解説記事2023年06月19日 SCOPE 地裁、課税ないドバイ法人はドバイの居住者に該当せず(2023年6月19日号・№983)
ドバイLLCに租税条約は適用されるか
地裁、課税ないドバイ法人はドバイの居住者に該当せず
ドバイに本店を置くLLCに租税条約が適用されるかどうかが争われた事案で、東京地裁民事38部(鎌野真敬裁判長)は令和5年5月30日、ドバイに源泉のある所得に限って課税対象としているUAE及びドバイの税制の下においては、ドバイ法人はドバイの「居住者」には当たらないとして租税条約は適用されないとの判断を下し、課税処分を適法とした。
租税条約、「居住者」は居住者基準によりドバイで課税を受けるべきもの
本件の原告は、アラブ首長国連邦(UAE)の首長国の一つであるドバイに本店を置くリミテッドライアビリティカンパニー(LLC)である。
本件ではまず、原告が、日本・アラブ首長国連邦租税条約(本件条約)4条1の「一方の締約国の居住者」(ドバイの居住者)に該当し、本件条約の適用対象となるのかが争われた。
連邦国家であるUAEでは、法人に対する連邦レベルの課税制度が設けられておらず、各首長国が独自の課税制度を有している。また、ドバイでは、ドバイ所得税命令が、全ての課税対象者の課税所得に対して所定の税率による所得税を課す旨規定しているが、現時点において、実際に租税を課されているのは、石油会社、ガス会社、石油化学会社又は外国銀行の支店等に限られており、原告は、UAE及びドバイにおいて租税を課されていない。
東京地裁は、本件条約4条1は、表のとおり、「一方の締約国の居住者」を居住者基準(住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、事業の管理の場所その他これらに類する基準)により判断することとしていると指摘。一方、連邦国家としてのUAEは、法人に対する課税制度を設けておらず、ドバイ所得税命令は、表のとおり、居住者基準により課税を受けるべきものとされる者を判定する制度を採用しておらず、ドバイに源泉のある所得に限って課税対象とする旨規定していることから、UAE及びドバイの税制の下においては、ドバイ法人は、ドバイの「居住者」、すなわち本件条約4条1の規定する「一方の締約国の居住者」には当たらないとの判断を下した。
【表】
(日・アラブ首長国連邦租税条約)要約 4条1 「一方の締約国の居住者」とは、「一方の締約国の法令の下において、住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、事業の管理の場所その他これらに類する基準により当該一方の締約国において課税を受けるべきものとされる者」をいい、「一方の締約国内に源泉のある所得のみについて当該一方の締約国において租税を課される者を含まない」 →「住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、事業の管理の場所その他これらに類する基準」(居住者基準)により判断 |
(ドバイ所得税命令2条3) 「課税対象者」とは、直接であるか他の法人による代理を通じてであるかにかかわらず、課税年度のいずれかの時点において、ドバイに存在する恒久的施設を通じて取引又は事業を遂行し、かつ、ドバイ所得税命令に基づき課税される所得税債務を他の根拠に基づき免除されない法人であり、設立地は問わず、また、当該法人の全ての支店も含まれる →源泉地管轄に基づき、国内に源泉のある所得のみを課税の対象とする |
その上で東京地裁は、ドバイのLLCである原告も、本件条約4条1の規定する「一方の締約国の居住者」に当たらないから、本件条約1条により、原告に本件条約の適用はないと結論づけた。
原告の所得は恒久的施設帰属所得
続いて、原告に国内源泉所得があるかどうかが検討された。
原告の主なビジネスは、顧客に対して、資金移動サービスや暗号資産売却サービスなどの役務提供を行い、「決済手数料」と称する対価を収受するというもの。また、原告は、顧客に関連会社株式を譲渡し、それに付随する役務提供による「決済手数料」も収受していた。
東京地裁はまず、原告の事務所(本件活動拠点)は、当該事務所での事業の活動状況等から、事業を行う一定の場所であり、「恒久的施設」に当たると認定した。
そして、平成29年及び平成30年事業年度については、平成26年度税制改正による国際課税原則の帰属主義への見直しを踏まえ、所得が恒久的施設に帰属する所得であるかどうかを検討した。その結果、本件活動拠点が①本件各関連会社株式の販売に係る人的機能を有しており、②居室及び各種事務機器は本件各関連会社株式の譲渡を行うための資産であり、③ドバイ本店は、本件各関連会社株式の譲渡に関し積極的な意思決定を行っていたとはいえず、利益変動リスクは本件活動拠点が負っていたと判断し、役務提供に係る収入についても同様であるとした。
結論として、東京地裁は、原告の本件各事業に係る所得は、いずれも国内源泉所得に当たるとして、課税処分を適法とした。
UAEは2023年6月から法人税導入
なお、これまでUAEは、実質的な法人税ゼロを掲げ、外国企業誘致の際のインセンティブの1つとしてきたが、2023年6月から法人税を導入すると発表している。ただし、UAE国内でビジネスを行っていない外国投資家や、投資により得たキャピタルゲイン・配当は課税対象外であり、フリーゾーン企業については、「全ての必要条件を満たす場合は、引き続きインセンティブを得られる」としている。
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