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解説記事2022年08月22日 特別解説 米国及び欧州に上場する主要な企業の2021年度の監査報告書に記載されたCAMとKAM②(2022年8月22日号・№943)

特別解説
米国及び欧州に上場する主要な企業の2021年度の監査報告書に記載されたCAMとKAM②

はじめに

 本稿では、前稿に引き続いて、米国及び欧州に上場する主要な企業の2021年度の監査報告書に記載された監査上の重要な事項(CAM)と監査上の主要な検討事項(KAM)の調査分析を実施する。前回はCAMやKAMの定義や選定方法の説明や、調査対象とした欧米の主要な企業の監査報告書に記載されたCAMやKAMの全体的な傾向の分析を実施したため、今回は米国及び欧州に上場する主要な企業の監査報告書に記載されたCAMやKAMの事例の紹介を中心とすることとしたい。

紹介する事例

 本稿では、次の企業の2021年12月期の年次報告書に含まれる監査報告書に記載されたKAMの事例を紹介することとする。

1. ポリメタル・インターナショナルPLC
2. ウィアーグループ
3. ロールス・ロイス・ホールディングス
4. ステランティス
5. ヴィヴェンディ

ポリメタル・インターナショナルPLC 2021年12月期 会計監査人:Deloitte
 ポリメタル・インターナショナル(Polymetal International PLC)は、キプロスの貴金属鉱業グループである。グループには、ロシアとカザフスタンに9つの生産中金銀鉱山と3つの開発プロジェクトのポートフォリオがあり、マガダン、ウラル、ハバロフスク、カザフスタンの4つの地域別セグメントがある。各セグメントは、金、銀、又は銅の採掘・探査・加工・開拓などの関連活動を行っている。このような活動領域と事業内容から考えて、昨今のロシア軍によるウクライナ侵攻に起因する経済制裁の直接・間接の影響を受けることは避けられない。会計監査人であるDeloitteは、下記のKAMについて次のように監査報告書に記載した。
KAM:継続企業の前提の評価における国際社会によるロシアへの制裁の影響
(KAMについての説明)

 ウクライナの状況により、2021年12月31日に終了した年度の後に、米国、英国、及びEUによって特定のロシアの機関及び個人に追加の制裁が課されることになった。202ページの財務諸表の注記1の継続企業のセクションで説明されているように、経営者は、現在課されている制裁及び今後新たに課される可能性のある制裁がグループの継続企業の前提に与える影響を評価した。制裁の最新の状況は急速に変化しており、経営者の基本となる評価は、既知のすべての関連情報に基づいて、制裁が最終的にグループにどのように影響するかに関するグループの「最善の見積り」を反映している。
 継続企業の評価には、高度な経営者の判断が必要であり、特に特定の顧客に対するグループの金属販売チャネルに対する制裁の潜在的な影響を分析する場合は複雑である。
 すなわちそれらは、利用可能な現金、借入金、及び金融機関からの財務制限条項を含む流動性の管理、採掘作業を継続する能力、機器の供給とロジスティクスの不確実性の評価を含む。当グループは、最近の制裁及び当グループへの潜在的な影響に関してさらなる助言を受けるために外部の法律事務所と契約した。
 経営者は一連の「深刻な下振れ」制裁のシナリオを作成した。これは、さらなる制裁やロシア側による対抗措置の可能性など、上記の項目に対して合理的に起こりうる不利な結果を想定している。これらのマイナス面のシナリオの影響を評価する際に、経営者は、生産量と採掘コストの削減、新しい販売チャネルの交渉、グループの資本的支出と株主配当の延期及び/又は削減、さらに引き下げなど、グループが講じることができる合理的な緩和措置を識別した。
 取締役会は、上記の厳しい制裁の下振れシナリオを含むグループの分析が、継続企業の前提を採用することが適切であることを裏付けていることに満足している。詳細については、151ページの監査及びリスク委員会の報告書及び年次報告書の他の領域(8ページの会長の声明、10ページのCEOの声明、118ページの主要リスク及び118ページの長期実行可能性声明を含む)を参照。
(KAMに対応した我々の監査の範囲)
 当グループが継続企業として存続する能力に関する取締役会の評価を行うにあたり、我々は、最近発表された制裁の影響を考慮した。それらには以下が含まれる。
・貸借対照表日後に追加的に課された制裁の結果として、グループに関連する潜在的なリスク及び不確実性について、経営者による評価を批判的に検証した。
・最近の米国、英国、EUによる制裁に対処する取締役が受け取った、外部の法的助言を評価した。
・継続企業の前提に関する疑義を評価するための期間について、適用された仮定と、グループが入手可能なキャッシュ・フロー予測の合理性を評価した。また、管轄区域間で資金を移転させる能力の評価や、借入金の返済能力、財務制限条項の状況等も評価した。
・グループによる、これらの打撃を軽減するための行動が合理的で、かつグループの管理下にあるものかどうかについて、批判的に検討した。
・一連の「深刻な下振れをもたらす」制裁に関連するシナリオを独自に作成し、経営者によるダウンサイズのシナリオと感度分析の評価を行った。
・予測を作成するために使用されたモデルの正確さと適切性を検証した。
・グループの継続企業の前提に関連する財務諸表の開示を評価した。
(主要な所見)
 現在発表されているグループへの影響及び将来の制裁の可能性に関する不確実性にもかかわらず、経営者が予測及びストレステストで行った仮定は合理的であると考えている。ベースとなる事例と予測流動性ヘッドルームと下振れの感応度(緩和措置の適用後)に基づいて、取締役による継続企業の前提の使用に同意する。
 財務諸表の作成における会計処理は適切であり、継続企業の前提に関連する重大な不確実性はない。

ウィアーグループ 2021年12月期 会計監査人:PwC
 ウィアー・グループ(Weir Group PLC)は、エンジニアリング事業を行う英国を拠点とする会社であり、鉱物及びESCOの2つのセグメントで事業を行っている。鉱物セグメントは、鉱業市場で使用される高研磨性耐摩耗アプリケーション向けのスラリー処理装置及び関連するアフターマーケットサポートの提供を行う。ESCOセグメントは、露天掘りとインフラのためのグランドエンゲージツール(GET)を提供している。また、建設、浚渫、砂や骨材等のインフラ市場に設計されたGETソリューションを提供している。
KAM:サイバー事故(インシデント)後の財務情報の網羅性、実在性及び正確性
(KAMについての説明)

 2021年9月24日、グループはサイバーセキュリティ攻撃の試みを経験した。阻害要因が評価されたため、グループは、WindowsベースのPCを一時的に取り外し、グループの中核的な財務報告システムを含むITシステムを遮断して停止することを決定した。フォレンジック調査の後、それらのシステムへのアクセスは整然とした方法で回復された。
 このサイバー事故に照らして、我々は財務情報の完全性、実在性と正確性を、特別な検討を必要とするリスクとした。
(監査上の対応)
 我々のデジタル監査チームは、グループのサイバーセキュリティ対応を次のように評価した。
・第三者である専門家の報告書をレビューして、インシデントと主要な業務システムへの影響についての理解を独自に検証した。
・裏付けとなる証拠を評価して、インシデントによって機密データが失われたり修正されたりしていないことを確認した。
・主要なシステムを復元した時にITによって実行される整合性チェックを検討した。
・将来の調査、訴訟、又は罰金のリスクに対処するために、規制当局とのやりとりの証拠を検討した。及び
・同様のインシデントが再発する可能性を減らすための経営者による改善計画を評価した。
 さらに、構成単位の監査チームは、プロセスと統制を通常の方法で操作するために、システムが停止した短い期間と、ユーザーアクセスが十分に回復した期間の両方で、財務情報の網羅性、実在在、及び正確性について実証手続を実施した。
 サイバーインシデントの結果として、我々は重大な会計上の問題を識別しなかった。

ロールス・ロイス・ホールディングス 2021年12月期 会計監査人:PwC
 ロールス・ロイス・ホールディングス(英:Rolls-Royce Holdings)は、イギリスに本拠地を置く多国籍企業であり、航空機用エンジンの開発・生産を主力とし、防衛航空宇宙、艦船、発電等も手がけている。
 航空機用エンジンメーカーとしてはアメリカのゼネラル・エレクトリック傘下のGE・アビエーションに続き世界で2番目に大きく、GE・アビエーション、プラット・アンド・ホイットニー(アメリカ)とともに航空機用エンジンメーカーのビッグ3の一つに数えられる。
 ロールス・ロイス・ホールディングス社の2020年度及び2021年度の監査報告書に記載されたKAMは、次のとおりであった。
2020年度
・長期契約の会計処理と関連する引当金
・繰延税金資産の認識と回復可能性
・外貨建取引と残高の換算
・基礎となる結果の表示と正確性、並びに他の非反復的項目(例外的事項を含む)の開示
・売掛金と契約資産の回復可能性
・プログラム無形資産の回復可能性
・継続企業として存続するグループ及び企業の能力
・親会社による子会社に対する投資の回収可能性
・Covid-19パンデミックの影響
2021年度
・長期契約の会計処理と関連する引当金
・繰延税金資産の認識と回復可能性
・外貨建取引と残高の換算
・ITPエアロ処分グループの決定
・基礎となる結果の表示と正確性、並びに他の非反復的項目(例外的事項を含む)の開示
・関連会社に対する民間エンジン売却の会計処理及び関連する連結調整
・子会社向け投資の回復可能性
 2020年度と2021年度とでは、いくつかKAMの出入りがあったが、それらについて、会計監査人のPwCは、監査報告書において以下のように説明している。
 ITPエアロ処分グループの決定と、関連会社に対する民間エンジン売却の会計処理及び関連する連結調整は、今年度に新たに監査上の主要な検討事項となった項目である。一方で、昨年の監査上の主要な検討事項であった売掛金と契約資産の回収可能性、プログラム無形資産の回復可能性、継続企業として存続するグループ及び企業の能力及びCovid-19パンデミックの影響は、業界の発展と2020年以降の見通しにより含まれなくなった。
 2020年12月31日に終了した事業年度において、予測の変化に最も敏感なプログラムを含む、開発費に対する4億8,100万ポンドの減損を計上した。また、次の債務の満期が到来するタイミングに合わせて当年度にグループが追加の流動性を調達したため、継続企業として存続するグループ及び企業の能力が監査上の主要な検討事項であるとは我々は考えなかった。しかしながら、我々は、以下の関連セクションで詳しく説明されているように、経営者の評価についての監査を実施した。該当がある場合、Covid-19の影響は以下の個々の監査上の主要な検討事項の中で個別に把握している。それ以外の項目については、監査上の主要な検討事項は前年度と同一である。

ステランティス 2021年12月期 会計監査人:E&Y
 フランスの自動車メーカーグループPSAとイタリアの自動車メーカーフィアット・クライスラー・オートモービルズ(以下FCA)が折半出資で合併して誕生した多国籍自動車製造会社である。ステランティスN.V.はオランダで登記されており、「星が明るい」という意味がある。アバルト、アルファロメオ、クライスラー、シトロエン、ダッジ、DS、フィアット、ジープ、ランチア、マセラティ、オペル、プジョー、ラム・トラックス、ボクスホールという14ブランドで構成されている。
KAM:フィアット・クライスラー・オートモビルN.V社の逆取得に関連する会計処理
(リスクの説明)

 2021年1月、プジョーS.A.(PSA)とフィアットクライスラーオートモービルズN.V.(FCA)の企業結合が完了した。IFRS第3号「企業結合」によって提供された指標の評価に基づいて、取締役会は、PSAが会計目的の取得者であると決定した。逆取得は企業結合として会計処理され、譲渡された対価は、連結財務諸表の「グループPSA及びFCAの合併」の注記3に開示されているように、19,837百万ユーロであった。会社は、譲渡された対価を主にブランドの公正価値、資産化された開発費及び有形固定資産に配分した。
 逆取得の会計処理に影響を与える主要因である取締役会による会計目的での取得者の決定及び移転された対価の配分の監査にあたっては、特に主観的及び複雑な判断が介在する。特に、ブランドの公正価値、資産化された開発費、及び有形固定資産の決定に必要な見積りは、基礎となる重要な仮定に敏感な複雑な評価モデルに基づいていた。評価モデル内で使用された重要な仮定には、資産の量、収益、マージン、ロイヤルティ率、割引率、及び資産の経済的陳腐化テストが含まれていた。
 これらの重要な仮定は将来を見据えたものであり、将来の経済及び市場の状況によって影響を受ける可能性がある。フィアットクライスラーオートモービルズN.V.の逆取得の会計処理に伴う複雑さと判断は、特別な検討を必要とするリスクであり、監査人の重大な注意を必要としたため、監査上の主要な検討事項と見なされた。
(監査人のアプローチ)
 取締役会による評価モデルのレビューの管理、評価で使用されるデータの網羅性と正確性を含む、FCAの逆取得に関する会社の会計処理に関する内部統制を理解し、整備状況を評価し、運用上の有効性をテストした。そして、モデル及びそのような公正価値測定の見積りを作成するために使用される基礎となる重要な仮定をテストした。
 我々は、PSAを会計上の取得者とする取締役会による決定を、注記3に開示されているIFRS第3号の要求事項に照らして評価した。
 さらに、会社のブランド、資産化された開発費、有形固定資産の公正価値をテストするために監査を行った。監査手続にはとりわけ、会社の評価モデル、方法論、使用された重要な仮定の評価、及びそのような仮定と見積りを裏付ける基礎となるデータの網羅性と正確性のテストが含まれる。
 我々は、評価モデルの評価と資産の経済的陳腐化のテストを支援するために評価の専門家を関与させた。これらの評価の専門家は、市場で観察可能な情報に照らして、ロイヤルティ率や割引率などの特定の重要な仮定の合理性も評価した。
 更に我々は、自動車業界の市場調査報告書による予測と物量を比較した。また、それに加えて同じブランド及び/又はセグメントの他の車両の実際の収益と対応するマージンについても比較を行った。
 最後に、当社がこの分野で行った開示の妥当性と、重要な判断が開示されているかどうかを評価し、会計上の見積りに関連するIFRSの要求事項に従って見積りの不確実性の程度を適切に伝えているかどうかを評価した。
(主要な所見)
 フィアットクライスラーオートモーティブN.V.の逆取得の会計処理と購入価格の配分は合理的であると考えており、買収は財務諸表に適切に開示されている。

ヴィヴェンディ 2021年12月期 会計監査人:Deloitte及びE&Y(共同監査)
 ヴィヴェンディ(Vivendi SE)は、フランスのメディア・通信企業である。1990年代からメディア事業や電気通信事業に進出し、2000年にカナル・プリュス、シーグラムとの合併によってヴィヴェンディ・ユニバーサルとなった。現在の社名はヴィヴェンディに戻っている。
KAM:外国の機関投資家との争いの分析
(KAMについての説明)

 グループの活動は、絶えず進化する環境で、複雑な国際規制の枠組みの中で実施されている。当グループは、法的環境や規制の適用と解釈の変化に従うのみならず、時には通常の事業の過程から生じる訴訟によって争う場合もある。
 会社は、外国の機関投資家との紛争に関連するリスクを評価する際に判断を下し、これらの紛争から生じる可能性のある費用の金額を合理的な範囲内で定量化又は見積ることができる場合には引当金を認識する。
 問題となっている金額及び引当金額の決定に必要な判断のレベルを考慮すると、これらの争いは監査上の主要な検討事項であると我々は考えた。
(監査上の対応)
 我々は、2000年から2002年の間に会社とその元CEOの財務上のコミュニケーションから生じたとされる危害に関する会社と特定の外国機関投資家との間の争いに関連して、入手可能であったすべての情報を分析した。
 経営者が実施したリスクの見積りを検討し、特に、これらの紛争に関する確認の要請に応じて弁護士や法律顧問から受け取った回答で提供された情報と比較した。
 最後に、連結財務諸表注記に開示されているこれらの紛争に関する情報を検証した。

おわりに

 コロナウイルス感染症(Covid-19)の全世界的な感染爆発といった異常な状態であった2020年度に比べて、2021年度はまだ完全にではないものの、少しずつ「通常運転」に戻りつつあり、KAMとしてCovid-19の影響や継続企業の前提などの項目が取り上げられる例も大幅に減少した。また、欧州におけるKAMや米国におけるCAMも、導入から数年が経過し、監査報告書に記載される個数も全体として減少する傾向が見られる。
 わが国の上場企業においても、2022年2月期決算企業まででKAMの導入が一巡し、2022年3月期決算企業からは、二巡目に入る。我が国の2022年3月決算の上場企業の監査報告書に記載されたKAMの調査分析は、後日実施する予定であるが、我が国の上場企業についても、米国や欧州に上場する企業と同様の傾向が見られるのか、導入2年目にして早くもボイラープレート化(画一化)が始まるのか、その動向を注目したい。

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