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解説記事2023年07月17日 SCOPE 国内の“生活の本拠たる実体”、最終年度のみ認められず(2023年7月17日号・№987)

地裁、「住所」の内外判定で一部取消し判決
国内の“生活の本拠たる実体”、最終年度のみ認められず


 所得税法上の「住所」の内外判定が争われた事案で、東京地裁民事3部(市原義孝裁判長)は令和5年4月12日、対象年度の三年分のうち、最後の一年分については、原告の生活の本拠たる実体が国内にあったとまでは認められないとして、原告が所得税法上の「居住者」であることを前提として行われた課税処分を一部取り消した。原告の国外におけるビジネスが軌道に乗り始め、滞在日数、住居及び職業の状況がそれまでとは異なることとなった点が判断のポイントとなったと思われる。

国外ビジネスが軌道に乗り、従事度合い及び滞在日数の変化が決め手に

 DM発送代行会社(原告会社)の元代表取締役で、発行済株式の全部を保有するO氏(原告)は、平成25年5月30日にシンガポールに渡航したが、処分行政庁は、平成25年から平成27年において原告が所得税法上の「居住者」に該当することを前提として、原告の所得税等及び原告会社が原告に支払った役員報酬に係る源泉所得税等につき、更正処分等を行った。本件は原告らが、原告は「居住者」に該当するとは言えないとして、各処分の取消しを求めた事案である。
 東京地裁は、住所の内外判定の判断枠組みとして、いわゆる武富士事件の最高裁判決(最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決)などを引用し、「一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきもの」とした上で、「客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かは、①その者の所在(滞在日数及び住居)、②職業、③生計を一にする配偶者その他の親族の居所、④資産の所在等を総合的に考慮して判断すべきもの」と、先行判決と同様の解釈を示した。
 そして、①~④の各要素について次頁表のとおり判断し、主に①滞在日数及び住居、②職業から、「平成25年及び平成26年においては、原告の生活の本拠たる実体が国内の三田物件B2902号室にあったと認められるが、平成27年においては、その生活の本拠たる実体が同室にあったとまでは認められない」と結論付けた。
 原告は、原告会社のほか国内に複数の会社(本件日本各社)の株式を保有し、多額の役員報酬等の支払を受けていたが、業務内容は限定的という職業状況は、いずれの年度においても変わらなかった。年度によって結論が異なることとなったポイントとしては、それまでなかなか軌道に乗らなかった、原告がシンガポールで始めたK社のワイン事業が、平成27年ごろから軌道に乗り始め、原告の従事度合い、滞在日数がそれまでとは異なり、大きく増加した点にあると思われる。

【平成25年及び平成26年の状況】

その者の所在
(滞在日数及び住居)
・三田物件B2902号室は、その大部分がゴルフ道具や衣装等を保管する倉庫として使用されていたため、家具や衣服等が十分に備えられていたシンガポール物件と比較するとそれらが充実していたとはいえないが、それでもベッド、トイレ、風呂等の生活に必要な設備等、原告の衣服等もある程度はあり、継続的な生活を送るための住居といえるだけの実態が最低限あった。
・国内の滞在日数がシンガポールの滞在日数を2.5倍以上、上回っている。
職業 ・原告会社の代表取締役等を務め、本件日本各社から多額の役員報酬等の支払を受けていた。
・毎月国内に帰国し、関係者等との飲食、ゴルフ番組の収録等のほか、人事や取引額の決定等につき、最終的な意思決定をするなどしていたが、国内で従事すべき業務は限られていて、最終的な意思決定についても、担当者等による口頭等での説明を受けて追認等をする程度のものであった。
・国内における飲食等は、個人的な付き合いとしてされた側面が強い。
・シンガポールでは、専らK社のワイン事業に従事しており、自らシンガポールに滞在する必要性があったものの、1か月以上も連続してシンガポールに渡航していない期間も間々あったことから、その頻度等からして、原告の生活の本拠たる実体を判断する上での決定的な事情にはならない。
生計を一にする配偶者その他の親族の居所 ・生計を一にする配偶者その他の親族はおらず、本件前妻については、長年、別居状態であったし、本件長女についても、交流等はなかったことから、この観点をもって、原告の生活の本拠たる実体を判断する上で有意な差があるということはできない。
資産の所在 ・原告の主な資産等は、いずれも自ら国内又はシンガポールに滞在しなければその管理等が困難なものとまでは認められないから、この観点をもって、原告の生活の本拠たる実体を判断する上で有意な差があるということはできない。

【平成27年の状況】

その者の所在
(滞在日数及び住居)
・K社のワイン事業が軌道に乗り始め、毎月シンガポールに滞在するようになり、それまで使用してきた物件ではなく3階建てでワイン倉庫を併設した物件を賃借し、そこで生活していた。
・滞在日数は、国内が177日、シンガポールが163日であり、国内での滞在日数は、年間の半分に満たない。シンガポールでの滞在日数と有意な差があるということはできない。
・国内では三田物件B2902号室を拠点としつつ他の場所を転々としており、同室に滞在しないことが多かった。同室には継続的な生活を送るための住居といえるだけの実体が最低限あったにとどまり、シンガポール物件と比較してそれらが充実していたとはいえない。
職業 ・上記に加えて、第三国へ渡航してK社のワイン事業の仕入れ等をしていたことを加味すると、シンガポールでK社のワイン事業に従事していた日数は少なくとも週4日程度であり、その日数を計算すると115日で年間の32%程度は従事していたことになる。
・国内での職業については、平成25年及び平成26年と大きく変わるものではなく、国内で従事すべき業務は限られていたし、最終的な意思決定についても、担当者等による口頭等での説明を受けて追認等をする程度のものにとどまっていた。
・国内における飲食等は個人的な付き合いとしてされた側面が強い。
・国内で飲食店にいた日数とゴルフ番組の収録等に日数を加味した日数は65日で、年間の18%程度しか従事していない。
生計を一にする配偶者その他の親族の居所 ・原告の生活の本拠たる実体を判断する上で有意な差が認められないことは、平成25年及び平成26年と変わりがない。
資産の所在 ・原告の生活の本拠たる実体を判断する上で有意な差が認められないことは、平成25年及び平成26年と変わりがない。

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