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解説記事2023年07月24日 税制改正解説 令和5年度における納税環境整備に関する改正について(上)(2023年7月24日号・№988)

税制改正解説
令和5年度における納税環境整備に関する改正について(上)
 甲田圭人

はじめに

 令和5年度税制改正では、持続的な経済成長や、より公平で中立的な税制の実現等の観点から、個人所得課税、資産課税、法人課税、消費課税、国際課税、納税環境整備等について所要の措置が講じられた。
 これらのうち納税環境整備については、電子帳簿等保存制度の見直しを行うとともに、高額な無申告に対する無申告加算税の割合の引上げ、一定期間繰り返し行われる無申告行為に対する無申告加算税等の加重措置の整備を行う等の措置が講じられている。
 以下では、これらの法令改正の主な内容について説明することとする。

一 電子帳簿等保存制度の見直し

Ⅰ 改正前の制度の概要

1 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存制度の概要
(1)国税関係帳簿の電磁的記録による保存等

 国税に関する法律の規定により国税関係帳簿書類の保存をしなければならないこととされている者(以下「保存義務者」という。)は、国税関係帳簿の全部又は一部について、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合には、次の要件の下、その電磁的記録の備付け及び保存をもってその帳簿の備付け及び保存に代えることができることとされている(電子帳簿保存法4①、電子帳簿保存法規則2①)。
① 電子計算機処理システムの概要書等の備付け
  電子計算機処理システムの概要を記載した書類その他そのシステムの開発に際して作成した書類等を備え付けることとされている(旧電子帳簿保存法規則2②一)。
② 見読可能装置の備付け等
  国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をする場所にその電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこととされている(旧電子帳簿保存法規則2②二)。
③ ダウンロードの求めに応じること(旧電子帳簿保存法規則2②三)
  国税に関する法律の規定によるその国税関係帳簿に係る電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしておくこととされている。なお、優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の適用を受けるための一定の要件(下記(3)②イ(イ)~(ハ)の要件)に従ってその電磁的記録の備付け及び保存を行っている場合には、この③の要件は不要とされている(旧電子帳簿保存法規則2②柱書)。
(2)国税関係帳簿のCOMによる保存等
 保存義務者は、国税関係帳簿の全部又は一部について、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合には、上記(1)①から③までの要件及び次の要件の下、その電磁的記録の備付け及びCOMの保存をもってその帳簿の備付け及び保存に代えることができることとされている(電子帳簿保存法5①、電子帳簿保存法規則3①)。なお、優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の適用を受けるための一定の要件(下記(3)②ロ(イ)~(ホ)の要件)に従ってその電磁的記録の備付け及びCOMの保存を行っている場合には、上記(1)③の要件は不要とされている(電子帳簿保存法規則3①柱書)。
① COMの作成過程等に関する書類の備付け
  COMの保存に併せて、COMの作成及び保存に関する事務手続を明らかにした書類、保存義務者(保存義務者が法人である場合には、その法人の国税関係帳簿の保存に関する事務の責任者である者)のその国税関係帳簿に係る電磁的記録が真正に出力され、そのCOMが作成された旨を証する記載及びその氏名が記載された書類等の備付けを行うこととされている(電子帳簿保存法規則3①一)。
② マイクロフィルムリーダプリンタ等の備付け
  COMの保存をする場所に、日本産業規格に規定する基準を満たすマイクロフィルムリーダプリンタ及びその操作説明書を備え付け、そのCOMの内容をそのマイクロフィルムリーダプリンタの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこととされている(電子帳簿保存法規則3①二)。
(3)優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置
 一定の国税関係帳簿(上記(1)又は(2)の要件に従って保存等が行われているものに限る。)に係る電磁的記録の備付け及び保存又はその電磁的記録の備付け及びCOMの保存が、国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件を満たしている場合におけるその電磁的記録又はCOM(一定の日以後引き続きその要件を満たして備付け及び保存が行われているものに限る。)に記録された事項に関し修正申告書の提出又は更正(以下「修正申告等」という。)があった場合の過少申告加算税の額については、通常課される過少申告加算税の金額からその修正申告等に係る過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実でその修正申告等の基因となるその電磁的記録又はCOMに記録された事項に係るもの以外のもの(以下「電磁的記録等に記録された事項に係るもの以外の事実」という。)があるときは、その電磁的記録等に記録された事項に係るもの以外の事実に基づく税額を控除した税額)の5%に相当する金額を控除した金額とすることとされている(電子帳簿保存法8④、電子帳簿保存法令2、3、電子帳簿保存法規則5①~⑤)。ただし、本措置は、その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されたものがあるときは、適用しないこととされている(電子帳簿保存法8④ただし書)。
① 対象となる国税関係帳簿の範囲
  本措置の対象となる「一定の国税関係帳簿」とは、修正申告等の基因となる事項に係る次の帳簿をいうこととされている(旧電子帳簿保存法規則5①)。
 イ 所得税法上の青色申告者が保存しなければならないこととされる仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿(所規58①、63①)
 ロ 法人税法上の青色申告法人が保存しなければならないこととされる仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿(法規54、59①)
 ハ 消費税法上の事業者が保存しなければならないこととされる次の帳簿
 (イ)課税仕入れの税額の控除に係る帳簿(消法30⑦⑧一)
 (ロ)特定課税仕入れの税額の控除に係る帳簿(消法30⑦⑧二)
 (ハ)課税貨物の引取りの税額の控除に係る帳簿(消法30⑦⑧三)
 (ニ)売上対価の返還等に係る帳簿(消法38②)
 (ホ)特定課税仕入れの対価の返還等に係る帳簿 (消法38の2②)
 (ヘ)資産の譲渡等又は課税仕入れ若しくは課税貨物の保税地域からの引取りに関する事項に係る帳簿(消法58)
  保存義務者は、あらかじめ、これらの帳簿(以下「特例国税関係帳簿」という。)に係る電磁的記録又はCOMに記録された事項に関し修正申告等があった場合には、本措置の適用を受ける旨及び特例国税関係帳簿の種類等を記載した届出書を納税地等の所轄税務署長(上記ハ(ハ)及び(ヘ)(課税貨物の保税地域からの引取りに関する事項に係るものに限る。)の帳簿については、納税地等の所轄税関長)に提出している必要がある(旧電子帳簿保存法規則5①)。
② 対象となる優良な電子帳簿(国税関係帳簿)の保存等の要件
  上記の「国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件」とは、次に掲げる保存義務者の区分に応じそれぞれ次に定める要件とされている(電子帳簿保存法規則5⑤)。
 イ 上記(1)の国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をもってその国税関係帳簿の備付け及び保存に代えている保存義務者……次の要件(その保存義務者が国税に関する法律の規定によるその国税関係帳簿に係る電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合には、下記(ハ)b及びcの要件を除く。)
 (イ)電磁的記録の訂正・削除・追加の履歴の確保
  国税関係帳簿に係る電子計算機処理に、次に掲げる要件を満たす電子計算機処理システムを使用することとされている(電子帳簿保存法規則5⑤一イ)。
  a その国税関係帳簿に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
  b その国税関係帳簿に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後に行った場合には、その事実を確認することができること。
 (ロ)各帳簿間での記録事項の相互関連性の確保
  国税関係帳簿に係る電磁的記録の記録事項とその国税関係帳簿に関連する国税関係帳簿(以下「関連国税関係帳簿」という。)の記録事項(その関連国税関係帳簿が、その関連国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をもってその関連国税関係帳簿の備付け及び保存に代えられているもの又はその電磁的記録の備付け及びCOMの保存をもってその関連国税関係帳簿の備付け及び保存に代えられているものである場合には、その電磁的記録又はそのCOMの記録事項)との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこととされている(電子帳簿保存法規則5⑤一ロ)。
 (ハ)検索機能の確保
  国税関係帳簿に係る電磁的記録の記録事項の検索をすることができる機能(次に掲げる要件を満たすものに限る。)を確保しておくこととされている(電子帳簿保存法規則5⑤一ハ)。
  a 取引年月日、取引金額及び取引先(記録項目)を検索の条件として設定することができること。
  b 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
  c 2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。
 ロ 上記(2)の国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及びCOMの保存をもってその国税関係帳簿の備付け及び保存に代えている保存義務者……次の要件
 (イ)上記イの要件(電子帳簿保存法規則5⑤二イ)
 (ロ)電磁的記録の訂正・削除・追加の履歴の確保に関する事項を含む備付書類の記載要件
   上記(2)①の電磁的記録に上記イ(イ)a及びbの事実及び内容に係るものを含めた上で記載することとされている(電子帳簿保存法規則5⑤二ロ)。
 (ハ)索引簿の備付け
   COMの保存に併せて、国税関係帳簿の種類及び取引年月日その他の日付を特定することによりこれらに対応するCOMを探し出すことができる索引簿の備付けを行うこととされている(電子帳簿保存法規則5⑤二ハ)。
 (ニ)COMへの索引の出力
   COMごとの記録事項の索引をその索引に係るCOMに出力しておくこととされている(電子帳簿保存法規則5⑤二ニ)。
 (ホ)当初3年間におけるCOMの記録事項の検索機能の確保
  国税関係帳簿の保存期間の当初3年間について、次のa又はbのいずれかの措置を講じておくこととされている(電子帳簿保存法規則5⑤二ホ)。
  a COMの保存に併せ、見読可能装置の備付け等(上記(1)②、(2))及び検索機能の確保(上記イ(ハ))の要件に従って、そのCOMに係る電磁的記録の保存を行うこと。
  b COMの記録事項の検索をすることができる機能(上記イ(ハ)の検索機能に相当するものに限る。)を確保しておくこと。
③ 対象となる優良な国税関係帳簿に係る電磁的記録等の備付け等が行われる日
  本措置を適用するためには、特例国税関係帳簿に係る電磁的記録又はCOMについて、本措置の適用を受けようとする過少申告加算税の基因となる修正申告書又は更正に係る課税期間の初日以後引き続き上記②の要件を満たして備付け及び保存が行われている必要がある(電子帳簿保存法8④、電子帳簿保存法令2)。
  なお、課税期間の中途に業務を開始した個人については、その業務開始日から備付け及び保存が引き続き行われていれば、適切な期間の備付け及び保存であると考えられることから、新たに業務を開始した個人のその業務を開始した日の属する課税期間については、その業務を開始した日以後引き続き上記②の要件を満たして備付け及び保存が行われていれば、本措置の適用が可能とされている(電子帳簿保存法令2)。

2 国税関係書類に係るスキャナ保存制度の概要
 保存義務者は、国税関係書類(決算関係書類を除く。)の全部又は一部について、その記載事項をスキャナにより電磁的記録に記録する場合には、次の要件の下、その電磁的記録の保存をもってその書類の保存に代えることができることとされている(電子帳簿保存法4③、旧電子帳簿保存法規則2⑥)。
(1)スキャナによる入力要件
 国税関係書類に係るスキャナ保存に当たっては、次のいずれかの方法により入力することとされている(旧電子帳簿保存法規則2⑥一)。
① その国税関係書類に係る記録事項の入力(スキャナでの読み取り)をその作成又は受領後、速やかに行うこと。
② その国税関係書類に係る記録事項の入力(スキャナでの読み取り)をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと(その国税関係書類の作成又は受領からその入力までの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。)。
(2)電子計算機処理システムの要件
 上記(1)の入力に当たっては、次に掲げる要件を満たす電子計算機処理システムを使用することとされていた(旧電子帳簿保存法規則2⑥二)。なお、保存義務者が、上記(1)のいずれかの方法によりその国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合にあっては、下記②の要件(タイムスタンプの付与)は不要とされている(旧電子帳簿保存法規則2⑥二柱書)。
① 一定水準以上の解像度及びカラー画像による読み取り
  解像度が25.4mm当たり200ドット(200dpi)以上、かつ、赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調(約1,677万色)以上で読み取りを行うものであること(旧電子帳簿保存法規則2⑥二イ)。
② タイムスタンプの付与     
  国税関係書類の作成又は受領後、速やかに一の入力単位ごとの電磁的記録の記録事項に総務大臣が認定する時刻認証業務に係るタイムスタンプを付すこと(その国税関係書類の作成又は受領からそのタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合には、その業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかにその記録事項にそのタイムスタンプを付すこと)(旧電子帳簿保存法規則2⑥二ロ)。
③ 読み取った際の解像度等に関する情報の保存
  国税関係書類のスキャナでの読み取りを行った際の解像度、階調及びその国税関係書類の大きさに関する情報を保存すること(旧電子帳簿保存法規則2⑥二ハ)。
④ ヴァージョン管理
  国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について、次に掲げる要件のいずれかを満たす電子計算機処理システムであること(旧電子帳簿保存法規則2⑥二ニ)。
 イ その国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
 ロ その国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと。
(3)入力者等情報の確認
 国税関係書類に係る記録事項の入力を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこととされていた(旧電子帳簿保存法規則2⑥三)。
(4)スキャナで読み取りを行った国税関係書類と帳簿との関連性の確保
 国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項と当該国税関係書類に関連する国税関係帳簿の記録事項(その国税関係帳簿が、その国税関係帳簿に係る電磁的記録又はCOMの保存等をもってその国税関係帳簿の保存等に代えられているものである場合にはその電磁的記録又はCOMの記録事項)との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこととされている(旧電子帳簿保存法規則2⑥四)。
(5)見読可能装置の備付け等
 国税関係書類に係る電磁的記録の保存場所に、電子計算機、プログラム、カラーディスプレイ及びカラープリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録を出力することができるようにしておくこととされている(旧電子帳簿保存法規則2⑥五)。
(6)検索機能の確保
 国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項の検索をすることができる機能(次に掲げる要件を満たすものに限る。)を確保しておくこととされている(旧電子帳簿保存法規則2⑥六)。なお、保存義務者が国税に関する法律の規定によるその電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合には、下記②及び③の要件は不要とされている(旧電子帳簿保存法規則2⑥柱書)。
① 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先(記録項目)を検索の条件として設定することができること。
② 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
③ 2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。
(7)電子計算機処理システムの概要書等の備付け
 電子計算機処理システムの概要を記載した書類その他そのシステムの開発に際して作成した書類等を備え付けることとされている(旧電子帳簿保存法規則2⑥七、②一)。
(8)一般書類に係るスキャナ保存制度の適時入力方式
 国税関係書類に係るスキャナ保存を行おうとする保存義務者は、国税関係書類のうち国税庁長官が定める資金や物の流れに直結・連動しない書類(以下「一般書類」という。)のスキャナでの読み取りを行う場合には、スキャナによる入力要件(上記(1))及び大きさに関する情報の保存要件(上記(2)③)以外の要件(カラー画像による読み取り要件(上記(2)①)については、グレースケール(いわゆる「白黒」)による読み取りで代替することもできる。)を満たし、電磁的記録の保存に併せて、その電磁的記録の作成及び保存に関する事務の手続を明らかにした書類(これらの事務の責任者が定められているものに限る。)の備付けを行うことにより、適時の入力によるスキャナ保存をすることができることとされていた(旧電子帳簿保存法規則2⑦、平成17年国税庁告示第4号)。

3 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度の概要
(1)電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存等(本則)

 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度については、令和3年度税制改正においてその見直しが行われ、申告所得税及び法人税に係る保存義務者について、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を出力することにより作成した書面又はCOM(以下「出力書面等」という。)の保存をもって、その電磁的記録の保存に代えることができる措置が廃止された。
 したがって、令和3年度税制改正後における電子取引の取引情報に係る電磁的記録は、次の要件に従って保存しなければならないこととされている(電子帳簿保存法7、旧電子帳簿保存法規則4①)。
① 次に掲げるいずれかの措置を講ずること。
 イ その電磁的記録の記録事項にタイムスタンプが付された後、その取引情報の授受を行うこと(旧電子帳簿保存法規則4①一)。
 ロ 次に掲げる方法のいずれかにより、その電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すとともに、その電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと(旧電子帳簿保存法規則4①二)。
 (イ)その電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すことをその取引情報の授受後、速やかに行うこと。
 (ロ)その電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すことをその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと(その取引情報の授受からその記録事項にタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。)。
 ハ 次に掲げる要件のいずれかを満たす電子計算機処理システムを使用してその取引情報の授受及びその電磁的記録の保存を行うこと(旧電子帳簿保存法規則4①三)。
 (イ)その電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
 (ロ)その電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと。
 ニ その電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、その規程に沿った運用を行い、その電磁的記録の保存に併せてその規程の備付けを行うこと(旧電子帳簿保存法規則4①四)。
② その電磁的記録を保存する場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこと(旧電子帳簿保存法規則2②二、4①)。
③ その電磁的記録の記録事項の検索をすることができる機能(次に掲げる要件を満たすものに限る。)を確保しておくこと(旧電子帳簿保存法規則2⑥六、4①)。
 イ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先(記録項目)を検索の条件として設定することができること。
 ロ 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
 ハ 2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。
④ 自社開発のプログラムを使用する場合には、電磁的記録の保存に併せて、その電磁的記録に係る電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付けを行うこと(旧電子帳簿保存法規則2②一イ、2⑥七、4①)。
  また、令和3年度税制改正においては、上記の出力書面等の保存措置の廃止と併せて、「災害その他やむを得ない事情に係る宥恕措置」の整備も行われている。
 具体的には、その保存義務者が、電子取引を行った場合において、災害その他やむを得ない事情により、上記①から④までの保存要件に従って電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことを証明したときは、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとされている(旧電子帳簿保存法規則4③)。ただし、その事情が生じなかったとした場合において、その保存要件に従ってその電磁的記録の保存をすることができなかったと認められるときは、この限りでないこととされている(旧電子帳簿保存法規則4③ただし書)。
(2)電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置(経過措置)
 上記(1)で述べたとおり、令和3年度税制改正における電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度の見直しにより、従前、認められていた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の出力書面等の保存をもって、その電磁的記録の保存に代えることができる措置が廃止されたが、令和4年度税制改正においては、その電磁的記録の保存要件への対応が困難な事業者の実情に配意し、その出力書面等の保存措置の廃止を事実上延長するための経過措置が講じられている。
 具体的には、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存について、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に電子取引を行う場合において、納税地等の所轄税務署長がその電子取引の取引情報に係る電磁的記録を一定の要件に従って保存をすることができなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、保存義務者が国税に関する法律の規定によるその電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは、その要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができる経過措置が講じられている(令和3年改正電子帳簿保存法規則附則2③)。
 なお、この経過措置が適用されることにより、上記(1)①から④までの保存要件は不要とされるため、事実上、受領した電磁的記録を単にパソコンに保存しておけば、適正な保存として扱われることとなるが、引き続き電磁的記録の保存は必要となる。一方で、この経過措置が適用された場合の電磁的記録の取扱いを踏まえ、その電磁的記録を既に書面等に出力し、その出力書面等をもって上記の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは、その電磁的記録の保存を行っているものとして取り扱われることとされているので、引き続き、その電磁的記録の出力書面等により保存することもできることとなる。

Ⅱ 改正の内容

 令和3年度税制改正においては、経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資する観点から、国税関係帳簿書類を電子的に保存する際の手続が抜本的に見直されたところであり、国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存等の要件が大幅に緩和されたが、電磁的記録の訂正・削除・追加の履歴の確保(いわゆるトレーサビリティの確保)、各帳簿間での記録事項の相互関連性の確保及び検索機能の確保といった要件を満たして保存等が行われている事後検証可能性の高い電子帳簿については、いわば経理誤りを是正しやすい環境を自ら整えているものといえるため、「優良な電子帳簿」と位置付けて、その電子帳簿に記録された事項に関して修正申告等があった場合でも、その申告漏れについて課される過少申告加算税の額を軽減するインセンティブ措置が設けられた(このインセンティブ措置の内容の詳細については、Ⅰ1(3)の「優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置」を参照。)。
 他方、記帳水準の向上やトレーサビリティの確保を含む帳簿の事後検証可能性の確立の観点から、この優良な電子帳簿の普及・一般化のための措置を講じていくことが課題とされており、この措置の必要性については、政府税制調査会の下に外部有識者も交えて設置された「納税環境整備に関する専門家会合」における記帳水準向上・適正申告を図るための今後の議論の中でも取り上げられ、「納税環境整備に関する専門家会合の議論の報告(令和4年11月8日政府税制調査会資料)」として行われた総会への報告の中では、「優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象帳簿について、必要とされる範囲の外縁を明確化するなど、インセンティブ措置が利用しやすいようにすべき」との指摘がされている。
 また、同報告においては、スキャナ保存制度についても、「利便性向上のため、さらなる簡素化を行うべき」との指摘がされるとともに、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度について、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置(この宥恕措置の内容の詳細については、Ⅰ3(2)を参照。)の適用期限が令和5年12月31日に到来することを踏まえ、「電子取引の取引情報に係るデータの保存について、宥恕措置により適用が延長されたが、企業の対応状況を踏まえつつ、必要に応じ、さらなる緩和措置を取るべきであり、中小事業者がどういう準備をすればよいか、制度周知に努めるべき」との指摘もされている。
 今回の改正においては、こうした政府税制調査会における指摘や経済社会のデジタル化の状況を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、税務情報のデジタル化、優良な電子帳簿の普及・一般化に資する観点から、事業者等における経理の電子化の実施状況や対応可能性、適正な課税の確保の観点での必要性等を改めて考慮し、電子取引の取引情報に係る電磁的記録や所得税、法人税、消費税等の帳簿書類を電子的に保存するための手続について各種の措置を講ずることとされた。
 なお、今回の改正後においても、国税関係帳簿書類の電子化を進める必要性は変わるものではなく、今後とも、税務関係手続のデジタル化を通じ、適正・公平な課税の実現に加え、事業者等における経営状態の可視化による経営力の強化、バックオフィスの生産性の向上につなげていく必要があるものと考えられる。
 以下では、これらの見直しの内容について説明することとする。

1 優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象帳簿の範囲の見直し
 優良な電子帳簿の保存等の要件(上記Ⅰ1(3)②参照)を満たして保存等が行われている電子帳簿は、いわば経理誤りを是正しやすい環境を自ら整えているものといえるため、会計監査や税務調査における事後検証可能性の観点に加え、内部統制や対外的な信頼性の確保の観点からも、その普及・一般化をしていく必要があるものと考えられる。
 他方、Ⅰ1(3)①のとおり、従前は、申告所得税及び法人税の優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象帳簿については、「仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿」とされ、基本的に保存義務のある帳簿の全ての保存等が必要とされていたため、実際に作成している帳簿の範囲は保存義務者ごとに区々であることから、その帳簿の全てについて優良な電子帳簿の保存等の要件(上記Ⅰ1(3)②参照)を満たして保存等を行うための対応に当たって多大な手間が掛かるものとなっており、この軽減措置のインセンティブ効果が限定的なものとなっていた。
 そのため、この軽減措置の対象帳簿の範囲が、優良な電子帳簿の普及・一般化を阻害している可能性が指摘されており、税務調査の適正性や効率性を損わない範囲内において、事業者等による対応可能性も考慮しつつ、その対象帳簿の範囲を合理化及び明確化していくことが課題とされていた。
 今回の改正においては、こうした課題を踏まえ、申告所得税及び法人税の優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象帳簿のうち仕訳帳及び総勘定元帳以外の必要な帳簿(以下「補助帳簿」という。)について、申告(課税所得)に直接結びつきやすい経理誤り全体を是正しやすくするかどうかといった観点から、課税標準や税額の計算に直接影響を及ぼす損益計算書に記載する科目についてはその科目に関する補助帳簿の全てを、貸借対照表に記載する科目については損益計算書に記載する科目との関連性が強くその科目の変動について把握する必要性が高い科目に関する補助帳簿のみを、それぞれ対象とすることとされた。
 具体的には、申告所得税及び法人税の優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象帳簿は、次のとおりとされた(電子帳簿保存法規則5①、令和5年財務省告示第93号)。
(1)仕訳帳
(2)総勘定元帳
(3)次に掲げる事項(申告所得税の対象帳簿については、④に掲げる事項を除く。)の記載に係る補助帳簿
 ① 手形(融通手形を除く。)上の債権債務に関する事項
 ② 売掛金(未収加工料その他売掛金と同様の性質を有するものを含む。)その他債権に関する事項(当座預金の預入れ及び引出しに関する事項を除く。)
 ③ 買掛金(未払加工料その他買掛金と同様の性質を有するものを含む。)その他債務に関する事項
 ④ 有価証券(商品であるものを除く。)に関する事項
 ⑤ 減価償却資産に関する事項
 ⑥ 繰延資産に関する事項
 ⑦ 売上げ(加工その他の役務の給付その他売上げと同様の性質を有するもの等を含む。)その他収入に関する事項
 ⑧ 仕入れその他経費又は費用(法人税の対象帳簿については、賃金、給料手当、法定福利費及び厚生費を除く。)に関する事項
 これは、「仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿」については、青色申告者は、これらの帳簿を備え、財務大臣の定める取引に関する事項を記載しなければならないこととされ(所規58①)、青色申告法人は、これらの帳簿を備え、法人税法施行規則別表21に定めるところにより、取引に関する事項を記載しなければならないこととされているため(法規54)、申告所得税及び法人税の優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象となる補助帳簿については、この財務大臣の定める取引に関する事項(財務大臣告示(昭和42年大蔵省告示第112号))又は法人税法施行規則別表21に定める取引に関する事項を基準に、その範囲を合理化及び明確化することとされたものである。

2 国税関係書類に係るスキャナ保存制度の見直し
 国税関係書類に係るスキャナ保存制度については、適正公平な課税を確保しつつ、電子化によるコスト削減を如何に図るかという観点から措置された制度であり、特に重要な文書である決算関係書類や帳簿、一部の契約書・領収書を除き、原則的に全ての帳簿書類を対象に、真実性・可視性を確保できる要件の下で、スキャナ保存を認める制度として創設されたものである。
 他方、制度の活用を一層促すため、これまでの税制改正においても、電子保存によるコスト削減や保存義務者の利便性向上を図る観点から要件緩和等の見直しが行われてきたところであり、令和3年度税制改正においても、ペーパーレス化を一層促進する観点から、手続・要件を大幅に緩和するとともに、電磁的記録の改ざん等の不正行為を抑止するための担保措置が講じられた。
 今回の改正においても、事業者におけるペーパーレス化を一層促進する観点から、国税関係書類に係るスキャナ保存制度の利便性向上のため、税務調査の適正性や効率性を大きく損わない観点にも配意して、さらなる簡素化を行うべく、以下の見直しが行われた。
(1)読み取った際の解像度等に関する情報の保存の要件(上記Ⅰ2(2)③参照)の廃止
 国税関係書類のスキャナでの読み取りを行った際の解像度、階調及びその国税関係書類の大きさに関する情報の保存の要件が廃止され、これらの情報の保存が不要とされた(旧電子帳簿保存法規則2⑥二ハ)。
 これは、目視等により、その国税関係書類の記録事項について4ポイントの文字・記号を明瞭に確認することができる場合には、これらの情報の保存までを求める必要性が乏しいことが考慮されたものである。
 なお、見直し後においても、一定水準以上の解像度及びカラー画像による読み取り(上記Ⅰ2(2)①参照)が必要とされているので、税務調査において解像度の水準等に疑義がある場合については、一定の確認・説明が求められることも想定されるが、その具体的な対応方法については、今後、通達等において示される予定である。
(2)入力者等情報の確認の要件(上記Ⅰ2(3)参照)の廃止
 国税関係書類に係るスキャナ保存に当たっては、その国税関係書類に係る記録事項の入力を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報(以下「入力者等情報」という。)を確認することができるようにしておくことが要件とされていたが、その要件が廃止され、その入力者等情報を確認することができるようにしておく必要はなくなった(旧電子帳簿保存法規則2⑥三)。
 これは、近年の改正により、その国税関係書類に係る記録事項の入力を行う者に応じたスキャナ保存の要件の取扱いの違いはなくなってきており、入力者等情報の確認をすることができるようにしておく必要性が乏しくなってきていることが踏まえられたものである。
(3)スキャナで読み取りを行った国税関係書類と帳簿との関連性の確保の要件(上記Ⅰ2(4)参照)の見直し
 一般的に、明文の規定はないが、帳簿と書類については、その適正な保存を行うに当たっては、書類の保存形態にかかわらず両者の関連性を確認することができるようにしておく必要があることは当然であるが、このスキャナで読み取りを行った国税関係書類と帳簿との関連性の確保の要件については、複製・改ざん行為が容易であり、また、原本である書類自体を破棄することも可能なことから、その痕跡が残りにくい特性を有するスキャナ保存の特有のものとして、特に適正課税の観点から、相互にその関連性を確認することができるようにしておくことが要件とされているものである(旧電子帳簿保存法規則2⑥四)。
 今回の改正においては、その国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項とその国税関係書類に関連する国税関係帳簿の記録事項(その国税関係帳簿が、その国税関係帳簿に係る電磁的記録又はCOMの保存等をもってその国税関係帳簿の保存等に代えられているものである場合にはその電磁的記録又はCOMの記録事項)との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこととされるその国税関係書類の範囲について、資金や物の流れに直結・連動する重要書類に限定することとされた(電子帳簿保存法規則2⑦)。これは、資金や物の流れに直結・連動しない一般書類については、相互関連性を確認することができるようにしておくことまでをスキャナ保存の要件としては求めなかったとしても、適正課税への影響は限定的であると考えられることが考慮されたものである。

3 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度の見直し
(1)電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存へ移行することができなかったことについて相当の理由がある保存義務者に対する猶予措置の整備

 上記Ⅰ3(2)のとおり、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための経過措置の適用期限は令和5年12月31日とされているため、令和6年1月1日以後に行う電子取引の取引情報については、その取引情報に係る電磁的記録の保存について、保存要件に従って行う必要があるが、この適用期限の経過後においても、システムや社内でのワークフローの関係などの理由でその電磁的記録の保存への対応が困難な事業者が一定数見込まれており、こうした事業者については、電子取引から書面による取引に誘導することになりかねないため、電子取引を促進する観点からは悪影響が懸念されていた。
 こうした状況を踏まえ、上記のとおり、政府税制調査会においても、「電子取引の取引情報に係るデータの保存について、宥恕措置により適用が延長されたが、企業の対応状況を踏まえつつ、必要に応じ、さらなる緩和措置を取るべき」との指摘がされていたが、こうした指摘を踏まえ、事業者における経理の電子化の実施状況や対応可能性等に応じた電磁的記録の保存を可能とする観点から、事実上、従前の経過措置の要件とされていたその電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。以下「出力書面」という。)の提示又は提出の要求に応じることができるようにしておくことに加えて、その電磁的記録自体のダウンロード(提示又は提出)の求めに応じることができるようにしておけば、その電磁的記録の保存に当たっての保存要件を不要とする猶予措置が整備された。
 なお、今回の改正においても、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存の重要性については変わるものではないものと考えられるので、この電磁的記録の保存の適正性について、引き続き制度として担保するため、電磁的記録自体のダウンロード(提示又は提出)の求め及び出力書面の提示又は提出の要求に応じることができるようにしておくことを新たに求めることとされたものである。
 具体的には、保存義務者が、電子取引を行った場合において、納税地等の所轄税務署長が一定の要件に従ってその電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認め、かつ、その保存義務者が国税に関する法律の規定によるその電磁的記録及び出力書面の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとされた(電子帳簿保存法規則4③)。ただし、その理由がなかったとした場合において、その保存要件に従ってその電磁的記録の保存をすることができなかったと認められるときは、この限りでないこととされている(電子帳簿保存法規則4③ただし書)。
 この「相当の理由」がある場合については、引き続き、システム対応が間に合わない等その電磁的記録の保存への対応が困難な事業者について、必ずしも従前の経過措置の適用を受けようとする場合に求められる「やむを得ない事情」がなかったとしても、事業者の実情に応じて柔軟に猶予措置を適用することが可能となることが明確となるよう猶予措置の要件として定められているものであるため、この猶予措置については、事業者の実情に応じて広く適用されることとなるものと考えられる。
 なお、この猶予措置が恒久的な制度(本則)として位置付けられ、事業者の実情に応じた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存が可能となることから、その電磁的記録の保存への円滑な移行のための経過措置は、適用期限の到来をもって廃止することとされている。
(2)保存要件に従って電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を行おうとする保存義務者に対する対応(検索機能の確保の要件の整備)
 上記(1)のとおり、今回の改正においては、新たに猶予措置を整備するが、税務手続の電子化を進める上での電子取引の重要性を踏まえると、他者から受領した電子データとの同一性を確保する観点から、引き続き、真実性の確保の要件(具体的には、上記Ⅰ3(1)①の要件)を満たしてその電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存が行われるよう誘導して行く必要があるものと考えられる。
 他方、検索機能の確保の要件(上記Ⅰ3(1)③参照)については、税務調査の実態等を踏まえ、一定の緩和措置を講ずることとされた。
 具体的には、保存義務者が国税に関する法律の規定によるその電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしていることに加えて、その保存義務者が、その判定期間に係る基準期間における売上高が1,000万円以下である事業者であるときは検索機能の確保の要件が不要とされているが、この電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合には、検索機能の確保の要件を不要とする措置について、その対象が拡充され、次に掲げる場合とされた(電子帳簿保存法規則4①)。
① 保存義務者が、その判定期間に係る基準期間における売上高が5,000万円以下(改正前:1,000万円以下)である事業者(小規模な事業者)である場合
② 保存義務者が、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を出力することにより作成した書面で整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものの提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合

Ⅲ 適用関係

1 上記Ⅱ1の改正は、令和6年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用され、同日前に法定申告期限等が到来した国税については従前どおりとされている(改正電子帳簿保存法規則附則2③)。したがって、例えば、所得税については令和5年分から、法人税については10月決算法人の場合には令和5年10月決算期分から、それぞれ適用される場面が生じ得ることとなる。なお、優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置を適用するためには、本措置の適用を受けようとする過少申告加算税の基因となる修正申告書又は更正に係る課税期間の初日(新たに業務を開始した個人のその業務を開始した日の属する課税期間については、同日)以後引き続き、対象帳簿について、優良な電子帳簿の保存等の要件(上記Ⅰ1(3)②参照)を満たして保存等が行われている必要があるため(上記Ⅰ1(3)③参照)、例えば、所得税については令和5年1月1日以後、改正後の対象帳簿(上記Ⅱ1参照)について、優良な電子帳簿の保存等の要件を満たして保存等が行われていれば、本措置の適用を受けることができる場合もあるものと考えられる。
2 上記Ⅱ2の改正は、令和6年1月1日以後に保存が行われる国税関係書類について適用し、同日前に保存が行われた国税関係書類については従前どおりとされている(改正電子帳簿保存法規則附則2①)。
3 上記Ⅱ3の改正は、令和6年1月1日以後に行う電子取引の取引情報について適用し、同日前に行った電子取引の取引情報については従前どおりとされている(改正電子帳簿保存法規則附則2②)。

二 加算税制度の見直し

1 改正前の制度の概要
 申告納税方式による国税については、納税申告が納税義務を確定させる重要な意義を有することから、その申告の適正性を担保するため、行政制裁として過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税の制度が設けられている(通法65、66、68)。これらの各加算税の概要は、次のとおりである。
(1)過少申告加算税の概要
 期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正(以下「修正申告等」という。)があったときは、納税者に対し、その修正申告等に基づいて納付すべき税額に10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課すこととされている(旧通法65①②)。ただし、修正申告書の提出が、調査通知以後、かつ、調査による更正を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に5%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課すこととされている(旧通法65①②)。なお、その修正申告書の提出が調査による更正を予知してされたものでない場合において、調査通知がある前に行われたものであるときは、過少申告加算税を課されないこととされており(旧通法65⑥)、これは、申告納税制度の普及を図るため、自発的な修正申告を奨励することを目的とするものであるとされている。
(2)無申告加算税の概要
 期限後申告書の提出若しくは決定があった場合又はその期限後申告書の提出若しくは決定があった後に修正申告書の提出若しくは更正があった場合には、納税者に対し、その期限後申告書若しくは修正申告書の提出又は更正若しくは決定に基づいて納付すべき税額に15%(納税額が50万円を超える部分は20%)の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課すこととされている(旧通法66①②)。ただし、期限後申告書又は修正申告書の提出が、調査通知以後、かつ、調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に10%(納税額が50万円を超える部分は15%)の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課すこととされている(旧通法66①②)。なお、その期限後申告書又は修正申告書の提出が調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合において、調査通知がある前に行われたものであるときは、その申告に基づいて納付すべき税額に係る無申告加算税の額は、その税額に5%の割合を乗じて計算した金額とされ、通常の場合よりも軽減することとされており(旧通法66⑦)、この趣旨は、上記(1)の過少申告加算税が課されない措置と同様である。
(3)重加算税の概要
① 過少申告加算税に代えて課される場合の重加算税
  過少申告加算税が課される場合(調査による更正を予知しないでされた申告による場合を除く。)において、納税者がその国税の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽・仮装して納税申告書を提出していたときは、納税者に対し、過少申告加算税に代えて計算の基礎となるべき税額に35%の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課すこととされている(通法68①)。
② 無申告加算税に代えて課される場合の重加算税
  無申告加算税が課される場合(調査による更正又は決定を予知しないでされた申告による場合等を除く。)において、納税者がその国税の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽・仮装して法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、納税者に対し、無申告加算税に代えて計算の基礎となるべき税額に40%の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課すこととされている(旧通法68②)。
(4)短期間に繰り返して無申告又は仮装・隠蔽が行われた場合の無申告加算税等の加重措置の概要
 期限後申告書若しくは修正申告書の提出(調査による更正又は決定を予知してされたものに限る。)、更正若しくは決定又は納税の告知若しくは納税の告知を受けることなくされた納付((4)において「期限後申告等」という。)があった場合において、その期限後申告等があった日の前日から起算して5年前の日までの間に、その期限後申告等に係る税目について無申告加算税(調査による更正又は決定を予知してされたものに限る。)又は重加算税を課されたことがあるときは、その期限後申告等に基づき課する無申告加算税又は重加算税の額は、通常課される無申告加算税の額又は重加算税の額に、その期限後申告等に基づいて納付すべき税額に10%の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とすることとされている(旧通法66⑤、68④)。

2 改正の内容
 近年、経済取引の多様化等に伴い、無申告事案が生じるリスクが増大している。こうした中、高額な利益を得ているにもかかわらず無申告である場合や申告義務や納付すべき税額がありながら連年にわたって無申告を続けている場合でも、仮装・隠蔽の積極的な行為を伴わないため重加算税の対象とならない事例のように、税に対する公平感を大きく損なうような事例が生じている。
 こうした問題等を踏まえ、政府税制調査会においては、税に対する公平感を大きく損なうような行為への対応についての議論が行われており、同調査会の下に外部有識者も交えて設置された「納税環境整備に関する専門家会合」における議論について、「納税環境整備に関する専門家会合の議論の報告(令和4年11月8日政府税制調査会資料)」として、総会への報告が行われた。その中では、これまでの税務調査の過程で把握されている税に対する公平感を大きく損なうような事例に対して、以下のとおり無申告行為を未然に抑止するための担保措置の必要性について指摘がされている。
・高額な無申告や連年にわたる無申告に対しては、無申告加算税や無申告重加算税の加重措置で対応すべきであり、法制化に大きな障害はないと考えられることから、できる限り早期に講じる必要。その場合、納税者への周知徹底が重要。
・高額又は繰り返しの無申告に対する義務履行確保の仕組みが不十分であることがうかがわれるところ、無申告加算税の見直しを行う必要があるのではないか。
 今回の改正においては、こうした政府税制調査会における議論を通じた指摘や税務執行上の課題を踏まえ、悪質な無申告行為を未然に抑止する観点から、高額な無申告に対する無申告加算税の割合の引上げ及び一定期間繰り返し行われる無申告行為に対する無申告加算税等の加重措置が整備された。
 以下では、この見直しの内容について、説明することとする。
(1)高額な無申告に対する無申告加算税の割合の引上げ
 申告納税制度の根幹を揺るがす重大な違反である無申告行為のうち善良な納税者の公平感を特に損なうおそれのあるものを未然に抑止する観点から、社会通念に照らして申告義務を認識していなかったとは言い難い規模の高額な無申告について、納税額(増差税額)が300万円を超える部分のペナルティとして無申告加算税の割合を30%に引き上げることとされた。また、このペナルティについては、高額な無申告を発生させたことについて納税者の責めに帰すべき事由がない場合には適用しないこととされた。
 具体的には、期限後申告書の提出若しくは決定があった場合又はその期限後申告書の提出若しくは決定があった後に修正申告書の提出若しくは更正があった場合において、加算後累積納付税額(その加算後累積納付税額の計算の基礎となった事実のうちにその期限後申告書若しくは修正申告書の提出又は更正若しくは決定((1)において「期限後申告等」という。)前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについてその納税者の責めに帰すべき事由がないと認められるものがあるときは、その事実に基づく税額として一定の計算をした金額を控除した税額)が300万円を超えるときの無申告加算税の額は、加算後累積納付税額を次に掲げる税額に区分してそれぞれの税額に次に定める割合(期限後申告書又は修正申告書の提出が、調査通知以後、かつ、調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合は、その割合から5%を減じた割合。(1)において同じ。)を乗じて計算した金額の合計額から累積納付税額を次に掲げる税額に区分してそれぞれの税額に次に定める割合を乗じて計算した金額の合計額を控除した金額とされた(通法66③)。
① 50万円以下の部分に相当する税額 15%
② 50万円を超え300万円以下の部分に相当する税額 20%
③ 300万円を超える部分に相当する税額 30%
 なお、上記のように加算後累積納付税額から納税者の責めに帰すべき事由がないと認められる事実に基づく税額として「一定の計算をした金額」を控除することとされているのは、無申告行為のうち善良な納税者の公平感を特に損なうおそれがあるとは言い難いものを本措置の対象から除外するためであり、その加算後累積納付税額が300万円を超えるかどうかの判定に当たっては、納税者の責めに帰すべき事由がないと認められる事実があるときは、その事実に基づく税額として「一定の計算をした金額」を控除した税額で判断することとされ、その控除した税額が300万円以下であれば、上記の措置は適用されず、300万円を超える部分に相当する税額についても通常課される無申告加算税の割合が適用されることになる。
(2)一定期間繰り返し行われる無申告行為に対する無申告加算税等の加重措置の整備
 現行、過去5年以内に無申告加算税又は重加算税を課された者について、再び調査を受けて無申告又は仮装・隠蔽に基づく申告等が行われた場合への対応として、上記1(4)の短期間に繰り返して無申告又は仮装・隠蔽が行われた場合の無申告加算税等の加重措置(旧通法66⑤、68④)が整備されているが、無申告行為を繰り返し行う者について一度に是正をする場合には適用がないことや、調査通知があったことを契機として、期限後申告書を提出すれば、この加重措置の適用を回避することが可能であることから、意図的に無申告行為を繰り返す者に対する牽制効果は限定的であり、繰り返し行われる悪質な無申告行為について未然に抑止するための更に実効的な措置の整備が課題とされていた。
 このような課題を踏まえ、自主的に申告を促し、納税コンプライアンスを高める観点から、前年及び前々年の国税について、無申告加算税又は重加算税(無申告加算税に代えて課されるものに限る。以下同じ。)を課される者が行う更なる無申告行為に対して課される無申告加算税又は重加算税を10%加重する措置が整備された。
 具体的には、期限後申告書若しくは修正申告書の提出(調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合において、調査通知がある前に行われたものを除く。)又は更正若しくは決定(以下(2)において「期限後申告等」という。)に係る国税の課税期間の初日の属する年の前年及び前々年に課税期間が開始したその国税(課税期間のないその国税については、その国税の納税義務が成立した日の属する年の前年及び前々年に納税義務が成立したその国税)の属する税目について、無申告加算税(期限後申告書又は修正申告書の提出が、調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合において、調査通知がある前に行われたものであるときに課されたものを除く。)若しくは重加算税(以下「特定無申告加算税等」という。)を課されたことがあり、又は特定無申告加算税等に係る賦課決定をすべきと認める場合におけるその期限後申告等に基づき課する特定無申告加算税等の額は、通常課される無申告加算税の額又は重加算税の額に、その期限後申告等に基づき納付すべき税額に10%の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とされた(通法66⑥二、68④二)。
 なお、本措置は、無申告行為を繰り返す悪質性に着目して無申告加算税等を加重する措置であるが、無申告加算税等が課される国税の課税期間が1年に満たない場合にも配意し、実質的に、3年連続無申告行為が行われた場合(1年間に無申告行為を最低1度行い、それを3回繰り返した場合)を適用対象とするものである。
 これは、無申告行為を行った納税者に等しく、自らの無申告行為を是正する機会を与え、真に悪質な無申告行為を加重対象とする観点から、過去に特定無申告加算税等を課されたことがあるかどうか等の判定を期限後申告等に係る国税の課税期間の初日の属する年の前年及び前々年に課税期間が開始した国税等について行い、1度の無申告行為の判定期間は「1年間」とするものである。

3 適用関係
 上記2の改正は、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用し、同日前に法定申告期限が到来した国税については、従前どおりとされている(改正法附則23③)。したがって、例えば、通常、所得税については令和5年分から、法人税については10月決算法人の場合には令和5年10月決算期分から、それぞれ適用される場面が生じ得ることとなる。なお、上記2(2)の改正については、同日前に法定申告期限が到来した国税に係る無申告加算税(期限後申告書又は修正申告書の提出が、調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合において、調査通知がある前に行われたものであるときに課されたものを除く。3において同じ。)又は重加算税は、特定無申告加算税等とみなされることによって、例えば、令和3年分及び令和4年分の所得税(いずれも、法定申告期限は、令和6年1月1日前)に係る無申告加算税又は重加算税を課される場合については、令和5年分の所得税に係る無申告加算税又は重加算税についても本措置による加重対象となることが明確化されている(改正法附則23③後段)。

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