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解説記事2023年05月29日 論考 グローバル・ミニマム課税制度の課題(2023年5月29日号・№980)

論考
グローバル・ミニマム課税制度の課題
 神奈川大学名誉教授 葭田英人

1 はじめに

 2022年12月16日「令和5年度税制改正大綱」により、国際課税制度の見直しに係る国際合意に沿って法人税の引き下げ競争に歯止めをかけ、企業間の公平な企業環境の整備に資するグローバル・ミニマム課税制度を導入することが公表された。なお、グローバル・ミニマム課税制度の所得合算ルールが、2024年4月1日以降に開始する会計年度から適用されることが明らかになった。
 2023年3月に公布された所得税法等の一部を改正する法律において、国際最低課税額に対する法人税等の創設(グローバル・ミニマム課税制度)が行われた。なお、グローバル・ミニマム課税制度の導入に伴い、対象企業に事務負担が生じることから、外国子会社合算税制等(CFC税制)の見直しも行われた。
 グローバル・ミニマム課税制度により、世界中のどこで企業活動を行っても最低15%の法人税が課税されることになり、実効税率が15%を下回る場合には、最終親会社等に上乗せ課税されるため、多国籍企業グループは実効税率が15%を下回る国に進出するインセンティブがなくなり、法人税の引き下げ競争が収束するものとみられている。ただし、グローバル・ミニマム課税は、多国籍企業グループが対象となるため、海外子会社を有するすべての企業が関係するわけではないが、全く影響がないわけではない。
 そこで、グローバル・ミニマム課税制度の概要および外国子会社合算課税制度との関係について検討し、導入に向けた課題について考察する。

2 導入の経緯

 経済のデジタル化に伴いグローバル企業の課税上の問題として2つ挙げることができる。1つ目として、市場国は、物理的拠点(恒久的施設等)がない場合には課税権が持てない問題、2つ目として、軽課税国への利益の移転に対する問題である。
 2021年10月、経済協力開発機構OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応として、市場国への課税権の配分(デジタル課税)と国際最低課税(グローバル・ミニマム課税)について国際合意が行われた。
 デジタル課税制度は、インターネットを利用したGAFAMなどのデジタル取引において、市場国で売上が発生していても、支店や工場などの物理的拠点がないと市場国では課税できないという問題を解決するために、物理的拠点の有無にかかわらず、その売上等に応じて市場国に一定の課税権を配分するものである。
 また、無形資産等の移転により、企業が獲得した利益を軽課税国へ移転させ、税負担の軽減を図ることにより高税率国の課税権が浸食されることになる。さらに、企業誘致を図るために法人税率の引き下げ競争が激化することにもなる。グローバル・ミニマム課税制度は、世界中どこで企業活動により利益を得ても、最低15%の法人税が課税されることになり、利益移転を防止し、法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけることを目的とするものである。
 グローバル・ミニマム課税制度は、税源浸食と利益移転に対して、企業間の公平な競争環境を国際的に整備するものとして導入された。しかし、デジタル課税制度は、多国籍企業グループの収益の一部を国同士で分け合って課税する仕組みであることから、多国間条約の批准が前提となるため実現は難航している。そこで、本稿では、グローバル・ミニマム課税制度の課題について整理する。

3 グローバル・ミニマム課税制度の概要

(1)国際最低課税額に対する法人税の創設
 2023年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税制度のうち、子会社等の税負担が基準税率15%に至るまで親会社に対して課税する所得合算ルール(IIR)に係る法制化として、国際最低課税額に対する法人税が創設された。他にも、親会社等の税負担が基準税率15%に至るまで子会社等に対して課税する軽課税所得ルール(UTPR)、自国に所在する事業体の税負担が基準税率15%に至るまで課税する国内ミニマム課税(QDMTT)があるが、これらについては、OECDにおいて2023年以降議論される見込みであることから、その議論を踏まえ、2024年度税制改正以降の法制化の予定である。
 所得合算ルール(IIR)に係る国際最低課税額に対する法人税は、多国籍企業グループ等のうち、各対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち2以上の会計年度のグループ全体の年間総収入金額が7億5,000万ユーロ(約1,100億円)以上の特定多国籍企業グループ等に属する内国法人(法人税法4①、6の2、82四)を対象とし、一定の適用除外(有形資産と支払給与の一定割合)を除く所得について各国ごとに基準税率15%以上の課税を確保する仕組みであり、子会社等の所在する軽課税国での税負担が基準税率15%に至るまで、日本に所在する親会社等に対して上乗せ課税(トップアップ課税)する制度である(法人税法82の2~82の4)。
(2)適用免除基準
 特定多国籍企業グループ等は、進出先国が数十か国に及ぶような場合、事務負担が大きくなるため、適用免除基準(デミニマス)が定められ事務負担の軽減が図られている。特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等(各種投資会社等を除く。)が、各対象会計年度において、次の①と②の要件をすべて満たす場合には、その構成会社等の所在地国における当期国別国際最低課税額は零とすることが選択できる(法人税法82の2⑥)。
① その構成会社等の所在地国ごとにおける特定多国籍企業グループ等の収入金額の直近3年間の平均額が1,000万ユーロに満たないこと
② その構成会社等の所在地国ごとにおける特定多国籍企業グループ等の利益または損失の額の直近3年間の平均額が100万ユーロに満たないこと 
 さらに、2024年4月1日から2026年12月31日までの間に開始する各会計年度(2028年6月30日までに終了するものに限る。)については、(ア)前記のデミニマス要件をすべて満たすこと、(イ)簡易に計算した実効税率が一定の税率以上であること、(ウ)国ごとの利益の額が実質ベースの所得除外額以下であること、のいずれかの要件を満たす場合には、その構成会社等の所在地国におけるグループ国際最低課税額は零とすることが選択できる適用免除基準(国別報告事項セーフハーバー)が定められている(令和5年改正法附則14①②)。
(3)税額の計算
 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税の額は、各対象会計年度の国際最低課税額(課税標準)に100分の90.7の税率を乗じて計算した額である(法人税法82の5)。なお、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に係る地方法人税として、特定基準法人税額(国際最低課税額に対する法人税額)に対する地方法人税が創設され、課税標準として特定基準法人税額に907分の93の税率を乗じて計算した金額である(地方税法5~7、24の2、24の3)。
(4)申告および納付
 申告および納付については、特定多国籍企業グループ等に属する内国法人は、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3か月(一定の場合には1年6か月)以内に、税務署長に対して行わなければならない(法人税法82の6、82の9)。なお、地方法人税の申告および納付についても同様の扱いとなる(地方税法24の4、24の7)。ただし、適用時期は、2024年4月1日以後に開始する対象会計年度からとなる(令和5年改正法附則11、17)。
(5)情報申告制度
 特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等である内国法人は、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3か月(一定の場合には1年6か月)以内に、次の事項等を英語で電子情報処理組織(e-Tax)を使用して所轄税務署長に提供しなければならない(法人税法150の3)。
① 特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等の名称
② 当該構成会社等の所在地国ごとの国別実効税率
③ 特定多国籍企業グループ等のグループ国際最低課税額その他必要な事項
 ただし、特定多国籍企業グループ等の最終親会社等の所在地国の税務当局が、特定多国籍企業グループ等の報告事項等に相当する情報の提供をわが国に対して行うことができると認められる一定の場合には、内国法人の提供義務が免除される。なお、適用時期は、2024年4月1日以後に開始する対象会計年度からとなる(令和5年改正法附則16①)。

4 外国子会社合算課税制度(CFC税制)との関係

 外国子会社合算課税制度とは、多国籍企業による外国子会社等を利用した租税回避に対処するため、一定の要件に該当する場合、外国子会社等の所得相当額のうち一定額を、日本の親会社の所得とみなして合算課税を行う制度である。
 多国籍企業グループ等は、外国子会社合算課税制度への対応で既に多くの事務負担を負っており、グローバル・ミニマム課税制度が適用されれば重複も見られ、さらなる事務負担が見込まれる。しかし、両制度は、外国子会社等を利用した租税回避防止と軽課税国への利益移転防止という目的が異なることから併存することになっている。
 そこで、グローバル・ミニマム課税制度の導入に伴い、外国子会社合算課税制度の事務負担軽減と簡素化の観点から、次の①、②の見直しが行われた。
① 特定外国関係会社(ペーパーカンパニー等)に係る会社単位の合算課税の適用を免除する租税負担割合の基準が30%以上から27%以上に引き下げられた(租税特別措置法66の6⑤一)。
② 租税負担割合が20%未満の部分対象外国関係会社のうち、次のイ)、ロ)のいずれかに該当する事実があるものに関する書類の確定申告書添付を除外する。ただし、保存は必要である(租税特別措置法66の6⑪⑫)。
 イ)各事業年度における部分適用対象金額が2,000万円以下であること
 ロ)各事業年度の決算における所得金額相当額のうち部分適用対象金額の占める割合が5%以下であること
 この改正の適用時期が、2024年4月1日以後に開始する事業年度からとなる(令和5年改正法附則48)。なお、特定外国関係会社以外の外国子会社等のトリガー税率についての改正はなく20%のままである。
 外国子会社合算課税制度では、経済実態に応じ一定の要件を満たす外国子会社の所得について合算課税が免れる。グローバル・ミニマム課税では、すべての所得について上乗せ課税の計算対象となってくる。なお、両制度の計算対象の重複部分は二重課税となるため調整が必要である。

5 導入に向けた課題

 今後、グローバル・ミニマム課税制度における軽課税所得ルール(UTPR)および国内ミニマム課税(QDMTT)が法制化されると、さらに制度は複雑化する。特定多国籍企業グループ等の親会社が軽課税国に所在し、その子会社等が日本に所在する場合、日本において所得合算ルール(IIR)を適用できないことになる。そこで、所得合算ルール(IIR)を補完する機能として、軽課税国に所在する親会社の税負担が基準税率15%を下回る場合、15%までの不足額(トップアップ税額)を子会社等の所在する日本において課税できるルールが軽課税所得ルール(UTPR)である。
 また、軽課税国は、自国に所在する基準税率15%未満の子会社等に対して、所得合算ルール(IIR)や他国の軽課税所得ルール(UTPR)を排除し、親会社に課税が行われる前にトップアップ税額を自国で課税できるルールが国内ミニマム課税(QDMTT)である。もし、軽課税国の国内法で国内ミニマム課税(QDMTT)が導入されると、トップアップ税額は軽課税国が課税することになり、日本は課税権を失うことになる。そこで、日本の外国子会社合算課税制度(CFC税制)の合算課税の対象とし、課税権を確保できる改正の検討が必要となる。
 一方、グローバル・ミニマム課税の適用を受けない企業については、軽課税国では自国の法人税率をいくら低く抑えても、15%までのトップアップ税額はグローバル・ミニマム課税を導入した親会社の所在地国の税収となることから、企業誘致を図るための法人税率の引き下げ競争がなくなり、法人税率引き下げ競争を抑止することができる。逆に、軽課税国は、税収確保のため法人税率を引き上げることになり、これまでのようなメリットもなくなる。
 また、軽課税国が国内ミニマム課税(QDMTT)を導入した場合、グローバル・ミニマム課税の適用のある企業ではトップアップ税額を自国の税収とすることができることから、所得合算ルール(IIR)および軽課税所得ルール(UTPR)の課税は行われることはない。さらに、各国は法人税率の引き下げを行い、引き下げ競争が激化する可能性がある。
 今般、グローバル・ミニマム課税のうち、所得合算ルール(IIR)は、2023年度税制改正において法制化され、2024年4月1日以降に開始する会計年度から適用されることとなった。しかし、軽課税所得ルール(UTPR)および国内ミニマム課税(QDMTT)については、今後、OECDにおいても議論され、2024年度税制改正以降の法制化が見込まれている。一方、日本の外国子会社合算課税制度(CFC税制)についても、さらなる既存制度との調整が必要であろう。
 言うまでもなく、海外への進出を検討している企業または既に進出している企業であっても、今後の日本の税制改正や各国の税制改正の動向を注視していくことが肝要である。

葭田英人 よしだ ひでと
筑波大学大学院修了。専門分野は、会社法・税法・信託法。近著は『コーポレートガバナンスと社外取締役・社外監査役』(三省堂・2020)、『会社法入門(第六版)』(同文舘出版・2020)、『合同会社の法制度と税制(第三版)』(税務経理協会・2019)など。

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