解説記事2022年08月29日 第2特集 会社法制部会附帯決議に伴う商業登記規則の見直し(2022年8月29日号・№944)
第2特集
登記情報提供サービス、会社代表者の住所非表示は見送り
会社法制部会附帯決議に伴う商業登記規則の見直し
法務省が2月16日に公表した「商業登記規則等の一部を改正する省令案」(3月18日まで意見募集)では、平成31年の「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」とともに決定された附帯決議を踏まえ、登記情報提供サービスにおいて、会社代表者等の住所を一律で表示しないこととする改正案が提案され、令和4年9月1日から施行される予定であった。しかし、改正案には現行の法律実務に与える影響が大きいなどの多くの反対意見が寄せられたため、令和4年8月18日に公布された「商業登記規則及び電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の一部を改正する省令」(法務省令第35号)からは削除され、引き続き検討されることになった。本特集では、会社法制部会における附帯決議に伴う商業登記規則の見直しの概要をQ&A形式で解説する。
なお、登記事項証明書において、DV等の犯罪被害を受けるおそれがあるとの申出が会社代表者等からあった場合にはその住所を表示しないこととする措置や、商業登記簿に併記可能な役員の旧氏の範囲を拡大し、併せて登記申請時に限定せず旧氏併記の申出を可能とする改正は実施される。
会社代表者等の住所の非表示関係
附帯決議では住所非表示はDV被害や登記情報提供サービスに限定
Q
今回、登記情報提供サービスにおいて、会社代表者等の住所を一律に表示しないとされていた改正案が見送りになったとのことですが、そもそもどういった見直しだったのでしょうか。
A
株式会社の代表者(代表取締役又は代表執行役)の住所については登記事項とされているが(会社法911条3項14号、23号ハ)、平成29年から審議がスタートした法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、個人情報保護の観点から、登記事項証明書においては株式会社の代表者の住所を記載せず、例外的に利害関係を有する者についてのみ代表者の住所の記載のある登記事項証明書の交付を請求することができるようにするか否かが検討されていた。
最終的に法制審議会が平成31年2月14日に決定した「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」では、中小企業の取引実務においては会社代表者の住所が与信審査や与信管理のために利用されており、これを閲覧することができなくなった場合には、実務上大きな影響があるといった意見などが寄せられたため、従来の取扱いを変更せず、法務局では株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書を閲覧することができるままとなった。
ただし、例外的に株式会社の代表者がDV被害者等であり、当該代表者から申出があった場合のほか、登記情報提供サービスにおいては、会社代表者のプライバシーに配慮して住所に関する情報を一律に提供しないこととする附帯決議が付されることになった。
これらの見直しは会社法及び会社法に基づく法務省令の改正を伴わないものであり、関係法律に基づく法務省令の改正によって対応することが想定されるため、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」には盛り込まれず、附帯決議(下記参照)として取り扱うことになったものである。
このたび、改正会社法による株主総会資料の電子提供制度が令和4年9月1日から施行することに合わせ、法務省では、2月16日に「商業登記規則等の一部を改正する省令案」を公表。①登記事項証明書において、DV等の犯罪被害を受けるおそれがあるとの申出が会社代表者等からあった場合にはその住所を表示しない、②登記情報提供サービスにおいて、会社代表者等の住所を一律で表示しないこととするなどの見直し案を示していた。
附帯決議(一部抜粋)
2 株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書に関する規律については、これまでの議論及び当該登記事項証明書の利用に係る現状等に照らし、法務省令において、以下のような規律を設ける必要がある。 (1)株式会社の代表者から、自己が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第1条第2項に規定する被害者その他の特定の法律に規定する被害者等であり、更なる被害を受けるおそれがあることを理由として、その住所を登記事項証明書に表示しない措置を講ずることを求める旨の申出があった場合において、当該申出を相当と認めるときは、登記官は、当該代表者の住所を登記事項証明書に表示しない措置を講ずることができるものとする。 (2)電気通信回線による登記情報の提供に関する法律に基づく登記情報の提供においては、株式会社の代表者の住所に関する情報を提供しないものとする。 |
「企業の属性を把握する上で必須の情報」など、反対意見が多数
Q
どのような理由で、登記情報提供サービスにおいて会社代表者等の住所を一律に表示しないとされていた改正案が見送りになったのですか。
A
令和4年3月18日まで意見募集を行っていた改正案では、登記情報提供サービスにおいて会社代表者等の住所を一律に表示しないとされていた点に対して多くの反対意見が寄せられ、今回の改正では見送りとなり、法務省は引き続き検討を行うとしている。
具体的には、「代表者住所は、企業の属性を把握する上で必須の情報であり、詐欺的な人物等が関与する企業との取引を排除するために必要」「政府が唱えるDX等と反対の施策である」「人員、費用、時間の負担が大きい」など、現在の法律実務等に与える影響が大きいとの反対意見が寄せられている。
改正時期は未定も検討は継続
Q
法務省は、「意見を踏まえて引き続き検討する」とのことですが、実質的に改正自体が見送りとなったとの理解でよいのでしょうか。
A
法務省によると、今回の商業登記規則等の改正では見送りとしたものの、問題自体を棚上げするということはないとしている。ただし、いつまでに改正するかについては現時点では未定としている。
DV等被害者である会社代表者等の住所の非表示関係
住所の非表示措置は令和4年9月1日より施行
Q
登記事項証明書において、会社代表者等からDV等の犯罪被害を受けるおそれがあるとの申し出があった場合にはその住所を表示しないこととする措置が講じられたとのことですが、どのような制度なのでしょうか。
A
株式会社の代表者が、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第1条第2項に規定する被害者その他の特定の法律に規定する被害者等であり、更なる被害を受けるおそれがあることを理由として、その住所を登記事項証明書に表示しない措置を講ずることを求める旨の申出があった場合において、その申出を相当と認めるときは、登記官は、当該代表者の住所を登記事項証明書に表示しない措置を講ずることができるというものである(令和4年9月1日から施行)。今まで住所が記載されていた部分に、住所の代わりに「商業登記規則第31条の2の規定による措置」などと記載される予定となっている。
附属書類の閲覧請求により利害関係者は閲覧可能
Q
非表示とされた代表者の住所については、いかなる場合も閲覧することはできないのですか。この場合、業務上、不都合なケースも想定されます。
A
非表示化された代表者の住所については、附属書類の閲覧請求により、利害関係を有する者は閲覧可能になっている(商業登記法11条の2)。
市区町村が発行する書面等が必要
Q
被害を受けた会社代表者が住所を非表示にするには、申請する際に「住所が明らかにされることにより被害を受けるおそれがあることを証する書面」を添付することとされていますが、具体的にはどのような書面なのでしょうか。
A
市区町村が発行する「支援措置決定通知書」などの書面が想定されている。
退任者も申出が可能
Q
すでに会社代表者を退任している場合は今回の措置の対象外になりますか。
A
すでに会社代表者を退任している場合についても申出を認めることとなっている。
3年経過で非表示化は終了も継続可
Q
住所の非表示化は一度実施したら、ずっと表示しないということになるのでしょうか。
A
住所の非表示化については、被害者等又は登記の申請人から住所非表示措置を希望しない旨の申出が行われたときには終了する。なお、住所非表示措置終了の申出は、住所非表示措置の申出と異なり、「住所が明らかにされることにより被害を受けるおそれがあることを証する書面」を添付する必要がないことから、代理人による申出は認められていない。代理人による申出を認めると、加害者側が被害者の代理人を騙って代理申請することが容易になるからだ。
そのほか、住所非表示措置をした年の翌年から3年を経過したときには終了となる。ただし、住所非表示措置をした年の翌年から3年を経過する前に、申出人には事前に通知をする運用が行われる予定になっており、再度申出を行うことにより当該措置を継続することは可能となっている。
災害等により期間内に申出ができないときを想定
Q
住所非表示措置をした年の翌年から3年を経過したときは当該措置を終了するとのことですが、商業登記規則31条の2第6項2号に規定される登記官が住所非表示措置を終了させないことが「相当であると認めるとき」とは、具体的にはどのような場合でしょうか。
A
住所非表示措置を終了させないことが「相当であると認めるとき」とは、例えば、災害等により申出人が期間内に申出をすることができない場合が想定されている。
旧氏範囲の拡大関係
旧氏の併記、婚姻に限らず可能に
Q
商業登記簿に併記可能な役員の旧氏の範囲が拡大されるとのことですが、具体的にはどのような改正なのでしょうか。
A
現行制度では、商業登記簿の役員欄に役員の婚姻前の氏も記録することができるが、改正後は、婚姻に限らず、離婚や養子縁組などによって氏が変更した場合も旧氏(その人の過去の戸籍上の氏のこと)を記録することができるようになる(令和4年9月1日施行)。また、これまでは旧氏を記録する場合、登記申請時に限定されていたが、いつでも商業登記簿に記録するよう申出することができる。
外国人の通称や帰化前の氏は併記できず
Q
例えば、取締役等が外国人である場合の通称や外国人の帰化前の氏を記録することはできますか。
A
商業登記規則81条の2に規定する旧氏は、住民基本台帳法施行令30条の13に規定するものとされている。このため、外国人の通称や帰化前の氏は該当しないため、併記することはできないこととされている。
オンラインでの単独申請はできず
Q
今回の改正事項である住所の非表示措置や、旧氏の範囲拡大に関する申出については、オンラインでの申請はできるのでしょうか。
A
登記のオンライン申請と同時に行う場合にはできるが、オンラインによる単独での申出については、システム改修が必要であるため、できないこととされている。
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