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解説記事2020年01月06日 SCOPE 本来は仕入税額控除の要件(解釈)見直しを求めるべき(2020年1月6日号・№817)

バランスの取れない仕入税額控除の否認
本来は仕入税額控除の要件(解釈)見直しを求めるべき


 11月21日、東京地裁は、「帳簿等の不提示」事案に対して、仕入税額控除を全額否認し、総額38億円余の追徴課税処分を容認する判決を言い渡した(本誌813号40頁参照)。本件については敗訴を受けた原告が控訴手続きを行っている。
 課税庁の視点では、不誠実な納税者へのやむを得ぬ制裁ということになろうが、(無予告調査に起因する)税務調査への反発と(会社の存続に直結する巨額課税処分の)制裁とのバランスがとれない。納税者側の無知な反発を非難することができるとしても、顕在化したアンバランスからは、仕入税額控除の要件について立法的・解釈的な見直しを提起すべき事案であろう。最高裁判例に関与した滝井繁男最高裁判事(故人)は、このような状況も見通して、反対意見を明らかにしていたといえるだろう。

容易には最高裁判例に逆らえないのが司法の常識

 本件訴訟において、原告が大上段に主張したのは、制度(しくみ)のおかしさである。原告はまず、「累積的な課税を排除するという消費税制度の本質に照らせば、帳簿等を『保存しない場合』という法30条7項の文言は厳格に解釈すべきであり、『提示しない』場合を含めて解釈することは憲法84条の定める租税法律主義に反する。」と主張する。しかしながら、この主張だけでは勝てない。最高裁は、「税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、法30条7項にいう『保存しない場合』に該当する」と判示し、調査を拒絶する納税者への対応として、実務(仕入税額控除の否認)が追随する。原告は3件の最高裁判決を前提としたうえで、調査担当者の対応などの個別事情を主張せざるをえない。
 本件では、結果として行為と制裁とのバランスを逸している。極端な喩えだが、公務執行妨害に極刑が適用されるような制度となっている。パチンコ店を経営し、課税売上に対する課税仕入の占める割合が85%程度となる原告において仕入税額控除の全額否認は会社の存続を認めないものに等しい。
 このような状況は一体何が原因なのであろうか。最高裁判例の事実からすれば原告の無謀で無知な対応が一因であることは否定できないものの、やはり、消費税における仕入税額控除の重要性に比べて、最高裁判例の解釈が定着してしまったことにも大きな要因があると思われる。滝井繁男判事の反対意見、あるいは日弁連の「仕入税額控除の要件についての意見書」(2004年12月17日)からバランスのとれたあるべき制度のヒントが見つかるのではないだろうか。

【表】滝井繁男最高裁判事の反対意見の理由(要旨)(最高裁平成16年(行ヒ)37号より)

(1)我が国消費税は、税制改革法の制定を受けて消費に広く薄く負担を課することを目的とし、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税することとしたものであるが、同法は課税の累積を排除する方式によることを明らかにし、法30条1項は、事業者が国内において課税仕入れを行ったときは、当該課税期間中に国内で行った課税仕入れに係る消費税額を控除することを規定する。この仕入税額控除は、消費税の制度の骨格をなすものであって、消費税額を算定する上での実体上の課税要件にも匹敵する本質的な要素とみるべきものである。(略)法が仕入税額の控除にこのような限定を設けたのは、あくまで消費税を円滑かつ適正に転嫁するために(税制改革法11条1項)、一定の要件を備えた帳簿等という確実な証拠を確保する必要があると判断したためであって、法30条7項の規定も、課税資産の譲渡等の対価に着実に課税が行われると同時に、課税仕入れに係る税額もまた確実に控除されるという制度の理念に即して解釈されなければならない。
(2)法30条7項は、事業者が税務職員による検査に当たって帳簿等を提示することが可能なようにこれを整理して保存しなければならないと定めていると解し得るとしても、そのことから、多数意見のように、事業者がそのように態勢を整えて保存することをしていなかった場合に、仕入税額の控除を認めないものと解することは、結局、事業者が検査に対して帳簿等を正当な理由なく提示しなかったことをもって、これを保存しなかったものと同視するに帰着するといわざるを得ないのであり、そのような理由により消費税額算定の重要な要素である仕入税額控除の規定を適用しないという解釈は、申告納税制度の趣旨及び仕組み、並びに法30条7項の趣旨をどのように強調しても採り得ない。
(3)事業者が法の要求している帳簿等を保存しているにもかかわらず、正当な理由なくその提示を拒否するということは通常あり得ることではなく、その意味で正当な理由のない帳簿等の提示の拒否は、帳簿等を保存していないことを推認させる有力な事情である。しかし、それはあくまで提示の拒否という事実からの推認にとどまるのであって、保存がないことを理由に仕入税額控除を認めないでなされた課税処分に対し、所定の帳簿等を保存していたことを主張・立証することを許さないとする法文上の根拠はない。また、大量反復性を有する消費税の申告及び課税処分において迅速かつ正確に課税仕入れの存否を確認し、課税仕入れに係る適正な消費税額を把握する必要性など制度の趣旨を強調しても、法30条7項における「保存」の規定に、現状維持のまま保管するという通常その言葉の持っている意味を超えて、税務調査における提示の求めに応ずることまで含ませなければならない根拠を見出すことはできない。そのように解することは、法解釈の限界を超えるばかりか、課税売上げへの課税の必要性を強調するあまり本来確実に控除されなければならないものまで控除しないという結果をもたらすことになる点において、制度の趣旨にも反するものといわなければならない。
(4)法30条7項も、消費税を円滑かつ適正に転嫁するために帳簿の保存が確実に行われなければならないことを定めたものであり、着実に課税が行われるよう、課税売上げの額を正しく把握すると同時に控除されるべき税額は確実に控除されなければならないという消費税制度の趣旨を考えれば、同項にいう「保存」に、その通常の意味するところを超えて税務調査における提示をも含ませるような解釈をしなければならない理由は見いだすことはできず、そのように解することは、本来控除すべきものを控除しない結果を招来することになって、かえって消費税制度の本来の趣旨に反するものである。
(5)事業者が帳簿等を保存すべきものと定められ、これに対する検査権限が法定されているにもかかわらず、正当な理由なくこれに応じないという調査への非協力は、申告内容の確認の妨げになり、適正な税収確保の障害にもなることは容易に想像し得るところであるが、法は、提示を拒否する行為については罰則を用意しているのであって(法68条)、制度の趣旨を強調し、調査への協力が円滑適正な徴税確保のために必要であることから、税額の計算に係る実体的な規定をその本来の意味を超えて広げて解することは、租税法律主義の見地から慎重でなければならないものである。

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