解説記事2022年08月22日 未公開判決事例紹介 一括譲渡土地建物の消費税の計算、鑑定評価額で按分(2022年8月22日号・№943)
未公開判決事例紹介
一括譲渡土地建物の消費税の計算、鑑定評価額で按分
東京地裁、消費税更正処分等の大部分を取消し
本誌935号40頁で紹介した消費税及び地方消費税更正処分取消等請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
○それぞれの対価の額が合理的に区分されていない一括譲渡された土地、建物について、消費税の課税標準の計算上、その按分に用いられる価額が争われた事件。東京地方裁判所(岡田幸人裁判長)は令和4年6月7日、国の主張する固定資産税評価額比率による按分法ではなく、裁判所が行った鑑定評価額比率による按分法によるべきとして、原処分の大部分を取り消した(令和元年(行ウ)第480号)。
主 文
1 H税務署長が平成30年5月30日付けで原告に対してした平成28年1月1日から同年12月31日までの課税期間に係る消費税及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき消費税の額1785万2500円及び納付すべき地方消費税の額481万7300円をそれぞれ超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分のうち納付すべき金額27万6000円を超える部分をいずれも取り消す。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
H税務署長が平成30年5月30日付けで原告に対してした平成28年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき消費税の額1704万8100円及び納付すべき地方消費税の額460万0200円をそれぞれ超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分のうち納付すべき金額17万3000円を超える部分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、H税務署長が原告に対してした平成28年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)を不服として、被告を相手に、本件更正処分等の一部の取消しを求める事案である。
2 関係法令の定め
(1)消費税法について
4条1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供〔代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。〕をいう〔2条8号〕。以下同じ。)に消費税を課す旨規定している。
6条1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには消費税を課さない旨を規定しており、同別表の一には、土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡及び貸付け(一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)が掲げられている。
28条1項本文は、課税資産の譲渡等(資産の譲渡等のうち、6条1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう〔2条9号〕。以下同じ。)に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下同じ。)とする旨規定する。
28条5項は、同条1項に規定する課税標準の額の計算の細目に関し必要な事項は、政令で定める旨規定する。
(2)消費税法施行令(平成30年政令第135号による改正前のもの。以下同じ。)について
45条3項は、事業者が課税資産の譲渡等に係る資産(以下「課税資産」という。)と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に係る資産(以下「非課税資産」という。)とを同一の者に対して同時に譲渡した場合において、これらの資産の譲渡の対価の額が課税資産の譲渡の対価の額と非課税資産の譲渡の対価の額とに合理的に区分されていないときは、当該課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、これらの資産の譲渡の対価の額に、これらの資産の譲渡の時における当該課税資産の価額と当該非課税資産の価額との合計額のうちに当該課税資産の価額の占める割合を乗じて計算した金額とする旨規定する(以下、同項が定める課税標準の計算方法〔何らかの方法により算出した課税資産と非課税資産の価額比によりこれらの資産の譲渡の対価の額を按分して算出する方法〕を「按分法」という。)。
(3)国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの。以下「通則法」という。)について
65条1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき35条2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定する。
3 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに掲記証拠〔書証は特記しない限り枝番を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告は、不動産貸付業を営む者である。
(2)原告は、平成28年8月19日付け土地建物売買契約書(甲1。以下「本件契約書」という。)により、株式会社A土地開発(以下「A土地開発」という。)に対し、原告が所有する別紙2物件目録記載1及び2の各土地(甲2の1・2。以下併せて「本件土地」という。)並びに同目録記載3の建物(甲2の3。以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件土地建物」という。)を代金合計10億0500万円(消費税等相当額を含む。以下「本件代金総額」という。)で同時に売り渡した(以下「本件売買」という。)。本件土地建物の所有権は、A土地開発が本件代金総額を原告に支払ったときに原告からA土地開発に移転するものとされていたところ、本件土地建物の原告からA土地開発に対する各所有権移転登記は、同月31日売買を原因として、同日付でされた(甲2)。本件契約書には、本件代金総額の内訳、すなわち本件土地及び本件建物に係るそれぞれの譲渡の対価の額は記載されていなかった。
(3)本件土地建物は大阪市●●●●●●●1丁目の商業地域に所在し、本件売買当時、本件建物は「△△△△●●●●ビル」の名称で各区画が事務所、店舗等として賃貸されていた(甲1、4の3)。
(4)原告は、平成29年3月15日、本件課税期間の消費税等の確定申告書(甲3、乙12。以下「本件申告書」という。)をH税務署長に提出した(以下「本件申告」という。)。本件申告の内容は別表1の「確定申告」欄記載のとおりであり、原告は、本件代金総額に占める本件建物の価額(税込)が2億0454万2545円であり、税抜価額は1億8939万1245円(以下「本件申告時建物価額」といい、本件申告において本件代金総額に占める本件土地の価額とされた8億0045万7455円を「本件申告時土地価額」という。)であることを前提に本件申告をした(甲5、乙13)。
(5)H税務署長は、本件代金総額に占める本件建物の価額は、本件代金総額に、本件建物の平成28年度の固定資産税評価額(1億9718万6000円。乙8。以下「本件建物固定資産税評価額」という。)と本件土地の平成28年度の固定資産税評価額(合計2億4602万7000円。乙8。以下「本件土地固定資産税評価額」といい、本件建物固定資産税評価額と併せて「本件各固定資産税評価額」という。)との合計額のうちに本件建物固定資産税評価額の占める割合(約44.49%。以下、本件土地固定資産税評価額と本件建物固定資産税評価額との比率〔55.51:44.49〕を「本件固定資産税評価額比率」という。)を乗じて計算した金額(4億4712万5716円)の税抜価額である4億1400万5292円(以下「被告主張建物価額」といい、本件更正処分等において本件代金総額に占める本件土地の価額とされた5億5787万4284円を「被告主張土地価額」という。)になるとして、平成29年12月11日付けで、原告に対し、別表1の「当初更正処分等」欄記載のとおり本件課税期間の消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下併せて「当初更正処分等」という。)をした(乙1)。原告は、当初更正処分等を不服として、平成30年3月2日付けで審査請求(以下「当初審査請求」という。)をしたところ(乙3)、H税務署長は、当初更正処分等に係る通知書の記載に本件土地建物の地番及び家屋番号の誤りがあったなどとして、同年4月18日付けで当初更正処分等を取り消した後(乙2)、同年5月30日付けで、別表1の「本件更正処分等」欄のとおり、本件更正処分等(甲5。その内容は当初更正処分等と同じである。)を行った(当初審査請求は、同年6月14日付けで、その対象を欠く不適法なものであるとして却下された〔乙4〕)。
(6)原告は、平成30年6月20日、本件更正処分等を不服として審査請求をし(乙5)、国税不服審判所長は、平成31年3月26日付けで同審査請求を棄却する旨の裁決をし(甲6)、同裁決書謄本はその頃原告に送達された。
(7)原告は、令和元年9月25日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
なお、原告は、当初の請求(ただし、令和元年11月21日付け訴えの変更申立書による変更後のもの。)では、本件更正処分のうち本件申告における納付すべき消費税等の額(消費税につき1567万8600円、地方消費税につき423万0700円)を超える部分及び本件賦課決定処分の全部の取消しを求めていたが、その後、当裁判所が原告の鑑定申出を採用し、鑑定人である不動産鑑定士□□□□が本件土地建物の本件売買時点(平成28年8月19日)の時価評価額につき鑑定(以下「本件鑑定」という。)を行ったところ、原告は、本件鑑定の鑑定評価額を前提として前記第1記載のとおり請求を減縮したものである。
(8)本件鑑定の内容について
本件鑑定は、原価法(価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、これに減価修正を行って対象不動産の積算価格を試算する方法)及び収益還元法(直接還元法。対象不動産に係る一期間の純収益を求め、この純収益に対応した還元利回りによって当該純収益を資本還元することにより、対象不動産の収益価格を求める方法)を適用して行われたものであるところ、その内容は以下のとおりである。
ア 原価法による本件土地建物の積算価格 9億8700万円(下記(ア)から同(イ)を控除した額であり、その内訳は同(ウ)のとおり。)
(ア)再調達原価 18億9700万円(下記a、b、cの合計額)
a 本件土地の再調達原価7億0500万円
取引事例比較法(多数の複合不動産に係る取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の比準価格を求める手法)を適用し、同一需給圏内の類似地域内の以下の4つの事例(いずれも大阪市中央区の商業地域に所在する土地に係るもの。)を採用の上、時点修正、建付増減価補正、標準化補正及び地域要因の比較を行って補正後価格を求めた。そして、本件土地と同一路線上にある事例Aを重視して、事例B及びDの価格を関連付け、やや高く得られた事例Cの価格を参考にとどめて標準価格(197万円/㎡)を査定し、本件土地の個別的要因を乗じて比準価格(197万円/㎡)を査定した。上記比準価格は地価公示価格(大阪市○○○○○○所在の標準地に係る平成28年1月時点のもの)を規準とした価格(127万円/㎡)とやや乖離しているが、市場精通者からの聴取等や価格時点における同一需給圏の市場動向を考慮した結果、一応の均衡の範囲内にあると判断した。以上より、比準価格をもって本件土地の更地価格(総額)を7億0500万円(197万円/㎡×357.74㎡)と査定した。

b 本件建物の再調達原価8億7600万円
本件建物のグレード、規模、仕様等を考慮の上、①J-REITにおいてポートフォリオに組み込まれている類似不動産の再調達価格を重視して、②公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会「平成29年地価公示における収益還元法適用上の運用指針等(平成28年5月基準)」に基づく対象不動産の再調達原価を関連付け、③建物鑑定評価実務研究会「建物の鑑定評価必携」における類似不動産の工事価格」を参考にとどめて、本件建物の再調達原価を8億7600万円(31万円/㎡×延床面積2825.25㎡)と査定した。
c 付帯費用相当額 3億1600万円
上記a、bの合計額に付帯費用比率20%を乗じた額である。付帯費用比率はデベロッパー等からの聴取及び各種資料を参考に、開発に伴うリスク、開発中の金利相当額、開発利益相当額等を考慮して査定した。
(イ)減価額 9億1000万円(下記a、bの合計額)
a 建物の減価額 6億6900万円
観察原価法及び耐用年数に基づく方法を併用して査定した。
b 付帯費用相当額の減価額 2億4100万円
本件建物の築年数、物理的現況、市場の需給動向等に鑑みて、価格時点現在、建物の減価率と同程度の減価が発生しているものと判断した。
(ウ)内訳
a 土地の積算価格 7億6300万円(構成割合77.30%)
本件土地建物の積算価格(9億8700万円)に、本件土地建物の再調達原価(上記(ア)a、bの合計額)から建物の減価額(上記(イ)a)を控除した額に占める本件土地の再調達原価(上記(ア)a)の割合(77.30%)を乗じた額。
b 建物の積算価格 2億2400万円(構成割合22.70%)
本件土地建物の積算価格から上記aを控除した額。
イ 収益還元法(直接還元法)による本件土地建物の収益価格9億9100万円(下記(ア)を同(イ)で除した額)
(ア)純収益の査定 5151万0999円
対象不動産に係る収益及び費用の実額、価格時点現在の賃貸市場動向、対象不動産の個別性等を総合的に考慮して、本件鑑定で採用する純収益を上記金額のとおり査定した。
(イ)還元利回りの査定 5.20%
同一需給圏における価格時点頃のJ-REITの取引事例における取引利回り水準(5.2%〜5.3%)を参考に、価格時点現在における不動産投資市場の需給動向、対象不動産の市場競争力等を総合的に考慮して、還元利回りの水準を査定した。
ウ 鑑定評価額 9億9100万円(以下「本件鑑定評価額」という。)
対象不動産に係る市場参加者として、収益獲得を企図する投資家が想定される。このような投資家は収益性を重視して取引に対する意思決定を行うものと推察されることから、対象不動産の収益性を反映した収益価格の説得力が高いものと判断した。また、収集した取引事例の賃貸面積単価と比較しても、上記収益価格は妥当な水準内にある。
以上、対象不動産の類型、地域性、市場参加者の属性等を総合的に勘案し、適用した各手法の特徴及び適用過程の内容等を考慮した上で、収益価格を標準に積算価格を参考にとどめ、対象不動産の鑑定評価額を9億9100万円と決定した。
なお、上記鑑定評価額の内訳(土地・建物の価格内訳)については、市場において最も多用されている配分法を用いることにより、本件土地を7億6604万3000円(以下「本件土地鑑定評価額」という。)、本件建物を2億2495万7000円(以下「本件建物鑑定評価額」という。)と査定した(本件土地鑑定評価額と本件建物鑑定評価額との比率〔77.30:22.70〕は、原価法による本件土地建物の積算価格の構成割合〔上記ア(ウ)参照〕であるところ、当該比率を「本件鑑定評価額比率」という。)。
4 本件更正処分等の根拠
本件更正処分等の根拠及び適法性に関する被告の主張は別紙3記載のとおりであるところ、後記5の争点に関する部分を除き、原告はこれを争うことを明らかにしない(なお、同別紙で使用した略語は本文においても用いる。)。
5 争点及び当事者の主張
原告は課税資産である本件建物と非課税資産である本件土地とをA土地開発に対し同時に譲渡したところ、本件売買の時点において、本件代金総額が本件建物と本件土地の各譲渡の対価の額に区分されていなかったことは当事者間に争いがなく、本件は消費税法施行令45条3項の定める「課税資産の譲渡の対価の額と非課税資産の譲渡の対価の額とに合理的に区分されていないとき」に当たるものである。この点、原告は、本件訴えの当初、譲渡の時点で課税資産及び非課税資産の各譲渡の対価の額が区分されていなかったとしても、納税申告の時点において合理的に区分されていれば同項の適用はない旨の主張もしていたが、同項の文理に反するものであり、採用することができない。
よって、本件の主たる争点は、消費税法施行令45条3項を適用した場合における本件建物の譲渡に係る消費税の課税標準であり、争点に関する当事者の主張の要旨は、別紙4記載のとおりである(なお、同別紙で使用した略語は本文においても用いる。)。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え、掲記各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(1)大阪市●●●●●●●1丁目に所在する本件土地建物は、Osaka Metro(本件売買当時は大阪市営地下鉄)堺筋線・長堀橋駅に近接し、中高層の店舗兼事務所等が立ち並ぶ商業地域にある。本件土地はその東側が幅員約21.8mの舗装府道(恵美須南森町線)に接している。本件建物は、昭和53年3月15日に新築され、本件売買当時、本件建物の全75区画中、69区画が店舗、事務所又は倉庫として賃貸され、月額賃料(共益費を含み、消費税等を除く。)の合計額は約600万円であった。(前提事実(3)、甲1、2の3、本件鑑定)
(2)ア 本件土地が接する東側の道路に付された相続税路線価の推移は次のとおりである。
平成21年度 121万円/㎡(甲11の1)
平成22年度 100万円/㎡(甲12)
平成23年度 85万円/㎡(甲13)
平成24年度 79万円/㎡(甲14の1)
平成25年度 78万円/㎡(甲15)
平成26年度 80万円/㎡(甲16)
平成27年度 83万円/㎡(甲17の1)
平成28年度 92万円/㎡(甲4の2、18)。
イ 本件土地の近隣に所在する基準地は、大阪市●●●●●●●●●●●●●の土地であり、当該基準地の基準地価は、平成26年度が72万8000円/㎡、平成27年度が77万2000円/㎡、平成28年度が84万円/㎡であった(乙9、10の1、33の1・2)。また、本件土地の近隣に所在する標準地は、大阪市●●●●●●●●●●●●の土地であり、当該標準地の地価公示価格は、平成26年度が85万9000円/㎡、平成27年度が88万1000円/㎡、平成28年度が95万円/㎡であった(乙9、10の2、33の3・4)。
ウ 上記ア、イのとおり、本件土地の東側道路の相続税路線価は平成21年度が121万円/㎡であったのが、平成25年度には78万円/㎡へと急激に下落していったものであるが、平成26年度以降上昇傾向に転じていた(なお令和元年度の当該道路の路線価は125万円/㎡と平成21年度と同水準にまで回復している〔甲19〕。)ものであり、また、本件土地の近隣の基準地価及び地価公示価格も平成26年度から平成28年度にかけて上昇している。これは、当時、大阪市中心部においてインバウンド観光客が増大し、インバウンド観光客向けの店舗やホテルに対する需要が急速に拡大していたため、それまで物件数が少なかったホテルの建設を予定する事業者が増加し、ホテル用地の取得に係る価格競争が激化したことが主因と考えられる(本件鑑定)。
(3)ア 他方、本件土地の固定資産税評価額の推移は次のとおりである(括弧内の数字は本件土地の固定資産税評価額の合計額を合計地積〔357.74㎡〕で除した額〔千円未満切り捨て〕。)。
平成21年度 合計4億1502万1000円(116万円/㎡)(甲11の2・3)
平成24年度 合計2億5606万9000円(71万5000円/㎡)(甲14の2・3)
平成27年度 合計2億4602万7000円(68万7000円/㎡)(甲17の2・3)
なお、平成28年度は第2年度(地方税法341条7号)に当たり、基準年度である平成27年度の固定資産税評価額が据え置かれている(乙8。地方税法349条2項参照)。
イ 上記アのとおり、本件土地の固定資産税評価額は、平成21年度以降の急激な地価の下落を反映して、平成24年度及び平成27年度の2回にわたり引き下げられていたものの、本件売買のあった平成28年当時において、平成26年度以降の地価の上昇は未だ反映されるに至っていなかった。
2 本件固定資産税評価額比率による按分法の当否について
(1)被告は、消費税法施行令45条3項を適用して本件建物の譲渡に係る消費税の課税標準を算出する際には、本件固定資産税評価額比率による按分法を用いることが最も合理的であると主張する。
しかしながら、消費税法施行令45条3項において課税標準を算出する際に用いられる課税資産及び非課税資産の「価額」とは譲渡時における適正な時価、すなわち客観的な交換価値であると解されるところ、固定資産評価基準の定める評価方法が、適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであるとしても、この評価方法に従って決定された価格は、特段の事情のない限り当該資産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないことが推認されるにとどまるものというべきである(最高裁平成24年(行ヒ)第79号同25年7月12日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁参照)。また、地方税法が、固定資産税の課税標準に係る固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣の告示に係る評価基準に委ねている(388条1項)のは、固定資産税の賦課期日における土地課税台帳等の登録価格が同期日における当該資産の客観的な交換価値を上回らないようにすることのみならず、全国一律の統一的な評価基準による評価によって、各市町村全体の評価の均衡を図り、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消することをも目的とするものであり、かかる目的の下に行われる評価は、適正な鑑定の評価の過程において考慮の対象とされるような当該資産の個別的な事情については、ある程度捨象されることも前提としているものということができる。
これらに照らすと、本件のように、消費税の課税標準の額を計算するために、一括して譲渡された土地及び建物の対価の額を按分する方法として、当該資産の客観的な交換価値を上回らない価額と推認される固定資産税評価額による価額比を用いることは、一般的には、その合理性を肯定し得ないものではないが、当該資産の個別事情を考慮した適正な鑑定が行われ、その結果、固定資産税評価額と異なる評価がされ、価額比においても実質的な差異が生じた場合には、もはや固定資産税評価額による価額比を用いて按分する合理性を肯定する根拠は失われ、適正な鑑定に基づく評価額による価額比を用いて按分するのがより合理的となるというべきである。
(2)本件鑑定について
本件鑑定は、本件の訴訟手続において、原告の鑑定の申出により当裁判所が採用したものであり(前提事実(7))、鑑定人が公正かつ中立な立場から実施したものである。その鑑定の手法については前提事実(8)のとおりであるところ、これにつき不適切ないし不合理な点は見当たらず、本件鑑定の評価額は適正な鑑定に基づくものといえる。そして、本件土地と本件建物との本件固定資産税評価額比率が55.51:44.49であるのに対し(前提事実(5))、本件鑑定評価額比率は77.30対22.70であり(前提事実(8)ウ)、本件建物の価額が占める割合について相当な乖離が生じており、消費税の課税標準を算出するに当たって実質的な差異が生じているものといえる。そうすると、消費税法施行令45条3項を適用して本件建物の譲渡に係る消費税の課税標準を算出するに当たって、本件固定資産税評価額比率による按分法を用いる合理性を肯定する根拠は失われており、本件鑑定評価額比率による按分法を用いることが相当であるというべきである。
(3)被告の主張について
ア 被告は、消費税法施行令45条3項が規定する「価額」について、土地の価額と建物の価額がそれぞれ適正な時価といえるだけでなく、課税標準を算定するに当たり合理的な比率となる価額の組み合わせとなるものでなければならないとの解釈を前提とした上で、本件土地鑑定評価額には、本件土地について将来的に価格が上昇するとの市場参加者の予測による価値(将来予測価値)が上乗せされている一方で、本件建物鑑定評価額にはそのような将来予測価値が上乗せされていないため、不均衡が生じており、課税標準を算定するに当たり合理的な比率となる価額を組み合わせたものであるとはいえないと主張する。
しかしながら、被告が主張する消費税法施行令45条3項の解釈は、同項の文言から直ちに導くことはできず、明文にない要件を加重するものとして採用することは困難である。その点をおくとしても、そもそも財産の時価とは、本来的に当該財産の将来的な価値に係る市場参加者の予測が反映されるものであり、土地についていえば、当該土地の所在する地域の地価が上昇傾向にある場合には、それが不正常な要素によるものと評価されない限り、当該土地の時価に将来予測価値が反映されてしかるべきものといえる。他方で、建物の時価は、その性質上、通常は新築時以降の時間の経過により減価していくものであるから、当該建物の所在する地域の地価が上昇傾向にある場合であっても、当該建物の将来的な価値が土地と同様に上昇するとは限らず、その意味で将来予測価値が土地と同様に上乗せされるものでないこともまた当然のことといえる。
以上によれば、本件鑑定において、将来予測価値が本件土地の価額にのみ上乗せされているとの被告の指摘は、消費税法施行令45条3項により消費税の課税標準を算定するに当たって本件鑑定評価額比率による按分法を用いることの合理性を否定する根拠とはならないばかりか、本件土地固定資産税評価額には将来予測価値が適切に反映されていないという意味で、本件固定資産税評価額比率による按分法を用いる合理性を否定する事情ともなり得るものであって、被告の主張は採用することができない。
イ 被告は、課税庁が更正処分をするに際して用いた固定資産税評価額の価額比による按分法が合理的である以上、事後的に行われた鑑定評価等によって一義的な時価に基づく価額比が判明したことを理由に当該処分が違法であると評価することは、適正な時価の評価には、その性質上一定の幅があり得ると解されていることと整合しないものであり、また、納税者(事業者)及び課税庁に対し逐一鑑定評価等を実施して納税申告や更正処分等の内容の適否を検証する必要を迫るものになりかねないなど課税実務の現実にそぐわない極めて不条理な結果を招く旨を主張する。
しかしながら、本件においては、本件固定資産税評価額比率と前記のとおり適正な鑑定に基づき算出された本件鑑定評価額比率との間に実質的な差異が生じており、また、本件土地固定資産税評価額に将来予測価値が適切に反映されておらず、本件固定資産税評価額比率による按分法を用いる合理性を肯定する根拠が失われていることは前記のとおりであり、被告の主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。そして、以上のような場合には、課税庁が固定資産税評価額の価額比による按分法を用いてした更正処分が違法となることは、消費税法施行令45条3項の定める課税標準の算出方法に照らしてもやむを得ないものであって、被告の主張は採用することができない。
3 本件で採用すべき按分法について
(1)上記2で説示したところに照らせば、本件建物の譲渡に係る消費税の課税標準を算出するに当たっては、本件鑑定評価額比率による按分法を用いるべきである。
(2)ところで、消費税法施行令45条3項が定める按分法は、同時に譲渡された課税資産及び非課税資産の対価の額を、課税資産と非課税資産の価額比により按分するものであるが(関係法令(2))、ここにいう「対価の額」とは、消費税等相当額を含まないものである(関係法令(1))。しかるところ、本件代金総額は、消費税等相当額を含むものである上、本件土地及び本件建物それぞれの譲渡の対価の額に区分されていないから、本件代金総額から消費税等相当額を直ちに控除することができない。このような場合には、本件代金総額を、本件建物鑑定評価額にその消費税等相当額を加算した金額と本件土地鑑定評価額との比率で按分することによって、本件建物の譲渡の対価の額に消費税等相当額が上乗せされた金額を算定した上で、消費税等の税率で割り戻して当該金額から消費税等相当額を控除することによって、本件建物の譲渡に係る消費税の課税標準を算定するのが相当である(別紙5参照)。
(3)この点、原告は、本件代金総額を本件鑑定評価額比率(すなわち、本件建物鑑定評価額にその消費税等相当額を加算しない場合の比率)で按分して算出した本件建物の譲渡の対価の額を消費税等の税率で割り戻して算定する方法(以下「原告主張按分方法」という。)によるべきであると主張する。しかしながら、原告主張按分方法によった場合、本件代金総額に含まれる消費税等相当額の一部が本件土地の譲渡の対価の額に上乗せされてしまうことになるため、算出した本件建物の譲渡の対価の額を消費税等の税率で割り戻した場合には、本来あるべき本件建物の譲渡の対価の額より過少となる。そうすると、課税庁が原告主張按分方法を採用して更正処分等をした場合にそのことのみをもって当該処分が違法であるとはいえないものの、裁判所が改めて按分法により消費税の課税標準を算出する場合には、原告主張按分方法を採用するのが相当であるとはいえない。
4 当裁判所が認定した本件課税期間の消費税等に係る税額等
上記3を踏まえて、当裁判所が認定した本件課税期間の消費税等に係る税額、納付すべき合計税額及び過少申告加算税の額は別紙6のとおりであり、本件更正処分等は上記の額を超える部分に限り違法であるから、取り消されるべきである。
5 結論
以上によれば、原告の請求は、本件更正処分のうち納付すべき消費税の額1785万2500円及び納付すべき地方消費税の額481万7300円をそれぞれ超える部分並びに本件賦課決定処分のうち納付すべき金額27万6000円を超える部分の各取消しを求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余は理由がないから棄却すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官 岡田幸人
裁判官 溝渕章展
裁判官釜村健太は、異動のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 岡田幸人
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