解説記事2022年09月12日 ニュース特集 訴訟にまで発展した税理士業務を巡るトラブルⅡ(2022年9月12日号・№946)
ニュース特集
税額の減免額で税理士報酬は決まらず
訴訟にまで発展した税理士業務を巡るトラブルⅡ
本特集では、前回(本誌927号)に引き続き税理士業務を巡って訴訟にまで発展した事件を2件紹介する。税理士とクライアントとの業務委託契約の内容が問題となった事件では、裁判所は税理士が不服申立手続を超えて税務署等に働きかける行為は不適切であり、内容を報酬対象業務と評価することはできないとの判断を示している。税理士は還付金の20%相当額である約1,877万円をクライアントに請求したものの、裁判では、報酬は約5万5,000円しか認められないという非常に厳しい結果となっている。
不服申立手続を超えて税務署等に働きかける行為は不適切
1件目に紹介するのは、税理士とクライアントとの業務委託契約の内容が問題となった事件(令和4年3月10日、令和2年(ワ)第19350号)だ。税理士は、元国税職員の税理士とともに自らが税務署に働きかけた結果、更正の請求が認められたと主張したが、実際のところは、当初の更正の請求は税務職員の誤りにより認められなかったものである。
事の発端は、被告(投資家)が、平成26年分確定申告において、先物取引等の損失である4億5,472万4,888円の計上を失念していたことにはじまる。被告は、平成29年初め頃に気づき、平成29年3月、平成26年分の所得税等に係る更正の請求を行い、その損失が翌年に繰り越されたとして平成27年分の所得税等についても更正の請求を行うとともに、平成28年分及び平成29年分の確定申告において、損失の計上漏れがあったことを前提に、損失額の一部を雑所得の計算上繰越控除して申告を行った。これに対して税務署は、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用を受けるためには、損失の金額が生じた年分については、損失の金額の計算に関する明細書等を添付して確定申告を提出する必要があるなどとし、更正の請求について理由がない旨の通知をするとともに、更正の請求が認められないことを前提に、更正及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったものである。
その後、被告は、原告の税理士と業務委託契約を締結することになるが、税務署は、一転して平成26年分の損失計上を認め、その年分以後も損失が繰り越されるため、所得税等の額を更正するとともに、過少申告加算税を減少する旨の決定を行った。
今回の事案では、原告と被告の業務委託契約内容が大きな争点となっており、税理士は、更正等によって被告が追加納税しなければならなくなった額を可能な限り減免させることを業務とし、減免額の20%相当を報酬額とすることを内容とする業務委託契約を締結したと主張。一方、被告は、過少申告加算税を減免できないかということを相談したに過ぎないと主張。被告は、原告に対して、再調査請求書の提出を依頼しているが、これは、被告が代表取締役を務める会社と原告、被告個人と原告との間でそれぞれ締結した顧問契約の業務内容(所得税等に関する相談対応等)の範囲内の業務であるとした。
誤った内容であれば税務署の更正は当然
原告は、被告を代理して税務署に再調査請求を申し立てた以外にも、元国税職員の税理士の協力を得て、税務署に対して折衝や説得などの働きかけを行い、これによって、税務当局はこれまでの実務運用を実質的に覆し、本来却下される可能性が高い再調査請求を需要させたと主張したが(表参照)、裁判所は、原告が元国税職員等に依頼するなどして、税務署への折衝等を行っていたことは認められるが、法律上の不服申立手続を超えて税務署に働きかける行為も、税務署がそのような働きかけに応じる行為も不適切というべきであり、原告がそのような働きかけを行ったとしても、その内容を報酬対象業務と評価することはできないと指摘。税理士業務要覧にも、不服申立ての代理業務を行った場合、税額の減免額によって報酬が定まるものではない上、そもそも税理士報酬規定では、いわゆる成功報酬的な要素を一切排除している旨の記載があることからも明らかであるとした。
【表】当事者の主な主張
原告(税理士) | 被告(クライアント) |
業務委託契約締結後、元国税職員である税理士などの協力を得た上で、税務当局と粘り強く折衝を重ねた。その結果、原告は、平成26年分及び平成27年分の確定申告における先物取引等に係る損失額の記載漏れによって租税特別措置法が定める先物取引等に係る損失額の繰越控除の適用を受けられなくなるとの税務当局の解釈及び運用が誤っていることについて、税務当局を説得し、これまでの実務運用を実質的に覆した。被告は税額について合計9,387万6,800円もの減免を受けたのであるから、本件変更決定は業務委託契約に基づく業務の遂行による。 | 被告は、更正通知書を受領し、税務署から再調査請求の取下げを求められたことから、確認のため、原告と共に税務署担当者と直接面談した。担当者からは、減額更正した理由について、税務署が間違っていたので更正した旨、誰が来ても結論は変わらない旨の説明を受けたことから、再調査請求を取り下げ、その後、追加納税していた本税分の還付を受けた。更正通知書には減額更正した理由の記載はないが、参考判決との差異を検討して、減額更正をしたものと推測される。 |
また、税務署の更正通知の内容は、繰越控除の適用を受けるつもりがありながら、損失額を記載せず、これに係る資料を添付せず、翌年以降も失念した状態で確定申告を繰り返したときは、その後の更正を一切認めないという明らかに誤った内容であり、裁判所は、その点を指摘する再調査請求がなされたときは税務署が更正することになるのは当然といえるとした。その上で原告の行った業務の相当報酬額は、再調査請求に係る手続の代理業務は5万円、再調査請求に係る書類の作成は5,000円が相当な報酬というべきであると判断した。
先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除をめぐる参考判決
本件では、税務署が「その後に連続して確定申告書を提出した」要件を満たしていないことなどを理由に更正の請求を認めない通知をしているが、この点に関して税務署は、被告に対して、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除に関する参考判決があると述べている。この参考判決とは、確定申告書が連年提出されていない場合には、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除は認められないとした東京高裁判決だ(平成30年3月8日判決、平成29年(行コ)344号)。
この参考判決は、FX取引等を行っていた原告(控訴人)が、平成25年分確定申告書等を提出し、その後、修正申告書を提出し、平成24年分期限後申告書等を提出するとともに、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除が適用されるものとして、FX取引等に関し平成23年中に生じた先物取引の繰越損失額を平成25年分の先物取引に係る雑所得の金額から控除して計算した更正の請求書を提出したが、税務署長は特例を適用することはできないとして更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったというもの。東京高裁は、特例を受けるためには、特例の適用を受ける年分の確定申告書を提出するまでに確定申告書の連年提出の要件が充足されていることが必要であるとし、納税者の請求を棄却している。
税理士法人社員は債務消滅の抗弁をもって原告に対抗
2件目に紹介するのは、税理士法人の元従業員(原告)が未払賃金200万円の債権があるとして、同法人の代表社員であった被告らを訴えた事件である(令和4年1月31日、令和2年(ワ)第19102号)。
原告の元従業員は、税理士法人(訴外法人)を相手に未払賃金の支払を求める訴えを提起し、①訴外法人は、原告に対し、未払賃金として250万円の支払義務があることを認める、②訴外法人は、原告に対し、①の金員のうち50万円を平成30年8月31日限り支払う、③訴外法人が②の金員を支払った時は、原告は、訴外法人に対し、残金200万円の支払義務を免除する。ただし、免除の効力は、訴外法人に対してのみ及ぶものとする−−などの裁判上の和解を行っており、訴外法人は②の期限までに50万円を支払っている。なお、訴外法人については平成30年6月30日に解散している。
原告は、被告らは、税理士法48条の21第1項において準用する会社法580条1項各号に基づき、連帯して訴外法人の債務を弁済する責任を負うとし、訴外法人の残債務である未払賃金200万円を支払うべきと主張した。和解における免除条項の効力は、ただし書きにより被告らには及ばないとしている。
裁判所は、原告と訴外法人との間で、別件和解の成立により、訴外法人の原告に対する未払賃金250万円の支払債務の存在が確定したが、その後支払期限内に50万円の弁済があったため、免除条項の効力によって、残余の200万円の支払債務が消滅したことが認められると指摘。その上で、税理士法48条の21第1項において準用する会社法581条1項によれば、社員が税理士法人の債務を弁済する責任を負う場合には、社員は、税理士法人が主張することができる抗弁をもって税理士法人の債権者に対抗できるとされていることから、裁判所は、被告らは債務消滅の抗弁をもって原告に対抗ができ、これにより原告による未払賃200万円の支払請求を拒むことができるとし、原告の請求を棄却した。
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