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解説記事2023年03月27日 法令解説 企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正、記述情報の開示の好事例集2022(サステナビリティ情報等に関する開示)の紹介(上)(2023年3月27日号・№972)

法令解説
企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正、記述情報の開示の好事例集2022(サステナビリティ情報等に関する開示)の紹介(上)
 金融庁企画市場局企業開示課開示企画調整官 上利悟史
 金融庁企画市場局企業開示課専門官     河西和佳子
 金融庁企画市場局企業開示課課長補佐    鹿子木慎亮
 金融庁企画市場局企業開示課専門官     清野恭平

一 はじめに

 令和5(2023)年1月31日、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和五年内閣府令第一一号。以下「開示府令」という)が公布され、同日から施行された。これは、令和4(2022)年6月13日に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(以下「DWG報告」という)における提言を踏まえ、企業のサステナビリティに関する取組みやコーポレートガバナンスに関する開示の拡充を図るものである。
 また、これと併せて、「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(以下「開示ガイドライン」という)を改正し、サステナビリティ情報の開示等における留意事項を示したほか、プリンシプルベースのガイダンスである「記述情報の開示に関する原則(別添)−サステナビリティ情報の開示について−」(以下「開示原則(別添)」という)において、サステナビリティ情報の開示における考え方および望ましい開示に向けた取組みを取りまとめた。
 本稿では、これらの改正について、パブリックコメントに対する金融庁の考え方なども踏まえて解説する。なお、本稿において、意見にわたる部分については、筆者らの個人的見解であることをあらかじめ申し添えておく。

二 改正の概要

1 本改正の全体像
 本改正の概要は図表1のとおりである。

 本改正では、サステナビリティに関する開示について、有価証券報告書において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設したほか、「従業員の状況」の記載欄において、女性管理職比率等の多様性の指標に関する開示を求めることとしている。
 また、コーポレートガバナンスに関する開示について、①取締役会等の活動状況、②監査の実効性確保のための取組み、③政策保有株式の発行会社と業務提携等を行っている場合の説明を開示項目として追加している。

2 サステナビリティに関する開示
(1)サステナビリティ情報の「記載欄」の新設
 ① 背 景

 わが国では、2020年10月、政府として2050年のカーボンニュートラルを目指すことが宣言され、サステナビリティ(脚注1)に関する取組みが企業経営の中心的な課題となるとともに、それらの取組みに対する投資家の関心が高まっている。また、国際的にも、サステナビリティ開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる。
 このような状況の中、わが国の企業情報の開示の主要項目としてサステナビリティ開示を位置づけ、その内容について継続的な充実を図ることが求められること等を踏まえ、DWG報告では、有価証券報告書において、サステナビリティ情報を一体的に提供する枠組みとして、独立した「記載欄」を創設することが提言された。
 ② 改正内容
 本改正では、有価証券報告書の「第一部 企業情報」の「第2 事業の状況」の中に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄(以下「サステナビリティ記載欄」という)を新設した。本記載欄では、企業の中長期的な持続可能性に関する事項について、経営方針・経営戦略等との整合性を意識して説明することとなる。
 そして、サステナビリティ記載欄においては、各企業におけるサステナビリティに関する考え方および取組みの状況について、国際的なフレームワークと整合的な「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の4つの構成要素に基づく開示を求めることとしている(脚注2)。具体的には、
・企業において、自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となる観点から、「ガバナンス」と「リスク管理」はすべての企業が開示する
・「戦略」および「指標及び目標」については、開示が望ましいものの、各企業が「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて重要性(脚注3)を判断して開示する
ことが求められる。
 たとえば、気候変動対応について、企業において、「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて、投資家の投資判断の観点から重要性を判断し、開示の要否を決定することとなる。その他のサステナビリティ項目の場合も、同様である。ただし、重要性の判断にかかわらず、人的資本に関し、人材の多様性の確保を含む人材育成方針や社内環境整備方針については「戦略」において、当該方針に関する指標の内容ならびに当該指標を用いた目標および実績については「指標及び目標」において、記載が求められる(サステナビリティ開示の概観は図表2を参照)。

 ③ 開示に当たっての留意点
 サステナビリティ記載欄について、今回の改正では、細かな記載事項は規定せず(脚注4)、各企業の現在の取組状況に応じて柔軟に記載できるような枠組みとしている。そのため、まずは2023年3月期の有価証券報告書から開示をスタートし、各企業の取組状況に応じて、その後、投資家との対話を踏まえ、自社のサステナビリティに関する取組みの進展とともに、有価証券報告書の開示を充実させていくことが考えられる。他方で、現在、統合報告書等の任意開示書類や、サステナビリティ開示の義務化前の有価証券報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を踏まえた気候関連情報等を開示している企業がみられており(後掲三参照)、このような創意工夫を行っている企業におかれては、今回新設されたサステナビリティ記載欄において、積極的に開示を進めていくことが期待される。
 なお、国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB」という)から本年前半中にサステナビリティ情報に関する開示基準を策定することが公表されているほか、本年2月には日本のサステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という)から、我が国におけるサステナビリティ情報の開示基準の開発計画が公表されている。これらを踏まえ、企業におかれては、今回の改正を一つの契機として、中長期的な企業価値の向上に向けて、自社におけるサステナビリティに関する取組みと共に、サステナビリティ開示について着実に検討を進めることが重要である。
 記載方法については、現時点では、たとえば、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の4つの構成要素それぞれの項目立てをせずに、一体として記載することも考えられる。ただし、このような場合も、投資家が理解しやすいよう、4つの構成要素のどれについての記載なのかがわかるようにすることも有用である(脚注5)。
 有価証券報告書における「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、直近の連結会計年度に係る情報を記載することを求めている。もっとも、その記載に当たって、情報の集約・開示が間に合わない箇所がある場合等には、投資家に誤解を生じさせないようその旨を注記した上で、概算値や前年度の情報を記載することも考えられる。また、概算値を記載した場合であって、後日、実際の集計結果が概算値から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書の訂正を行うことが考えられる(脚注6)。
 ④ 望ましい開示に向けた取組み
 サステナビリティ情報の開示に当たっては、開示原則(別添)(脚注7)において、以下のような開示が期待されるとしている。
(ア)「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示を行うこと
(イ)国内における具体的開示内容(開示基準)の設定が行われていないサステナビリティ情報の記載に当たって、たとえば、国際的に確立された開示の枠組みである気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく開示をした場合には、適用した開示の枠組みの名称を記載すること(脚注8)
(ウ)気候変動対応が重要であると判断する場合、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであり、温室効果ガス(GHG)排出量に関しては、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、特に、Scope1・Scope2の排出量については、積極的な開示を行うこと(脚注9)
(2)サステナビリティ開示に当たっての留意点
 ア 将来情報の記載と虚偽記載の責任
 ① 背 景

 サステナビリティ情報は、企業の中長期的な持続可能性に関する事項であり、将来情報を含むこととなる。有価証券報告書は、近年、経営方針や事業等のリスク等の記述情報の充実が図られており、この中で、将来情報の記載もみられてきている。これを踏まえ、2019年の内閣府令改正の際には、将来情報の記載と虚偽記載の関係について、「一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がされていた場合、提出後に事情が変化したことをもって、虚偽記載の責任を問われるものではないと考えら」れることを明らかにした(脚注10)。
 また、サステナビリティ開示について、投資家の投資判断にとって有用な情報を提供する観点では、虚偽記載の責任が問われることを懸念して、企業の開示姿勢が萎縮することは好ましくない。これを踏まえDWG報告では、前述の内閣府令改正時に示された考え方について、実務への浸透を図るとともに、開示ガイドライン等において、さらなる明確化を図ることを検討すべきであると提言された。
 ② 改正内容
 本改正では、有価証券報告書における「企業情報」の「第2 事業の状況」の「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」から「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」までに記載された将来情報について、
・有価証券報告書に記載した将来情報と実際に生じた結果が異なる場合であっても、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、ただちに虚偽記載等の責任を負うものではないこと
・「一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合」について、たとえば、社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経ている場合には、その検討内容(たとえば、前提とされた事実、仮定および推論過程等)の概要を記載することが考えられること
を開示ガイドライン五−一六−二において明確化した(脚注11)。
 「一般的に合理的と考えられる範囲」の「具体的な説明」としては、たとえば、社内(取締役会等の社内の会議体等)で合理的な根拠に基づく適切な検討を行った場合には、その旨と、有価証券報告書に記載した将来情報に関する検討過程として、前提とされた事実、仮定(たとえば、○頃までに○○のような事象が起こる等)およびこれらを基に将来情報を導いた論理的な過程(推論過程)の概要について、わかりやすく記載することを想定している(脚注12)。
 イ 他の公表書類の参照
 ① 背 景

 わが国では、グローバルに事業を展開している日本企業を中心に、統合報告書やサステナビリティ報告書などの任意開示書類等におけるサステナビリティ開示が進展しており、各企業の努力により充実した開示がみられるなど、企業の自主的なサステナビリティ開示の取組みが進んでいる。
 また、後記3(1)に記載の取締役会、指名委員会・報酬委員会の活動状況の開示については、コーポレート・ガバナンス報告書や任意開示書類において、一定の進展がみられる。
 このような有価証券報告書以外の公表書類における開示の進展を生かすとの観点から、DWG報告では、これらの開示に際して、詳細情報については、任意開示書類等を参照することが考えられること、その際の虚偽記載の責任の考え方については整理が必要であることが提言された。
 ② 改正内容
 本改正では、サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載に当たっては、
・有価証券報告書において、記載すべき事項を記載した上で、その記載事項を補完する詳細な情報について、他の公表書類を参照できること
・参照先の書類に明らかに重要な虚偽または誤解を生ずるような表示があることを知りながら参照する等、当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書の重要な虚偽記載等になり得る場合を除けば、単に参照先の書類の虚偽表示等をもってただちに虚偽記載等の責任を問われるものではないこと
を開示ガイドライン五−一六−四において明確化した。この場合、参照先の書類内の情報は、基本的には有価証券報告書の一部を構成しないとしている(脚注13)。
 なお、他の公表書類を参照するに当たっては、投資家が参照先の情報を容易に確認できるように、参照先の書類の名称、参照先のページなどを明記することにより特定することが望ましいと考えられる(脚注14・15)。
 ③ 過去または将来公表予定の書類の参照
 有価証券報告書の記載内容を補完する詳細な情報については、その旨を注記した上で、前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類を参照することも考えられる。もっとも、将来公表予定の書類を参照する際は、投資家に理解しやすいよう公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等も併せて記載することが望ましいと考えられる(脚注16)。
 ④ ウェブサイトの参照
 参照先の書類としては、企業が任意に公表する統合報告書、他の法令又は上場規則等に基づき公表する書類のほか、ウェブサイトを利用することも考えられる(脚注17)。もっとも、ウェブサイトを参照先とする場合には、
・更新される可能性がある場合はその旨および予定時期を有価証券報告書に記載した上で、更新した場合には、更新個所および更新日をウェブサイトにおいて明記する
・有価証券報告書の公衆縦覧期間中は、継続して閲覧可能とする
など、投資家に誤解を生じさせないような措置を講じることが考えられる(脚注18)。
 また、ウェブサイトのURLに修正があった場合、当該情報は、有価証券報告書における記載内容を補完する情報であることから、たとえば、参照先のURLが次年度の有価証券報告書が提出されるまでの間に変更された場合には、訂正報告書を提出することが望ましいと考えられる(脚注19)。
(3)多様性を含む人的資本に関する開示
 ① 背 景

 わが国における人的資本、多様性に関する開示については、これまで、
・2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの再改訂による、経営戦略に関連する人的資本への投資や、多様性の確保に向けた方針とその実施状況の開示の導入(脚注20)のほか、
・金融分野以外の取組みとして、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下「女性活躍推進法」という)による、女性の管理職比率や男女別の育児休業取得率、男女間賃金差異等の女性の活躍に関する情報公表の義務づけ(脚注21)や、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児・介護休業法」という)の改正による男性の育児休業等の取得状況の公表の義務づけ(脚注22)
が行われてきた。
 また、人的資本に関する情報は、多くの国際的なサステナビリティ開示のフレームワーク(脚注23)で開示項目となっており、ISSBにおける気候関連に続く基準開発のテーマの候補にも挙げられている(脚注24)。
 これらを踏まえ、DWG報告では、わが国においても、投資家の投資判断に必要な情報を提供する観点から、人的資本や多様性に関する情報について、
(i)中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とする
(ii)それぞれの企業の事情に応じ、前記の「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標および進捗状況について、同「記載欄」の「指標及び目標」の枠の開示項目とする
(iii)女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とする
ことが提言された。
 ② 改正内容
(i)サステナビリティ記載欄における開示
  前記DWG報告の提言を踏まえ、本改正では、前述のとおり、人的資本(人材の多様性を含む)に関し、
・人材の多様性の確保を含む人材育成方針や社内環境整備方針をサステナビリティ記載欄の「戦略」において記載
・当該方針に関する指標の内容ならびに当該指標を用いた目標および実績については、サステナビリティ記載欄の「指標及び目標」において記載
 することを求めることとした。
  なお、サステナビリティ記載欄における「戦略」と「指標及び目標」については、各企業が重要性を判断して開示することとされているが(前記(1)②)、企業活動における人的資本の重要性に鑑み、前記の人材育成方針および社内環境整備方針と、当該方針に関する指標の内容ならびに当該指標を用いた目標および実績については、すべての企業に開示を求めることとしている(脚注25)。
(ii)「従業員の状況」における開示
  本改正では、提出会社やその連結子会社が女性活躍推進法及び育児・介護休業法(以下「女性活躍推進法等」という)に基づき、女性管理職比率、男性の育児休業取得率および男女間賃金差異(以下「女性管理職比率等」をいう)を公表する場合には、公表するこれらの指標について、有価証券報告書の「従業員の状況」において記載を求めることとした。女性管理職比率等については、女性活躍推進法等に基づき公表しなければならないものを有価証券報告書においても開示対象とするものであり、女性活躍推進法等に基づく公表義務(努力義務は含まない)のない企業については、その記載を省略できることとされている(脚注26)。たとえば、男女間賃金差異について、提出会社は常時雇用する労働者の数が100人以下であるために女性活躍推進法上の公表義務(脚注27)がないが、その連結子会社には常時雇用する労働者の数が100人超の会社(女性活躍推進法上の公表義務がある)と100人以下の会社が存在している場合には、提出会社の有価証券報告書では女性活躍推進法上の公表義務がある100人超の連結子会社の数値を記載することとなり、提出会社やそれ以外の連結子会社の数値の記載までは求められていない。
  有価証券報告書提出会社は、女性活躍推進法等により女性管理職比率等の公表を行わなければならない連結子会社すべてに関する女性管理職比率等の開示が求められるが、有価証券報告書の「従業員の状況」の欄には、企業の判断により、主要な連結子会社のみに係る女性管理職比率等を記載し、それ以外の連結子会社に係る女性管理職比率等は「その他の参考情報」に記載することも可能である。
  なお、女性管理職比率等に関する計算方法や定義については、企業負担や情報利用者への統一的な情報提供の観点から、女性活躍推進法等の定めに従うこととされている(脚注28)。
 ③ 開示に当たっての留意点
 女性管理職比率等の定量的な指標の開示に当たっては、投資家が適切に指標を理解することが重要であるため、各企業においては、投資者の理解が容易となるように、任意の追加的な情報を記載することが可能である(開示ガイドライン五−一六−三)。
 また、有価証券報告書において男性育児休業取得率または男女別賃金差異を記載するに当たり、女性活躍推進法等に基づき公表が求められる内容を踏まえ、以下の記載が求められることを同開示ガイドラインにおいて明確化した。
・男性の育児休業等の取得率について、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則(平成三年労働省令第二五号)七一条の四各号に掲げるいずれかの割合(育児休業等の取得割合または育児休業等と育児目的休暇の取得割合)を記載する場合には、そのいずれの方法により算出したものかを明示すること
・男女間賃金差異の算出に当たり、労働者の人員数について、労働時間を基に換算し算出している場合には、その旨注記すること

 ④ 望ましい開示に向けた取組み
 女性管理職比率等については、女性活躍推進法等では個社の数値が求められていることから、個社としてのデータも有用であるとの意見もあり、また、連結ベースでの開示を求めることについては、海外子会社を有する場合における企業負担や情報の有用性の観点も考慮する必要がある。これらを踏まえ、本改正では、女性管理職比率等について、連結ベースでの開示は求めていない。もっとも、DWG報告で提言されたとおり、投資家の投資判断にとって有用である連結ベースでの開示に努めるべきであると考えられ、開示原則(別添)において、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示(脚注29)に努めるべきである旨を明記している(脚注30)。

3 コーポレートガバナンスに関する開示
(1)取締役会、指名委員会・報酬委員会等の活動状況
 ① 背 景

 指名委員会・報酬委員会を設置する企業は年々増加しているほか、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード再改訂(脚注31)もあり、取締役会、指名委員会・報酬委員会等(以下「取締役会等」という)の機能発揮の状況に対する投資家の関心も高まっている。その取締役会等の活動状況の開示について、諸外国では、法定書類で詳細に開示されており、わが国におけるコーポレート・ガバナンス報告書や任意開示書類においても一定の進展がみられる。
 このような状況を踏まえ、DWG報告では、取締役会等の活動状況の「記載欄」を有価証券報告書に設け、「開催頻度」、「主な検討事項」、「個々の構成員の出席状況」を記載項目とすべきであると提言された。  
 ② 改正内容
 本改正では、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの概要」において、
(i)取締役会
(ii)指名委員会等設置会社における指名委員会および報酬委員会
(iii)企業統治に関して提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するもの
の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役または委員の出席状況等)の記載を求めることとした。
 ただし、企業統治に関して提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するもの((iii))のうち、指名委員会等設置会社における指名委員会又は報酬委員会((ii))に相当するもの以外(脚注32)については、その記載を省略することができる。
(2)監査の信頼性確保に関する開示
 ① 背 景

 内部監査部門による報告の仕組みについて、内部監査部門がCEO等のみの指揮命令下となっており、経営陣幹部による不正事案等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されていない事例があるといった指摘がある。こうした指摘を背景に、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード再改訂において、上場企業は、デュアルレポーティングラインを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきとされている(脚注33)。現状、任意で内部監査部門の連携体制を開示している企業もある一方、どのような連携体制を取っているか開示していない企業もある。
 DWG報告では、内部監査体制の基本的な情報は投資家にとっても有用と考えられることから、有価証券報告書において、「デュアルレポーティングラインの有無を含む内部監査の実効性の説明」を開示項目とすべきであると提言された。
 ② 改正内容
 本改正では、有価証券報告書の「監査の状況」において、内部監査の状況等の一環として、デュアルレポーティングライン(内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会ならびに監査役および監査役会に対しても直接報告を行う仕組み)の有無を含む内部監査の実効性を確保するための取組みの開示を求めることとした。
 「内部監査の実効性を確保するための取組」としては、デュアルレポーティングラインの有無だけでなく、たとえば、内部監査部門の専門性や独立性を確保する仕組みなどについても記載するなど、企業における取組状況に応じた開示をすることが考えられる(脚注34)。
(3)政策保有株式等に関する開示
 ① 背 景

 政策保有株式(保有目的が純投資以外の上場株式)の開示については、投資家からみた好事例と実際の開示との乖離が大きいとの指摘がある(脚注35)。また、政策保有株式の存在自体が、わが国の企業統治上の問題であるとの指摘もあるところ、投資家と企業との間で、政策保有株式の保有の正当性について建設的に議論するための情報提供が望まれる。
 そこで、DWG報告では、政策保有株式の発行会社と業務提携等を行っている場合の説明について、有価証券報告書の開示項目とすべきであると提言された。
 ② 改正内容
 本改正では、政策保有株式の保有目的を、提出会社と政策保有株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携等としている場合には、その概要について開示を求めることとした。
 政策保有株式の保有目的に関する開示については、前述の本改正の背景を踏まえ、「営業上の取引」または「業務上の提携」といった定型的な記載をするにとどまるのではなく、前述の本改正により求められる記載事項も活用して、投資者と企業の対話に資する具体的な開示内容となるよう各企業において適切に検討されることが期待される(脚注36)。

4 適用時期
 これらの開示府令の改正は、令和5年1月31日に公布・施行されている。また、開示ガイドラインの改正は、同日より適用されている。なお、改正後の開示府令の規定は、令和5年3月31日以後に終了する事業年度を最近事業年度とする有価証券届出書および当該事業年度に係る有価証券報告書から適用される。ただし、施行日以後に提出される有価証券届出書及び有価証券報告書については、早期適用が可能である。

脚注
1 サステナビリティの概念は、さまざまな主体において説明が行われており、たとえば、わが国のコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードでは、「ESG要素を含む中長期的な持続可能性」とされている。サステナビリティ情報には、国際的な議論を踏まえると、たとえば、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項が含まれ得ると考えられる(開示原則(別添)(注1))。
2 4つの構成要素の定義については、ISSBの公開草案を参考に規定している(金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令(案)』に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2023年1月31日)(以下「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」という)No.127~No.134参照)。
3 重要性の判断に当たっては、「記述情報の開示に関する原則」(2019年3月公表)2-2において、「記述情報の開示の重要性は、投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断すべきと考えられる」としており、その重要性は「その事柄が企業価値や業績等に与える影響度を考慮して判断することが望ましい」としていることを参考にすることが考えられる(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.88~No.96参照)。
4 たとえば、TCFD提言では「戦略」において開示が推奨されているシナリオ分析や、「指標及び目標」において開示が推奨されているScope1、Scope2等については、開示府令において、開示を求める事項として規定されていない。
5 なお、今後、国際的に、開示のプラクティスが進展していく過程で、開示の仕方に変化が生じる可能性はある点に留意する必要がある(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.83~No.87参照)。
6 なお、2022年3月にISSBから公表されたサステナビリティ開示基準の公開草案では、サステナビリティ情報について、財務情報との結合性や、財務諸表と同じ報告期間を対象とすることが求められており、今後のISSB基準の最終化や、SSBJにおいて策定されるISSB基準と整合的な国内基準の内容も踏まえ、適切な情報開示に向けて検討していくことが重要である(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.238~No.241参照)。
7 サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であることから、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、開示原則の改訂を行うことが考えられる(開示原則(別添)1頁参照)。
8 有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の「記載欄」において、保証を受けている旨を記載する際には、投資家の投資判断を誤らせないよう、たとえば、保証業務の提供者の名称、準拠した基準や枠組み、保証水準、保証業務の結果、保証業務の提供者の独立性等について明記することが重要と考えられる(金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(令和4年12月27日)16頁参照)。
9 Scope1:事業者自らによる GHGの直接排出、Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、Scope3:Scope1・Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)。
10 企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(2019年1月)No.16参照。
11 経営者が、有価証券届出書に記載すべき重要な事項であるにもかかわらず、投資者の投資判断に影響を与える重要な将来情報を、届出書提出日現在において認識しながら敢えて記載しなかった場合や、重要であることを合理的な根拠なく認識せず記載しなかった場合には、虚偽記載等の責任を負う可能性があることについても、併せて明確化した。
 なお、開示ガイドライン五−一六−二では有価証券届出書に将来情報を記載する場合の取扱いを定めており、この取扱いが開示ガイドライン二四−一〇により有価証券報告書に準用されている(2(2)イの他の公表書類を参照する場合の取扱い(開示ガイドライン五−一六−四)についても、同様である)。
12 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.214~No.217参照。
13 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.281~No.283参照。なお、参照先の書類の名称やページなどを明記することで、参照先の特定ができることをもってしても、基本的には有価証券報告書の一部を構成することにはならない。
14 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.281~No.283参照。
15 有価証券報告書の記載内容を補完する詳細情報について他の書類を参照するに当たっては、その概要については有価証券報告書に記載することも投資者にとって有用と考えられる(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.254~No.256参照)。
16 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.238~No.241参照。
17 有価証券届出書の公衆縦覧期間中は、参照先の書類も投資家が無償でかつ容易に閲覧できることが望ましい(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.278参照)。
18 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.257~No.261参照。
19 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.263~No.266参照。
20 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」補充原則二-四①、三-一③。
21 一定以上の労働者を常時雇用する事業主に対するものであり、情報の公表項目の選択肢として、女性の管理職比率や男女別の育児休業取得率が位置づけられている。
22 2023年4月より、労働者を1,000人超常時雇用する事業主に対して、育児休業等の取得割合または育児休業等と育児目的休暇の取得割合のいずれかの公表が義務づけられる。
23 国際統合報告評議会(IIRC)では、人的資本を、ビジネスモデルへのインプットとなる資本の一つとしてとらえている。サステナビリティ会計基準審議会(SASB)では、人的資本に関する開示要求事項として、労働慣行、従業員の安全衛生、従業員エンゲージメント、ダイバーシティ&インクルージョンを挙げている。
24 ISSBは、気候関連に続く基準開発のテーマについて意見を求めるため、2023年前半に市中協議を実施する予定。
25 前記のとおり人的資本に関する開示は全企業に対して求められるが、有価証券報告書は、投資情報として必ずしも重要でない事項について、漏れなく開示が要求されるものではないとされており(開示ガイドライン一−七(2))、たとえば、自社の人材育成方針に関して複数存在する指標等のうち必ずしも投資判断上重要でない指標等を、漏れなく開示することまでは求められていないと考えられる。
26 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.36~No.38等参照。
27 「女性活躍推進法上の公表義務」には、努力義務は含まないが、常時雇用する労働者の数が301人以上である場合のほか、101人以上300人以下であり公表項目として女性管理職比率等を選択した場合の公表義務も含んでいる。
28 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.39等参照。
29 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則二条五号に規定されている「連結会社」ベースで開示するほか、企業において、投資家に有用な情報を提供する観点から提出会社グループのうち、より適切な範囲を開示対象とすることも考えられる。なお、企業において独自の範囲を開示対象とする場合には、当該グループの範囲を明記することが重要である。(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.43~50参照)。
30 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.13~No.17参照。
31 取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会、報酬委員会を設置し、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり、これらの委員会の適切な関与・助言を得るべきであるとされた。(東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」補充原則四−一〇①参照。)
32 「企業統治に関して提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するもの」は、開示府令第二号様式記載上の注意(54)aで従前から開示が求められているものと同様、企業ごとにさまざまなものが考えられ、個別に判断する必要があるが、「指名委員会等設置会社における指名委員会又は報酬委員会に相当する任意の委員会」以外では、たとえば、経営会議やサステナビリティ委員会についても、企業によっては、これに含まれ得ると考えられる(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.289~No.295参照)。
33 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」補充原則四−一三③参照。
34 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.317参照。
35 開示の拡充が図られた経営方針や事業等のリスク、役員報酬等については、「記述情報の開示の好事例集」が公表されている一方で、政策保有株式については、好事例集の公表に代えて、「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」が公表されている。
36 パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.318~No.326参照。

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