解説記事2022年05月02日 ニュース特集 プロジェクトチームによる処理困難事案の滞納整理(2022年5月2日号・№929)
ニュース特集
事案選定、本部の役割、捜索の心構え等を確認
プロジェクトチームによる処理困難事案の滞納整理
国税庁は、複雑な取引や財産移転を仮装しているなど処理困難事案の滞納整理について、広域運営による支援やプロジェクトチームの編成による滞納処分を実施している。本特集では、プロジェクトチームによる滞納整理の事案選定、プロジェクト事案検討会、捜索の心構え、捜索時の注意事項などについて、Q&A形式で確認する。
事業継続に影響を及ぼす可能性が高い
Q
プロジェクトチームの編成による滞納整理の目的は?
A
プロジェクトチームによる滞納整理(以下、「PT事案」という)は、悪質滞納者(納税意識が著しく低いと認められる滞納者)をターゲットとし、滞納税金を確実に徴収するために、複数の従事者が綿密な財産調査・捜索を行い、債権差押などを中心とした厳しい滞納処分を実施するものです。
PT事案では全ての財産が差押対象となり、滞納者の事業継続に影響を及ぼす可能性が高いため、当局の管理者や事案担当者は、その立場に応じて慎重に、事案選定、現況把握、捜索、差押え及び署内コンセンサス(合意)の形成などを行っているようです。
「プロジェクト実施計画書」を活用
Q
PT事案の選定はどのように行われますか。
A
悪質滞納者をターゲットとするPT事案では、実施の可否判断の目安として、次の各要素が示されています。①納税に対する悪質性(累積滞納に加えて、特に納税に対する誠意が低いと認められる事実があること)、②処分の困難性(PTを実施しないと滞納者の実態の解明・処理展開が図れない事案であること)、③資産隠匿の可能性(滞納処分を逃れる意思で資産の仮装・隠匿等を行えば滞納処分免脱罪の検討も)、④大口の悪質滞納事案(多角的な財産調査を必要とするなど、相当な事務量や高度な調査能力を要する大口の悪質滞納事案であること)。これらの各要素から検討が行われ、PTの対象事案が決定されます。
なお、PT事案の計画策定に当たっては、悪質事案としての主な「選定理由」を示す資料として「プロジェクト実施計画書」(下記参照)、調査先を示す資料として「調査先一覧表(プロジェクト実施計画書・付表)」(次頁参照)が使用されます。


プロジェクト事案検討会で着手日時、動員数を決定
Q
PT事案の実施時期はどのように決定されますか。
A
実施時期(実施予定日)を検討するための「プロジェクト事案検討会」が実施されます。PT事案では、準備調査(滞納者の実態解明を図るための重要な事務とされ、「準備調査の内容いかんで事案が成功する」とも言われる)において、課税資料、公簿上の調査だけでなく多方面にわたる調査・情報収集が行われます。その準備調査で把握した滞納者の状況等を踏まえて、着手日時及び動員数等が決定されます。
その後、動員者に対し、プロジェクト実施計画書を基に、事案の概要、各調査場所(事業所等、金融機関、取引先等)のPT目的、各人の役割分担(面接、捜索、差押など)、集合時間、留意事項等が説明され、意思統一が図られます。
相手方が退席したタイミングで連絡も
Q
PT事案で設置される本部と各現場の連絡体制は?
A
着手日は、総括統括国税徴収官等がPT本部を設置し、各担当者との連絡、指揮に当たります。着手日の朝、本部はホワイトボードなどを使って各調査場所を整理し、着手の10分〜20分前には準備を完了します。また、調査場所ごとに内線電話を決め、各担当者は調査場所、氏名を名乗った上で、以下の連絡を行います。
(1)着手前の連絡:各担当者は、着手前に準備(待機)完了を連絡。
(2)着手時の連絡:重要場所では、①着手時間、②関係者の捕捉状況(役職、名前はフルネームで確認)、③調査場所の状況等を速やかに連絡(代表者等捕捉の有無にかかわらず、本部に連絡)。
(3)着手後の連絡:金融機関、取引先等の担当者は、着手時間、携帯電話の通話確認、必要に応じて会議室の内線番号をあわせて連絡。本部への連絡は、相手方に確認事項を依頼し、相手方が退席したタイミングなどに行うと良い。
(4)随時連絡:調査場所の状況、財産の発見、差押の実施、現金の領収・払込み、把握事実、法律判断、要請事項等を連絡。新しい取引先を確認した場合は、直ぐに本部へ連絡。
(5)終了、転戦連絡:調査場所での終了時間を連絡するとともに、転戦場所の有無を確認。
(6)帰署時:処分等の結果、転戦先結果、帰署時間等を連絡。
要確認事項、追加調査の具体的指示で一体感
Q
担当者からの連絡を受けた本部の対応は?
A
本部は、各調査場所からの情報を集中管理し、必要に応じて各調査場所にその情報を連絡します。本部から要確認事項、追加調査等を具体的に指示することで、現場との一体感を持ったPT実施を心掛けるようです。
また、本部は、各調査場所の捜索、差押等の状況を逐一ホワイトボードに記載し、現状を把握できる状態にするとともに、捜索、差押等の処分状況を整理し、必要に応じてPTの処理経過・結果を幹部に報告します(超過差押の防止)。
申立てを鵜呑みにしない、捜索中ニヤニヤしない
Q
捜索の心構えとしてどのような内容が示されていますか。
A
捜索は出だしが最も重要とされています。捜索の開始時は躊躇せず、終始毅然とした態度で粛々と捜索を実施する旨が指示されています。
また、①捜索は差押え等を基本として実施し、安易な妥協は厳に慎む、②滞納者等の申立てを鵜呑みにしない(申立てについて、何故そう言えるのか、何によりそれを確認できるのか等、事実関係が明らかになるような質問や証拠書類の確認等を行うことが重要)、③捜索は滞納者等の案内で行うのではなく、担当者自らが積極的に行う(財産を発見しても気を抜かず、差押対象となる財産の価値が明らかに滞納額を充足すると判断されるまで、原則全ての箇所について実施する)、④身なりや言動には十分注意する(不用意な発言で揚げ足を取られないようにし、捜索中はニヤニヤしたり、笑い声を出さない)などとされています。
着手時間は周りの職員に分かるように伝える
Q
捜索に着手する際の手続等はどのようなものですか。
A
滞納国税について滞納者に即納の可否を確認し、即納が困難な場合に捜索に着手されます。着手の際、担当者は、「国税徴収法第142条に基づいて滞納処分のため捜索を行う」旨を宣言します(必要に応じて裁判所の許可(令状)は不要である旨を説明)。
捜索着手後、本部へ着手時間(周りの職員に分かるように伝え、着手時間の記録をメモしておくことに留意する)、立会人の役職及び氏名をフルネームで連絡します。
なお、捜索に非協力の場合は、国税徴収法144条で警察官等の立会いでも捜索ができることを説明し、立会いの協力を求めるとしています。
翌日に物がなくなったといわれないように
Q
捜索時の注意事項として挙げられていることは?
A
捜索時に何らかの事情で立会人が捜索現場を離れる場合(トイレ、来客対応等)には、わずかな時間であっても一旦捜索を中断し、立会人が戻ってから、捜索を再開するとしています(捜索の翌日に、物がなくなったなどと言われないため)。
また、①捜索開始時にあらかじめ従業員(家族)等に外出する際は申し出るよう伝えるなど自由に出入りすることをある程度制限しておく、②重要人物が女性の場合や女性従業員が多い事業所等の捜索に当たっては女性職員の配置を行う、③見取図を作成し、捜索終了箇所にチェックするなど、捜索漏れがないように留意する、④無用のトラブルを防ぐためにも、現金等の数量については、必ず立会人とともに確認し、現金の数量が多い場合は職員二人で行った方が作業も早く終わり、間違いをなくすことができるなどとされています。
鍵開錠業者には現場に行く時間を指定
Q
捜索において鍵開錠業者を要請する場合は?
A
捜索の際、閉鎖してある戸、金庫やその他の容器類を開かせなければ捜索の目的が果たせない場合は、滞納者等に開かせるか自ら開くための必要な処分が行われますが、滞納者が不在、鍵の所在が不明な金庫等があり開錠が困難な場合は、鍵開錠業者を手配します。
現場から本部へ鍵メーカー、形状、鍵番号等の情報を連絡し、本部が鍵開錠業者(本部は事前に鍵開錠業者を3店舗程度把握)を手配し、捜索現場へ派遣します。その際、本部は、鍵開錠業者の到着可能時間を確認し、「何時に現場に行くよう」依頼するとともに、現場にも鍵開錠業者の到着時間を連絡します。
質問応答記録書で証拠保全を図る
Q
財産差押に係る留意点、PT事案の処理方針の決定は?
A
調査場所において、差押可能な財産を発見(確認)した場合は、必ず本部に連絡し、差押えの可否の判断を仰ぐとされています。帰属認定、差押範囲(超過差押の防止)など、他の調査場所の処分状況も含めて総合的に本部が判断する必要があるためです。
また、財産差押の主な留意点として、①通則法の改正に伴い、帰属認定を伴う差押えを行う場合には個別理由付記が必要である、②帰属認定に当たっては、滞納者等から確実に聴き取りを行い、必要に応じてその内容を「質問応答記録書」に記録して証拠保全を図る、③差押調書は、作成者以外の者によるダブルチェックを行うなどとされています。
なお、PT事案の処理方針は、税務署長が参加する復命会において、滞納者及び関係者からの聴取事項、動員時に収集した資料を分析した上で決定されます。
ただし、着手日に把握した事項について不審点、疑問点がある場合は、時間を置くことなく翌日も調査を行うなど、継続して徹底した調査が実施されます。
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