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解説記事2023年11月06日 ニュース特集 相続税実務におけるよくある誤解 第2弾(2023年11月6日号・№1002)

ニュース特集
マンション通達の適用回避、公序良俗に反する贈与、借用書等のない社長借入金……
相続税実務におけるよくある誤解 第2弾


 本誌980号では、「相続税実務におけるよくある誤解」と題し、第2次相続開始時点で通算貸付期間3年未満の宅地への小規模宅地特例の適用可否や、遺贈・死因贈与契約の効力が係争中の場合の「相続開始を知った日」はいつなのかといった問題を取り上げたが、本特集では、その第2弾として3つの事例について解説する。
 具体的には、①相続開始前に登記を変更し「区分所有登記がされていない建物」とすれば、いわゆるマンション通達の適用を回避できるのか、②公序良俗に反する金員の贈与が行われた場合、本件金員を相続税の課税財産に反映させる必要があるか、③金銭消費貸借契約書や借用書が存在しない社長からの借入金を相続税の課税財産として計上するべきか、という問題を取り上げる。

事例1

「区分所有登記がされていない建物」へのマンション通達適用の是非

マンション通達の適用対象は「区分所有登記建物」
 まずは、注目の“マンション通達”に関する事例を取り上げよう。
 高層マンションを利用した相続税対策が問題視される中、国税庁は10月6日、パブリックコメントに付していた「居住用の区分所有財産の評価について」(いわゆるマンション通達)を公表したが、同通達の適用を回避するための手法が税理士等の間で検討されている。マンション通達が適用されるマンションは、「区分所有登記」された建物に限られることから、一棟の区分所有建物の全てを被相続人等が所有している場合には、相続開始前にその登記を変更し「区分所有登記がされていない建物」とすれば、同通達の適用を回避できるのではないかというものだ。
変更登記しても、独立して住居等の用途に供することができることは明らか
 この見解が正しいかどうか検討する上では、譲渡所得に関する相続空き家特例(措法35③)に係る取扱いが手掛かりとなる。同特例は、譲渡したマンションが「区分所有登記されている建物」である場合には、適用を受けることができないとされている(措法35④)。そして、「建物の区分所有等に関する法律第1条(建物の区分所有)」の規定に該当する建物とは「区分所有登記された建物」であることを明確化した措置法通達35–11について課税当局は、何ら構造上変更がないにもかかわらず、被相続人の居住用財産の特別控除の特例の適用を受けることのみを目的に、相続開始前に区分所有建物から区分所有でない建物に変更登記したとしても、一棟の建物に構造上区分された部分で独立して住居等の用途に供することができるものであることは明らかであるため、この変更登記した建物については同特例の適用はない、との見解を示している。
 この見解を踏まえると、一棟の区分所有建物について何ら構造上変更を加えることなく、課税時期前に「区分所有登記された建物」から「区分所有登記されていない建物」に変更登記をしたとしても、当該建物内のマンションについては、マンション通達が適用されると考えるべきだろう。
 なお、上記課税当局の考え方は、小規模宅地等の特例の適用の有無の判定上、相続開始前に被相続人が居住の用に供している区分所有登記された二世帯住宅(一階は被相続人世帯、二階は長男世帯)について、長男を被相続人の同居親族とするために、当該二世帯住宅の登記を区分所有されていない建物に変更した場合にも当てはまることになろう。

事例2

公序良俗に反する贈与が行われた場合の課税関係

公序良俗に反する贈与は無効の一方、不法な原因のための給付は返還請求不可
 被相続人の預金口座から多額の不明出金があったことから、その使途について関係者に確認したところ、被相続人の愛人に金員が与えられていた、あるいは、両人の関係が破綻したため、被相続人が本件金員の一部について返還を求めていたといったケースがある。
 このような事実があった場合、相続税申告書の作成にあたり判断に迷うのが、本件金員を相続税の課税財産に反映させる必要があるのか否かという点だ。不法な原因のために物の給付がされた場合、その原因行為は公序良俗に反し無効となると定めている民法90条(公序良俗)が頭をよぎるところだろう。つまり、本件金員は被相続人が愛人関係を維持するためなどを目的として給付(贈与)したのだから、公序良俗に反し、本件贈与は無効となり、本件金員は本件贈与によって移転しないことになる。
 その一方で、民法708条(不法原因給付)は、不法な原因のために給付をした者は、原則として給付をした物の返還を求めることはできないとしている。したがって、被相続人は本件金員の返還請求をすることができない。民法90条と民法708条の狭間で、果たして本件金員は被相続人と愛人のどちらに帰属するのか、悩ましいところだ。
「不法原因給付」として被相続人は返還請求不可、相続財産に含まれず
 この点について判例は、「贈与が民法708条の不法原因給付に当たる場合には、贈与者において給付した物の返還を請求できなくなることから、その反射的効果として、目的物の所有権は贈与者の手を離れ、受贈者に帰属する」旨判示している。この判示を踏まえると、本件贈与は無効だが、不法原因給付に当たるため、被相続人は本件金員の返還を求められず、本件金員は愛人に帰属することになる。したがって、被相続人の相続財産に本件金員を反映させる必要はない。
 なお、愛人は、被相続人から対価を支払わないで本件金員という利益を受けたことになるため、相続税法9条に基づき、愛人は本件金員を取得した時に本件金員を被相続人から「贈与」により取得したものとみなされる。

事例3

金銭消費貸借契約書等が存在しない社長からの借入金

書面がないことをもって金銭消費貸借契約なしとはいい難いとする裁決が存在
 同族法人の貸借対照表等には、社長(被相続人)からの借入金が古くから計上されているものの、関係者に聴取しても当該借入が実際に行われたのか明らかでなかったり、そもそも当該借入に係る金銭消費貸借契約書や借用書自体が存在しなかったりするケースが少なくない。こうした場合、相続税の申告に当たり、当該借入に係る貸付金を課税財産として計上するべきか否か、税理士等としては判断に迷うところだろう。
 金銭消費貸借契約書が存在しない場合の金銭消費貸借契約の存否に関しては、通常、同族会社とその代表取締役という両者の関係からすれば、個々の取引に係る金銭消費貸借契約書までは作成しないことも多いことから、そのような書面がないことをもって、金銭消費貸借契約がなかったとはいい難いと解されている(平成27年11月5日未公開裁決)。
高裁、会計帳簿上存在が認められれば債権の存在が認められるべきと判示
 また、法人の会計帳簿に借入金の記載がある場合のその信用性について大阪高裁平成21年8月27日判決は、「会計帳簿は、法律上公正な会計慣行に従って作成することが義務づけられており、企業の収益力を適正に表示し、債権者等の利益保護を図り、また企業が合理的な経営を行うために作成されものであって、貸借対照表等の決算書を作成する基礎となる重要な書類である。そして、法律は、高い信用性を担保するため、さまざまな規定を置いているのであって、一般的に高い信用性が認められる。なるほど、課税手続において、会計帳簿の記載が、他の証拠等による事実と齟齬する内容が記載されていることが明らかになることもあるが、このような場合においても、当該会計帳簿を基礎とし、齟齬する部分についてのみ是正した上、その後の課税手続が進められるのであって、一部の明らかな誤りが帳簿全体の信用性を喪失させるなどと考えることは到底できない。(中略)そして、同族会社の代表取締役が当該同族会社に対して貸付けをする場合には、個々の取引に係る金銭消費貸借契約書までは作成しないケースが多く、このような代表者貸付金については、会計帳簿により、全体としてその存在が認められれば、これを個々に特定表示することができない場合であっても、その債権の存在が認められるというべきである。」旨判示している。
 これらの判断を踏まえると、同族法人の貸借対照表等に被相続人からの借入金が計上されている場合には、たとえ当該借入に係る金銭消費貸借契約書等が存しないとしても、原則として当該借入に係る貸付金は相続税の課税財産として申告すべきと言えよう。

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