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解説記事2022年10月31日 税務マエストロ 新旧3年縛りの関係(2022年10月31日号・№952)

税務マエストロ
新旧3年縛りの関係
#279
 税理士 熊王征秀

マエストロの解説

 調整対象固定資産(一取引単位につき、税抜の取得金額が100万円以上の固定資産)あるいは高額特定資産(棚卸資産又は調整対象固定資産で、一取引単位につき、税抜の取得金額が1,000万円以上の資産)を取得した場合には、3年間は免税事業者となることができず、また、簡易課税制度の適用も禁止するというルールがある。今回は、平成22年度改正法により創設された旧3年縛りと平成28年度改正法により創設(補強)された新3年縛りの関係を検証する。

1 「3年縛り」の狙いとは?

 「3年縛り」の狙いとするところは、物件の取得時に還付を受けた消費税相当額について、課税売上割合が著しく減少した場合の税額調整の規定を強制適用させることにより、これを3年目において取り戻し課税するものである。

※税額調整の要件……下記①〜③のいずれの要件も満たすこと(消法33、消令53)

① 調整対象固定資産を第3年度の課税期間末に保有していること
② 仕入れ等の課税期間において、比例配分法により調整対象固定資産に係る仕入控除税額を計算していること

③ 変動率が50%以上であり、かつ、変動差が5%以上であること

2 高額特定資産を取得した場合の特例制度とは?

 本則課税の適用期間中に高額特定資産を取得した場合には、たとえ平成22年度改正法の適用を受けない場合であっても、いわゆる「3年縛り」が強制されることになる。

 高額特定資産を取得したことにより本則課税が強制適用となる課税期間中において、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合には、「高額特定資産の取得に係る課税事業者である旨の届出書」の提出が義務付けられている。ただし、「課税事業者選択届出書」を提出している事業者は、たとえ基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合であっても、この届出書を提出する必要はない(消法9⑦、12の2②、12の3③、12の4、37③、57①二の二)。

〔具体例1〕1年決算法人が高額特定資産を取得するケース

 12月決算法人がx1年1月1日〜x1年12月31日課税期間中に高額特定資産を取得した場合には、その翌課税期間(x2年1月1日〜x2年12月31日)から高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間(x1年1月1日〜x1年12月31日)の初日以後3年を経過する日(x3年12月31日)の属する課税期間(x3年1月1日〜x3年12月31日)まで、本則課税が強制適用されることになる。

〔具体例2〕決算期を変更するケース

 12月決算法人がx1年1月1日〜x1年12月31日課税期間中に高額特定資産を取得し、その翌課税期間において6月決算に事業年度を変更した場合には、高額特定資産を取得した課税期間の翌課税期間(x2年1月1日〜x2年6月30日)から高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間(x1年1月1日〜x1年12月31日)の初日以後3年を経過する日(x3年12月31日)の属する課税期間(x3年7月1日〜x4年6月30日)まで、本則課税が強制適用されることになる。

〔具体例3〕高額特定資産を自己建設するケース
 高額特定資産を自己建設する場合には、原材料費、経費などの課税仕入れの累計額が1,000万円以上となった課税期間において、その「自己建設高額特定資産」を仕入れたものとする。この場合においては、自己建設高額特定資産を仕入れた課税期間の翌課税期間から、自己建設高額特定資産が完成した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで、本則課税が強制適用となる。

 12月決算法人がx1年1月1日〜x1年12月31日課税期間から高額特定資産の建築を開始し、x4年に物件が完成した場合には、課税仕入れの累計額が1,000万円に達したx2年1月1日〜x2年12月31日課税期間の翌課税期間(x3年1月1日〜x3年12月31日)から高額特定資産の完成日の属する課税期間(x4年1月1日〜x4年12月31日)の初日以後3年を経過する日(x6年12月31日)の属する課税期間(x6年1月1日〜x6年12月31日)まで、本則課税が強制適用されることになる。

〔具体例4〕高額特定資産の建設中に簡易課税適用期間があるケース
 高額特定資産を自己建設する場合には、原材料費、経費などの課税仕入れの累計額が1,000万円以上となった課税期間において、その「自己建設高額特定資産」を仕入れたものとする。ただし、自己建設期間中に免税事業者であった期間や簡易課税適用期間が含まれている場合には、これらの期間中に行った課税仕入れは上記の累計額にはカウントしないこととされている。

 12月決算法人がx1年1月1日〜x1年12月31日課税期間から高額特定資産の建築を開始し、x4年に物件が完成した場合には、課税仕入れの累計額が1,000万円に達したx3年1月1日〜x3年12月31日課税期間の翌課税期間(x4年1月1日〜x4年12月31日)から高額特定資産の完成日の属する課税期間(x4年1月1日〜x4年12月31日)の初日以後3年を経過する日(x6年12月31日)の属する課税期間(x6年1月1日〜x6年12月31日)まで、本則課税が強制適用されることになる。
(注)x2年1月1日〜x2年12月31日課税期間中は簡易課税により申告している。

〔具体例5〕簡易課税制度の適用制限がないケース
 本則課税の適用期間中に高額特定資産を取得した場合には、高額特定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの間は「簡易課税制度選択届出書」を提出することができない(消法37③)。つまり、「簡易課税制度選択届出書」の提出時期に制限を設けることによって、本則課税による「3年縛り」をしているということである。
 また、「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合であっても、基準期間における課税売上高が5,000万円を超える場合には、簡易課税により計算することはできない。
 したがって、事前に「簡易課税制度選択届出書」を提出している事業者の基準期間における課税売上高が5,000万円を超えたことにより本則課税が適用され、たまたまこの課税期間中に高額特定資産を取得したようなケースでは、簡易課税制度の適用制限はされないこととなる。

3 22年度改正法と28年度改正法(高額特定資産の特例)との関係

 22年度改正法は、「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者となるケースであれば強制適用期間中、新設法人(特定新規設立法人)のケースであれば基準期間がない事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合でなければ適用できない。また、取得資産が棚卸資産であれば、どんなに高額な資産であっても22年度改正法は適用できないという問題点があった。
 結果、抜け穴だらけの22年度改正法の隙間をつくように、次の①〜④のような節税スキームが横行したことが、28年度改正に繋がったものと思われる。

① 建物などの高額な棚卸資産を取得し、本則課税により消費税の還付を受けた期の翌期に資産を売却し、簡易課税制度の適用を受けるような事例
② 課税事業者の強制適用期間を経過してから調整対象固定資産を取得することにより、その翌期は免税事業者や簡易課税適用事業者となるような事例
③ 資本金1,000万円以上の法人を設立し、基準期間がない事業年度を経過してから調整対象固定資産を取得することにより、その翌期は免税事業者や簡易課税適用事業者となるような事例
④ 特定期間中の課税売上高と給与等の支払額のいずれかが1,000万円を超える場合には、課税事業者を選択せずとも課税事業者となることができる。
  結果、課税事業者届出書(特定期間用)を提出して課税事業者となり、調整対象固定資産を取得しても、いわゆる「3年縛り」の規定は適用されないため、その翌期は免税事業者や簡易課税適用事業者となるような事例

〔具体例1〕棚卸資産を取得するケース
(22年度改正法の取扱い)

 課税選択をした個人事業者(不動産業者)が販売用建物を取得し、その翌年においてこれを販売する場合には、建物の取得価額が1,000万円未満であれば、建物を取得した年は本則課税、売却した年は簡易課税により申告することができる。

(28年度改正法の取扱い)

 課税選択をした個人事業者(不動産業者)が、1,000万円以上の棚卸資産(高額特定資産)を取得した場合には3年間は本則課税が強制適用となる。

〔具体例2〕新設法人が課税選択をして固定資産を取得するケース
(22年度改正法の取扱い)

 7月1日に資本金300万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度から課税事業者を選択し、設立4期目に1,000万円未満の調整対象固定資産を取得した場合には、4期目に「課税事業者選択不適用届出書」を提出することにより、設立5期目は免税事業者になることができる。
 また、4期目に「簡易課税制度選択届出書」を提出することにより、設立5期目は簡易課税により申告することもできる。

<ワンポイントアドバイス>
 設立事業年度が1年未満の新設法人が「課税事業者選択届出書」を提出し、設立事業年度から課税事業者となった場合には、3期目以降でなければ「課税事業者選択不適用届出書」を提出することはできない。「課税事業者選択不適用届出書」を3期目に提出すると、4期目から「課税事業者選択届出書」の効力は失効するので、結果、1期目から3期目までが課税事業者としての強制適用期間となる。

(28年度改正法の取扱い)

 7月1日に資本金300万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度から課税事業者を選択し、設立4期目に高額特定資産を取得した場合には、6期目まで本則課税が強制適用となる。

<ワンポイントアドバイス>
 「課税事業者選択届出書」を提出せずに、2期目の課税売上高が1,000万円を超えたことにより4期目を本則課税で申告した場合でも、6期目までは本則課税が強制適用となる。

〔具体例3〕新設法人が3期目に固定資産を取得するケース
(22年度改正法の取扱い)

 7月1日に資本金1,000万円で設立した12月決算法人が、設立3期目において1,000万円未満の調整対象固定資産を取得し、本則課税により申告した場合には、3期目に「簡易課税制度選択届出書」を提出することにより、4期目は簡易課税により申告することができる。

<ワンポイントアドバイス>
 資本金が1,000万円以上の新設法人は、基準期間がない設立事業年度とその翌事業年度において免税事業者となることはできない。

(28年度改正法の取扱い)

 7月1日に資本金1,000万円で設立した12月決算法人が、設立3期目において高額特定資産を取得し、本則課税により申告した場合には、5期目まで本則課税が強制適用となる。

〔具体例4〕簡易課税適用事業者が固定資産を取得するケース
(22年度改正法の取扱い)

 簡易課税制度の適用を受けていた個人事業者が「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出し、1,000万円未満の調整対象固定資産を取得した年において本則課税により申告した場合には、調整対象固定資産を取得する年中に「簡易課税制度選択届出書」を提出することにより、その翌年から再び簡易課税により申告することができる。

<ワンポイントアドバイス>
 課税期間が1年サイクルの場合、簡易課税は2年間の継続適用義務があるが、簡易課税から本則課税に変更した場合についてまで、2年間の継続適用義務があるわけではない。

(28年度改正法の取扱い)

 簡易課税制度の適用を受けていた個人事業者が「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出し、高額特定資産を取得した年において本則課税により申告した場合には、その翌々年まで本則課税が強制適用となる。

〔具体例5〕課税事業者届出書(特定期間用)を提出して固定資産を取得するケース
(22年度改正法の取扱い)

 前年1月1日から6月30日まで(特定期間)の課税売上高等が1,000万円を超えたことにより課税事業者となり、1,000万円未満の調整対象固定資産を取得した年において本則課税により申告した個人事業者は、調整対象固定資産を取得した年中に「簡易課税制度選択届出書」を提出することにより、その翌年から簡易課税により申告することができる。
 また、基準期間における課税売上高や特定期間中の課税売上高等が1,000万円以下となる場合には、「納税義務者でなくなった旨の届出書」を提出することにより、再び免税事業者となることもできる。

<ワンポイントアドバイス>
 特定期間中の課税売上高による納税義務判定(平成23年度改正)は、課税売上高に代えて特定期間中の給与等の支払額により判定することも認められている。

(28年度改正法の取扱い)

 個人事業者が、高額特定資産を取得した年において本則課税により申告した場合には、その翌々年まで本則課税が強制適用となる。

 パターン①で課税事業者となる場合とパターン②〜③のケースで課税事業者を選択する場合には、第3−(2)号様式(消費税課税事業者届出書)を速やかに納税地の所轄税務署長に提出する必要がある(消法57①一)。
 ただし、「課税事業者選択届出書」のように提出期限が定められたものではない。
「課税事業者選択届出書」は原則として事前提出が義務付けられているにもかかわらず、「課税事業者届出書」には期限がなく、さらには「3年縛り」も適用されないことに違和感を感じているのは筆者だけであろうか……?

□届出書が無効とされるケース
 本則課税の適用期間中に高額特定資産を取得した場合には、高額特定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの間は「簡易課税制度選択届出書」を提出することができない。
 「簡易課税制度選択届出書」の提出後に調整対象(高額特定)資産を取得した場合には、その届出書の提出はなかったものとみなされる。

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