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解説記事2023年09月25日 特別解説 日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)②(2023年9月25日号・№996)

特別解説
日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)②

はじめに

 前回の後段に引き続き、本稿では、IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容について説明することとしたい。
 IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容のうち、件数が60件以上(調査対象とした企業は257社)のものを一覧にして再度示すと、表1のとおりである。

 有給休暇引当金の計上とのれんの非償却、及び在外営業活動体に係る累積換算差額の振替については前回取り上げたため、本稿では、「④退職給付に係る数理計算上の差異の処理方法」以降の項目について説明することとしたい。

認識・測定に係る主要な差異の内容と開示例

④ 退職給付に係る数理計算上の差異の処理方法
 わが国の「退職給付に関する会計基準」では、数理計算上の差異の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異)については、その他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うとされているのに対し(第15項)、IFRSでは、数理計算上の差異についてはその他の包括利益に認識し、その後の期間において純損益に振り替えてはならない(その他の包括利益に認識した金額を資本の中で振り替えることはできる)とされている(IAS第19号「従業員給付」第120項、第122項)。
 この「退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理」も、のれんの償却と同様に、実務対応報告第18号において、「在外子会社等において、退職給付会計における数理計算上の差異(再測定)をその他の包括利益で認識し、その後費用処理を行わない場合には、連結決算手続上、当該金額を平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理する方法(発生した期に全額を処理する方法を継続して採用することも含む。)により、当期の損益とするよう修正する」とされている。

【開示例】ローソン(2023年2月期)

 確定給付制度に係る退職給付債務の未認識数理計算上の差異について、日本基準においては、「その他の包括利益累計額」に含めて計上しておりました。IFRSにおいては発生時にその他の包括利益で認識したうえで、直ちに利益剰余金に振り替えております。

⑤ 非上場株式の公正価値評価
 日本基準では、いわゆる非上場株式については公正価値による評価を行わず、取得原価で評価するが、IFRS(IFRS第9号「金融商品」)では、非上場株式を含む資本性金融商品は公正価値評価の対象とされる。

【開示例】川崎重工業(2023年3月期)

 日本基準では時価のない非上場株式及び出資金を原価法で評価していましたが、IFRSでは公正価値で測定しています。

⑥ 収益認識基準の変更
 わが国では、これまでは、企業会計原則・損益計算書原則三Bの、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」という、いわゆる「実現主義」の記述をよりどころに、この解釈によって実務が行われてきたものと思われる(なお、2022年3月期からは、IFRS第15号の定めを取り入れた収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)及び同適用指針が適用されている。)。これに対してIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」では、企業が収益の認識を、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように行わなければならないとされており、企業は、約束した財又はサービス(すなわち、資産)を顧客に移転することによって企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)、収益を認識しなければならない。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時(又は獲得するにつれて)であるとされている(第31項)。これにより、日本基準とIFRSとの間で収益認識のタイミングに差異が生じることになる。

【開示例】ハルメクホールディングス(2022年3月期)

 日本基準では、商品販売について、出荷した時点で収益として認識しておりましたが、IFRSでは、履行義務を充足した時点、すなわち、顧客に商品を引渡した時点の収益として認識しております。また、収益の認識時点の修正に伴い、対応する売上原価の計上時期も出荷時から引渡時に変更しております。

【開示例】NIPPON EXPRESSホールディングス(2022年12月期)

 日本基準では主として出荷基準で売上高を認識しておりましたが、IFRSでは顧客による検収時等の履行義務の充足時点又は履行義務が充足するにつれて、売上収益を認識しております。

⑦ 繰延税金資産の回収可能性の再検討
 わが国においては、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に規定される会社分類に基づき繰延税金資産を認識しているが、IFRSでは、繰延税金資産は、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で、すべての将来減算一時差異について認識しなければならないとされているため(IAS第12号「法人所得税」第24項)、IFRS適用にあたって差異が生じることになる。

【開示例】デジタルプラス(2023年9月期)

 日本基準からIFRSへの調整に伴い将来課税所得が稼得される可能性が高いと評価したことにより、「繰延税金資産」、「繰延税金負債」及び「法人所得税費用」の金額を調整しております。

⑧ 使用権資産とリース負債を計上
 2019年12月期から強制適用が開始されたIFRS第16号「リース」は、リースの開始日において、ファイナンス・リースやオペレーティング・リースの区分を問わず、リース資産の借手に対して使用権資産とリース負債とを認識することを求めている(第22項)。使用権資産は取得原価で測定され、次のものから構成される(第23項、第24項)。
(a)リース負債の当初測定の金額
(b)開始日以前に支払ったリース料から受け取ったリース・インセンティブを控除したもの
(c)借手に発生した当初直接コスト
(d)リースの契約条件で要求されている原資産の解体及び除去、原資産の敷地の原状回復又は原資産の原状回復の際に借手に生じるコストの見積り。
 また、リースの借手は、開始日において、リース負債を同日現在で支払われていないリース料の現在価値で測定しなければならないとされている(第26項)。
 わが国の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」及び同適用指針では、所有権が移転されるファイナンス・リース取引を除くリース取引(所有権移転外ファイナンス・リース及びオペレーティング・リース)の借手については賃借料等を費用処理するとされており、使用権資産やリース負債を計上することは求められていない。また、我が国の会計基準とIFRS第16号との間には、使用権資産やリース負債の認識のほかに、リース契約に該当するかどうかの判断等についても相違点が存在する。
 なお、企業会計基準委員会(ASBJ)は、2019年3月に、借手の全てのリースについて資産及び負債を認識するリースに関する会計基準の開発に着手することを決定した。関連する業界団体から意見聴取を行った後、各論点について検討を行い、2023年5月2日に、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」を公表している(コメント期限:2023年8月4日)。

【開示例】日鉄ソリューションズ(2023年3月期)

 日本基準では、借手のリースについてファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、オペレーティング・リースについては通常の賃貸借処理に係る方法に準じた会計処理を行っておりました。IFRSでは、借手のリースについてファイナンス・リース又はオペレーティング・リースに分類せず、リース取引について使用権資産及びリース負債を認識しております。

⑨ 減価償却方法の変更
 日本の会計基準を適用する日本企業の場合、有形固定資産の減価償却方法については建物の一部等を除いて定率法を適用していることが多く、耐用年数や残存価額は法人税法の定める耐用年数表等に基づいて決定している場合が大半であると思われる。これに対してIFRSでは、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益を企業が消費すると予想されるパターンを反映するものでなければならないとされており(IAS第16号「有形固定資産」第60項)、欧州企業等での実務上は、定額法を適用している事例が圧倒的に多い。IFRS任意適用日本企業の場合には、IFRSを適用後も、連結財務諸表では定額法を採用するものの、個別財務諸表上は会計方針の変更は行わずに定率法のまま、という事例も多い。また、IFRS上耐用年数は、資産が企業によって利用可能であると見込まれる期間をいうとされており(IAS第16号第6項)、有形固定資産の耐用年数や残存価額は、事業年度末ごとに再検討することが求められている(IAS第16号第51項)。このため、IFRSを任意適用するにあたり、日本企業が減価償却方法や耐用年数、残存価額の見直しを行う例が少なくない。

【開示例】NIPPON EXPRESSホールディングス(2022年12月期)

 日本基準では有形固定資産(リース資産を除く)の減価償却方法について、主として旧定額法を採用しておりましたが、IFRSでは定額法を採用しております。

⑩ 資本性金融商品の売却損益等のノンリサイクリング処理
 日本基準では、資本性金融商品(株式)の売却損益は、投資有価証券売却損益等として営業外損益、最終的には当期の損益に含めて処理するが、IFRSでは、IFRS第9号「金融商品」の5.7.5項は、売買目的保有でない資本性金融商品への投資の公正価値の変動を、その他の包括利益(OCI)に表示するという取消不能な選択を行うことを企業に認めている。この選択は、金融商品ごと(すなわち株式ごと)に行われるが、その他の包括利益に表示された金額を事後的に純損益に振り替えてはならない(リサイクリングをすることができない)とされていることから(IFRS第9号「金融商品」B5.7.1)、日本基準とIFRSとの間で差異が生じることになる。
 なお、この項目は、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」において、「資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整」については、「在外子会社等において、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合には、当該資本性金融商品の売却を行ったときに、連結決算手続上、取得原価と売却価額との差額を当期の損益として計上するよう修正する。また、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の定め又は国際会計基準第39号「金融商品:認識及び測定」の定めに従って減損処理の検討を行い、減損処理が必要と判断される場合には、連結決算手続上、評価差額を当期の損失として計上するよう修正する。」こととされている。

【開示例】ジーニー(2023年3月期)

 IFRSでは資本性金融商品の公正価値の変動を、その他の包括利益において認識する取消不能な指定を移行日時点で行うことが認められており、公正価値の変動をその他の包括利益において認識する場合は、当該資本性金融商品に係る売却損益及び評価損益について純損益に振り替えられることはありません。

認識・測定に係るその他の主な差異の内容

 このほかに、認識・測定に係る差異の調整表に数多く記載されていた主な項目(件数が50件以上60件未満のもの)を一覧にして示すと、表2のとおりであった。

 それぞれの項目について、IFRSと日本の会計基準との間の相違点を簡潔に説明すると、次のとおりである。

① 連結上の未実現損益消去に係る税効果の会計処理
 わが国の会計基準において、連結手続上、消去された未実現利益に関する税効果は、未実現利益が発生した連結会社と一時差異の対象となった資産を保有する連結会社が異なるという特殊性を考慮し、かつ、従来からの実務慣行を勘案し、売却元で発生した税金額を繰延税金資産として計上し、当該未実現利益の実現に対応させて取り崩すこととされている。この売却元で発生した税金は確定した金額であるため、繰延税金資産の計上額は、売却元において未実現利益の金額に対して売却年度の課税所得に適用された法定実効税率を使用して計算した税金の額である。なお、売却元に適用される税率がその後改正されても、未実現利益に関連して認識し測定した繰延税金資産は、その税率変更の影響を受けることがないため、税率の変更による見直しは行わないことになる(会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第13項)。 
 これに対して、IFRSでは繰延税金資産及び負債は、報告期間の末日までに制定され、又は実質的に制定されている税率(及び税法)に基づいて、資産が実現する期又は負債が決済される期に適用されると予想される税率で算定しなければならない(IAS第12号「法人所得税」第47項)とされているため、日本基準とIFRSの間には差異が存在する。

② 過去勤務費用の処理方法
 わが国の「退職給付に関する会計基準」では、過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識過去勤務費用)については、その他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うとされている。これに対してIFRSでは、制度改訂又は縮小が発生した時、又は関連するリストラクチャリングのコスト又は解雇給付を企業が認識する時のうちの、いずれか早い方の日に、費用として認識しなければならないとされている(IAS第19号第103項)。

③ IFRS初度適用時に、公正価値をみなし原価として利用
 IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することが出来る。免除規定の1つとして、企業は、IFRS移行日現在で、ある有形固定資産項目を公正価値で測定し、その公正価値を当該日現在のみなし原価として使用することを選択することができ、初度適用企業は、IFRS移行日現在又はそれ以前における、ある有形固定資産項目の従前の会計原則に従った再評価が、再評価日の時点で次のいずれかとおおむね同等であった場合には、それを再評価日現在のみなし原価として使用することを選択することができる(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」D5項、D6項)。 
(a)公正価値
(b)IFRSによる原価又は償却後原価を、例えば、一般物価指数又は個別物価指数の変動を反映するように調整したもの 
 また、企業は、有形固定資産のほか、投資不動産や一定の要件を満たした無形資産に対してもこの免除規定を適用することが出来る。我が国ではそのような規定はない。

④ 賦課金の計上のタイミング
 わが国では、固定資産税等の租税公課については、納付する対象の期間にわたって分割計上する場合が多いが、IFRSでは、解釈指針第21号「賦課金」により、賦課金支払負債を生じさせる債務発生事象が生じた時点で認識することが定められている(第8項)

⑤ 連結範囲の変更
 連結の範囲については、日本基準(連結財務諸表に関する会計基準)、IFRS(IFRS第10号「連結財務諸表」)ともに、支配力基準に基づいて子会社の連結の要否を判定する規定となっているが、日本基準では重要性が乏しい一部の連結子会社については連結せず、持分法を適用したり、取得原価評価としたりする例が見られる。また、日本基準では、非営利の事業体は連結対象から除外されている。

⑥ 社債、借入金等に関する手数料、発行費の償却原価(実効金利法)の計算
 わが国の会計基準では、社債発行費用や借入実行にかかるコスト等は発生した期の費用として処理されるが(社債発行費として繰延資産として計上されるものを除く)、IFRSでは金融負債の発行にかかるコストは、実効金利法に基づく償却原価計算に含めて処理される。

⑦ 減損損失の追加計上
 わが国の「固定資産の減損に係る会計基準」とIFRS(IAS第36号「資産の減損」)とでは、帳簿価額と比較する回収可能価額(キャッシュ・フローが割引前か、割引後か)が異なる。一般的には、IFRSの方が、減損損失が認識されるタイミングが早くなる。

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