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解説記事2024年02月05日 未公開判決事例紹介 差置送達時の住所を巡る裁判(2024年2月5日号・№1013)

未公開判決事例紹介
差置送達時の住所を巡る裁判
税務調査中に住民票移すも生活の本拠は旧住所

 本誌996号9頁で紹介した課税処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇差置送達が原告の住所にされたものかどうかが争われた裁判で、東京地方裁判所は令和5年9月12日、原告の生活の本拠はガスの使用量や税務署職員の訪問時の状況等から、差置送達された場所であると判断し、原告の主張を斥けた(令和4年(行ウ)第474号)。

主  文

1 本件訴えのうち、O税務署長が令和2年3月27日付けで原告に対してした別紙2処分目録記載の各処分の取消しを求める部分をいずれも却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1(1)主位的請求

 O税務署長が令和2年3月27日付けで原告に対してした別紙2処分目録記載の各処分がいずれも無効であることを確認する。
(2)予備的請求
 O税務署長が令和2年3月27日付けで原告に対してした別紙2処分目録記載の各処分をいずれも取り消す。
2 被告は、原告に対し、450万円及びこれに対する令和2年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、O税務署長から令和2年3月27日付けで別紙2処分目録記載の各処分(以下「本件各処分」という。なお、同別紙における略語は、本文においても用いる。)を受けたことについて、本件各処分に係る決定通知書及び更正通知書が原告の住所ではない場所に送達されており、本件各処分は違法であるなどと主張して、①主位的に、本件各処分が無効であることの確認を求め、予備的に、本件各処分の取消しを求める(以下「本件各取消しの訴え」という。)とともに、②本件各処分及び「平成31年度消費税及び地方消費税、復興所得税」に係る処分(以下「平成31年度処分」という。)がそれぞれ違法にされたことにより各50万円の精神的損害を受けたとして、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、損害賠償金合計450万円及びこれに対する同日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものと解される事案である。
1 送達に関する国税通則法の定め
 国税通則法24条から26条までの規定による更正又は決定は、税務署長が更正通知書又は決定通知書を送達して行う(同法28条1項)ところ、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長その他の行政機関の長又はその職員が発する書類は、郵便若しくは信書便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)に送達する(同法12条1項本文)。
 交付送達は、当該行政機関の職員が、同項の規定により送達すべき場所において、その送達を受けるべき者に書類を交付して行うが(同条4項本文)、書類の送達を受けるべき者(その使用人その他の従業者又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるものを含む。)が送達すべき場所にいない場合又はこれらの者が正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合には、同項の規定による交付に代え、送達すべき場所に書類を差し置くことにより行うことができる(同条5項2号。以下、これを「差置送達」という。)。
2 前提事実
 以下の事実は当事者の間に争いがなく若しくは当裁判所に顕著であり、又は各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認めることができる。
(1)本件各処分の経緯等
ア 原告は、平成26年分ないし平成30年分の所得税等の確定申告書並びに平成28年ないし平成30年課税期間の消費税等の確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出しなかったところ、平成28年分の所得税等の確定申告書及び平成29年分の所得税等の確定申告書(以下、併せて「本件各確定申告書」という。)については、いずれにも住所欄の不動文字の「居所など」に丸印を付した上、その右横に「東京都杉並区(以下省略)」(東京都杉並区(以下省略)Aマンション101号室(以下「Aマンション」という。)を指すものと解される。)と記載して、それぞれ平成29年9月24日及び平成30年8月27日に、上記住所欄記載の地を所轄するO税務署長に提出した(乙1、2)。
イ O税務署の職員は、平成30年12月10日、原告に対する所得税等及び消費税等の実地の調査に着手した(乙3)。
ウ 原告は、令和元年5月7日、平成31年4月26日にAマンションから山梨県南都留郡(以下省略)(以下「RYG」という。)へ転入した旨の届出をし、住民票上の住所がRYGとなった(乙5の1)。
エ O税務署長は、O税務署の職員による調査を踏まえ、原告の所得税等及び消費税等の納税地がAマンションにあり、その所轄する税務署長がO税務署長であることを前提に、令和2年3月27日付けで、本件各処分を含む別表1及び2記載の課税処分等(以下「本件各処分等」という。)をした。
オ O税務署の職員は、令和2年3月27日、原告の住所がAマンションであることを前提に、本件各処分等に係る更正通知書及び決定通知書(以下「本件各通知書」という。)を持参してAマンションを訪ねたが、応答がなかったため、Aマンションの郵便受けに本件各通知書を投函して差置送達(以下「本件差置送達」という。)をした(乙31)。
(2)本件訴えの提起
 原告は、令和4年10月14日、本件訴えを提起した。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件各処分の違法性(本件差置送達が原告の住所にされたものであるか否か)
(原告の主張)

ア 本件差置送達時の原告の住所はRYGであること
 原告は、平成20年11月28日にRYGを購入して以降、継続してRYGに居住している。家族の学校区の問題があり、住民票上の住所はAマンションにしていたが、平成31年4月26日以降は、住民票上の住所もRYGに移転した。原告には90歳近くになる父がおり、原告は父の介護のため、RYGに父と同居していた。原告は、RYGの管理費も継続して納入しているし、平成30年10月に発生した台風による倒木の被害に関し、RYGのマンション管理組合の組合員として、樹木の整備に関与したほか、毎年行われる建物点検等にも関与した。また、原告は、令和2年12月19日、同管理組合の理事長にも選任された。O税務署の職員による調査においても、同管理組合の理事が、原告がRYGで布団を干しているのを見かけたと述べている事実が明らかになっている。
イ 被告が主張する事実について
 原告は、Aマンションに居住していないので、Aマンションの郵便受けに入っている郵便物を取っていない。原告は、Aマンションを電子計測器の倉庫として利用しており、電子計測器の腐食などを防止するため、電気や冷却水を使用して湿度や温度を管理しているほか、実験にも電気、ガス及び水道を使用しているし、上記計測器には電話回線も接続しているから、Aマンションにつき電気、ガス及び水道の使用、賃貸借契約の継続、電話回線契約がされていても不自然ではない。原告は、仕事をしながら大学院にも在学して研究しており、自宅を不在にしていることも多いから、O税務署の職員がRYGを訪問したときに原告が不在であっても不自然ではない。クレジットカードの取引履歴も、原告は、山梨県内のRYGから都内の大学院に通学し、関東地方全体を移動しているから、都内の取引履歴が多くても不自然ではない。被告が主張する令和元年9月8日に杉並税務署へ送付された郵便物は、原告が送付したものではなく、不知である。
ウ 小括
 以上からすれば、本件差置送達時の原告の住所はRYGであり、本件各通知書につき有効な送達がされていないから、本件各処分も違法であって、本件各処分には重大明白な瑕疵があって無効であるか、そうでないとしても取り消されるべきである。
(被告の主張)
 本件差置送達時の原告の住所はAマンションであり、本件差置送達は適法であり、本件各処分も適法である。
ア 国税通則法12条1項の「住所」の意義
 国税通則法12条1項の「住所」は、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきであるから、主観的に住所を移転させる意思があることのみをもって直ちに住所の設定、喪失を生ずるものではなく、また、住所を移転させる目的で転出届がされ、住民基本台帳上転出の記録がされたとしても、実際に生活の本拠を移転していなかったときは、住所を移転したものと扱うことはできないというべきである。
イ 本件差置送達時の原告の住所はAマンションであること
 原告の住所は、住民票上、平成31年4月26日にAマンションからRYGへ移転したこととされているが、以下のとおり、実際の生活の本拠はAマンションのままであったから、本件差置送達時の原告の住所はAマンションであると認められる。
(ア)Aマンションの状況
 O税務署の職員は、平成31年4月以降、Aマンションを再三訪ねたが、原告が不在であったことから、その都度、調査担当者に連絡することを求める内容を記載した原告宛ての連絡票をAマンションの郵便受けに投函していたところ、前回訪問時に投函した連絡票は、次に訪問した時にはなくなっており、前回訪問時の連絡票が残っていることはなかったこと、Aマンションの裏側の軒下やベランダに洗濯物が干されていたことから、同月26日以降も、Aマンションには人が生活しており、原告が、平成30年12月10日、調査担当者に対し、Aマンションには一人で住んでいる旨述べていたことも併せ考慮すれば、連絡票を回収したり、洗濯物を干したりしていたのは原告であるといえる。
 そして、原告は、平成31年1月31日付けで、Aマンションの賃貸借契約の期間を2年間更新した上で、本件差置送達時においても継続してAマンションの賃料を支払い続けていたこと、別表3のとおり、Aマンションの電気、ガス及び水道の使用量の状況に、同年4月26日の前後で有意な変化がみられないことからすれば、原告が、同日以降もAマンションで生活し続けていたといえる。
(イ)クレジットカードの利用状況
 原告は、令和元年5月23日、原告名義のクレジットカードについて、ゴールドカードからプレミアムカードに切り替える旨の申込みをしているが、その申込みにおいて、Aマンションを住所としていたことから、原告が平成31年4月26日以降も住所をAマンションであると認識していたことが客観的に認められる。
 また、同日から令和2年1月10日までの間の原告名義のクレジットカードの取引履歴によると、280件中123件が、Aマンション所在の杉並区又はその近隣の区域での取引であった一方、RYGのある山梨県内での取引はわずか10件しかなかったことからも、原告の住所がAマンションであったといえる。
(ウ)ATMの利用状況
 原告は、平成31年4月26日以降も、月に1、2回程度の頻度で、自らが代表を務める会社名義の口座から20万円から50万円程度の出金をした上で、これとおおむね同額を原告名義の口座に入金しているが、一般的に、このような日常的・定期的な入出金は、生活圏内のATMを利用すると考えられるところ、上記の入出金は、Aマンション所在の杉並区内又はその近隣の区域内で行われていた一方、RYGのある山梨県内では1件も行われていなかった。
(エ)大学院への在籍状況等
 原告は、●●大学大学院に在籍していたところ、同大学に対し、住所がAマンションであると報告しており、連絡先もAマンションの固定電話の電話番号を報告していた一方、転居した旨の報告はしていなかった。
 これは、原告が平成31年4月26日以降も住所をAマンションであると認識していたことを客観的に裏付けるといえる。
(オ)RYGの状況
 RYGのマンション管理組合の理事によれば、原告がRYGを訪れる頻度は、令和元年9月頃までにおいて、月1回程度であり、RYGの管理人によれば、同年12月18日から令和2年1月22日までの間に、原告がRYGに1、2回は来ていたものの、それでも原告の滞在日数は、1か月のうち半分にも満たない程度であった。
 また、RYGのガスの契約開始日は、平成31年4月26日から4か月以上も経過した令和元年9月2日であり、それ自体、不自然である上、同月以降も、別表3のとおり、Aマンションの電気、ガス及び水道の使用量の状況に有意な変化がみられないことからすれば、原告の生活の本拠がAマンションからRYGに移ったと認める足りる実体はないというべきである。
(カ)原告の住民票上の住所の移転について
 原告の住民票上の住所はRYGに移転しているが、前記アのとおり、実際に生活の本拠が移転していなければ住所が移転したものと扱うことはできないのであり、これをもって原告の住所がRYGとなったとはいえない。
 なお、原告の住民票上の住所の移転は、O税務署の職員による調査中にされたものであるにもかかわらず、原告は、調査担当者にその旨の連絡を一切しなかったこと、原告がAマンションの管理人にすら退去又は退去予定の連絡をせず、また、Aマンションの賃料を支払い続けているにもかかわらず、玄関扉に転居した旨の張り紙をして郵便受けに目張りをしたこと、令和元年9月8日、杉並税務署に「東京都杉並区(以下省略)1階 通知人 101号室 現住人」から「投函宛先の方は、生憎、当住所にはおられません。」などと書かれた通知書と題する書面入りの不自然な封筒が郵送されたことからすれば、原告による住民票上の住所の移転は、O税務署の職員による調査を忌避するために行ったものと考えるのが自然である。
ウ 小括
 以上からすれば、本件差置送達時の原告の住所はAマンションにあるといえるから、本件差置送達は、原告の住所にされたもので適法であり、本件各処分も適法である。
(2)本件各取消しの訴えの適法性その1(本件各取消しの訴えは出訴期間の規定を遵守して提起されたものか否か)
(原告の主張)

 本件各処分の「処分の日」(行政事件訴訟法14条2項本文)は令和4年9月6日であるから、本件各処分の処分の日から1年以内に本件各取消しの訴えを提起している。
 また、原告が本件各処分があったことを「知った日」(同条1項本文)も令和4年9月6日であるから、本件各処分を知った日から6か月以内に本件各取消しの訴えを提起している。
 したがって、本件各取消しの訴えは出訴期間の規定を遵守して提起されたものであるから適法である。
(被告の主張)
 前記(1)のとおり、本件差置送達は適法に行われたものであるから、本件差置送達が行われた令和2年3月27日が本件各処分の「処分の日」(行政事件訴訟法14条2項本文)となる。そうすると、本件各取消しの訴えは、令和4年10月14日に提起されているから、処分の日から1年以上経過して提起されていることとなる。
 また、原告は、令和2年7月1日、O税務署の職員に対し、電話で照会をし、同職員から、本件差置送達の経緯等の説明を受けたところ、原告の住所はRYGにあるから本件各通知書は無効である旨を述べ、課税処分等に係る不服申立ての手続について教示を受けた。そうすると、原告は、遅くとも、同日には、本件各処分があったことを知ったということになるから、本件各取消しの訴えは、処分のあったことを「知った日」(同条2項本文)から6か月以上経過して提起されたということもできる。
 したがって、本件各取消しの訴えは出訴期間の規定を遵守して提起されていないといえるから不適法である。
(3)本件各取消しの訴えの適法性その2(本件各取消しの訴えは不服申立ての前置の規定を遵守して提起されたものか否か)
(原告の主張)

 O税務署の職員は、もともと違法な手続を行っており、仮に審査請求をしても認められることはないし、また、原告が受領した差押調書謄本の別紙滞納税金目録には税の発生原因や個々の納期限などの記載がなく、納付すべき税額も確定していない不当な処分であるから、原告が本件各処分に係る審査請求についての裁決を経ないで本件各取消しの訴えを提起したことに関し、「正当な理由」(国税通則法115条1項3号)がある。
 したがって、本件各取消しの訴えは不服申立て前置の規定を遵守して提起されたものであり適法である。
(被告の主張)
 原告は、本件各処分について国税不服審判所長に対する審査請求をせずに、本件各取消しの訴えを提起しており、国税通則法115条1項本文の不服申立て前置の要件を欠いている。また、原告がする「裁決を経ないことにつき正当な理由」(同項3号)があることについての主張は、いずれも原告独自の見解を述べるものにすぎない。
 したがって、本件各取消しの訴えは不服申立て前置の規定を遵守して提起されていないといえるから不適法である。
(4)本件各処分及び平成31年度処分に係る国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権の存否
(原告の主張)

 前記(1)のとおり、本件差置送達は違法であり、違法な本件各処分及び平成31年度処分によって原告は精神的損害を被った。その金額は、本件各処分及び平成31年度処分ごとに50万円である。
 したがって、原告は、被告に対し、本件各処分及び平成31年度処分に係る国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権(損害賠償金合計450万円)を有する。
(被告の主張)
 前記(1)のとおり、本件差置送達は適法であり、本件各処分につき、国賠法1条1項の「違法」はない。なお、O税務署長が平成31年度処分をした事実はない。
 したがって、本件各処分及び平成31年度処分に係る国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権は認められない。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件各処分の違法性(本件差置送達が原告の住所にされたものであるか否か))について
(1)認定事実

 前記前提事実に後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
ア 電気、ガス及び水道の使用状況
 平成28年1月から令和2年4月までのAマンション及びRYGの電気、ガス及び水道の使用状況は、別表3のとおりである(乙10~14〔枝番号を含む。〕)。
イ Aマンションへの訪問時の状況
 O税務署の職員は、平成31年4月24日、同月26日、令和元年5月9日、同月13日、同年6月14日、同月26日、同年7月2日から5日までの各日、同月24日、同月26日、同月29日、同年9月3日、同月6日、同月9日、同月11日、同月13日、同月20日、令和2年3月5日、同月9日、同月13日、同月17日及び同月23日に、それぞれAマンションを訪れ、インターホンを鳴らすなどしたが、いずれも原告に会うことはできなかった。O税務署の職員は、上記の訪問の都度、郵便受けに連絡票を投函していたところ、毎回、次に訪問した際に、前回訪問時に投函した連絡票が郵便受けに残っていないことが確認された(ただし、令和元年5月13日の訪問時は、郵便受けに目張りがされており、郵便受けの中身を確認できず、同日、同年6月14日、同月26日及び同年7月2日から5日までの各日の訪問時においては、連絡票を投函していない。)。O税務署の職員は、平成31年4月26日及び令和元年7月29日の訪問時には、Aマンションの軒下やベランダに洗濯物が干されていることを確認した。(乙3)
ウ RYGへの訪問時の状況等
 O税務署の職員は、令和元年9月27日、RYGを訪問した。このとき、原告は不在であり、郵便受けには、郵便受けの深さ3分の1から2分の1くらいまで郵便物が溜まっていた一方、エアコンの室外機が稼動していた。(乙7)
 また、同職員は、同日、RYGのマンション管理組合の理事から、元々は原告の父がRYGに一人で居住していたが、その後見かけなくなり、何年も使用されていなかったこと、同理事は同年になってから初めて原告に会ったこと、原告は同年7月25日頃から同年9月26日までの間にRYGに3回しか訪問しておらず、1、2日だけ滞在して長期滞在はしていないと思われること、RYGのエアコンの室外機が稼動しているのは原告が不在時もエアコンを付けたままにしているからであり、1、2週間は付いたままになっていることなどを聴取した(乙7、8)。
 さらに、同職員は、令和2年2月13日、RYGの管理人から、原告が同年1月22日にRYGを訪問して以来見かけていないこと、その前は、原告は令和元年12月18日にRYGにインターネット回線の工事に立ち会うために訪問したほか、令和2年1月22日までに1、2回は訪問していると思われること、原告は1度の訪問でRYGに数日滞在していると思われるが、合計しても月の半分も滞在していないと思われること、原告はRYGのエアコンを不在時にも稼動させており、同管理人には除湿のためであると説明していたこと、RYGでは台所の給湯器、ガスコンロ及びユニットバスにガスを使用することなどを聴取した(乙9)。
 なお、RYGは、井戸水を水道として使用するところ、冬期間(1月10日から2月末まで)は水道が止められ部屋の使用することができないため、定住はできないとされている(乙8)。
エ クレジットカードの利用状況
 原告名義のクレジットカードの取引履歴には、平成31年4月26日から令和2年1月10日までの間に280件の取引があるところ、そのうち123件は、Aマンションのある杉並区内のコンビニエンスストア、スーパーマーケット及び駐車場での取引を始めとする東京都内の取引であることが確認でき、10件は、山梨県内の取引であることが確認できた(乙15の1)。
 また、原告は、令和元年5月23日、クレジットカードをゴールドカードからプレミアムカードに切り替える旨の申込みをしているところ、その申込みにおいて、Aマンションを住所としていた(乙15の2)。
オ ATMの利用状況
 原告は、平成31年1月から令和元年12月まで、別表4のとおり、原告が代表を務める会社名義の口座から出金し、原告名義の口座に入金した(乙16、17〔枝番号を含む。〕)。
カ 大学院への在籍状況等
 原告は、平成27年9月21日、●●大学大学院基幹理工学研究科に入学し、令和2年3月12日時点においても在学中であった。原告は、同大学に対し、住所がAマンションであると報告しており、連絡先として報告していた電話番号は、Aマンションに設置された固定電話のものであった。(乙18、22〔枝番号を含む。〕)
キ Aマンションの賃貸借契約、賃料の支払等
 原告は、平成31年1月31日付けで、Aマンションの賃貸借契約の期間を2年間更新し、令和2年4月末時点においてもAマンションの賃料を継続して支払っており、未納はなかった(乙19~21)。
ク 固定電話の契約状況
 原告は、平成27年2月13日、Aマンションを設置場所とする固定電話の電話回線契約をしており、令和5年1月16日時点においても同契約を継続していた(乙22〔枝番号を含む。〕)。
(2)検討
ア 国税通則法12条1項の「住所」の意義
 国税通則法12条1項の「住所」は、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和29年(オ)第412号同年10月20日大法廷判決・民集8巻10号1907頁、最高裁昭和32年(オ)第552号同年9月13日第二小法廷判決・裁判集民事27号801頁、最高裁昭和35年(オ)第84号同年3月22日第三小法廷判決・民集14巻4号551頁参照)。
イ 本件差置送達時における原告の住所について
 前記認定事実アのとおり、原告のAマンション及びRYGにおけるガスの使用量を比較すると、原告は、証拠上確認できる平成28年1月以降、Aマンションにおいては一貫してガスの使用がある一方、RYGにおいては令和元年9月までガスの契約すらしておらず、同月から令和2年4月までの間も、Aマンションにおける使用量の方がRYGにおける使用量に比して有意に多いことが認められる。そして、前記認定事実ウのとおり、RYGでは台所の給湯器、ガスコンロ及びユニットバスにガスを使用するとされており、RYGにおける生活ではガスが必須であると考えられることも併せ考慮すれば、本件差置送達時における原告の生活の本拠、すなわち、原告の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心はRYGではなくAマンションにあったと強く推認される。なお、原告のAマンション及びRYGにおける電気の使用量については、令和元年10月から令和2年4月までの間において、RYGにおける使用量の方が多い月もみられるが、両者の差は有意なものではないことに加え、前記認定事実ウのとおり、原告は不在時においてもRYGのエアコンを付けたままにしているとうかがわれることも併せ考慮すれば、Aマンション及びRYGにおける電気の使用量の比較により、本件差置送達時における原告の生活の本拠を推認することはできないといえる。また、原告は、Aマンション及びRYGの電気、ガス及び水道の使用量について、Aマンションを電子計測器の倉庫として利用しているから、Aマンションにつき電気、ガス及び水道の使用があっても不自然ではない旨主張するが、本件全証拠を検討しても、かかる事実を認めるに足りる証拠はなく、原告の上記主張は上記推認を覆すに足りるものではない。
 以上に加え、O税務署の職員が平成31年4月24日から令和2年3月23日(本件差置送達がされた日の4日前)までの間にAマンションへ訪問したときの状況からAマンションには人が継続して居住していると認められること(前記認定事実イ)、O税務署の職員がRYGへ訪問したときの状況やRYGのマンション管理組合の理事及び管理人からの聴取事項に照らすと、原告がRYGに継続して居住している様子はうかがわれないこと(同ウ)、原告名義のクレジットカードの利用状況及び原告によるATMの利用状況は原告がAマンションに居住していることと整合的であること(同エ及びオ)、原告はクレジットカード会社や在籍中の大学に対し原告の住所がAマンションであるとしており、原告自身もAマンションを住所であると外部的に表明していたと認められること(同エ及びカ)、原告がAマンションの賃貸借契約を解約せず、賃料の支払も継続していると認められること(同キ)、原告がAマンションに設置された固定電話の電話回線契約も継続していると認められること(同ク)も併せ考慮し、本件全証拠を検討しても、本件差置送達時における原告の生活の本拠がRYGにあることを積極的に裏付ける証拠はないことも勘案すれば、本件差置送達時における原告の生活の本拠、すなわち、原告の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心は、RYGではなくAマシションにあったと認められる。
ウ 原告の主張について
 これに対し、原告は、本件差置送達時における原告の住所がRYGにあることの根拠として、①高齢の父の介護のため、RYGに同人と同居していたこと、②原告は、RYGの管理費も継続して納入していること、③原告は、平成30年10月頃、RYGのマンション管理組合の組合員として、樹木の整備に関与したほか、毎年行われる建物点検等に関与したこと、④原告は、令和2年12月19日、同管理組合の理事長にも選任されていること、⑤O税務署の職員による調査においても、同管理組合の理事が、原告がRYGで布団を干しているのを見かけたと述べている事実が明らかになっていることを主張する。
 しかし、上記①は、本件全証拠を検討してもこれを認めるに足りる証拠はなく、むしろ前記認定事実ウのとおり、同理事は原告の父は以前一人でRYGに居住していたと述べているのであって、上記①により、本件差置送達時の原告の住所を認定することはできない。また、上記②ないし④についても、本件差置送達時における原告の住所がAマンションにあった場合でも、RYGのマンション管理組合の活動等に従事することはできるから、いずれも前記イの認定を覆すに足りるものではない。さらに、上記⑤についても、同理事がRYGにおいて原告を見かけたことがあるという程度のものであり、前記イの認定を覆すに足りるものではない。
 したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。
(3)小括
 以上によれば、本件差置送達時における原告の住所はAマンションであると認められ、本件差置送達は原告の住所にされたものと認められる。そのほか本件全証拠を検討しても本件差置送達が違法であることをうかがわせる証拠はないから、本件差置送達は適法であり、本件各処分も適法である。
2 争点(2)(本件各取消しの訴えの適法性その1(本件各取消しの訴えは出訴期間の規定を遵守して提起されたものか否か))について
 前記1のとおり、本件差置送達が令和2年3月27日に適法にされたから本件各処分は同日にされたものと認められる。そうすると、令和4年10月14日に提起された本件取消しの訴えは、本件各処分の「処分の日」(行政事件訴訟法14条2項本文)から1年以上経過して提起されたこととなり、原告は、これについて「正当な理由」(同項ただし書)を主張せず、本件全証拠を検討しても、当該「正当な理由」を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件各取消しの訴えは出訴期間の規定を遵守して提起されたものとはいえず、その余の点について判断するまでもなく不適法であると認められる。
3 争点(4)(本件各処分及び平成31年度処分に係る国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権の存否)について
 前記1のとおり、本件各処分は適法であり、そのほか本件全証拠を検討しても、本件各処分につき国賠法1条1項の「違法」を認めるに足りる証拠はない。また、平成31年度処分については、被告がその存在を否認しているところ、本件全証拠を検討しても、平成31年度処分の存在を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告は、被告に対し、本件各処分及び平成31年度処分に係る国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権を有するとは認められない。
4 結論
 よって、本件訴えのうち、本件各取消しの訴えは不適法であるからこれらをいずれも却下し、原告のその余の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官 鎌野真敬
裁判官 栗原志保
裁判官 都築健太郎

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