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解説記事2022年09月19日 未公開裁決事例紹介 簿外経費を巡る裁決で納税者の請求が棄却(2022年9月19日号・№947)

未公開裁決事例紹介
簿外経費を巡る裁決で納税者の請求が棄却
審判所、提出書類からは支出内容が不明


○請求人が算入漏れと主張する支出が必要経費に算入できるか争われた裁決。国税不服審判所は、当該支出は具体的な金額及び支出の内容が明らかではなく、また、請求人の事業と直接の関連性を持ち、業務の遂行上必要な支出であることも明らかではないとして請求人の請求を棄却した(熊裁(所)令3第2号、棄却)。(本誌944号4頁参照)

主  文

 審査請求を棄却する。

基礎事実等

(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税及び復興特別所得税の確定申告をした後、事業所得に係る必要経費の算入漏れがあり、所得金額が過大であったとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、請求人の提出した書類では、必要経費の支出事実及び内容が明らかではなく、所得金額が過大であったと認めることはできないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令(略)
(3)基礎事実及び審査請求に至る経緯

 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、××××××××××において「×××××」の屋号で循環器内科(以下「本件事業」という。)を営む医師である。
ロ 請求人は、原処分庁に対し、平成26年分の所得税及び復興特別所得税について、別表1(編注:略)の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ハ 請求人は、令和2年4月14日、原処分庁に対し、本件事業に係る事業所得の金額の計算上、必要経費の算入漏れがあったとして、別表1の「更正の請求」欄のとおり記載した更正の請求書(以下「本件更正請求書」という。)を提出した(以下「本件更正請求」という。)。
  なお、本件更正請求書は、令和2年3月6日付国税庁告示第1号「国税通則法施行令第3条第2項の規定に基づき国税庁長官が同項に規定する対象者の範囲及び期日を定める件」において、所得税法その他の所得税に関する法令の規定に基づき税務署長に対して申告、申請、請求、届出その他書類の提出又は納付(その期限が令和2年2月27日から同年4月15日までの間に到来するものに限る。)をすべき個人が行うこれらの行為については、その期限を同年4月16日とする旨の告示により、期限内に提出されたものである。
  また、本件更正請求書には、×××××、××××××××など合計25社のクレジットカードの「利用明細書」の写し及び×××××の「請求書」の写し(以下、これらの書類を併せて「本件添付書類」という。)が添付されていた。
ニ 請求人は、原処分庁所属の調査担当者の求めに応じ、原処分庁に対し、本件更正請求において請求人が必要経費の算入漏れと主張する支出について、次の書類を提出した。
(イ)令和2年7月6日提出
A 別表2(編注:略)のとおり記載した、平成26年分の月別・年間の科目別の支出を集計した書類(以下「本件年間集計表」という。)
  なお、本件年間集計表の注書は、当審判所において追記したものである。
B 別表3−1ないし3−12(編注:略)のとおり記載した、平成26年分の月別の科目別の支出を集計した書類(以下「本件月別集計表」といい、「本件年間集計表」と併せて「本件各集計表」という。)
  なお、本件月別集計表の「科目の合計」欄及び注書は、当審判所において追記したものである。
(ロ)令和2年8月24日提出
A 別表4−1ないし4−6(編注:略)のとおり記載した、「審査請求人が必要経費の算入(計上)漏れであると主張する支払(支出)の明細表」と題する書類(以下「本件明細表」という。)
B 各種「請求書」及び「領収証」の写し並びに本件添付書類の写しに×××××の「利用明細書」を加えた合計27社の「利用明細書」等の写し(以下、これらの書類を併せて「本件明細表添付書類」といい、「本件明細表」と併せて「本件明細表等」という。)
C 平成26年分の「月次貸借対照表」及び「月次損益計算書」(以下、これらの書類を併せて「本件損益計算書等」という。)
ホ 原処分庁は、令和2年9月3日付で、本件更正請求に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
へ 請求人は、令和2年12月2日、本件通知処分に不服があるとして、審査請求をした。

争点および主張

 本件更正請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当するか。具体的には、請求人が算入漏れとする支出は、本件事業に係る事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができ、課税標準等又は税額等の計算に誤りがあるか否か。(編注:当事者の主張はのとおり)

【表】当事者の主張

請求人 原処分庁

 次のとおり、本件更正請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当する。
(1)請求人が主張する支出は、本件事業に係る支出であり、事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきである。













(2)請求人が主張する支出については、 請求人が原処分庁に提出した本件各集計表及び本件明細表等により、支出事実及び本件事業に必要な支出であることが証明されており、原処分庁がこれらの書類を精査すれば、必要経費として認められるものがある。
(3)したがって、本件確定申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算に誤りがある。

 次のとおり、本件更正請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。
(1)請求人が提出した本件各集計表及び本件明細表等からは、請求人及び請求人の妻の平成26年中の金銭支出事実を証明する資料であることは認められるものの、本件事業に係る必要経費の算入漏れであると主張する支出が特定されていないほか、これらの資料に記載された支出の全部又は一部について、客観的にその支出が本件事業と直接の関係を有し、業務の遂行上必要なものであることが明らかではない。
  また、請求人は本件確定申告書に係る総勘定元帳を提出しておらず、請求人が提出した本件損益計算書等は、本件確定申告書の基となった帳簿書類と認められるが、科目ごとの必要経費の合計額が記載されているだけで請求人が必要経費の算入漏れであると主張する支出が本件確定申告書において計上されていないことを確認できない。
(2)このため、請求人が提出した書類だけでは本件更正請求書に記載した更正後の課税標準等又は税額等の算出根拠並びに必要経費の支出事実及び内容が明らかにされていない。
(3)したがって、本件確定申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算に誤りがあったとは認められない。

審判所の判断

(1)法令解釈
 所得税法第37条第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しており、ある支出が事業所得における必要経費に該当するためには、それが事業活動と直接の関連性を持ち、業務の遂行上必要な費用であることを要するものと解するのが相当である。そして、業務の遂行上必要であるか否かは、単に事業主の主観的判断によるものではなく、客観的に通常必要な経費として認識できるものでなければならないと解するのが相当である。
(2)検討
イ 本件更正請求書について
 本件更正請求書は、別表1の「更正の請求」欄のとおり、記載がされていない箇所があり、総所得金額から所得税等の納付すべき税額までの計算根拠が不明である。
 そのため、当審判所は、請求人に対し、本件更正請求書の計算根拠などについて回答書の提出を求めるとともに、本件確定申告書の作成の基となった総勘定元帳の提出を求めたが、請求人は、文書によるやりとりには限界がある旨を主張し、いずれも提出しなかった。
ロ 本件各集計表、本件明細表等及び本件損益計算書等について
 本件月別集計表は、その記載された内容からすると、本件明細表添付書類を基に請求人が必要経費の算入漏れであるとする支出を科目・各月ごとに区分して記載したものであり、本件年間集計表は、本件月別集計表を転記し、年間の合計金額を算出したものと推認される。そこで、本件各集計表、本件明細表等及び本件損益計算書等について検討すると、次のとおりである。
(イ)本件各集計表について
A 本件月別集計表は、本件明細表添付書類に記載された、どの支出を何の科目に区分して作成されたのかが明らかではない上、本件月別集計表に記載された金額のうち、3月、4月、7月及び10月の「○消」の科目に記載された金額を合計した金額並びに9月の「○交」及び「○雑」の科目に記載された金額を合計した金額は、本件年間集計表の該当する月に記載された金額と一致しない。
B 本件年間集計表の「○消」及び「○接」の合計金額は、各月に記載された金額の合計と一致していない上、同表の欄外に記載された「○○×12○○○○」について、請求人はその内容を明らかにしていない。
  上記A及びBからすれば、本件各集計表からは、請求人が必要経費の算入漏れを主張する金額及び支出の内容が明らかではない。
(ロ)本件明細表等について
A 別表4−1ないし4−6のとおり、本件明細表は、旅費交通費、接待交際費、消耗品費、管理諸費、車両費、雑費の科目ごとに区分して記載され、それぞれ欄外に合計した金額が記載されているが、本件年間集計表(別表2)に記載された科目のうち、「○通」として表記されている通信費の科目が本件明細表にはない上、本件明細表の各科目の合計した金額と本件年間集計表の各科目の合計金額とが一致していない。
B 本件明細表添付書類のうち、クレジットカード「利用明細書」の写し及び×××××の「請求書」の写しに記載のある各支出については、何を購入したのかが不明な支出や、支出内容が、男児トレーナー、ネックレス、メイク用品、×××××及び××××××××××など、本件事業と直接の関連性や客観的に本件事業に通常必要であると判断できない支出が多く含まれている。
C 本件明細表は、本件明細表添付書類を基に記載されているが、同表の「支払(支出)の具体的内容等」欄には、「ETC」、「病院消+贈」、「車両」及び「〃」等の略語が記載され、また「支払(支出)が必要経費(事業のために直接要した費用等)であるとする理由等」欄には、「クリニック業務(専)」、「クリニック(専)」及び「〃」等の簡易な記載しかされておらず、このような記載のみでは業務に必要であったとする具体的な理由が明らかではなく、本件明細表に記載された支出が、客観的に本件事業に通常必要な支出であると認めるには足りない。
  上記AないしCからすると、本件明細表等からは、請求人が必要経費の算入漏れを主張する金額が明らかではなく、また、本件明細表に記載された各支出の具体的内容や本件事業との直接の関連性及び必要性も明らかではない。
(ハ)本件損益計算書等について
 月次損益計算書は、各月の必要経費の科目ごとの合計金額と1月から各月までの合計金額が記載されているだけで、日々、各科目に算入された支出の内訳は記載されていないため、請求人が事業所得の金額の計算上、どの必要経費の科目にどのような支出を算入したかを確認することはできない。
 また、上記イのとおり、請求人は、本件確定申告書の基となった総勘定元帳を提出していないから、請求人が必要経費に算入漏れと主張する本件各集計表及び本件明細表に記載した支出が、本件確定申告書に記載した事業所得の金額の計算において、必要経費に算入漏れであったかどうかを確認することができない。
ハ 小括
 上記ロのとおり、請求人が、本件更正請求において必要経費の算入漏れと主張する支出は、その具体的な金額及び支出の内容が明らかでなく、また、本件事業と直接の関連性を持ち、業務の遂行上必要な支出であることも明らかではない。更に、そもそも本件確定申告書に記載した事業所得の金額から漏れていたかどうかも不明であることから、本件確定申告書に記載された事業所得の金額の計算上、必要経費の算入漏れがあったかどうかを判断することができない。
 したがって、本件確定申告書記載の事業所得の金額に誤りがあり、納付すべき税額に誤りがあるとは認められないから、本件更正請求は、通則法第23条第1項第1号の規定による更正の請求ができる場合に該当しない。
(3)請求人のその他の主張について
イ 請求人は、原処分庁に対し、請求人が本件更正請求において必要経費の算入漏れと主張する支出について、本件各集計表、本件明細表等などの各書類を提出しているところ、原処分庁は当該提出された書類を精査していないことから、更正の請求に係る課税標準等又は税額等について全く調査を行っていない旨主張する。
  しかしながら、通則法第23条第4項に規定する調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切、すなわち、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て更正をし、又は更正をすべき理由がない旨を請求者に通知するに至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念であると解されている。
  そして、当審判所の調査によれば、原処分庁所属の調査担当者は、本件通知処分を行うまでの間、本件更正請求書の内容を確認するため、請求人に対して、再三再四、更正の請求をする理由の基礎となる事実を証明する書類の提出依頼文書を送付するとともに、請求人から提出された書類についての質問及びその内容の確認等を行ったことが認められる。
  これらの事実は、上記に記載した、原処分に係る課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程であると認められ、原処分庁所属の調査担当者による本件更正請求に係る調査があったというべきであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 請求人は、原処分庁が当審判所に提出した証拠について、「原処分庁の担当者が請求人に説明した」等と記載されていることは全て虚偽であり、原処分庁が証拠を捏造している旨主張する。
  しかしながら、当審判所の調査によっても、原処分庁の提出した証拠に不自然な点は見当たらず、また、請求人は、捏造であると主張する証拠について具体的に示していないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(4)本件通知処分の適法性について
 上記(2)のとおり、本件更正請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。
 なお、本件通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件更正請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。
(5)結論
 よって、審査請求には理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。

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