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解説記事2022年08月29日 ニュース特集 簿外経費の必要経費算入を巡る裁決事例(2022年8月29日号・№944)

ニュース特集
帳簿書類等で経費の実態が明らかであることが必要
簿外経費の必要経費算入を巡る裁決事例


 令和4年度税制改正では、所得税及び法人税の税務調査において、証拠書類を提示せずに簿外経費等を主張する悪質な納税者などへの対応策として、一定の要件によりその取引が行われたと認められない場合には、必要経費不算入(損金不算入)の措置(以下「簿外経費等の必要経費不算入措置」)が講じられている。この改正については、昨年の政府税制調査会の「納税環境整備に関する専門家会合」で国税庁から説明が行われ、悪質な納税者対策ということで各委員からの反対意見もなく、そのまま令和4年度税制改正に盛り込まれたものである。
 悪質な納税者対策ということで同制度に関する議論を深める間もなく導入されることになったわけだが、一部の専門家からは、一般の納税者に対して恣意的な運用がなされるのではないかとの懸念の声も上がっている(本誌938号参照)。本誌では簿外経費を主張する納税者に関する裁決事例を入手。その概要を紹介する。簿外経費等の必要経費不算入措置は、個人事業者の場合は令和5年分以後の所得税、法人の場合は令和5年1月1日以後に開始する事業年度の所得に対する法人税について適用されることになる。国税庁は、簿外経費が否認されるような場合とは、納税者から帳簿書類が提示されなかったり、反面調査により取引の内容や経費の支出の実態が明らかとならないといったケースに限定されると説明するが、今後の運用を見守る必要がありそうだ。

後出し的な簿外経費も反面調査が必要、課税当局に大きな事務負担

 令和4年度税制改正では、簿外経費等の必要経費不算入措置が講じられている。税務調査において、証拠書類を提示せずに簿外経費を主張する納税者や、証拠書類を仮装して簿外経費を主張する納税者に対しては、①間接経費の額が生じたことを明らかにする帳簿書類等を保存する場合(災害その他やむを得ない場合を除く)、②保存する帳簿書類等により間接経費の額に係る取引の相手先が明らかである場合やその取引が行われたことが推測される場合であって、反面調査等により税務署長がその取引が行われたと認める場合を除き、簿外経費等の必要経費不算入措置を講じることとしている(図表1参照)。対象となる経費は、事後的に主張される一定の売上原価、販売費、一般管理費等とされ、簿外経費であったとしても取引に直接要する仕入のような経費については対象外となっている。

 昨年開催された政府税制調査会の「納税環境整備に関する専門家会合」では、国税庁が税務調査後に確認困難な簿外経費を主張する悪質な納税者がいるとの問題を指摘している。
 例えば、1つ事例を紹介すると、課税当局が税務調査で多額の家事関連費が費用計上されていることを把握し指摘したところ、後日、納税者は、家事関連費とほぼ同額の外注費として1,000枚超の領収書を提出し、すべて現金手渡しでの支払であったと主張。領収書記載の外注先は大半が海外居住者であり、国内居住者の大部分も居住実態が確認できない者であったといい、反面調査等により領収書記載の取引が虚偽であったと認定することになったが、調査にあたっては、約1,000人日の事務量を投下。課税当局としては、後出し的な簿外経費の主張であっても、多大な事務量を投下してその真偽を確認しなければならず、特に現金払いの簿外経費については、銀行取引明細等による確認ができないため、支払の事実を確認する負担が大幅に増加すると説明していた(図表2参照)。

帳簿書類の不提示や反面調査で明らかにならない場合に限定

 今回の税制改正は、前提としてこのような悪質な納税者に対処するためのものであるが、一般の納税者に対してどのような影響が生じるのかは未知数だ。国税庁は、簿外経費が否認されるような場合とは、納税者から帳簿書類が提示されなかったり、反面調査により取引の内容や経費の支出の実態が明らかとならないといったケースに限定されると説明する。
 また、「所得金額」や「必要経費」の立証責任については、判例では課税当局側にあるとされる一方、「簿外経費」については納税者側に立証責任があるとされている。今回、所得税法45条、法人税法55条に「別段の定め」を設けたことにより、法令上も簿外経費の立証責任は納税者にあることが明確化されたといえる。立証責任の明確化により、今後、どのような税務調査が行われていくのか注目される。

必要経費の算入漏れで争い

 国税庁が「納税環境整備に関する専門家会合」で指摘した事例はかなり悪質なものといえるが、そこまでとはいえないものの、必要経費の算入漏れを巡って争われている裁決事例もある。
 本件は、請求人(医師)が確定申告をした後に、事業所得に係る必要経費の算入漏れがあったとして更正の請求を行ったところ、原処分庁は、請求人の提出した書類では必要経費の支出事実及び内容が明らかではないとして更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたため、請求人がその全部の取消しを求めたものである(熊裁(所)令3−2)。
書類を精査すれば必要経費と分かると主張
 請求人は、更正請求書に25社のクレジットカードの利用明細書の写しなどを添付したほか、原処分庁の求めに応じ、請求人が必要経費の算入漏れと主張する支出について、①月別・年間の科目別の支出を集計した書類(年間集計表)、②請求人が必要経費の算入漏れであると主張する支払の明細表、③各種「請求書」及び「領収書」の写しなどを提出。請求人は、提出した集計表や明細表等により、支出事実及び事業に必要な支出であることが証明されており、原処分庁がこれらの書類を精査すれば必要経費として認められるなどと主張した。
提出書類からは支出内容が不明
 審判所は、請求人が必要経費の算入漏れと主張する支出は具体的な金額及び支出の内容が明らかではなく、また、請求人の事業と直接の関連性を持ち、業務の遂行上必要な支出であることも明らかではないと指摘(図表3参照)。加えて、そもそも確定申告書に記載した事業所得の金額から漏れていたかどうかも不明であることから、事業所得の金額の計算上、必要経費の算入漏れがあったかどうかを判断することができず、確定申告書に記載した事業所得の金額に誤りがあり、納付すべき税額に誤りがあるとは認められないとの判断を示し、請求人の請求を棄却した。

支出内容を明らかにすることが必須
 本件は、必要経費の計上漏れを主張する納税者側が支出内容を明らかにしなかったものだが、納税者側に必要経費の立証責任があるとすれば、帳簿書類等の証拠がなければ税務調査の場面でかなり不利になることが想定される。
 今回の改正を踏まえ、今後、税務調査の場面でどのような執行が行われるかは定かではないが、領収書も含めた帳簿書類等の証拠により、支出内容を課税当局に説明していくことが必要になってきそうだ。

書類の提出依頼や質問等も税務調査
 本件では、請求人は、原処分庁は提出した集計表や明細表などの各書類を精査しておらず、更正の請求に係る課税標準等又は税額について全く調査を行っていないと主張していた。今回の簿外経費等の必要経費不算入措置についても、反面調査により取引の内容や経費の支出の実態が明らかとならなかった場合に否認するとしているため、気になる点である。
 この点、審判所は、国税通則法23条4項に規定する調査とは「課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切、すなわち、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て更正をし、又は更正をすべき理由がない旨を請求者に通知するに至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念である」と解されているとした。
 その上で、本件については、原処分庁の調査担当者は更正請求書の内容を確認するため、請求人に対して書類の提出依頼や、提出された書類の質問等を行っており、これらの事実は原処分に係る課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程であると認められ、更正請求に係る調査があったというべきであるとして請求人の主張を斥けている。

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