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解説記事2023年07月24日 ニュース特集 パーシャルスピンオフ、会計処理の方向性(2023年7月24日号・№988)

ニュース特集
配当する子会社株式の適正な帳簿価額で
パーシャルスピンオフ、会計処理の方向性


 企業会計基準委員会(ASBJ)は、令和5年度税制改正でパーシャルスピンオフ税制が創設されたことを踏まえ、現在、パーシャルスピンオフの会計処理について検討を行っているが、その方向性が明らかになってきた。具体的には、個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式及び関連会社株式のいずれにも該当しなくなった場合には、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する取扱いを定める方向だ。現行のスピンオフと同様の取扱いとなる。

現行の会計処理がパーシャルスピンオフ利用のネックに

 スピンオフとは、自社の子会社や一部門を、自らの株主への子会社株式の現物配当(又は会社分割)により、独立させる組織再編の手法のことだが、パーシャルスピンオフとは、このうち、スピンオフを行う企業に持分を一部残すものを指す。令和5年度税制改正では、令和6年3月31日(同日までに産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けることが必要)までの時限措置として、再編時の譲渡損益や配当に対する課税を対象外とするパーシャルスピンオフ税制が導入されている(図表参照)。これにより、現在の企業グループにとどまっていては成長戦略の実現が難しい事業を分離・独立させることにより、企業が有する経営資源(人材、技術等)の潜在力を発揮させることが期待されている。

 しかし、現行の会計上の取扱いをみると、配当財産が金銭以外の財産であって、保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)するスピンオフの場合については、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第10項(2)により、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもって、その他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額することになるが、保有する完全子会社株式の20%未満をスピンオフ実施法人に残すパーシャルスピンオフの場合は、「保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合」に該当しないため、帳簿価額ではなく、時価によることになってしまう。
 このため、経済産業省は、このままでは現行の会計上の取扱いがネックとなり、企業がパーシャルスピンオフを利用しづらい状況になるとし、財務会計基準機構(FASF)の企業会計基準諮問会議に対し、会計処理の検討を要望し、これを受けた企業会計基準委員会が検討していたものである。

すべての子会社株式を配当するスピンオフと同様の会計処理に

 現時点で明らかになっているパーシャルスピンオフの会計処理については、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」を改正し、「保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式及び関連会社株式のいずれにも該当しなくなった場合」は、スピンオフと同様、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもって、その他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する例外的な取扱いを設ける方向となった。
 今回の取扱いについては、事業に対する投資の継続・清算という考え方に基づく移転損益や交換損益ではなく、前述した現行の自己株式適用指針第10項(2)を前提として、どの程度持分を残した場合に、損益計上しないかどうかを検討。一部の持分を残す按分型の子会社株式の配当がスピンオフとして子会社の事業を分離・独立させる目的で行われる場合には、その取引の趣旨を勘案し取引全体を俯瞰して考えると、既存の株主以外の第三者が取引に参加しておらず、保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合と同様の取扱いを設けることが考えられるとしている。
対象範囲は税制と同じ
 なお、今回の基準開発の対象範囲は、パーシャルスピンオフ税制については令和6年3月31日までの時限措置であるため、早期に基準開発を完了すべきとのニーズがあることから、現実的に発生する可能性が高い税制上のパーシャルスピンオフと同様、パーシャルスピンオフ実施法人に完全子会社株式の発行済株式総数の20%未満を残すケースとしており、対象外の範囲については、今後、基準開発の範囲を拡大するかどうか、企業会計基準委員会において判断することとされている。

連結財務諸表上も損益は計上せず、資本連結実務指針を改正へ

 連結財務諸表の取扱いについては、個別財務諸表と同様の取扱いとするよう、日本公認会計士協会が公表している会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」を改正する方針だ。
 具体的には、個別財務諸表における取扱いと同じ範囲で、連結財務諸表においても現物配当に係る損益を計上しないこととする。このため、配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額(その他の包括利益累計額を除く)のうち、付随費用並びに子会社株式の追加取得によって生じた資本剰余金を除いた金額については損益を修正するものではなく、親会社持分の減少から生じたものとして、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に子会社株式の配当に伴う持分の増減等その内容を示す適当な名称をもって計上することになるとしている。
組替調整額の対象とならず
 個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用並びに子会社株式の追加取得によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額については、連結財務諸表上、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を修正する。
 なお、当該処理に伴って減少するその他の包括利益累計額は当期純利益を構成するものではないため、組替調整額(包括利益会計基準第9項)の対象とはならず、連結株主資本等変動計算書における当連結会計年度の増減として表示することになる。また、連結貸借対照表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価する(連結会計基準第29項)。このため、配当後の投資の修正額は取り崩し、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う持分の増減等その内容を示す適当な名称をもって計上するとしている。

パーシャルスピンオフ、税制適格の場合は繰延税金資産を計上せず
 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異については、原則として、連結決算手続上、繰延税金資産を計上しないこととされているが、予測可能な将来の期間に、子会社に対する投資の売却等を行う意思決定又は実施計画が存在する場合には、繰延税金資産を計上することとされている(税効果適用指針第22項)。今回の改正では、個別財務諸表及び連結財務諸表のいずれにおいても適正な帳簿価額で配当したとして会計処理し、現物配当に係る損益を計上しないこととされているため、パーシャルスピンオフの要件を満たし税制適格である場合には、会計上の損益が計上されず、また税務上も益金が生じない。したがって、税効果会計については、税制適格の場合は子会社株式を配当する意思決定又は実施計画が存在したとしても繰延税金資産を計上しないことになる(本誌985号10頁参照)。

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