カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2022年09月05日 未公開裁決事例紹介 役員報酬3割相当の費用は弁護士業務と関係なし(2022年9月5日号・№945)

未公開裁決事例紹介
役員報酬3割相当の費用は弁護士業務と関係なし
勤務する法律事務所に支払った設備使用料で争い


〇弁護士である請求人が勤務する法律事務所に支払った事務経費分担金の一部が一般対応の費用に該当するか否かが争われた裁決。国税不服審判所は、事務経費分担金(法律事務所の許可を得た上で個人の弁護士業務等を行った場合に支払う設備の使用料)のうち役員報酬の金額の3割に相当する部分については事業と直接の関係があるとはいえないと判断し、請求人の請求を棄却した(東裁(所)令3第12号)。

主  文

 審査請求をいずれも棄却する。

基礎事実等

(1)事案の概要
 本件は、弁護士である審査請求人(以下「請求人」という。)が、勤務する法律事務所に支払った費用を事業所得の必要経費に算入して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該費用の一部は事業所得の必要経費に算入することはできないとして更正処分等をしたのに対し、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令(略)
(3)基礎事実

 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人について
(イ)請求人は、平成20年12月以降、××××××××××(以下、特に断らない限り、××××××××と区別せずに「本件事務所」という。)に勤務する弁護士であり、本件事務所から給料の支払を受けている。
(ロ)請求人は、本件事務所の就業規則(以下「本件就業規則」という。)に基づく本件事務所の許可を得て、個人事業主としての弁護士業務(以下「本件事業」という。)も行っている。
  なお、平成27年分、平成28年分、平成29年分及び平成30年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)において、請求人が得た本件事業に係る収入(以下「本件事業収入」という。)は、別表1(編注:省略(以下同じ))の「本件事業収入の金額」欄のとおりである。
(ハ)請求人は、平成27年6月以降、本件就業規則に基づく本件事務所の許可を得て、××××××××の社外取締役に就任し、社外取締役としての業務(以下「本件役員業務」という。)を行っている。
  なお、本件各年分において、請求人が得た本件役員業務に係る報酬(以下「本件役員報酬」という。)は、別表1の「本件役員報酬の金額」欄のとおりである。
(ニ)請求人は、平成20年12月24日に、納税地を事業所の所在地である××××××××××××××××××××とする旨を記載した所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書を×××××に対し提出していたが、その後、平成30年8月17日に、事業所の所在地が××××××××××××××××××××に異動したので、これに伴い、原処分庁は、×××××から×××××となった。
ロ 本件就業規則について
 本件就業規則には、本件事務所に勤務する弁護士(以下「勤務弁護士」という。)の職務専念義務等について、要旨次のとおり定められている。
(イ)勤務弁護士は、本件事務所の職務に専念して誠実に業務を行い、本件事務所の許可を得なければ、本件事務所の業務以外の業務に従事し、又は他の者のために役務を提供してはならない(第7条)。
(ロ)勤務弁護士は、本件事務所から命じられた業務を遂行するために支障のない範囲内で、自らを個人事業主として、依頼者から依頼を受けて弁護士業務(以下「個人事件業務」という。)を行うことができる(第64条第1項)。
(ハ)勤務弁護士は、個人事件業務を行うに当たって、本件事務所の業務に支障のない範囲内で、本件事務所の設備を使用すること並びに本件事務所及び事務職職員の承諾を得てその補助を依頼すること(以下、これらを併せて「本件事務所設備の使用等」という。)ができる(第64条第3項)。
(ニ)勤務弁護士は、本件事務所設備の使用等の対価として、個人事件業務に係る収入金額の3割に相当する金額(以下「事務経費分担金」という。)を本件事務所に支払うものとし、その支払期日は、毎年1月から12月までの収入金額に対応するものについてその翌年1月末日とする(第64条第4項)。
ハ 請求人に係る事務経費分担金について
 請求人は、本件各年分において、請求人に係る事務経費分担金(以下「請求人事務経費分担金」という。)として、別表1のとおり、本件事業収入の金額に本件役員報酬の金額を合計したところで、その3割に相当する金額を計算して本件事務所に支払った。
(4)審査請求に至る経緯(略)

争点および主張

 本件費用(編注:請求人事務経費分担金のうち本件役員報酬の金額の3割に相当する部分)は、一般対応の費用に該当するか否か(参照)。

【表】争点についての主張

原処分庁 請求人
 本件費用は、次のとおり、一般対応の費用に該当しない。
(1)一般対応の費用に該当するといえるためには、所得を生ずべき業務と何らかの関連性を有する費用というだけでは足りず、所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有しており当該業務の遂行上必要な費用であることを要すると解するのが相当である。
(2)請求人は、本件費用を本件事務所に支払うことで、①本件役員業務を行うこと及び②本件役員業務を行うに当たって本件事務所設備の使用等をすることが可能となったのであるから、本件費用は、請求人が本件役員業務を行うことを目的として支払われたものと認められる。
  したがって、本件費用は、本件事業と直接的な関連性を有せず、また、本件事業の遂行上必要性を有しないから、一般対応の費用に該当しない。
 本件費用は、次のとおり、一般対応の費用に該当する。
(1)一般対応の費用に該当するといえるためには、所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有することまでは求められず、所得を生ずべき業務の遂行上必要な費用であることのみをもって足りると解するのが相当である。これは、東京高裁平成24年9月19日判決(以下「本件高裁判決」という。)でも、同様に判示されている。
(2)請求人は、請求人事務経費分担金の一部でも支払わなければ、本件事業を行う許可が全て取り消され、本件事業を行うことが全くできなくなる。
  したがって、請求人事務経費分担金は、一体として本件事業の遂行上必要な支出であるから、その全額が一般対応の費用に該当する。
(3)仮に、原処分庁が主張するように、一般対応の費用に該当するというためには所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有することを要するとしても、本件役員報酬の金額が本件事業(本件役員業務は含まれない。)に係る事務経費分担金の額を算定する基礎となる金額に算入されたにすぎず、請求人事務経費分担金に対応する業務は全て本件事業であるから、請求人事務経費分担金は一体として本件事業に係る一般管理費に該当し、その全額が、本件事業と直接的な関連性を有し、一般対応の費用に該当する。
(4)以上のとおり、請求人事務経費分担金の全額が一般対応の費用に該当するから、そのうち本件費用も一般対応の費用に該当する。

審判所の判断

(1)法令解釈
 ある支出が、一般対応の費用、すなわち、所得税法第37条第1項の「所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当するためには、当該支出が事業所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当であり、かかる費用に該当するか否かの判断は、単に業務を行う者の主観的な動機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行われなければならないと解される。
(2)認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件事務所が、本件就業規則において、上記のとおり、事務経費分担金の額を個人事件業務に係る収入金額の「3割」に相当する金額と定めた理由は、次のとおりである。
(イ)勤務弁護士が行う個人事件業務について、実際に本件事務所設備の使用等をしたか否かを本件事務所において把握し、それにより実額を計算することは困難であること。
(ロ)勤務弁護士が個人事件業務を行うに当たり、年間に使用する本件事務所の施設、設備、備品及び消耗品等の使用料、通信料並びに事務職職員の人件費の合計は、個人事件業務に係る年間の収入金額の3割に相当する金額を下回ることはないこと。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)について、××××××××及び勤務弁護士それぞれが納得し、「3割」が適当な割合であるとして合意したこと。
ロ 本件事務所は、事務経費分担金の額の計算において、個人事件業務における本件事務所設備の使用等の頻度等に応じて金額を増減することはない。
ハ 請求人は、本件事業を行うに当たり、本件事務所設備の使用等をしていた。
ニ 本件役員業務の内容は、主に、取締役会等に出席し、意見を述べることであったため、請求人は、本件役員業務を行うに当たっては、本件事務所設備の使用等をしていなかった。
ホ 請求人事務経費分担金の額の計算においては、請求人と本件事務所の合意に基づき、本件役員報酬の金額が上記の「個人事件業務に係る収入金額」に含まれるとされた。
(3)当てはめ
イ 請求人事務経費分担金のうち本件費用が一般対応の費用に該当するか否かについては、上記の法令解釈に従い、本件事業の内容や請求人事務経費分担金の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、本件費用が、社会通念に照らして客観的に本件事業と直接の関係を持ち、かつ、本件事業の遂行上必要なものと認められるか否かにより決することとなるから、これらの点について、以下検討する。
ロ 本件事業は、上記のとおり、本件事務所に職務専念義務を負う勤務弁護士である請求人が、本件事務所の許可を得て、個人事業主として行う弁護士業務であり、本件事業から生ずる所得は事業所得に該当する。請求人は、本件事業を行うに当たって、上記のとおり、本件事業のために本件事務所設備の使用等をすることができ、実際に本件事務所設備の使用等をしていたことからすると、本件事業のために本件事務所設備の使用等をする必要があったことは認められる。加えて、上記のとおり、本件就業規則に基づき、勤務弁護士が本件事務所の許可を得て個人事件業務を行った場合、勤務弁護士は、事務経費分担金を本件事務所設備の使用等の対価として本件事務所に支払うこととされている。これらを前提とすると、請求人が事務経費分担金を支払う目的として、本件事業を行うに当たって必要な本件事務所設備の使用等をすることがあったと認められる。
ハ 他方、事務経費分担金の額は、上記のとおり、勤務弁護士が個人事件業務を行うために実際に本件事務所設備の使用等をしたか否かを把握して実額を計算することは困難であるため、××××××××と勤務弁護士が合意した「個人事件業務に係る年間の収入金額の3割」として計算することとされ、その計算において、個人事件業務における本件事務所設備の使用等の頻度等に応じて金額が増減することはない。このような計算方法によれば、事務経費分担金の額は、勤務弁護士が個人事件業務のために実際に本件事務所設備の使用等をしたか否かにかかわらず、個人事件業務に係る収入金額に比例して決められることとなる。そして、請求人の場合は、請求人事務経費分担金の額を計算するに当たって、上記のとおり、「個人事件業務に係る収入金額」に本件役員報酬の金額が含まれることとされたため、請求人事務経費分担金の額には、本件役員報酬の金額の3割に相当する金額(すなわち本件費用の額)が含まれているから、仮に、請求人が、本件事業を行わなかったとしても、本件役員業務を行っている限り、請求人は、本件費用を本件事務所に支払わなければならないことになる。
  また、上記のとおり、本件役員業務の内容は、主に、取締役会等に出席し、意見を述べることであって、実際に、請求人は本件役員業務を行うに当たって本件事務所設備の使用等をしていなかったというのであるから、請求人が本件役員業務のために本件事務所設備の使用等をする必要性はなかったといえる。そのほか、請求人が本件役員報酬を得たことに伴い、本件事業を行うために本件事務所設備の使用等の頻度が増加するなどの因果関係も認められない。
  そうすると、請求人事務経費分担金のうち本件費用に限っては、本件事務所設備の使用等をすることを目的としていたとは認められず、そのほか、本件事業を行うことを目的としていたとも認められない。
ニ 以上の諸事情を踏まえると、請求人事務経費分担金は、本件事業収入の金額及び本件役員報酬の金額のそれぞれに比例して、異なる趣旨・目的により生じた別個の費用の合計といえるのであって、請求人は、本件事務所に対し、請求人事務経費分担金という同一の名目のもと、その支払を同時にしているにすぎないものと評価すべきである。
  そして、そのうち本件費用については、本件事業収入の金額の3割に相当する部分とは異なり、本件事業を行うこととは無関係に生じたものであるといえ、その支払目的が本件事業を行うためとは認められず、また、本件事業を行うために本件事務所設備の使用等の対価として支払う必要性も認められない。そうすると、本件費用は、客観的に、本件事業と直接の関係があるとはいえず、また、本件事業の遂行上必要なものであるとも認められない。
  したがって、本件費用は、一般対応の費用に該当しない。
(4)請求人の主張について
イ 請求人は、上記の「請求人」欄の(1)のとおり、本件高裁判決を引用し、一般対応の費用に該当するといえるためには、ある費用が事業所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有することまでは求められず、ある費用が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であることのみをもって足りると解するのが相当である旨主張する。
  しかしながら、本件高裁判決は、弁護士が弁護士会等の役員としての活動に伴い支出した懇親会費等の一部が、当該弁護士が個人事業主として営む弁護士業に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができるか否かが争われた事案につき、弁護士については、弁護士会等へのいわゆる強制加入制度が採られており、弁護士会等の活動は、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに、会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っているものであることなどを理由として、当該懇親会費等の一定の範囲について、必要経費に算入することができると判断した事例であって、本件とは事案を異にするから、請求人の主張は採用できない。
ロ 請求人は、上記の「請求人」欄の(2)のとおり、請求人事務経費分担金の一部でも支払わなければ、本件事業を行う許可が全て取り消され、本件事業を行うことが全くできなくなるから、請求人事務経費分担金の全額が本件事業の遂行上必要な支出である旨主張する。
  この点、本件就業規則においては、勤務弁護士は、本件事務所の許可を得なければ本件事務所の業務以外の業務に従事し、又は他の者のために役務を提供してはならない旨定められているが、事務経費分担金を支払わなければ上記許可を取り消すとする定めは見当たらない。また、××××××××の当審判所に対する答述によれば、請求人が請求人事務経費分担金を支払わなければ、請求人が本件事業及び本件役員業務を行う許可が取り消されることとなるが、実際には、本件事務所の信用等を考慮し、請求人が既に行っている本件事業については事件終結まで遂行し、また、本件役員業務については任期満了まで務めることになるというのであるから、このことも併せて考えると、請求人が請求人事務経費分担金の全額を支払わなかったとしても、新たに個人事件業務を行うための許可が得られなくなる可能性を有するにとどまるものと認められる。
  そうすると、請求人が請求人事務経費分担金の全額を支払わなかったとしても、既に行っている本件事業を行うことができなくなるとはいえないから、請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、上記の「請求人」欄の(3)のとおり、本件役員報酬の金額は、本件事業(本件役員業務は含まれない。)に係る事務経費分担金の額を算定する基礎となる金額に算入されたにすぎず、請求人事務経費分担金に対応する業務は全て本件事業であるから、請求人事務経費分担金は一体として本件事業に係る一般管理費に該当し、その全額が、本件事業と直接的な関連性を有している旨主張する。
  しかしながら、請求人事務経費分担金のうち本件費用については、本件事業を行うこととは無関係に生じたものであるから、客観的に、本件費用が本件事業と直接の関係があるとはいえないことは上記で述べたとおりである。
  したがって、請求人の主張には理由がない。
(5)原処分の適法性について
イ 本件各更正処分の適法性について
 上記のとおり、本件費用は、一般対応の費用に該当しない。また、本件費用が所得税法第37条第1項に規定する「所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当しないことについては、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所も相当と認める。よって、本件費用の額は、本件事業に係る事業所得の金額の計算上必要経費に算入できない。
 以上に基づき計算した請求人の本件各年分における所得税等の総所得金額及び納付すべき税額は、本件各更正処分の金額といずれも同額であると認められる。
 また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。
ロ 本件各賦課決定処分の適法性について
 上記イのとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、平成28年分、平成29年分及び平成30年分の所得税等に係る過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分における金額といずれも同額であると認められる。
 したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(6)結論
 よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索