解説記事2022年09月19日 巻頭特集 経産省・R5税制改正要望“深読み” 第一弾(2022年9月19日号・№947)
巻頭特集
CFCの事務負担軽減、研究開発税制のインセンティブ強化、持分残すスピンオフ等
経産省・R5税制改正要望“深読み” 第一弾
今年も各省庁の税制改正要望が出揃ったが、その中でも企業にとって最も関心が高いのは経済産業省の要望だろう。同省の令和5年度税制改正要望には、法人向けのみならず、個人に関係するものも含まれており、いずれも実現すればインパクトが大きい粒ぞろいのラインナップとなっている。
2回にわたりお届けする本特集の第一弾では、経産省の令和5年度税制改正要望の中から、特に12月決算の外国関係会社を持つ3月決算の親法人から強い要望が出ている合算時期の見直しを含む外国子会社合算税制の事務負担軽減、研究開発税制における「サービス開発の要件の見直し」「一般型のインセンティブ強化」、令和4年度税制改正要望にも盛り込まれていた「一部持分を残したスピンオフ」などについてお伝えする。
※第二弾は次号に掲載予定
外国子会社合算税制
経産省、物流統括会社特例の要件の見直しを例示
経済産業省の令和5年度税制改正要望のテーマの一つとなった外国子会社合算税制について、財務省のWEBサイトに掲載された詳細版を見ると、下掲のような記述がある。
既存の外国子会社合算税制について、グローバル最低税率課税の導入に伴い新たに必要となる実務対応や現行制度に関する課題を踏まえて見直しを行うことで、企業の事務負担を軽減する。見直しを行う場合には、判定の対象となる外国関係会社の絞り込み、経済活動基準の見直し、最低税率課税制度の実務の利活用、外国子会社合算税制における手続き期間の見直しなどについて見直しの検討対象とする。 |
下記の記述から、改正の方向性についていくつかのことが読み取れる。1つは、今回の見直しの焦点は税負担の軽減(=過剰合算の解消)ではなく、あくまでも「事務負担」の軽減にあるということだ(本誌930号4頁〜参照)。このため、現行の部分合算に係る課題、例えば、異常所得は過剰合算であるといった指摘、あるいは合算対象外となるデリバティブ損益の範囲が狭いといった指摘が正面から取り上げられる可能性は低い。
もっとも、要望には「経済活動基準の見直し」との文言も含まれることから、過剰合算の解消に係る論点を議論しないわけではない。経済産業省税制改正要望(パワーポイント版)を見ると、物流統括会社特例の要件の見直しが例示されている(図1参照)。
企業からは、非関連者基準において物流統括会社に係る被統括会社は関連者から除かれるところ(措令39の14の3)、物流統括会社による被統括会社の株式保有については、直接保有だけではなく間接保有もカウントすべきであるといった要望や、物流統括会社が株式を保有しないその兄弟会社も非関連者に含めるべきであるといった要望が上がっている(措令39の14の3⑱)。関連者間取引は現地の移転価格税制の規律に服している以上、外国子会社合算税制で殊更に関連者の範囲を厳格に画するべきではないということだ。
売上や利益のデミニマス基準、合算時期の後ろ倒しなどを要望
企業にとっての本丸は「判定の対象となる外国関係会社の絞り込み」であろう。ただし、企業のニーズが高い租税負担割合30%基準の廃止が受け入れられる可能性はほとんどない。平成29年度税制改正で30%基準を導入した趣旨は、租税負担割合20〜30%におけるペーパーカンパニーを捕捉するためであり、税制当局としては、BEPSプロジェクトの精神を後退させるわけにはいかないからだ。
そこで、外国関係会社の売上や利益額に着目した一定のデミニマス基準を設け、それを下回るものについては判定を免除してはどうかとの案も浮上しているが、現状、外国子会社合算税制はデジタル課税・第2の柱の適用対象となる企業以外の企業、すなわち中堅・中小企業にも適用されるため、一律に緩めることができるかどうかは未知数だ。今後、経産省と税制当局の双方にとって受け入れ可能な簡素化の指標を検討していくことになる。
「最低税率課税制度の実務の利活用」とあるのは、第2の柱のETR(実効税率)計算の分母・分子で、外国子会社合算税制の租税負担割合の分母・分子に流用できるものがあれば、外国子会社合算税制の簡素化に資するのではないかとの発想に基づくものである。ただし、第2の柱では例えば税効果会計(のようなもの)を活用するところ、それを外国子会社合算税制にそのまま移植した場合、それが企業にとってメリットになるかどうかは現時点では定かではないため、分母・分子のアイテムを一つ一つ検証していくことになりそうだ。
「外国子会社合算税制における手続き期間の見直し」とあるのは、合算時期の後ろ倒しを含む要望だ(本誌930号4頁〜参照)。特に12月決算の外国関係会社については、直後に到来する3月決算親法人の3月期の法人税申告に関連データを取り込む必要があるため、企業から合算時期の見直しを求める声が上がっているだけに、令和5年度税制改正で本要望が実現するか、注目される(図2参照)。
研究開発税制
情報収集機能の自動化など「サービス開発」の要件緩和検討
研究開発税制が製造業を偏重しているとの指摘を受け、平成29年度税制改正では、同税制の適用のすそ野を広げるべく、「サービス開発」が適用対象に追加されたところだ。具体的には、「対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究」であって、①ビッグデータの収集、②ビッグデータの分析、③サービスの設計、④サービスの確認、の4要件を満たすものが、税額控除の対象となる試験研究費の額となる(措法42の4⑲一イ(2)、措令27の4⑥)。
この新たな研究開発税制は、導入後、金融業をはじめ非製造業で適用に向けた動きがある一方、新たな課題も見えてきた。
例えば、ビッグデータの収集要件では、「大量の情報を収集する機能を有し、その機能の全部若しくは主要な部分が自動化されている機器若しくは技術を用いる」必要があるとされているところ(措令27の4⑥一)、企業が顧客に行ったアンケート等は一部手作業であり「自動化」されていないことから、要件を満たさないのではないかと適用をためらう声もある。
また、上記4要件は、すべて自社で行うのではなく外部に委託することも可能とされているが(措置法通達42の4(1)−6)、4要件の工程を複数の会社で委託をすることなく分かち合う場合にはサービス開発の適用ができない。委託とそうでない場合にこのような差があるのは合理的か、といった指摘もある。
経産省が令和5年度税制改正要望の中で提案した研究開発税制の「サービス開発の要件の見直し」においては、こうした論点を含め、サービス開発の使い勝手向上に向けた議論が行われることになろう。
一般型研究開発税制はさらなるインセンティブ強化へ
財務省のWEBサイトに掲載された税制改正要望の詳細版には、「我が国の民間企業は、国全体の研究開発投資総額の約7割を担っており、イノベーション創出にあたって中核的な機能を果たしている」「リーマンショック後、足許における主要国の研究開発投資伸び率を比較すると、我が国の伸び率は他国と比較して最も低く、大きな危機感を持たざるを得ない状況」との記述がある。これらの記述からは、経産省の意向が「民間の試験研究費の増加」にあることは明らかだ。
研究開発税制の中核部分である一般型は、平成29年度税制改正で増減試験研究費割合に応じて控除率が変動する仕組みに改組された。この改正には、企業が試験研究費を増やすことへの期待が込められている。その後の平成31年度改正(令和元年度改正)では、控除率の傾斜を急にし、同割合が0〜8%の間の控除率を拡充する一方、同割合が0%〜−25%の間については控除率を縮減した。さらに令和3年度税制改正では、控除率の傾斜の「屈折点」を同割合8%から9.4%に移動するとともに、同割合が9.4%以上のレンジでは傾斜を急にし、増加インセンティブを拡充する一方、それまでの最低保証控除率6%を縮減し、同割合が−37%以下の場合の控除率は2%となった(図3参照)。
経産省の令和5年度税制改正要望にも「インセンティブの強化」とあることから、増減試験研究費割合が高いレンジの企業はさらに控除率が増す可能性がある一方、同割合が減少した企業については、控除率がさらに切り刻まれる可能性がある。
増減試験研究費割合0%の場合の「控除率8.5%」の縮減は避けたい企業
企業からすると、インセンティブ強化(=控除率カーブの再設定)は、研究開発税制が政策税制である以上「理解」はできるものの、ドラスティックな見直しは避けて欲しいところ。特に増減試験研究費割合が0%の場合の「控除率8.5%」は、平成29年度税制改正以降、いわば座標の原点として不動であり、この縮減はあってはならないとの声は強い。また、法人税額の控除上限の天井に達している企業からは、控除率の傾斜を急にしたところで、最終的に控除できる金額に変動はないことから、むしろ法人税額の控除上限を拡充して欲しいとの要望も出ている。
このほか、平成3年度改正では、いわゆるコロナ特例として、売上が2%減少しても試験研究費が増加している場合には控除上限が5%上乗せされる特例が設けられたが、本特例が期限切れを迎えるため、令和5年度改正で取り扱いを決める必要がある。経産省の税制改正要望には特段の記述が見当たらないが、コロナ特例の改組・延長も「インセンティブ措置」の一環として、一応は念頭におかれている模様。ただし、2年前とはコロナの状況はだいぶ異なり、また、財政も厳しい中で、延長が実現するかどうかは不透明と言えそうだ。
スピンオフ税制
一部持分を残すスピンオフ、「移転資産への支配の継続」が焦点に
経産省は令和4年度税制改正要望でもスピンオフ税制の拡充を掲げ、「段階的に子会社を切り出そうとする企業などが活用できるよう、一部持分を残したスピンオフや完全子会社以外のスピンオフについても円滑な実施を可能とするための税制措置を講ずる」ことを求めていたところだ。
再編オプションが増えることは企業サイドにとっては歓迎すべきことであるものの、これらを現行の組織再編税制に組み込めるのかという理論面での課題があった(本誌899号参照)。すなわち、平成13年度税制改正における創設以来、組織再編税制は譲渡損益の繰延べを「移転資産への支配の継続」を前提に認めることを基本理念としてきたが、「一部持分を残したスピンオフ」や「完全子会社以外のスピンオフ」においてこの基本理念を観念できるのか、ということだ。
平成29年度改正でスピンオフ税制が創設された際にも、「税制改正の解説」では、経済実体として一の法人(親会社と100%子会社)が単に二つに分かれるが故に移転資産への支配が継続しているとみなせる旨の説明がなされている。
「完全子会社以外のスピンオフ」は令和4年度税制改正で断念
結果として、「完全子会社以外のスピンオフ」は令和4年度税制改正の過程で導入を断念することになった。完全子会社以外のスピンオフでは、上場子会社の切り離しなどが想定されているが、親子関係があるとはいえ、少数株主の存在等を踏まえれば、「経済実体として一の法人」とは言えないことから、組織再編税制に組み込むことは難しいからだ。
この判断を受け、昨年末の自民党税調における議論では、経産省要望が自民党経済産業部会要望に組み換えられる中で、前者の「一部持分を残したスピンオフ」だけが改正アイテムとして残ることとなり、昨年12月2日のいわゆるマルバツ審議では△(長期検討とする)に振り分けられた。自民党税調における△には、「文字通り長期検討するもの(=やる気はないが、検討するという姿勢だけは見せるもの)」「長期検討とは表示したが、要望側・査定側で折り合えば、議論が進むこともあり得るもの」など様々なニュアンスがあるが、スピンオフ税制における△は、希望がないわけではないという意味での△と言える。税制当局は、令和4年度改正での結論は時期尚早としていたものの、「経済実体として一の法人」である完全子会社に係る「一部持分を残したスピンオフ」については、引き続き議論に応じる可能性がありそうだ(図4・5参照)。
例えば、保有株式の大部分をスピンオフにより切り離して、極めて低い持分割合に至った場合、子会社はほぼ独立したといってもよく、譲渡損益の繰延を認めても問題ないのではないかといった意見も聞かれる。ただ、その先のステップとして、残余の株式も段階的に切り離し、最終的に持分を完全に手放すことを条件とするのか、あるいは、残余の株式を保有し続けても構わないこととするのかなど、議論すべき論点は多い。令和5年度税制改正での決着は現段階ではまったく保証されていないが、理論面も含め、特に組織再編税制の専門家にとっては興味深い議論が行われることになりそうだ。(次号に続く)
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.