解説記事2022年09月05日 最新判決研究 同族会社間の高額借入れと同族会社の行為計算の否認(2022年9月5日号・№945)

最新判決研究
同族会社間の高額借入れと同族会社の行為計算の否認


最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決(令和2年(行ヒ)第303号)
東京高裁令和2年6月24日判決(令和元年(行コ)第213号)
東京地裁令和元年6月27日判決(平成27年(行ウ)第468号(第1事件)、平成29年
(行ウ)第503号(第2事件)平成30年(行ウ)第444号(第3事件))

 筑波大学名誉教授・弁護士 品川芳宣

一、事実

(1)X(原告、被控訴人、被上告人)は、音楽事業を国際的に展開するフランス法人Aの系列に属する日本法人(合同会社)であるが、平成20年12月期分から同22年12月期分までの法人税(第1事件)、平成23年12月期分法人税(第2事件)及び平成24年12月期分法人税(第3事件)(以上の各事業年度を以下「本件各事業年度」という。)について、同系列のフランス法人Bから借入れ(以下「本件借入れ」という。)た866億6132万円(以下「本件借入金」という。)に係る支払利息を各期10億4763万円余ないし44億1081万円余(以下「本件利息」という。)を損金の額に算入して、確定申告をした(以下「本件各申告」という。)。
 これに対し、処分行政庁は、法人税法132条1項に基づき、本件利息の損金算入を否認する各更正(以下「本件各更正」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定(以上の各処分を以下「本件各更正等」という。)をした。Xは、本件各更正等を不服として、前審手続を経て、国(被告、控訴人、上告人)に対し、当該各処分の取消しを求めて本訴を提起した。
(2)Aは、全世界に数百に及ぶ同族関係を有する系列会社(以下「本件企業グループ」という。)を支配しているが、Bも、その系列下の中で資金集中管理を荷う統括会社である。Xは、平成20年10月29日、Bとの間で、次のことを条件とする金銭消費貸借契約を締結し、同日、本件借入金の交付を受けた。
① Bは、契約締結日に本件借入金をXに交付する。
② 本件借入金は、系列内の日本法人3社(以下「本件各日本法人」という。)の株式の購入代金及びその関連費用にのみ使用する。
③ 利息の利率は、平成26年10月29日までの間は年6.8%、同日以降は年5.9%とする。
④ Xは、平成40年10月29日に借入金残高及び経過利息等を返済する。
⑤ Xは、平成21年10月29日までであれば、300億円を限度として、本件借入金の1部を返済することができ、平成26年10月29日以降においては、いつでも借入金の全部又は一部を返済することができる。
(3)本件企業グループは、平成12年以降、音楽部門法人の数が増加し、資本関係も複雑化したことから、組織再編成を行ってきたところ、その基本方針は、一つの国に一つの持株会社を設置し、その傘下に事業会社等を所属させ、法人の数を減らすとともに、各国の法人間で資本と負債のバランスを適正にするというものであった。そして、本件企業グループは、遅くとも平成20年7月23日までに、日本の関連会社について組織再編成等を行うための計画(以下「本件再編成等スキーム」という。)を策定した。そして、本件企業グループは、本件再編成等スキームに基づく一連の組織再編成に係る取引(以下「本件組織再編取引」と総称する。)を行った。本件借入れも、本件組織再編取引の一環として行われた。

二、争点及び当事者の主張

1 争  点
 本件の争点は、本件各更正等の適法性であり、具体的には、法人税法132条1項にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の該当性である。

2 国の主張
(1)法人税法132条1項にいう、「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かの判断に当たって、同族会社に租税回避の意図、目的等があることは要件とされていない。また、同族会社の行為又は計算を容認することにより生じる税負担減少結果が同項にいう「不当」に該当するためには、当該行為又は計算が、同族会社でなければ通常なし得ない行為又は計算で、かつ、経済的合理性を欠くものに限られると解される。
(2)本件一連の行為を構成する各行為間の関係を見ると、①オランダ法人であるCを100パーセント親会社とする同族会社であるXを設立し(本件設立)、②XがCから295億円の追加出資を受ける(本件増資)とともに、③XがBから866億6132万円の借入れをし(本件借入れ)、④Xが上記②及び③により調達した資金を用いて日本法人であるDからE(日本法人)株式を購入した上(本件買収)、⑤XがEを吸収合併すること(本件合併)により、Eが行っていた音楽事業やEの資産、負債等を合併後のXに全て引き継ぎつつ、上記③で負担した本件利息を損金算入することにより、EないしXの欠損金額を増加させ、又は課税対象所得や法人税の額を減少させたものである。
 このように、本件一連の行為は、Xも参加している本件企業グループ法人の行為として、それぞれ先行する行為を前提として積み重ねられた行為であり、その結果、EないしXの欠損金額が増加し、又は課税対象所得や法人税額が減少したのであるから、本件一連の行為が一体として税負担減少結果を生じさせたものというべきである(主位的主張)。
(3)仮に、EないしXの行為ではない本件設立は「その法人の行為又は計算」に当たらないとしても、本件一連の行為のうち、本件設立を除く各行為が「その法人の行為又は計算」に当たるというべきである(予備的主張1)。
 仮に複数の行為が「その法人の行為又は計算」に該当することはないとしても、本件借入れは「その法人の行為又は計算」に該当するというべきである(予備的主張2)。

3 Xの主張
(1)法人税法132条1項は、「その法人の行為」に対して、その行為に基づいて生じた事実をなかったものとして租税法上の効果を計算する権限を税務署長に与えた規定であることからすれば、更正対象法人の法人税の負担の減少に結びつかない行為又は計算は、同項の適用対象である「その法人の行為又は計算」に含まれないと解するべきである。
(2)本件組織再編取引は、本件企業グループが全世界で買収を重ねた結果錯綜したグループ内の関連会社の関係を整理して事業を効率化するとともに財務上の利益を図るために実施されたものであり、次のようなオランダ法人の負債軽減(目的①)、日本法人の経営の合理化(目的②、③、⑥、⑦及び⑧)及び日本法人の財務の合理化(目的④及び⑤)の3つの柱(本件8つの目的)を同時に達成するために、経営上の必要性から行われたものである。そして、本件借入れには、経済的合理性がある。
目的① オランダ法人全体の負債を軽減するための弁済資金を取得すること
目的② 日本法人を1つの統括会社の傘下にまとめること
目的③ 日本における音楽出版事業会社を合併により1社とすること
目的④ 日本法人の円余剰資金を解消し、Aが為替リスクをヘッジすることなく、ユーロ市場での投資活動を行うことを可能にすること
目的⑤ 日本法人の資本構成に負債を導入し、日本の関連会社が保有する円建ての資産及び日本の関連会社が生み出す円建てのキャッシュフローに係る為替リスクを軽減すること
目的⑥ 業務系統と資本系統の統一を図ることにより経営を合理化・効率化すること及びFの余剰資金を減少させること
目的⑦ 日本法人を合同会社にすることにより、米国税制上のメリットを受け、又はデメリットを回避するとともに、Xを含む日本の関連会社の柔軟かつ機動的な事業運営を行うこと
目的⑧ 当時検討されていた日本におけるA・グループ外の音楽会社の買収に備えること

三、一審判決要旨

請求認容。
(1)法人税法132条1項柱書にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否かは、専ら経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が純粋経済人として不自然、不合理なものと認められるか否か、すなわち経済的合理性を欠くか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される。
(2)本件の事実関係に照らすと、①Xによる本件借入れが行われる原因となった、A・グループが設定した本件8つの目的は、日本の関連会社に係る資本関係の整理や、同グループの財務態勢の強化(グループ内における負債の経済的負担の配分、為替リスクのヘッジに係るコストの軽減)等の観点からいずれも経済的合理性を有するものであり、かつ、これらの目的を同時に達成しようとしたことも経済的合理性を有するものであったと認められ、②本件再編成等スキームに基づく本件組織再編取引等は、これらの目的を達成する手段として相当であったと認められる。そして、③本件組織再編取引等によるこれらの目的の達成はXにとっても経済的利益をもたらすものであったといえる一方、本件借入れがXに不当な経済的不利益をもたらすものであったとはいえない。

四、控訴審判決要旨

控訴棄却(請求認容)。
(1)本件各事業年度におけるXの法人税につき、これを容認した場合には法人税の負担を減少させる結果となる「その法人の行為又は計算」は、本件借入れであると認められる。そうすると、本件借入れ以外の国主張に係る上記各行為は、本件各更正の適法性を検討するに当たり、法人税法132条1項に基づく同族会社等の行為計算の否認の対象となる「その法人の行為又は計算」に当たるとはいえない。
(2)本件再編成等スキームは、大要、日本の関連会社の経営の合理化として、日本の関連会社の資本関係及びこれに対する事業遂行上の指揮監督関係を整理し、法人数を減らすという目的、米国税制上の対応や柔軟かつ機動的な事業運営の観点から、日本の関連会社を合同会社とし、当該検討されていた日本における音楽会社の買収に備えるという目的、O部門のオランダ法人の負債軽減及び日本の関連会社の財務の合理化として、日本の関連会社の円余剰資金やFの余剰資金を解消し、Aによる為替リスクのヘッジを不要とするとともに、日本の関連会社の資本構成に負債を導入し、O部門のオランダ法人の負債を軽減するための資金を調達するという目的から成る本件8つの目的を目的とするものである。そして、それらの目的に従った本件組織再編取引等の各取引は、それらの事情に照らし、不自然なものとはいえず、税負担の減少以外にこれを行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するということができる。
(3)以上の諸点を総合すれば、本件借入れが専ら経済的、実質的見地において純粋経済人として不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであるというべき事情は見当たらない。

五、上告審判決要旨

上告棄却(請求認容)。
(1)法人税法132条1項は、同項各号に掲げる法人である同族会社等においては、その意思決定が少数の株主等の意図により左右され、法人税の負担を不当に減少させる結果となる行為又は計算が行われやすいことから、税負担の公平を維持するため、そのような行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定をする権限を税務署長に認めたものである。このような同項の趣旨及び内容に鑑みると、同項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、法人税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である。
(2)同族会社等による金銭の借入れが上記の経済的合理性を欠くものか否かについては、当該借入れの目的や融資条件等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきものであるところ、本件借入れのように、ある企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する同族会社等が当該企業グループに属する他の会社等から金銭の借入れを行った場合において、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くときは、当該借入れは、上記諸事情のうち、その目的、すなわち当該借入れによって資金需要が満たされることで達せられる目的において不合理と評価されることとなる。そして、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、①当該一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。
(3)そこで、上記(2)に述べたところを踏まえて、本件借入れがその目的において不合理とされるか否かを検討した上で、本件借入れに係るその他の事情を考慮して、本件借入れが経済的合理性を欠くものか否かを判断することとする。
 本件組織再編取引は、本件音楽部門において日本を総括する会社としてXを設立するなどの組織再編成を行うものであるところ、国際的な企業グループにとって、地域ごとの拠点を総括する会社を設立することは、当該地域における取引関係の一本化や経理、人事等の間接部門の合理化に資するものであって、一般に合理的な方策であると考えられる。また、Xを合同会社として設立することは、Xについてチェック・ザ・ボックス規則による構成員課税を選択することを可能にするとともに、より機動的な事業運営を可能にするものであるから、本件音楽部門や本件企業グループ全体にとって有益である。
 他方、本件財務関連取引は、全て同日に行われ、A及び本件音楽部門法人の間で出資金、貸付金、借入れの返済金等として送金や両替を重ねるものであり、AとXにおいて2億7000万円余の資金変動があったほかは、他の音楽部門法人に有意な資金量の変動をもたらさない一方で、Xに866億円余の多額の債務を生じさせた上で、これに対応した多額の利息の負担を生じさせるものである。しかしながら、本件企業グループは、各国の法人間で資本と負債のバランスを適正にするなどの基本方針の下で組織再編成を行ってきたところ、本件再編成等スキームを策定するに当たって設定された本件各目的の内容等に照らすと、本件財務関連取引を含む本件組織再編取引等には、日本の関連会社の資本関係及びこれに対する事業遂行上の指揮監督関係を整理して法人の数を減らす目的、機動的な事業運営の観点から本件音楽部門において日本を総括する会社を合同会社とする目的、本件音楽部門のオランダ法人全体の負債を軽減するための弁済資金を調達する目的、日本の関連会社が保有する資金の余剰を解消し、Aによる為替に関するリスクヘッジを不要とする目的等があったということができ、本件組織再編取引等は、これらの目的を同時に達成する取引として通常は想定されないものとはいい難い上、本件財務関連取引の実態が存在しなかったことをうかがわせる事情も見当たらない。
 もっとも、本件組織再編取引等には、日本の関連会社の資本構成に負債を導入する目的があったところ、本件合併以後の事業年度である平成21年12月期から平成24年12月期までの本件支払利息の額は、これを損金の額に算入すると法人税の額が大幅に減少することとなるものであったこと等からすれば、上記目的には、多額の利益を生じていたEの事業を承継したXに対して多額の利息債務を負担させることにより、Xの税負担の減少をもたらすことが含まれていたといわざるを得ない。
 しかしながら、本件組織再編取引等には、税負担の減少以外に前記に説示したとおりの目的があり、これらは、本件組織再編取引等を行う合理的な理由となるものと評価することができる。
 以上によれば、本件組織再編取引等は、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるとまではいえず、また、税負担の減少以外に本件組織再編取引等を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在したものということができる。
 そうすると、本件組織再編取引等は、これを全体としてみたときには、経済的合理性を欠くものであるとまではいうことはできず、本件借入れは、その目的において不合理と評価されるものではない。
(4)本件借入れに係るその他の事情についてみると、本件借入れは無担保で行われ、Xは本件借入れが一因となって最終的に貸借対照表上は債務超過となっていることがうかがわれるなど、本件借入れには独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なる点もある。
 しかしながら、本件借入れは、本件各内国法人の株式の購入代金及びその関連費用のみ使用される約定の下に行われ、実際に、Xは、株式を取得して本件各内国法人を自社の支配下に置いたものであり、借入金額が使徒との関係で不当に高額であるなどの事情もうかがわれない。また、本件借入れの約定のうち利息及び返済期間については、Xの予想される利益に基づいて決定されており、現に、本件借入れに係る利息の支払が困難になったなどの事情はうかがわれない。
 そうすると、上記の点があることをもって、本件借入れが不自然、不合理なものとまではいい難い。
(5)以上の諸事情を総合的に考慮すれば、本件借入れは、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものとはいえない。したがって、本件借入れは、法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には当たらないというべきである。

六、解説

はじめに
(1)最高裁判所は、令和4年4月19日に、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)6項を適用した課税処分の取消訴訟につき、当該処分の適法性について、同裁判所として初めてその論拠を明確にした(最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決・令和2年(行ヒ)第283号)(注1)。そして、その2日後は、最高裁判所は本判決をした。
 両判決は、いずれも原審の判断を維持するものであるが、最高裁判決としては珍しく上告を受理し、詳細な理由を示したものである。しかも、両判決は、前者が税務通達に基づく課税処分に係るもので、後者が法律に基づく課税処分に係るものであるという違いはあるにせよ、いずれも、最近、法解釈上注目されている租税回避的な事案に対する判断を示したものである。
(2)その中で、本件は、国際的に音楽事業を展開するフランス法人Aの同族系列下にある日本法人X(親法人はオランダ法人C)が、同じ同族系列下にあるフランス法人Bから866億円余の借入れ(本件借入れ)を行い、Cからの出資金約300億円を合わせて、同族系列下の日本法人各社の株式の購入、吸収合併等を行った際に、法人税法132条の適用により、本件借入金に係る支払利息(本件利息)の損金算入を否認した課税処分(本件各更正等)の適法性が争われたものである。
 本件の事実関係は、各国に散在する同族系列下の多数の法人との取引から成り立っており、かつ、それらの取引は、周到な経営計画とタックスプランニングによって仕組まれている。そのため、法人税法132条に定める同族会社等の行為計算の否認規定の適用要件がどのように充足されるかについては、種々の考察(検討)を要するところでもある。また、本件各判決は、当該課税処分を取り消し、国が主張する法人税法132条に定める「法人税の負担を不当に減少させる」ことを否定したものであり、類似の事例が少ないだけに注目を集めている。
 ところで、近年では、各種の経済取引又は法律行為の中で税負担の軽減を図ろうとすることは、全ての企業及びすべての個人にとって共通的な目的とさえなっている。その中で、同族会社に限定してその「行為又は計算」を否認することは、当該否認規定のあり方や解釈のあり方に考えさせられるところが多い。そこで、本稿では、「租税回避の否認」というテーマについて、その根源にある問題をも考察しつつ、本件各判決の論点を論じることとする。

1 租税回避の意義と否認規定
(1)租税法上の課税要件は、各種の私的な経済取引を前提にしているものであるが、それらの経済取引は、第一次的には私法の律するところである。その私法の分野では、私的自治ないし契約自由の原則が支配しているため、当事者が一定の経済的成果を得るための法形式の選択肢も多い。かくして、そのような法形式の選択(経済取引)においては、租税負担の軽減が意図されることは自然なことであり、法人・個人を問わず、共通の目的でもある。また、そのような目的を合法的に達成することが出来れば、租税法律主義が意図する、経済取引における予測可能性と法的安定性が保障されることになる。
 しかしながら、課税庁は、課税の公平と租税収入の確保を職務としているから、同じ条文に係る納税者の法形式の選択(経済取引等)を課税上まま否認することになる。その否認に関し最も問題となるのは、法人税法132条等に定める行為計算の否認に関する「租税回避」とは何かである。その「租税回避」については、次のように解されている。すなわち、前述のような私法上の選択可能性を利用し、経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、意図した経済的効果を実現しながら、通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ、もって税負担を減少させ排除することがあるが、これを一般に租税回避と称されている(注2)。
 この租税回避の内容としては、①その行為自体は私法上有効であること、②その行為自体は仮装等のものではなく法形式と一致する経済的実質を有していること、③異常な法形式が採用されていること、④租税負担の軽減を主たる目的としていること、等が挙げられる(注3)。
 なお、租税回避は、課税要件の充足を回避したり、租税法規が予定していない異常な法形式を用いて税負担の減少を図ろうとするものであるから、課税要件事実の全部又は一部を秘匿しようとする脱税とは異なり、また、租税法規が予定しているところに従って税負担の減少を図ろうとする節税とも異なるものと解されている。もっとも、節税と脱税の区分は容易であると考えられるが、節税と租税回避又は脱税と租税回避との区分は、必ずしも明確ではなく、それらの区分をめぐって納税者と税務官庁の対立を招く場合も多い(注4)。
(2)次に、このような租税回避行為については、税務上これを否認する場合の法的根拠が問題となる。かかる否認規定としては、包括的なものとして、同族会社等の行為又は計算の否認(所法157①、法法132、相法64①)、組織再編に係る行為又は計算の否認(法法132の2、所法157④、相法64④)、連結法人に係る行為又は計算の否認(法法132の3)等が挙げられる。
 また、前述したように、節税と租税回避又は租税回避と脱税との区分が明確でないこともあって、当該経済取引が租税回避と明確に定義し得ないものであっても、納税者の経済取引又は法律行為を課税上許容し難いということで個別に否認規定が設けられることが多い。例えば、所得税法においては、家事関連費等の必要経費不算入(所法45)等があり、法人税法においては、役員給与の損金不算入(法法34)等があり、相続税法においては、低額譲渡、債務免除等及びその他の利益の享受に係る贈与又は遺贈により取得したものとみなす規定(相法7〜9)等がある。
 更に、このような租税回避まがいに関連する否認規定(限定条項)は、法令上の規定にとどまらず、各税目に係る通達によって定められる場合も多い(注5)。その中で、実務上、よく問題とされるのは、評価通達6の包括的限定条項であり、個別に定めたのが、「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(平成元年3月29日、直評5ほか)等である(注6)。

2 同族会社等の行為又は計算の否認規定の法的性格
(1)前記1で述べたように、各税目の課税要件の前提となる経済取引又は法律行為は、私法上の契約自由の原則の下、租税負担の軽減又は回避を目的として各種の取引が行われており、それに対して、各税法においても、各種の否認規定が設けられている。その中で、所得税法、法人税法及び相続税法が定めている同族会社等の行為又は計算の否認規定(以下「行為計算の否認規定」という。)が、最も代表的なものである。本件で問題となっている法人税法132条1項は、次のように定めている。
 「税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
 一、内国法人である同族会社
 二、〈略〉          」
(2)この行為計算の否認規定については、この規定がなければ否認できないとする創設的規定説とこの規定は確認的に定めたものであるから同族会社以外の租税回避も否認できるとする確認的規定(注7)の対立がある。この対立に関しては、かつて、国税通則法の制定答申(昭和36年)が、実質課税の一環として、行為計算の否認規定の拡充と租税回避全体を課税上否認できる旨の一般的否認規定を国税通則法に定めることを答申したことがある(注8)。しかし、この答申は、当時の政治的事情により、実現することはなかった。
 ところが、国税当局は、従前から、行為計算の否認規定を確認的規定であると解していたので、非同族会社に対しても租税回避を否認する課税処分を行ってきたところ、裁判例では、これを適法と認めるものと、違法とするものに分かれていた(注9)が、学説上は違法と解する方が有力となってきた(注10)。
 その後、同族会社等の行為又は計算の否認規定(法法132等)が存在しているにもかかわらず、平成13年の組織再編税制の改正に際して、組織再編に係る行為又は計算の否認規定(法法132の2等)が設けられ、平成14年の連結納税の導入に当たって、連結法人に係る行為又は計算の否認規定(法法132の3)が設けられたため、同族会社等の行為又は計算の否認規定は創設的規定であるとする考え方を、立法を通して補強する形となった。
 かくして、現在の行為計算の否認規定の法的性格としては、創設的規定説が学説、判例とも多数説であると言える。そうであれば、近年の国際課税においてBEPS問題が高い関心を呼び、国内においても、同族会社、非同族会社等を問わず租税回避又は租税回避まがいの行為が一層巧妙化し、活発化しているので、改めて、一般的否認規定の創設を検討すべき時機に来ていると考えられる(注11)。
 なお、創設的規定説を支持する立場からは、不当な租税回避に対しては個別に否認規定を設ければ足りると説く(注12)。この説が租税法学界を支配していることもあって、近年の税制改正では、個別的否認規定が多く設けられている。しかし、そのような措置は、巧妙なタックスプランナー達に対してはそれ程効果があるわけではなく(彼らにとっては、法律の網をくぐるのが仕事でもある。)、いたずらに、税制を複雑にしているという弊害を生じさせている。

3 「負担を不当に減少させる」の解釈
(1)かくして、法人税法132条1項の規定の解釈については、当該法人の行為計算を容認した場合に、法人税の「負担を不当に減少させる」とは何を意味するかが最も論争され、同項適用の鍵とされてきた。この解釈については、従前の裁判例によると、次の2説に要約される。
① 非同族会社基準説(非同族会社では通常なしえないような行為・計算、すなわち同族会社なるが故に容易になし得る行為・計算がこれに当たる。)(注13)
② 純経済人説(純経済人の行為として不合理・不自然な行為・計算がこれに当たる。)(注14)
 他方、法人税法では、前述したように、同法132条の2において、組織再編成に係る行為又は計算の否認規定を設けているところ、同条においても、法人税の「負担を不当に減少させる」の解釈が同条適用の鍵となっている。当該条項の解釈に関し、当該課税処分を適法と認めた最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決(平成27年(行ヒ)第75号)(以下「最高裁平成28年判決」という。)は(注15)、次のように判示している。
 「「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本体の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。」
(2)これらの説のうち、非同族会社基準説については、租税回避(又は租税負担軽減)に対して、同族会社性悪説、非同族会社性善説に立脚するようなものであって、現実の企業行動を無視しているように思われる。けだし、しばしば述べたように、経済取引又は法律行為において税負担の軽減(又は租税回避)を図ることは、同族会社であれ、非同族会社であれ、個人であれ、法人であれ、それぞれにとって共通の課題(又は目的)でもある。そうであれば、同族会社であれば容易に租税回避が可能であるかのような仮説は、近年の企業行動と実務を無視した空論であると言える。
 また、純経済人説については、元々、「純経済人」なる概念が、経済学上のもので、経済行動の中で、合理性に徹することを意味するものである。しかし、租税負担の軽減(又は租税回避)が経済取引における合理的目標になっている現状においては、「純経済人は、租税回避のような不合理なことはしない」という仮説も説得力を有しないことになる。
 このように、従前の裁判例における両説とも説得力を有しなくなったこともあってか、前掲の最高裁平成28年判決は、従前の裁判例を引用することもなく、「不当に減少させる」ことの判断基準として、①実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか、③税負担を減少させることを意図したものであるかどうか、等を挙げている。この判断基準については、組織再編成に係る法人税法132条の2の規定に関するものであることの考慮を要するほか、③の「意図」の有無については、租税回避の否認が脱税のように「故意」の立証を必要としないことを考慮すると、必要条件ではなく、十分条件として考えるべきであろう。
(3)かくして、本件の上告審判決は、最高裁判所としては初めて法人税法132条1項にいう「負担を不当に減少させる」の意義を明らかにしたと言えるのであるが、前述のような上告審の考え方については、前述の最高裁平成28年判決の考え方に共通するものがあるが、後者が「税負担を減少させることを意図したもの」であることに敷衍したことに対し、そこにふれなかったことが注目される。

4 本件における行為計算の否認
(1)本件は、国際的に音楽事業を展開し、数百を超える関係会社を統率するフランス法人Aの系列下にある日本法人X(直接の親法人はオランダ法人C)が、同じ同族系列下にあるフランス法人Bから866億円余の借入れ(本件借入れ)を行い、Cからの出資金約300億円を合わせて、同族系列下にある日本法人Dから日本法人Eの株式を購入し、Eを吸収合併した場合に、Xの4事業年度(本件各事業年度)分法人税につき、行為計算の否認規定の適用によって本件借入れに係る支払利息(本件利息)の損金算入を否認した課税処分(本件各更正等)の違法性が争われたものである。
 本件利息は、年利6.8%又は5.9%であって、その支払いによってXの課税所得がほぼ零になるというものである。また、このようなX会社の設立、本件借入れ、E株式の購入、Eの吸収合併等の一連の行為は、前述のようなA・グループの8つの経営目的に沿うものであった。
 本訴においては、究極的には、上記の経営目的において本件借入れが合理性を有するものであったか否かが争われた。
(2)まず、一審判決は、前述のように、「不当に減少させる」か否かは、「専ら経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が純経済人として不自然、不合理なものと認められるか否か、すなわち経済的合理性を欠くか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される。」と判示し、上記の8つの経営目的の合理性を容認し、本件借入れが純経済人として不自然、不合理なものといえないから、本件各更正は違法である旨判示した。
 また、控訴審判決は、前述したように、「不当に減少させる」か否かの判断について純経済人説を採用し、かつ、上記の8つの経営目的の合理性を容認した上で、「本件借入れに関する事情を個別に検討したところに照らしてみても、本件借入れが専ら経済的、実質的見地において純経済人として不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであるという事情は見当たらない。」と判示し、結論において、原判決を支持した。
(3)かくして、上告審判決は、まず、「負担を不当に減少させる」の意義について、前述のように、一審判決及び控訴審判決のような純経済人説の考えを前面に出さず、不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くか否かの見地を強調している。次いで、上告審判決は、本件借入れの経済的合理性について、本件企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引において判断すべきとし、「当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、①当該一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業用その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。」と判示し、本件組織再編成等の事実関係を詳細に認定した上で、「本件借入れは、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものとはいえない。」と結論づけた。
 以上のように、上告審判決は、法人税法132条の規定の解釈を明確にし、かつ、大規模な企業グループ内の組織再編成の一環として行われた本件借入れについての経済的合理性を明確にした点では評価し得る。しかしながら、本件借入れそれ自体に着目した場合には、その合理性については、幾つかの疑問がある。すなわち、Xの本件各事業年度の法人税の所得計算に着目すると、Xは、本件借入れによって、年利6.8%又は5.9%という当時の日本の市場金利に比して相当高額な本件利息を支払い、しかも、本件利息がその支払前のXの利益金額に相当するというのであるから、日本の法人税の納税を免れたことになる。そうなると、そのこと自体が本件借入れの目的であるようにも考えられる。また、この年利については、無担保であるから相応の高金利になる旨の指摘もあろうが、取得するE株式を担保に供することで日本国内であれば、1%前後の金利で借入れることも可能であったはずである。もっとも、このようなことは、本件企業グループ全体から許容すべきであるというのであれば、Xの所得計算の行為計算の合理性に着目することと矛盾することになる(注16)。
 また、Xは、E株式を1161億円余で取得するために本件借入れを行ったのであるが、当該E株式の「価額」がどのように算定されたのかについて全く論証されていない。これでは、E株式の購入自体の合理性に疑問が生じるが、本件借入れ有りきで、本件借入金から逆算してE株式の購入代金が決定されたのではないかという疑問さえ生じかねない。そうであれば、本件借入れの不合理性、不自然性について未だ検討の余地があるようにも考えられる。

5 本件各判決の意義と問題点
 以上のように、本件においては、音楽事業に関する多国籍企業を統括するAの同族系列下にあるXが、同系列下のBから866億円余の本件借入れを行い、同系列下の日本法人Eの発行済株式を取得し、Eを吸収合併等し、Xの本件各事業年度の利益に相当する本件利息を支払った場合に、行為計算の否認規定の適用によって本件各更正等が行われ、当該各処分の適法性が争われたものである。本件の一審判決及び控訴審判決は、本件借入れを中心とする各取引の合理性を容認して、本件各更正等を取り消したところ、国が上告し、最高裁判所がこれを受理したということで注目されていた。そして、上告審判決は、前述のように、法人税法132条1項の規定の解釈のあり方を明確にし、本件借入れについて、本件企業グループ内の本件組織再編成とその一環として行われた本件借入れの経済的合理性を容認して、原審の判断を容認した。
 このように、本件の上告審判決は、最高裁判所として、法人税法132条1項に定める「法人税の負担を不当に減少させる」の意義を明確にした上で意義のあるものである。そして、上告審判決は、Xの本件借入れの経済的合理性につき、本件企業グループにおける本件組織再編成の一連の取引の経済的合理性を容認した上で、その一環として行われた本件借入れの合理性を容認している。このような判断は、法人税法132条1項を適用した課税処分を取り消した一事例として参考になるが、前記4で述べたような解せない問題も残されている。
(注1)本判決については、品川芳宣「総則6項適用に対する最高裁初の判決」本誌936号14頁、同「最高裁令和4年判決の評価実務への影響」資産承継2022年8月号171頁等参照。
(注2)金子宏「租税法 第21版」(弘文堂、平成28年)125頁等参照。
(注3)武田昌輔「租税回避行為の意義と内容」日税研論集14号3頁等参照。
(注4)品川芳宣「租税回避行為に対する包括的否認規定の必要性とその実効性」税務事例2009年9月号34頁等参照。
(注5)このような通達上の規則については、租税法律主義上の合法性の原則等との関係が問題となるが、従前の裁判例においては、一定の条件の下、それらの適法性が容認されている。
(注6)これらの評価関連通達の趣旨、論点等については、品川芳宣「財産(資産)評価の実務研究 第3回、第9回」資産承継2018年春号201頁、同2019年秋号153頁等参照。
(注7)各税法において確認的規定の代表的なものとして、推計課税の規定(所法156、法法131、最高裁昭和39年11月13日第二小法廷判決(訟務月報11巻2号312頁等参照)がある。
(注8)税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申及びその説明)」(昭和36年7月)第二の二参照。
(注9)否認を適法と認めるものとして、大阪高裁昭和39年9月24日判決(行裁例集15巻9号1716頁)、神戸地裁昭和45年7月7日判決(訟月16巻12号1513頁)、東京地裁昭和46年3月30日判決(行裁例集22巻3号399頁)等を、否認を違法とするものとして、東京高裁昭和47年4月25日判決(行裁例集23巻4号238頁)、東京高裁昭和50年3月20日判決(訟月21巻6号1315頁)、大阪高裁昭和59年6月29日判決(行裁例集35巻6号822頁)等を参照。
(注10)金子宏「租税法 第23版」(弘文堂昭和31年)138頁等参照。
(注11)前出(注4)37頁等参照。
(注12)前出(注10)139頁等参照。
(注13)東京地裁昭和26年4月23日判決(行裁例集2巻6号841頁)、東京高裁昭和40年5月12日判決(税資49号596頁)等参照。
(注14)東京高裁昭和48年3月14日判決(行裁例集24巻3号115頁)、東京高裁昭和49年10月29日判決(同25巻10号1310頁)等参照。
(注15)同判決の評釈については、品川芳宣・本誌2016年6月6日号14頁等参照。
(注16)なお、本件の一審判決及び控訴審判決は、法人税法132条の解釈適用は、Xの取引に限定して判断すべきとしていた。

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