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解説記事2022年07月25日 税務マエストロ 免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A(2022年7月25日号・№940)

税務マエストロ
免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A
 税理士 熊王征秀

マエストロの解説

 免税事業者はインボイスの発行ができないため、取引先からの要請により、インボイスの登録申請をして適格請求書発行事業者となることが予想される。この場合、適格請求書発行事業者になると消費税の申告義務が生ずるため、納付消費税額をコストとして負担しなければならないこととなる。
 そこで、免税事業者のような適格請求書発行事業者でない者(非登録事業者)からの課税仕入れについては、令和5年10月1日から令和8年9月30日までは課税仕入高の80%を仕入控除税額の計算に取り込むことが認められている(平成28年改正法附則52)。また、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは、課税仕入高の50%を仕入控除税額の計算に取り込むことが認められている(平成28年改正法附則53)。
 免税事業者は、この経過措置も考慮に入れながら、登録の必要性と資金繰りを天秤にかけ、取引先との価格交渉に当たらなければならない。つまり、登録の是非を慎重に判断する必要があるということである。
 こういった実情に配慮したものと思われる。財務省は、公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省との連名で、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」を令和4年1月19日に公表(令和4年3月8日に改正)した。
 今回は、このQ&Aの内容を検討することにする。

Q1 インボイス制度で何が変わるのか

 インボイス制度が実施されて、何が変わりますか。
A
 インボイス制度の実施後も、売上げに係る消費税額から、仕入れに係る消費税額を控除(仕入税額控除)し、その差引税額を納税するという消費税の原則は変わりません。
  また、インボイス制度の実施後も、簡易課税制度(注1)を選択している場合は、現在と同様、売上げに係る消費税額に一定割合(みなし仕入率)を乗じて仕入税額控除を行うことができます。一方、簡易課税制度を選択していない場合、仕入税額控除を行うためには、適格請求書(注2)(インボイス)の保存が必要となります。
  インボイスは、課税事業者が適格請求書発行事業者(注3)の登録を受けることで、発行できるようになります。課税事業者間の取引では、売手は現在使用している請求書等の様式に登録番号等を追加することなどが必要になり、買手(簡易課税制度を選択していない場合)は受け取ったインボイス及び帳簿を保存することで仕入税額控除を行うことができます。
  また、インボイスには消費税率や消費税額が記載されるため、売手は納税が必要な消費税額を受け取り、買手は納税額から控除される消費税額を支払うという対応関係が明確となり、消費税の転嫁がしやすくなる面もあると考えられます。
  なお、インボイス制度実施に伴う事業者の対応として、インボイス制度の実施までに、適格請求書発行事業者となる売手では、端数処理のルールの見直しを含めた請求書等の記載事項やシステムの改修等への対応が必要となる場合があります。また、交付したインボイスの写しの保存等や、仕入税額控除を行おうとする買手では、新たな仕入先が適格請求書発行事業者かどうかの確認や、受け取ったインボイスが記載事項を満たしているかどうかの確認が必要となる場合があります。このような事業者の対応に向けては、改正電子帳簿保存法の活用を図るほか、デジタル化の推進のための専門家派遣やITの導入支援などを行います。なお、簡易課税制度を適用している事業者は買手としての追加的な事務負担は生じません。
(注1)基準期間(個人の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の事業者について、売上げに係る消費税額に、業種ごとに定められた一定割合(みなし仕入率)を乗じることにより、仕入税額を計算する仕組みです。適用を受けるためには所轄税務署長への事前届出が必要となります。
(注2)現行制度において保存が必要となる区分記載請求書の記載事項に加えて「登録番号」、「消費税率」及び「消費税額等」の記載が必要となります。
(注3)インボイス制度が実施される令和5年10月1日から登録を受けようとする事業者は、原則として令和5年3月31日までに登録申請書を所轄税務署長に提出する必要があります。
<コメント>
 Q1では、インボイス制度の導入に伴う売手と買手の留意点と準備について説明している。Answerでは、インボイス制度の導入により、売手と買手の対応関係が明確になり、消費税の転嫁がしやすくなるとしているが、この他にも、(取引のすべてではないが)免税事業者が消費税という名目で消費税相当額を受領するという益税問題が解消されるというメリットがある。

 また、インボイスの導入に向けた準備として、売手と買手のそれぞれについて、前頁表のようなアドバイスをしている。

Q2 免税事業者への影響(1)

 現在、自分は免税事業者ですが、インボイス制度の実施後も免税事業者であり続けた場合、必ず取引に影響が生じるのですか。
A
 インボイス制度の実施後も、免税事業者の売上先が以下のどちらかに当てはまる場合は、取引への影響は生じないと考えられます。

① 売上先が消費者又は免税事業者である場合
 (理由)消費者や免税事業者は仕入税額控除を行わないため、インボイスの保存を必要としないからです。
② 売上先の事業者が簡易課税制度を適用している場合
 (理由)簡易課税制度を選択している事業者は、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができるからです。※筆者一部改定

 そのほか、非課税売上げに対応する仕入れについては仕入税額控除を行うことができませんので、例えば医療や介護など、消費税が非課税とされるサービス等を提供している事業者に対して、そのサービス等のために必要な物品を販売している場合なども、取引への影響は生じないと考えられます。

【参考①】簡易課税制度の適用を受けられる事業者とは
〇簡易課税制度の適用を受けられる事業者は、前々年(個人)又は前々事業年度(法人)の課税売上高が5,000万円以下である事業者です。
〇簡易課税制度は、課税事業者の約35%の事業者が、そのうち個人事業者である課税事業者については約55%の事業者が適用を受けています。
(参考)令和2年度国税庁統計年報より
簡易課税適用者数約114万者/課税事業者数約318万者=約35%
(うち個人事業者:約64万者/約114万者=約55%

【参考②】非課税とは
〇消費税は「消費」に対して、広く、公平に負担を求めることとしており、基本的に全ての財・サービスに課税されるものですが、
・税の性格から課税対象とならないもの(土地の譲渡、有価証券の譲渡、貸付金利子など)や
・社会政策的な配慮に基づき課税対象とならないもの(医療、社会福祉事業、学校の授業料、住宅の貸付けなど)
 については、「非課税」とされ、消費税は課されないこととなっています。

<コメント>
 街の床屋さんや商店街の肉屋・魚屋・八百屋さんなどは、主に消費者を顧客として商売していることからあえて登録してインボイスを交付する必要はない。
 また、喫茶店などを経営する事業者が、商店街などの小規模な店舗で食材などを購入する場合には、購入者である喫茶店の経営者は、免税事業者あるいは簡易課税適用事業者であることが多いので、商店街のお店では、あえてインボイスの登録をする必要はないものと思われる。
 インボイス制度の導入により、すべての免税事業者が登録しなければいけないわけではないので、登録申請に当たっては、各事業者の取引の実態に応じて、慎重に判断する必要があるということである。
 ただし、取引先が簡易課税適用事業者なのかどうか、また、医療・介護・社会福祉事業者に販売する商品や提供するサービスが、取引先において非課税売上対応分に区分されるものかどうかということを売手側で判別することはできない。

Q3 免税事業者への影響(2)

 売上先がQ2のいずれにも当てはまらない場合、免税事業者の取引にはどのような影響が生じますか。
A
 売上先がQ2のいずれにも該当しない課税事業者である場合、その課税事業者は免税事業者からの仕入れについて、原則、仕入税額控除ができないこととなります。しかし、取引への影響に配慮して経過措置が設けられており、免税事業者からの仕入れについても、制度実施後3年間は消費税相当額の8割、その後の3年間は5割を仕入税額控除が可能とされています。
  また、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者と比して取引条件についての情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。このような状況下で、売上先の意向で取引条件が見直される場合、その方法や内容によっては、売上先は独占禁止法又は下請法若しくは建設業法により問題となる可能性があります。具体的に問題となりうる行為については、Q7をご参照ください。
  なお、インボイス制度の実施を契機として、売上先から取引条件の見直しについて相談があった場合は、免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担していることを踏まえつつ、以上の点も念頭に置いて、売上先と交渉をするなど対応をご検討ください。
(参考)下請法及び建設業法並びに独占禁止法の優越的地位の濫用規制に関するご相談については、別紙の「下請法及び建設業法並びに優越的地位の濫用規制に係る相談窓口」までお問い合わせください。
<コメント>
1 インボイス制度の基における売手側と買手側の関係

 買手側が本則課税により仕入控除税額を計算する場合には、原則としてインボイスの交付を受けないと仕入税額控除はできない。ただし、令和5年10月1日〜令和8年9月30日の期間については課税仕入高の80%、令和8年10月1日〜令和11年9月30日の期間については課税仕入高の50%を仕入控除税額の計算対象とすることができる。

2 下請法等との関係
 免税事業者との価格交渉に当たっては、下請法や建設業法に違反しないように留意することとされているが、この点についてはQ7で確認されたい。
3 売上先との値段交渉について
 Answerには、「……免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担していることを踏まえつつ、以上の点も念頭に置いて、売上先と交渉をするなど対応をご検討ください。」と書かれているが、具体的にどのような方法で交渉することを想定しているのだろうか……?
 免税事業者は納税義務がない反面、仕入税額控除もできないこととなるので、例えば、110(税込)で仕入れた商品に課された消費税10は仕入コストとしてその免税事業者が負担することになる。結果、利益が10減少することとなるので、この「仕入税額控除ができない10の消費税相当額を売値に転嫁する必要があるので頑張って値段交渉してください。」という意味なのだろうか……?

Q4 免税事業者への影響(3)

 免税事業者が課税事業者を選択した場合には、何が必要になりますか。
A
 課税事業者を選択した場合、消費税の申告・納税等が必要となります。なお、インボイス制度の実施後も、基準期間(個人事業者の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の事業者は事前に届出を提出することで簡易課税制度を適用できます。簡易課税制度は中小事業者の事務負担への配慮から設けられている制度であり、売上げに係る消費税額にみなし仕入率を乗じることにより仕入税額を計算することができますので、仕入れの際にインボイスを受け取り、それを保存する必要はありません。
  また、課税事業者(簡易課税制度を選択している場合を含みます)がインボイスを発行する場合は、所轄の税務署長への登録申請や、売上先に発行する請求書等の様式への登録番号等の追加、売上先へのインボイスの交付、その写しの保存などが必要となります。
  インボイスには消費税率や消費税額が記載されるため、売手は納税が必要な消費税額を受け取り、買手は納税額から控除される消費税額を支払うという対応関係が明確となり、消費税の転嫁がしやすくなる面もあると考えられます。
  その他、課税事業者を選択した場合には、消費税法令に基づき、帳簿書類について原則7年間保存する必要があります。

【参考③】簡易課税制度の適用を受ける場合の計算方法等
〇簡易課税制度を適用する場合、
 ・消費税の納付税額を売上税額のみから計算が可能であり、
 ・仕入税額控除のための請求書(インボイス)や帳簿の保存が不要
 という点において、事務負担の軽減を図ることが可能となります。
〇具体的には、以下の算式により納付税額を計算することとなります。
 売上の消費税額-仕入の消費税額=納付税額

<コメント>
 「免税事業者が課税事業者を選択した場合には……」とのQであるが、免税事業者は令和11年9月30日の属する課税期間までは「課税事業者選択届出書」を提出しなくても、「登録申請書」の提出で適格請求書発行事業者になることができるわけであるから、「免税事業者がインボイスの登録をする場合……」というQにしたほうがよかったのではないかと思われる(新平成28年改正法附則44④)。
 免税事業者だけでなく、課税事業者についても、インボイスの登録申請に当たっては下記の点に注意する必要がある。

・所轄の税務署長への登録申請(実際の申請先はインボイス登録センターになります。)
・売上先に発行する請求書等の様式への登録番号等の追加
・売上先へのインボイスの交付とその写しの保存
・インボイスの写しの他、関係帳簿書類の保存(原則7年間)

 ところでAnswerには、簡易課税制度の適用を受ける場合には仕入先から受領したインボイスを保存する必要はないと書いてあるが、実務上は、領収証や請求書がインボイスとして兼用されることとなる。よって、これらの書類は簡易課税制度により仕入控除税額を計算する場合は不要となるものの、所得税や法人税の法令においては当然に保存が義務付けられていることに注意する必要がある。

Q5 課税事業者の留意点(1)

 現在、自分は課税事業者ですが、免税事業者からの仕入れについて、インボイス制度の実施に当たり、どのようなことに留意すればいいですか。
A
 簡易課税制度を適用している場合は、インボイス制度の実施後も、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができますので、仕入先との関係では留意する必要はありません。
  簡易課税制度を適用していない場合も、取引への影響に配慮して経過措置が設けられており、免税事業者からの仕入れについても、制度実施後3年間は消費税相当額の8割、その後の3年間は5割を仕入税額控除が可能とされています。
  また、消費税の性質上、免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担しており、その分は免税事業者の取引価格に織り込まれる必要があることにも、ご留意ください。
  なお、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者と比して取引条件についての情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。このような状況の下で取引条件を見直す場合、その設定方法や内容によっては、独占禁止法又は下請法若しくは建設業法により問題となる可能性があります。具体的に問題となりうる行為については、Q7をご参照ください。
(参考)下請法及び建設業法並びに独占禁止法の優越的地位の濫用規制に関するご相談については、別紙の「下請法及び建設業法並びに優越的地位の濫用規制に係る相談窓口」までお問い合わせください。
  免税事業者からの仕入れについて、インボイス制度の実施に伴う対応を検討するに当たっては、以上の点も念頭に置きつつ、仕入先とよくご相談ください。
  また、免税事業者である仕入先との取引条件を見直すことが適当でない場合に、仕入税額控除を行うことができる額が減少する分について、原材料費や諸経費等の他のコストとあわせ、販売価格等に転嫁することが可能か、自らの売上先等と相談することも考えられます。
<コメント>
1 インボイス制度の下における売手側と買手側の関係

 簡易課税により仕入控除税額を計算する場合には、インボイスの保存は仕入税額控除の要件とされていないので、免税事業者からの仕入れであっても税負担額に影響はない。
 本則課税により仕入控除税額を計算する場合には、インボイスの交付を受けないと原則として仕入税額控除はできないが、令和5年10月1日〜令和8年9月30日の期間については課税仕入高の80%、令和8年10月1日〜令和11年9月30日の期間については課税仕入高の50%を仕入控除税額の計算対象とすることができる。
 インボイス制度の下における売手側と買手側の関係については、Q3の<コメント>の表を参照されたい。
2 下請法等の関係
 免税事業者との価格交渉に当たっては、下請法や建設業法に違反しないように留意することとされているが、この点についてはQ7で確認されたい。
3 仕入先との値段交渉について
 Answerには「消費税の性質上、免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担しており、その分は免税事業者の取引価格に織り込まれる必要があることにも、ご留意ください。」と書いてあるが、この言葉の意味がわからない。
 具体的にどのような方法で「ご留意」すればよいのであろうか……?
 免税事業者は納税義務がない反面、仕入税額控除もできないこととなるので、例えば、110(税込)で仕入れた商品に課された消費税10は、コストとしてその仕入先である免税事業者が負担することになる。結果、仕入先である免税事業者は利益が10減少することとなるので、この10にご留意して(面倒みて)やってくれということなのであろうか……?
 仕入先における商品の仕入値(原価)など、買手側でわかるはずがない。消費税相当額を一体どうやって面倒みればいいのだろう……。
(注)建設業法19条の3(不当に低い請負代金の禁止)では、下請業者が原価割れするような価格による工事の発注を禁止しているが、これは、建設業の特異性に配慮して、悪質な元請業者に対する戒めのために設けられた法律であると考えられる。
4 売上先との値段交渉について
 Answerの末尾に「免税事業者である仕入先との取引条件を見直すことが適当でない場合に、仕入税額控除を行うことができる額が減少する分について、原材料費や諸経費等の他のコストとあわせ、販売価格等に転嫁することが可能か、自らの売上先等と相談することも考えられます。」と書いてあるが、これは、仕入控除税額が減少する分(コストが増加する分)を次の取引先である自らの売上先に負担してもらうということなのであろうか?
 例えば、下図のようにインボイス導入前であれば10の税負担だった取引について、仕入税額控除ができないこととなると、M社の税負担額は20に増加する。そこで、売上先と相談の上、仕入税額控除ができない10を負担してもらうべく、売上先への売値を230程度に増額させてもらうということなのであろうか……。これらはあくまでも経営判断というか値決めの問題なのであり、財務省や公正取引委員会が事細かにアドバイスをするようなことではないと感じている。

Q6 課税事業者の留意点(2)

 課税事業者が、インボイス制度の実施後に、新たな相手から仕入れを行う場合には、どのようなことに留意すればいいですか。
A
 簡易課税制度を適用している場合は、インボイス制度の実施後も、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができますので、仕入先との関係で留意する必要はありません。
  また、簡易課税制度を適用していない場合は、インボイス制度の実施後は、取引条件を設定するに当たり、相手が適格請求書発行事業者かを確認する必要があると考えられます。
  免税事業者からの仕入れは仕入税額控除ができないため、免税事業者から仕入れを行う場合は、設定する取引価格が免税事業者を前提としたものであることを、互いに理解しておく必要もあると考えられます。例えば、免税事業者である仕入先に対して、「税抜」や「税別」として価格を設定する場合には、消費税相当額の支払いの有無について、互いに認識の齟齬がないよう、ご留意ください。
  また、具体的な取引価格の設定に当たっては、取引への影響に配慮して経過措置が設けられていることなど、Q5の内容もご参照ください。
<コメント>
1 経過措置を前提とした価格交渉

 簡易課税により仕入控除税額を計算する場合には、インボイスの保存は仕入税額控除の要件とされていないので、免税事業者からの仕入れであっても税負担額に影響はない。
 本則課税により仕入控除税額を計算する場合には、インボイスの交付を受けないと原則として仕入税額控除はできないが、令和5年10月1日〜令和8年9月30日の期間については課税仕入高の80%、令和8年10月1日〜令和11年9月30日の期間については課税仕入高の50%を仕入控除税額の計算対象とすることができる。
 例えば、免税事業者からの仕入値が110の場合、8(110×10/110×80%)が控除できることになるので、仕入先が登録しないからといって、消費税相当額の10がまるまる控除できないわけではない。仕入先が登録しない場合でも、当面は109程度の支払いをすることも検討するべきではないだろうか。
 109×10/110×80%≒7.92……
2 登録の確認
 取引条件の設定(契約)に当たっては、相手が適格請求書発行事業者かどうかを確認する必要がある。仕入先が免税事業者か登録事業者かによって仕入控除税額が変わるので、値段交渉の前に、まずは仕入先の登録の有無を確認しなければいけないということである。
 免税事業者と税抜金額を前提に契約を交わした後で、仕入先が登録していないことを理由に消費税相当額を支払わないこととした場合には、下請法又は建設業法違反となるので注意が必要だ(Q7のAnswer1を参照)。
 免税事業者が消費税相当額を外税で請求することは、商取引としてモラルの問題はあるものの、消費税法においてこれを禁止する旨の明文規定は存在しないのである。

Q7 独占禁止法等において問題となる行為

 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。
A
 事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものですが、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者との間で取引条件について情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。
  自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
  仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことそれ自体が、直ちに問題となるものではありませんが、見直しに当たっては、「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないよう注意が必要です。
  以下では、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者と取引を行う事業者がその取引条件を見直す場合に、優越的地位の濫用として問題となるおそれがある行為であるかについて、行為類型ごとにその考え方を示します(注1)。
  また、以下に記載する行為類型のうち、下請法の規制の対象となるもの(注2)については、その考え方を明らかにします。下請法と独占禁止法のいずれも適用可能な行為については、通常、下請法が適用されます。なお、以下に記載する行為類型のうち、建設業を営む者が業として請け負う建設工事の請負契約におけるものについては、下請法ではなく、建設業法が適用されますので、建設業法の規制の対象となる場合についても、その考え方を明らかにします。
(注1)以下において、独占禁止法上問題となるのは、行為者の地位が相手方に優越していること、また、免税事業者が今後の取引に与える影響等を懸念して、行為者による要請等を受け入れざるを得ないことが前提となります。
(注2)事業者(買手)と免税事業者である仕入先との取引が、下請法にいう親事業者と下請事業者の取引に該当する場合であって、下請法第2条第1項から第4項までに規定する①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託に該当する場合には、下請法の規制の対象となります。
(参考1)優越的地位の濫用規制に関する独占禁止法上の基本的な考え方は、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年公正取引委員会)で示しているとおりです。
(参考2)下請法の運用に関する基本的な考え方は、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)で示しているとおりです。
(参考3)建設工事の請負契約に係る元請負人と下請負人との関係については、「建設業法令遵守ガイドライン(第7版)」(令和3年7月 国土交通省不動産・建設経済局建設業課)で具体的に示しています。
(参考4)下請法及び建設業法並びに独占禁止法の優越的地位の濫用規制に関するご相談については、別紙の「下請法及び建設業法並びに優越的地位の濫用規制に係る相談窓口」までお問い合わせください。

<参考>

1 取引対価の引下げ
 取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(注3)について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。
 しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。
 また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととなる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。
(注3)免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割の控除ができることとされています。
 なお、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、仕入先の責めに帰すべき理由がないのに、発注時に定めた下請代金の額を減じた場合には、下請法第4条第1項第3号で禁止されている下請代金の減額として問題となります。この場合において、仕入先が免税事業者であることは、仕入先の責めに帰すべき理由には当たりません。
 また、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対して通常支払われる対価に比べて、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような下請代金など、著しく低い下請代金の額を不当に定めた場合には、下請法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとして問題となります。
 下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めた場合についても、同様です。
 なお、建設業法の規制の対象となる場合で、元請負人(建設工事の下請契約における注文者で建設業者であるもの。以下同じ。)が、自己の取引上の地位を不当に利用して免税事業者である下請負人(建設工事の下請契約における請負人。以下同じ。)と合意することなく、下請代金の額を一方的に減額して、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような代金による下請契約を締結した場合や、免税事業者である下請負人に対して、契約後に、取り決めた下請代金の額を一方的に減額した場合等により、下請代金の額がその工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額となる場合には、建設業法第19条の3の「不当に低い請負代金の禁止」の規定に違反する行為として問題となります。
2 商品・役務の成果物の受領拒否、返品
 取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、仕入先から商品を購入する契約をした後において、仕入先が免税事業者であることを理由に、商品の受領を拒否することは、優越的地位の濫用として問題となります。
 また、同様に、当該仕入先から受領した商品を返品することは、どのような場合に、どのような条件で返品するかについて、当該仕入先との間で明確になっておらず、当該仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合、その他正当な理由がないのに、当該仕入先から受領した商品を返品する場合には、優越的地位の濫用として問題となります。
 なお、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、仕入先の責めに帰すべき理由がないのに、給付の受領を拒む場合又は仕入先に給付に係る物を引き取らせる場合には、下請法第4条第1項第1号又は第4号で禁止されている受領拒否又は返品として問題となります。この場合において、仕入先が免税事業者であることは、仕入先の責めに帰すべき理由には当たりません。
3 協賛金等の負担の要請等 
 取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れるが、その代わりに、取引の相手方に別途、協賛金、販売促進費等の名目での金銭の負担を要請することは、当該協賛金等の負担額及びその算出根拠等について、当該仕入先との間で明確になっておらず、当該仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、当該仕入先が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、当該仕入先に不利益を与えることとなる場合には、優越的地位の濫用として問題となります。
 その他、取引価格の据置きを受け入れる代わりに、正当な理由がないのに、発注内容に含まれていない役務の提供その他経済上の利益の無償提供を要請することは、優越的地位の濫用として問題となります。
 なお、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって、仕入先の利益を不当に害する場合には、下請法第4条第2項第3号で禁止されている不当な経済上の利益の提供要請として問題となります。
4 購入・利用強制
 取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れるが、その代わりに、当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務の購入を要請することは、当該仕入先が、それが事業遂行上必要としない商品・役務であり、又はその購入を希望していないときであったとしても、優越的地位の濫用として問題となります。
 なお、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させる場合には、下請法第4条第1項第6号で禁止されている購入・利用強制として問題となります。
 また、建設業法の規制の対象となる場合で、元請負人が、免税事業者である下請負人と下請契約を締結した後に、自己の取引上の地位を不当に利用して、当該下請負人に使用資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、これらを当該下請負人に購入させて、その利益を害すると認められた場合には、建設業法第19条の4の「不当な使用資材等の購入強制の禁止」の規定に違反する行為として問題となります。
5 取引の停止
 事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由ですが、例えば、取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
6 登録事業者となるような慫慂等
 課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。
 しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。例えば、免税事業者が取引価格の維持を求めたにもかかわらず、取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合は、これに該当します。また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です(上記1、5等参照)。
 したがって、取引先の免税事業者との間で、取引価格等について再交渉する場合には、免税事業者と十分に協議を行っていただき、仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう、注意する必要があります。

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