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解説記事2024年02月12日 未公開判決事例紹介 本則と簡易課税の説明せず顧問税理士に損害賠償責任(2024年2月12日号・№1014)

未公開判決事例紹介
本則と簡易課税の説明せず顧問税理士に損害賠償責任
東京地裁、準委任契約に基づく善管注意義務違反

 本誌1007号4頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇本件は、調理業務の請負等を営む原告が、顧問税理士であった被告に対し、被告は原告の消費税の確定申告において課税仕入れを過大に計上した上、簡易課税制度と本則課税制度の税額の違いを説明することなく本則課税制度を選択したことで損害を受けたとして、530万円余りの損害賠償を求めた事件。東京地方裁判所民事第25部(平城恭子裁判官)は令和5年1月24日、顧問税理士が原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反したと認められるとして、530万円余りの損害賠償責任を負うとの判断を示した(令和3年(ワ)第8745号)。

主  文

1 被告は、原告に対し、530万1444円及びこれに対する令和3年4月14日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
 主文同旨

第2 事案の概要
 本件は、調理業務の請負等を営む原告が、顧問税理士であった被告に対し、被告が原告の消費税の確定申告において課税仕入れを過大に計上した上、簡易課税制度と本則課税制度の税額の違いを説明することなく本則課税制度を選択したことにより、修正申告のために支払った税理士費用220万円及び簡易課税制度を選択した場合の税額との差額310万1444円の損害を被ったとして、準委任契約に基づく善管注意義務違反による損害賠償として530万1444円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年4月14日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認めることができる。
(1)当事者等
ア 原告は、平成22年2月19日に設立され、調理業務の請負、調理場の運営等を営む株式会社である。
イ 被告は、原告の設立時から原告と顧問契約を締結し、原告の会計帳簿の作成及び税務申告等の業務を行っていた税理士である。
  被告は、原告の代理人として、原告の平成26年分ないし平成30年分の法人税並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税及び地方消費税を併せて単に「消費税」という。)の確定申告をした。
(2)消費税の課税制度等
ア 本則課税
 事業者は、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に行った課税仕入れ等に係る消費税額を控除する(消費税法30条1項)。
イ 簡易課税
 事業者がその課税期間の前々年又は前々事業年度の課税売上高が5000万円以下である課税期間について簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)を提出した場合、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等に係る消費税額を、課税売上高に対する消費税額の一定割合(みなし仕入率)によって計算する(消費税法37条1項)。
 ただし、上記届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、翌課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、簡易課税制度の適用を受けることをやめようとする旨の届出書(消費税簡易課税制度選択不適用届出書)を提出することができない(同条6項)。
(3)S税理士は、令和2年2月28日ないし同年3月12日にかけて、原告の代理人として、原告の平成26年分ないし平成30年分の消費税の修正確定申告(以下「本件修正確定申告」という。)をした。各年分の消費税の税額は以下のとおり、合計795万1000円である。(甲1の1ないし5)
 ア 平成26年分 121万6600円
 イ 平成27年分 125万3400円
 ウ 平成28年分 141万3200円
 エ 平成29年分 219万6900円
 オ 平成30年分 187万0900円
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)被告が、原告の消費税の確定申告において、課税仕入れを過大に計上して原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反したか。
(原告の主張)
ア 被告は、原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告において、以下のとおり、消費税法30条1項に規定する課税仕入れを過大に計上して原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反した。
(ア)平成26年分
  地代家賃126万円、外注費327万5167円、建物附属設備80万円、工具器具備品750万円
(イ)平成27年分
  地代家賃126万円、外注費982万3291円、工具器具備品150万円
(ウ)平成28年分
  地代家賃115万5000円、外注費738万9529円、工具器具備品400万円、現金支出経費308万8047円
(エ)平成29年分
  外注費925万6404円、建物附属設備1000万円、現金支出経費536万6772円、広告宣伝費66万3353円
(オ)平成30年分
  外注費1105万9756円、建物附属設備200万円、工具器具備品700万円、車両運搬具400万円(ただし、350万8531円の限度で課税仕入れの対象とすることは認める。)
イ 地代家賃について
 原告代表者の自宅の家賃を課税仕入れの対象とするためには、契約書上、当該賃貸借契約の目的が事業目的とされ、賃料に消費税が課税される扱いとなっていなければならないが、原告代表者は居住目的で自宅を賃借しており、賃料について消費税も支払っていなかった。
ウ 外注費について
 原告は、運営会社から委託を受けて指定された式場の調理場において調理業務を行っており、常時雇用している従業員3名のほか、土日や繁忙期に日給又は時間給で調理業務者に応援を依頼しているが、これらの調理業務者は、役務提供の代替性がなく、原告の指揮監督下にあり、独自の費用負担がなく、材料や用具を用意する必要もないのであるから、原告が支払った対価は、課税仕入れの対象とならない給与と判断されるべきである。
(被告の主張)
 被告は、節税を求める原告代表者の意を汲んで、法の範囲内でできる限り節税を図るため、熟慮の上で原告の確定申告を行ったのであり、その判断に善管注意義務違反はない。
ア 地代家賃について
 事業のための建物の賃借の対価の支払は、課税仕入れの対象に含まれるところ、被告は、原告代表者の住居が原告の本店所在地とされ、100%原告のために使用されていたことから、その家賃全額が課税仕入れの対象となると判断した。
イ 外注費について
 外注費は課税仕入れの対象に含まれるところ、被告は、毎日原告代表者の下で行動を共にしている者とは異なり、各人の都合により調理場に来て、作業をする日時が区々であり、各人の技量に応じて作業をこなしている場合には、雇用関係にはないと判断した。
ウ 資産残高の増加分について
 被告は、原告の事業のために使用されている資産が課税仕入れの対象となると判断した。
(2)被告が、原告の消費税の確定申告において、簡易課税制度と本則課税制度の税額の違いを説明することなく本則課税制度を選択して、原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反したか。
(原告の主張)
 被告は、原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告において、簡易課税制度と本則課税制度の税額の違いを原告に説明することなく本則課税制度を選択して、原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反した。原告のように従業員の少ない調理請負事業においては、課税仕入れの対象となる支出が少なく、過去の原告の経費の内容からみても、簡易課税制度を選択した方が得になることは明らかである。
(被告の主張)
 簡易課税制度は、中小事業者の納税事務負担を軽減するため、消費税の税額の計算を簡単にしたものであり、本則課税制度は、本来の原則に則った課税制度である。簡易課税制度は、みなし仕入率を乗じて算定するものであり、本則課税制度による算定結果と税額に多寡が生じることは制度上避けられない。
 また、簡易課税制度を選択する場合、課税期間の初日の前日までに消費税簡易課税制度選択届出書を税務署に提出しなければならない上、一度提出すると2年間は本則課税制度を選択することができず、両制度を恣意的に選択することが許されないことからしても、簡易課税制度は税額の軽減を目的とした制度ではない。
 そして、原告は利益の少ない会社であり、毎年赤字を計上する可能性もあるところ、赤字を計上した場合、本則課税制度によれば消費税の還付を受けられる一方で、簡易課税制度を選択した場合には少なくとも2年間は消費税の還付を受けることができなくなることからしても、本則課税制度を選択したことが債務不履行となることはあり得ない。被告は、原告に対し、簡易課税制度と本則課税制度がいかなる制度であるか、簡易課税制度を選択した場合に2年間は変更ができないことを予め十分説明し、原告の承諾を得て消費税を申告しており、消費税の申告につき原告が異議を述べたこともない。
(3)原告が被告の善管注意義務違反により被った損害の額
(原告の主張)
 原告が上記(1)及び(2)の被告の善管注意義務違反により被った損害の額は、以下のア及びイの合計530万1444円を下回らない。
ア 原告の平成26年分から平成30年分の消費税の修正申告のために支払った税理士費用220万円
イ 原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告において簡易課税制度を選択した場合の税額合計484万9556円(各年度の税額は別紙「簡易課税制度に基づく納税額」記載のとおり)と本件修正確定申告の税額合計795万1000円との差額310万1444円

第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告が、原告の消費税の確定申告において、課税仕入れを過大に計上して原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反したか。)について

(1)地代家賃について
 証拠(甲2の1ないし3、9の1ないし3、10の1ないし3、17、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告の平成26年分から平成28年分の消費税の確定申告において、本店所在地の置かれた原告代表者の自宅の家賃を課税仕入れとして計上したことが認められるものの、原告代表者及び原告の従業員は、運営会社から委託を受けて指定された式場の調理場において調理業務を行っており、原告代表者の自宅において業務に従事していたとはいえないこと、原告代表者は個人の名義で自宅を賃借して賃料を負担しており、賃料につき消費税を支払っていなかったことが認められる。
 したがって、原告代表者の自宅は、原告が事業として他の者から資産を借り受けたもの(消費税法2条1項12号)とは認められないから、その家賃は課税仕入れの対象とならないものというべきである。
(2)外注費について
 証拠(甲2の1ないし5、9の1ないし5、10の1ないし5、17、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告において、原告が土日や繁忙期に日給又は時間給で応援を依頼した調理業務者に支払った役務提供の対価を課税仕入れとして計上したことが認められるものの、これらの調理業務者は、勤務時間が不定期であるとはいえ、原告の指揮命令により労務を提供していたという点においては他の従業員と相違がなかったものと認められ、原告から独立して事業を営んでいたものとは認められない。
 したがって、これらの調理業務者による役務の提供は、所得税法28条1項に規定する給与等を対価とする役務の提供(消費税法2条1項12号かっこ書き)に該当し、その対価は課税仕入れの対象とならないものというべきである。
(3)資産残高の増加分について
 証拠(甲2の1ないし5、9の1ないし5、10の1ないし5、17、18の1及び2、19の1及び2、20の1及び2、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告において、原告の建物附属設備、工具器具備品及び車両運搬具の各資産残高の一部を課税仕入れとして計上したことが認められるが、原告が、上記各資産残高の一部(ただし、車両運搬具については350万8531円を除く部分)に対応する資産を取得した事実はなかったことが認められる。
 したがって、上記各資産残高の一部(ただし、車両運搬具については350万8531円を除く部分)は課税仕入れの対象とならないものというべきである。
(4)現金支出経費及び広告宣伝費について
ア 証拠(甲2の3、9の3、10の3)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成28年分の消費税の確定申告において、現金払いの経費を課税仕入れとして計上したことが認められるものの、このうち308万8047円については、原告がこれを支出した事実を認めるに足りる証拠がない。
  したがって、現金払いの経費のうち上記金額に係る部分は課税仕入れの対象とならないものというべきである。
イ 証拠(甲2の4、9の4、10の4、21)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成29年分の消費税の確定申告において、現金払いの経費及び広告宣伝費を課税仕入れとして計上したことが認められるものの、現金払いの経費のうち536万6772円については、原告がこれを支出した事実を認めるに足りる証拠がなく、広告宣伝費のうち66万3353円については、原告代表者がこれを個人で支出したことが認められ、原告が事業として他の者から役務の提供を受けたもの(消費税法2条1項12号)とは認められない。
  したがって、現金払いの経費及び広告宣伝費のうち上記各金額に係る部分はいずれも課税仕入れの対象とならないものというべきである。
(5)以上によれば、被告は、原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告において、上記(1)ないし(4)のとおり課税仕入れを過大に計上し、原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反したものと認められる。
  これに対し、被告は、節税を求める原告代表者の意を汲んで、法の範囲内でできる限り節税を図るため、熟慮の上で原告の確定申告を行ったのであり、その判断に善管注意義務違反はない旨を主張するが、証拠(甲17、原告代表者)によれば、原告代表者は、被告から確定申告の具体的な内容について説明を受けたことがなく、課税仕入れが過大に計上されていることを認識していなかったものと認められるのであって、被告が原告の消費税の軽減を意図していたとしても、法令の許容する範囲を超えて課税仕入れを過大に計上することが原告の意向に沿うことであったとは認められないから、被告の上記主張は採用することができない。
2 争点(2)(被告が、原告の消費税の確定申告において、簡易課税制度と本則課税制度の税額の違いを説明することなく本則課税制度を選択して、原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反したか。)について
 前提事実(2)によれば、消費税の確定申告において簡易課税制度の適用を受けるためには、予め消費税簡易課税制度選択届出書を提出しなければならず、また、上記届出書を提出した事業者は少なくとも2年間は本則課税制度の適用を受けることができないこと、簡易課税制度においては課税仕入れ等に係る消費税額をみなし仕入れ率によって計算するため、課税仕入れ等に係る実際の消費税額を超えて消費税を納付することとなる可能性もあることが認められる。これらの事情によれば、被告は、原告の消費税の確定申告をするに当たっては、原告との準委任契約に基づき、上記届出書の提出期限までに原告代表者から事情を聴取するなどして原告の来期以降の課税仕入れ額が大幅に変動する見込みがあるか否かを把握した上、簡易課税制度と本則課税制度のいずれを選択するのが原告の利益に叶うかを判断する義務を負っていたものと認めるのが相当である。
 しかるに、証拠(甲10の1ないし5、17、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告の業務内容は調理業務の請負及び調理場の運営等であり、多額の課税仕入れが具体的に予定されている場合でない限り、簡易課税制度を選択する方が税額を軽減することができるものと認められるところ、被告は、原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告に先立ち、簡易課税制度と本則課税制度の違いや各制度を適用した場合の税額の違いを原告代表者に説明しておらず、原告代表者は簡易課税制度を選択する余地があることすら認識していなかったことが認められる一方で、被告において、原告の消費税の確定申告をするに当たり、いかなる事情の下に簡易課税制度と本則課税制度のいずれを選択するのが原告の利益に叶うかを判断したかは証拠上明らかでない。
 これに対し、被告は、本則課税制度は本来の原則に則った課税制度であり、簡易課税制度は税額の軽減を目的とした制度ではないから、本則課税制度を選択したことが債務不履行となることはあり得ないなどと主張するが、簡易課税制度の趣旨が中小事業者の納税事務負担を軽減する点にあることをもって、被告の判断の正当性が基礎付けられるものとはいえない。
 したがって、被告は、原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告において、簡易課税制度と本則課税制度の税額の違いを説明することなく本則課税制度を選択したことなどにより、原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反したものと認められる。
3 争点(3)(原告が被告の善管注意義務違反により被った損害の額)について
(1)証拠(甲1の1ないし5、12の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、上記1のとおり、被告が原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告において課税仕入れを過大に計上し、原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反したことにより、修正申告のために支払った税理士費用220万円に相当する損害を被ったものと認められる。
(2)また、被告は、原告の平成26年分から平成30年分の消費税の確定申告において、簡易課税制度と本則課税制度の税額の違いを説明することなく本則課税制度を選択し、原告との準委任契約に基づく善管注意義務に違反したことにより、簡易課税制度を選択した場合の税額との差額に相当する損害を被ったものと認められる。
  そして、本則課税制度を選択した場合の税額は本件修正確定申告の税額795万1000円、簡易課税制度を選択した場合の税額は484万9556円(別紙「簡易課税制度に基づく納税額」記載のとおり)と認めるのが相当であるから、原告が被った損害の額は、その差額310万1444円となる。
(3)以上によれば、原告が被告の善管注意義務違反により被った損害の額は、上記(1)及び(2)の合計530万1444円となる。
4 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第25部
裁判官 平城恭子

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