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解説記事2022年12月19日 税務マエストロ 相続があった場合における相続人の消費税に関する実務上の留意点〜適格請求書等保存方式の導入を踏まえて〜(2022年12月19日号・№959)

税務マエストロ
相続があった場合における相続人の消費税に関する実務上の留意点
〜適格請求書等保存方式の導入を踏まえて〜
#281
 税理士 熊王征秀

マエストロの解説

 相続があった場合には、会社の合併や清算のように法律により事業が停止するものではない。例えば、不動産賃貸の場合であれば、賃貸人が死亡したからといって、即座に賃貸借が停止するようなことはない。こういった事情もあり、相続があった場合の納税義務判定については法令において明文化されてない事例が多く見受けられる。また、令和5年10月からインボイス制度が導入されることに伴い、適格請求書発行事業者が死亡した場合のインボイスの効力を一定期間存続させるための措置が講じられており、相続人は従来にも増して実務上の判断に注意が必要となる。
 本稿では、相続があった場合の実務上の問題点とインボイス制度の導入により生ずる実務上の疑問点について検証する。

Ⅰ 適格請求書発行事業者が死亡した場合の届出書

1 登録申請を行った個人事業者が令和5年10月1日より前に死亡した場合
 登録申請を行った個人事業者が令和5年10月1日より前に死亡した場合には、相続人は、「個人事業者の死亡届出書」を提出することが義務付けられている(消法57①四)。
 この場合において、相続人が令和5年10月1日から登録を受けようとする場合には、原則として令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があるが、期限までに登録申請書を提出できなかった場合には、困難な事情(相続による事業承継である旨)を記載した登録申請書を令和5年9月30日までに所轄税務署長に提出すれば、令和5年10月1日に登録を受けたものとみなされる(平成30年改正令附則15)。

※困難な事情の記載欄は、登録申請書(初葉)の下欄に設けられている。

2 適格請求書発行事業者である個人事業者が令和5年10月1日以後に死亡した場合
 適格請求書発行事業者である個人事業者が死亡した場合には、相続人は、「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を税務署長に提出することが義務付けられている(新消法57の3①②)。

Ⅱ 被相続人の登録の効力と登録申請書の提出

 被相続人の登録の効力は相続人に承継されないので、事業を承継した相続人が登録を受けるためには、改めて登録申請書を提出する必要がある。
 なお、被相続人の登録の効力は、相続人が登録申請をするかどうかに関係なく、一定期間継続した後で、下記の日に失効することになる。

 上記のとおり、被相続人の登録は死亡届出書の提出によって失効することとなるが、仮に死亡届出書が提出されなかったとしても、被相続人の死亡日の翌日から4か月目にはその効力は失効することになる。言い換えるならば、効力が失効するまでの間は被相続人の登録番号は有効となり、相続人はインボイスの発行と申告義務を承継することになるのである(インボイスQ&A問16【答】2(※))。
 店舗や事務所などの賃借人は、家主である被相続人が死亡し、遺産分割も確定していない状況ではインボイスの交付を受けられるかどうかがわからない。そこで、家主(被相続人)が登録事業者の場合には、事業を承継した相続人は、登録の意思に関係なく、少なくとも4か月間は登録事業者として申告義務を承継することになる。

1 事業を承継した相続人がいる場合の取扱い
 事業を承継した相続人がいる場合には、みなし登録期間中は、相続人を適格請求書発行事業者とみなし、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなす(新消法57の3③④、新消令70の6②、インボイス通達2−6)。

 この場合において、相続人がみなし登録期間経過後も適格請求書を交付しようとするときは、新たに登録申請書を提出して登録を受ける必要がある。
 また、相続人がみなし登録期間中に登録申請書を提出した場合において、みなし登録期間の末日までに登録または処分の通知がないときは、通知が相続人に到達するまでの期間はみなし登録期間とみなされ、適格請求書の交付は被相続人の登録番号によることとなる。

2 被相続人が登録取消届出書を提出後に死亡した場合の取扱い
 みなし登録期間中は、相続人を適格請求書発行事業者とみなし、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなす(新消令70の7)。

3 相続人が免税事業者の場合の棚卸資産の税額調整
 相続人が免税事業者の場合には、みなし登録期間の初日の前日において保有する棚卸資産に係る消費税額を課税仕入れ等の税額に加算することができる(新消令70の8①)。

4 相続人が免税事業者になる場合の棚卸資産の税額調整
 相続人がみなし登録期間の末日の翌日から免税事業者となる場合には、みなし登録期間の末日において保有する棚卸資産のうち、みなし登録期間中に仕入れた棚卸資産に係る消費税額は、課税仕入れ等の税額から控除することとされている(新消令70の8②)。

Ⅲ 相続財産が未分割の場合の納税義務判定

1 相続財産が未分割の場合
 相続財産が未分割の場合には、財産の分割が実行されるまでの間は各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱うこととされており、判定に用いる被相続人の基準期間における課税売上高は、各相続人の法定相続分に応じた割合を乗じた金額によることとされている(消基通1−5−5)。
【具体例】
 被相続人の前々年(基準期間)の課税売上高(税抜)は3,200万円で、相続財産は未分割の状態にある。相続人が、被相続人の妻、長男、次男の3人である場合には、妻は相続のあった日の翌日から年末までの期間について納税義務者となるが、2人の子供については、判定に用いる金額が1,000万円以下となるので、納税義務は免除されることになる。

2 インボイスの取扱い
(1)相続人の申告義務

 賃貸物件の場合、実務上は相続が発生してからしばらくの間は未分割の状態になる。「相続があった場合の納税義務の免除の特例」が適用されて相続人が課税事業者となる場合には、法定相続分割合により各相続人が申告することになるので、みなし登録期間中も、法定相続分割合による申告が必要になるものと思われる。
 相続人に登録事業者と非登録事業者がいる場合はどうなるのであろうか……。新消費税法57条の3第3項の「みなし登録」の規定では、事業承継した相続人のうち、登録事業者である相続人をかっこ書で除いている。
 そうすると、相続発生前から登録事業者である相続人は、もともとある自分の登録番号を使い、それ以外の非登録事業者である相続人は、被相続人の登録番号を使うことになるものと思われる。
 インボイスの交付を受ける賃借人などにしてみれば、同一の物件について、複数の登録番号が付されたインボイスの交付を受けるのは煩雑である。よって、「遺産分割が確定するまでは、登録事業者である相続人についても、被相続人に関するインボイスを発行する場合に限っては、被相続人の登録番号を使用しても差し支えありません。」といったようなQ&Aの改訂が必要ではないかと思われる。
(2)「課税事業者選択届出書」の取扱い
 相続人は、みなし登録期間中は無条件に課税事業者となるのであるから、「課税事業者選択届出書」を提出せずとも、登録申請書の提出だけで登録事業者になることができる。ただし、みなし登録期間を経過してから登録申請する場合、免税事業者であるならば、「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者にならない限りは登録事業者となることはできない。
 新消費税法施行規則26条の4(事業を開始した日の属する課税期間等の範囲)の1号では、いわゆる新規開業の個人事業者については、開業した年から登録の効力が生ずることとしている。あくまでも開業年の1月1日に遡るという規定ぶりであるから、4か月目のみなし登録期間が途切れたところに遡って登録事業者になることにはならない。
 開業年の1月1日に遡れれば、いずれにしても相続人の登録が途切れることはないようにも思えるところではあるが、みなし登録期間中に登録事業者として取り扱われる事業者は同規則1号のかっこ書で除かれている。みなし登録期間中は被相続人の登録番号を使うわけであるから、相続人の登録の効力が年初に遡るとした場合、登録番号がバッティングしてしまうことになる。したがって、事業承継した相続人については、たとえ新規開業となる場合であっても、この規定は適用されないこととなるのである。
(3)問題点
 相続人は、相続があった日の翌日から4か月以内、つまり、準確定申告書の提出期限までに登録の有無について判断しなければ、4か月目以降にインボイスを発行することはできないことになる。結果、準確定申告書の提出期限までに遺産分割が確定しない場合の取扱いが今後の課題となりそうである。

3 遺産分割が確定した場合
 年の中途において遺産分割が確定した場合には、民法909条(分割の遡及効)の規定に基づき、遺産の分割は相続開始の時に遡ってその効力を生ずることとされている。
 こういった理由から、被相続人の事業を承継する相続人の納税義務判定についても、相続のあった日においてその事業を承継したものとして取り扱うこととされていた時期もあったようである(消費税法基本通達の徹底解明29〜30頁/ぎょうせい)。
 しかしながら、消費税は税の転嫁を予定して立法されているものであり、その年の納税義務の有無については、その年の前年12月31日の現況に基づいて判定すべきであるという考え方が、現在の指針となっている。また、法定相続分に応じて判定したことにより免税事業者となった相続人が、遺産分割が確定したことにより、結果として事業の全部を承継したとしても、その事実により、相続人の当初の納税義務判定が覆ることはないものと解釈されている(税務QA2007年2月号/上杉秀文著)。

4 前年に相続があった場合の共同相続人の消費税の納税義務の判定(相続があった年の翌年に遺産分割協議が確定した場合)
 前年に相続があった場合の共同相続人の消費税の納税義務の判定については、東京国税局の文書回答(平成24年9月18日付)により、民法909条(分割の遡及効)が適用されないことが明らかにされた。この文書回答は、通達やQ&Aなどで明文化すべきであった前述の上杉秀文税理士の解釈を、課税庁が正式に追認したものと整理することができそうだ。
 東京国税局の照会事例と回答(概要)は次のとおりである。

照会事例
 農業及び不動産賃貸業(貸店舗)を営んでいた被相続人(照会者の実母)が平成23年4月に死亡した。相続人である本事例の照会者とその実妹の間で平成24年2月に遺産分割協議が成立し、被相続人である実母の事業はすべて照会者が承継することとなった。この場合において、照会者の平成23年と24年分の納税義務は免除されるか否か?
 なお、照会者(相続人)は農業及び不動産賃貸業(貸店舗)、照会者の実妹(相続人)は不動産賃貸業(駐車場)を営んでおり、いずれも消費税の免税事業者である。

回答
○平成23年の照会者の納税義務
①平成21年(基準期間)における紹介者の課税売上高により判定する
 206万円≦1,000万円
②平成21年(基準期間)における被相続人の課税売上高に法定相続分割合を乗じた金額により判定する
 1,350万円×1/2=675万円≦1,000万円
 ∴照会者は免税事業者となる。
○平成24年の照会者の納税義務
①平成22年(基準期間)における紹介者の課税売上高により判定する
 206万円≦1,000万円
②照会者の基準期間(平成22年)における課税売上高と、被相続人の基準期間(平成22年)における課税売上高に法定相続分割合を乗じた金額を合計して判定する
 206万円+1,390万円×1/2=901万円≦1,000万円
 ∴照会者は免税事業者となる。

 本件照会事例が共同事業でない場合には、遺産を単独で相続した照会者は、下記のとおり、平成23年と24年のいずれの年も納税義務が免除されないことになる。共同事業か否かということにより、納税義務の判定方法が大きく変わることに問題はないのであろうか……。
○平成23年の照会者の納税義務
①平成21年(基準期間)における照会者の課税売上高により判定する
 206万円≦1,000万円
②被相続人の基準期間(平成21年)における課税売上高により判定する
 1,350万円>1,000万円
 ∴照会者は相続があった日の翌日から平成23年12月31日までの間について課税事業者となる
○平成24年の照会者の納税義務
①平成22年(基準期間)における照会者の課税売上高により判定する
 206万円≦1,000万円
②照会者の基準期間(平成22年)における課税売上高と被相続人の基準期間(平成22年)における課税売上高を合計して判定する
 206万円+1,390万円=1,596万円>1,000万円
 ∴照会者は課税事業者となる

5 相続があった年に遺産分割協議が確定した場合における共同相続人の(相続があった年の)消費税の納税義務の判定
 相続があった年に遺産分割協議が確定した場合における共同相続人の消費税の納税義務の判定については、大阪国税局の文書回答(平成27年3月24日付)により、法定相続分割合によることが明らかにされた。
 大阪国税局の照会事例と回答(概要)は次のとおりである。

照会事例
 不動産賃貸業を営んでいた被相続人(照会者の父)が平成26年2月に死亡した。相続人である本事例の照会者とその妻、母を含む相続人7名(養子を含む。)で同年(平成26年)中に遺産分割協議が成立し、被相続人である父の事業に係る相続財産は、照会者が3分の2、妻が3分の1の持分を相続し、事業を承継することとなった。この場合において、照会者の平成26年分の納税義務は免除されるか否か?
 なお、事業承継者である照会者は会社員、その妻は専業主婦であり、相続の発生した平成26年に係る基準期間(平成24年)における課税売上高はゼロである。

回答
(平成26年の照会者の納税義務)
①平成24年(基準期間)における紹介者の課税売上高により判定する
 0円≦1,000万円
②平成24年(基準期間)における被相続人の課税売上高に法定相続分割合を乗じた金額により判定する
 1,700万円×1/12≒141万円≦1,000万円
 ∴照会者は免税事業者となる。

 民法909条の規定により、遺産の分割は相続開始の時に遡ってその効力を生ずることとされている。よって、平成26年中に行われた遺産分割の効力は、相続の開始の時である平成26年2月に遡ることになる。これに伴い、平成26年分の納税義務の判定についても、事業に係る相続財産の承継割合(3分の2)により被相続人の基準期間における課税売上高を計算すると、照会者の納税義務は免除されないこととなる。
①平成24年(基準期間)における紹介者の課税売上高により判定する
 0円≦1,000万円
②平成24年(基準期間)における被相続人の課税売上高に事業承継割合を乗じた金額により判定する
 1,700万円×2/3≒1,133万円>1,000万円
 ∴照会者は課税事業者となる。
 相続財産が未分割の場合には、財産の分割が実行されるまでの間は各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱うこととされている(消基通1−5−5)。
 そうすると、相続が発生した時点においては、相続人が単独でない限り、相続財産は常に未分割の状態にあるわけだから、相続が発生した年において遺産分割が確定したとしても、相続が発生した年における納税義務は、被相続人の基準期間における課税売上高に法定相続分割合を乗じた金額で判定することになるのであろうか……。

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