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解説記事2022年07月04日 ニュース特集 改訂CGSガイドラインのポイント(2022年7月4日号・№937)

ニュース特集
社長・CEOの解任に関する基準の策定を推奨、“ボード3.0”はややトーンダウン
改訂CGSガイドラインのポイント


 6月の株主総会シーズンが終わり、コーポレートガバナンス報告書の提出が相次いでいる。
新市場移行後に初めて適用されることとなるプライム市場特則はもちろん、それ以外の改訂原則についても、引き続き対応を迫られるケースが少なくないものと思われる。
 こうした中、経済産業省に設置されたコーポレート・ガバナンス・システム研究会(第3期)は6月27日、CGコードの主要原則を実践するための実務指針であるコーポレート・ガバナンス・システム・ガイドライン(以下、CGSガイドライン)の改訂版(案)を公表した。
 今回のCGSガイドラインの(再)改訂の背景にあるのが、日本を代表する企業であるはずのTOPIX500の約4割がPBR1倍を切っていることへの問題意識だ。この現状を改善すべく、改訂CGSガイドラインはリスクテイクができる優れた社長・CEOの選任を求めるとともに、結果を出せない場合の解任・不再任への道筋を示したほか、「執行」と「監督」の両機能の強化などを求めている。
 本特集では、CGコードの実務指針として企業のガバナンス体制構築にも影響力を持つ改訂CGSガイドラインのポイントを解説する。

社長・CEO

法的責任とは区別し、解任・不再任などを通じて経営責任を追及

 改訂CGSガイドラインの中でまず目に付くのは、社長・CEOに対する要求水準の高さだ。
 例えば、大型の投資やM&Aを取り上げ、「取締役会が関与したからといって経営判断のミスについて社外取締役が社長・CEOの経営責任を追及しづらくなることは適当ではない」(改訂CGSガイドライン10頁参照)と指摘しており、社長・CEOの経営責任を従来よりも厳しく追及することを促している。
 通常、取締役の経営責任の有無は経営判断原則に基づき判断されることになるが、改訂CGSガイドラインがいう「経営責任」とは、経営判断原則が適用される「法的責任」ではない経営責任であり、法的責任とは区別した形で、「解任・不再任などを通じて「経営責任」の追及を行うことが求められる」としている(同10頁参照)。要するに、たとえ経営判断原則上は経営責任がないと判断される場合であっても、大型の投資やM&Aが失敗に終われば、社長やCEOは解任・不再任という形で経営責任をとるべき、というのが改訂CGSガイドラインのスタンスと言える。社長やCEOは、失敗に終わることが少なくないとされる大型の投資やM&Aというリスクをテイクしながら、「結果」も求められることになる。

経営判断原則
 取締役に善管注意義務違反があったかどうかの判断基準。経営判断の原則の下では、たとえ会社が損害を受けたとしても、「取締役の意思決定の過程と内容に著しく不合理な点」がない限り、取締役は善管注意義務違反に問われないことになる。具体的には、①事前の十分な調査・研究および情報収集、②取締役会等での十分な検討、③通常の経営者としての合理的な判断、を行なっていれば、取締役は損害賠償責任を免れることができる。

KPIに対応した定量基準等の未達を解任・不再任を議論する契機に

 また、「社長・CEOの解任・不再任の要否や、社長・CEOの業務執行の改善策について議論を始める契機となる基準」を平時から設けておくことを促している点も今回の改訂のポイントの一つと言える。
 例として「経営目標(KPI)と対応した定量基準や時価総額の推移を指標とした基準」を挙げ、この基準の未達を社長・CEOの解任・不再任を議論する契機としたり、あるいは未達にもかかわらず再任する場合は取締役会や指名委員会に改善プランを提出させることも提案している(同35頁参照)。

社長・CEOの長期インセンティブ報酬の比率は40〜50%に

 上記の通り、改訂CGSガイドラインは社長・CEOに解任・不再任と背中合わせのリスクテイクを求めているが、その一方で、リスクテイクを促進するため、社長・CEOの報酬を「業績連動報酬の比率をグローバルにベンチマークする企業の水準にまで高めることや、長期インセンティブ報酬の比率の目安をグローバル水準である40〜50%程度とすること」も考えられるとしている(36頁参照)。長期インセンティブ報酬の比率として「40〜50%」という具体的な数値基準を示した点は注目されよう。改訂CGSガイドラインを踏まえ、長期インセンティブ報酬の比率を高める企業が出て来る可能性もある(前頁図表1参照)。

機能毎の最高責任者(CXO)設置を提案

 また、いくら優秀な社長・CEOであっても、常に正しい経営判断ができるわけではない。そこで改訂CGSガイドラインでは、「業務執行のスピードを向上させ、より適切な経営判断が行えるようにするためには、社長・CEOを中心としたトップマネジメントチームにおいて各業務執行役員の責任・権限を明確にし、その内容に応じて権限移譲を進めることが有益である」とした。また、「各業務執行役員の責任・権限を明確にする中で、機能毎の最高責任者(CXO)を設置することも有効」とした(同43頁参照)。

将来の幹部候補にも自社株報酬を

 また、日本企業では海外企業に比べるとCEOに就任する年齢が高く、在任期間も短いという問題がある。CEOの就任年齢の若返りを図るとともに、CEOが経営戦略を実現できる期間を確保するためには、将来の幹部候補となる人材プールを作る必要がある。そのために「自社株報酬や持株会の活用は幹部候補に対する動機付けとして有益であり、人的資本投資の拡大にも資する」とした(同47頁参照)。

社外取締役

社外取締役には社長・CEOの選解任関与しリードできる人物が必要

 また、上場企業の取締役会で社外取締役が増加する中、取締役会に期待される「監督」とは「単に執行にブレーキをかけたり、不祥事を自ら発見することではない」とした上で、「適切なリスクテイクに対する後押し、社内の経営改革の後押しやリスクテイクをしないことのリスク(不作為のリスク)を提起すること」も含むとした(同10頁参照)。

社外取締役の評価の詳細は公表に適さず

 このように社外取締役が果たすべき役割の重要性が増す一方で、社外取締役の個別評価には消極的な企業が少なくない。

 改訂CGSガイドラインでは、社外取締役の評価の方法として、社外取締役である取締役会議長や指名委員会委員長、筆頭独立社外取締役などが主導しつつ、社外取締役による自己評価や相互評価を提案している。相互評価のためにインタビューを行う場合には、取締役会議長や指名委員会委員長、筆頭独立社外取締役、あるいは外部の第三者機関が実施することが望ましいとしたほか、多面的な評価のためには、社長、CEOを含む執行側の取締役の声を聞くことも考えられるとした。
評価結果については、「公表には適さない」とし、「評価をした事実やプロセス」を公表することを提案している(同69頁参照)。

ガバナンス体制(機関設計、取締役会)

基本的にはモニタリング・ボードを推奨

 TOPIX500の約4割がPBR1倍を切るという現状を打破するため、社長・CEOをはじめとする経営陣によるリスクテイクと社外取締役を中心とした取締役会による監督機能の強化が求められる中、日本企業にとってはガバナンス体制(機関設計、取締役会)のあり方も重要な課題となる。
 改訂CGSガイドラインでは、まず取締役会の典型的な姿として、①取締役会を監督に特化させることを志向するモデル(A)と、②取締役会の意思決定機能を重視しつつ取締役会内外の監督機能の強化を志向するモデル(B)、の2つに大別しつつ(同13頁参照)、権限移譲を通じて広範な裁量を執行側に与えることで、経営者の権限と責任がより明確化され、健全なリスクテイクが促されることなど、モデル(A)の有益性を説明している(同15頁参照)。
 これに対しモデル(B)については、「個別の業務執行上の決定に取締役会が関与するため、特に社外取締役の比率・数を高めていく場合には、意思決定のスピードを損なわないための運営上の工夫が必要となる」と注意を喚起している(同15頁参照)。改訂CGSガイドラインでは、「どのようなガバナンス体制を選択するか、ガバナンスをどのように経営に活かすかは、企業にとって競争戦略の軸の一つであり、企業が主体的に選択すべきもの」としているが、同時に「企業によってはモニタリング機能に重点を置いたガバナンス体制(編注:すなわちモデル(A))に移行することを検討することは有益である」としており(同16頁参照)、基本的にはいわゆるモニタリング・ボードと呼ばれるモデル(A)を推奨していると言えよう。

投資家を社外取締役とする“ボード3.0”についてはややトーンダウン

 また、最近、“ボード3.0”と呼ばれる新たなガバナンス体制として、「投資家・株主の関係者」を取締役として選任する事例が米国を中心に広がりつつあり、日本でも東芝などで実現している。
 ただ、選任に際しては、「利益相反、情報管理、独立性・社外性、開示などに留意」(同21頁参照)して、取締役会または指名委員会が選任の適否を判断すべきとしており、“推奨”するまでには至っていない。
 さらに改訂CGSガイドラインでは、「監督機能」を自律的かつ継続的に発揮するための取組み(ボードサクセッション)についても言及している。ここで鍵を握るのは社外取締役であり、上述した「社長・CEOの選解任に責任を持って関与し、必要に応じてリードすることができる社外取締役」をどのように継続的に確保するかについて議論することが重要であるとした(同74頁参照)。

監査等委員会が指名・報酬委員会より“序列”は上であることが明確に

 近年は監査等委員会設置会社を選択する企業が大幅に増加しており、プライム市場上場企業の約35%を占めるに至っている。こうした中、改訂CGSガイドラインでは今回新たに「別紙2:監査等委員会設置会社へ移行する際の視点」を策定し、監査等委員会設置会社に移行する際の検討事項等を整理している。
 現状、監査役を社外取締役とするために“形だけ” 監査等委員会設置会社に移行した企業が少なくない。そこでCGSガイドラインでは、個別具体的な業務執行事項の決定を大幅に執行側に委任する一方、取締役会を監督に特化させることが十分に検討されるべきとした(同75頁参照)。また、当該機関設計においては、法定の監査等委員会と任意の指名委員会・報酬委員会が併存している現状を踏まえ、これらの委員会に不必要な競合が生じないよう、監査等委員会が任意の指名委員会・報酬委員会の決定手続の適切性を確認した上で、各委員会の判断を踏まえて監査等委員会としての意見を形成することを推奨している(同76頁参照)。会社法上、監査等委員会は監査等委員以外の取締役の選任・報酬等について株主総会で意見を述べる「意見陳述権」を持っていることを踏まえ、監査等委員会が3つの委員会の中で中心的な役割を果たすべきであることを明確にした格好となっている。
 CGS研究会は6月27日の会合(最終回)で出た意見を反映し、7月中旬には改訂版CGSガイドラインを確定・公表する方向だ。

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