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解説記事2022年05月02日 未公開判決事例紹介 キャプティブ保険会社への外国子会社合算税制事案(2022年5月2日号・№929)

未公開判決事例紹介
キャプティブ保険会社への外国子会社合算税制事案
再保険に係る非関連者基準満たさず

 本誌924号4頁で紹介した法人税更正処分等取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

○大手自動車メーカーである原告がバミューダに置いたキャプティブ保険子会社がタックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)上の非関連者基準を満たしていないとして同税制が適用された事件。東京地裁(春名茂裁判長)は令和4年1月20日、元受保険契約の保険の目的は、非関連者の生命や身体等ではなく関連者の債権であり、非関連者基準を満たさないとして、処分の取消しを求めた原告の請求を棄却した(令和2年(行ウ)第86号)。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1
 処分行政庁が原告に対して令和2年7月31日付けでした原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度の法人税の更正処分のうち連結所得金額4594億0301万9097円及び納付すべき税額275億8773万1200円を超える部分を取り消す。
2 処分行政庁が原告に対して令和2年7月31日付けでした原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分のうち課税標準法人税額802億6690万6000円及び納付すべき税額35億3174万3800円を超える部分を取り消す。
3 処分行政庁が原告に対して平成30年6月27日付けでした原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度の法人税の過少申告加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税の額3077万6000円を超える部分を取り消す。
4 処分行政庁が原告に対して平成30年6月27日付けでした原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度の地方法人税の過少申告加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税の額134万8000円を超える部分を取り消す。

第2 事案の概要
 連結納税の承認を受けた内国法人である原告は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度及び課税事業年度の法人税及び地方法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁から、英領バミューダ諸島において設立された原告の子会社が非関連者である保険会社との間で締結した再保険契約に係る収入保険料は、租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前のもの。以下同じ。)39条の117第8項5号括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当せず、外国子会社合算税制の適用除外要件のうちいわゆる非関連者基準を満たさないなどとして、平成30年6月27日付けで法人税及び地方法人税に係る各更正処分(以下、それぞれ「本件法人税当初更正処分」、「本件地方法人税当初更正処分」という。)並びにこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、それぞれ「本件法人税当初賦課決定処分」、「本件地方法人税当初賦課決定処分」という。)をした。なお、処分行政庁は、令和2年7月31日付けで法人税額及び地方法人税額を増額する旨の各再更正処分(以下、それぞれ「本件法人税再更正処分」、「本件地方法人税再更正処分」という。)並びにこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
 本件は、原告が、本件法人税再更正処分及び本件地方法人税再更正処分のうち原告主張額を超える部分並びに本件法人税当初賦課決定処分及び本件地方法人税当初賦課決定処分のうち原告主張額を超える部分の取消しを求める事案である。
1 関係法令の定め
 本件に関係する法令の定めは別紙2−1ないし2−4のとおりである。租税特別措置法68条の90は、連結法人に係る特定外国子会社等の個別課税対象金額を益金に算入する制度(外国子会社合算税制)を定めているところ、その概要は以下のとおりである(以下の記載中、法令の規定中の括弧書きの記載や定義規定等を省略した部分がある。)。
(1)外国子会社合算税制について
 租税特別措置法(以下、「措置法」といい、特記しない限り、平成29年法律第4号による改正前のものをいう。)68条の90第1項は、連結法人に係る外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(以下「本店所在地国」という。)におけるその所得に対して課される税の負担が、我が国における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(特定外国子会社等)が、各事業年度において措置法68条の90第2項2号に規定する適用対象金額を有する場合には、その適用対象金額のうち、措置法68条の90第1項に規定する個別課税対象金額に相当する金額は、その連結法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2か月を経過する日を含むその連結法人の各連結事業年度の連結所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定している。(以下、上記各規定による益金算入の枠組みを「外国子会社合算税制」ということがある。)
(2)特定外国子会社等の範囲について
 租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)39条の114第1項は、外国子会社合算税制の対象となる「特定外国子会社等」とは、法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に所在する外国関係会社(同項1号)及び各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の20未満である外国関係会社(同項2号)をいう旨定めている。
 また、ここでいう「外国関係会社」とは、措置法2条2項1号の2に規定する外国法人で、その発行済株式又は出資の総数又は総額のうちに居住者及び内国法人並びに特殊関係非居住者が有する直接及び間接保有の株式等の数の合計数又は合計額の占める割合が100分の50を超えるものをいい(措置法68条の90第2項1号)、外国法人が、上記の外国関係会社に該当するかどうかの判定は、当該外国法人の各事業年度終了の時の現況によるものとされている(措置法施行令39条の120第1項)。
(3)適用除外要件について
 措置法68条の90第3項(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下、同項については同じ。)は、外国法人が特定外国子会社等に該当する場合であっても、同項所定の要件(以下「適用除外要件」という。)を満たした場合には、同条1項の規定(前記(1))を適用しない旨を定めている。適用除外要件としては、次のアからエまでのいわゆる事業基準、実体基準、管理支配基準及び非関連者基準又は所在地国基準が定められている。
ア 主たる事業が株式等又は債権の保有、工業所有権等の提供等でないこと(事業基準)
イ 本店所在地国において、主たる事業を行うに必要と認められる事業所、店舗、工場その他の固定施設を有していること(実体基準)
ウ その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること(管理支配基準)
エ 各事業年度においてその行う主たる事業の種類に応じて以下の(ア)又は(イ)に該当すること
(ア)当該特定外国子会社等の行う主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業又は航空運送業のいずれかに該当する場合には、その事業を主として当該特定外国子会社等に係る所定の関連者以外の者との間で行っている場合に該当すること(非関連者基準)
(イ)当該特定外国子会社等の行う主たる事業が上記(ア)の事業以外の事業である場合、その事業を主として本店所在地国において行っている場合に該当すること(所在地国基準)
(4)非関連者基準について
 非関連者基準については、原則として、各事業年度の収入金額等の合計額のうちに占める関連者(措置法40条の4第1項各号、66条の6第1項各号、68条の90第1項各号及び措置法施行令39条の117第7項各号に掲げる者をいう。)以外の者から収入するもの等の合計額の割合が100分の50を超える場合にこれを満たすものとされている(措置法施行令39条の117第8項各号)。
 そして、特定外国子会社等の主たる事業が保険業である場合には、当該各事業年度の収入保険料の合計額のうちに当該収入保険料で関連者以外の者から収入するものの合計額の占める割合が100分の50を超える場合に非関連者基準を満たすとされているところ(措置法施行令39条の117第8項5号)、上記「当該収入保険料で関連者以外の者から収入するもの」は、「当該収入保険料が再保険に係るものである場合には、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料に限る」とされている(同号括弧書き。以下「本件括弧書き」という。)。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実及び当裁判所に顕著な事実)
(1)当事者等

ア 原告について
  原告は、自動車、産業用車両及びその他の輸送用機器等の開発、製造、売買、賃貸借及び修理等を目的とする内国法人である。
イ 〇〇〇〇(以下「NGRE」という。)について
(ア)NGREは、英領バミューダ諸島(以下「バミューダ」という。)において2005(平成17)年3月15日に設立され、バミューダ保険法に基づく保険会社として登記された外国法人であって、その主たる事業は保険業である。
(イ)原告は、NGREの2015(平成27)年4月1日に開始し2016(平成28)年3月31日に終了する事業年度(以下「本件NGRE事業年度」という。)終了時において、NGREの発行済株式の総数を間接保有していた。
(ウ)本件NGRE事業年度について、バミューダの法令によりNGREに対して課される法人税に相当する税はなく、NGREのバミューダにおける所得に対する租税の負担割合は0%であった。
(エ)NGREは、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度(以下「本件連結事業年度」という。)における特定外国子会社等に該当する。
ウ △△△△(以下「NRFM」という。)について
(ア)NRFMは、メキシコ合衆国(以下「メキシコ」という。)に所在する金融業を営む外国法人である。
(イ)原告は、NRFMの2015(平成27)年1月1日から同年12月31日までの事業年度及び2016(平成28)年1月1日から同年12月31日までの事業年度の各終了の時において、NRFMの発行済株式の総数を間接保有していた。
(ウ)NRFMは、原告と特殊の関係にある法人(措置法施行令39条の117第7項5号)として、本件NGRE事業年度における原告の関連者に該当する。
エ □□□□(以下「AVM」という。)について
  AVMは、メキシコに所在し、保険業を営む法人である。AVMは、原告との資本関係はなく、本件NGRE事業年度において原告の関連者には該当しない。
オ 原告、NGRE、NRFM及びAVMの関係は、おおむね別紙3「概要図」のとおりである。
(2)NRFMと自動車購入者との間で締結したクレジット契約について
ア NRFMは、原告の企業グループが製造する自動車を割賦で購入しようとする者(以下「本件各顧客」という。)との間で、購入資金を貸し付けることを内容とする契約(以下「本件クレジット契約」といい、本件クレジット契約に基づく貸金債権を「本件クレジット債権」という。)を締結していた。
イ 本件クレジット契約には、以下のような定めがあった(甲2)。
(ア)借入人は、以下の保険契約を締結しなければならない。
 a 本件クレジット債権の未償還残高に利息等を加えたものを保障する生命保険(14条b)
 b 保険事故発生日後の本件クレジット債権の月額賦払金の少なくとも6か月分を保障する失業又は一時的な全身の障害に係る保険(14条c)
(イ)借入人は、上記(ア)の保険についてNRFMを最優先の受益者として指定しなければならない(14条)。
(ウ)借入人が、自己の責任において上記(ア)の保険に加入しない場合、NRFMは、借入人を代理して上記(ア)の保険契約を締結することができる(14条)。
(3)NRFMとAVMとの間で締結された元受保険契約について
ア NRFMは、AVMとの間で、保険期間を2014(平成26)年8月6日から2015(平成27)年8月5日までとする「債務者の死亡と失業に関する保険契約」及び同一の内容で保険期間を同月6日から2016(平成28)年8月5日までに更新する保険契約(以下、併せて「本件元受保険契約」という。)を締結した。
イ NRFMは、本件各顧客が前記(2)イ(ア)の保険として他の保険に加入しない場合、本件各顧客を本件元受保険契約に加入させることとしていた(弁論の全趣旨)。
ウ 本件元受保険契約は、メキシコ大蔵公債省が定めた規則であるメキシコグループ保険規則等に準拠するものである。
エ 本件元受保険契約には、以下のような定めがあった(甲3)。
(ア)本保険契約は、契約者と保険会社との間の合意によって締結され、被保険債務者の利益に資することを内容とする契約である。
(イ)本保険契約の契約者及び優先受益者はNRFMである。「契約者」とは、保険事故が発生した場合に本件クレジット債権の支払を保障する目的で被保険者集団を構成する適格債務者を指定し、本保険契約を締結する者をいう。また、本保険契約は、本件クレジット債権の未償還残高又は月額賦払金相当額の支払の保障を目的としているため、優先受益者の指定は取り消すことができない。
(ウ)本保険契約の「被保険者集団」は契約者と有効な自動車ローン契約を締結する自然人で構成される。「被保険債務者」は、本保険契約による保障を受け、被保険者集団を構成することに同意している自然人をいう。
(エ)本保険契約の保険事故事由は、本件各顧客の「死亡」、「失業」、「恒久的な全身の障害」及び「一時的な全身の障害」(以下これらを併せて「本件各顧客の死亡等」という。)である。
(オ)本体各顧客の「死亡」及び「恒久的な全身の障害」が発生した場合、AVMは、所定の限度額(甲3・1枚目)を上限として、本件クレジット債権の未償還残高を優先受益者に支払う。なお、本件各顧客が死亡した場合には、その遺族が保険金の請求手続を行う(甲18)。
(カ)本件各顧客の「失業」及び「一時的な全身の障害」が発生した場合、AVMは、所定の限度額(甲3・1枚目)を上限として、本件クレジット債権の月額賦払金6か月分を優先受益者に支払う。
(キ)上記(オ)及び(カ)の保障は、本件各顧客の自殺による死亡の場合、自殺未遂や自傷行為により障害が生じた場合、自己の意思による離職の場合等には適用されない。
(ク)保険料は、本件クレジット債権の期首残高1000ペソ当たり月額0.96ペソである。
(ケ)本件元受保険契約は、本件クレジット債権の返済期間中、効力を有し、本件クレジット債権が完済された場合には終了する。
(4)NRFMとAVMとの間で締結された役務提供契約について
ア NRFMは、2014(平成26)年7月1日、AVMとの間で、本件元受保険契約に付随する両当事者の義務等を定める役務提供契約(以下「本件役務提供契約」という。)を締結した。
イ 本件役務提供契約には以下のような定めがあった(甲5)。
(ア)「被保険者」とは、AVMが発行した保険により保障を受けるNRFMの顧客をいう。
(イ)NRFMが被保険者から本件元受保険契約の名目で代金を徴収する場合、この金額はAVMが定める保険料の額と一致しなければならない。いかなる場合も、NRFMは、本件各顧客から、保険料を上回る金額又はこれと異なる金額を徴収してはならない。
(ウ)NRFMは、本件元受保険契約に関連して被保険者から金銭を徴収する場合、当該金銭がAVMに送金されるまで、当該金銭の受託者として行為する。
ウ NRFMは、本件役務提供契約に基づき、本件各顧客から、本件元受保険契約に係る保険料に相当する金額を徴収し、同保険料をAVMに支払っていた(弁論の全趣旨)。
(5)AVMとNGREとの間で締結された再保険契約について
 AVMとNGREは、2014(平成26)年7月1日、契約期間を同日から5年間とし、AVMが本件元受保険契約において引き受ける全保険リスクの70%をNGREに対して再保険に付し、NGREが同リスクを引き受けることを内容とする再保険契約(以下「本件再保険契約」という。)を締結した。
(6)本件NGRE事業年度におけるNGREの収入保険料の状況
 本件NGRE事業年度におけるNGREの収入保険料の総額は5億2521万4976米ドル(①)であったところ、そのうちAVMを除く非関連者から受領した収入保険料は2億5318万3120米ドル(②)であり、AVMから受領した本件再保険契約に基づく収入保険料は1149万3075米ドル(③)であった。上記②の金額は上記①の金額の100分の50を超えないが、上記②の金額に上記③の金額を加算すると、上記①の金額の100分の50を超えることとなる。
(7)本件における課税処分の経緯等について
ア 原告は、法人税に係る連結納税の承認を受けていたところ、法定申告期限内である平成29年7月31日、処分行政庁に対し、本件連結事業年度の法人税及び原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税に係る確定申告書(以下「本件連結確定申告書」という。)を提出した。原告は、上記確定申告において、NGREの主たる事業は保険業であり、前記1(3)の適用除外要件を全て満たすとして、外国子会社合算税制を適用しなかった。
イ 処分行政庁は、平成30年6月27日、本件法人税当初更正処分及び本件法人税当初賦課決定処分並びに本件地方法人税当初更正処分及び本件地方法人税当初賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件当初各更正処分等」という。)をした。
  本件当初各更正処分等において、処分行政庁は、NGREについて、本件再保険契約に係る収入保険料は、措置法施行令39条の117第8項5号に規定する「関連者以外の者から収入するもの」に該当せず、同号に規定する割合が100分の50を超えないこととなる結果、非関連者基準を満たさないとして、外国子会社合算税制を適用した。
ウ 原告は、平成30年9月26日、国税不服審判所長に対し、本件当初各更正処分等の一部(NGREについて外国子会社合算税制を適用した部分)の取消しを求めて審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、令和元年9月3日、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
エ 原告は、令和2年3月4日、本件当初各更正処分等のうち原告主張額を超える部分の取消しを求めて、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
オ 処分行政庁は、令和2年7月31日、本件法人税再更正処分及び本件地方法人税再更正処分並びにこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
カ 原告は、令和2年10月13日、本件訴えを、本件法人税再更正処分及び本件地方法人税再更正処分のうち原告主張額を超える部分並びに本件法人税当初賦課決定処分及び本件地方法人税当初賦課決定処分のうち原告主張額を超える部分の取消しを求める訴えに変更する旨の申立てをした(顕著な事実)。
キ 前記アの確定申告、前記イ及びオの各更正処分等に係る税額等は別表1−1「本件法人税再更正処分等に係る課税の経緯」及び別表1−2「本件地方法人税再更正処分等に係る課税の経緯」のとおりである。
3 各課税の根拠及び適法性に関する被告の主張
 本件法人税再更正処分及び本件地方法人税再更正処分並びに本件法人税当初賦課決定処分及び本件地方法人税当初賦課決定処分の根拠及び適法性に関する被告の主張は、後記5(被告の主張)のほか、別紙4「被告の主張を前提とした各課税の根拠及び適法性」記載のとおりである。なお、原告は、争点に関する部分を除き、その計算の基礎となる金額及び計算方法を争っていない。
4 争点
 本件の争点は、本件再保険契約に係る収入保険料が、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当するか否かである。
5 争点に関する当事者の主張
(被告の主張)
(1)本件括弧書きの「保険の目的」の意義について

ア(ア)保険業に限らず一般に、特定外国子会社等とその関連者との取引が非関連者を介在させて間接的に行われている場合には、そのような介在をさせることについて相当の理由がある場合を除いて、当該取引は、その特定外国子会社等と関連者との間において直接行われたものとみなして非関連者基準を適用する旨定められている(措置法施行令39条の117第9項)。しかし、再保険取引の形で非関連者が介在する場合には上記規定の取扱いが不明確であるという問題が指摘されていた。そこで、関連者取引に再保険取引の形で非関連者を介在させることにより非関連者基準が充足されることを制限する趣旨から、本件括弧書きを設け、再保険に係る収入保険料の非関連者基準の判定について、保険契約によって担保される保険危険の過半が非関連者の財産等に係るものか否かという基準、より具体的には、その保険の目的が非関連者の有する資産又は非関連者の負う損害賠償責任であるか否かを判断基準として明示したものである。
 (イ)そして、保険契約によって担保される保険危険が非関連者の財産等に係るものか否かによって収入保険料の取扱いが決められ、非関連者取引の判断基準とされていることや、保険契約の本質、上記の本件括弧書きが設けられた趣旨に照らせば、再保険契約によって担保される保険危険が非関連者の財産等に係るものであるか否かは、再保険に係る収入保険料が、非関連者の財産等に係る保険危険を担保することに対する対価と同視し得るか否かという見地から検討されなければならない。加えて、本件括弧書きの文理上、「非関連者の有する資産」や「非関連者の負う損害賠償責任」を「保険の目的」と位置付けていることをも踏まえると、「保険の目的」とは、経済需要を生じさせる保険事故が生じた際に保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象のことをいうものと解するのが相当である。
 (ウ)保険契約には様々な種類のものが存在し、その契約の内容は、個々の契約条項により定まるから、上記「保険の目的」は、個別の保険契約の契約条項等の内容に応じて把握すべきである。
イ これに対して、原告は、本件括弧書きが定められた平成7年度税制改正当時の商法(以下、「旧商法」という場合には、この当時の商法をいう。)における「保険ノ目的」の解釈を参照し、本件括弧書きにおける「保険の目的」は「保険事故発生の客体」を意味するものである旨主張する。しかしながら、旧商法における「保険ノ目的」は、保険法における「保険の目的物」と同義であり、個人賠償責任保険などは「保険の目的物」を特定することができないものと解されている。他方、本件括弧書きにおける「関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」は、賠償責任保険を前提としており、それにもかかわらず、本件括弧書きの「保険の目的」が「保険の目的物」と同義であると解することは困難である。原告は、責任保険における保険事故発生の客体は、当該加入者が負担した損害賠償等の責任であるなどと主張するが、「保険事故発生の客体」は財産的価値を有する資産を意味するものと解されるのであって、原告の主張は保険の目的物という概念からかい離した独自の解釈である。
ウ 原告は、令和元年度税制改正により設けられた措置法施行令39条の114の2第28項5号ロ(2)(平成31年政令102号による改正後のもの。以下同じ。)は、「被保険者」が非関連者か否かにより、非関連者基準の判定を行うものであり、これは本件括弧書きの解釈を政令として明文化したものであるといえるなどと主張する。
  しかしながら、本件括弧書きは、再保険に係る収入保険料について、非関連者取引に当たる場合の基準を定めたものであるのに対し、措置法施行令39条の114の2第28項5号ロ(2)は、原則として関連者取引に当たるグループ内再保険取引につき、例外的に非関連者取引と取り扱う要件の一つとして、保険引受けによる所得を保険リスクの所在地国から別の国に移転する可能性が相対的に低いものに限るため、外国関係会社の本店所在地国等に住所を有する被保険者とするものの占める割合が95%以上であることを規定するものであるから、本件括弧書きとは問題となる場面が全く異なるものである。また、本件括弧書きは、令和元年度税制改正時にも存在していたところ、上記改正後も同一の文言で規定されていることからしても、令和元年度税制改正は、本件括弧書きにおける「保険の目的」の解釈に何ら影響を与えるものではない。
(2)本件元受保険契約はNRFMが有する本件クレジット債権を保険の目的とする保険であること
ア 本件元受保険契約は、NRFMが契約当事者であり、本件クレジット契約により加入を義務付けられる所定の保険に本件各顧客が加入しない場合に、NRFMが本件クレジット契約により付与された権限に基づき本件各顧客に供与した貸付金の弁済を保障する目的で締結するものである。そして、本件元受保険契約では、本件各顧客の死亡等の保険事故が生じた場合に、優先受益者であるNRFMに対し、本件クレジット債権に係る未償還残高全額又は月額賦払金6か月分に相当する額の保険給付が行われ、本件クレジット債権に係る借入債務の弁済を保険給付により行うことが明示されており、本件各顧客が保険給付について自己の財産として自由に使用することは予定されていない。また、本件元受保険契約は、本件クレジット債権の返済期間内は存続し、その借入れの完済により終了することとされ、NRFMが契約者として支払う保険料も本件クレジット債権に係る借入残高に応じて定まっていた。
  以上のような本件元受保険契約の成立、終了、保険料額、保険事故、保険給付に係る各条項や仕組みは、全て、保険事故が生じた際に、NRFMが優先受益者として受領する保険給付により本件クレジット債権の回収を確実にし、本件クレジット債権が回収不能となる危険(信用危険)を排除するために設けられたものであるといえる。そうするとNRFMが本件元受保険契約により保障等を得ようとする対象は、本件クレジット債権であるといえる。他方、本件元受保険契約による保険給付により、結果的に債務が減少するという本件各顧客の利益は、本件クレジット債権が回収されたことによる反射的な効果にすぎない。
イ これに対して、原告は、本件元受保険契約の保険事故事由は、本件各顧客の死亡等とされていることから、保険危険が帰属するのは、本件各顧客であって、NRFMではない旨主張する。
  しかしながら、保険の目的は、個別の保険契約の契約条項等の内容に応じて把握すべきものであり、保険契約の条項の一部にのみ着目するのは適切でない。そして、上記アの本件元受保険契約の各条項や仕組みを踏まえると、上記の本件各顧客の死亡等という保険事故事由についても、本件クレジット債権の回収が不能困難となることによりNRFMに経済需要を生じさせる事由であると評価できる。他方、原告が主張するように、担保される保険危険が本件各顧客の死亡等であって、本件クレジット債権が回収不能となる危険を担保するものではないとすると、なぜNRFMが本件元受保険契約の契約者となり、存立・終了や保険給付額、保険料が本件クレジット債権の返済期間や未償還残高等に左右され、保険給付が本件クレジット債権に係る債務の弁済に充てられるか等を合理的に説明することができない。したがって、原告の主張には理由がない。
ウ 原告は、本件各顧客の自殺等が免責事由とされていることは、本件元受保険契約の保険の目的が本件各顧客の生命や身体であることを示している旨主張する。
  しかしながら、自殺等が免責事由とされている理由は、被保険債務者が保険事故を故意に招致することは射倖契約である本件元受保険契約の性質上要請される当事者間の信義誠実に反するし、そのような場合に保険金が支払われるとすれば、本件元受保険契約が不当な目的に利用される可能性が生じるため、これを防ぐ必要があるという点にあるものと解される。したがって、上記免責事由の定めから、本件元受保険契約が担保する保険危険や保険の目的を導き出すことはできず、原告の主張には理由がない。
エ 原告は、本件元受保険契約の保険料の出捐者はNRFMではなく本件各顧客であって、このことは、当該保険料が本件各顧客の生命、身体に係る保険危険を担保することに対する対価であることを示していると主張する。
  しかしながら、本件元受保険契約の保険料は、本件各顧客が車両の購入代金を調達し、車両の購入を可能とするという便益を享受するための対価(手数料)としての性格を有するものというべきであって、保険料の出捐者が本件各顧客であることを理由に、本件元受保険契約の「保険の目的」が本件各顧客の生命、身体等であると解することはできない。
オ 原告は、本件元受保険契約において、本件各顧客の死亡時に親族からの請求があって初めて保険金が支払われることとされていることは、本件各顧客の親族が本来の受益者であって保険危険が本件各顧客に帰属することを示しているなどと主張する。
  しかしながら、本件各顧客の死亡時に、その親族からの請求により保険金が支払われることとされているのは、本件各顧客の死亡等の保険事故の発生は、保険契約者であるNRFMが容易に知り得ない一方で、本件各顧客やその親族においては容易に知り得るし、本件元受保険契約上も、請求者が填補される損害に係る全ての証拠をAVMに提出しなければならないものとされており、その証拠収集をし得るのも親族であるからであるにすぎない。
(3)結論
 以上のとおり、本件元受保険契約は、関連者であるNRFMの有する本件クレジット債権を保険の目的とする保険であるから、本件再保険契約に係る収入保険料は、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」には該当しない。
(原告の主張)
(1)本件括弧書きの「保険の目的」の意義について

ア(ア)旧商法においては、損害保険のうち、物保険について「保険ノ目的」という文言が用いられる一方で、責任保険及び生命保険について「保険ノ目的」という文言は用いられていなかった。このように、旧商法の「保険の目的」と本件括弧書きの「保険の目的」は完全に一対一で対応するわけではなく、その意味において、本件括弧書きの「保険の目的」は租税法令固有の概念であるが、物保険については旧商法と同一の文言が用いられている以上、旧商法の借用概念と解すべきであり、物保険に係る「保険の目的」は、旧商法上の「保険ノ目的」すなわち「保険事故発生の客体」を意味すると解釈することが自然かつ合理的である。そして、本件括弧書きにおける責任保険及び生命保険に係る「保険の目的」の解釈に当たっても、物保険に関する上記の解釈を援用して、「保険の目的」とは「保険事故発生の客体」であると解することが合理的である。具体的には、責任保険は、加入者が負担した法的責任を担保するものであるから、このような法的責任が保険事故発生の客体であり、生命保険においては、加入者である人が保険事故発生の客体である。
 (イ)上記のとおり本件括弧書きにいう「保険の目的」を「保険事故発生の客体」と解釈することは「目的」という文理上も自然である。また、平成7年度税制改正で本件括弧書きが設けられた趣旨は、特定外国子会社等の総収入保険料に占める非関連者からの収入保険料が過半かどうかを判定する際に、保険契約によって担保される保険危険の過半が非関連者の財産等に係るものかどうかという判断基準を明示した点にある。このような立法趣旨からすると、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」か否かは、「非関連者の財産等に係る保険危険」か否かと実質的に同義であるといえ、「保険の目的」とは保険危険の客体を意味すると解すべきである。そして、「保険危険」とは保険事故そのもの又は保険事故発生の一般的可能性を意味すると解されていることからすれば、本件括弧書きの「保険の目的」を「保険事故発生の客体」と解することは、上記立法趣旨に沿うものである。
 (ウ)以上のとおり、本件括弧書きにおける「保険の目的」とは、保険事故発生の客体であると解すべきであるから、「保険の目的」の所在を判断するに当たっては、保険事故及びこれと裏表の関係にある免責事由の具体的な内容、被保険者が誰であるか(関連者か否か)、並びに保険料の負担者が誰であるか(関連者か否か)という事実に着目する必要があり、かつ、それで足りる。他方で、保険金が誰に支払われるか、保険契約者が誰であるか、保険に加入する経済的動機や背景等の事情は「保険の目的」の認定とは無関係である。
イ これに対して、被告は、本件括弧書きにいう「保険の目的」とは「経済需要を生じさせる保険事故が生じた際に保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象」をいうと主張するが、その内容は極めて不明確である。被告の主張は、結局のところ、本件括弧書きの「保険の目的」とは「保険金が支払われた者」の財産をいうとするものであるが、客観的な根拠に裏付けられたものではないし、被告の述べる本件括弧書きの趣旨から上記解釈を導くことには論理の飛躍がある。保険契約者や保険金受取人が誰であるか、保険契約外の様々な取り決めを反映した経済的動機、目的等は、本件括弧書きの「保険の目的」の解釈には一切影響しない。このことは、火災保険契約の保険の対象とされた建物や工場等に抵当権が設定されている場合に、仮に当該抵当権者が保険金を受け取るものとされていたとしても、当該火災保険契約に係る「保険の目的」は上記建物や工場等と解すべきであることからも明らかである。
ウ 令和元年度税制改正において所定の要件を満たす再保険に係る保険料について関連者から収入する保険料に該当しないとする旨の規定が設けられたところ、措置法施行令39条の114の2第28項5号ロ(2)は、上記要件の一つとして、「再保険の引受けに係る保険に係る収入保険料の合計額のうちに関連者以外の者(当該外国関係会社の本店所在地国と同一の国又は地域に住所を有する個人又は本店所在地国と同一の国又は地域に住所を有する個人又は法人若しくは主たる事務所を有する法人に限る。)を被保険者とする保険に係るものの占める割合が100分の95以上であること」を定めている。同号ロ(2)は、保険危険が非関連者に帰属するものであるか否かを問う点において本件括弧書きと立法趣旨を同じくするものであるところ、その保険が損害保険であるか生命保険等であるかを問うことなく、およそ「被保険者」が非関連者であるか否かにより、上記要件の該当性を判断することとしている。これは、本件括弧書きの解釈を政令として明文化したものといえる。このことは前記アの原告の「保険の目的」の解釈が正しく、保険契約者や保険金受取人が誰であるかは、保険の目的の認定判断とは関係がないことを裏付けている。なお、令和元年度税制改正において本件括弧書きに相当する文言が改正されずに維持されていることは、本件括弧書きの解釈に当たり、同号ロ(2)の規定を参照すべきことを否定する根拠となるものではない。
(2)本件元受保険契約は、本件各顧客の生命又は身体を保険の目的とする保険であること
ア 本件元受保険契約における保険事故は、本件各顧客の死亡等であり、本件クレジット債権が弁済不能になったこと又はそのおそれがあることなど本件クレジット債権に着目した事由は保険事故とされていない。このことは、本件元受保険契約の保険の目的が本件各顧客の生命又は身体であって、本件クレジット債権ではないことを端的に示している。被告は、上記保険事故事由は、本件クレジット債権の回収が不能困難になることによりNRFMに経済需要を生じさせる事由と評価することができるなどと主張するが、上記保険事故事由が発生したとしても、本件各顧客の資産状態等によっては論理必然的に本件クレジット債権の回収が不能困難となるわけではないから、被告の主張には理由がない。
イ 本件元受保険契約は、自殺による死亡等、保険事故のうち本件各顧客の故意又は自らの意思に起因する保険事故を免責事由として、保障の対象から除外している。これは、本件元受保険契約が本件各顧客の死亡、恒久的な全身の障害、一時的な全身の障害又は非自発的失業、ひいては本件各顧客の生活を維持する能力や所得を稼得する能力の喪失という保険危険を担保するものであることから、本件各顧客が故意又は自らの意思によりそのような保険危険を惹起した上で、自らを利することは妥当ではないという判断に基づき規定されたものである。したがって、上記免責事由の定めは、本件元受保険契約の保険の目的が、本件クレジット債権ではなく本件各顧客の生命や身体であることを端的に示している。
ウ 本件元受保険契約において、「被保険債務者」は「本保険契約による保障を受け、被保険者集団を構成することに同意している自然人」であると定義されているから、本件元受保険契約の被保険者は本件各顧客である。また、本件役務提供契約においても本件元受保険契約における被保険者は本件各顧客であるとされている。そうすると、本件元受保険解約の保険料は、被保険者である本件各顧客の生命や身体に係る保険危険を担保することに対する対価ということができる。
エ 本件役務提供契約に従い、NRFMはAVMに支払われる保険料と全くの同一の金額を本件各顧客から徴収している。そしてNRFMはAVMに対する支払の名義人とはなっているものの、NRFMは飽くまで本件各顧客から受領した金銭の受託者として、本件各顧客から受領した金銭をそのままAVMに支払っているのみであるから、本件元受保険契約の保険料の出捐者は、NRFMではなく本件各顧客である。本件各顧客が保険料を負担している理由は、当該保険料が自らの保険危険の担保に対する対価であるからにほかならないのであり、このことは、本件元受保険契約の収入保険料が非関連者である本件各顧客の生命や身体に係る保険危険を担保することに対する対価であることを示している。
オ 本件各顧客が死亡した場合の保険金の支払手続についてみると、被保険者たる本件各顧客の親族からの請求があって初めて保険金が支払われるものとされており、このことは被保険者である本件各顧客の親族が本件元受保険契約の本来の受益者であり、保険危険が被保険者である本件各顧客に帰属することを示している。
(3)団体信用生命保険及び債務返済支援保険に係る課税当局の取扱いを参照すべきであること
 本件各顧客が我が国の居住者であると仮定した場合の本件元受保険契約の税務上の取扱いについては、団体信用保険や債務返済支援保険に関する取扱いを参照すべきである。この点、課税当局は、団体信用生命保険に係る文書回答事例(甲19)において、「保険事故が高度障害であった場合の報酬支払債務又は代金支払債務の免除に関しては、その利益が身体の傷害に起因して受けるものであるので所得税の課税関係は生じない」旨の見解を示している。さらに、債務返済支援保険に係る質疑応答事例(甲20)では、「債務返済支援保険は…その保険事故も被保険者の障害又は疾病による就業障害としていることからすれば、一般の所得補償保険と同様に『身体の傷害に起因して支払を受けるもの』に該当すると認められ、その保険金は非課税とされます。」旨の回答が示されている。すなわち、課税当局は、団体信用生命保険や債務返済支援保険においては、当該保険金の支払により被保険者に所得つまり経済的利得が生ずること及び当該所得が「身体の傷害に起因して支払を受けるもの」に該当することを当然の前提としている。
 このように課税当局は、団体信用生命保険や債務返済支援保険において、保険金の支払先、保険金の金額の定め方や代金債権の回収を確実にすることを担保するという経済的動機・目的にかかわらず、保険事故や被保険者に着目して保険危険は被保険者に帰属すると判断し、保険事故発生の客体も被保険者の身体と判断しているのであるから、本件元受保険契約についても、上記団体信用生命保険や債務返済支援保険と同様に取り扱われると考えることが合理的である。
(4)メキシコグループ保険規則における取扱いについて
 本件元受保険契約はメキシコグループ保険規則に準拠するものであるところ、同規則は、「グループ保険」及び「集団保険」を、「生命に係る危険」や「事故又は病気に係る危険」からグループ又は集団を保障することを目的とする保険であると定めている。この規定は、保険契約が担保する保険危険としての「保険の目的」を示すものである。他方で、同規則12条は「保険契約の目的」が「契約者からの貸付金を保障する場合」等を除き、契約者を受益者とすることができない旨定めているが、ここにいう「保険契約の目的」は、保険契約者側の経済的動機又は背景という意味にすぎない。
 そうすると、メキシコグループ保険規則上の「グループ保険」又は「集団保険」に分類される本件元受保険契約の法的な保障の対象は被保険者である本伴各顧客の生命や身体である一方、本件クレジット債権の債務不履行の危険を回避するというNRFMの利益は間接的な経済的動機又は背景にすぎないことになる。
(5)結論
 以上のとおり、本件元受保険契約は、非関連者である本件各顧客の生命、身体等を保険の目的とする保険であるから、本件再保険契約に係る収入保険料は、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当する。
(原告の主張(3)及び(4)に対する被告の反論)
(1)団体信用生命保険及び債務返済支援保険に係る課税当局の取扱いについて

 そもそも原告の引用する①団体信用生命保険に係る文書回答事例(甲19)及び②債務返済支援保険に係る質疑応答事例(甲20)は、外国子会社合算税制における非関連者基準に対する回答ではないし、本件括弧書きにおける「保険の目的」に関する解釈について何らの見解を示すものでもない。
 上記①の回答事例についてみると、団体信用生命保険において、住宅建築会社または住宅販売会社が保険会社から受け取る保険金は、建築請負契約又は売買契約に係る収入金額となり、顧客に対する債務免除について、寄付金等の問題は生じない旨記載されている。これは団体信用生命保険の保険給付による経済的利益は住宅建築会社または住宅販売会社に生じるのであり、被保険者である顧客の経済的利益は債務免除の結果として反射的に生じるにすぎないことを示している。また、上記②の質疑応答事例においては、国税庁は、債務返済支援保険において、保険事故が生じ、住宅ローン債務者が保険金の支払を受けた場合に関し、当該保険金は「身体の傷害に起因して支払を受けるもの」に該当するため非課税である旨回答している。これに対して本件元受保険契約において保険金の支払を受けるのはNRFMであって、本件各顧客ではないから、上記回答に係る事例と同様の課税関係が生じるものではない。
(2)メキシコグループ保険規則における取扱いについて
 原告は、メキシコグループ保険規則の「グループ保険」や「集団保険」の定義を根拠に、「生命に係る危険」や「事故又は病気に係る危険」が「保険の目的」である旨主張するが、前記(被告の主張)(1)ア(ウ)のとおり「保険の目的」は具体的な保険契約の内容に応じて把握されるものであり、問題とされる保険契約の具体的条項や仕組みを離れて、同保険契約の準拠する法令の抽象的な定義規定のみから、当該保険契約が担保する保険危険や「保険の目的」を導き出すことが適切であるとはいい難い。

第3 当裁判所の判断
1 本件括弧書きにいう「保険の目的」の解釈について

(1)措置法68条の90第1項は、連結法人である内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行うことにより、我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから、このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し、同項の定める個別課税対象金額を連結法人の所得の計算上益金の額に算入することをしたものであると解される。しかし、特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで上記の取扱いを及ぼすとすれば、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがあることから、同条3項の適用除外要件が全て満たされる場合には同条1項の規定を適用しないこととしている(最高裁平成28年(行ヒ)第224号同29年10月24日第三小法廷判決・民集71巻8号1522頁参照)。
(2)措置法68条の90第3項の定める適用除外要件のうち所在地国基準は、当該事業にとって本質的な行為の行われる場所が主として本店所在地国にあり、その地の経済と密接に関連して事業を行っていると評価することができる場合には、当該特定外国子会社等が本店所在地国において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性があるといえることから、外国子会社合算税制の適用除外要件の一つとされたものであると解される。
  他方、措置法68条の90第3項は、保険業を含む同項1号所定の事業(以下「保険業等」という。)については、所在地国基準に代えて非関連者基準を適用除外要件の一つとしている。非関連者基準は、保険業等を営む特定外国子会社等については、当該事業の性質上、事業活動の範囲が必然的に本店所在地国以外にも及ぶことが想定されるため、所在地国基準によることは相当ではなく、取引の相手方に着目し、当該事業が主として関連者以外の者との取引から成り立っている場合には、そのことをもって、その地に所在することの経済的合理性を認めることができると考えられることから、所在地国基準に代わる適用除外要件の一つとされたものであると解される。
(3)そして、保険業を主たる事業とする特定外国子会社等については、各事業年度において、非関連者からの収入保険料が、収入保険料の総額の100分の50を超えるか否かによって非関連者基準を充足するか否かを判断することとされている(措置法施行令39条の117第8項5号)。また、保険業等に係る非関連者基準の判定については、特定外国子会社等とその関連者との取引が非関連者を介在させて間接的に行われている場合には、当該非関連者を介在させることについて相当の理由があると認められる場合を除き、当該特定外国子会社等と当該関連者との間で直接行われたものとみなして非関連者基準を適用することとされている(同条9項)。
  この点に関し、平成7年度税制改正前は、出再者(元受保険契約の保険者)が自己の負担する保険責任の一部又は全部を受再者(再保険契約の保険者)に転換することを目的とする再保険取引において非関連者が介在する場合には、同項のみなし規定が適用されるか否かが必ずしも明確でなかった。そして、国内の親会社が実質的には海外子会社に保険料を支払う場合でも、直接の保険契約とするのではなく、いったん非関連者との保険契約を締結することにより、非関連者基準が充足されると解釈され、外国子会社合算税制の潜脱となるおそれがあったことから、平成7年度の税制改正において、再保険に係る収入保険料については、その保険の目的が非関連者の有する資産又は非関連者の負う損害賠償責任である保険に係る収入保険料に限り、非関連者からの収入保険料に含めて、非関連者基準の判定を行うこととする判断基準(本件括弧書き)が明示されたものである。
  以上の本件括弧書きが規定された趣旨に照らせば、本件括弧書きは、関連者取引に再保険取引の形で非関連者を介在させることにより非関連者基準が充足されることを制限するため、特定外国子会社等が、形式的には非関連者から再保険に係る保険料を収受している場合であっても、元受保険契約により保障や填補を得ようとする対象が関連者について生じる経済的不利益である場合には、当該再保険契約は、実質的には関連者の保険危険を負担するものにほかならないとして、これを非関連者に係る収入保険料には含めずに非関連者基準の判定を行うこととしたものと解される。そうすると、本件括弧書きにいう「保険の目的」とは、保険事故が生じた際に保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象のことをいうものと解するのが相当である。
  そして、保険契約には様々な種類・内容のものがあり得ることから、保険契約により保障、填補を受けようとする対象は、当該保険契約における保険事故や免責事由の定めのみではなく、個々の保険契約の内容や取引の実態等を踏まえて実質的に判断するのが相当である。
(4)これに対して、原告は、本件括弧書きが定められた平成7年の税制改正当時の旧商法上の物保険に係る「保険ノ目的」が「保険事故発生の客体」を意味するものであるから、本件括弧書きにいう「保険の目的」についても上記解釈を参照して「保険事故発生の客体」を意味すると解すべきであり、したがって、本件括弧書きにいう「保険の目的」を判断するに当たっては、保険事故や免責事由の具体的な内容を中心に解釈すべきである旨主張する。
  しかしながら、旧商法641条及び650条等にいう「保険ノ目的」は、保険法6条1項7号にいう「保険の目的物」と同義であると解され、同号は、「保険の目的物」を「保険事故によって損害が生ずることのある物として損害保険契約で定めるものをいう」と定義しており、例えば、火災保険における建物・家財、信用保険における債権がこれに当たるところ、そのような「物」を特定することができない責任保険等については「保険の目的物」を観念することはそもそも困難である。また、同号は「保険の目的物…があるときは」と定めており、「保険の目的物」が存在しない損害保険契約があることを当然の前提としている。このような保険法の定めによれば、同法にいう「保険の目的物」は、専ら、特定の物について生じる事情を保険事故とする物保険に係る概念であるというべきであり、この点は同義である旧商法の「保険ノ目的」についても同様である。
  他方で、本件括弧書きは、「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」という文言からして、当該保険が責任保険等である場合にも適用されるものである。そうすると、本件括弧書きの「保険の目的」の解釈において、専ら物保険を対象とする旧商法の「保険ノ目的」及び保険法の「保険の目的物」の解釈をそのまま援用することは相当ではない。したがって、この点に関する原告の主張には理由がない。
(5)また、原告は、令和元年度税制改正により設けられた措置法施行令39条の114の2第28項5号ロ(2)は、本件括弧書きの解釈を政令として明文化したものであって、これによれば本件括弧書きにおいても、保険事故発生の客体である被保険者が非関連者であるか否かにより、非関連者基準該当性が判断されるべきであるなどと主張する。
  しかしながら措置法施行令39条の114の2第28項5号ロは、同一国内で実体のある保険事業が一体的に経営されている保険グループ内における再保険取引(特定保険委託者とその特定保険委託者に係る特定保険受託者との間で行われる再保険等)については、資本の効率的使用と収益性向上の観点から一定の合理性が認められる場合があることから、所定の要件を満たすことを条件に、上記再保険取引に基づく収入保険料を、非関連者基準の適用に当たって関連者から収入する保険料には含めないこととしたものである。そして、同号ロ(2)は、上記のような保険グループ内における再保険取引であっても、保険の引受けによる所得を保険リスクの所在地国から別の国に移転することによって租税回避がされるおそれがあることから、これを防止するため、再保険の引受けに係る保険に係る収入保険料のうち、本店所在地国等に所在する非関連者を被保険者とする保険に係るものの占める割合が95%以上であることを要件とするものである。措置法施行令39条の114の2第28項5号ロ(2)は、以上のように、保険の引受けによる所得を保険リスクの所在地国から別の国に移転することによる租税回避を防止するという観点から、本店所在地国等に所在する非関連者である被保険者の割合に着目するものであって、本件括弧書きとはその制度趣旨を異にするものであり、だからこそ、令和元年度税制改正によって措置法施行令39条の114の2第28項5号ロ(2)が規定された一方、本件括弧書きの文言は改正されなかった(同号イ参照)ものと解されるから、同号ロ(2)が本件括弧書きの趣旨を明文化したものであるということはできない。したがって、この点に関する原告の主張には理由がない。
2 本件元受保険契約における「保険の目的」について
 上記1において判示したとおり、本件括弧書きにいう「保険の目的」は、保険事故が生じた際に保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象のことをいい、保険契約における保険事故や免責事由の定めのみではなく、個々の保険契約の内容や取引の実態等を踏まえて実質的に判断するのが相当であるから、以下、これに従って本件元受保険契約における「保険の目的」について検討する。
(1)前提事実(2)及び(3)のとおり、NRFMは、自動車の購入資金を割賦で支払う本件各顧客に対し、本件クレジット契約を締結して購入資金を貸し付けているところ、本件クレジット契約は、貸付を受けた本件各顧客に対して、他にNRFMを優先受益者とする保険に加入しない限り、本件元受保険契約に加入することを義務付け、本件各顧客が上記両保険に加入しないときは、NRFMは、本件各顧客を代理して所定の保険を契約する権限を有するとしている。そして、AVMは、保険事故事由が発生した場合、「死亡」、「失業」、「恒久的な障害」及び「一時的な全身の障害」のいずれの事由であっても、本件クレジット債権の未償還残高又は月額賦払金6か月分に相当する金額を、本件各顧客ではなく優先受益者であるNRFMに支払うこととされ、優先受益者をNRFMから変更することはできないものとされている。NRFMが支払義務を負う保険料の額は、本件クレジット債権の残額から算定され、NRFMは本件各顧客から保険料を回収している。そして、本件元受保険契約は本件クレジット契約の返済期間中に限り効力を有し、本件クレジット債権が完済された場合には、本件元受保険契約も終了することとなる。
  以上の本件クレジット契約と本件元受保険契約との関係及び同契約の内容等、とりわけ、本件クレジット契約を締結した本件各顧客は、NRFMが優先受益者として保険給付を受けるという内容を含む保険契約の締結を事実上義務付けられ、本件各顧客の死亡等の保険事故が生じた場合に、優先受益者であるNRFMに対し、「死亡」、「失業」「恒久的な障害」及び「一時的な全身の障害」のいずれの事由であっても、本件クレジット債権の未償還残額又は月額賦払金6か月分を限度として保険給付がされ、本件各顧客が同保険給付を自己の財産として自由に利用することは予定されておらず、本件元受保険契約の成立及び消滅は本件クレジット債権に付従することとされていることなどの事情を踏まえると、本件元受保険契約は、NRFMが優先受益者として受領する保険給付を本件クレジット債権の弁済に充てることによって、本件クレジット債権が回収不能となることに伴いNRFMに生じる経済的不利益を填補することをその内容とするものであると解される。
  そうすると、本件元受保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象は、NRFMが有する本件クレジット債権であると解するのが相当である。したがって、本件元受保険契約は、NRFMの有する資産を「保険の目的」とする保険に該当するというべきである。
(2)これに対して、原告は、本件元受保険契約における保険事故事由や免責事由の定め等を根拠に、本件元受保険契約は、本件各顧客の生活を維持する能力や所得を稼得する能力の喪失という保険危険を担保するものであって、その「保険の目的」は本件各顧客の生命や身体等である旨主張する。
  しかしながら、前判示に係る本件元受保険契約の内容、とりわけ、保険給付の優先受益者がNRFMとされ、本件各顧客は保険給付を自己の財産として自由に使用することはできないこと、保険給付の額が「死亡」、「失業」、「恒久的な障害」及び「一時的な全身の障害」のいずれであっても、本件クレジット債権の未償還残高又は月額賦払金6か月分を超えないこととされ、「死亡」や「失業」等の保険事故の事由により生じた能力の喪失の期間、程度に応じて保険給付の額を定めているものではなく、上記保険給付の上限額の内容も本件各顧客の「死亡」という保険事故に対応した内容とは評価できないこと、本件クレジット債権が完済された場合には本件元受保険契約が終了するとされていることなどの諸点は、本件元受保険契約が本件各顧客の生命や身体等について生じた損害を填補するものと解することとは相容れないというべきである。この点、原告は、NRFMが保険給付を受け取ることとされているのは、保険契約を締結する経済的動機、目的を示す事情にすぎず、「保険の目的」とは無関係であるなどと主張する。しかしながら、保険契約が、保険料の支払と引き換えに、偶然の一定の事故により生じることのある経済的損失を補填するために保険給付を支給することを約するものであることからすれば、上記のような保険給付の額や優先受益者に関する定めは、本件元受保険契約の内容そのものであって、単なる経済的動機、目的にとどまるものではないから、この点に関する原告の主張は採用することができない。
  なお、原告は、火災保険契約の目的物(建物等)に抵当権が設定されているという事例を挙げた上で、仮に当該抵当権者が保険金を受け取るものとされている場合であっても、当該火災保険契約に係る「保険の目的」は上記目的物(建物等)と解すべきであり、誰が保険金を受け取るかは「保険の目的」の認定とは無関係であるなどと主張する。しかしながら、前提事実(3)のとおり、本件元受保険契約における優先受益者の指定は、保険契約そのものにより取り消すことができないこととされているのであって、NRFMの地位は上記抵当権者の地位とは全く異なるものである。また、本件元受保険契約は、本件クレジット債権が弁済により消滅した場合には、これに伴って保険契約自体が終了するとされているのであって、この点においても原告の挙げる事例とは大きく異なる。したがって、上記事例は本件とは事例を異にするものであって、比較の対象としてそもそも適切ではなく、この点に関する原告の主張には理由がない。
(3)また、原告の指摘する保険事故事由や免責事由等の定めについてみても、以下に述べるとおり、本件元受保険契約の「保険の目的」を本件各顧客の生命や身体と解すべき根拠となるものではない。
ア 本件元受保険契約においては、本件各顧客の死亡等が保険事故事由とされているが、これは、本件各顧客の死亡等が、債務者である本件各顧客の支払能力に影響し、本件クレジット債権の回収不能リスクを高める事情であるからである。
  これに対し、原告は、本件各顧客の死亡等が生じても、その資産状態等によっては直ちに本件クレジット債権の回収が不能又は困難となるものではない旨主張するが、仮に一定の資産等を有し、直ちに回収が不能又は困難にならない場合があるとしても、多くの場合には、本件各顧客の死亡等はその支払能力に影響するものであるといえるから、本件クレジット債権の回収不能リスクの保障、填補を受ける目的で、本件各顧客の死亡等を保険事故事由とすることが不合理であるとはいえない。
  また、原告は本件クレジット債権が弁済不能となったことなど同債権に着目した事由が保険事故とされていないなどとも指摘するが、保証契約ではなく保険契約である以上、本件クレジット債権の弁済不能の場合を全て対象とするのではなく、一定の保険事故の場合に限定して保険給付をすることとした上で、本件クレジット債権の回収を不能又は困難となる事情のうち何を保険事故として定めるかについては、当該保険契約の定める保険料の額、保険給付の額等と保険事故の発生率等に応じて様々な場合があり得るから、本件各顧客の死亡や失業等は保険事故とする一方で、本件クレジット債権の弁済不能を保険事故としていないことが、本件元受保険契約の「保険の目的」が本件クレジット債権の回収不能リスクの保障、填補を受ける目的であると解釈することとの間で矛盾するものではない。
  したがって、原告主張に係る保険事故の定めを理由に、本件元受保険契約の「保険の目的」が本件各顧客の生命や身体であると解することはできないから、この点に関する原告の主張は、採用することができない。
イ 原告は、本件元受保険契約においては、本件各顧客の故意又は自らの意思に起因する保険事故を保障の対象から除外する旨の免責事由が定められているのは、故意に、生命を断ち、全身の障害を引き起こすなどの保険事故事由を引き起こし、自らを利することは妥当ではないとの趣旨に基づくものであり、保険の目的が本件各顧客の生命又は身体であることを示している旨主張する。
  しかしながら、本件元受保険契約の保険事故が発生した場合、保険給付が優先受益者であるNRFMに支払われることにより、本件各顧客も、その限度で本件クレジット債権に係る債務の弁済を免れるという反射的な利益を受ける関係にある。そうすると、上記のような免責事由が定められているのは、本件各顧客の故意又は自らの意思で保険事故事由を惹起し、これによって保険給付を受領することが、当事者間の信義誠実に反するとともに、保険リスクを多数の保険契約者間で分散するという保険の制度自体に反するためであると解される。したがって、上記免責事由の定めは、原告主張に係る趣旨に基づくものではないから、本件元受保険契約の「保険の目的」がNRFMの有する本件クレジット債権であると解することと何ら矛盾するものではなく、これを根拠として、本件元受保険契約の「保険の目的」が本件各顧客の生命又は身体であるということはできない。
ウ 原告は、本件元受保険契約における「被保険債務者」が本件各顧客であることから、保険料が被保険者である本件各顧客の生命や身体に係る保険危険の担保の対価である旨主張する。しかしながら、前判示のとおり、保険給付は優先受益者であるNRFMに対して支払われ、本件各顧客がこれを自由に使用することはできないとされていることからすれば、上記の被保険債務者の定めが、本件元受保険契約により保障、填補を得ようとする対象を示すものであるとはいえないから、原告の主張は理由がない。
エ 前提事実(4)において摘示したとおり、NRFMは、本件役務提供契約に基づき、本件各顧客から保険料に相当する額を徴収して、AVMに保険料を支払っているから、保険料の実質的な負担者は本件各顧客であるといえる。この点について、原告は、本件各顧客が自らの保険危険の担保に対する対価としての保険料を支払っている旨主張する。
  しかしながら、前判示のとおり、本件各顧客は、本件クレジット契約を締結するに当たって、本件元受保険契約又はNRFMを優先受益者とする他の保険契約の締結を義務付けられていることに照らせば、本件各顧客が保険料相当額を負担しているのは、本件クレジット契約により自動車の購入資金の貸付けを受けることに対する対価の一部として支払っているとみるべきである。したがって、本件各顧客が保険料相当額を負担していることをもって、本件元受保険契約の「保険の目的」が本件各顧客の生命又は身体であるとはいえず、原告の主張は採用することができない。
オ 原告は、本件各顧客が死亡した場合に、本件各顧客の遺族の請求があって初めて保険給付が支払われるものとされているのは、被保険者である本件各顧客の親族が本来の受益者であり、保険危険が本件各顧客に帰属することを示している旨主張する。
  しかしながら、本件各顧客が死亡した場合に本件各顧客の遺族による請求があって保険給付が支払われるのは、本件各顧客の死亡等がNRFMには容易に知り得ない事情であることを踏まえ、保険給付の請求手続を本件各顧客の遺族の請求によって開始することとしたものであって、飽くまで保険給付の請求手続を規定したものにとどまり、保険契約により保障、填補を得ようとする対象を示すものであるとはいえない。したがって、本件各顧客が死亡した場合に本件各顧客の遺族による請求があって保険給付が支払われるという上記手続の流れは、本件元受保険契約の「保険の目的」がNRFMの有する本件クレジット債権であると解することを妨げるものではない。
(4)原告は、仮に本件各顧客が我が国の居住者である場合の本件元受保険契約の税務上の取扱いについては、団体信用生命保険や債務返済支援保険に関する取扱いを参照すべきところ、これによれば、本件元受保険契約により担保されている保険危険は、本件各顧客に生じる身体の傷害であると解すべきである旨主張する。
  しかしながら、原告の指摘する団体信用生命保険に係る文書回答事例(平成15年2月26日付け東京国税局審理課長回答。甲19)は、住宅の建築請負契約等を締結した個人(顧客)が、住宅ローンが実行される前に死亡し又は高度障害を負った場合に、保険金をもって報酬等支払債務の残額に充てることとし、住宅建築会社等が顧客との間で、当該住宅建築会社等が当該保険金を受領したことを停止条件として、顧客の報酬等支払債務を免除する旨の債務免除特約を締結した場合において、当該債務免除特約に基づく債務免除益は、その利益が身体の傷害に起因して受けるものであるから、非課税所得に当たる旨を述べるものである(所得税法9条1項16号〔平成18年法律第80号による改正前のもの〕、所得税法施行令30条1号〔平成22年政令第50号による改正前のもの〕参照)。そして、上記債務免除特約に基づく債務免除益が所得税法上の「所得」に該当するとされているのは、所得税法が人の担税力を増加させる経済的利得は全て所得を構成するとする包括的所得概念を採用していることによるものであって、当該保険契約の「保険の目的」の所在を示すものではないから、原告の主張は前提を異にするものである。
  また、原告の指摘する債務返済支援保険に係る質疑応答事例(甲20)についてみても、ここでいう債務返済支援保険は、住宅ローン債務者のローン返済支援を目的として締結される保険契約であるが、保険金の受取人は金融機関ではなく住宅ローン債務者とされており、この点でそもそも本件元受保険契約とは保険の内容を全く異にするものである。加えて、上記質疑応答事例において、住宅ローン債務者に支払われる保険金が身体の傷害に起因して支払を受けるものに該当するから非課税所得に当たるとされているのは、上記文書回答事例の場合と同様、同保険金が包括的所得概念を採用する所得税法上の「所得」に該当することによるものであって、「保険の目的」の所在を示すものではない。したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。
(5)原告は、本件元受保険契約は、メキシコグループ保険規則上の「グループ保険」や「集団保険」に分類されるところ、同規則上、これらの法的な保障の対象は「生命に係る危険」や「事故又は病気に係る危険」とされている一方、本件クレジット債権の回収不能の危険を回避する目的については経済的動機・目的にとどまるものとされている旨主張する。
  しかしながら、前記1(1)及び(2)において判示したとおり、そもそも外国子会社合算税制は、法人税の負担の実質的な公平を図ることを目的とするものであって、その適用除外要件の一つである非関連者基準は、当該特定子会社等が、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性があるか否かを判定するための基準である。このような観点からすれば、非関連者基準の判定に関する本件括弧書きの「保険の目的」は、当該元受保険契約の契約内容や取引の実態等から実質的に判断されるべきであって、本店所在地国の規則等における分類によって形式的に判断することは相当でないから、この点に関する原告の主張は採用できない。
(6)以上によれば、本件元受保険契約は、関連者であるNRFMが有する本件クレジット債権を保険の目的とする保険であって、本件再保険契約に係る収入保険料は「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」には該当しない。
3 各課税処分の適法性について
(1)上記2のとおり、本件再保険契約に係る収入保険料は「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」には該当しないから、非関連者基準の判定に当たって、これを非関連者から収入する保険料に加算することはできない。そうすると、前提事実(6)のとおり、本件NGRE事業年度において、NGREの収入保険料の合計額のうち、非関連者から収入する保険料の合計額の占める割合は100分の50を超えないことになる。したがって、NGREは非関連者基準を満たさないことから適用除外要件を充足せず、NGREの個別課税対象金額は、原告の本件連結事業年度の法人税に係る連結所得の金額の計算上、益金の額に算入されることとなる。
(2)上記(1)に加え、証拠(乙1、6、11)及び弁論の全趣旨によれば、原告に対して課されるべき本件連結事業年度の法人税の額並びに本件法人税当初更正処分及び本件地方法人税当初更正処分に伴って賦課されるべき過少申告加算税の額は、別紙4のとおりであって、これらは本件法人税再更正処分及び本件地方法人税再更正処分における法人税並びに本件法人税当初賦課決定処分及び本件地方法人税当初賦課決定処分における過少申告加算税と同額である。
(3)したがって、本件法人税再更正処分、本件地方法人税再更正処分、本件法人税当初賦課決定処分及び本件地方法人税当初賦課決定処分はいずれも適法である。
4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第2部
  裁判長裁判官 春名 茂
     裁判官 横井靖世
     裁判官 廣瀬智彦

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