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解説記事2024年01月29日 巻頭特集 令和6年度与党税制改正大綱の主要事項のポイント(2024年1月29日号・№1012) −国内投資の拡大と構造的な賃金引上げに向けて

巻頭特集
令和6年度与党税制改正大綱の主要事項のポイント
−国内投資の拡大と構造的な賃金引上げに向けて
 一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部 長基公則/大川充穂


 令和5年12月14日、令和6年度与党税制改正大綱が取りまとめられた。30年ぶりの高い水準の賃金引上げ、企業の旺盛な投資意欲など、日本経済がようやく動き始めた中で、デフレからの完全脱却のチャンスを逃してはならないという現状認識の下、国内投資の拡大や構造的な賃金引上げを促進する税制措置が多数講じられた。
 本稿では、主要改正事項を概観するとともに、令和7年度税制改正についても展望していく。なお、本稿の記載事項は、令和6年1月18日時点の情報に基づいており、今後法令等により変更が生じうる。全ては筆者個人の見解であり、所属組織を代表したものではないことを予めお断りしておく。

Ⅰ.主要改正事項の解説

1 法人税制
(1)戦略分野国内生産促進税制の創設
 ① 創設の背景等

 GX、DX、経済安全保障などの分野では、生産段階でのコストが高く、初期投資支援だけでは国内投資の判断が容易でないケースが存在する。米国では、2022年8月に成立したインフレ削減法(IRA:Inflation Reduction Act)により、エネルギー安全保障・気候変動関連投資について、10年間で3,690億ドル(約50兆円)の支援を措置しており、その中で生産・販売段階での支援を実施している。また、EUにおいても、グリーン・ディール産業計画等を公表し、域内投資の促進を図っている。
 こうした中、わが国においても、GX、DX、経済安全保障など、国として長期的な戦略投資が不可欠となる分野における国内投資を促進する観点から、生産・販売量に応じて減税を行う戦略分野国内生産促進税制が創設された。
 ② 制度設計
 対象となる物資は、電気自動車等、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAF(持続可能な航空燃料)、半導体である。企業側から当税制の対象にするよう要望の強かった蓄電池については、補助金で措置されていることや、電気自動車の生産支援により、それに不可欠な蓄電池の生産も間接的に支援できることから、直接の措置は講じないこととなった。
 対象物資ごとに、競争環境等を踏まえ、単位当たりの控除額が設定され、それに販売量を乗じた額を法人税額から控除できる(図表1参照)。ただし、措置期間を通じて、既存の建屋等を含む生産設備全体の額を控除上限とするほか、各年度においては、当期の法人税額の40%(半導体は20%)が控除上限とされた。


 措置期間を通じた上限に既存の建屋等が含まれるのは、当税制は生産段階への支援であり、初期投資額に紐づいた仕組みにすべきではないという経済産業省の考えが反映されたものである。また、「帳簿価額」ではなく「取得価額」を基礎とすることで、償却されていない取得時の価額から、控除上限を算定することが可能となっている。
 企業の予見可能性を高める観点から、措置期間は、産業競争力強化法に基づく事業計画の認定時から10年間と、長期の措置となった(事業計画認定は令和8年度末まで)。措置期間の後半には競争環境が整うことが見込まれるため、生産開始時から8年目は75%、9年目は50%、10年目は25%と、控除額が段階的に引き下げられる。また、控除額は4年間の繰越が可能である(半導体は3年間)。
 GX関連の物資については、既存製品からの置き換え(例:ガソリン車→電気自動車、ケロシン→SAF)が必要であり、その分利益が出にくい構造である一方、半導体については、市場が成熟していることから、GX関連物資に比べ、措置内容が若干劣後することとなった。
 半導体以外のGX関連物資については、GX経済移行債の発行収入を財源とすることとなった。このため、既存の税制に比べ大規模で長期間の措置が可能となった。
 なお、賃上げ、設備投資について、次のi~iiiの全て(後述のムチ税制の上乗せ措置と同等の要件)に該当する場合、当該年度には、当税制の適用は受けられない。
i)所得金額:対前年度比で増加
ii)継続雇用者給与等支給額:対前年度比増加率1%未満
iii)国内設備投資額:当期の減価償却費の4割以下
(2)イノベーションボックス税制の創設
 ① 創設の背景等

 イノベーションボックス税制とは、知的財産から生じる所得を優遇する税制である。研究開発拠点としての立地競争力の強化やイノベーションの促進を目的に、2000年代から欧州を中心に導入が始まり、近年では、韓国、シンガポール、香港などのアジア諸国においても、導入・検討が進んでいる。経団連としても、当税制の創設を長年要望してきた。
 こうした中、経済産業省は、令和5年4月に「我が国の民間企業によるイノベーション投資の促進に関する研究会」を立ち上げ、同税制の創設に向けた検討を開始し、それを踏まえ、令和6年度税制改正において要望が行われた。財務省との調整の結果、経産省要望に比べ限定的なものとなったが、わが国においても同税制が創設されることとなった(図表2参照)。

 ② 制度設計
 対象となる知財は、企業が国内で自ら研究開発を行った特許権、AI関連のソフトウェアの著作権で、令和6年4月1日以降に取得したものとなった。経産省、企業側はソフトウェアを幅広く対象とすることを要望したが、ゲーム、音楽、キャラクターなど、研究開発というよりは、個人の創作に属するものも含まれることになるため、結果的には、AI関連に限定されることとなった。
 対象となる所得は、対象知財から得られる譲渡所得とライセンス所得となった。ただし、子会社等の関連者からの譲渡所得・ライセンス所得、海外への譲渡に伴う譲渡所得は除外される。経産省、企業側は、製品に組み込まれた知財から生じる所得も対象とすることを要望し、大きな論点となったが、そうした所得を算出することが実務上困難なことなどから、対象外となった。
 その上で、対象所得について、30%の所得控除を行う制度となった。このため、対象所得については、法人実効税率ベースで、29.74%から20.82%〔=29.74×(1−0.3)〕への税率引下げが行われることとなる。令和7年4月1日から施行され、措置期間は7年間である。
 イノベーションボックス税制の創設に必要な財源の確保のため、研究開発税制における控除率カーブが見直されることとなった。具体的には、研究開発費が減少している場合の控除率を段階的に引き下げることとなった(令和8年度、11年度、13年度の3段階で実施)。交渉の過程では、財務省より、試験研究費の範囲から海外委託試験研究費の一定割合を除外する案もあわせて提示されたが、これについては製薬業界を中心に企業側からの反対意見が多く、最終的には、控除率カーブの見直しのみにより、財源確保が行われることとなった。
(3)賃上げ促進税制の見直し
 ① 見直しの背景と基本的考え方

 令和5年の春季労使交渉においては、足もとの物価上昇などを受け、月例賃金の引上げ率(定期昇給を含む)が約30年ぶりの高い水準となった。しかし、厚生労働省「毎月勤労統計調査」において、1人当たりの平均賃金(名目賃金)を見ると、その伸びは物価の伸びに追い付いておらず、実質賃金は前年比マイナスでの推移が続いている(令和5年11月の実質賃金は前年同月比−3.0%となっている)。
 経団連としては、定期昇給を含む月例賃金の引上げ率を重視しており、毎月勤労統計調査の平均賃金については、前年との比較においてベースアップ分は数値に表れるが、定期昇給分は十分に反映されない点に留意が必要と考えている。ただ、政府側は平均賃金を重視しており、その伸びが物価の伸びに追い付いていないことに問題意識を持っている。
 このため、賃上げの動きを継続し、物価上昇を上回る賃金上昇を実現すべく、令和5年度末に適用期限を迎える賃上げ促進税制について、改組・強化が行われた。
 従前の大企業(資本金1億円超)のうち、従業員数2,000人超の企業については、物価高に負けない賃上げの牽引役を期待するとの観点から、より高い賃上げへのインセンティブを強化する形で見直しが行われた。従前の大企業のうち、地域経済の担い手である従業員数2,000人以下の企業については、「中堅企業」と位置付けた上で、新たな枠が設けられた。中小企業(資本金1億円以下)については、賃上げの裾野を広げるべく、赤字の企業でも当税制を活用できるよう、繰越控除措置が創設された。本稿では、大企業向け措置の見直しについて説明する(図表3参照)。

 ② 大企業向け措置の見直し
(i)措置期間
  措置期間が3年延長され、令和6年度から令和8年度となった。継続的な賃上げを実現する観点から、現行の2年間より長い3年間となったが、これは、岸田内閣が今後3年程度を、30年続いたコストカット型経済から脱却するための「変革期間」と位置付け、賃上げや投資拡大への支援策を集中的に講じるとしたことにも対応していると考えられる。
(ii)対象給与等
  対象となる給与等については、持続的・構造的な賃上げの実現には基本給の引上げが重要であるとの観点から、賞与や残業代を除くべきという議論もあったが、企業側の反対意見が強かったことなどから、最終的には、変更は行われなかった。
(ⅲ)賃上げ要件
  当初、継続雇用者給与等支給額の前年度比増加率3%以上、4%以上という現行要件の廃止や切上げに関する議論もあり、最大の焦点となったが、賃上げの裾野を広げていく観点などから、現行要件は維持された。他方、税額控除率については、3%要件は10%、4%要件は15%に引き下げられた。これは、令和5年度に多くの企業がすでに3%以上の賃上げを実施していることを踏まえ、現行措置をそのまま維持した場合、財政的な影響が大きくなることを当局が懸念したためと考えられる(東京商工リサーチ「2023年度「賃上げに関するアンケート」調査」(令和5年8月)によると、令和5年度に賃上げを実施した大企業の72.7%は、3%以上の賃上げを実施している)。
  一方で、より高い賃上げへのインセンティブを強化するため、継続雇用者給与等支給額の前年度比増加率が5%以上、7%以上という新たな要件が設けられ、税額控除率がそれぞれ20%、25%とされた。
(iv)上乗せ措置
  教育訓練に関する上乗せ措置については、現行は、前年度の教育訓練費の額が0円の場合は、僅かな教育訓練費の増加でも適用が可能な状態になっていたため、教育訓練費の額が雇用者給与等支給額の0.05%以上であることが要件として追加された。その上で、増加率の要件は緩和され、教育訓練費の前年度比増加率が10%以上の場合は、税額控除率に5%を加算することになった。
  さらに、仕事と子育ての両立支援や女性活躍支援の取組みを後押しするため、新たな上乗せ措置を創設し、プラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を受けている場合は、税額控除率に5%を加算することになった。
  このため、税額控除率は最大で35%〔=25%(賃上げ要件:7%クリア)+5%(教育訓練要件)+5%(子育て支援・女性活躍要件)〕となった。
(v)マルチステークホルダー方針
  取引価格の適正化等を通じて中小企業の賃上げを支援する観点から、中堅企業枠(従業員数2,000人以下)との関係を踏まえ、マルチステークホルダー方針の公表・届出が必要な企業について、現行の「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の企業」とともに、新たに「従業員数2,000人超の企業」も加えられた。これに該当する法人は、資本金の規模にかかわらず、同方針の公表・届出が必要となる。
  同方針の記載事項については、インボイス制度の実施を受け、「取引先との適切な関係の構築の方針」における「取引先」に消費税の免税事業者が含まれることが明確化された。
  なお、同方針の公表・届出の期限について、現行は「適用事業年度終了の日の翌日から45日を経過する日まで」であるが、公表期限については「適用事業年度終了の日まで」に前倒しされる見込みである(届出期限は変更がない見込み)。これは、同方針の公表が要件である以上は、遅くとも適用事業年度内に公表すべきであり、適用事業年度終了後に税制が適用可能であることが判明してから公表するのは制度の趣旨に反するという当局の考えを反映したものである。
(4)ムチ税制
 特定税額控除規定の不適用措置(いわゆる「ムチ税制」)についても、令和5年度末に適用期限を迎えるため、見直しが行われた。
 まず、措置期間が3年延長され、令和8年度末までとなった。次に、上乗せ措置の対象になる企業について、現行の「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の企業」とともに、新たに「従業員数2,000人超の企業」も加えられた。これは、賃上げ促進税制において、マルチステークホルダー方針の公表が必要となる企業の範囲が見直されたことを受けたものである。
 さらに、上乗せ措置のうち、国内設備投資額に係る要件が当期の減価償却費の4割以下に引き上げられた(現行:3割以下)。当初は、継続雇用者給与等支給額に係る要件についても引上げの議論があったものの、最終的には設備投資要件が厳格化されることとなった(改正後の制度の概要は図表4の通り)。

 対象となる租税特別措置について、追加はなかったが、新たに創設された戦略分野国内生産促進税制においては、前述の通り、ムチ税制の上乗せ措置と同等の措置が組み込まれることとなった。
(5)カーボンニュートラル投資促進税制の見直し
 令和5年度末に期限切れを迎えるカーボンニュートラル投資促進税制についても見直しが行われた(図表5参照)。

 まず、生産工程効率化等設備(生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備)の類型において、国土交通省や鉄道事業者の要望を踏まえ、対象設備に車両及び運搬具(一定の鉄道用車両に限る)が追加されることになった。他方、税制がなくても設備投資が行われやすい照明設備や対人空調設備は除外されることになった。
 措置内容については、大企業と中小企業によって分けられることになった。令和3年4月に、2030年度において温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指す目標が新たに掲げられたことなどを踏まえ、大企業については、炭素生産性要件が引き上げられ、より高い目標を掲げる事業者に対する措置となった。一方、脱炭素化に果敢に取り組む中小企業に高いインセンティブを与えるため、炭素生産性17%以上の場合は、14%という高い税額控除を認めることとした。
 措置期間については、投資計画から設備の導入までを考えた場合、現行の3年間では足りないという企業側の声が強くあった。このため、従来の考え方を変え、計画認定を行う期間として2年間を確保し、この期間内に認定を受けた計画に必要な設備を認定から3年以内に導入した場合に、税制の適用を受けることができるという仕組みに変更された。これにより、措置期間は計5年間に延長されることとなった。
 他方で、需要開拓商品(大きな脱炭素化効果を持つ製品)生産設備の類型については、利用実績が極めて少ないことや、補助金などの予算措置により対応がなされていることなどを踏まえ、廃止されることとなった。

2 外形標準課税
 減資などによる「外形逃れ」の動きに対する問題意識については、令和4年度与党税制改正大綱から指摘されており、令和5年度税制改正大綱においてはより具体的に記載がなされていた。減資による外形逃れについては、外形標準課税の適用対象法人数は導入時の平成16年度に比べて約3分の2程度まで減少していること、特に、利益剰余金の損失補填ではなく、資本金から資本剰余金へ財務会計上の単なる振替処理による外形逃れが行われている事例があること。100%子会社対策については持株会社化・分社化等の企業の組織再編により、外形標準課税の適用対象範囲が実質的に縮小する事例が生じていること、また子会社の資本金を1億円以下に設定しつつ、親会社の信用力を背景に大規模な事業活動を行っている企業グループの事例があること。こうした指摘を踏まえ、令和6年度税制改正大綱においては、外形標準課税について①減資対策②100%子会社対策の2つの方策が税制改正により導入されることとなった。
(1)減資対策
 減資対策については、特にその水準について様々な調整が行われた。当初は新たに指標として単純に資本金+資本剰余金で50億円超となる企業が対象に追加される案などが検討されていた一方、11月中旬には日本商工会議所を始めとする中小企業関係4団体が連名で意見書「外形標準課税の中小企業への適用拡大には断固反対する」を取りまとめるなど、改正に対して特に中小企業団体を中心として適用拡大への懸念から強い反対が出た。最終的に取りまとめられた令和6年度与党税制改正大綱を読み解くと以下のとおりである。
 ① 現行基準維持
 これまで外形標準課税の対象外であった企業については、現行基準を維持する。つまり、原則として、事業年度末において資本金1億円超とならない限りは引き続き外形標準課税の対象外となる。
 ② 施行日以降の減資に対応するため「資本金+資本剰余金」の基準を導入
 本改正は令和7年4月1日に施行されるが、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人については、施行日以降に開始する事業年度において減資をして資本金を1億円以下とした場合でも、資本金+資本剰余金の合計額が10億円を超えている場合には引き続き外形標準課税の対象となる。
 ③ 駆け込み減資に対する防止策
 判定基準となる年度(公布日前日の資本金額と事業年度開始月により2022年度~2024年度まで変動)において外形標準課税の対象であった企業は、仮に施行日までに減資をしたとしても、施行日以降最初に開始する事業年度に限り、資本金+資本剰余金が10億円を超えていれば外形標準課税の対象となる。
 原則として現状の外形標準課税の基準維持を基本としつつ、今後の減資について塞ぐ形で制度が設計されている。つまり、過去に減資により外形逃れを実施している企業については、当初一部で報道のあった一律で「資本金+資本剰余金が50億円超」という水準により捕捉するのではなく、現状の外形標準課税対象外という判断が維持されることとなった。
 また、駆け込み減資の判定基準年度に関係する公布日前日段階での資本金については、登記等が参照されるものと思われるが、今後の明確化が待たれる。
(2)100%子会社対策
 100%子会社対策については、減資対策ではなく、グループ法人税制を基礎とし、グループ一体での収益力に着目した側面が強調された改正となった。最終的に取りまとめられた令和6年度与党税制改正大綱を読み解くと以下のとおりである。
 ① 大企業の100%子会社について、一定規模以上の企業を外形標準課税の対象とする。
 本改正は令和8年4月1日に施行され、同日以降に開始する事業年度において、企業グループの親法人の資本金+資本剰余金が50億円超である企業グループについて、その100%子会社については、当該企業の資本金が1億円以下であっても、資本金+資本剰余金が2億円超である企業については、外形標準課税の対象に加える。
 ② 駆け込み減資(配当還流)の防止策
 公布日以降の100%親会社への配当還流については、「資本金+資本剰余金」の金額に加算されることとなり、資本剰余金の操作が制限されることとなる。
 ③ 激変緩和措置
 本改正により新たに外形標準課税の対象となる法人については、現行の課税方式で計算した税額を超える額に対して激変緩和措置が実施される。具体的には初年度は増額分が3分の1、2年目が3分の2にそれぞれ圧縮され、3年目からは通常通りの外形標準課税の適用となる。
 ①について、100%子会社が外形標準課税の対象となるか否かの「資本金+資本剰余金が2億円超」という水準は、出資時等に株式の発行により現金の払込等を受けた場合に、払込金額の50%を超えない額については資本準備金とすることが認められている(会社法445①~③)ことに由来すると考えられる。つまり、何らかの意図的・事後的な資本の操作が無ければ、仮に2億円出資した場合、最大で資本金、資本準備金にそれぞれ50%ずつ振り分けられ、資本金1億円、資本準備金(剰余金)1億円となることから、現行の資本金1億円という水準は、資本金+資本剰余金の合計額が2億円という水準と同義である、という検討から導かれたものと考えられる。
 ②については、配当還流については塞がれている一方、利益剰余金等との欠損填補については規制されていないことについても留意すべきである。
 ③については、企業の収益状況などによっても税額の増減が異なると考えられるものの、特に赤字企業の税額増に対応する措置としては一定の効力を持つものと考えられる。一方で、これまで外形標準課税の適用対象外であった企業についてはその税額算定の事務負担などはそのまま増えることとなる。

3 スタートアップ関連税制
(1)ストックオプション税制
図表6参照)

 まず、株式保管委託要件について、発行会社による株式の管理を可能とする新たな株式管理スキームが創設されることとなった。これは、M&A時に、従業員が保有するストックオプションについて、権利行使を行い、株式に転換し、譲渡することを短期間で行う必要があることを踏まえた見直しである。現行では、権利行使後に証券会社等への保管委託が必要であるが、そのことが円滑なM&Aを阻害しているとの声を受けて、見直しが行われた。
 次に、スタートアップ等から要望が強かった権利行使限度額の引上げについては、最大で現行の3倍となる年間3,600万円への引上げ(設立5年以上20年未満の企業のうち、非上場又は上場後5年未満の企業)が実施される。
 さらに、付与対象となる社外高度人材については、非上場企業の役員経験者等を追加するとともに、国家資格保有者等に求めていた3年以上の実務経験の要件を撤廃するなど、対象が拡大された。
(2)オープンイノベーション促進税制
 令和5年度末に適用期限を迎えるオープンイノベーション促進税制については、税務当局が極めて異例の措置としていることから、当初は厳しい結果も予想されたが、スタートアップ育成5か年が開始されたばかりであることに鑑み、現行措置のまま、2年延長されることとなった。ただ、当局は同税制に引き続き強い問題意識を持っている模様であり、2年後の令和8年度税制改正では厳しい対応が予想されるため、同税制の活用を考えている企業においては検討が急がれるところである。
(3)暗号資産に係る税制
 自己保有の暗号資産については、令和5年度税制改正において、譲渡制限等の一定の要件を満たすものは期末時価評価課税の対象外となった。今回、発行者以外の第三者が継続的に保有する暗号資産についても、譲渡制限等の一定の要件を満たすものは期末時価評価課税の対象外とされることになった。
(4)パーシャルスピンオフ税制
 令和5年度税制改正において1年限りの措置として導入されたパーシャルスピンオフ税制(元親会社に一部持分を残すパーシャルスピンオフについて、一定の要件を満たせば、再編時の譲渡損益課税を繰延べ、株主のみなし配当に対する課税を対象外とする措置)については、スピンオフされた会社が「主要な事業として新たな事業活動を行っていること」を要件として加えるなど、所要の見直しを行った上で、4年延長されることになった。
(5)エンジェル税制
 エンジェル税制については、一定の新株予約権の取得金額も対象に加えるとともに、信託を通じた投資も対象となるなど、拡充が行われた。また、株式譲渡益を元手にスタートアップに再投資した場合の非課税措置については、再投資期間(現行:同一年内)の延長が引き続き検討課題となった。

4 土地・住宅税制
(1)土地に係る固定資産税の負担調整措置等

 土地に係る固定資産税については、令和6年度に3年に1度の評価替えが行われるのにあわせて、負担調整措置等のあり方について検討が行われた。
 その結果、令和6年度評価替えにおいては、大都市を中心に、近年の地価の上昇に伴い、負担水準(前年度の課税標準額/今年度の評価額)が低下する土地が増加するなど、負担水準のばらつきの拡大が見込まれることなどを踏まえ、負担水準の均等化を図る観点から、現行の負担調整措置と条例減額制度を令和6年度から令和8年度までの3年間、継続することとなった。
(2)住宅ローン減税の借入限度額
 不動産・住宅業界から要望が強かった住宅ローン減税の借入限度額の維持については、子育て支援の観点から、子育て世帯及び若者夫婦世帯に限って、令和6年限りの措置として実施されることとなった。令和7年度税制改正においても、維持の方向性で検討し、結論を得るとされている。

5 所得税・個人住民税の定額減税
 国民の可処分所得を伸ばし、デフレからの完全脱却を実現するため、所得税(納税者及び配偶者を含む扶養家族1人当たり3万円)及び個人住民税(同1万円)の定額減税が実施されることとなった。所得制限を設けるかどうかが論点となったが、最終的には、合計所得金額1,805万円(給与収入2,000万円相当)超の高額所得者は対象外となった。
 企業サイドでは、今年6月からの減税開始に向け、源泉徴収に係る事務対応が求められることになり、システム改修などが必要なケースも想定される。

6 納税環境整備
(1)支払調書の規定枚数

 給与所得の源泉徴収票をはじめとする多くの法定調書は、所得税法等の規定により税務署へ提出が各法人に義務付けられている(所法226他)。また、現行制度においては、基準となる年の1月1日から12月31日までの間に提出すべきであった調書ごとの提出枚数が「100枚以上」であるものについては、法定調書をオンラインまたは光ディスク等により提出が義務付けられている。この度の改正においては、これが「30枚以上」に引き下げられた。
 これは、近年の税務行政のDX化、および納税者の利便性向上や行政コストの削減の取り組みの一環である。特に源泉徴収票については、政府として「書かない確定申告」を推し進める中、令和6年2月(令和5年分の確定申告)から、マイナポータル連携を利用することにより、源泉徴収票のデータをe-Taxの確定申告データに連携をすることが可能となった一方、この仕組みを利用するためには事業者がオンライン(e-Taxまたは認定クラウド等)により、自社従業員の源泉徴収票の提出を実施する必要があることなどを受け、より多くの事業者にオンラインでの源泉徴収票の提出を行ってもらうことが意図されているものと考えられる。なお、本制度の対象企業は、依然としてe-Tax等によるオンラインでの提出のみではなく、引き続き光ディスク等での提出も許容されてはいるものの、特に従業員の確定申告の利便性向上の観点からは、オンラインでの提出が望ましいものと考えられる。
 本改正は令和9年1月1日以降に提出すべき法定調書に対して適用される。本改正が初めて適用となるのは令和9年だが、その際の判定基準は令和7年の法定調書の提出枚数であることに注意したい。
(2)e-TaxにおけるGビズID利用
 現在、e-Taxにログインする際にはe-TaxのIDおよびパスワードを入力し、ログインすることが必要である。また、申請等を実施する場合には、電子署名および電子証明書の添付が必要とされていた。
 令和6年度税制改正においては、e-Taxの利便性向上を図るため、①e-TaxのIDおよびパスワードを入力する代わりに、GビズIDによる認証を行うことにより、e-Taxにログインすることが可能となる②GビズIDでログインした場合、申請等の際に電子署名・電子証明書の添付が不要となる、という改正が実施されることとなった。
 これにより、e-TaxのIDおよびパスワードを個別に管理する必要性がなくなり、GビズIDにて一元管理が可能となるとともに、電子署名・電子証明書の添付省略が可能になることにより、申請時の事務手間が削減される。さらには費用等の懸念から従来電子署名・電子証明書の利用をしておらず、そのためe-Taxを経由した申請等を実施していなかった企業においてもe-Taxの利用開始が容易になることで、e-Tax利用のさらなる拡大、税務行政のDX化の進展が期待される。
 なお、GビズIDには、①gBizIDエントリー ②gBizIDプライム ③gBizIDメンバーの3種類が存在する。今回、大綱の記載において、利用可能なIDは「一定の認証レベルを有するものに限る。」とされている。そのため、必ずしももっともセキュリティレベルの高い②gBizIDプライムに限らず、③gBizIDメンバーも利用可能となる余地が残されているものと考えられる。この点については今後の関係省庁による検討・明確化が待たれる。
 本改正については、令和6年度与党税制改正大綱において適用開始日についての記載が無いため、今後の関連税制法令の改正やシステム改修等のスケジュール等を踏まえて対応がなされるものであることが想定される。
(3)処分通知の電子化
 現行制度において、処分通知等を受領する場合には、更正の請求に係る減額更正等の通知を始めとする一部の通知についてはe-Taxを経由し電子的に受領することが可能(情報通信技術活用法7①)であるが、原則は通知書等の書面により受領をすることが基本とされており、ペーパーレス、電子化の推進上の課題であった。
 本改正により、法令上定められているすべての国税関係の処分通知等について、e-Tax上で電子的に受領することが可能になる。その際、現状では処分通知等に係る申請等を行う際に併せて電子的受領の同意を行うこととされているが、本改正後には、処分通知等を受領する事業者側は、処分通知の種類ごとに電子的に受領するか否かを選択するのではなく、すべての処分通知等についてe-Tax上で一括して意思表示を行うこととなり、処分通知等の種類ごとに個別に電子的に受領するか否かを決定することはできない見通しである。
 また、電子的に受領した通知の効力はe-Taxへ処分通知等が格納された段階で発生する(情報通信技術活用法7③)。そのため、納税者の見落とし防止の観点から、現状では任意となっているメールアドレスの登録が必須とされる。これにより、e-Taxに処分通知等が格納された際に、事前に登録したメールアドレスに通知が届く仕組みとなる見通しである。
 ただし、これらの処分通知が格納されるのは、e-Tax内のメッセージボックスではなく通知書一覧のページとなる見通しである。メッセージボックスについては、共通フォルダ以外にも個別のサブフォルダを設定し、それぞれフォルダごとにパスワードをかける機能が実装されている一方、通知書一覧には同様の機能が備わっておらず、部署ごとに確認可能な通知を制限できないなど、企業の内部統制の観点からは課題が残る。
 なお本改正は、令和8年9月24日から施行されるが、これは令和8年度に予定されている国税庁次世代システムの導入を念頭に、その稼働日から施行日が設定されているものと考えられる。
(4)地方公金のeLTAX経由での納付
 現状、地方公金収納においては、地方公共団体側が書面による納付書を発行し、その納付書を納付者が指定金融機関等に持ち込み処理をすることで納付をする。しかし、この方式は関係する納付者・指定金融機関・地方公共団体それぞれにおいて多大な事務負担が発生している。そこで、本改正により、現在地方税4税(固定資産税、都市計画税、自動車税種別割及び軽自動車税種別割)において導入されている地方税統一QRコードが、地方公共団体の公金納付にも導入されることとなった。本改正により、今後発行される地方公共団体の公金納付書に地方税統一QRコードが付されることになり、国民健康保険料等や道路占用料等の公物の占有に伴う使用料としての性質を有する公金について、全国的に共通の取り扱いとしてeLTAXを活用した納付が可能となる。また、それ以外の地方公共団体の普通会計に属するすべての公金、並びに公営事業会計に属する公金のうち水道料金、下水道使用料についても、地方公共団体の判断によりeLTAXを活用した納付が可能となる。
 一方で、「地方公共団体への公金納付のデジタル化に向けた取組の実施方針について」(令和5年10月6日)においては、さらなる利便性向上のため、エンドツーエンドでのデジタル完結を実現するための所要の措置の検討について規定されており、本改正はあくまでその第1歩であると思われる。今後の検討が期待される。
 なお、令和6年度与党税制改正大綱において具体的な適用開始日についての記載が無い。一方で、令和5年実施方針によれば、eLTAXや各地方公共団体のシステム対応の都合もあり、eLTAXを活用した公金納付の電子化の導入時期は令和8年9月とされている。今後は予定されているスケジュール通りに進捗がなされることが期待される。

7 国際課税
(1)国際課税ルールへの対応

 令和3年10月にOECD/G20「BEPS包摂的枠組み」において取りまとめられた、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への解決策である「2本の柱」のうち、グローバル・ミニマム課税(「第2の柱」)については国内法制化が進められている。
 「第2の柱」は、所得合算ルール(Income inclusion rule:IIR)、軽課税所得ルール(Under Taxed Profits Rule:UTPR)、国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax:QDMTT)の3つのルールから構成されるが、わが国においては、令和5年度税制改正において、所得合算ルールに相当する「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」が創設された。これは、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループを対象とし、国ごとに基準税率15%以上の課税を確保するため、子会社等の所在する軽課税国での税負担が基準税率の15%に至るまで、日本に所在する親会社等に対して上乗せ(トップアップ)課税を行う制度である。
 令和6年度税制改正では、この「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」について、OECDから発出されたガイダンスの内容等を踏まえ、制度の明確化等の観点から、所要の改正が行われた。主な改正としては、「構成会社等がその所在地国において一定の要件を満たす自国内最低課税額に係る税を課することとされている場合における適用免除基準」を設けることが挙げられる。これは、国際的にはQDMTTセーフハーバーと呼ばれるものであり、QDMTTが導入されている国においては、「その所在地国に係るグループ国際最低課税額を零とする」こととなった。これにより、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(IIR)の計算の簡素化に資することになる。
 外国子会社合算税制については、「第2の柱」の導入に伴う追加的な事務負担を軽減する観点から、見直しが行われた。具体的には、ペーパーカンパニー特例における収入割合要件(外国関係会社の当該年度の収入金額に占める配当や株式譲渡の対価の額等が95%を超えているかどうか判定)について、外国関係会社の収入がない場合は、当該要件の判定を不要とすることとされた(図表7参照)。


(2)プラットフォーム課税
 国内に拠点を持たない国外のゲームアプリメーカーなどの事業者については、わが国の税務当局の調査が及ばず、消費税の捕捉や徴収に限界がある。諸外国では、こうした課題に対応するため、事業者に代わってプラットフォーム事業者に納税義務を課す制度(プラットフォーム課税)が導入されている。
 こうした中、国内事業者とのイコール・フッティングの観点から、わが国においてもプラットフォーム課税が導入されることとなった。国外事業者が提供するデジタルサービスを対象とし、対象となるプラットフォーム事業者は、高い税務コンプライアンスや事務処理能力が求められることなどから、一定の規模を有する事業者とされた。

Ⅱ.防衛力強化に係る税制措置

 令和5年度税制改正大綱において枠組みが決定された防衛力強化に係る税制措置については、令和5年6月に閣議決定された「骨太方針2023」において、「税制措置の開始時期については、令和7年以降の然るべき時期とすることも可能となるよう5兆円強の確保を目指す税外収入の上積みやその他の追加収入を含めた取組の状況を踏まえ、柔軟に判断する」とされた。その後、10月27日の衆議院予算委員会において、岸田総理大臣から「令和6年度から実施する環境にはなく、定額減税と同時に実施することにはならない」という発言があり、令和6年度からの実施は見送られた。
 令和6年度税制改正では、税制措置の開始時期について、今回決定するのか、決定するとしたらいつから開始するのかが焦点となった。自民党税調では、今回決定し、令和7年または8年から実施していくべきという議論があった模様である。他方、公明党税調では、所得税等の定額減税との整合性を問う声が相次ぎ、税目の再検討を求める意見もあったようである。
 最終的な調整の結果、今回の大綱では、税制措置の開始時期は決定されず、令和5年度税制改正大綱等に則って検討を加えるとした上で、「その結果に基づいて適当な時期に必要な法制上の措置を講ずる趣旨を令和6年度税制改正法の附則において明らかにする」とされた。このため、令和6年度税制改正法の附則でどのような記載がされるのか、注視していくこととしたい。

Ⅲ.法人課税のあり方に対する政府・与党の問題意識

 令和6年度与党税制改正大綱の特筆すべき点としては、「第一 令和6年度税制改正の基本的考え方」の「2.生産性向上・供給力強化に向けた国内投資の促進」の中に、「(4)税制措置の実効性を高める「メリハリ付け」」という項目が設けられ、法人課税のあり方に対する政府・与党の問題意識が記載され、将来的な法人税率引上げの可能性が示唆されたことにある。当項目を要約すると次の通りである。
・法人税率は平成27~30年度にかけて実効税率ベースで4.88%の引下げ。しかし、賃金や国内投資は低迷。企業の内部留保は555兆円、現預金等は300兆円超に達する。近年の法人税改革は意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ない。
・賃金引上げや前向きな投資、人への投資に積極的に振り向けるなど、供給サイドの構造改革を進め、企業のチャレンジと改革を大胆に後押ししていく必要がある。
・令和6年度税制改正では、賃上げ促進税制や国内投資促進税制の強化を図り、賃上げや投資に積極的な企業への後押しを行う一方で、それらに消極的な企業に対しては、一定のディスインセンティブ措置により行動変容を促す取組みも行う。
・こうしたメリハリ付けの観点とともに、財源の確保も重要。巨額の財政赤字を抱えるわが国において、海外の制度を例に倣う際には、単に減税施策のみを模倣するのではなく、しっかりとした財源措置も同時に行うべき。
・賃上げや投資に消極的な企業に大胆な改革を促し、減税措置の実効性を高める観点や、レベニュー・ニュートラルの観点から、今後、法人税率の引上げも視野に入れた検討が必要。
 このような問題意識の下、来年度以降の税制改正においては、法人税率の引上げを含め、法人課税のあり方が検討課題になることが予想されるため、注視していく必要があると考えている。

Ⅳ.令和7年度税制改正に向けた展望

 「Ⅲ.法人課税のあり方に対する政府・与党の問題意識」で述べた通り、法人税率の引上げを含め、法人課税のあり方が大きなテーマの1つとなることが予想される。企業としては、国内投資の拡大や構造的な賃金引上げ、取引価格の適正化を通じて、成長と分配の好循環の実現に向け、取り組んでいく必要がある。そうした取組みを後押しするには、どのような税制のあり方が望ましいのか、検討が求められる。
 防衛力強化に係る税制措置については、開始時期、法人付加税率の水準などが引き続き検討課題となる。令和5年度税制改正大綱では「令和9年度に向けて複数年にかけて段階的に実施すること」とされている。政治状況等とも関係するため、不透明感は強いものの、増税の準備期間を考慮すると、令和7年度税制改正では何らかの決定が行われる可能性があると考えられるため、十分に注視していく必要がある。
 令和6年度末に期限切れを迎える主な租税特別措置としては、DX投資促進税制、5G導入促進税制などがあり、DXのさらなる推進に向け、これら措置について十分な検討が求められる。
 そのほか、今後の検討課題として、次の4点が挙げられる。
 1つめは、年金税制であり、令和6年度与党税制改正大綱において、検討事項の筆頭に記載されている。今年は5年に1度の公的年金の財政検証が行われ、その後、財政検証の結果を踏まえ、年金制度改革の議論が行われる見込みである。税制においては、年金制度改革の動向を踏まえながら、公的年金、企業年金等に係る税制に加え、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(令和5年6月閣議決定)において「見直しを行う」とされた退職所得控除も含め、総合的な検討が必要である。
 2つめは、自動車関係諸税の見直しであり、2050年カーボンニュートラルの実現、CASEの進展、新しいモビリティ社会の到来など、自動車を取り巻く大きな環境変化を踏まえた議論が求められる。これも令和6年度与党税制改正大綱において、検討事項の1つとなっており、次のエコカー減税の期限到来時(令和8年4月30日)までに検討を進めるとされているため、令和7年度改正または8年度改正において、何らかの検討が行われる見込みである。
 3つめは、株式報酬などのインセンティブ報酬に係る税制である。ストックオプションについては、これまで多くの措置が講じられてきた。一方で、近年、譲渡制限付株式(RS)、譲渡制限付株式ユニット(RSU)等による報酬制度を導入する企業も増加しており、これらに係る税制改正ニーズが高まっている。こうした中、経団連は今年1月に「役員・従業員へのインセンティブ報酬制度の活用拡大に向けた提言」を公表し、税制については役員給与の損金算入の拡大などを提言している。今後、同提言も踏まえ、議論が進展することが期待される。
 4つめは、リース会計基準改正への対応である。企業会計基準委員会(ASBJ)は、昨年5月に、原則としてすべてのリースを資産・負債に計上するリース会計基準の公開草案を公表した。当初は、新会計基準について、令和5年度内に成案・公表、令和8年度から適用(令和6年度から早期適用)される予定であったため、令和6年度税制改正において、新会計基準への対応について、関係省庁間での議論が開始された。しかし、ASBJにおける新会計基準の議論が難航し、令和5年度内の成案が困難である見通しが明らかになると、それを受けて、令和6年度税制改正では対応しないこととなった。現時点では、新会計基準の適用スケジュールは未定であるが、令和7年度税制改正においても、引き続き議論が行われる見込みである。税会不一致に伴う申告調整等の実務負荷の増大を避けるべく、税制においても、新会計基準を踏まえた対応を行う必要がある。

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