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解説記事2023年02月20日 実務解説 どうする? 令和6年以降の電子取引データの保存(2023年2月20日号・№967)

実務解説
どうする? 令和6年以降の電子取引データの保存
 税理士 松崎啓介

はじめに

 令和4年12月23日に政府の方針として「令和5年度税制改正の大綱」(以下「大綱」という。)が閣議決定された。
 令和5年2月3日には、税制改正法案が国会に提出され、通常、3月末までに法案の国会審議を経て、これらに関連する政省令が公布される。
 令和5年度税制改正では、個人所得課税において、NISA制度の抜本的拡充・恒久化やいわゆる1億円の壁と言われる問題に対処するため、極めて高い水準の所得について最低限の負担を求める措置が導入される他、資産課税では、資産移転の時期の選択により中立的な税制を構築するため、相続時精算課税の基礎控除の創設、暦年課税における相続前贈与の加算期間の延長等が行われる。
 消費税については、インボイス導入を直前に控え、適格請求書等保存方式の円滑な実施に向けた諸措置が講じられる他、省令改正事項ではあるが、電子インボイスと密接な関係を有する電子帳簿等保存制度について、優良な電子帳簿制度、スキャナ保存制度、電子取引のデータ保存制度の全般にわたり、改正が行われる予定である。
 この他、納税環境整備において、高額な無申告に対する無申告加算税の割合の引上げ等が行われることとされている。
 このように、種々の納税手続関連の改正も予定されており、今後の税務手続に当たっては、改正内容を注視していく必要がある。
 本稿においては、これらの改正のうち、申告所得税や法人税の全事業者が対象となる電子取引のデータ保存制度について、改正の考え方から改正内容を解説するとともに、令和6年以降の電子取引データ保存についてどのように対応するべきか、また、インボイスとの関係ではどのような点を注意すべきか等について言及することとしたい。
 なお、改正内容については今後の国会審議状況等も注視していく必要があるが、現段階での大綱ベースで令和5年度税制改正について解説するものであり、実際の適用に当たっては、改正後の法令や通達、FAQなどをご確認いただきたい。
 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。

1 令和5年度税制改正における電子帳簿等保存制度の考え方

 電子取引の取引情報に係る電子データの保存については、その電磁的記録を出力することにより作成した書面等を保存する場合は、その電磁的記録の保存は要しないとされていたが、令和3年度改正により、令和4年1月1日以後に行う電子取引からは、その出力書面は、他者から受領した電子取引データと同一性が十分に確保されていないという理由で出力書面による保存は廃止され、例外なくその電磁的記録を保存しなければならないこととされていた(電帳法7)。
 令和4年度改正では、改正内容を知らない者が多数いるなどの周知不足により認知度が低かったこと。また、システム対応が間に合わない、ワークフローの整備が間に合わないなどの準備が間に合わないなどの声があがり、期限を区切った宥恕措置として令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に申告所得税及び法人税に係る保存義務者が行う電子取引につき、その電子取引の取引情報に係る電子データを保存要件に従って保存をすることができなかったことについて、所轄税務署長がやむを得ない事情があると認め、かつ、その保存義務者が税務調査等の際にその電子データの出力書面の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電子データの保存をすることができることとされている。
 また、宥恕措置を適用する場合の運用上の取扱いとして、税務調査等の際に、その電磁的記録を出力することにより作成した書面の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは、その出力書面の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができることとされている(電帳通7−11)。

 宥恕措置の適用期限が令和5年12月31日に到来することを踏まえ、事業者の実情を見てみると、保存要件にしたがった電子データの保存については、事務負担の理由等で対応困難な事業者が一定程度見込まれることが予想された。
 そこで、令和5年度改正では、電子取引のデータ保存も含めた電子帳簿等保存制度全般について、事業者における経理の電子化の実施状況や対応可能性なども改めて考慮し、それらに配慮した必要な見直しを行うこととしたものである。

2 令和5年度改正における改正事項

 令和5年度税制改正の大綱では、電子帳簿等保存制度について、次の改正を行うこととしている。
(1)過少申告加算税の軽減措置の対象となる優良な電子帳簿については、その範囲を合理化・明確化することとされた。
(2)スキャナ保存制度については、制度の利用促進を図る観点から、更なる保存要件の緩和措置を講ずることとされた。
(3)電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度については、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことにつき相当の理由がある事業者等に対する新たな猶予措置を講ずることとされ、検索機能の確保の要件についても緩和措置を講ずることとされた。
 本稿では、これらの改正の中で、特に全事業者が保存義務を負うこととされる(3)の電子取引の取引情報に係る電子データの保存について、繰り返される電子帳簿保存法の改正についてどう対応したらよいのか述べてみたい。

3 電子取引のデータ保存制度の新たな猶予措置(恒久化措置)の創設

 令和5年12月31日を適用期限としていた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置は、適用期限の到来をもって廃止することとされた。
 今回の改正では、システム対応が間に合わなかったことにつき相当の理由がある事業者等に対する新たな猶予措置を設けることとされた。
 具体的には、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについて相当の理由がある保存義務者に対する猶予措置として、
① 申告所得税及び法人税に係る保存義務者が行う電子取引につき、納税地等の所轄税務署長が当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認め(保存義務者からの手続は不要)、かつ、
② その保存義務者が質問検査権に基づくその電磁的記録のダウンロードの求め及びその電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限られる。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている
場合には、その保存要件にかかわらず、つまり保存要件なしで、その電磁的記録の保存をすることができることとされた。
 この考え方は、出力した書面は、取引相手から電子で受領した取引情報と同一性が十分に確保されていない、つまり、取引情報の内容の変更がないことの担保がないものであり、その出力書面と保存されている電子データの双方を税務調査官が確認することにより、電子データの適正性を確認することになろう。
 また、ダウンロードにより税務当局に提供された帳簿書類等のデータは、必要に応じ、そのデータの検索や訂正・削除・追加の有無等を確認することが可能となり、この点からも、保存されている電子データや申告内容の適正性を確認することになろう。

4 新たな猶予措置案の考え方

 今回創設される猶予措置は、期限の定めのない恒久措置であり、電子帳簿保存法施行規則の本則に規定されることが考えられる。これは、電子取引のデータ保存制度が全ての事業者に対して保存義務を課すものであり、保存要件に従った保存ができないことについて相当の理由がある事業者については、少なくとも授受した電子取引データについては最低限保存させることとするが、税務調査の際に支障が生じないように、書面での提示・提出はできるようにするとともに、保存したデータについてはダウンロードの求めに応じることができるように措置するということであろう。
 今回の猶予措置については、現行の宥恕措置のように運用上の取扱いとして、税務調査等の際に、その電磁的記録を出力することにより作成した書面の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは、その出力書面の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができることについては言及されておらず、電子取引を行った場合には、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないことに留意する必要がある。
 令和6年1月1日以後に行う電子取引からは、例外なくその電磁的記録を保存しなければならないこととなる。
 この改正は、令和6年1月1日以後に行われる電子取引の取引情報に係る電磁的記録について適用される。

5 「相当の理由」について

 適用要件となる保存要件に従って保存することができなかった「相当の理由」の内容については明らかにされていないため、今後、法令改正後、国税庁通達やFAQなどで運用上の扱いも明らかにされるであろう。
 令和4年度改正で宥恕措置が設けられた改正経緯からすれば、引き続きシステム対応が間に合わなかった事業者等において、従前の宥恕措置のように必ずしも「やむを得ない事情」がなかったとしても、今回の恒久化される猶予措置では、事業者の実情に応じて柔軟に猶予措置を適用することが可能となるように明確化したものと考えられる。したがって、猶予措置の適用要件を従来よりも限定する趣旨で設けたものではないと考えられる。
 一方で、保存要件に従った保存が可能な状態なのに、あえて保存要件に従った保存を行わないような場合は排除されるべきであろう。

6 新たな猶予措置を創設することとした考えられる背景

(1)考えられる背景
 新たな猶予措置を創設することとした考えられる背景としては、システム対応や社内でのワークフローの見直し等の、電子取引に係るデータ保存を保存要件どおりに保存することが困難な者が一定程度見込まれるという現状がある。
 この状況を放置して原則の要件どおりの保存を求め、その要件どおりに保存していなければ、その書類の保存は無かったことになり、青色申告の承認取消事由になったり、税務調査で経費として認められない可能性がある。
 その結果、対応が困難な事業者を電子取引から紙取引に誘導することになるなど、デジタル化の流れと逆行することとなり、電子化を促進する観点から悪影響が起きることを懸念したものと考えられる。
(2)日本商工会議所の実態調査結果
 令和4年9月に日本商工会議所から公表された『「消費税インボイス制度」と「バックオフィス業務のデジタル化」等に関する実態調査結果について』によると、改正電子帳簿保存法による電子取引のデータ保存義務化への対応について、全体で43%が「内容をよく理解しておらず、何もしていない」と回答しており、「売上高1千万円以下の事業者」では56.8%にのぼるなど、小規模な事業者ほどその割合が高いことが示された(図表3参照)。

 この調査結果をみると、まだまだ電子取引のデータ保存義務化への対応の必要性に対する認知度は低く、これから対応の準備をする者も多いと考えられる。
 また、電子取引のデータ保存への対応については、「対応ができておらず、全て紙の原本の授受に切り替えるつもり」と回答した者が全体で4%おり、売上高1億円超の事業者でも3.5%いるとされている。
(3)実態を踏まえた考え方
 税務手続の電子化を進める上での電子取引の重要性に鑑み、他者から受領した電子取引データと同一性が十分に確保されていない出力書面による保存を廃止するとした令和3年度税制改正の考え方は変わっておらず、税務当局としては、全ての事業者に電子取引に係る取引情報について、取引情報の内容を変更することなく、電子データとして保存してもらう必要があろう。
 このため、事業者における経理の電子化の実施状況、対応可能性なども改めて考慮し、それらに配慮した形で今回必要な見直しを行うこととしたものと考えられる。
 これらの税務関係手続の電子化を通じ、適正公平な課税の実現を図ることがより一層可能となるとともに、経営状態の可視化による経営力の強化、バックオフィスの生産性の向上に資するものとなろう。これは、今後電子化を進めていくことにも沿った制度と考えられる。

7 電子取引のデータ保存制度における検索機能の確保の要件の見直し

(1)現行(改正前)
 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存等に当たっては、真実性や可視性を確保するため、以下の要件を満たす必要がある(電帳規4)。
① 真実性の要件
 次のいずれかの措置を行う(電帳規4①)
イ タイムスタンプが付された後の授受
ロ 授受後、速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す。
 この場合、その電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すとともに、その電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておかなければならない(電帳規4①二)。
ハ データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用して、授受及び保存を行う。
ニ 正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、その規程に沿った運用を行い、その電磁的記録の保存に併せてその規程の備付けを行う。(以下、「訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け」という。)
② 可視性の要件
イ 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発のプログラムを使用する場合に限る。)
ロ 見読可能装置の備付け等
  電磁的記録の保存をする場所にその電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこと。
ハ 検索機能の確保
 イ)取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先(ロ)及びハ)において「記録項目」という。)を検索の条件として設定することができること。
 ロ)日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
 ハ)二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。
 保存義務者が電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、ロ)の範囲指定、ハ)の項目組合せ機能の確保は不要とされている。
 なお、検索機能の確保については、保存義務者がその判定期間に係る基準期間における売上高が1千万円以下である事業者である場合であって(例えば前々事業年度の売上高が1千万円以下の事業者)、保存義務者が国税に関する法律の規定による電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合には、検索要件全体が不要とされている(電帳規4①柱書、②)。
(2)検索機能の確保の要件の見直し案
 今回の改正では、他者から受領した電子データとの同一性が確保された電磁的記録の保存を推進する観点から、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存要件について、次の措置が講じられることとされた。
 中小・零細事業者にとって、電子取引データ保存制度の保存要件で最も事務負担がかかると言われているのが検索機能の確保である。
 対応策としては、①対応するシステムを導入する、システムを導入しない場合には、②表計算ソフトなどで索引簿を作成する、あるいは③規則的なファイル名を付す方法などにより検索機能を確保し、授受した取引データを速やかに出力又は提示できるようにしておかなければならない。
 全ての事業者に対して保存義務を課すこの制度については、事業者によっては検索機能を確保するのは対応困難とも言われていたものであり、電子取引データの保存を進める上での課題ともされていたところである。
 そこで、全ての事業者が授受した電子データを電子保存してもらうために、検索要件の全てを不要とする場合を次の通り拡充する等の緩和措置を講じることとされた。
① 保存義務者が国税庁等の当該職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索要件の全てを不要とする措置(上記(1)現行②可視性の要件ハ検索機能の確保のなお書き)について、対象者が次のとおり拡充される。
 イ その判定期間に係る基準期間における売上高が5,000万円以下(現行:1,000万円以下)である保存義務者を対象とする。
 (注1)判定期間とは、個人事業者であれば電子取引を行った日の属する年の1月1日から12月31日までの期間をいい、法人であれば電子取引を行った日の属する事業年度(法人税法第13条及び第14条(事業年度)に規定する事業年度)をいう(電帳規4②二)。
 (注2)基準期間とは、個人事業者であればその年の前々年をいい、法人であればその事業年度の前々事業年度(当該前々事業年度が1年未満である法人については、その事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間)をいう。(電帳規4②三)
 ロ その電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている保存義務者を対象とする。
② 電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付す場合には、その電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておかなければならないが(上記(1)現行①真実性の要件ロ授受後速やかにタイムスタンプを付す。)(電帳規4①二)、この電磁的記録の保存を行う者等に関する情報の確認要件が廃止され、電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報の確認が不要となる。
 これらの改正は、令和6年1月1日以後に行われる電子取引の取引情報に係る電磁的記録について適用される。

8 どうする?令和6年以降の電子取引データの保存

(1)令和6年以降の4つの選択肢
 今回の改正で一番大きな変更点は、令和6年1月1日以後に行う電子取引からは、必ずその電子取引データを保存しなければならなくなったことであろう。
 これまでは、令和4年1月1日から電子での保存義務化がされたといっても、現実的には宥恕措置が設けられ、令和5年までは従来どおり書面に出力して保存することでも認められた。それでは令和6年以降はどのようにして保存するべきか、選択肢は大きく四つに分かれる。
(2)選択肢1(原則どおりの保存要件)
 一つ目は、原則どおり真実性及び可視性の保存要件を満たして保存すること。既に大企業等では対応しているところも多いと考えられるが、システム開発会社でも電子取引に対応したシステム対応を準備しているところであり、今回の改正にかかわらず原則どおりの保存を継続するであろう。
(3)選択肢2(新たな猶予措置)
 二つ目は、新たな猶予措置の適用を受ける場合である。「相当の理由」の適用範囲は不明であるが、システム対応が間に合わなかったこと等につき相当の理由があれば適用できるのであれば、準備段階にある者については、現行の宥恕措置の改正経緯を鑑みれば、恒久措置である今回の措置は、事業者の実情に応じて柔軟に本猶予措置が適用されることが考えられるので、利用しやすい方法となろう。ただし、適用に当たっては、出力書面の提示等やデータのダウンロードも求められるので、電子取引のデータ量の多い事業者にとっては事務負担がかかることが懸念される。
 一方で、真実性及び可視性の保存要件に対応できるシステム環境等が整っている事業者であるにも関わらず、あえてこの猶予措置の適用を受けて、保存要件に従った保存を行わないこととするのは困難であろう。
 いずれにせよ、全ての事業者が対象となる制度である以上、保存要件に従った電子データの保存を行うことが困難な事業者が一定程度見込まれる実情を踏まえれば、他者から受領した電子データとの同一性が確保された電磁的記録の保存を推進する観点から、全ての事業者に電子データの保存を促すため、今回、恒久化した猶予措置が設けられ、電子化の推進を図るものと位置付けていると考えられる。
(4)選択肢3(売上高5千万円以下の者の検索要件不要措置)
 三つ目は、検索要件不要措置の適用を受ける場合である。
 売上高5千万円以下の場合に適用される検索要件不要措置は、書面による提示等が要件とされておらず、ダウンロードの求めに応じれば適用できるものであり、中小事業者にとって一番汎用性の高い保存方法と考えられる。
 文書管理システム等を導入しない中小・零細事業者にとって、一番事務負担がかかると言われていたのが検索要件であり、この要件が不要となれば、「訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け」の要件を満たせば、図表5の保存要件で保存可能となる。

 ただし、売上高が5千万円を超えることがある事業者にとっては、年によって検索機能の確保の要否が異なることとなり、かえって事務処理が煩雑となる。
(5)選択肢4(書面の提示等の求めに応じる者の検索要件不要措置)
 四つ目は、検索要件不要措置のもう一つの方法であるデータを出力した書面の提示・提出の求めに応じることができるようにしている場合である。この場合、日付、取引先ごとに整理された出力した書面を提示等できるようにしておかなければならないので、電子取引の取引情報については、電子データで保存するとともに、書面に出力して日付順、取引先ごとに整理しておく必要があろう。金額基準などの適用要件はないものの、書面を出力して整理保存することを考えれば、電子取引データ量の多い事業者には不向きであろう。
(6)四つの選択肢の比較一覧表
 以上の保存方法の選択肢を整理すると図表6のとおりとなる。

 本来であれば原則どおり保存要件に従った保存を行うべきであるが、猶予措置や検索要件不要措置を適用した場合には、共通してダウンロードの求めに応じることが前提であり、出力書面の提示等が求められる場合がある。今後の法令・通達改正、FAQ等も参考にしながら、保存方法について検討することが望まれる。
(7)電子化の今後の方向性
 電子化の推進の観点からは、帳簿及び書類ともに電子で一元管理することが必要であり、そのためには、書面と電子の二元管理は事務の効率性が劣ることとなる。帳簿は電子帳簿に、紙が原本の書類はスキャナ保存により電子化文書に、電子取引の取引情報は、原則どおりの保存方法で電子保存するといった電子帳簿保存制度を活用することにより、電子での一元管理が実現する。
 また、インボイス制度開始後においては、様々な取引関係書類をインボイスとして保存しなければならなくなる。経理処理も最後の処理まで一貫してシステムで行うデジタルインボイスも視野に置きながら、電子インボイスを活用して行かなければ、今後のインボイス対応は難しくなってくると考えられる。
 また、請求書等のインボイスを電子でやり取りした場合には、電子帳簿保存法に従った保存要件により保存しなければならなくなる。
 今回の電子取引データの保存制度の緩和措置は、全ての事業者が対応可能とするために措置されるものと考えられるが、それは、決して緩和措置の利用を推奨しているものではなく、今回の猶予措置等の適用から、将来的には、本来の保存要件に従った原則的な取引データの保存へとつながって行くことが望まれる。
 また、この原則的な取引データの保存を推進していくことは、電子化の推進の観点からも望ましいであろう。

松崎啓介 まつざき けいすけ
昭和59年~平成20年 財務省主税局にて税法の企画立案に従事(電帳法・通則法規等)。平成20年 大月税務署長、平成22年~平成28年 東京国税局総務部企画課長、課税第一部審理課長、個人課税課長等を歴任。平成29年 国税庁監督評価官室長、平成30年 仙台国税局総務部長、令和元年 金沢国税局長、令和2年8月 税理士登録。主な著書に「コンメンタール国税通則法」(第一法規)、「もっとよくわかる電子帳簿保存法がこう変わる!」(税務研究会)など、著書多数。各種セミナーで講演を実施。

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