カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2024年02月12日 ニュース特集 判決から見る中小企業の会社法トラブル(2024年2月12日号・№1014)

ニュース特集
代表者に1,000万円超の損害賠償責任も
判決から見る中小企業の会社法トラブル


 株主と企業との間でのトラブルは何も大企業だけに限った話ではない。むしろ中小企業の方が日常的にトラブルに見舞われることも多いようだ。本特集では、中小企業や中堅企業において訴訟に至ったトラブルを3件紹介する。
 不動産取引を巡り株主である原告らが代表取締役らに対して株主代表訴訟を提起した事案では、代表取締役の利益相反取引とは認められなかったものの、およそ1,150万円余りの損害賠償責任が認められている。また、会計帳簿等閲覧請求事件では、裁判所が閲覧等の請求が認められる会計帳簿等の範囲について、その請求の理由・目的と関連するものに限られるものとの見解を示した上で、請求理由に従い会計帳簿の閲覧謄写の可否を判断している。
 そのほか、上場したスタートアップ企業が、株式公開前にスカウトした人材(その後退職)に付与した新株予約権の行使に関するトラブルでは、信義則上、原告による各新株予約権の行使を被告の取締役会が承認すべき義務を負うものとは認められないとの判断を示している。

利益相反取引とは認めずも、賃貸借契約による会社への損害はあり

 最初に紹介する事案は、不動産取引を巡り株主である原告らが代表取締役らに対して、利益相反取引に当たるにもかかわらず取締役会の承認を欠くとして任務懈怠であるとして株主代表訴訟に至ったものである(東京地裁令和5年2月21日判決、令和元年(ワ)第23369号)。原告らは被告らの親戚であり、もともと叔母の退職慰労金の支払いを求める訴訟など、本件よりも前に会社との間でトラブルが続いていた。
 詳細についてみてみることにしよう。X社(取締役会設置会社であり、譲渡制限会社)は同社の代表取締役であったAとの間で賃貸借契約を締結し、不動産を賃借していた。まず、最初の平成11年契約では、契約期間を15年、賃料については地代を月額25万4,000円、家賃を月額126万円(消費税込み)とすること、被告であるAが管理費として家賃の20%をX社に支払うことが合意されていた。その後、契約期間満了に伴い締結した平成27年契約では、契約期間を10年間、賃料について、地代を月額47万5,000円、家賃を月額142万5,000円(消費税込み)とすることが合意された。このため、株主である原告らは、平成27年契約によって会社の支払額が平成11年契約よりも月額63万8,000円増加し、X社が令和元年5月末までに計2,998万6,000円の損害を被っているなどとして株主代表訴訟を提起している。
利益相反取引に該当すると主張
 原告らは、平成27年契約はX社と代表取締役である被告Bとの間で締結されたものであるから、利益相反取引(会社法356条1項2号)に該当し、取締役会の承認を要するにもかかわらず、取締役会で同取引が承認されたことはないから無効であると主張。仮に取締役会の承認があったとしても、平成27年契約はX社の支払額を合理的な理由なく毎月63万8,000円増額させて、同社に同額の損害を被らせ、被告Aに同額の利益を得させるものであるから、平成27年契約を承認、締結し、これを執行したことは、取締役の善管注意義務及び忠実義務違反となり、任務懈怠に当たるとした。

特別の利害関係ある取締役を除外しても議決成立なら効力あり

 裁判所は、X社では平成27年契約に先立ち、取締役会が開催され、第3号議案として被告Aとの平成27年契約の締結を承認する旨の決議がされていることが事業報告の記載から明らかであるとした。
 また、取締役会では、代表取締役であった被告A及びBのほか、取締役2名、監査役1名が出席し、被告Bが議長となって第3号議案を審議し、満場一致で同議案を承認する旨の決議がなされているが、この点、原告らは仮に取締役会の承認決議があったとしても、取締役会には特別な利害関係を有する被告Aらが決議に参加しているから、その決議は無効であると主張したが、被告Aは平成27年契約の契約当事者であり、X社と利益が相反する取締役であったから、特別の利害関係を有する取締役として、同決議についての議決に加わることができなかったにもかかわらず、同決議に加わっているが、特別の利害関係を有する取締役が加わって議決がされた場合でも、当該取締役を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは、その決議の効力は否定されることはないと解すべきである(最高裁平成28年1月22日第二小法廷判決・民集70巻1号84頁参照)との判断を示した。

自社の不利益を回避するための合理的な交渉に努めるべき

 前述のとおり、平成27年契約の締結はX社の取締役会で承認されたものと認められたが、裁判所は同取引によるX社への損害が生じた点については原告らの主張を認め、被告らに対し、およそ1,150万円余りの損害賠償責任を認めている。
 裁判所は、平成11年契約の締結から15年以上が経過していたことからすれば、単に、平成27年契約において、X社の支払額が平成11年契約より増加したというだけでは、その増額分が当然にX社の損害になるものとは認められないとした。
 しかし、平成27年契約締結より前の同社の売上高は、販売費及び一般管理費を上回り、営業利益を上げていたが、平成27年契約以降は、地代家賃を含む販売費及び一般管理費が売上高を上回るようになり、毎期、営業損失を計上していることが認められるところ、会社の収支がマイナスとなるような取引条件の設定ないし変更は、一般に経済合理性を欠くものであって、会社の経営者としては、そのような事態に陥らないように慎重かつ十分な検討をし、自社の不利益を回避するための合理的な交渉に努めるべきであると指摘。特に不動産賃貸借契約の更新においては、法令上も借地人に一定の保護が与えられており、一方的に不利益な契約条件を強いられることにならないことにも照らせば、平成27年契約の内容が、会社が利益相反関係のない独立した当事者の立場で、検討・交渉を尽くした場合に賃貸人との間で成立したであろう合意内容よりも会社に不利益になっていると認められるときは、合意内容よりも不利益である範囲で、会社に平成27年契約による損害が生じたと認めるのが相当であるとの判断を示し、被告らに任務懈怠が推定されるとした。

株主は調査及び閲覧等の目的を具体的に記載する必要あり

 次に紹介する事案は、被告のY社(取締役会設置会社であり、譲渡制限会社)の株主であると主張する原告が、Y社に対し、株主であることの確認を求めるとともに、会計帳簿及びその資料の閲覧及び謄写(会社法433条1項)を求めるものである(東京地裁令和5年4月18日判決、令和3年(ワ)第12056号)。原告は、各保養所の建設を判断した取締役に対して善管注意義務違反に基づく株主代表訴訟の提起を検討しており、各保養所の建設費、土地取得費、設計費、購入時期・金額、購入の相手方等を調査する必要があるなどと主張した(参照)。

【表】会計帳簿等閲覧謄写に係る請求の理由の明示の有無における当事者の主張

原告(株主) 被告(会社)
各保養所の関係
 高額な保養所を建設したことは会社財産を著しく減少させ、会社ひいては株主に損害を与える行為であるから、原告は、各保養所の建設を判断した取締役に対して善管注意義務違反に基づく株主代表訴訟の提起を検討しており、各保養所の建設費、土地取得費、設計費、購入時期・金額、購入の相手方等を調査する必要がある。
 よって、会計帳簿目録記載1の会計帳簿及びこれを作成する材料となった資料(目録記載5)の閲覧謄写を求める。
 会社が福利厚生の一環として保養所を所有することは広く行われており、単に会社が保養所を所有していることのみをもって、保養所の建設に係る経営判断が違法・不当である疑いを生じさせることにはならない。また、被告が各保養所を保有していることがいかなる理由で会社財産を著しく減少させることにつながるのかも明らかにしておらず、保養所が不必要であるとの疑いを生じさせる事実の指摘もない。
接待交際費の関係
 被告は、令和元年12月期の交際費として7,279万1,000円を計上しているが、被告の社員は68名にすぎないから、社員数に比して交際費の金額(社員一人当たり約107万455円)が過大であり、取締役による私的流用が疑われる。原告は、私的流用を行った取締役に対して善管注意義務違反等に基づく損害賠償請求の株主代表訴訟の提起を検討しており、被告の接待交際費に関する会計帳簿等を調査する必要がある。
 よって、会計帳簿目録記載1の会計帳簿及びこれを作成する材料となった資料(目録記載5)の閲覧謄写を求める。
 被告の令和元年12月期の売上高は約267億円であって、営業収入金額10万円当たりの交際費は約273円であるところ、国税庁長官官房企画課の令和2年5月付け資料では、営業収入金額10万円当たりの交際費等支出額の平均は256円であるから、被告の交際費の金額は特に高額なものではない。原告は、被告の交際費の金額が過大であると根拠なく主張するのみであり、私的流用の疑いについての具体的な指摘もないから、いかなる理由で被告の取締役の善管注意義務、忠実義務の違反を形成するかが明らかにされておらず、請求の理由の明示がない。
株価算定の関係
 原告は、被告により株式の譲受けを承認されたにもかかわらず、コンサルティングに協力しないという対応をされたため、株式を他に売却することによって投下資本を回収するほかない状況にある。そのため、原告は、株式の売却に備えて、被告の株式時価を適正に算定する必要がある。
 よって、原告は、時価純資産方式による株価算定のために必要となる会計帳簿目録記載3の会計帳簿及び類似業種比準方式による株価算定のために必要となる目録記載4の会計帳簿並びにこれを作成する材料となった資料(目録記載5)の閲覧謄写を求める。
 株式の売却先について、原告が具体的な時期及び相手方等を明らかにしていない以上、請求人の理由の明示を欠き、株式売却を理由とする会計帳簿等の閲覧謄写請求は認められない。
※会計帳簿目録
1 被告の第50期から第59期までの総勘定元帳のうち、被告がアメリカ合衆国ハワイ州及び長野県北佐久郡軽井沢町に有する各保養所の取得にかかる費用が記載された部分
2 被告の第50期から第59期までの総勘定元帳のうち、交際費の部分
3 被告の商品台帳、固定資産台帳、有価証券台帳及び子会社株式、子会社出資金、子会社長期貸付金、関係会社株式、関連会社株式、関係法人株式等、出資金に関する台帳
4 被告の第57期から第59期までの総勘定元帳
5 上記1~4の帳簿書類等を作成する材料となった契約書、信書、請求書、覚書、領収書、発注書、納品書、請書等の資料
6 上記1及び3の帳簿書類等を作成する材料となった契約書、信書、請求書、覚書、領収書、発注書、納品書、請書等の資料

請求の理由・目的と関連するものに限定
 裁判所は、株主による会計帳簿等の閲覧謄写の請求は、株主がその権利の確保又は行使をする上で必要な調査をするために行うものであり(会社法433条2項1号)、会社に対して閲覧等を請求する場合においては、その請求の理由を明らかにしなければならないとされている(同条1項)ところ、請求の理由の明示が求められるのは、請求を受けた会社が閲覧等に応じる義務の存否及び閲覧させるべき会計帳簿等の範囲を判断できるようにするとともに、株主による探索的・証拠漁り的な閲覧等を防止し、株主の権利と会社の経営の保護とのバランスを図る趣旨であると解されると指摘。閲覧等を請求する株主は、その請求の理由として、確保又は行使しようとする株主の権利や調査及び閲覧等の目的を具体的に記載して、これを明らかにしなければならないのであって、例えば、その理由が会社の財政状況等を確認し、誤った経営についての疑いを調査するために会計帳簿等の閲覧を求めるというものである場合には、具体的に特定の行為が違法又は不当である旨を記載する必要があるとした。加えて、閲覧等の請求が認められるべき会計帳簿等の範囲は、その請求の理由・目的と関連するものに限られることとなり、閲覧等の目的に照らして必要のない会計帳簿等については、その請求が認められないとの見解も示した。
 その上で裁判所は、まず、各保養所については、原告の事業内容に照らしても、保養所の所有自体がその事業の遂行に不可欠なものとは解されず、また、被告から各保養所の福利厚生施設としての利用状況等、その必要性ないし有用性に関する事情は明らかにされていないと指摘。原告が、各保養所の建設に係る判断をした取締役に対して善管注意義務違反に基づく株主代表訴訟の提起を検討するために、各保養所の建設費、土地取得費、設計費、購入時期・金額、購入の相手方等を調査する必要があると主張する点については、その具体性が欠けるものではなく、請求の理由が明らかにされているものということができるとした。
 次に接待交際費については、被告は令和元年12月期に交際費として7,279万1,000円を支出しているが、被告の事業内容からすれば、その事業の遂行に伴って相応の交際費を支出することは不合理ではなく、単に交際費を支出しているということからそこに違法、不当があるということはできないとしたほか、被告の交際費の額は、営業収入金額10万円当たりの額に換算すると約273円となるところ、国税庁長官官房企画課の令和2年5月付け会社標本調査では、企業の営業収入金額10万円当たりの交際費等支出額が256円であるとされていることに照らすと、被告の交際費の額が、標準的な交際費の額に比して特に高額であるとも認められないと指摘。原告の主張は、交際費に係る資料を広く探索的に調査することを求めるものにすぎず、被告の取締役による私的流用に当たる特定の行為を具体的に示すものとはいえないとした。
 3点目の株価算定に関して裁判所は、譲渡制限株式の株主が株式を譲渡して投下資本を回収しようとする場合には、その買受候補者と売買価格について交渉してこれを合意し、あるいは、譲渡承認請求が認められない場合に株式を買い取ることとなる発行会社又はその指定買取人との間で売買価格について協議をし、売買価格決定手続において適正な売買価格について主張しなければならないから、株主は、その権利又は行使に関する調査のためとして、発行会社に対し、その会計帳簿等の閲覧謄写を求めることができると解するのが相当であるとした。原告は、株式を譲り受けたにもかかわらず、被告にコンサルティングに協力しないという対応をされたため、株式を他に売却することによって投下資本を回収するほかない状況にあるから、株式の売却に備えて、被告の株式時価を適正に算定する必要があるとの主張によれば、原告が確保又は行使しようとする株主の権利やその調査及び閲覧等の目的は、具体的に明らかにされているとの判断を示した。

株式売却交渉の代行とはいえず
 本件では、原告がY社(被告)の株主であるかの確認も行われている。原告は事業として非上場株式の価値を算定し買い取ることを行っており、原告は株主であるSと1株3,000円、総額4,500万円で譲渡する旨の売買契約を締結。Y社は譲渡制限会社のため、同社に対し、「反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書」を提出することにより、原告に対する株式の譲渡が取締役会で承認された。しかし、裁判では、被告側が、売買契約は原告とSとが通謀し、Sに代わって株式を現金化するためのものであり、通謀虚偽表示に該当し、無効であると主張した。
 この点、裁判所は、売買契約に関し、原告とSとの間では株式譲渡契約書が作成されており、株式は契約締結日の譲渡代金の支払いをもってSから原告に移転することが明確にされているとしたほか、後日に原告が株式をSに買い取らせる権利を留保したりするなどの条項は含まれていないことなど、原告がSの保有する株式の売却交渉を単に代行するものであることをうかがわせる内容は含まれていないとし、売買契約が原告とSの通謀虚偽表示とは認められないとした。

転職により収入激減、新株予約権の付与は減収補填目的か否か

 最後に紹介する事案は、上場したスタートアップ企業が、株式公開前にスカウトした人材に付与した新株予約権の行使に関するトラブルである(東京地裁令和5年4月18日判決、令和4年(ワ)第3007号)。
 本件は、後に上場することになるスタートアップ企業のZ社(被告)の代表者らから勧誘され、同社へ従業員として入社することになった者が原告だ。原告の入社初年度の収入は約240万円と転職に伴い大幅に減額することになったが、新株予約権が付与されていた。その後、原告は、株式上場前に退職したが、Z社から割り当てられた新株予約権の行使につき、黙示の合意や信義則等によりこれを承認すべき義務があるなどと主張した。なお、この新株予約権については、株式上場後6か月、1年6か月及び2年6か月が経過した後、それぞれ各新株予約権を3分の1ずつ行使することができるとされ、かつ、原則として、権利行使時において、被告又は被告の子会社の取締役、執行役、監査役、顧問又は従業員であることを要するが、代表取締役(取締役会)が認めた場合にはその限りではないとされていた。
 原告は、被告代表者らは、転職に伴う減額分を補う形で新株予約権を割り当てる旨の意思表示を行ったほか、原告は、勧誘の時点で入社5年後には退職する見込みであり、退職後も各新株予約権を行使することができるようにすること、すなわち、被告が原告の退職後の各新株予約権の行使を被告の取締役会において承認することについて、黙示の合意が成立していたなどと主張。一方、被告であるY社は、新株予約権は、原告以外の者への割当と同様に、将来、上場した際に一定の利益を得ることができる権利を被告の役職員となる原告に対して付与するものであり、被告での勤務についてモチベーションを高める目的で割り当てたものであって、将来的に賃金の差額を補填するものであるとの説明などは行っていないなどと主張した。
モチベーションを高めることが目的
 裁判所は、被告が原告の転職に伴う減収分の補填のために各新株予約権を付与する旨を述べて原告を勧誘したとは認められず、かえって、新株予約権は、被告での勤務についてモチベーションを高める目的で割り当てたものであり、被告の上場後まで原告の退職を思い止まらせ、それまで被告における勤務に励んでもらうという意味合いがあったと認められるとした。また、原告が退職後に各新株予約権を行使した際には被告の取締役会が承認する旨の約束をしたなど、被告において、退職後であっても各新株予約権を行使することができるとの原告の認識や期待を助長・促進したり、そのような認識や期待を利用したりしたことをうかがわせる事情が何ら見当たらないこと、原告が自分の意思で被告を退職したことからすると、被告が信義則上、原告による各新株予約権の行使を承認すべき義務を負うものとは認められないとの判断を示し、原告の請求を棄却した。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索