解説記事2022年05月23日 SCOPE 収益認識計上の虚偽記載で株主の損害賠償請求を認容(2022年5月23日号・№931)
取引実態の偽りはないが市場への影響を考慮
収益認識計上の虚偽記載で株主の損害賠償請求を認容
売上の過大計上等の虚偽記載により株価が下がったとして株主から損害賠償を求められた事件で東京地方裁判所(下澤良太裁判長)は、虚偽記載は取引実態そのものを偽ったというものではなく、実現主義の原則に照らし、許容されない程度に前倒しで売上計上をしたというものであるが、有価証券届出書は、被告株式のマザーズ市場への上場を行う直前に公募増資を行う際に提出されたものであることなどを考慮すると、被告株式に対する市場の評価に影響を与え得るものであったとし、約700万円の損害賠償請求を認めた(令和3年4月27日判決)。
上場前に提出した有価証券届出書に売上高の過大計上
本件は、当時の東京証券取引所マザーズ市場に上場するフィット(被告)が上場に先立って公募増資のために四国財務局長に提出した有価証券届出書に売上高の過大計上の虚偽記載があり、株価が下がったとして株主である原告(投資事業組合)が被告会社に対し、金融商品取引法21条の2第1項等に基づき、約1,800万円の支払いを求めた損害賠償請求事件である。
被告のフィットは、個人向けの投資用商品としての小型太陽光発電所の販売事業などを手掛ける会社だが、今回問題となったのはこの小型太陽光発電所の販売取引の収益認識基準である。被告は、当初は発電設備を電力会社の送電又は配電線に接続した時点(系統連携日)で売上計上をしていたが、監査法人からの指摘事項を踏まえ、平成27年3月期以降は、工事注文書及び受領書の少なくとも2つの書類に基づき、太陽光発電所の引渡日をもって売上計上を行う方針に変更をしたが、実際には、注文書・受領書取得基準に基づく収益認識を行っていなかった。その後、監査法人から、期末監査の過程において被告の売上計上についての会計処理の前提となる事実の調査が必要であるとの指摘を受け、虚偽記載が発覚することになる(表参照)。

実現主義の原則では許容できない程度の前倒しでの売上計上だが
裁判所は、本件虚偽記載は取引実態そのものを偽ったというものではなく、実現主義の原則に照らし、許容されない程度に前倒しで売上計上をしたというものであるが、届出書は被告株式のマザーズ市場への上場を行う直前に公募増資を行う際に提出されたものであることや、虚偽記載に係る金額も、訂正後の売上高の約19%に相当する金額の売上高を過大に計上したり、第3四半期累計で平成27年度通期に匹敵する経常利益及び純利益が出ているかのような記載がされていたりすることを考慮すると、虚偽記載の内容は、客観的にみて、被告株式に対する市場の評価に影響を与え得るものであったといえ、虚偽記載は重要な事項についてなされたものと認められるとした。
虚偽記載防止の内部統制システムを構築せず
また、裁判所は、被告においては監査法人から指摘を受けたにもかかわらず、注文書や受領書という証憑がなければ売上計上ができない旨を明確に規定する経理規程等を作成するなど、虚偽記載が発生することを防止するための内部統制システムを構築していなかったことから、被告において虚偽記載について過失がなかったとは認められないと指摘し、被告は、金商法21条の2第1項に基づき、虚偽記載により原告に生じた損害について損害賠償責任を負うとの判断を示した。
株価の下落がすべてろうばい売り等といえず
虚偽記載に係る損害額について裁判所は、金商法21条の2第1項にいう「損害」とは一般不法行為の規定に基づきその賠償を請求することができる損害と同様に、虚偽記載等と相当因果関係のある損害をすべて含むものと解するのが相当である(最高裁平成22年(受)第755号ないし第759号 平成24年3月13日)とした。
原告は、株式の取得価額と処分価額の差額分の株価の下落は、すべて嵩上げ額及びろうばい売りなどの損害により生じたものであり、虚偽記載とは無関係なものではないから、虚偽記載と相当因果関係のある損害であると主張したが、裁判所は、決算短信発表延期に係るプレスリリースなどが公表されてから原告が株式を売却するまでに4か月程度の期間が経過していることに照らすと、株価の下落がすべてろうばい売り等の損害により生じたということはできないと指摘。その上で裁判所は、第三者委員会設置に係るプレスリリースの開示をもって金商法21条の2第3項所定の「虚偽記載等の事実の公表」があったというべきであるとし、その公表日の前1か月間の株価の平均値は1,301.4円であり、公表後1か月間の株価の平均値は955.3円であるから、金商法21条の2第3項により算出される推定損害額は1株当たり346.1円になり、虚偽記載により原告に生じた損害額は692万2,000円(=346.1×2万株)とした。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.