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解説記事2023年10月09日 実務解説 ジャニー喜多川氏の性加害問題と相続税及び事業承継税制の期限確定と株式譲渡(2023年10月9日号・№998)

実務解説
ジャニー喜多川氏の性加害問題と相続税及び事業承継税制の期限確定と株式譲渡
 税理士 竹内陽一
 公認会計士・税理士 有田賢臣

Ⅰ 事業承継税制の適用関係と期限確定事由

 本件については、2023/8/29に株式会社ジャニーズ事務所(以下X社という)のホームページ(https://www.johnny-associates.co.jp/)に外部専門家による再発防止特別チームに関する調査報告書が掲載され、そこに問題の内容が掲載されている。また、2023/9/7の記者会見にて、X社としても性加害の事実を認めている。
 調査報告書によれば、X社の株主構成は以下のとおりであり、1980年以降はジャニー喜多川氏(以下甲という)が死亡するまで変動していない。

 甲は2019/7/9に死亡し、甲が保有するX社株式10,000株を承継したのは藤島ジュリー景子氏(甲の姪、X社の代表取締役、以下丙という)であった。

 メリー喜多川氏(甲の姉、X社の代表取締役、以下乙という)は、甲の死去後は急激に衰え、入院するなどしており、実質的には引退している状態であった。その後、乙は2020/9/4にX社の代表取締役を辞任して名誉会長となっている。乙は2021/8/14に死亡し、乙が保有するX社株式10,000株を承継したのは丙であった。

 一部報道によれば、丙は事業承継税制の特例措置を適用しており、納税猶予中の相続税額は数百億円と推計できるとのことだ。この相続税の納税猶予と期限確定について検討したい。
 平成30年度(2018年)改正により、2018/1/1から2027/12/31までに生じた相続については、従来の一般措置(自社株式に係る相続税80%の納税猶予、措法70の7の2)に代えて、特例措置(自社株式に係る相続税100%の納税猶予、措法70の7の6)の適用が可能となっており、甲は2019年、乙は2021年に死亡しているから、特例措置の適用が可能である。
 丙は、甲から遺贈により取得したX株と乙から相続により取得したX株のそれぞれに事業承継税制の特例措置を適用していることが想定される。甲から承継したX株に係る経営承継期間は、2019/7/9(死亡日)から10ヶ月後の2020/5/9(相続税の申告期限)の翌日である2020/5/10から2025/5/9の5年間となる。乙から承継したX株に係る経営承継期間は、2021/8/14(死亡日)から10ヶ月後の2022/6/14(相続税の申告期限)の翌日である2022/6/15から2027/6/14の5年間となる。

 事業承継税制の適用を受けるための要件として、先代経営者(甲及び乙)、後継者(丙)ともに筆頭株主要件があるが、同数筆頭株主である他の同族株主がいても要件を満たすとされている。また、後継者(丙)の代表者要件(相続時から5ヶ月を経過する日において、会社の代表者=代表取締役であること)については、甲の相続時から5ヶ月を経過する日において、丙だけでなく乙も代表取締役であるが、「後継者(丙)以外に代表者がいないこと」は要件になっていない。
 事業承継税制の経営承継期間内において、丙が代表取締役を辞任した場合はそれぞれ期限確定となる(措法70の7の6③、措法70の7の2③一)。
 また、丙がX株を譲渡した場合や、事業承継税制の適用をやめることを選択した場合も期限確定となる(措法70の7の6③、措法70の7の2③五・十二 ⑤二)。経営承継期間中は1株でも譲渡すれば猶予税額の全額が期限確定となり、経営承継期間経過後に譲渡すれば譲渡株数に応じた猶予税額が期限確定となる。
 猶予税額はこれらの日において期限確定し、その日から2月以内が納期限となるが、期限確定事由のいずれにも該当しない場合には、納税猶予が継続される。
 なお、X社のホームページによれば、従業員210名、資本金1,000万円の企業であるが、従業員数確認期間の末日において雇用の平均8割維持要件が未達であったとしても、特例措置の適用を受ける場合には、その理由について都道府県に報告を行うことにより事業承継税制の前提となる認定に係る取消事由には該当しない。

Ⅱ 株式を譲渡した場合の特例

 相続税の申告期限から3年間は、相続した株式を発行会社に譲渡した場合の金庫株特例(みなし配当課税を行わず譲渡所得として課税する特例)や取得費加算特例(譲渡所得の計算上、相続税額の一部を取得費に加算する特例)があるが、X株を譲渡する場合にはこれら特例の適用についても考慮する必要があり、甲から承継したX株については2023/5/9、乙から承継したX株については2025/6/14がこれら特例の適用期限と考えられる。乙から承継したX株については金庫株特例や取得費加算特例の適用が可能であるが、甲から承継したX株については、この期限は経過している。
 丙が保有するX株(20,000株)の一部を譲渡した場合には、甲から承継したX株を譲渡したと考えるのか、乙から承継したX株を譲渡したと考えるのかで課税関係が異なることになるが、納税者有利の取扱いが認められるのではないだろうか(取得費加算は租税特別措置法関係通達39−12、金庫株特例は東京国税局文書回答「相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例の適用関係について(相続開始前に同一銘柄の株式を有している場合)」が参考となる)。
 猶予税額の計算の基礎とされたX株に係る相続税の課税価格は類似業種比準価額であると考えられるが、金庫株として譲渡する場合の譲渡価額は、時価純資産価額を参酌した価額(所基通59−6)となるので、金庫株譲渡により期限確定した相続税を納付することや、丙の選択として、甲に対する損害賠償債務を継承した場合の資金を負担することも可能かもしれない。
 その他事業承継税制には、相続後に企業価値が下落した場合、猶予税額を再計算する特例がいくつかあり、平成30年度改正において、経営環境の悪化に伴い納税猶予適用時の株価よりも低い株価で自社株式を第三者に譲渡した場合の猶予税額の再計算特例が設けられている(平成30年度改正財務省解説p601参照)。この再計算特例は経営承継期間経過後に株式を譲渡した場合に限り適用できる。

Ⅲ 損害賠償金の支払いと課税関係

 今後、X社が甲の性加害の被害者に損害賠償金を支払う場合、法人税法上の損金該当性を検討する必要があるが、仮に甲が存命であれば、法人税基本通達9−4−2の2に該当し、当該損害賠償金は甲が個人として負担すべきであるにも係わらずX社が負担したものとして、甲に対する賞与として扱われる可能性がある。甲はすでに死亡しているためこの取扱いはないが、甲の財産の実質承継者であり、X社の代表取締役である丙に対する賞与という考え方がないわけではない。
 他方で、X社は丙に対して求償権が発生すると考えられる。求償権を行使して、丙に損害賠償金として支払った額の返還を求めるのであれば、X社では立替金の計上とその回収ということになり(つまり、X社の損金該当性の検討は不要となり)、丙は金庫株譲渡や第三者へのX株譲渡により返済資金を捻出することになると考えられる。X株の譲渡時期により丙が適用できる特例が異なるのは上述のとおりである。
 なお、被害者個人が受け取る損害賠償金は「心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」に該当し非課税と考えられる(所令30)。
 いずれにしろ丙が賢明な選択をされ、この問題の解決に向かうことを期待したい。

Ⅳ 令和5年10月2日のX社の記者会見と丙の意見表明

 丙は記者会見には欠席したが、以下の書面を公表した(X社記者会見より一部引用)。
 「そういう理由で現在の会社には株主100%として残りますが、チーフコンプライアンスオフィサーを外部から招聘し、今後私は補償とタレントの心のケアに専念し、それ以外の業務には一切当たりません。
 また、今後私は全ての関係会社からも代表取締役を降ります。また、ジャニーとメリーから相続したとき、ジャニーズ事務所を維持するためには事業承継税制を活用しましたが、私は代表権を返上することでこれをやめて、速やかに収めるべき税金全てをお支払いし、会社を終わらせます。」
という選択をされました。

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