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解説記事2023年11月20日 特別解説 IFRS教育文書「気候関連事項が財務諸表に与える影響」(2023年11月20日号・№1004)

特別解説
IFRS教育文書「気候関連事項が財務諸表に与える影響」

はじめに

 2023年6月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、IFRS S1の「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する一般規定」とIFRS S2の「気候関連の開示」を公表した。
 これらの新しいIFRSサステナビリティの開示基準を踏まえ、IFRS財団は、気候関連事項の影響が生じた場合にその影響を財務諸表に報告するというIFRS会計基準の長年の要求事項を利害関係者に思い出させるために、IFRS教育文書「気候関連事項が財務諸表に与える影響」を再発行した。
 本稿では、上記教育文書を紹介することとしたい。

IFRSの会計基準書と気候変動との間の関係

 ISSBの基準を考慮することは、企業が財務諸表に影響を与える気候変動などの事項をより適切に特定するのに役立ち、企業がIFRS会計基準を適用するのに役立つ可能性がある。
 気候変動は、企業のビジネスモデル、キャッシュ・フロー、財務状況や業績に影響を及ぼす可能性があるため、投資家やその他のIFRS利害関係者の関心が高まっているテーマである。ほとんどの業界は、気候変動とその影響を管理する取組みの影響を受けてきた、又は影響を受ける可能性がある。そして、他の業界よりも大きな影響を受ける業界も存在する。
 IFRSの会計基準では、気候に関連する問題については明示的に言及していない。ただし、財務上の観点から気候関連事項の影響が重要である場合、企業はIFRS会計基準を適用する際に気候関連事項を考慮しなければならない。
 この教育文書では、気候関連事項を考慮すべき場合について、IFRSの基準書ごとに分かりやすい事例を示している。以下で説明するIFRSの各基準書や項番号は、すべてを網羅したものではない。例えば、確定給付債務の測定など、IFRS会計基準を適用する際に気候関連事項が関連する他の事例も存在する可能性があることにご留意頂きたい。
 以下で概説されている特定の要求事項に加えて、IAS第1号「財務諸表の表示」には、気候関連問題を検討する際に関連する可能性のあるいくつかの包括的な要求事項が含まれている。例えば、IAS第1号の第112項では、IFRSで要求している情報のうち、財務諸表のどこにも表示されていないものや、財務諸表のどこにも表示されていないが、財務諸表の理解に関連性のある情報を開示することを求めている。
 この112項は、第31項(「企業は、IFRSにおける具体的な要求事項に準拠するだけでは、特定の取引、その他の事象及び状況が企業の財政状態及び財務業績に与えている影響を財務諸表利用者が理解できるようにするのに不十分である場合には追加的な開示を提供すべきかどうかも検討しなければならない。」と定めている。我が国でいう追加情報に相当)と合わせて、企業に対し、財務諸表に重要な情報が欠落していないかどうかを検討することを求めている。したがって企業は、投資家が気候関連の影響を理解するために、IFRSの会計基準の特定の要求事項への準拠が不十分な場合、追加の開示を提供するかどうかを検討しなければならない。IAS第1号のこれらの包括的な要求事項は、財政状態又は業績が、気候関連問題によって特に影響を受ける企業に特に関連する可能性がある。

各基準書別の影響分析

① IAS第1号「財務諸表の表示」
見積りの不確実性と重要な判断の原因(第122項~124項、第125項~第133項)

 企業が将来について行う仮定に、次の1会計年度内に資産及び負債の簿価に重要な調整が生じる重大なリスクがある場合、IAS第1号は、それらの仮定(前提条件)、資産及び負債の性質及び帳簿価額に関する情報の開示を要求する。
 例えば、資産の減損をテストする際の将来キャッシュ・フローの見積りや廃炉義務を解決するために必要な支出の最善の見積りなど、見積りを作成するために使用される仮定に影響を与える不確実性がそれらの事項によって生じる場合には、気候関連事項に関する情報が必要になる場合がある。企業は、将来について経営者が下す判断を投資家が理解できるような方法で開示しなければならない。提供される情報の性質と範囲はさまざまであるが、例えば、仮定の性質や計算の基礎となる方法、前提条件及び見積りに対する簿価の感応度、及び感応度の理由が含まれる場合がある。
 IAS第1号はまた、財務諸表で認識される金額に最も重要な影響を与える、経営者が下した判断の開示を要求している。例えば、特に気候関連問題の影響を受ける業界で事業を行っている企業は、IAS第36号「資産の減損」を適用して資産の減損テストを行っても減損が認識されない可能性がある。当該企業は、例えば資産の資金生成単位を特定する際に経営者が下した判断が、その会社の財務諸表で認識される金額に最も重要な影響を与える場合には、その判断を開示しなければならないであろう。

継続企業(第25項、第26項)
 IAS第1号は、財務諸表を作成する際に企業が継続企業として存続する能力を評価することを経営者に要求している。継続企業の前提に基づく財務諸表の作成が適切であるかどうかを評価する際、経営者は将来に関するすべての入手可能な情報を考慮する。将来の情報は、報告期間の終了から少なくとも12か月であるがこれに限定されない。気候関連の問題により、企業が継続企業として存続する能力に重大な疑義を生じさせるような事象や状況に関する重大な不確実性が生じた場合、IAS第1号はそれらの不確実性について開示することを要求している。継続企業の前提に関して開示を必要とする重大な不確実性はないと経営者が結論付けたが、その結論に達するために重要な判断が必要である場合には、IAS第1号はその判断の開示を要求している。

② IAS第2号「棚卸資産」 第28項~第33項(正味実現可能価額)
 気候関連の問題により、企業の在庫が陳腐化したり、販売価格が下落したり、完成コストが上昇したりする可能性がある。その結果、棚卸資産の原価を回収できない場合、IAS第2号は企業に対し、それらの棚卸資産を正味実現可能価額まで減額することを求めている。
 正味実現可能価額の見積りは、見積りが行われた時点で在庫が実現すると予想される金額について入手可能な、最も信頼できる証拠に基づいている。

③ IAS第12号「法人所得税」 第24項、第27項~第31項(将来減算一時差異)、第34項(税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除)、第56項(繰延税金資産)
 IAS第12号は一般に、企業に対し、将来の課税所得が利用できる可能性が高い範囲で控除可能な一時差異及び未使用の繰越欠損金並びに税額控除に係る繰延税金資産を認識することを求めている。気候関連の問題は、企業の将来の課税所得の見積りに影響を与える可能性があり、その結果、企業が繰延税金資産を認識できなくなったり、以前に認識した繰延税金資産を取り崩したりする必要が生じる可能性がある。

④ IAS第16号「有形固定資産」及びIAS第38号「無形資産」
IAS第16号 第7項(認識)、第51項(償却可能額及び償却期間)、第73項、第76項(開示)
IAS第38号 第9項~第64項(認識及び測定)、第102項(残存価額)、第104項(償却期間及び償却方法の見直し)、第118項、第121項、第126項(開示)

 気候関連の問題により、研究開発を含む事業活動の変更又は適応のための支出が促される可能性がある。IAS第16号及びIAS第38号は、費用を資産として(有形固定資産又は無形資産として)認識するための要求事項を定めている。IAS第38号では、報告期間中に費用として支出された研究開発費総額の開示も求められている。 
 IAS第16号及びIAS第38号では、企業に対し、資産の見積残存価額と予想耐用年数を少なくとも年に一度見直し、変更を反映することを求めている。気候関連の問題は、資産の老朽化や法的制限、アクセス不能などにより、資産の見積残存価額や予想耐用年数に影響を与える可能性がある。企業はまた、資産の種類ごとの予想耐用年数、見積残存価額又は予想耐用年数の変更の内容と金額を開示することも求められている。

⑤ IAS第36号「資産の減損」 第9項~第14項(減損している可能性のある資産の識別)、第30項(使用価値)、第33項(将来キャッシュ・フローの見積りの基礎)、第44項(将来キャッシュ・フローの見積りの構成要素)、第130項、第132項、第134項~第135項(開示)
 IAS第36号は、企業がのれんや有形固定資産、使用権資産、無形資産などの資産の減損を評価するために回収可能額を見積る必要がある場合の要求事項を定めている。企業は、各報告期間の終了時に減損の兆候があるかどうかを評価しなければならない。気候関連の問題により、資産(又は資産グループ)に減損の兆候が生じる可能性がある。
 例えば、温室効果ガスを排出する製品の需要が減少することによって、その製品を製造する工場の設備が減損していることを示している可能性があり、そうなると資産の減損テストが必要になる。また、IAS第36号は、企業に悪影響を及ぼす環境の重大な変化(例えば、規制の変更を含む)などの外部情報が減損の兆候であると指摘している。
 IAS第36号は、使用価値を使用して回収可能価額を見積る場合、資産から得られると予想される将来のキャッシュ・フローの見積り、及びそれらの将来のキャッシュ・フローの金額又は時期の変動の可能性についての期待を反映してそれを行うことを企業に求めている。企業は、将来の経済状況の範囲についての経営者の最善の見積りを表す、合理的で裏付け可能な仮定に基づいてキャッシュ・フローの予測を行う必要がある。
 このため企業は、気候関連の問題がそれらの合理的で裏付け可能な仮定に影響を与えるかどうかを検討する必要がある。また、IAS第36号では、資産の減損を認識するに至った事象及び状況の開示を求めている。例えば、製造コストを増加させるような排出量削減法の導入などが減損の兆候として挙げられる。特定の状況では、資産の回収可能価額を見積るために使用された主要な仮定、及びそれらの前提条件の合理的に起こり得る変更に関する情報の開示も要求される。

⑥ IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」 第14項~第83項(認識)、第85項~第86項(開示)、IFRIC第21号「賦課金」第8項~第14項(合意事項)
 気候関連の問題は、例えば以下に関連する、IAS第37号を適用する財務諸表における負債の認識、測定及び開示に影響を与える可能性がある。
・気候関連の目標を達成できなかったり、特定の活動を抑制又は奨励したりするために政府が課す課徴金。
・環境被害を修復するための規制要件。
・負担が大きくなる可能性のある契約(例えば、気候関連の法律変更の結果、収益の喪失やコストの増加が生じる可能性がある)。
・気候関連の目標を達成するために製品又はサービスを再設計するための再構築。

 IAS第37号は、引当金又は偶発債務の内容及び関連する経済的利益の流出の金額又は時期に関する不確実性の開示を要求している。
 適切な情報を提供する必要がある場合、IAS第37号では、引当金の金額に反映される将来の出来事についての主要な仮定の開示も要求している。

⑦ IFRS第7号「金融商品:開示」 第31項~第42項(金融商品から生じるリスクの内容及び程度)、B8項(定量的開示)
 IFRS第7号は、金融商品から生じるリスクの内容と範囲、及びそのリスクの種類と方法に関する情報を含む、企業の金融商品に関する情報の開示を要求している。
 企業はそれらのリスクを管理するが、気候関連の問題により、企業は金融商品に関連したリスクにさらされる可能性がある。例えば貸手に対しては、次の情報を提供する必要がある場合がある。
・予想される信用損失の測定又は信用リスクの集中に対する気候関連事項の影響に関する情報。株式投資の保有者にとって、市場リスクの集中を開示する際には、気候関連リスクにさらされているセクターを特定し、産業別又はセクター別の投資に関する情報を提供する必要がある場合がある。

IFRS第9号「金融商品」 第4.1.1(b)項、4.1.2A(b)項(金融資産の分類)、4.3.1項(組込デリバティブ)、5.5.1項~5.5.20項(減損)、B4.1.7項(元本及び元本残高に対する利息の支払のみである契約上のキャッシュ・フロー)
 気候関連の問題は、さまざまな形で金融商品の会計処理に影響を与える可能性がある。例えば、ローン契約には、契約上のキャッシュ・フローを企業の気候関連目標の達成に結び付ける条件が含まれる場合がある。これらの目標は、ローンの分類及び測定方法に影響を与える可能性がある(つまり、金融資産の契約条件が、元金と未払元本に対する利息のみの支払いであるキャッシュ・フローを生じさせるかどうかを評価する際に、貸手はこれらの条件を考慮する必要がある)。借手にとって、これらの目標は、主契約から分離する必要があるデリバティブが組み込まれているかどうかに影響を与える可能性がある。また、気候関連の問題は、貸手の信用損失へのエクスポージャーに影響を与える可能性がある。例えば、山火事、洪水、あるいは政策や規制の変更は、貸手に対する債務を履行する借手の能力に悪影響を与える可能性がある。さらに、資産にアクセスできなくなったり、保険が適用されないために貸手の担保価値に影響を与えたりする場合もある。IFRS第9号では、予想される信用損失を認識及び測定する際に、過度のコストや労力をかけずに利用できる、合理的かつ裏付け可能な情報をすべて使用することが求められている。
 気候関連の問題は、信用リスクの大幅な増加に関する貸手の評価、金融資産が減損しているかどうか及び/又は予想される信用損失の測定に関する潜在的な将来の経済シナリオの範囲に影響を与える可能性がある。

IFRS第13号「公正価値測定」 第22項(市場参加者)、第73項~第75項(公正価値ヒエラルキー)、第87項(レベル3のインプット)、第93項(開示)
 気候関連の問題は、財務諸表における資産及び負債の公正価値の測定に影響を与える可能性がある。例えば、潜在的な気候関連の法律に対する市場参加者の見方は、資産又は負債の公正価値に影響を与える可能性がある。気候関連の問題は、公正価値の測定に関する開示にも影響を与える可能性がある。
 具体的には、公正価値ヒエラルキーのレベル3に分類される公正価値測定では、その測定に重要な観察不能なインプットが使用される。IFRS第13号は、観察不能なインプットが、気候関連リスクを含む可能性のあるリスクに関する仮定を含め、市場参加者が価格設定を行う際に使用する仮定を反映することを要求している。IFRS第13号は、それらの公正価値測定に使用されたインプットの開示を要求しており、定期的な公正価値測定については、それらのインプットが著しく変動する可能性がある場合、観察不能なインプットの変化に対する公正価値測定の感応度についての説明的記述を要求している。

IFRS第17号「保険契約」 第33項(将来キャッシュ・フローの見積り)、第40項(事後的な測定)、第117項(IFRS第17号適用にあたっての重要な判断)、第121項~第128項(IFRS第17号が適用される契約から生じるリスクの内容と範囲)、別表A(用語の定義)
 気候関連の問題は、保険事故の頻度や規模を増加させたり、その発生時期を早めたりする可能性がある。気候関連の影響を受ける可能性のある保険事故の例には、事業の中断、物的損害、病気、死亡などが含まれる。したがって気候関連事項は、IFRS第17号を適用する保険契約負債の測定に使用される前提に影響を与える可能性がある。また、気候関連事項は、(a)IFRS第17号の適用において行われた重要な判断及び判断の変更、及び(b)企業のリスクへのエクスポージャー、リスクの集中、リスクの管理方法、及びリスク変数の変化の影響を示す感応度分析に関する開示にも影響を与える可能性がある。

終わりに

 IASB(国際会計基準審議会)による会計基準書の開発作業も、IFRS第16号「リース」及びIFRS第17号「保険契約」の発効をもって一区切りしたことから、最近は、経理・会計関係者の関心は気候変動や温暖化、サステナビリティ、持続的成長といった分野に移りつつあるかもしれない。我が国企業が公表する有価証券報告書においても、女性従業員の比率や育休取得率、男女間の給与格差の状況等に関する開示が始まった。
 サステナビリティ関連の処理や開示とIASBが公表した会計基準書との間のつながりは、今後ますます強く緊密になっていくに違いなく、今回紹介したような教育文書も続編が公表される可能性もあると思われる。

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