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解説記事2023年01月09日 SCOPE 事業再生目的の株式有利発行、一時所得課税は適法(2023年1月9日号・№961)

時価の90%以下は有利発行との通達は合理的
事業再生目的の株式有利発行、一時所得課税は適法


 第三者割当による株式の引受けにおいて、株式と引換えに払い込む金額が「有利な金額」(所令84条5号:現3号)に当たるか否かが争われていた事案で、東京地裁民事3部(市原義孝裁判長)は、裁決同様、「有利な金額」に該当するとして、経済的利益に一時所得が生じるとした原処分を適法とした(裁決については本誌902号参照)。
 判決は、結論としては裁決と同様であるものの、通達による判定方法を採用できない特段の事情があるか否かを丁寧に検討した点が異なる。東京地裁は、市場価格が業績回復に向かうとの期待を反映したものとして説明できないほど高騰していたとはいえず、特段の事情はないとした。

時価は異常な高騰にあらず、通達の判定方法を採用できない特段の事情なし

 株主である原告(個人)が代表取締役等を務めていたA社は債務超過に陥っており、マザーズにおける上場廃止を回避するため、原告はA社に貸付けを行ったのちに、さらに第三者割当によりA社株式を引き受けた。
 これに対し処分行政庁は、上記引受けの際の払込価額が、払込価額決定日における現況の価額(決定日現況価額)よりも「有利な金額」に該当するとして、その株式を取得する権利の取得を一時所得とする更正処分等を行った。
 東京地裁は、「有利な金額」の判断枠組みについて、所得税基本通達23〜35共−7(表1参照)が示す判定方法は、所得税法施行令84条5号(現3号)の解釈として合理的であるとした。すなわち、決定日現況価額(払込価額決定日前1か月間の平均株価も考慮)から払込価額を控除した差額が、決定日現況価額の10%相当額以上であれば「有利な金額」であると判定すること(本件判定方法)は、そこで用いられる市場価格(終値)が異常な値動きにより一時的に形成されたものであり、これを払込価額の決定の基礎とすることができない特段の事情がない限り、謙抑的な判定方法であるとの考えを示した。

【表1】所得税基本通達

23〜35共−7(株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合)
 令第84条第3項第3号に規定する「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合」とは、その株式と引換えに払い込むべき額を決定する日の現況におけるその発行法人の株式の価額に比して社会通念上相当と認められる価額を下る金額である場合をいうものとする。
(注)1 社会通念上相当と認められる価額を下る金額であるかどうかは、当該株式の価額と当該株式と引換えに払い込むべき額との差額が当該株式の価額のおおむね10%相当額以上であるかどうかにより判定する。
  2 株式と引換えに払い込むべき額を決定する日の現況における株式の価額とは、決定日の価額のみをいうのではなく、決定日前1月間の平均株価等、当該株式と引換えに払い込むべき額を決定するための基礎として相当と認められる価額をいう。

原告、事業再生では社会通念上相当と主張
 続いて東京地裁は、本件判定方法によることができない特段の事情の有無を検討し、表2の点を指摘した。

【表2】A社株式の終値を払込価額の決定の基礎とすることができない特段の事情があるか

イ A社は、平成25年4月30日に債務免除を受けた直後の時点においても、8億2800万円超の債務超過の状態にあり、同年7月末には債務超過額が9億円に達することが見込まれた一方で、その後も債務整理を進めつつ、原告から1億5000万円の貸付けを受けるなどした結果、同年7月31日に本件発行がされる直前の時点では、本件発行における出資の目的となる財産の払込み等、すなわち、本件DES対象債権(合計4億4999万9872円)の給付(DESによる債務整理)及び金銭(7億5000万0144円)の払込みを受けることによって、同日中に債務超過を解消した上で、純資産額を2億5700万円超のプラスに転ずることができる状態になっていた。
ロ 本件発行により解消されたA社の債務超過は、平成21年7月期末の196億円超の債務超過に端を発するものであったところ、A社は、平成22年7月期以降、財政状態の改善に向けた種々の取組を行うなどして、本件発行の直前の時点では、上記イの状態になっていた。
ハ A社は、上記ロの過程を経て、本件発行等により、平成25年7月期末時点における債務超過を解消して上場廃止を免れることができ、併せて、同期において、本件事業再生ADRを終結することができたところ、こうした一連の過程におけるその時々のA社の財政状態等については、投資家向け広報により、適時に開示されていた。
ニ A社が平成25年7月3日付けの広報で明らかにした事業の見通しは、同年9月12日付けで公表された平成25年7月期の決算短信においても維持されており、同年9月19日付けで公表された平成25年9月中期経営計画は、上記の事業の見通しを前提として、更に平成29年7月期まで、A社が順調に経営成績を伸ばしていくことを見通すものとなっていた。また、A株式の市場価格の推移に照らしても、平成25年9月31日以降、A社に対する投資家の期待が急速に失われた形跡はうかがわれない。

 その結果、「A社が平成25年7月期末までに追加の出資を募るなどすることにより、債務超過を解消して上場廃止を回避することができ、本件事業再生ADRを予定どおりに終結した上で、平成22年7月期以来の財政状態の改善を最優先とする経営方針から脱却し、平成26年7月期以降、積極的な経営方針に転ずるなどして、業績回復に向かう可能性が十分にあるという期待が形成されていたとしても、不合理であるとはいうことはできず、(略)このような株式市場における期待を前提とすれば、本件参照期間におけるA社株式の市場価格は、株式市場で形成された合理的な期待を反映したものとしておよそ説明することができないほどに高騰していたということはできない」として、本件判定方法によることができない特段の事情はないとの判断を下した。
 そして、本件払込価額は「有利な金額」であるとして、本件権利の取得について一時所得が生じるとした原処分は適法と結論づけた。
 原告は、「A社の企業価値はおよそ存在しない状況であった」「事業再生の局面における資金調達のためには、時価よりも10%以上低い払込価額で株式を発行することが社会通念上相当」などと主張したが、いずれの主張も退けられている。

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