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解説記事2022年10月10日 特別解説 日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)(その2)(2022年10月10日号・№949)

特別解説
日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)(その2)

はじめに

 前回の後段に引き続き、本稿では、IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容について取り上げることとしたい。IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容のうち、件数が60件以上(調査対象とした企業は245社)のものを一覧にして再度示すと、のとおりである。

 本稿では、の4番目の「退職給付に係る数理計算上の差異の処理方法」以降の項目について触れることとする。
④ 退職給付に係る数理計算上の差異の処理方法
 わが国の「退職給付に関する会計基準」では、数理計算上の差異の当期発生額及び過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用となる。)については、その他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うとされているのに対し(第15項)、IFRSでは、数理計算上の差異についてはその他の包括利益に認識し、その後の期間において純損益に振り替えてはならない(その他の包括利益に認識した金額を資本の中で振り替えることはできる)とされている(IAS第19号「従業員給付」第120項、第122項)。また、過去勤務費用については、制度改訂又は縮小が発生した時、又は関連するリストラクチャリングのコスト又は解雇給付を企業が認識する時のうちのいずれか早い方の日に、費用として認識しなければならないとされている(IAS第19号第103項)。
 この「退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理」も、のれんの償却と同様に、実務対応報告第18号において、「在外子会社等において、退職給付会計における数理計算上の差異(再測定)をその他の包括利益で認識し、その後費用処理を行わない場合には、連結決算手続上、当該金額を平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理する方法(発生した期に全額を処理する方法を継続して採用することも含む。)により、当期の損益とするよう修正する」とされている。

【開示例】 CLホールディングス(2022年12月期第一四半期)
 数理計算上の差異及び過去勤務費用について、日本基準では発生時にその他の包括利益として認識し、発生時における従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数により費用処理していますが、IFRSでは、数理計算上の差異は、発生時にその他の包括利益として認識し、直ちに利益剰余金へ振り替え、過去勤務費用は発生時の純損益として認識しております。

⑤ 非上場株式の公正価値評価
 日本基準では、いわゆる非上場株式については公正価値による評価を行わず、取得原価で評価するが、IFRS(IFRS第9号「金融商品」)では、非上場株式を含む資本性金融商品は公正価値評価の対象とされる。

【開示例】ペプチドリーム(2022年12月期第一四半期)
 非上場株式について、日本基準では取得原価を基礎として計上し、発行会社の財政状態の悪化に応じて減損処理を行っておりましたが、IFRSではその他の包括利益を通じて公正価値で測定しております。

⑥ 収益認識基準の変更
 わが国では、これまでは、企業会計原則・損益計算書原則三Bの、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」という、いわゆる「実現主義」の記述をよりどころに、この解釈によって実務が行われてきたものと思われる(なお、2022年3月期からは、IFRS第15号の定めを取り入れた収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)及び同適用指針が適用されている。)。これに対してIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」では、企業が収益の認識を、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように行わなければならないとされており、企業は、約束した財又はサービス(すなわち、資産)を顧客に移転することによって企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)、収益を認識しなければならない。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時(又は獲得するにつれて)であるとされている(第31項)。これにより、日本基準とIFRSとの間で収益認識のタイミングに差異が生じることになる。本稿では、事例を5件紹介する。

【開示例①】愛知製鋼(2022年3月期)
① 顧客に支払うリベートについて、日本基準では販売費及び一般管理費に計上しておりましたが、IFRSでは売上収益から控除する方法に変更しております。
② 日本国内向けの販売において、日本基準では出荷時点で収益を認識しておりましたが、IFRSでは検収時点で収益を認識する方法に変更しております。
③ 有償支給取引において、日本基準では有償支給した支給品について消滅を認識しておりましたが、IFRSでは支給品を買い戻す義務を負っている場合、当該支給品の消滅を認識しない方法に変更しております。
④ 有償受給取引において、日本基準では有償支給元への売戻し時に売上高と売上原価を計上しておりましたが、IFRSでは加工代相当額のみを純額で収益として認識する方法に変更しております。

 

【開示例②】資生堂(2021年12月期第一四半期)
 商品の販売に応じて顧客に提供したポイントについて、日本基準では、販売時に収益を全額計上し、将来顧客が行使することが見込まれる額を引当金として計上していましたが、IFRSでは、販売時に将来顧客が行使することが見込まれるポイントに配分された取引価格を「その他の流動負債」として計上し、ポイントの使用に応じて収益を認識しています。

 

【開示例③】日本ユニシス(社名変更後:BIPROGY)(2022年3月期)
 日本基準では出荷基準により売上収益を認識していた一部の取引について、IFRSでは顧客への引渡し時点で収益を認識しております。また、日本基準では月額等により一定期間に渡り収益を認識していた一部の取引について、IFRSでは一時点で売上収益を認識しております。加えて、日本基準では検収基準により売上収益を認識していた一部の取引について、完成までに要する総原価を合理的に測定できない場合は、発生した原価のうち回収されることが見込まれる費用と同額を収益として認識しております(原価回収基準)。

 

【開示例④】三井海洋開発(2021年12月期)
 長期の工事契約に関して、日本基準では、工事進行基準における進捗率の算定に出来高基準を採用した契約について、IFRSでは進捗率の算定方法を原価比例法に変更しております。

 

【開示例⑤】リログループ(2022年3月期)
 日本基準では販売基準により収益を認識していたポイント制タイムシェアリゾートの会員権販売取引について、IFRSでは履行義務を充足するにつれて収益を認識するため、当該取引にかかる契約負債を計上しております。

⑦ 繰延税金資産の回収可能性の再検討
 わが国においては、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に規定される会社分類に基づき繰延税金資産を認識しているが、IFRSでは、繰延税金資産は、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で、すべての将来減算一時差異について認識しなければならないとされているため(IAS第12号「法人所得税」第24項)、IFRS適用にあたって差異が生じることになる。

【開示例】オロ(2021年12月期)
 IFRSの適用に伴い、全ての繰延税金資産の回収可能性を再検討しております。

⑧ 減価償却方法の変更
 日本の会計基準を適用する日本企業の場合、有形固定資産の減価償却方法については建物の一部等を除いて定率法を適用していることが多く、耐用年数や残存価額は法人税法の定める耐用年数表等に基づいて決定している場合が大半であると思われる。これに対してIFRSでは、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益を企業が消費すると予想されるパターンを反映するものでなければならないとされており(IAS第16号「有形固定資産」第60項)、欧州企業等での実務上は、定額法を適用している事例が圧倒的に多い。IFRS任意適用日本企業の場合には、IFRSを適用後も、連結財務諸表では定額法を採用するものの、個別財務諸表上は会計方針の変更は行わずに定率法のまま、という事例も多い。また、IFRS上耐用年数は、資産が企業によって利用可能であると見込まれる期間をいうとされており(IAS第16号第6項)、有形固定資産の耐用年数や残存価額は、事業年度末ごとに再検討することが求められている(IAS第16号第51項)。このため、IFRSを任意適用するにあたり、日本企業が減価償却方法や耐用年数、残存価額の見直しを行う例が少なくない。

【開示例】レカム(2021年9月期)
 IFRSの適用にあたり減価償却方法を定率法から定額法に変更しており、有形固定資産の帳簿価額が増加しております。

⑨ 使用権資産とリース負債を計上
 2019年12月期から強制適用が開始されたIFRS第16号「リース」は、リースの開始日において、ファイナンス・リースやオペレーティング・リースの区分を問わず、リース資産の借手に対して使用権資産とリース負債とを認識することを求めている(第22項)。使用権資産は取得原価で測定され、次のものから構成される(第23項、第24項)。
(a)リース負債の当初測定の金額
(b)開始日以前に支払ったリース料から受け取ったリース・インセンティブを控除したもの
(c)借手に発生した当初直接コスト
(d)リースの契約条件で要求されている原資産の解体及び除去、原資産の敷地の原状回復又は原資産の原状回復の際に借手に生じるコストの見積り。
 また、リースの借手は、開始日において、リース負債を同日現在で支払われていないリース料の現在価値で測定しなければならないとされている(第26項)。
 わが国の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」及び同適用指針では、所有権が移転されるファイナンス・リース取引を除くリース取引(所有権移転外ファイナンス・リース及びオペレーティング・リース)の借手については賃借料等を費用処理するとされており、使用権資産やリース負債を計上することは求められていない。また、我が国の会計基準とIFRS第16号との間には、使用権資産やリース負債の認識のほかに、リース契約に該当するかどうかの判断等についても相違点が存在する。
 なお、2022年6月16日付で企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」によると、リースに関する会計基準については、日本基準を国際的に整合性のあるものとする取組みの一環として、すべてのリースについて資産及び負債を認識するリースに関する会計基準の開発に向けて、国際的な会計基準を踏まえた検討が行われている。合わせて、リースの貸手の収益認識に関する会計処理(リース業における割賦販売取引の会計処理を含む。)について検討することを予定しているとされている。2019年3月に、すべてのリースについて資産及び負債を認識するリースに関する会計基準の開発に着手することが決定され、これまでに関連する業界団体から意見聴取を行った後、各論点について検討を行い、公開草案の公表に向け審議を進めている、とされている。

【開示例】荏原製作所(2021年12月期)
 日本基準では借手としてのリースについてファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、オペレーティング・リースについては通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行っていました。IFRSでは借手としてのリースについては当該分類を行わず、短期リース及び原資産が少額であるリースを除くすべてのリースについて、「有形固定資産」に含まれている使用権資産並びに流動負債及び非流動負債の「社債、借入金及びリース負債」を認識しています。

⑩ 資本性金融商品の売却損益等のノンリサイクリング処理
 日本基準では、資本性金融商品(株式)の売却損益は、投資有価証券売却損益等として営業外損益、最終的には当期の損益に含めて処理するが、IFRSでは、IFRS第9号「金融商品」の5.7.5項は、売買目的保有でない資本性金融商品への投資の公正価値の変動を、その他の包括利益(OCI)に表示するという取消不能な選択を行うことを企業に認めている。この選択は、金融商品ごと(すなわち株式ごと)に行われるが、その他の包括利益に表示された金額を事後的に純損益に振り替えてはならない(リサイクリングをすることができない)とされていることから(IFRS第9号「金融商品」B5.7.1)、日本基準とIFRSとの間で差異が生じることになる。
 なお、この項目は、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」において、「資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整」については、「在外子会社等において、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合には、当該資本性金融商品の売却を行ったときに、連結決算手続上、取得原価と売却価額との差額を当期の損益として計上するよう修正する。また、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の定め又は国際会計基準第39号「金融商品:認識及び測定」の定めに従って減損処理の検討を行い、減損処理が必要と判断される場合には、連結決算手続上、評価差額を当期の損失として計上するよう修正する。」こととされている。

【開示例】日本新薬(2022年3月期)
 日本基準では、資本性金融商品の売却損益及び減損損失を純損益に認識しておりますが、IFRSでは、資本性金融商品への投資をその他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産に指定し、公正価値の変動額及び売却損益はその他の包括利益に認識したうえで、当該投資の認識を中止した時点で、累積利得又は損失を、「その他の資本の構成要素」から「利益剰余金」に振り替えております。

終わりに

 我が国の企業に対してIFRSの任意適用が認められてからすでに10年が経過し、その間、我が国の会計基準とIFRSとの間の収斂(コンバージェンス)を図る作業は着実に進展してきた。そして、2022年3月期からは、いよいよIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を下敷きとして開発された「収益認識に関する会計基準」及び同適用指針の強制適用が開始された。企業会計基準委員会(ASBJ)においては、IFRS第9号「金融商品」の内容を織り込んだ金融商品に関する会計基準やIFRS第16号「リース」の内容を織り込んだリースに関する会計基準を策定するための審議が続けられている。
 しかしながら、のれんやリサイクリング(金融商品、退職給付等)、開発費の資産化といった、IFRSと我が国の会計基準との間の差異が残っている項目はまだまだ多い。そして、賦課金やリース(使用権資産とリース負債の計上)など、IFRSの新たな会計基準や解釈指針も続々と開発・適用開始されている。本稿で取り上げた、IFRSを初度適用する会社が作成する差異調整表上に開示される項目は、少しずつ顔ぶれが変わりながらも、今後もずっと残っていくことであろう。

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