」は、当連結会計年度末に係る有報から早期適用可能。
・このほか、「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」、監査報告書、主要な経営指標等の推移、株式等の総数についても留意が必要。

Ⅰ はじめに

 本稿は、2022年3月期の有価証券報告書(以下「有報」という。)における作成上の留意点についてまとめたものであり、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価算定会計基準」という。)等に関する主な留意点を中心に解説する。
 なお、文中において意見にわたる部分は私見であることをあらかじめ申し添えておく。

Ⅱ 収益認識会計基準等に係る留意点

1 概 要
 収益認識会計基準等は、2018年3月に企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)から公表され、2020年3月に改正された。また、2021年3月に、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」の改正も行われている。これらの収益認識会計基準等は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用とされている。収益認識会計基準等の内容については、中根將夫・藤田晃士「改正企業会計基準29号『収益認識に関する会計基準』等について」(No.836)、牧野めぐみ「改正企業会計基準適用指針第30号『収益認識に関する会計基準の適用指針』の公表について」(No.881)を参照いただきたい。

2 連結貸借対照表及び連結貸借対照表関係注記
 流動資産においては、受取手形、売掛金及び契約資産について、当該資産を示す名称を付した科目をもって掲記しなければならない(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「連結財規」という。)第23条第1項)。ただし、収益認識会計基準等の適用初年度の比較情報については、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされている。
 なお、この規定にかかわらず、受取手形及び売掛金並びに契約資産のそれぞれについて、他の項目に属する資産と一括して表示することができるとされている。この場合においては、受取手形及び売掛金(顧客との契約から生じた債権に限る)並びに契約資産の科目及びその金額をそれぞれ注記しなければならない(連結財規第23条第5項)。記載事例1は、連結貸借対照表において、受取手形及び売掛金を同一の科目に含めて表示している場合の記載事例である。なお、受取手形及び売掛金について、顧客との契約から生じた債権とそれ以外の債権を含めて表示している場合にも、顧客との契約から生じた債権の残高を注記しなければならないと考えられる。

3 連結損益計算書及び連結損益計算書関係注記
 収益認識会計基準においては、顧客との契約から生じる収益を、適切な科目(例えば、売上高、売上収益、営業収益等)をもって損益計算書に表示するとされている。ただし、収益認識会計基準等の適用初年度の比較情報については、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされている。
 売上高の記載にあたっては、顧客との契約から生じる収益及びそれ以外の収益に区分して記載するものとされている。この場合において、当該記載は、顧客との契約から生じる収益の金額の注記をもって代えることができるとされている(連結財規第51条第2項)。
 一方、連結財規の規定により特定の科目に関係ある注記を記載する場合には、当該科目に記号を付記する方法その他これに類する方法によって、当該注記との関連を明らかにしなければならないとされている(連結財規第16条第5項)。
 したがって、売上高について、顧客との契約から生じる収益及びそれ以外の収益に区分していない場合、当該科目に記号を付記する方法等により注記する必要があるが、記載事例2のように、連結損益計算書関係注記においては参照する旨を記載し、その金額については、収益認識関係注記における収益の分解情報において記載することも考えられる。

4 会計方針に関する事項
 収益認識会計基準等に係る会計方針に関する事項として注記する内容については、原則として、企業会計原則注解及び企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に照らして判断するものと考えられるが、収益認識会計基準等においては、会計方針として少なくとも注記する内容として、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記するとされている。
 また、これらの項目以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記するとされている。なお、会計方針に関する事項において注記した内容については、収益認識関係注記において当該注記を省略することができるとされている。
 記載事例3は会計方針に関する事項について、会計処理方法別に記載する場合の記載事例である。なお、記載方法については、このほかに事業別に記載する方法等も考えられ、記載事例に示した方法に限られるものではない。

5 会計方針の変更に関する注記
 収益認識会計基準等の適用初年度においては、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用するとされている。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとされている。記載事例4は、上記ただし書きの場合で、収益認識会計基準第84項ただし書きに定める経過的な取扱いに従った場合の記載事例である。なお、記載事例4のこの他の前提は次のとおりである。

・過年度において「収益認識に関する会計基準」(2018年3月30日)等は早期適用しない。
・収益認識会計基準第86項に定める経過的な取扱いに従って、当連結会計年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しない。
・収益認識会計基準第86項また書き(1)に従って、適用初年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、会計処理を行っている。
・収益認識会計基準第89−2項に定める経過的な取扱いに従って、前連結会計年度について新たな表示方法により組替えを行わない。
・収益認識会計基準第89−3項に定める経過的な取扱いに従って、当該注記のうち、前連結会計年度に係るものについては記載しない。

6 収益認識関係注記
 収益認識関係注記については、次に掲げる事項であって、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならないとされている(連結財規第15条の26が準用する財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(財規)第8条の32)。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。
① 顧客との契約から生じる収益及び当該契約から生じるキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に当該収益を分解した情報(収益の分解情報)
② 顧客との契約から生じる収益を理解するための基礎となる情報
③ 顧客との契約に基づく履行義務の充足と当該契約から生じるキャッシュ・フローとの関係並びに当事業年度末において存在する顧客との契約から翌事業年度以降に認識すると見込まれる収益の金額及び時期に関する情報(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報)
 なお、当該注記を記載するにあたっては、収益認識関係注記の開示目的、すなわち、投資者その他の財務諸表の利用者が顧客との契約から生じる収益及び当該契約から生じるキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を理解できるようにするための十分な情報を開示することを目的とした上で、連結財務諸表提出会社において、定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮して当該目的に照らして重要性が乏しいか否かを判断する必要がある点に留意する必要がある。また、重要性がある場合は、当該目的に照らして記載内容及び記載方法が適切かどうかを判断して記載するものとされている。
 ① 収益の分解情報
 収益の分解情報において、収益を分解する程度については、企業の実態に即した事実及び状況に応じて決定することとされている。したがって、複数の区分に分解する必要がある場合もあれば、単一の区分のみで足りる場合もあると考えられる。
 また、収益の分解情報については、当連結会計年度に認識した顧客との契約から生じる収益と報告セグメントごとの売上高との関係を投資者その他の連結財務諸表の利用者が理解できるようにするための十分な情報を記載するものとされている。収益を分解するための区分の例として次のものが挙げられる。
(1)財又はサービスの種類(例えば、主要な製品ライン)
(2)地理的区分(例えば、国又は地域)
(3)市場又は顧客の種類(例えば、政府と政府以外の顧客)
(4)契約の種類(例えば、固定価格と実費精算契約)
(5)契約期間(例えば、短期契約と長期契約)
(6)財又はサービスの移転の時期(例えば、一時点で顧客に移転される財又はサービスから生じる収益と一定の期間にわたり移転される財又はサービスから生じる収益)
(7)販売経路(例えば、消費者に直接販売される財と仲介業者を通じて販売される財)
 記載事例5は、上記のうち(2)の記載事例である。記載方法については、記載事例等に限定されるものではなく、収益認識関係注記における開示目的に照らして、企業の収益及びキャッシュ・フローを理解するために適切であると考えられる方法で注記する必要があると考えられる。

 また、報告セグメントの売上高に関する情報が、収益認識会計基準における収益の会計処理の定めに基づいており、かつ、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報として十分であると判断される場合や、セグメント情報等の注記に含めて収益の分解情報を示している場合には、収益認識関係注記において、当該セグメント情報等に関する事項を参照する旨を記載することによって、収益の分解情報の記載に代えることができる。
 ② 顧客との契約から生じる収益を理解するための基礎となる情報
 顧客との契約から生じる収益を理解するための基礎となる情報には、次の事項が含まれるとされている。
(1)顧客との契約及び履行義務に関する情報(履行義務に関する情報、重要な支払条件に関する情報)
(2)顧客との契約に基づいて、財貨の交付又は役務の提供によって得ることが見込まれる対価の額(取引価格)を算定する際に用いた見積方法、インプット、仮定に関する情報
(3)取引価格を履行義務に配分する際に用いた見積方法、インプット、仮定に関する情報
(4)収益を認識する通常の時点の判断及び当該時点における会計処理の方法を理解できるようにするための情報
(5)顧客との契約から生じる収益の金額及び時期の決定に重要な影響を与える収益認識会計基準を適用する際に行った判断及び判断の変更
 顧客との契約から生じる収益を理解するための基礎となる情報において注記する情報は、顧客と締結した契約の内容と、それらの内容がどのように収益及び収益に関連する財務諸表の項目に反映されているかに関する情報を開示するものとされている。当該情報を記載するにあたっては、単に収益認識会計基準等における取扱いを記載するのではなく、企業の置かれている状況が分かるようにすることで、連結財務諸表の利用者に有用な情報を開示することになると考えられる。
 ③ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報に関して、記載事例6は、顧客との契約に基づく履行義務の充足と当該契約から生じるキャッシュ・フローとの関係を理解できるようにするための情報(契約資産及び契約負債の残高等)に係る記載事例である。

 また、当連結会計年度末において存在する顧客との契約から翌連結会計年度以降に認識すると見込まれる収益の金額及び時期に関する情報には、例えば当連結会計年度末において未だ充足していない履行義務に配分した取引価格の総額、当該履行義務が充足すると見込んでいる時期等が含まれるものとされている。
 なお、当該履行義務が、当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である場合等には、当該情報の注記を要しないとする実務上の便法が設けられている。記載事例7は、当初に予想される契約期間が1年以内の契約に対する実務上の便法を使用しており、収益の認識が見込まれる期間について定性的に記載する場合の記載事例である。

Ⅲ 時価算定会計基準等及び2021年改正適用指針に係る留意点

 2019年7月にASBJから公表された時価算定会計基準等は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)における金融商品等の時価の算定方法などを定めたものであり、開示については、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の追加等の改正が行われた。適用時期は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとされている。その詳細は、遠藤和人「企業会計基準第30号『時価の算定に関する会計基準』等について」(No.802)を参照いただきたい。
 また、2021年6月にASBJから公表された改正企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下、「2021年改正適用指針」という。)は、投資信託の時価の算定に関する取扱い、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する取扱いについて明らかにするものであり、適用時期は、2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとされている。ただし、2022年3月31日以後終了する年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができるとされている。その詳細は、山田哲也「改正企業会計基準適用指針第31号『時価の算定に関する会計基準の適用指針』の概要」(No.895)を参照いただきたい。

1 会計方針に関する事項
 記載事例8は、重要な資産の評価基準及び評価方法①有価証券のうち、その他有価証券の記載事例である。なお、このほか、会計方針に関する事項においては、特定の市場リスク又は特定の信用リスクに関して金融資産及び金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定する場合には、その旨を記載するものとされている。

2 会計方針の変更に関する注記(記載事例9)

 時価算定会計基準等の適用初年度においては、経過措置により、時価算定会計基準等が定める新たな会計方針を、将来にわたって適用することとされ、その場合、その変更の内容について注記することとされている。また、一定の場合には、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができる等の経過措置も定められている。
 時価算定会計基準等については、新たに、評価技法を用いて、観察可能なインプットを最大限利用することとされている。このため、時価をもって連結貸借対照表価額とする金融商品を保有している場合、時価の算定の結果が前連結会計年度から変更されなかったとしても、時価の算定方法は変更されているものと考え、時価算定会計基準等を適用した旨については、会計方針の変更に関する注記において記載することが考えられる。
 ただし、時価の注記のみ求められる金融商品(例えば、貸付金や借入金)のみを保有しており、時価をもって連結貸借対照表価額とする金融商品を保有していない場合は、会計処理には影響がなく、注記されている時価のみに影響が生じる。この場合は表示方法の変更に関する注記において時価算定会計基準等を適用した旨などを注記することも考えられる。

3 金融商品関係注記
 ① 金融商品の時価等に関する事項(記載事例10)

 金融商品の時価等に関する事項(連結財規第15条の5の2第1項第2号)については、新たな会計方針を将来にわたって適用する場合、当連結会計年度については、時価算定会計基準に従って算定された時価を記載することとなる。また、市場価格のない株式等については、時価に関する事項を記載していない旨、金融商品の概要及び連結貸借対照表計上額を記載している。
 一方、前連結会計年度については、改正前の金融商品会計基準に従って算定された時価を記載すると考えられる。改正前の金融商品会計基準における時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品については、その旨、その理由及び連結貸借対照表計上額を記載すると考えられる。
 また、時価算定会計基準等の公表に伴い、現金及び短期間で決済されるため時価が帳簿価額に近似するものについては省略できるとされている。当該省略を行う場合は、当連結会計年度及び前連結会計年度のいずれについても省略することが考えられ、記載事例10では、記載を省略している旨を当連結会計年度及び前連結会計年度の双方の表の注書きで示している。

 なお、2021年改正適用指針を早期適用しない場合、連結貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合その他これに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)への出資については、金融商品の時価等に関する事項の記載を省略することができるとされている。ただし、この場合には、その旨及び当該出資の連結貸借対照表計上額を注記しなければならないとされている。
 ② 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項(記載事例11)

 金融商品の時価を当該時価の算定に重要な影響を与える時価の算定に係るインプットが属するレベルに応じて分類し、その内訳に関する事項を記載することとされ、時価で連結貸借対照表に計上している金融商品とそれ以外の金融商品のそれぞれについて、レベル1、レベル2、レベル3に分類された金融商品の連結決算日における時価の合計額を記載することとされた(連結財規第15条の5の2第1項第3号)。ただし、これに係る比較情報については、時価算定会計基準等の適用初年度においては記載することを要しないとされている。
 なお、2021年改正適用指針を早期適用しない場合、金商法第2条第1項第10号に掲げる投資信託又は外国投資信託の受益証券、同項第11号に掲げる投資証券又は外国投資証券その他これらに準ずる有価証券を含む金融商品(投資信託等)については、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の記載を省略することができることとされている。ただし、この場合には、その旨及び当該投資信託等の連結貸借対照表計上額を注記しなければならないとされている。
 ③ 時価の算定に用いた評価技法及び時価の算定に係るインプットの説明(記載事例12)

 その時価がレベル2又はレベル3に分類された金融商品については、時価の算定に用いた評価技法及び時価の算定に係るインプットの説明が求められている。なお、時価の算定に用いる評価技法又はその適用を変更した場合には、その旨及びその理由を記載するとされている。
 ④ レベル3に分類された金融商品の注記
 時価で連結貸借対照表に計上している金融商品のうち、その時価がレベル3に分類された金融商品がある場合、時価の算定に用いた重要な観察できない時価の算定に係るインプットに関する定量的情報、当該金融商品の期首残高から期末残高への調整表等を記載することとされている(連結財規第15条の5の2第1項第3号ニ)。当該注記の作成にあたっては、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」における開示例のうち、金融業のものが参考になるものと考えられる。

4 棚卸資産関係注記
 市場価格の変動により利益を得る目的をもって所有する棚卸資産については、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項に準じて注記しなければならないとされた(連結財規第15条の27)。ただし、これに係る比較情報については、時価算定会計基準等の適用初年度において記載を要しないとされている。

5 2021年改正適用指針に係る留意点
 ① 会計方針の変更に関する注記(記載事例13)

 2021年改正適用指針の適用初年度においては、当該適用指針が定める新たな会計方針を、将来にわたって適用することとされている。この場合、その変更の内容について注記することとされている。なお、記載事例13は、前連結会計年度以前において時価算定会計基準を早期適用していることを前提としている点に留意してほしい。

 ② 金融商品関係注記
 連結貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合その他これに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)への出資については、金融商品の時価等に関する事項の記載を要しないとされている。ただし、この場合には、その旨及び当該出資の連結貸借対照表計上額を注記しなければならないとされている。
 投資信託等については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従い、投資信託等の基準価額を時価とみなす場合には、金融商品の時価等に関する事項の記載については、その記載にあたり、当該投資信託等が含まれている旨を注記しなければならない(当該投資信託等の連結貸借対照表計上額に重要性が乏しい場合を除く。)。
 また、投資信託等については、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の記載を要しないとされているが、この場合には、当該事項を注記していない旨、当該投資信託等の連結貸借対照表計上額及び当該投資信託等の期首残高から期末残高への調整表(当該投資信託等の連結貸借対照表計上額に重要性が乏しい場合を除く。)等を注記しなければならない。ただし、2021年改正適用指針を当連結会計年度末に係る連結財務諸表から適用する場合には、「当該投資信託等の期首残高から期末残高への調整表」の記載を省略することができるとされている。

6 「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」
 ① 概 要

 2021年8月にASBJから公表された実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」は、グループ通算制度を適用する場合における法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを定めたものであり、2022年4月1日以後に開始する年度の期首から適用することとされている。ただし、2022年3月31日以後に終了する年度の期末の連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができるとされている。その詳細は、宗延智也「実務対応報告第42号『グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い』の概要」(No.900)を参照してほしい。
 ② 会計方針に関する事項(記載事例14)
 これまで実務対応報告第39号を適用していた場合、翌連結会計年度の期首から実務対応報告第42号を適用することになる。記載事例14では、実務対応報告第39号第3項に基づいている旨の注記のなお書きにおいて、翌連結会計年度の期首から実務対応報告第42号を適用する旨を記載している。当該なお書きは、会計基準等の名称及びその概要、適用予定日を記載しており、未適用の会計基準等に関する注記と兼ねたものである。

 ③ 税効果会計関係(記載事例15)
 グループ通算制度の適用により、実務対応報告第42号に従って法人税及び地方法人税の会計処理又はこれらに関する税効果会計の会計処理を行っている場合には、その旨を税効果会計に関する注記の内容とあわせて注記するものとされている。
 ただし、当連結会計年度においては、法人税及び地方法人税に関する会計処理及び開示については、実務対応報告第5号及び第7号に従うことになるため、記載事例15ではその旨を記載している。

Ⅳ その他の留意点

1 「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」
 2022年3月にASBJから改正実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」が公表され、金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間の延長等が行われた。当該実務対応報告は、公表日以後適用することができるとされている。

2 監査報告書
 有報に添付する必要がある監査報告書に関して、監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」の改正が2021年4月及び8月に行われている。
 2021年4月に行われた改正は、監査した財務諸表が含まれる開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書を除いた部分の記載内容(その他の記載内容)に関するものである。当該改正は、2022年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度に係る監査から適用するとされている。
 2021年8月に行われた改正は、2021年5月の公認会計士法の改正において、監査報告書への押印が廃止され、監査報告書等の交付を電磁的方法により行うことが可能となったこと等に対応したものである。当該改正は、2021年9月1日以後に提出する監査報告書から適用するとされている。
 このほか、日本公認会計士協会から2022年2月に公表された「EDINETで提出する監査報告書へのXBRLタグ付けについて(お知らせ)」では、監査上の主要な検討事項のXBRLタグ付け方針等の一部追加及び監査報告書におけるその他の記載内容に関するXBRLタグ付けの追加に関する解説が行われているので参考としてほしい。

3 非財務情報に関する留意点
 ① 主要な経営指標等の推移

 主要な経営指標等の推移の記載において、遡及適用を行った場合には、前年度に係る主要な経営指標等に当該遡及適用の内容を反映するとともに、その旨を注記しなければならないとされている。
 したがって、収益認識会計基準の適用初年度において、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合、主要な経営指標等の推移において、遡及処理を行った旨を注書きで示すこととなる(記載事例16)。また、収益認識会計基準の適用初年度において、収益認識会計基準第第84項ただし書きを適用した場合にも、その旨・内容等を脚注に示すことが望ましいと考えられる(記載事例17)。

 ② 株式等の総数(記載事例18)
 東京証券取引所において市場区分の見直しが行われ、4月4日から、「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」へと変更された。当該見直しにより、事業年度末現在と提出日現在で市場区分が異なる場合、【第4 提出会社の状況】1【発行済株式】②【株式等の総数】においては、投資者にとっての分かりやすさという観点から、記載事例18のように、事業年度末現在と提出日現在の両方の市場区分を記載することが望ましいと考えられる。

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