解説記事2022年07月11日 税制改正解説 令和4年度における相続税・贈与税関係の改正について(2022年7月11日号・№938)
税制改正解説
令和4年度における相続税・贈与税関係の改正について
河内哲平
相続税法の改正
Ⅰ 相続税に係る死亡届の情報等の通知方法の改正
1 改正前の制度の概要
相続税は、相続又は遺贈により取得した財産について課されるものであるから、税務署長は、相続開始の事実を把握する必要がある。そこで、戸籍に関する事務をつかさどる者に対して、その事実を通知させることとしていた。具体的には、市町村長(特別区の区長、指定都市の区長及び総合区長を含む。以下1において同じ。)は、死亡又は失踪に関する届書を受理した場合には、その届書に記載された事項について、その届書を受理した日の属する月の翌月末日までに戸籍に関する事務をつかさどる事務所の所在地の所轄税務署長に通知(以下「相続税法第58条通知」という。)をすることとされていた(旧相法58①)。
(注)相続税法第58条通知に係る事務は、第1号法定受託事務とされた(旧相法58②・旧地方自治法2⑨一、別表第一)。
また、市町村長が税務署長に対して相続税法第58条通知を行う場合には、その通知に係る被相続人の所有していた固定資産課税台帳に登録されている土地、家屋及び償却資産等に関する資料を併せて送付することとなっていた。
2 改正の内容
(1)法務大臣から国税庁長官への通知
法務大臣は、死亡又は失踪(以下2において「死亡等」という。)に関する届書に係る戸籍法に規定する届書等情報(これに類するもの(注1)を含む。)の提供を受けたときは、その届書等情報に記録されている情報及びその死亡等をした者の戸籍又は除かれた戸籍の副本に記録されている情報で一定のもの(注1)を、その届書等情報の提供を受けた日の属する月の翌月末日までに国税庁長官に通知しなければならないこととされた(相法58①)。
(注1)これらについては、この改正の施行の日までに財務省令で定められる予定である。
(2)市町村長から税務署長への通知
市町村長は、その市町村長その他戸籍又は住民基本台帳に関する事務をつかさどる者(注2)がその市町村が備える住民基本台帳に記録されている者に係る死亡等に関する届書を受理したとき又はその届書に係る事項の通知を受けたときは、その死亡等をした者が有していた土地又は家屋に係る固定資産課税台帳の登録事項その他の事項で一定のもの(注3)を、その届書を受理した日又はその通知を受けた日の属する月の翌月末日までにその市町村の事務所の所在地の所轄税務署長に通知しなければならない(注4)こととされた(相法58②)。
(注2)「その他戸籍又は住民基本台帳に関する事務をつかさどる者」とは、指定都市の区長又は総合区長をいい、東京都の特別区の区長は含まない。
(注3)(注1)と同様に、この改正の施行の日までに財務省令で定められる予定である。
(注4)この通知に係る事務は、第1号法定受託事務とされている(相法58③、地方自治法2⑨一・別表第一)。
3 適用関係
上記2の改正は、令和6年3月1日又は戸籍法の一部を改正する法律(令和元年法律第17号)附則第1条第5号に掲げる規定の施行の日(令和元年5月31日から5年を超えない範囲内の日)のいずれか遅い日以後に法務大臣が届書等情報の提供を受ける場合又は市町村長が死亡等に関する届出等を受理する場合に適用され、同日前に上記1の市町村長が死亡又は失踪に関する届書を受理した場合については従前どおりとされている(改正法附則1八、18)。
Ⅱ 相続税等に関する調書の改正
1 改正の内容
(1)信託に関する受益者別(委託者別)調書の記載事項の見直し
本調書の「信託財産の価額」の欄には、信託財産について財産評価基本通達等に基づき評価することが困難な場合には、その信託財産の見積価額を記載することとされた(相規30⑦一、第九号書式)。
なお、「見積価額」とは、調書の提出事由が生じた日における価額として、その財産の取得価額や売買実例価額などを基に、合理的な方法により算定したものをいうが、具体的には、次に掲げる財産の種別に応じ、それぞれに定める価額となる。
① 土地 調書の提出事由が生じた日の属する年中に課された固定資産税の計算の基となる固定資産税評価額又は取得価額を基にその取得後における価額の変動を合理的な方法によって見積もって算出した価額
② 取引相場のない株式 その発行法人の調書の提出事由が生じた日又はその日前の直近の日において終了した事業年度における決算書等に基づき、その法人の純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)に持株割合を乗じて計算するなど合理的に算出した価額
③ 上記①及び②以外の財産 平成25年3月29日付課総8−1ほか3課共同「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書及び財産債務調書関係)の取扱いについて」(法令解釈通達)6の2−11((見積価額の例示))の取扱いに準じて算定した価額
(2)調書の提出方法の見直し
調書の提出に代えて調書の記載事項を記録した光ディスク等の提出が可能となる場合があるが、この光ディスク等のうち磁気テープについては、光ディスク等の範囲から除外されることとなった(相法59⑤二、相規30⑫)。
2 適用関係
上記1(1)の改正は、令和5年1月1日以後に提出すべき事由が生ずる調書(書式を含む。以下同じ。)について適用され、同日前に提出すべき事由が生じた調書については従前どおりとされている。なお、旧書式は、当分の間、新書式の代わりに使用できる(改正規則附則2、3)。
上記1(2)の改正は、令和4年4月1日施行(改正規則附則1)。
租税特別措置法等(相続税・贈与税関係)の改正
Ⅰ 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置等の改正
1 改正前の制度の概要
(1)直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税
平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間にその直系尊属(父母、祖父母、養父母等)からの贈与により住宅用家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」という。)の取得をした一定の要件を満たす受贈者(以下「特定受贈者」という。)が、次の①から③までのいずれかの要件を満たす場合には、その贈与により取得した住宅取得等資金のうち住宅資金非課税限度額(既にこの特例の適用を受けて贈与税の課税価格に算入しなかった金額がある場合には、その算入しなかった金額を控除した残額)までの金額又は特別住宅資金非課税限度額(既にこの特例の適用を受けて贈与税の課税価格に算入しなかった金額がある場合(平成31年3月31日までに住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等に係る契約を締結してこの特例の適用を受けた場合を除く。)には、その算入しなかった金額を控除した残額)までの金額(平成31年4月1日以後に住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等に係る契約を締結してこの特例の適用を受ける場合には、これらの金額のうちいずれか多い金額)については、贈与税の課税価格に算入しないこととされていた(旧措法70の2①)。
① 住宅用家屋の新築又は建築後使用されたことのない住宅用家屋の取得の場合(旧措法70の2①一)
住宅取得等資金を贈与により取得した年の翌年3月15日までにその住宅取得等資金の全額により住宅用家屋を新築するか、建築後使用されたことのない住宅用家屋を取得し、その日までに特定受贈者の居住の用に供していること又はその日後遅滞なく特定受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれること。
(注)この特例の対象となる住宅用家屋とは、特定受贈者の居住の用に供する家屋で次の要件を満たすものとされている。
イ その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が、専ら居住の用に供されるものであること
ロ 国内にあること
ハ 次のいずれかの要件を満たすものであること
(イ)一棟の家屋で床面積が40㎡以上240㎡以下であること
(ロ)区分所有建物である場合には、特定受贈者が区分所有する部分の床面積が40㎡以上240㎡以下であること
② 既存住宅用家屋の取得の場合(旧措法70の2①二)
住宅取得等資金を贈与により取得した年の翌年3月15日までにその住宅取得等資金の全額により既存住宅用家屋(建築後使用されたことのある住宅用家屋で一定のものをいう。以下同じ。)を取得し、その日までに特定受贈者の居住の用に供していること又はその日後遅滞なく特定受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれること。
(注)この特例の対象となる既存住宅用家屋とは、特定受贈者の居住の用に供する家屋で次の要件を満たすことにつき登記事項証明書など一定の書類を添付することにより証明又は確認を受けたものとされている。
イ 上記①(注)の要件を満たすものであること
ロ 次の家屋の区分に応じそれぞれに定める要件を満たすものであること
(イ)鉄骨造、鉄筋コンクリート造等の耐火建築物の場合 次のいずれかの要件
(ⅰ)建築後25年以内であること
(ⅱ)建築基準法施行令第3章及び第5章の4の規定又は国土交通大臣が財務大臣と協議して定める地震に対する安全性に係る基準(平成21年国土交通省告示第681号)に適合するものであること
(ロ)耐火建築物以外の建築物の場合 次のいずれかの要件
(ⅰ)建築後20年以内であること
(ⅱ)上記(イ)(ⅱ)の要件を満たすものであること
③ 増改築等の場合(旧措法70の2①三)
住宅取得等資金を贈与により取得した年の翌年3月15日までにその住宅取得等資金の全額を特定受贈者が居住の用に供している家屋の増改築等の対価に充てて増改築等を行い、その日までに特定受贈者の居住の用に供していること又はその日後遅滞なく特定受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれること。
(2)特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例
平成15年1月1日から令和3年12月31日までの間にその年1月1日において60歳未満の者から贈与により住宅取得等資金を取得した特定受贈者が、一定の要件を満たす住宅用家屋の新築、取得又は増改築等を行った場合には、その特定受贈者は、相続時精算課税制度を選択することができることとされていた(旧措法70の3)。
住宅の取得等に関する要件は、上記(1)と同様。
(3)東日本大震災の被災者が直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税
平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間(警戒区域設定指示等が行われた日においてその警戒区域設定指示等の対象区域内に所在する家屋をその居住の用に供していた者又はその居住の用に供しようとしていた者については、警戒区域設定指示等が行われた日からその警戒区域設定指示等が解除された日以後1年を経過する日までの間)にその直系尊属(父母、祖父母、養父母等)からの贈与により住宅取得等資金の取得をした一定の要件を満たす受贈者が、一定の要件を満たす住宅用家屋の新築、取得又は増改築等を行った場合には、その贈与により取得した住宅取得等資金のうち住宅資金非課税限度額(既にこの特例の適用を受けて贈与税の課税価格に算入しなかった金額がある場合には、その算入しなかった金額を控除した残額)までの金額又は特別住宅資金非課税限度額(既にこの特例の適用を受けて贈与税の課税価格に算入しなかった金額がある場合(平成31年3月31日までに住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等に係る契約を締結してこの特例の適用を受けた場合を除く。)には、その算入しなかった金額を控除した残額)までの金額(平成31年4月1日以後に住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等に係る契約を締結してこの特例の適用を受ける場合には、これらの金額のうちいずれか多い金額)については、贈与税の課税価格に算入しないこととされていた(旧震災税特法38の2①)。
住宅の取得等に関する要件は、上記(1)と同様。
2 改正の内容
(1)適用期限の延長
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税(以下「非課税特例」という。)、特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例(以下「精算課税特例」という。)及び東日本大震災の被災者が直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税(以下「震災特例」という。)の適用期限(令和3年12月31日)が令和5年12月31日まで延長された(措法70の2①、70の3①、震災税特法38の2①)。
(2)非課税限度額の見直し
非課税特例及び震災特例の適用の前提となる贈与が契約締結日基準から受贈日基準に見直されるとともに、非課税限度額が次のとおり見直された(措法70の2②六、震災税特法38の2②六)。
① 非課税特例
イ 耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋 1,000万円
ロ 上記以外の住宅用家屋 500万円
② 震災特例
イ 耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋 1,500万円
ロ 上記以外の住宅用家屋 1,000万円
(3)既存住宅用家屋の範囲の見直し
非課税特例、精算課税特例及び震災特例について、既存住宅用家屋の要件の1つとして定められていた経過年数基準(耐火建築物:建築後25年以内、非耐火建築物:建築後20年以内)が廃止され、これに代わり新たに昭和57年1月1日以後に建築されたものであることが要件として定められた(措令40の4の2③、40の5②、震災税特令29の2③)。
(4)受贈者の年齢要件の改正
非課税特例、精算課税特例及び震災特例について、受贈者の年齢要件の下限が18歳(改正前:20歳)に引き下げられた(措法70の2②一、70の3③一ハ、震災税特法38の2②一ロ)。
3 適用関係
(1)上記2(1)〜(3)の改正は、令和4年1月1日以後に贈与により取得をする住宅取得等資金に係る贈与税について適用され、同日前に贈与により取得をした住宅取得等資金に係る贈与税については、従前どおりとされている(改正法附則51①④、75①)。
(2)上記2(4)の改正は、令和4年4月1日以後に贈与により取得をする住宅取得等資金に係る贈与税について適用される(改正法附則51②⑤、75②)。
Ⅱ 農地等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度等の改正
1 改正の内容
農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律(令和4年法律第56号。以下「基盤強化法等改正法」という。)により、農用地の貸借等の前提となる農用地利用集積計画(市町村作成)が農用地利用集積等促進計画(農地中間管理機構作成)へ統合されたことに伴い、次の措置の法令の規定上、農用地利用集積計画に関する部分が農用地利用集積等促進計画とされた。
(1)農地の納税猶予に係る特例適用農地等の借換えの場合の納税猶予の継続適用(措法70の4⑧、70の6⑩、措令40の6⑳、40の7⑳
、措規23の7⑯⑰
)
(2)農地の納税猶予に係る特定貸付けの特例(措法70の4の2①②、70の6の2①、措規23の7の2①②⑥、23の8の2②)
2 適用関係
(1)上記1(1)の改正は、基盤強化法等改正法の施行の日以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得をする(特例)農地等に係る相続税又は贈与税について適用され、同日前に相続若しくは遺贈又は贈与により取得をした(特例)農地等に係る相続税又は贈与税については従前どおりとされている(改正法附則51⑥⑪)。
(2)上記1(2)の改正は、基盤強化法等改正法の施行日以後に特定貸付けが行われる場合について適用され、同日前に特定貸付けが行われた場合については従前どおりとされている(改正法附則51⑨⑭)。
(3)なお、既に相続税の納税猶予制度の適用を受けていた農業相続人又は贈与税の納税猶予制度の適用を受けていた受贈者が基盤強化法等改正法の施行日以後に農用地利用集積等促進計画の定めるところにより(特例)農地等を貸し付けた場合には、その(特例)農地等について上記1(1)の適用を受けることとされている(改正法附則51⑦⑧⑫⑬)。
(4)また、基盤強化法等改正法施行後2年間は従来の農用地利用集積計画(市町村作成)も併存する経過措置が基盤強化法等改正法に講じられている(基盤強化法等改正法附則5)ことに伴い、租税特別措置法等においてもこれに対応する所要の経過措置が講じられている(改正法附則51⑩⑮)。
Ⅲ 特定の美術品についての相続税の納税猶予制度等の改正
1 改正前の制度の概要
(1)特定の美術品についての相続税の納税猶予及び免除(措法70の6の7)
① 概要
寄託先美術館の設置者と特定美術品の寄託契約を締結し、文化財保護法の規定による認定保存活用計画に基づきその特定美術品を寄託先美術館の設置者に寄託していた者からその特定美術品を相続又は遺贈により取得した相続人が、その特定美術品の寄託先美術館の設置者への寄託を継続する場合には、その相続人が相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、その特定美術品に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、相続税の申告書の提出期限までに納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、その相続人の死亡の日まで、その納税が猶予される(措法70の6の7①)。
② 寄託先美術館
本特例の対象となる特定美術品の寄託を受ける美術館は、博物館法第2条第1項に規定する博物館(いわゆる登録博物館をいう。)又は同法第29条の規定により博物館に相当する施設として指定された施設(いわゆる博物館相当施設をいう。)のうち、特定美術品の公開及び保管を行うものとされていた(旧措法70の6の7②五)。
③ 特定美術品
本特例の対象となる美術品は、認定保存活用計画に記載された次に掲げるものをいう(措法70の6の7②一)。
イ 一定の重要文化財
文化財保護法第27条第1項の規定により重要文化財として指定された絵画、彫刻、工芸品その他の有形の文化的所産である動産
ロ 一定の登録有形文化財
文化財保護法第58条第1項に規定する登録有形文化財(建造物であるものを除く。)のうち世界文化の見地から歴史上、芸術上又は学術上特に優れた価値を有するもの
④ 寄託先美術館との寄託契約
特定美術品の所有者と寄託先美術館の設置者との間で締結された特定美術品の寄託に関する契約で、契約期間その他一定の事項の記載があるものをいう(措法70の6の7②二)。
(2)相続税の物納の特例(措法70の12)
税務署長は、納税義務者が物納の許可を申請しようとする場合において、その物納に充てようとする財産が登録美術品(美術品の美術館における公開の促進に関する法律に規定する登録美術品で、相続開始の時において既に登録を受けているものに限る。)であるときは、その登録美術品については、第一順位の物納財産として、物納の許可をすることができる(措法70の12①)。
2 改正の内容
博物館法の一部を改正する法律(令和4年法律第24号)により、登録等の要件が見直された後の博物館及び博物館に相当する施設について、引き続き上記1(1)及び(2)の適用が認められることとされた。
3 適用関係
上記2の改正は、令和5年4月1日から施行される(博物館法の一部を改正する法律附則1)。
Ⅳ 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の特例制度の改正
1 改正の内容
特例承継計画の提出期限が令和6年3月31日まで1年間延長された(円滑化省令17②)。
2 適用関係
上記1の改正は、令和4年4月1日から施行される(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和4年経済産業省令第41号)附則①)。
租税特別措置法等(登録免許税関係)の改正
Ⅰ 登録免許税の納付方法の拡充
1 改正前の制度の概要
下記(1)から(8)までのとおり、登録免許税の納付方法は、現金での納付を原則としつつ、一定の場合には印紙での納付が、電子申請をする場合にはインターネットバンキング等による納付が認められていた。また、登記機関は登記等をする場合には、登録免許税が納付されているかの確認等を行うこととされていた。なお、これらの納付に関する規定は、登録免許税については、手続先が国税当局ではないこと、印紙による納付や納付に係る領収証書を申請書等に貼り付けることなど固有の手続があることから、国税通則法の規定に対する別段の定めとして登録免許税法に定められている。
(1)現金納付
登記等(注1)を受ける者は、原則として、登記等につき課されるべき登録免許税の額に相当する登録免許税を国に納付し、その納付に係る領収証書をその登記等の申請書に貼り付けて登記官署等(注2)に提出しなければならない(旧登法21)。
(注1)登録免許税の課税対象となる登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定及び技能証明をいう。
(注2)登記等の事務をつかさどる登記所その他の官署又は団体をいう。
(2)印紙納付
登記等(下記(4)の免許等を除く。)を受ける者は、次に掲げる場合に該当する場合には、その登録免許税の額に相当する金額の印紙をその登記等の申請書に貼り付けて登記官署等に提出することにより、国に納付することができる(旧登法22、旧登令29)。
① 登記等につき課されるべき登録免許税の額が3万円以下である場合
② 登記所の近傍に収納機関が存在しないため登記所においてつかさどる登記又は登録に係る登録免許税を現金で納付することが困難であると法務局又は地方法務局の長が認めてその旨をその登記所に公示した場合
③ 登記等につき課されるべき登録免許税の額の3万円未満の端数の部分の登録免許税を納付する場合
④ 上記①から③までに掲げる場合のほか、印紙により登録免許税を納付することにつき特別の事情があると登記機関が認めた場合
(3)嘱託登記等の場合の納付
官庁又は公署が登記等を受ける者のためにその登記等を登記官署等に嘱託する場合には、登記等を受ける者は、その登記等につき課されるべき登録免許税の額に相当する登録免許税を国に納付し、その納付に係る領収証書(登録免許税の額が3万円以下である場合には、その登録免許税の額に相当する金額の印紙でも可)をその官庁又は公署に提出しなければならない。この場合には、その官庁又は公署は、その領収証書をその登記等の嘱託書に貼り付けて登記官署等に提出することとされている(旧登法23)。
(4)免許等の場合の納付の特例
一定の登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定又は技能証明(以下「免許等」という。)につき課されるべき登録免許税については、免許等を受ける者は、免許等の日から1月を経過する日までの間でその免許等に係る登記機関(注3)が定めた期限までに、登録免許税の額に相当する登録免許税を国に納付し、その納付に係る領収証書をその登記機関の定める書類に貼り付けて登記官署等に提出しなければならない(旧登法24、登令30)。
(注3)登記官又は登記以外の登記等をする官庁若しくは団体の長をいう。
(5)電子情報処理組織による登記等の申請等の場合の納付の特例
登記等を受ける者又は官庁若しくは公署が情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律の規定又は不動産登記法の規定により電子情報処理組織を使用してその登記等の申請又は嘱託を行う場合には、登記等を受ける者は、その登記等につき課されるべき登録免許税の額に相当する登録免許税を、上記(1)から(4)までの方法によるほか、登記機関から得た納付情報(Pay-easyで使用する番号)によりインターネットバンキング又は金融機関のATMで納付する方法により国に納付することができる(旧登法24の2、旧登規23)。
ただし、以下の場合には、この方法で納付することができない。
① 登録免許税の額の納付の事実の確認に係る事務を電子情報処理組織により処理するために必要な電子計算機が登記官署等に設置されていない場合
② 電気通信回線の故障その他の事由により電子計算機を使用して登記機関が登録免許税の額の納付の事実を確認することができない場合
また、免許等につき課されるべき登録免許税の額に相当する登録免許税をこの方法により国に納付する場合には、免許等に係る登記機関は、上記(4)と同様に、免許等の日から1月を経過する日までの間でその免許等につき課されるべき登録免許税の納付の期限を定めなければならない。
なお、電子情報処理組織を使用して登記等の申請又は嘱託を行った場合において、上記(1)から(4)までの方法により登録免許税を納付するときは、登記等を受ける者又は官庁若しくは公署は、別途、登記機関の定める書類にその登録免許税の納付に係る領収証書又はその登録免許税の額に相当する金額の印紙を貼り付けて登記官署等に提出しなければならない。
(6)納付の確認
登記機関は、登記等をするとき(次に掲げる場合に該当する場合には、それぞれに定めるとき)は、登記等につき課されるべき登録免許税の額の納付の事実を確認しなければならない。加えて、その納付が印紙によりされたものであるときは消印しなければならない(旧登法25、旧登規24)。
① 上記(4)の登記機関が定める書類が免許等をした後に提出される場合 その登記機関が定める書類が提出されたとき
② 上記(5)の免許等に係る納付の期限が免許等をした日後である場合 登録免許税の額の納付の事実に係る情報が電子計算機に備えられたファイルに記録されたとき
(7)納付不足額の通知
登記機関は、登録免許税の納期限後において登記等を受けた者がその登記等につき納付すべき登録免許税の額の全部又は一部を納付していない事実を知ったときは、遅滞なく、その登記等を受けた者の登録免許税に係る納税地の所轄税務署長に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知しなければならない(旧登法28、旧登規26)。
① 登記等の区分及びその明細
② 登記等に係る課税標準及び登録免許税の額並びにその登録免許税の額のうち未納の金額及び納期限
③ 登記等を受けた者の氏名又は名称及びその登記等に係る登録免許税の納税地
④ 通知をする登記機関の官職及び氏名
⑤ ②の登録免許税に係る登記官署等の名称及びその所在地
⑥ その他参考となるべき事項
(8)税務署長による徴収
税務署長は、上記(7)の通知を受けた場合には、その通知に係る納付していない登録免許税をその通知に係る登記等を受けた者から徴収することとされている。また、税務署長は、この通知がない場合であっても、登記等を受けた者が納付すべき登録免許税の額の全部又は一部を納付していない事実を知った場合には、その納付していない登録免許税をその者から徴収することとされている(旧登法29)。
2 改正の内容
(1)電子納付できる場面の拡大
上記1(5)のとおり、登記機関から得た納付情報により登録免許税の電子納付を行うためには、以下の法律の規定に基づいて電子情報処理組織を使用して登記等の申請又は嘱託を行う場合に限られていた。
① 情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第6条第1項
② 不動産登記法第18条(他の法令において準用する場合を含む。)
今般の改正においては、上記の法律の規定以外の規定に基づき電子情報処理組織を使用して登記等の申請又は嘱託を行う場合、また、書面による登記等の申請又は嘱託を行う場合であっても、制度上は、登録免許税の電子納付が可能となった(登法24の2①、35①)。
(2)納付の委託制度の創設
以下のとおり、登録免許税について、納付の委託制度(クレジットカード、電子マネー、QRコード決済等による納付)が創設された。
① 納付受託者に対する納付の委託
登記等を受ける者は、その登記等につき課されるべき登録免許税の額に相当する登録免許税を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により行う納付受託者(下記②の納付受託者をいう。以下①において同じ。)に対する通知に基づき納付しようとするときは、納付受託者に納付を委託することができる(登法24の3①)。
この納付受託者に対する通知は、登記等を受ける者(その者以外の者でその登記等に係る登録免許税を納付しようとするものを含む。以下①において同じ。)の次の支払手段の区分に応じ、それぞれに定める事項を通知しなければならない(登規23の2)。
イ クレジットカードを使用して納付する場合 登記等の申請又は嘱託に係る登記機関から払い出される納付情報及び納付書記載事項(登記等を受ける者の氏名又は名称及びその登記等に係る登録免許税の額その他の納付書に記載すべきこととされている事項をいう。以下同じ。)並びにクレジットカードの番号及び有効期限その他そのクレジットカードを使用する方法による決済に関し必要な事項
ロ 電子マネー又はQRコード決済により納付する場合 登記等の申請又は嘱託に係る登記機関から払い出される納付情報及び納付書記載事項並びに利用する電子マネー等の業務を行う者の名称その他その電子マネー等による決済に関し必要な事項
納付受託者は、この委託を受けたときは、その委託をした者にその旨を電子情報処理組織を使用して通知するとともに、委託を受けた登録免許税に係る納付情報及び納付書記載事項に係る電磁的記録を保存しなければならない(登規23の7)。
また、免許等につき課されるべき登録免許税の額に相当する登録免許税について納付を委託する場合には、免許等に係る登記機関は、上記1(5)と同様に、免許等の日から1月を経過する日までの間でその免許等につき課されるべき登録免許税の納付の委託の期限を定めなければならない(登法24の3②)。
なお、登記等を受ける者がこの通知に基づき登録免許税を納付しようとする場合において、納付受託者がその登録免許税の納付の委託を受けたときは、その委託を受けた日にその登録免許税の納付があったものとみなして、国税通則法の延滞税に関する規定が適用される(登法24の3③)。
② 納付受託者の要件
登録免許税の納付に関する事務(以下「納付事務」という。)を適正かつ確実に実施することができると認められる者であり、かつ、次に掲げる要件に該当する者として登記等を所管する省庁の長(以下「所管省庁の長」という。)が指定するもの(以下「納付受託者」という。)は、その登記等を受ける者の委託を受けて、納付事務を行うことができる(登法24の4①、登令30の2)。
イ 納付事務を行うことが登録免許税の徴収の確保及び納税者の便益の増進に寄与すると認められること
ロ 納付事務を適正かつ確実に遂行するに足りる経理的及び技術的な基礎を有するものとして一定の基準(注1)を満たしていること
(注1)地方自治法に規定する指定納付受託者として道府県税又は都税の納付に関する事務処理の実績を有する者その他これらの者に準じて納付事務を適正かつ確実に遂行することができると認められる者であることとされている(登規23の3)。
③ 納付受託者の指定手続
所管省庁の長の指定を受けようとする者は、その名称及び住所又は事務所の所在地その他その所管省庁の長が必要と認める事項を記載した申出書をその所管省庁の長に提出しなければならない(登規23の4①)。
また、この申出書には、この指定を受けようとする者に係る定款、登記事項証明書並びに最終の貸借対照表、損益計算書及び事業報告又はこれらに準ずるもの(以下③において「定款等」という。)を添付しなければならない。ただし、所管省庁の長が、インターネットにおいて識別するための文字、記号その他の符号又はこれらの結合をその使用に係る電子計算機に入力することによって、自動公衆送信装置に記録されている情報のうち定款等の内容を閲覧し、かつ、その電子計算機に備えられたファイルにその情報を記録することができる場合は、添付の必要はない(登規23の4②)。
所管省庁の長は、この申出書の提出があった場合において、その申出につき指定をしたときはその旨を、指定をしないこととしたときはその旨及びその理由をその申出書を提出した者に通知しなければならない(登規23の4③)。
また、所管省庁の長は、指定をしたときは、納付受託者の名称、住所又は事務所の所在地及び指定の日を公示しなければならない(登法24の4②、登規23の5)。
納付受託者は、その名称、住所又は事務所の所在地を変更しようとするときは、変更しようとする日の前日から起算して60日前の日又はその変更を決定した日の翌日から起算して14日後の日のいずれか早い日までに、その旨を所管省庁の長に届け出なければならない。また、この届出があったときは、所管省庁の長は、その届出事項を公示しなければならない(登法24の4③④、登規23の6)。
④ 納付受託者の納付等
納付受託者は、①による委託を受けたときは、委託を受けた日の翌日から起算して11取引日(収納機関の休日以外の日をいう。以下④において同じ。)を経過した最初の取引日までの取引日でその納付受託者に係る所管省庁の長が定める日(災害その他やむを得ない理由によりその日までに納付することができないとその所管省庁の長が認める場合には、その承認する日)までにその委託を受けた登録免許税を国に納付しなければならない(登法24の5①、登令30の3)。
(注2)納付受託者による納付は、電子納付(Pay-easyを利用した納付)に限られる。
納付受託者は、①による委託を受けたときは、遅滞なく、次に掲げる事項をその委託に係る所管省庁の長に報告しなければならない(登法24の5②、登規23の8)。
イ 報告の対象となった期間並びにその期間において①による委託を受けた件数、合計額及び納付年月日
ロ イの期間において受けたイの委託に係る納付書記載事項及びその委託を受けた年月日
⑤ 納付受託者の帳簿保存等の義務
納付受託者は、一定の書式により、これに納付事務に関する事項を記載し、及びこれを保存しなければならない(登法24の6①、登規23の10一・第一号書式)。
所管省庁の長は、上記②から⑤を施行するため必要があると認めるときは、その必要な限度で、報告すべき事項、報告の期限その他必要な事項を明示した上で、納付受託者に対し、報告をさせることができる(登法24の6②、登規23の9)。
また、所管省庁の長は、上記②から⑤を施行するため必要があると認めるときは、その必要な限度で、その職員に、納付受託者の事務所に立ち入り、納付受託者の帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録の作成又は保存がされている場合におけるその電磁的記録を含む。)その他必要な物件を検査させ、又は関係者に質問させることができる。なお、この職員は、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない(登法24の6③④、登規23の10二・第二号書式)。
⑥ 納付受託者の指定の取消し
所管省庁の長は、上記①による指定を受けた者が次のいずれかに該当するときは、その指定を取り消すことができる。なお、指定を取り消したときは、その所管省庁の長は、その旨を公示しなければならない(登法24の7)。
イ 上記②の指定の要件に該当しなくなったとき
ロ 上記④又は⑤の報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき
ハ 上記⑤に違反して、帳簿を備え付けず、帳簿に記載せず、若しくは帳簿に虚偽の記載をし、又は帳簿を保存しなかったとき
ニ 上記⑤の立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をしたとき
⑦ 納付の確認
登記機関は、納付受託者による登録免許税の額の納付の事実に係る情報がその登記機関の電子計算機に備えられたファイルに記録されたときは、登記等につき課されるべき登録免許税の額の納付の事実を確認しなければならないことは、上記1(6)と同様(登法25、登規24三)。
⑧ 納付不足額の通知
上記1(7)と同様に、登記機関は、登録免許税の納期限(上記④の期日が納期限後に到来する場合には、その日)後において、納付受託者が上記①による委託を受けた登録免許税の額の全部又は一部を納付していない事実を知ったときは、遅滞なく、その納付受託者の住所又は事務所の所在地の所轄税務署長に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知しなければならない(登法28③、登規26②)。
イ 上記1(7)に掲げる事項
ロ 上記④の所管省庁の長が定める日
ハ 納付受託者の名称及び住所又は事務所の所在地
⑨ 税務署長による徴収
税務署長は、上記⑧の通知を受けた場合には、国税の保証人に関する徴収の例によりその通知に係る納付していない登録免許税をその通知に係る納付受託者から徴収することとされた(登法29②)。
なお、税務署長は、上記④により納付受託者が納付すべき登録免許税については、その納付受託者に対して国税通則法第40条(滞納処分)の規定による処分をしてもなお徴収すべき残余がある場合でなければ、その残余の額についてその登録免許税に係る登記等を受けた者から徴収することができない(登法29③)。
3 適用関係
令和4年4月1日から施行される(改正法附則1)。ただし、上記の改正は、制度・法制的な対応であって、実際に書面申請等をする場合の電子納付又は納付の委託ができるか否かについては、各登記等に係る登記機関の申請及び納付に係るシステム等の対応による。
Ⅱ 相続に係る所有権の移転登記等の免税措置の改正
1 改正前の制度の概要
(1)相続登記が未了で数次相続が発生している土地の免税
個人が相続(相続人に対する遺贈を含む。以下同じ。)により土地の所有権を取得した場合において、その個人がその相続によるその土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成30年4月1日から令和4年3月31日までの間にその個人をその土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さないこととされていた(旧措法84の2の3①)。
(2)行政目的のため相続登記を促進する必要のある土地の免税
個人が、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号)の施行の日から令和4年3月31日までの間に、土地について所有権の保存の登記(表題部所有者の相続人が受けるものに限る。)又は相続による所有権の移転の登記を受ける場合において、その土地がこれらの登記の促進を特に図る必要があるものであり、かつ、これらの登記に係る登録免許税の課税標準たる不動産の価額が10万円以下であるときは、これらの登記については、登録免許税を課さないこととされていた(旧措法84の2の3②)。
2 改正の内容
(1)行政目的のため相続登記を促進する必要のある土地の免税の対象範囲の拡充
上記1(2)の特例について、特例の対象から除外されていた市街化区域内に所在する土地も特例の対象に加えることとされた。また、この特例の対象となる土地の価額の上限が10万円から100万円に引き上げられた(措法84の2の3②、旧措令44の2)。なお、この改正に伴い、上記1(2)の対象となっていた土地の所在に関する告示(平成30年法務省告示第370号)は廃止された(令和4年法務省告示第69号)。
(2)新たに創設された職権登記の扱い
所有者不明土地等問題の抜本的な解決に向けて、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)による不動産登記法の改正に伴い、新たに次の登記が創設された。
① 会社法人等番号を追加する所有権の変更登記(不動産登記法73の2①一)
② 相続人申告登記(不動産登記法76の3)
③ 所有権の登記名義人の死亡情報を示す符号の表示(不動産登記法76の4)
④ 所有権の登記名義人の住所等の変更登記(不動産登記法76の6)
登記官の職権に基づきされる登記は申請に基づくものを除き登録免許税が課されないこととされているところ、新たに創設されたこれらの登記はいずれも申請に基づかず、また、登記官の職権によりされるものであることから、登録免許税が課されないこととされた(登法5二)。
(3)適用期限の延長
上記1(1)(2)について、その適用期限が、令和7年3月31日まで3年延長された(措法84の2の3①②)。
3 適用関係
上記2(1)の改正は、令和4年4月1日以後に受ける登記に係る登録免許税について適用される(改正法附則1)。
Ⅲ 住宅用家屋の所有権の移転登記の税率の軽減措置等の改正
1 改正前の制度の概要
(1)住宅用家屋の所有権の移転登記の税率の軽減措置
個人が、令和4年3月31日までに建築後使用されたことのない住宅用家屋又は建築後使用されたことのある住宅用家屋のうち一定のもの(以下「既存住宅」という。)を取得し、その者の居住の用に供した場合には、これらの住宅用家屋の所有権の移転登記で、その取得後1年以内(1年以内に登記ができないことについてやむを得ない一定の事情があるときは、その事情がなくなった日から1年を経過する日まで)に登記を受けるものに対する登録免許税については、その税率が1,000分の3(本則1,000分の20)に軽減されていた(旧措法73)。
また、「既存住宅」とは、取得をした個人の住宅の用に供される家屋で、次の①及び②の要件を満たすものであることにつき、その個人の申請に基づき、市町村長等が証明したものをいう。この特例の適用を受けるためには、その登記の申請書に市町村長等の証明書の添付が必要とされていた(旧措令42、措規25の2)。
① 面積要件
イ 戸建て住宅 床面積が50㎡以上の家屋
ロ 区分所有住宅 耐火建築物又は準耐火建築物に該当する家屋で専らその個人の住宅の用に供する部分の床面積が50㎡以上のもの
② 次のいずれかの要件を満たすこと
イ 耐火建物(鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造等の家屋)の場合
(イ)取得の日以前25年以内に建築されたものであること
(ロ)建築基準法施行令第3章及び第5章の4の規定又は国土交通大臣が財務大臣と協議して定める地震に対する安全性に係る基準に適合するものであること
ロ イ以外の家屋
(イ)取得の日以前20年以内に建築されたものであること
(ロ)上記イ(ロ)に掲げる要件を満たすものであること
(2)特定の増改築等がされた住宅用家屋の所有権の移転登記の税率の軽減措置
個人が、令和4年3月31日までに宅地建物取引業者が増改築等をした建築後使用されたことのある住宅用家屋をその宅地建物取引業者から取得し、その者の居住の用に供した場合には、その住宅用家屋の所有権の移転の登記に係る登録免許税の税率は、その住宅用家屋の取得後1年以内に登記を受けるものに限り、1,000分の1(本則1,000分の20)に軽減されていた(旧措法74の3)。
(3)住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記の税率の軽減措置
個人が、令和4年3月31日までに住宅用家屋の新築(増築後の家屋が住宅用家屋に該当する場合の増築を含む。以下同じ。)をし、又は建築後使用されたことのない住宅用家屋若しくは既存住宅の取得をし、その者の居住の用に供した場合において、これらの住宅用家屋の新築又は取得(以下「住宅用家屋の新築等」という。)をするための資金の貸付け(貸付けに係る債務の保証を含む。)が行われるとき又は対価の支払が賦払の方法により行われるときは、その貸付け又はその賦払金に係る債権で次に掲げるものを担保するため、それぞれ次に定める者が受けるこれらの住宅用家屋を目的とする抵当権の設定の登記で、住宅用家屋の新築等後1年以内に登記を受けるものに対する登録免許税については、その税率が1,000分の1(本則1,000分の4)に軽減されていた(旧措法75)。
① 住宅用家屋の新築等をするための資金の貸付けに係る債権 その債権に係る貸付けを行った者
② 住宅用家屋の新築等をするための資金の貸付けに係る債務の保証に基づく求償権 その債務の保証を行った者
③ 住宅用家屋の新築等をするための対価の支払が賦払の方法により行われる場合におけるその賦払金に係る債権 その賦払の方法によりその対価の支払を受けた者
④ 住宅用家屋の新築等をするための資金の貸付けに係る債権で独立行政法人住宅金融支援機構が独立行政法人住宅金融支援機構法第13条第1項第1号の業務により金融機関から譲り受けた貸付債権 独立行政法人住宅金融支援機構
2 改正の内容
(1)適用対象となる既存住宅の範囲(耐震性に係る要件)の見直し
上記1の既存住宅の要件の1つとして定められていた建築後の経過年数の要件(耐火建築物:建築後25年以内、非耐火建築物:建築後20年以内)が廃止され、これに代わり新たに昭和57年1月1日以後に建築されたものであることが要件として定められた(措令42①二)。
(2)適用期限の延長
上記1(1)〜(3)について、その適用期限が、令和6年3月31日まで2年延長された。
3 適用関係
上記2の改正は、令和4年4月1日以後に取得をする建築後使用されたことのある住宅用家屋(既存住宅)の所有権の移転の登記又はその住宅用家屋(既存住宅)を目的とする抵当権の設定の登記に係る登録免許税について適用される(改正措令附則22)。
Ⅳ 認定特定民間中心市街地経済活力向上事業計画に基づき不動産を取得した場合の所有権の移転登記等の税率の軽減措置の改正
1 改正の内容
(1)不動産の所有権の取得の登記に係る軽減措置の見直し
令和5年4月1日以後に認定を受ける特定民間中心市街地経済活力向上事業計画に基づき取得する不動産の登記に係る特例の税率が1,000分の13(改正前1,000分の10)に引き上げられた。
(2)適用期限の延長
適用期限が、令和6年3月31日まで2年延長された(措法81①②)。
2 適用関係
上記1(1)の改正は、令和5年4月1日以後に認定を受ける特定民間中心市街地経済活力向上事業計画に基づき取得する不動産の登記に係る登録免許税について適用される(改正法附則52③)。
Ⅴ 利用権設定等促進事業により農用地等を取得した場合の所有権の移転登記の税率の軽減措置の改正
1 改正の内容
特例の対象となっていた利用権設定等促進事業は、市町村が作成する農用地利用集積計画によって定められていたが、農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律(令和4年法律第56号。以下「基盤強化法等改正法」という。)によりこの計画が農地中間管理機構が作成する農用地利用集積等促進計画に統合されたことに伴い、規定が整備された。
2 適用関係
(1)上記1の改正は、基盤強化法等改正法の施行の日以後に取得をする農用地等の登記に係る登録免許税について適用される(改正法附則52①)。
(2)なお、基盤強化法等改正法施行後2年間は従来の農用地利用集積計画(市町村作成)も併存する経過措置が基盤強化法等改正法に講じられている(基盤強化法等改正法附則5)ことに伴い、租税特別措置法においてもこれに対応する所要の経過措置が講じられている(改正法附則52②)。
Ⅵ 漁業信用基金協会が受ける抵当権の設定登記等の税率の軽減措置の改正
1 改正の内容
地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第44号)により、中小漁業融資保証法が改正され、本措置の適用に係る債務保証業務の対象として、従来の都道府県による直接の貸付けに加え、金融機関が貸付主体となり、その原資について都道府県が負担する仕組み(転貸融資方式)が導入された。
この改正の結果、本措置の適用対象となる債務保証業務の対象範囲も拡大することとなった。
2 適用関係
上記1の改正は、令和4年4月1日から施行される(地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律附則1)。
Ⅶ 経営強化計画に基づき行う登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の改正
1 改正の内容
適用対象となる登記の範囲に、金融機能強化法の認定を受けた実施計画(資金交付契約に関する事項が記載されているものに限る。)に基づき行う組織再編成等に係る登記が加えられた上、その適用期限が、令和6年3月31日まで2年延長された(措法80の2)。
2 適用関係
上記1の改正は、令和4年4月1日以後に金融機関等が提出する実施計画等に基づいて受ける登記に係る登録免許税について適用される(措法80の2、改正法附則1)。
Ⅷ 租税特別措置等の延長
1 次に掲げる租税特別措置の適用期限が令和6年3月31日まで2年延長された。
(1)住宅用家屋の所有権の保存登記の税率の軽減措置(措法72の2)
(2)特定認定長期優良住宅の所有権の保存登記等の税率の軽減措置(措法74)
(3)認定低炭素住宅の所有権の保存登記等の税率の軽減措置(措法74の2)
(4)マンション建替事業の施行者等が受ける権利変換手続開始の登記等の税率の免税措置(措法76)
(5)農地中間管理機構が農用地等を取得した場合の所有権の移転登記の税率の軽減措置(措法77の2)
(6)認定事業再編計画等に基づき行う登記の税率の軽減措置(措法80①)
(7)特定創業支援等事業による支援を受けて行う登記の税率の軽減措置(措法80②)
(8)認定経営力向上計画に基づき行う登記の税率の軽減措置(措法80③)
(9)特定国際船舶の所有権の保存登記等の税率の軽減措置(措法82)
(10)低未利用土地権利設定等促進計画に基づき不動産を取得した場合の所有権等の移転登記等の税率の軽減措置(措法83の2)
(11)特定の社債的受益権に係る特定目的信託の終了に伴い信託財産を買い戻した場合の所有権の移転登記等の税率の免税措置(措法83の4)
(12)特定連絡道路工事施行者が取得した特定連絡道路に係る土地の所有権の移転登記の免税措置(措法84の2の2)
(13)経営強化計画に基づき行う登記の税率の軽減措置(震災税特法41の2)
2 帰還・移住等環境整備推進法人が取得をした不動産に係る所有権等の移転登記等の税率の軽減措置が令和7年3月31日まで3年延長された(震災税特法40の4)。
Ⅸ 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構に対する非課税措置の改正
1 改正前の制度の概要
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「鉄道・運輸機構」という。)が受ける新幹線鉄道に係る鉄道施設の建設(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法13①一)など一定の業務の用に供する鉄道施設の所有権の取得登記等については、登録免許税が非課税とされていた(旧登録免許税法別表第三告示独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の項)。
2 改正の内容
鉄道・運輸機構が登録免許税法の別表第二に掲げられるとともに、別表第三から削除されることとされた(登録免許税法別表第二告示独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の項、登録免許税法別表第三告示独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の項)。
3 適用関係
上記2の改正は、令和4年4月1日以後に鉄道・運輸機構が受ける登記等に係る登録免許税について適用される(令和4年財務省告示第97号)。
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