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解説記事2022年06月13日 ニュース特集 D課税・利益A スコープ&税の安定性(2022年6月13日号・№934)

ニュース特集
銀行・証券業等は対象外に 決定パネルと紛争解決パネルの違い…etc.
D課税・利益A スコープ&税の安定性


 デジタル課税第1の柱・利益A(国家間の利益配分)の大枠が見えてきた。
 利益Aを巡る残された論点として企業の注目を集めていたのが、利益Aのスコープ(対象)外となる範囲と、利益Aを巡る紛争の予防・解決のための「税の安定性」の仕組みだ。OECDは4月中旬〜5月末にかけて利益Aに関する市中協議文書を立て続けに4本公表、これらの論点について一定の方向性を示している。
 このうち「スコープ」については、日本の鉄鋼メーカーや石油化学メーカーから自社製品が「利益Aでいう採掘に部分的に該当するのではないか」との懸念の声が上がっていたが、基本的には該当しないことが確認されたほか、証券・保険業も一定の要件を満たせば利益Aから除外されることが確認されている。
 「税の安定性」の市中協議文書は、利益A「そのもの」に関する税の安定性をテーマする「第1分冊」と、利益Aに「関連する」税の安定性をテーマとする「第2分冊」から構成されており、企業が重大な関心を持つ紛争の予防・解決に対するOECDの高い問題意識がうかがえる。前者では「決定パネル」、後者では「紛争解決パネル」と呼ばれる紛争を予防・解決する仕組みが示されている。
 本特集では、利益Aの「スコープ」と、「税の安定性」を確保するための仕組みに関する市中協議文書の内容を解説する。

スコープ

採掘除外は基本的に日本企業と関係なし

 利益Aのスコープ(対象)外として、「採掘除外」と「規制金融除外」という2つのルールが設けられることは既に包摂的枠組が2020年1月31日に公表した「デジタル課税に関するステートメント」の段階で確定しているが(本誌823号参照)、その詳細はこれまで明らかでなかった。こうした中、OECDは4月14日からまず「採掘除外」に関する公開市中協議を開始した。
 「採掘除外」には3つのポイントがある。1つ目のポイントが採掘の意義だ。市中協議文書では、「採掘業」と言えるには、製品テスト(採掘製品の販売を行っているかどうか)と活動テスト(探鉱・開発・採掘に携わっているかどうか)の両方を満たす必要があるとされた。したがって、鉱物等の採掘製品を保有することなく採掘役務を提供するだけの企業は製品テストを満たさず、また、採掘活動を行わず鉱物を左から右に流すだけのトレーディングの業態は活動テストを満たさず、それぞれ採掘業に該当しないこととなる。
 また、採掘製品とは採掘された鉱物、準鉱物、炭化水素又はそれらにつき「適格加工」を行った結果としての製品等をいう。合金、鉄鋼(steel)、宝石、ガソリン、ディーゼル、灯油及び類似の炭化水素の生成物、潤滑剤、化学薬品、プラスティック、プラスティック・ポリマーの生産に係る活動は「適格加工」に該当しない。日本の鉄鋼メーカーや石油化学メーカーからは、自社の鉄鋼製品や化学製品が利益Aでいう採掘に部分的に該当するのかどうか、かねてより疑問の声が上がっていたが、基本的には該当しないと考えてよいだろう。この結果、採掘除外自体は基本的に日本企業とは関係がないことになる。

「グループ全体で収入金額200億€及び利益率10%」の閾値判定は必須

 また、市中協議文書では、以下の通り利益Aの判定順序(ポイントその2)、利益率テスト(ポイントその3)も示された。
 まず利益Aの判定順序だが、市中協議文書によれば、最初にグループ全体で収入金額200億€及び利益率10%の閾値判定を行い(ステップ1)、超える場合には、採掘に係る収入金額を除外したところで、再度、200億€のテストを行い(ステップ2)、これも超える場合には、採掘に係る利益を除いたところで、再度、利益率10%のテストを行う(ステップ3)。採掘業を行っているのであればそもそもステップ1すら不要というのが企業側の大方の予測だったが、少なくともステップ1は踏まなければならない。後述の通り、規制金融業についても類似の判定順序となる。
 第3ステップとしての利益率テストでは、開示セグメントベース又は事業体ベースで採掘に係る利益を除いた利益を抽出することになる。開示セグメントベースで判定する場合において、少なくともセグメントの[75〜85%](注:未決定という意味で、ブラケット表示となっている。以下同様)の収入金額が採掘に起因する除外収入金額であり、かつ、対象収入金額(大まかにいえば、採掘以外の収入金額)が[10億€]を超えない場合には、セグメント全体が採掘除外となる。逆に、セグメントの[75〜85%]が対象収入金額の場合は、対象セグメントとなり、未配賦コストの配分を行うなどの一定の調整を行いつつ、採掘以外の利益の抽出を行う。このどちらにも該当しない場合には、別途の調整計算が行われる。開示セグメントベースでの計算が困難な場合は、事業体レベルで調整計算を行う。未配賦コストの取り扱い等、計算の詳細については市中協議文書には説明がないが、思ったよりも複雑であることが分かる。断続的に開催される市中協議の後半部分でセグメンテーションの議論が出てくる予定であり、今回の市中協議文書はその“予告編”としての性格を持っていると言えよう。

免許要件・規制資本要件・活動要件の全てを満たすことが除外の条件に

 「採掘除外」に続き、OECDは5月6日に「規制金融除外」の市中協議文書を公表したが、一部には「除外対象は銀行業に限定されるのではないか」との観測があり、その内容に注目が集まっていた。
 市中協議文書によると、規制金融機関は①預金金融機関(銀行)、②抵当担保金融機関(住宅ローン等)、③投資機関(証券)、④保険機関、⑤アセット・マネジャー、⑥混合金融機関、⑦規制金融機関役務事業体(規制金融機関に対してのみ機能を遂行する役務提供事業体)の7つに分類され、それぞれに定義規定が設けられている。いずれのカテゴリーについても、概ね「免許要件」「規制資本要件」「活動要件」のすべてを満たす必要がある。
 例えば①の預金金融機関(銀行)について見てみると「事業活動を行う法域の法律又は規制によって銀行業を営む免許が与えられていること」(免許要件)、「バーゼル銀行監督委員会による“実効的な銀行監督のためのコアとなる諸原則”を反映した自己資本比率規制に服していること」(規制資本要件)、「銀行業又は類似事業の通常の過程で預金を受け入れており、貸借対照表において少なくとも負債の[20%]が預金で構成されていること」(活動要件)と定められている。ある事業体がこれらの要件をすべて満たす場合、規制金融機関に該当することとなり、当該事業体の収入金額及び利益の全額が利益Aから除外される。
 ただし、市中協議文書では、包摂的枠組の中には、再保険及びアセット・マネジメントについては利益Aの対象から除外すべきではないと考える国があることが示されている。これら事業には利益移転やタックス・プランニングの恐れがあると考えられているからだろう。
 以上から2つのことが判明している。1つは、除外対象には証券・保険も含まれるということである。ただし、「免許要件」「規制資本要件」「活動要件」をすべて満たすことが条件となる。「活動要件」については銀行の[20%]と同様、証券・保険についてもブラケット表示され、数値が未定となっている箇所があることから、関連業界としては今後、確定した内容を確認する必要がある。
 もう1つは、自動車販売に係る販売金融は「規制資本要件」等を必要としないため、(市中協議文書には明示的な記載はないが)利益Aから除外されないということである。もっとも、自動車メーカーにとっては想定内と言える。

収入金額の閾値判定に簡素化オプション

 上述の通り、収入金額の閾値判定は「採掘除外」と類似する。すなわち、利益Aの対象判定(収入金額200億€、利益率10%)は、まずグループ全体で行うことになる(ステップ1)。閾値を超えた場合、規制金融機関に該当する事業体の収入金額を除外したところで、改めて収入金額200億€の判定を行う(ステップ2)。ポイントは、銀行業等を営むからといって最初から閾値判定が免除されるわけではない、ということだ。
 このステップ2については簡素化オプションも検討されている。グループ内に多数の規制金融機関がある場合、それらに係る収入金額及び利益をすべて抽出するのは困難なケースもあり得るとの想定の下、第1のオプションは、グループ内の最大規模の規制金融機関から順番に第3者に対する収入金額を控除していき、控除後のグループの収入金額が200億€を下回った段階で、利益Aの対象外であることを確定し、ステップ2の作業を終えるというもの。この方策をとれば、すべての規制金融機関の数値を集計する必要はない。第2のオプションは、規制金融事業「以外」のグループ内の事業体の(グループ内取引の相殺消去を行わないグロスの)総収入金額を足し上げた結果が200億€に満たない場合は、利益Aの対象外と判定するものである。グロスの収入金額ベースで200億€に満たないということは、グループ内取引の相殺消去を行えば収入金額がさらに低く出ることは確実であるため、利益Aの対象になりようがない、ということだ。
 ステップ2を経ても利益Aの対象から除外されない場合は、規制金融機関に係る利益を除外したところで、利益率10%のテストを再度行うことになる(ステップ3)。

税の安定性

究極の親会社所在地国の税務当局が「レビュー」のハブ役に

 利益A(国家間の利益配分)は、独立企業原則(ALP)に代表される従来の国家間の利益配分ルールとは異なる全く新しい多国間における課税の枠組みだけに、施行後は残余利益の配分額を巡る紛争なども想定される。利益Aの閾値(収入金額200億€、利益率10%)を超える多国籍企業グループ(以下、対象グループという)は世界のトップ100社程度と言われているが、独立企業原則(ALP)に代表される従来の国家間の利益配分ルールとは異なる全く新しい多国間の枠組みであることから、対象グループはどのように申告納付の準備をすればよいのか、また、紛争の予防・解決は十分かといった点に重大な関心を持っている。このような問題意識から、OECDが5月27日に公表した利益Aの「税の安定性」に関する市中協議文書は、利益A「そのもの」に関する税の安定性と、利益Aに「関連する」税の安定性の2分冊となっている。
 2分冊からなる市中協議文書のうち「利益Aそのものに関する税の安定性」について解説している【第1分冊】では、利益Aについて、(1)スコープに関する安定性レビュー、(2)早期の安定性レビュー、(3)包括的安定性レビューの3つの税の安定性のメカニズムを提供している。
 (1)スコープに関する安定性レビューとは、多国籍企業グループが、そもそも利益Aの対象グループに該当「しない」ことを早期に確定させる仕組み。(2)早期の安定性レビューとは、対象グループによる収入源泉ルールの適用や、それに係る内部統制が実効的であるかを確認する仕組みをいう。(3)包括的安定性レビューは、利益Aの全ての側面について事後的にレビューを行う枠組みである。
 基本的にはグループの究極の親会社所在地国の税務当局が主管税務当局としてハブの役割を果たし、関係する税務当局の参加も得て議論をする。(2)と(3)では、「専門家助言グループ」が対象グループの内部統制の状況についてレビューし、政府に助言することも想定されている。多国間の枠組みであることから、企業が費用を負担する可能性を含め、事務局機能を置くことも想定される。

各国政府間で議論がまとまらなければ「決定パネル」に付議

 企業にとってまず注目されるのは、(2)早期の安定性レビューであろう。複雑極まる収入源泉ルールについて、事後的に複数の税務当局から計算の誤りを指摘されるようなことになれば大混乱となることは必至なだけに、今回の(2)の提案のコンセプトは基本的に歓迎できるものと言える。
 ただし、レビューの時期及び内容が適当なのか、という問題はある。市中協議文書によると、レビューの申請は対象グループ側から行うことになるが、その申請の時期は「利益Aの申告時」とも解釈できる記載となっている。収入源泉ルールに正しく対応するためにはシステム投資が必要になる。このため、申告後にレビューを行うのでは遅いのではないかとの懸念も出てきそうだ。市中協議文書では、利益Aの施行前も、ガイダンス、FAQ、テンプレートの整備など、企業の疑問に対応する枠組みの重要性が指摘されており、また、施行後しばらくは企業の合理的な努力を前提に、厳格な執行等を行わないことを仄めかす“ソフト・ランディング論”も紹介されているが、それだけで十分なのかという問題はあろう。また、レビューの対象についても、現状、収入源泉ルールの適用(及び内部統制)の他、セグメンテーションに限られており、かつ、市中協議文書では、セグメンテーションをレビューの対象とすることに疑義を呈する法域があることが示されている。企業からは、折角、早期の安定性レビューを行うのであれば、対象を限定するのではなく、マーケティング販売利益セーフハーバー、支払事業体の特定、二重課税排除を含め、(3)の包括的レビューのように、フルパッケージのレビューを認めるべきではないかとの声も上がっている。なお、本レビューの結果、ひとたび企業サイドの申請が認められれば、[3]年間、その効力は継続するとされる(一定の場合、[5]年への延長も可)。年数がブラケット表示なのは、まだ包摂的枠組内で議論中であることを示している。
 ところで、今回の市中協議文書では、上記のソフト・ランディング論とは別に、収入源泉ルールにおける配分キーの拡大適用を一定期間、認めるとの記述もある。振り返ると、収入源泉ルールに関する本年2月のOECD提案によれば、基本的に完成品、部品、役務の提供等、すべての取引について最終消費地を特定しなければならないとした上で、特定の取引類型に限り、バック・ストップとして地域配分キー、低所得法域配分キー、全世界配分キーといった配分キーの使用を認め、最終消費地が定かではない収入金額をプロラタで関係市場国に配分するとされていた。これに対し企業からは、「配分キーの利用条件が厳し過ぎる。バック・ストップではなく最初から使用を認めるべき」との声があった。今回の提案は、こうした指摘を受けたものであり、利益Aの施行後数年間は配分キーをより使いやすくするということだ。実際、“easier access to Allocation Keys in the short-term”との記述がある。
 なお、今回の市中協議文書をよく読むと、冒頭のサマリーの部分で、改定収入源泉ルール(revised revenue sourcing rules)との文言が使われている。見落としそうになるほど控えめな記述であるが、本誌取材によると、OECD事務局において、2月提案と比べてさらに簡素な収入源泉ルールが検討されていることが判明している。今後、改めて市中協議の対象となる可能性もあると考えられる。
 上記(1)〜(3)について各国政府間で議論がまとまらない場合には、「決定パネル」に付議されることになる。この決定パネルを専門家のみで構成するのか、政府のみで構成するのか、あるいは専門家と政府のミックスとするのかについては現在のところ包摂的枠組内でコンセンサスが得られていないが、いずれにせよ、決定パネルが最終的な裁定を行うことになる。したがって、グループにとって税の安定性が得られずに終わるということにはならず、何らかの税の安定性は確実に保証されることになる。なお、パネルの裁定は全会一致が望ましいとされつつ、多数決の仕組みも提案されている。企業サイドからは、「決定パネルは革新的な仕組みであり、評価できる。しかし、前段階で政府間の議論が不調に終わったため開催されることを踏まえれば、決定パネルの構成を政府のみにしたのでは議論の焼き直しに過ぎず、いたずらに時間を費やすだけではないか」「ミックスにした上で、専門家を過半とすべき」との意見も聞かれる。

「紛争解決パネル」の拘束力の強度は「仲裁」と基本的に変わらず

 利益A「そのもの」に関する税の安定性をテーマとする第1分冊に対し、利益Aに「関連する」税の安定性をテーマとする「第2分冊」では、利益Aに関連する二重課税については、「義務的かつ拘束的な方法」で解決することを提案している。ただし、BEPS行動14(紛争解決メカニズムの効率化)のピアレビューの延期等を行う途上国については、過度な負担とならないよう、選択制の制度とされる。
 第2分冊における提案の目玉は、第1分冊の「決定パネル」に類似した仕組みと言える「紛争解決パネル」だ(両者の比較は次頁参照)。

 相互協議を通じて2年以内に解決することのできない移転価格やPE帰属利得に係る紛争については紛争解決パネルに付議し、紛争の当事国の権限ある当局から提出された2つの解決策のうち1つにつき、「義務的かつ拘束的な」合意を導き出すことになる。先進国や各国経済界が求めていた「仲裁」は導入されないものの、拘束力の強度という意味では基本的に変わるところはないと考えられるだけに、期待できる仕組みと言える。
 ただ、肝心要の何が利益Aに「関連する問題」であるかについては定まっておらず、企業などからは失望の声が上がっている。公開市中協議文書では、「関連する問題」とは対象グループのメンバーの間の取引に係る利益の調整(移転価格)や、対象グループメンバーのPE帰属利得に係る調整に関連するものであると一旦は説明されつつも、脚注部分で、以下については包摂的枠組内で異なる意見が存在することが明らかにされている。

・他の種類の紛争も「関連する問題」とみなすべきか。
・定義に、利益Aとの直接的・間接的な関連付けを加えるべきか。
・定義に、定量的な重要性基準を含めるべきか。
・「関連する問題」の範囲に関する留保を認めるべきか。
・関連法域間に二国間の租税条約がない場合において、このメカニズムが適用されるべきか。

 利益Aの対象グループを抱える先進国としては、原則として重要性基準や留保なく、幅広い紛争解決が必要というスタンスである一方、途上国等においては、“抜け道”をできるだけ多く作りたいという思惑もあるものと考えられる。企業サイドとしては、先進国の立場に立って要望していく必要があろう。もっとも、現状でも企業がすべての移転価格やPE課税の事案について相互協議を申し立ているわけではないと想定されることから、重要性基準については、どの程度の強度で意見を述べるのか、企業サイドとしては一定の検討が必要になると考えられる。
 なお、「紛争解決パネル」についても、第1分冊の決定パネルと同様、構成についての意見の不一致があり、独立した専門家で構成する案、政府のみで構成する案、ミックスする案などがある模様だ。

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